幻想禍津星   作:七黒八白

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 卵一個


第九話 fell off the fence and broke

 テーブルにはお互い見える様に表示されたトランプのカードが輝雄とフランに四枚ずつ配置されていた、そしてお互いの手札も三枚、当然こちらはお互い見えない。

 隣には安っぽいコインがタワーの様に並べられている、量で言えば僅かにフランが勝っている

 

 輝雄側には、スペードの7、8 ハートの2 クラブの2が表示されている。

 役は何も出来ていない上、数字も全体的に低い。

 

 フラン側には、クラブとハートのQ スペードのA ダイヤの3が表示されている。

 数字は高い物が揃っており、場に出ているカードだけで既にワンペア出来ている。フランの手札によってはフルハウス等も十分に有り得る。

 

「どうする? 輝雄~? 四枚揃ったけどそんなに強そうに見えないけど? ベットし損じゃない? フォールドしちゃえば?」

 

「いやいや、フランの手札が分からない以上まだ勝負は決まっていないだろ? 俺が勝つ可能性もあるさ、きっとな……」

 

 お互い不敵に笑い、四枚のオープンカードと三枚の手札から考えを張り巡らせる。

 二人がしている勝負はセブン・ポーカー、単純な役を作るだけなくブラフやハッタリで勝つことも出来る為に高度な心理戦が絡む。

 

(私のカードの役から負ける可能性はかなり低い…………ここで勝てばかなりの大差をつけられる、逆に言えばここで退いたらほぼ負け確定!)

 

 ここまで勝ったり負けたりを繰り返しコインは輝雄と同じ位溜まり、もう後には退けない程上乗せしてしまった。

 

(──────へへ……きたぜ、ぬるりと……!)

 

 フランは勝つために貪欲に上乗せし続けた、逃げることは出来ない。輝雄はそれ敏感に感じ取った。

 そして輝雄は何故か、やたら鼻と顎が尖っている人物と姿がダブりながら勝負に出た。

 

「フラン────────show downだ」

 

 輝雄キメ顔でそう言った、無駄に発音良く。フランは若干イラっとした。

 

「私はQのFour of a kind……日本ではフォーカードって言うのが一般的らしいわね……さぁ、輝雄は?」

 

 フランの役はオープンカードのクラブとハートのQと手札のスペードとダイヤのQだ。例え同じ役であっても数字の高さからかなりの勝率が期待できる。強気に勝負に出るのも無理はない。対する輝雄は──────―

 

「俺の手札は──────―スペードの6、9、10だ」

 

「嘘…………でしょ……?」

 

 ────────オープンカードのスペード7、8と手札のスペードの6、9、10でストレートフラッシュ、フランの役よりも一つ上。

 

「フッ、俺の勝ちだな」

 

「負けたぁ──────!!! くーやーしーいぃぃ…………!!!」

 

 場に出ていた賭け金は全て輝雄の物となった、フランは憂さ晴らしに手持ちのカードを諸手を挙げると同時に放り投げる。上でひらひらと舞うトランプはまるで散財して羽が生えた紙幣のようだ。

 

「絶対勝ったと思ったのに……」

 

「フランはちょっと素直過ぎるな。役が強い時はすぐレイズするし、弱い時はフォールドするし」

 

「それが普通じゃないの?」

 

「二、三回程度の戦いならそれでもいいが……セブン・ポーカーは癖を相手に悟られると致命的だからな、時にはワザと負けてブラフを噛ますのも大事だぞ?」

 

「…………もしかして、私の方がちょっとだけ勝ってたのは……」

 

「『ここぞ!』という時に大きく張って勝ちに行こうとする心理……吸血鬼にもあるんだな、勉強になったよ」

 

「…………あなた友達少ないでしょ」

 

「ハハハ、さぁ? 何のことやら」

 

 フランがばら撒いたトランプを回収しながら、ぬるま湯のような会話をかわす。

 良くも悪くも輝雄の事を知っている後輩がこの場に居たら『ロリコンに目覚めましたか?』と疑う程彼らしくない和気藹々とした雰囲気であった。

 

「ダーツは一勝二敗、ビリアードは三敗、ポーカーは俺が完勝。次は何する? フランが得意なものでいいぞ?」

 

「んー……ちょっとお話しましょう。ここに誰か招くの、よく考えてみたらはじめてだし」

 

「そうなのか……レミリアさんは兎も角他の人は来ないのか?」

 

