幻想禍津星   作:七黒八白

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レミリアのカリスマにダイレクトアタック

 先に謝っておきます、ファンの皆様へごめんなさい。


紅魔郷編
第六話 瀟洒な従者の歓待


 

 とある夏、幻想郷ではいつものように人里では人間が普通に暮らし。

 

 妖怪の山等、妖怪が住んでいる場所でもいつも通りの日常があった。

 

 しかしそんな初夏、年中霧がかかっている湖の方から紅い霧が幻想郷全体を覆うように立ち込めた。

 

 

「はぁーー………………もう、メンドくさいわね」

 

 

 少し変わった巫女服を着ている黒髪に黒い瞳の少女は、お祓い棒と陰陽玉を用意する。

 

 

「おー何だ何だ、面白そうな事が起きているな?」

 

 

 黒い三角帽に黒い服に白いエプロンを着ている金髪の少女は、箒に乗り小さな八卦炉を用意する。

 

 日が沈み始め──────夜の帳が降り始める。

 

 紅い館では一人は嗤い、一人は覚悟を決め、一人は眠りから覚める。

 

 

「──────ついに始まるわね、フフフッ! さぁどんな運命が紡がれるのかしら」

 

 

 

「──────ついに始まったか、さて…………俺も良からぬことを企むとしようか」

 

 

 

「──────………………ん? んーー? ………この気配は……あぁ、お姉様ね」

 

 

 

 

 魔に属する者の 紅い饗宴が 幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴、貴方はいつも通り門番で巫女を迎え撃って。パチュリーは館を結界で保護してもらわないといけないし図書館に居ていいわ……喘息もあるだろうし動き回るのは苦手でしょう?」

 

 あと数時間もしない内に紅白の巫女とそれに便乗した人間の魔法使いが現れる。

 紅魔館の主である、レミリア・スカーレットにそう言われ十六夜咲夜は妖精メイドを迎撃態勢を取らせた後。普段は動かない魔女パチュリー・ノーレッジと、最近はあまり昼寝している所を見せない紅美鈴を呼び出した。

 

「お嬢様、嶋上様は──────」

 

「実戦投入────と言いたいところだけど、実際どう? ここ最近手解きしていた二人として」

 

 レミリアはその深紅の瞳を紅美鈴とパチュリー・ノーレッジに向ける。咲夜としてもそれは正直なところ気になっていた。彼女は紅魔館の家事などがあった為、輝雄とは必要最低限の関わりしか持っていない。その為、咲夜の中では殆ど珍しい外来人で情報が止まっている。

 

「そうね……少なくとも遠距離や中距離での弾幕ごっこではそこまで強くは無いかしら、弱くも無いけど。精々油断は出来ないって位」

 

「ただ近接戦闘はかなりの物かと。博麗の巫女がどれほどの物かによりますがそこらの妖怪なら手加減しても苦戦するのも難しい程です……私も何度かヒヤリとさせられました」

 

 ここ最近は図書館の方から爆砕音などが聞こえる事が多々あったが、どうやらあれはパチュリーと輝雄の弾幕ごっこだったようだ。戦歴の程は知らないが、どうやらあの外来人はその戦闘能力が殆ど肉弾戦に振り切っているようだ。

 

 現に美鈴の手には珍しく傷が残っている、その彼との手合わせで出来たものだろう。普段は居眠りばかりしてるが、彼女の能力ならば妖怪の身体能力も相まって人間相手では近接戦闘では勝ち目は皆無のはず。その美鈴に肉薄したというならもはやただ外来人では無い────────というか本当に人間かどうかすら少し怪しい。

 

(しかもお嬢様の能力の干渉も跳ねのけた、運命が見えないとなると先に行動も分からない)

 

「ふーーーん…………で、パチェ? 能力の方は?」

 

「間違いなく先天的な物、意識無意識に関係なく肉体・精神に対する干渉を跳ね除ける能力ね、しかもそれに応じて色々な上限が伸びるみたい。ただ基準や条件がちょっとまだ曖昧で分からないわ、彼の意思で完全に選べるわけでも無いみたい」

 

「何で? 霊力は完全に扱えるんでしょう?」

 

「恐らくまだ彼自身がその能力の全貌を掴めていないから、何となく勝手に発動してるのを感じ取れる位…………他の分野と比べてこれだけは本人の問題だからね。余人にはどうしようもないわ」

 

「能力ばかりは本人の独自の感覚によりますからね、私の気の能力でも誘導は出来ませんでした」

 

「そう、別にいいわ。じゃあ咲夜貴方は──────」

 

 

 ──────ドゴ! バゴン!! ドゴォォォォォオン!!! 