「ぜーんぜん? パチェは図書館から出ないし、咲夜は忙しいし、美鈴寝てるし、他のメイドとか使い魔は私のこと怖がっているみたいだし」

 

「怖い、か」

 

 そういったフランの顔は別に寂しそうでは無かったが、何処かつまらそうで諦めているように見えた。

 遊んでいる最中に色々話していたが、どうやら彼女は495年間ここにいるそうだ。流石に紅魔館の中を歩き回ることくらいはあるそうだが、それでも一度も外に出たことが無いのは驚いた、幽閉されているわけでは無いらしいが。

 

「まぁ、お姉様はあんまり私のこと心情的には外に出したくないかもね」

 

「そうなのか、それはどうして?」

 

 保温効果のある魔法で温められたアンティーク調のティーポットから注がれる紅茶を貰いながら聞き返す。フランは頬杖をつきながら何でもに無い様に話す。

 

「私達吸血鬼はね、幻想郷では嫌われているそうなのよ……何か昔あったらしいね、私は知らないけど。だからかな? 紅魔館の外だけには絶対に出してくれないの」

 

「…………フランは、その事が気に食わないのか?」

 

 少しだけ、視線を天井に彷徨わせ──────―

 

「…………どうかな」

 

 ──────ポットを置いて、彼女はどうでも良さそうに答えた。

 元々外の世界に対する関心が薄いようだ、本当にこの地下室だけで彼女の世界は完結している。たまに来るであろうレミリアなどの紅魔館の住民だけが外の世界からの情報源だろう。

 

「可哀そう──────って思う?」

 

「いや? 全然、全く、これっぽちも」

 

 それに対して、輝雄は全く同情も憐憫もしなかった。僅かにフランの目は見開き、輝雄の方に視線が向いた。

 

「お前がその生き方に納得してて、自分から何もしようとして無いなら余人が言う事なんて何も無いよ。よその家庭事情に好き好んで首突っ込む程、俺はお人よしじゃないしな」

 

「あなたって結構冷たいのね」

 

「なんだ? 『僕が助けてあげるよ、お姫様』とか言って欲しかった?」

 

「似合ってないよ」

 

「大丈夫だ、自覚はある」

 

 言いながら紅茶を飲み干し、体の具合を確かめてみる。

 咲夜からの負傷はハクレイの巫女に治してもらい殆ど問題は無い。体力も食事によってかなり回復した、流石に多少の疲労は残っているがそれでもパチュリーや美鈴クラスの強敵と連戦でもしない限り問題はないだろう。

 

(気になるのは俺の能力によるパワーアップが、初日のパチュリーさんとの模擬戦程感じられない事だ……てっきり戦えば戦う程強くなれるのかと思ったが、そうでもないらしいし……謎だ)

 

 パチュリー曰く輝雄の人外染みた身体能力や急激な霊力の増大は、彼の能力に依る物らしいが未だに詳しい原理はよく分かっていない。咲夜の時間を操る能力や美鈴の気を使う能力程使い勝手が良いものではない事だけは確かなようだ。

 

 勝手に発動しているのを偶に感じ取れる位だ、その出力さえ安定していない。霊力が必須というわけでも無いらしいのでどちらかと言えば、霊力を消費して発動する術式や魔法というよりも条件が整えば勝手に発動する特性に近いのかも知れない。

 

(それでも咲夜との死闘でまた限界の壁を越えた実感がある、死にかけただけの事はあったな。今の俺は全力時の七割弱ってところか──────美鈴さんは巫女に倒されたらしいし、今なら逃げられるな)

 

 ここでフランと遊んで二、三十分程経過した。ハクレイの巫女が勝ったのか、レミリアが勝ったのかは分からないが隠密に徹すればいい、馬鹿正直に戦うつもりは無い。

 

 倒された咲夜や美鈴も起きている可能性はあるが、妖怪である美鈴はまだしも、一応人間である咲夜がまた戦える状態まで回復しているとは思えない。パチュリーさんも倒されたのか図書館の方角から魔力を感じない。

 

「じゃあなフラン、俺そろそろ行くわ」

 

 ならばここで時間を潰す必要性はもう無い。名残惜しさを感じる程居たわけでは無いがフランに礼だけ言い、早速外に出ようとし────

 

「あ…………待って……」

 

「ん?」

 

「えっと……また遊びに来てくれる?」

 

「あーーー…………どうかなぁ……?」

 