 

 

 しかしレミリアが咲夜に指示を出すよりも先に上階から何らかの爆砕音が響き渡る。凄まじい衝撃が響き僅かに紅魔館全体が揺れ、レミリアの私室にパラパラと埃が落ちてくる、鬱陶しげにそれを払いながら、耳を澄ますと部屋の外からは妖精メイド達が騒ぎ立てている。困惑している様子から原因は妖精では無いようだ。

 

「地震、なわけないわね……!! 咲夜! 輝雄の安否────いや、逃げ出してないか確かめなさい!」

 

「承知致しました!」

 

 瞬間、咲夜はその場から音も無く消える、輝雄には念のため伝えていない咲夜の能力による物、紅魔館のメンバーとっては見慣れた光景。

 

「巫女と魔法使いが来るには少し早い、間違いなく壁をぶち破って外に逃げ出す気ね!!」

 

 恐らく美鈴とパチュリーがレミリアの私室に集まり、外の警備が手薄になったタイミングで逃げ出す算段を立てていたのだろう。異変のタイミングを狙ったのはそれを解決する巫女が来る確信があったからだろうか? レミリアは訝しむがそんな事は伝えていないはずだとその疑念を捨てる。

 

 実のところ、レミリアは予想以上に強くなった輝雄を評価していた。だからこそ巫女か魔法使いどちらかと戦わせて可能な限り力を削がせようと目論んでいたのだが、あと少しというこの時にこんな雑な逃走に図るとは、些か過大評価し過ぎたか? 

 

「してやられたわね…………紅魔館全体に結界を貼る事がばれたのかしら? それにしても大胆な事するわね」

 

「……私が外にいる時では気で追跡される事を恐れたんでしょうか?」

 

 パチュリーは少し違和感を感じながらも輝雄の行動を考える。

 確かに美鈴の能力を彼は知っている。それの効果も大体分かっているだろうし、美鈴を圧倒する事が出来ない今の彼の実力では時間を稼がれてる間に咲夜に取り押さえられる事は間違いない。だからこそ今まで囚われの身に甘んじていたのだろう。

 

「となると彼の狙いは、このまま誰にも気づかれない様に森に逃げ込んで人里を目指すってとこかしら? 美鈴追える?」

 

「多分追えます、森の中では様々な気が入り乱れますが……道中で妖怪と戦えば彼も霊力を使わざる得ないでしょう。確実に捕まえられます」

 

 美鈴はレミリアにどうするか、目線で訴えかけている。

 

 輝雄の戦闘力や修行の進捗状況は大体二人から聞いている。本気になれば捕える事は難しくないだろう、しかしここで実力が拮抗している美鈴と、ただでさえ喘息で発揮できる実力にムラがあるパチュリーを消耗させるのは得策ではない――――――レミリアは総合的に判断し、咲夜一人に任せるのが最善と考えた。

 

(何より彼がこちらに隠している能力があるかもしれない。私達が咲夜の能力を伏せているように――――でも咲夜だったら不測の事態でも対応できる)

 

 混乱に乗じて逃げるつもりだろうがそうはいかない、この幻想郷において咲夜と鬼ごっこで勝てる者など絶対にいないのだから。例え先に輝雄が逃げ出していても人里につく前に咲夜が捕まえるだろう。

 

「落ち着きなさいな二人とも、外には既に大勢の妖精メイドが放たれている。その全ての目を搔い潜るのは強さだけじゃ不可能よ、派手に戦えば不意をついた意味も無くなるし。すぐに発見の報告が咲夜にいって捕ま──────」

 

「失礼しますお嬢様!」

 

 そしてまた突如、音も無く咲夜が現れる。瞬間レミリアは自分の判断が間違っていなかった事を確信したが――――――

 

「あら咲夜、丁度いい所に。輝雄は捕まえた? 折角拾って育てたもの、ちょっとくらい活躍してくれないと──────」

 

「それが…………屋外の妖精メイド達は誰も彼の姿を目撃していないらしく、私も霊力が感知出来ないか試したのですが紅魔館周辺では全く感じられませんでした」

 

「…………マジ?」

 

 ――――――思いもよらぬ報告に思わず素が出る。

 

「マジに御座います、そして客室にこんな物が残されていました」

 

 言いながら咲夜は懐から紙を取り出す、客室に備え付けられているメモ用紙だ。チラリと見えた見慣れない筆跡からほぼ間違い無く輝雄が残したものだろう。何故か少し迷いながら咲夜が (何故か) 輝雄に声を似せて読み上げる。

 

 

 

『まずは直接ではなく、こんな形で別れの挨拶をする無礼を謝罪します。大変申し訳ございません』

 

『美鈴さんへ、貴方が主への意向に逆らえないながらも得体の知れない自分に良くして下さった事は確かに自分の中で恩として刻まれております。貴方無くして今の自分は無いでしょう、ありがとうございました』

 

『パチュリーさんへ、不愛想だったのは慣れない真似と忙しかったからと理解しています。それでも自分に時間を割いて頂き誠に感謝しております。小悪魔さんにも感謝していると伝えて下さい』

 

『十六夜咲夜さんへ、あまり関わる事はありませんでしたが料理とても美味しかったです。今まで食べた中でも一、二を争うほどでした。世辞ではありません、短い間でしたがお世話になりました』

 

 

 

「…………律儀ですね」

 

「…………律儀ね」

 

「え? 待って待って待って待って待って待って??? 私は? アイツがこの馬鹿丁寧な手紙を書き残した事にも驚きだけど、この紅魔館の主にしてヴラド・ツェペシュの末裔であるこのレミリア・スカーレットには何も無いの??? 小悪魔にすらあるのに???」

 

「貴方終始、彼には威圧的に接していたから…………それにヴラドの末裔ってそれガセでしょ」

 

 ──―隣でパチュリーが何か言っているが聞こえない、聞こえないったら聞こえない。

 

 レミリアの動揺を目にした咲夜が何故かかなり気まずそうに、書置きと周囲に目を泳がせる。如何やらレミリアにも何か書置きがあるようだが、内容に問題があるのだろうか。

 

 咲夜にいいから、と続きを促す。使い魔にすら感謝が述べられていたのだ、高貴な吸血鬼に何も無いなど許されるだろうか? ──────否だ、絶対に許されない。結果的にだが命を救ったのだ、世辞の一つ位あってしかるべきだ。

 

「では僭越ながら読ませていただきます」

 

 完全で瀟洒な従者は可能な限り (何故か) 輝雄に声を似せてその内容を読んだ。

 

『高貴で親愛なるレミリア・スカーレット様へ

 

 

 

「へ、へぇー成程、わかってるじゃな――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なーんて言うと思ったかヴァカめ! あばよ!! クソガキ!!! 寝る時はオムツと歯磨きとテディベアを忘れんなよ(爆笑)!!! 

 

今すぐあの馬鹿を捕えて来い!!!! パチェが居る!!!! 手足の一、二本千切っても構わん!!! 

 

 怒号が紅魔館に響き渡り、門番は霧の湖周辺の捜査を。

 魔女は予定通り、図書館で結界の展開を。

 メイド長は妖精メイドの統制の任された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『今すぐあの馬鹿を捕えて来い、パチュリーが居る、手足位もいでも構わん』――――――とか息巻いてんだろうな、あのロリ吸血鬼」

 

 馬鹿でかい穴を空けたあてがわれた客室――――――の隣の客室のベットの下で輝雄は呟いた。ベットの下からの這い出てスラックスとカッターシャツについた埃を払い落しシャツの袖を二回捲る、これで準備は出来た。

 

「流石に妖精メイドと美鈴さん、事によっては追ってくるパチュリーさんや十六夜さん全員から逃れるとは考えていない………全部思い通りとはいかなかったが、ベター

 な展開だな」

 

 輝雄がやったことは至って単純『使っていた客室の壁を派手に壊し、異変に乗じて逃げ出したように見せかけ隠れた』、それだけである。

 