 輝雄は幻想郷に住み着くかどうかは決めかねている、もしも外の世界で自分が行方不明になって大騒ぎになっているのだとしたら住むのもやぶさかでないが、今のところ絶対ではない。

 

 紅魔館との今後の関係も良好であるとは限らない、守れる自信がない約束はしたくないと輝雄は考えていた。それ故に生煮えのような返事をしてしまったが、それを聞いたフランの顔は思った以上に翳ってしまう。

 

「…………つまんない、いいよ、もう。じゃあ最後に────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧の湖その近辺に、風よりも速く上空から地面へ何かが落下した。

 その衝撃で地面には小さなクレーターが形成され土埃が舞い上がり、爆砕音に驚いた周囲の動物は逃げ出し、そのクレーター中心から迸る魔力に周囲の妖怪は逃げ出した。

 

「やるじゃない……!」

 

 飛来物の名前は、レミリア・スカーレット。あらゆる能力が人外の中でも飛びぬけた力の持ち主。

 

「アンタもね」

 

 そして上空で睥睨するは、人外すら制する博麗の巫女────―博麗霊夢。

 普段の霊夢を知っている者からするとその姿と威圧感は珍しかった、無論それだけレミリアが強者であり油断のならない相手であるという事もあるが、それ以上に苛立っているように見えた。

 

「どうしたのよ? さっきから? 異変を起こされたことがそんなにも気に喰わないことだったの?」

 

 魔力で衝撃波を起こし服の埃を払い、一瞬で上空に達し霊夢に目線を合わせながら問いかける。戦い始めて三十分程だろうか、流石のレミリアもかなりの力を消費した。対する霊夢はまだまだ余裕があるように見える、霊力の出力と総量共に並の退治屋とは比にならない。

 

(流石ね、霧になって避けようすれば結界で閉じ込められて一発アウトの可能性がある。蝙蝠にばらけて避けようすれば追尾弾で一匹残らず撃ち落とされる…………これ程とは、博麗の巫女)

 

「違うわよ、アンタが思いの外しぶとくてウンザリしてるだけ。さっさと退治されてくれる?」

 

 このまま戦い続ければ負けるのは自分だろうと、レミリアは冷静に分析する。

 能力で何とかしようにも、自分の能力はそこまで使い勝手が良い物ではない。運命を覗き、小さな事象を運命のレールから外したり付け加える程度の物。自分の力量を越えた事象は操れないし、起こすことも出来ない。

 つまりこの劣勢は運命からすれば、予め決まっていた予定調和に過ぎない。

 

(皮肉なものね、運命を認識できる私だからこそ『博麗の巫女に負ける』という運命を操れない、覆せない事が誰よりも理解出来る…………出来てしまう)

 

 

 運命を操る者が、運命に操られている。これ程滑稽な事はそうそう無いだろう。

 

 

「…………輝雄の事がそんなに気になるの?」

 

「…………」

 

 それは時間稼ぎ、というつもりではないが少し息を整えるついで聞いてみた世間話だった。

 

「あなたは……霊夢っていったかしら? 彼の事を知っているの? ただの外来人にしては色々おかしいとは思っていたのだけど…………あの運命に縛られない男の事を何か知っているのかしら?」

 

「────────―さぁね、なんにせよアンタには関係ない事だし…………もうそろそろ終わらせるわよ」

 

 懐から博麗の文字が書かれた札を取り出し、今までの比にはならない程の膨大な霊力が注ぎ込まれ退魔の光が辺りを照らす。

 

「安心しなさい、ぶっ飛ばした後は日焼けしない様に館に放り込んでおくから。霊符『夢想────―」

 

 大技、ここで決めるつもりか。

 それを感じ取ったレミリアの行動は回避でも防御でも無く、あくまでも攻勢出ることを選んだ。掌に膨大な魔力を生成、そして槍の形状に変化させて鮮血のような輝きを放つ弾幕を造る。

 

「舐めんじゃないわよ。でもいいわ、短期決戦は望むところ! 神槍『スピア・ザ────―」

 

 尋常ならざる強者同士の技が今まさに放たれ、決着が着こうとした瞬間──────―それは起こった。

 

「────何……この魔力!?」

 

「────この魔力まさか……いやでも、何でいきなり…………パチェは何してるの!?」

 

 地面から離れた上空に飛んでなお、感じる地響き、大気の鳴動。

 これだけならば地震か何かを疑うところだがレミリアも霊夢も共に紅魔館周辺しか揺れておらず、そしてレミリアすら超える程の魔力が紅魔館から迸っているのを感じ取った。

 