(必ず勝てる確信は無かった――――――だが俺は()()に勝てた)

 

 第一関門、『確認に来るのが紅美鈴以外であること』。

 これは言うまでも無く彼女の気配感知から逃れる方法が確立していないから、霊力を完全に押さえ込んでも誤魔化せるかどうか分からないからである。しかし、こちらはあまり問題視していなかった――――――何故なら確認に来るのは十中八九十六夜咲夜だと考えられたから。

 

(まずパチュリーさんは絶対無い、体力が無いって自嘲してたし。次に美鈴さん、無くは無いがレミリアが『逃げた』と考えた場合。美鈴さんの『探知』よりも()()()()()()()であろう『追跡・捕縛』が出来る咲夜さんを寄こす可能性が高い。外には多くの妖精メイドがいたし、目撃情報を期待したはず)

 

 勿論、レミリアが紅魔館に隠れていると先読みしたり、念の為に美鈴をつける可能性もあった。だがこれから異変なる物を起こし、そして誰かと戦う雰囲気を纏っていた紅魔館組――――――恐らく幻想郷の秩序を守る者、若しくは団体との戦闘を控えている。ならば出来るだけ戦力を消費したくないはずと輝雄は予想した。

 

 第二関門、『客室に来た咲夜が逃走だと判断させること』

 これが一番の懸念点であったと言える。一切、破壊音などを隠す事無く派手に壊したため、逆に気を引く事が目的と見破られてもおかしくない。それでも流石に無音での破壊や館に徘徊する妖精メイドに見つからず、脱出するよりは現実的と考えた事からの苦渋の決断である。

 

(その為の置き手紙、監禁されていた癖にクソ丁寧に書かれた手紙と主人への挑発――――――実力的には敵わない以上、すぐさま『距離を取りたい。危険地帯から逃げ出したい』普通の人間ならそう考える。実際十六夜さんは気配を殺していたとは言え、俺がもうここにはいないと即座に判断し周辺の捜査に移行した)

 

 リスクから少しでも距離を取りたいという人間の普遍的心理。

 無論咲夜もそれは理解していた、そしてこれ見よがしに客室に開けられた穴から飛行で逃走を図ったと思い込んだ。だが輝雄の行方は分からない、そして敵はいつ来るか分からない状態では従者はどうするか。

 

(まず間違いなくレミリアという上司への報告と指示を仰ぐだろう、問題の置き手紙もあるし)

 

 そして能力を使用した上でレミリアの所へ戻った………ついで、ではあったがこれも一応確認しておく事も輝雄の狙いであった。初めてレミリアと出会ったあの時いきなり現れた十六夜咲夜、その能力。

 

(分かった所で対抗出来るかは別だが………まともにやれば俺が圧倒的に不利には違いない)

 

 輝雄はパチュリーに弾幕ごっこを(半ば強引に)挑まれた日と同じように周囲の気配を探ってみる。紅魔館内には大きな力が()()、一つは図書館がある方向から感じる、間違いなくパチュリー・ノーレッジだろう。残りは一つずつ自分よりも高い位置と低い位置にある。

 

(上は多分レミリアだな、The・権力者って感じの振舞を意識していたし。もう一つは十六夜さん…? 違うな、これは霊力じゃない魔力。でも美鈴さんから感じる力より大きくないか………? 肝心の美鈴さんは恐らく霧の湖に向かった妖力の塊だろうし……消去法で行くなと言われていた地下室か?)

 

 そこ以外、自分が知っている場所で思い当たる場所が無いだけなので確証は無い。

 紅魔館に住んで一週間と少し、調べられる限りの事は調べたが結局あの地下室は何のための物か分からなかった。極たまに力をほんのり感じることが有ったが、そのそばでレミリアを見かけたのでレミリアのものだと思っていたが………。

 

(………考えている場合じゃないか、美鈴さんが外に向かったのは助かったな。屋敷を捜索されたら見つかっていた可能性が高い。美鈴さんの力を感じなくなるまで紅魔館に潜伏、そしてその後は人里まで直行、その後の事は後で考える)

 

 輝雄は周囲に気配と人影が無い事を確認し客室から出る。制限時間の分からない隠れんぼ、探す鬼は圧倒的に多く、中には出会った瞬間に即座に殺しに来る可能性もある。曲がり角に警戒しながら紅魔館内を疾走する。

 

(流石にずっとあの場所に隠れるわけにはいかない。何か手掛かりが無いか、不審に思った誰かが来る可能性が高い。でもずっと走り回るのもリスキーだ、何処かに隠れる場所は?)