「ちょっとアンタ! まだ何か仕掛けてたの!?」

 

「………………違うわよ、これは──────」

 

 瞬間、レミリアが言い切るよりも先に館の玄関が吹き飛び、中から何かが勢いよく飛び出す。遠目に見ていた霊夢の目にすら残像を捉えるのがやっとな程の速さ、そして先程の全力時のレミリアすら確実に上回っている魔力。

 

「────────私の妹、フランドール・スカーレットよ」

 

 レミリアと霊夢よりも遥か上空、頂点に登った紅い満月を背に、鮮血を浴びた金髪で異様な羽を生やした吸血が嗤っていた。

 

「ハハハ……ハハハハハ……! フフフ……!」

 

 その目はレミリアと同じく深紅色に染まっているがとても正気を保っている様には見えなかった、まるで浴びる様に酒でも飲んで酩酊状態陥っているようだ。そもそも顔から服に掛けて血が掛かっているが誰かに襲撃されたのだろうか、これ程の妖怪が? と霊夢は思った。

 

(マズいわね……流石にこのレベルの姉妹同時来られたら…………)

 

 一方レミリアはフランが自分の事を助けに来た、とは全く思っていなかった。

 自分と妹は決して仲が良好というわけでは無い、喧嘩したりするのは日常茶飯事、自分のいう事に反抗する事が殆どであり能力の都合上手加減が全く出来ない。

 

(フラン……何でよりにもよって博麗の巫女がいる時に!)

 

 今回の異変の事は知らせず、自室にいつも通り引き籠っている間に全て済ませるつもりだった。何故ならばフランは見た目以上に知性的で冷静ではあるが、同じ吸血鬼であり姉である自分でも時折理解出来ない行動に出たり、かなり情緒不安定な面がある。

 

 最悪の場合、スペルカードルールを守らずに暴れたりすれば危険因子として排除されかねない──────―()()()()()()()()()()()

 

「──────―博麗の巫女」

 

「…………何よ」

 

「異変は、紅い霧は止めるわ。だからフランの事は私に任せてくれない?」

 

 その言葉に霊夢は少しだけ驚いた、さっきまで劣勢でありながら戦う姿勢を崩さなかったプライドの高そうな吸血鬼が急に掌を返した。一瞬だけ騙し討ちの線を疑ったがその顔は至って真剣であり、博麗の勘もそれが噓ではないと判断した。

 

「…………アンタの妹なんでしょ? だったらアンタが止めなさいよ」

 

「ありがとう、感謝するわ」

 

 素直に感謝を述べ、霊夢をその場に残してレミリアはフランを目指して飛ぶ。

 決して小さくは無い湖や館が豆粒に見える程上空、レミリアはフランと対峙する。その顔と服にはまだ固まっていない大量の血がべっとり付いていた、口元からも垂れている──────―間違いなく誰かの血を飲んでいる。

 

「…………フラン? 私が分かる? レミリアよ、その血は誰の物?」

 

 刺激はしないように語りかける。

 レミリアとフランの魔力は殆ど拮抗しているが、能力の破壊力なども考慮すれば普段の状態でもフランはレミリアよりも強い可能性がある。ましてや今のレミリアは霊夢との戦いで消耗しておりとてもではないが、フランとまともに戦える状態ではない。

 

「フフフ……! ハハハハ……! アマイ……アマァイ……コンナ アジ ハジメテ……トッテモ、トッテモトッテモオイシイ……!」

 

(血に酔っているわね……無理もない、いつもは紅茶に入れている位の微量しか飲んでなかったもの…………)

 

 その顔は紅潮し瞳は潤んでいた。血の味に酔いしれているのか、時折脚は疼きカクつかせ、身震いをしており幼い少女でありながらその姿は酷く淫靡に見える。

 

 吸血鬼にとって吸血行為は食事だけではなく魔力の向上や回復にも繋がる。レミリアはフランが暴れださない様に普段から血は極少量しか与えていなかった、それでも十分であり生命活動に支障はなかったからである。そしてフランは人の襲い方を知らない、人は愚か妖怪であってもフランが本気で襲えば跡形も無くなる。

 

 ────―では一体、誰の血を飲んだのか? レミリアは既に予想がついていたが最悪の事態だけは避けていてくれと願った。

 

「仕方ないわね……ちょっとだけ視せてもらうわ」

 

 レミリアは意識を集中させフランが辿った運命を覗く、数十分ほど遡れば何が起こったか全て分かるはずだろうと────―深紅の瞳が輝く。

 

 

 

 

 

 エントランスホールから程近い廊下で死に掛けている輝雄が見える、そこに珍しく地下室から出てきたフランと会話し、運よく壊される事なく地下室に運ばれる。

 

(へぇ、あのフランとまともに会話できるなんて……)

 

 フランが厨房で色々な食材を片端から袋に詰め込み、地下室に飛んでいく。それを受け取った輝雄は貪る様に食べ始める。フランはそれを眺めながら紅茶を淹れていた。

 

(いやいやいやいや…………この際食材を勝手に盗ったのはいいとして、そんな事で人間がすぐ回復するわけ────────)

 

 そして食べて終わる頃には青ざめていた肌はすっかり血色が良くなり、簡易的に塞がっていた傷も奇麗に無くなり、フランと遊び始める。ダーツを投げフランが一喜一憂し、輝雄はそれを眺めながらティーカップを傾け微笑んでいた。

 

(────────―どんな体してんのよ、コイツ? ……………………それにしてもフランも輝雄もこんな顔が出来たのね…………私には敵意が籠った視線しか寄こさなかったけど)

 

 レミリアは輝雄の異常性よりも、自分が知らない妹の顔とそれを向けられている事が少し気に喰わなかった。しかし今はそれどころではないと切り替え、時間軸を進めていく。

 やったことが無いビリヤードでフランにボロ負けし「ザーコ♡ザーコ♡」と煽られ、それを苛ついたのか次のセブン・ポーカーでは連戦連勝し、紅茶を飲みながら談話している。どうやら自分が博麗の巫女と死闘を繰り広げている間、輝雄はほのぼのと妹と遊んでいたようだ、益々気に喰わないが一旦置いておく。

 

『まぁ、お姉様はあんまり私のこと心情的には外に出したくないかもね』

 

『そうなのか、それはどうして?』

 

『私達吸血鬼はね、幻想郷では嫌われているそうなのよ……何か昔あったらしいね、私は知らないけど。だからかな? 紅魔館の外だけには絶対に出してくれないの』

 

『…………フランは、その事が気に食わないのか?』

 

 

『…………どうかな』

 

(…………フラン)

 

 そう、自分たち吸血鬼はこの幻想郷ではあまり受け入れられていない。

 かつて幻想郷にスペルカードルールが無かった時代、外の世界からやって来た吸血鬼などの妖怪が幻想郷を乗っ取り企み幻想郷の妖怪と当時の博麗の巫女と戦争が起こった。

 

(私は賢者との戦いに負けて紅魔館で休息をとってたから、先代の巫女の事は知らないけど…………)

 

 当時、博麗大結界が大きく揺らぎ修正に賢者が手間取り、そしてまだまだ現役であったはずの先代から今代の幼かった霊夢に巫女が変わったと風の噂で聞いた──────つまりそういうことなのだろう。

 

(私達、紅魔館が直接関わったわけじゃない。それでもあの吸血鬼異変での軋轢は十年の時が流れても一向に埋まらない…………このままじゃ紅魔館に未来は無い、人間だけじゃなく妖怪にも受け入れられない現状は決して無視できない)

 

 最悪他の吸血鬼などと同じように消え去る運命もあり得る。だからこそ、レミリアはスペルカードルールに則った異変を起こした。紅魔館がルールを守るという事と、博麗の巫女に退治されてなお幻想郷に居座る事が認められる事は、ただそれだけで意味がある。

 

(だからお願いフラン、今は……今だけは──────)

 

『…………つまんない、いいよ、もう。じゃあ最後に────────』

 

 フランの境遇に憐憫も同情も全く見せなかった輝雄、輝雄自身が何を考えているかはレミリア視点からも解らないが恐らく体力が回復したため紅魔館から逃げるつもりなのだろう。

 

 彼は決して望んで幻想郷に来たわけでは無い、フランと約束出来ないのも仕方がない。レミリアがフランと会わせなかったのは、輝雄の安全の為でもあるが、万一フランが彼を気に入った時幻想郷に滞在させることが出来ないからである。それは異変とは違い、博麗の巫女と本気で殺し合う事になる可能性がある。

 

『──────―ちょっとだけ血を吸わせて?』

 

『血を? …………血を吸った人間がゾンビになったり、吸血鬼になったりしないんだったらいいけど。あと1L以上は飲まないで欲しい、今の状態だと流石に辛い』

 