 

 図書館、却下。パチュリーさんは異変に乗り気では無い様に見えたが、かと言って全面的信用は出来ない。地下室、意表はつけるかも知れない。しかし逃げ場や隠れる場所が無い可能性が高く謎の力の事もある不明瞭な点が多い。

 

「――――――となると誰も近づかないであろう厨房とかが安牌か?」

 

「あら嶋上様、お腹が空いてらしたんですか?」

 

「―――――――」

 

 背後からその声を聞いた瞬間、押さえ込んでいた霊力を全力で迸らせ周囲に弾幕を瞬時に展開と同時に放出する。

 

 然程広くない廊下のそこかしこに弾幕は着弾し、埃が煙幕の様に舞い上がる。輝雄はそのまま生死の確認をする事なく、霊力で強化した身体能力で猫科の肉食獣すら追い越す速さで吹き抜けの玄関ホールに向かう。

 

(いつ現れた!? 全く前兆が無かった!! 俺の勘違いだったのか!?)

 

 階段の手摺を跳び越え、勢いを殺さぬまま壁を駆け、スタントマン顔負けの機動力で全力疾走する。当然、徘徊していた妖精メイドが複数人立ち塞がるが――――――

 

「ターゲット発っ――――」

 

「―――しなくていいから黙ってろ」

 

 ――――――即座に弾幕で視界を封じ、すれ違いざまに手刀で目と喉を潰す。

 血こそ出なかったが、かなり強めに入れたので暫くは声と目は使えないだろう。流石に気は進まなかったが命が掛かっている状況、手加減は出来ない―――――輝雄は完全に覚悟を決めた。

 

「――――――お見事です、嶋上様。しかし妖精は殺しても暫くすれば復活するので本気でやっても良かったのですよ?」

 

「……………蘇るからって、殺してもいいとはなりませんよ」

 

 最後の階段を飛び降りた先には、不意を打ち全力疾走で最短ルートでエントランスホールに向かったにもかかわらず、十六夜咲夜はそこに待ち構えていた。

 

(また前兆を感じなかった……という事は俺が想定していた能力では無い? ヤバいな……)

 

「嶋上様、貴方の不信感は分からなくもありません。しかしですよ? 紅魔館に恩を感じているのであれば少しは手伝って頂いてもいいのではないか、と思うのですが?」

 

「自分の命が保証されていない上に、今後幻想郷で生活する上で異変に加担した事が弊害になるかも知れないのに安請け合いは出来ませんよ」

 

 紅い絨毯がひかれた階段からおり、エントランスホールで向き合う。目の前のメイドからは逃がさないという決意が感じられる。扉には既に鍵が掛けられているかも知れない、無視して通り抜けることは出来ないだろう。

 

「紅魔館に住めばよいではありませんか? 似合っていると思いますよ、執事」

 

「………女所帯の所は少し、気を使ってしまいますね」

 

 日はすっかり沈み、紅い霧で月明りは殆ど差し込まない。

 エントランスは薄暗くなっておりお互いの姿は見えづらくなっている、十六夜咲夜は彼が玄関の扉を抜けられない様に立ち塞がり何処からか大量のナイフを取り出し、同時に霊力を身に纏う。

 

「では仕方ありません――――――お嬢様のこともあります。この咲夜、嶋上様のお相手をさせて頂きます」

 

「奉仕活動は主だけにしておけばいいのでは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(相手は近接戦闘特化。中、遠距離を保ちながらじわじわ削っていく)

 

 ――――――然程時間はかけずに済みそうだ。

 咲夜は目の前の敵、輝雄の戦力を分析し簡単に終わるだろうと推し量る。確かに無数のばら撒かれたナイフを避け、クナイ型の弾幕も危なげなく避ける身のこなしと飛行速度は中々の物だが――――――そんな事は自分には関係無いのだから。

 

(私が警戒すべきことは彼の本領が発揮される至近距離に入り一撃で落とされること、このままナイフと弾幕だけじゃ押し切るのは難しいでしょう)