(普通万全の状態でも1L出血したら人間は辛いわよ)

 

『血を吸いつくさない限り大丈夫だよ、あと私もお姉様もそんなに飲めないよ』

 

(あんたはそもそも直に飲むのも初めてでしょうが)

 

 内心色々ツッコミ処が多いが、そのまま何が起きるのか視ていると、しゃがんだ輝雄の首元のフランが顔を近づけて犬歯を突き立てる。

 

『…………ッ』

 

『…………! ン……ンン……ッゴク…………ン……!』

 

 ただ血が抜かれるのとは違い、飲まれているという感覚が体に虚脱感を覚えさせるのか輝雄の顔が少し曇る。

 同時に初めての直接吸血にフランは目を見開き、少しずつ勢いを増していく。

 

「フラン? おい、ちょっと……飲み過ぎだって、おい!」

 

「ハァ……ハァ……モット……モット、チョウダイ、モット──────」

 

 そしてその瞳は完全に正気を失い突き飛ばすように距離を取った輝雄に手を翳す、それは追い求める様にも、おいて行かれない様に手を伸ばしている様にも見える。

 

(やめて、やめなさい、フラン、それは────―その人間はもはやあなたにとって食料でも玩具でもない──────―)

 

 だからだろうか、輝雄はその手に敵意や攻撃の意思を感じずその場に留まった──────―留まってしまった。

 

 

 

『アカイノ ガ ホシイノ』

 

 

 

 フランの手が開かれた状態から一気に閉じられる、瞬間────────―

 

 

 

『は──────? ガッア゛ァ゛ア゛アアア゛アアアア゛アア!?!?!?』

 

 

 

 ──────―輝雄が爆ぜ、輝雄を中心として血が飛び散る。花火の様に、石榴の様に。

 

『アハハハハハ、アハハハハハハ、ハハハハハ』

 

 その血を浴びて、しゃぶるように指から舐めとり、少女はケタケタ笑い続ける。

 

 

 

『アハハハ『アハハハハハハハ『アハハハ『アハハ』ハハアハハハハハ『ハハハアハハハハハハ』ハハアハハハハハ『ハハハアハハ『アハハハハハ』アハ『ハハハハハ』ハハハ』アハハハ『アハハハハハハハ『ハハ『アハハハ『アハハハハ』ハハハ』ハハ『アハハハハハハ『ハハハハ』ハハハハハハハ』ハハアハハハハハ『ハハハアハハハハ』ハハハ『ハハ『アハハ』ハハハハハ』ハハハハ』ハハアハハハ『アハハハ『アハハハ『ハハハアハハハハハハ』ハハ『アハハハハ』

 

 

 

 仄暗い地下室で反響する笑い声は一人でいるにも拘らず、まるで声がかさなっているかのように響く。

 

 

 狂って、狂って、狂って、狂って、自分が何をしたのかも理解できないまま、狂って────────────

 

 

 

 

 

「────────ああ、フラン、フランドール・スカーレット。我が妹よ」

 

「ウフフ、フフフ…………ナァニ……? ……ダァレ……?」

 

「お前が自らの意思で地下室に籠り、満足しているから私も必要以上干渉しようとはしなかった。実際それでうまくいってはいたしな………………だがそれは間違いだったよ、今確信した」

 

 能力の行使を中断し、レミリアは正気を失ったフランと向き合う。

 満月と吸血行為によってフランは普段以上の実力が発揮できる、対するレミリアは大きく消耗している──────―しかしレミリアは退くつもりは無かった。

 

 博麗の巫女にフランを退治させないため、では無く。

 

「私達は吸血鬼、妖怪、鬼だ。だから時には平和な幻想郷と言えど時には人を殺すこともあるだろう、お前のしたことは別に間違っちゃいない────────―だがしかし、お前には友達との付き合い方くらいは教えておくべきだった」

 

 手には鮮血の様な輝く槍が形成される、弾幕ごっこようの加減されたものでは無い。生半可な実力ならば骨も残らない程の威力を秘めた、必ず殺すための技。

 

 これは決して輝雄の弔い合戦などではなく──────―

 

 

 

「むせび泣いて喜べ愚妹!私自ら教育(調教)してやるッ!!!」

 

 

 

 ────────姉として、家族として、妹の過ちを二度と繰り返させない様にその身に苦痛と共に刻みこむだけだ。

 




 こんてにゅーできないのさ

 どうでもいい補足
 未来視では輝雄は映らないが、確定した過去では運命から見える
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