 

 投げられたナイフを難なく摘み取り、逆手に持ち替え彼は逆にナイフを弾く。クナイ型の弾幕は軌道を見切り素早く躱す、客室にあったであろうカッターシャツに掠りもしない。速さも正確性も一週間そこらの動きでは無い、驚異的である。しかし、それはまともに戦えばの話である。

 

「ナイフ投げと弾幕だけですか? これなら美鈴さんとパチュリーさんの方がよっぽど強かったですよ」

 

「ええ、ですから――――――そろそろ本領発揮といかせて頂きます」

 

 咲夜は一度弾幕の放出を辞め――――――

 

「何だ? 諦め――――――」

 

 

 

 

 

幻世『ザ・ワールド』

 

 

 

 

 

 ――――――時が止まった。

 

Welcome to my world(ようこそ 私の世界へ)――――――と言っても。貴方には何も見えもしなければ聞こえもしないでしょうが、ふふふ………」

 

 世界が灰色に染まり全てが停止する。

 弾幕も、ナイフも、輝雄も、戦闘によって舞った埃すらも写真で風景を切り取ったかのように止まる。飛びながら停止した輝雄を中心に周り、品定めをすると同時にナイフを取り出す。

 

「美鈴からもパチュリー様からも聞いていなかったでしょう? これが私の『時間の操る程度の能力』………この世界はお嬢様でさえ認識することも出来ない。そう、貴方はチェスで言うチェックメイトに嵌ったのよ」

 

 さてどうしてくれようか、咲夜は少し考える。自分の主からは殺せとまでは言われてはいなかったし、別に自分も殺すつもり迄は無い。輝雄もこちらに対する殺意は感じられなかった。ならば適当に痛めつけて自分の主の前に転がせばいいと結論付け、走れない程度に手足を切りつける為ナイフを構える。

 

「ごめんなさいね、特に恨みは無いのだけどお嬢様もお怒りだし、貴方を逃がすわけには――――――」

 

 

 

 ――――――ピク

 

 

 

「え?」

 

 今まさに切りつけようとした瞬間、それは起こった。

 

(…………馬鹿な、ありえない)

 

 ――――――ギシッ

 

「――――――ッッッ!!?」

 

 今度こそ見間違いでは無かった。今まで自身の能力を自覚してから起こらなかったこと、考えもしなかったことが、目の前で確かに起こった。

 

(………動いた、確かにいま動いた! どういう事!? まさか輝雄の能力による物?)

 

 咲夜は輝雄の能力の詳細をパチュリーから聞いたわけではない、そもそも輝雄と戦う予定など無かったのだから。先程のミーティングで少し聞いた事がほぼすべての情報と言っていい。

 

(―――慌てない、紅魔館のメイドは慌てない! 輝雄の能力は自身に対する干渉を跳ね除ける物、しかし『何らかの』条件や基準がある。それが分からないから彼も十全に扱えていないとの事だけど………)

 

 前からこの脱走を計画していたのなら、その情報も怪しいものだ。意図的に扱えないふりをして紅魔館陣営に情報を流さない様にしていた可能性がある。問題は自身の能力がその条件や基準に当て嵌まってしまっているのかという点だが………。

 

 万が一、急に動き出しても対処できる距離を保ちながら時間が停止した世界に現れたイレギュラーを観察する。その姿は周りと同じように灰色に染まっているが、その赤銅色の瞳はこちら睨んでいる―――――――ようにも見えなくもない。

 

「………動けないの? それとも動けないふりをしているだけなの? どちらにせよ見極める必要があるわね………」

 

 いかに咲夜とて、時間は決して無制限に止めていられるわけではない。時間を操作し続けていればその分霊力を消費する、その為スペルカードなどで弾幕と併用する場合止める時間は長くとも十秒程度にとどめている。戦闘におけるアドバンテージはその程度で十分だからだ。

 

「――――時は動き出す」

 

 世界は急速に色を取り戻し、全ては動き出す。

 

「――――たのか? って、いつの間にそんな処に………」

 

「……………」

 

 一見すると時間を止める前と比べて変わったところは無い。輝雄がいつ自分の能力に気付いたのか、そもそも気づけるはずが無いのだ時間が停止した世界を、その意識まで停止しているのだから。咲夜は得体が知れない輝雄に対して最大限警戒しながら問いただす。

 

「まさか、貴方……()()()()()()?」

 

 耳が痛くなる程の静寂がエントランスを包む、輝雄は何も答えない。その表情は至って真顔、平静であった。

 

「――――――何がですか?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()! 嶋上輝雄!」

 

「激昂しないで下さい―――――外面が取り繕えなくなってますよ」

 

 言うや否や散弾銃の様に弾幕をばら撒き、咲夜の隣をすり抜け輝雄は逃走に図る。異変に備えて今の紅魔館は廊下も拡張されており高速で飛行するのに適応している。このまま逃がせばお嬢様にも危害を加える可能性がある――――――絶対に逃がすわけにはいかない、咲夜は後を追い前方を飛ぶ輝雄に宣言するように自身の周りにナイフを展開する。

 

「いいでしょう。貴方が動けるのか動けないのか! 今度こそ見極めます! ―――――幻世『ザ・ワールド』時よ止まれッ!」

 

 ――――――そして世界は再び灰色に染まり、全てが停止する。

 

 動いているのは咲夜の周りを追随する形で浮遊しているナイフだけ。前方を飛んでいた輝雄はその体勢まま停止し、顔はこちらを向いているが目線は明後日の方向を見ている。

 

「………ふ、ふふふ」

 

 少しずつ停止した輝雄のそばに近寄るが、全く動く気配はない。その様子から何かに気付いた咲夜は手元のナイフを近づける、するとそれに反応するように輝雄の腕が僅かに動き、袖の部分が甲高い音と共にナイフにくっつく。

 

「何かと思えば磁石ですか、私のナイフは殆ど銀製ですが銀だけでは本数に不安だったので最近は色々な材質で補充していたのですが………どうやらそれが裏目に出たようですね」

 

 素早くナイフを手繰り、カッターシャツの捲っている部分を切り裂く、すると中から小さな鉛色の長方形の磁石が零れ落ちた。恐らくさっきも近づいた時、金属に反応して動いているように見えたのだろう。

 

「カッターシャツの捲った部分に磁石を仕込んでいたのね、客室にはペンとメモ用紙位しか無いから――――――図書館かしら? あそこならパチュリー様の実験道具が沢山あるでしょうし」

 

 何にせよ、こんな小細工に頼るという事は嶋上輝雄は止まった時の世界を動けたわけでは無いという事になる。これで何者も自分の世界には干渉できないと証明されたわけだ。

 

「お見事です嶋上様、正直驚かされました。このトリックも私が時間を停止させる事が出来ると分かっていなければ思いつかなかったでしょうし、分かっていても実践出来るかどうかは別の話…………くどいようですが本当にお見事です! この咲夜、心から感服致しました」

 

 自分以外何者も、決して何も動く事が無い世界で、瀟洒な従者は勝ち誇る。

 その手には銀のナイフが握られ、鋭く輝く――――――狙いは輝雄の脚。

 

「本当は、いつ気付いたのかも聞きたいのですが………時間が有りませんので、もっとも時間を操れる私が言っても説得力は無いでしょうが!!!」

 

 結局少しだけ延命したに過ぎない。そのまま脚をナイフ切りつけ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイフ殆ど銀製ってマジですか?」

 

「なッ――――――!」

 

 ――――――ようとした手首を強く掴まれ、掌底と共に弾幕で吹き飛ばされた。廊下からエントランスホールへと衝撃と伴い逆戻りする。殺しきれない勢いはそのまま真っすぐ壁をぶち抜き、咲夜は瓦礫に埋もれた。

 

「がッは――――――!!」

 

「冷静沈着で真面目な方かと思っていましたが、案外お茶目なんですね。時間が止まってる間ペラペラ喋るので、内心いつ終わるんだろうと不安でしたよ」

 

 

 

 

 

 ――――――そして時は動き出した。

 

 

 

 






時間停止中輝雄(こいつめちゃくちゃ喋るやん)

 
原作リスペクト、二重の意味で。


どうでもいい補足 最初咲夜が背後にいたのに気付かなかったのは停止では無く、加速で近づいたから。時間が停止した現象を感じなかったため。
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