幻想禍津星   作:七黒八白

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 どっちがどっち?というお話


第十一話 星を見る者 泥を見た者

「結論から言うわ、フランを止めるのは不可能よ」

 

「初っ端から絶望させるの辞めてくれませんか?」

 

 体を治療してもらい自分で体を起こせるくらいには回復した輝雄に、パチュリーは唐突に言った。それを聞きながら間髪入れず言い返しながら輝雄は肩を回し、脚を屈伸し調子を確かめる。全身筋肉痛の様な鈍痛はあるが骨が折れている感じはしない、特に問題はなさそうだった。

 

「厳密に言えば、力尽くで押さえ込むのは不可能という意味よ」

 

「最初からそう言って下さいよ…………で? その心は?」

 

「普段のフランでさえ私とレミィの二人で押さえ込んでいるのよ? 私もレミィも消耗していて、満月と吸血で強化されたフランを相手にするのは現実的ではないわ」

 

 言いながらパチュリーは地下室唯一の出入口である、階段に向かって行く。

 輝雄と小悪魔もそれについて行き、地上を目指す。その間何度か地響きと激しい魔力の奔流を輝雄は感じた。自分がパチュリーや美鈴との弾幕ごっこ以上の力の衝突は明らかにごっこ遊びの範疇を越えている。

 

「…………多分、フランとレミリアさんですよね」

 

 誰に言うでもなく、呟いた輝雄に少し感心したようにパチュリーは振り向きながら言った。

 

「分かるのね…………レミィの魔力が弱まっている、時間が無いわ。輝雄、貴方に手伝う気があるなら、貴方にやるべき事は主に二つ」

 

 パチュリーはエントランスホールで立ち止まり、輝雄に向き直った。

 

「一つ、フランをこのエントランスホールに誘導する事。今のフランは血に酔って力に振り回されている状態、でも結界で正気に戻せば流石に暴れないでしょう」

 

「根拠は?」

 

「無い…………フランは決して自分の意思で暴れている状態じゃない事を期待するしかないわ…………で、二つ目。こっちは単純だけど難問よ」

 

 エントランスホールに何らかの魔方陣を展開しながら、輝雄に語りかけている。その魔方陣に何処か既視感の様な物を覚え、輝雄は記憶を探る。そしてすぐに思い当たった、フランの部屋に繋がっている地下室の扉にあった物と同じであることを。

 

(あぁ成程………………考えてみれば『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持ったフランを強度頼りの結界で閉じ込めるのは現実的じゃない)

 

 ならばパチュリーのさっきの言葉を考えるに、今エントランスに張っている結界は恐らく精神に何らかの作用がある物なのだろうと輝雄は予測する、その次に来るであろう難問も。

 

「さっきも言ったけどフランの魔力と能力から無理矢理閉じ込めるのは不可能、だから結界の効果が及ぶように──────―」

 

「………………ある程度弱体化させる?」

 

「………………そうよ」

 

「やりますけど、ぶっちゃけ『死んで来い』と大差ないのでは?」

 

 輝雄に攻めるつもりは一切無かったが、その言葉を聞いたパチュリーは目に見えて表情が曇った。しまった、と思った時にはもう遅かった。

 

「すみません、そういう意図は無いんです。ただ無策で突っ込んでもすぐに死にそうだったので」

 

「いや、気持ちは分かるわ…………フランの能力についてだけどね、恐らく発動には幾つかの条件がある」

 

 パチュリーの展開している魔方陣がエントランスホールに張り付く形で展開され、それと同時にその場に座り込む。それを見て側に駆け寄るが、どうやら魔力が不足しているらしい。

 

「…………結界の効果が足りないかも知れない、レミィの魔力が必要よ。戦いに割って入ったらここに来るように言って──────―言うまでも無いかもしれないけど、今度能力で破壊されたら死ぬと思いなさい」

 

「分かってますよ」

 

 パチュリーが言い切ると同時に外で弱々しい魔力が地面に墜落し、輝雄は窓を突き破り全速力で返り血に塗れた吸血鬼に飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

「(とは言ったものの!)────―ッ゛ア゛ア゛ヅ!」

 

 上空数十メートルから落下し、地面を鑢で削るように木々をなぎ倒す程の不意打ちの飛び蹴りを後頭部に喰らい、なおフランドール・スカーレットは正気に戻らず輝雄に向かって来た。

 

 炎剣が技術も何も無い出鱈目に振り回される。

 目で追う事は辛うじて出来た、しかし馬鹿げた膂力と速力が経験や技術力といったものを埋める。美鈴に比べればその攻撃は拙いものであったが、地力に差がありすぎ体の端を少しずつ焼かれる。

 

(弱体化させろつってもどの程度だ!? 満月で強化されてるらしいが夜明けどころかあと五分持つかも怪しい!! 能力無しの素のスペックで咲夜よりも速い!!!)

 

 率直に言って化物、自分が勝っている要素は何一つない。

 決して楽観視していたわけでは無いが、それでも自分の考えが甘かったことを痛感した。

 

「ヒャアッ!!!」

 

「オ゛ッ──────―!?!?」

 

 水平に薙ぎ払われる刃渡り五メートルはある炎剣を上体を反らし避けるが、その場に一瞬の滞空を突かれ脇腹にフランの乱雑な横蹴りが突き刺さる。美鈴の様な隙の無い、鞭の様な威力を最大限生かした動作では無い、勢いのまま足を振っただけだ。

 

「ガッ!? ──―ゴッ! ──―グッ!! ──―ガハッ!!?」

 

 ──────しかしそれでもなお霧の湖、その水面をまるで水切り石の如く輝雄は跳ね飛ばされ反対側の岸に大きな窪みを造る程の衝撃と共に激突する。

 

「アッハッハッハ!!! オッカシイ~!!」

 

「………………ウ、ゥオエ゛エ゛エ゛ッ!!!」

 

 吐瀉物、というよりも内臓そのものを吐きそうな程の威力。事実凡庸な人間や妖怪であれば今の一撃で上半身と下半身は泣き別れしていただろう、耐えている時点で快挙だった。

 

(能力云々じゃない…………! パワーもスピードも何もかも桁違い過ぎる…………約五百年間部屋に閉じ籠っていたから、立ち回りは経験から優位に立てると思ったが…………そんな次元じゃない!! まともに戦ったら一撃で死にかねない!!!)

 

 これならまだ対策がある能力を主体に戦われた方がまだやりやすかった、血反吐を吐き終え内心愚痴りながらケタケタ笑っているフランを見据える。見るからに油断している、しかしそれでもなお埋めがたい実力差、輝雄は冷静に頭を回す。

 

(『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』…………発動する条件は『視認』と『握り潰す又は触る』ことだろう)

 

 思い出すのはエントランスホールから出る前に言われたパチュリーからの能力の解説と対処法、あくまでも推測の域を出ないと言っていたが実際に喰らった輝雄はその考えが何となく間違っていない事を実感していた。

 

『フランは恐らくまず視る事によって対象の脆い点、鉱物で言う「劈開」に近い物を自身の手に出現させる。そしてそれを握り潰すことで対象を破壊する』

 

 第一段階、『視認』。

 これによって壊したい物の脆い点を見極め、手に移す。一度に何個まで、有効範囲は何処までなど分からないことはあるが視ていない対象を破壊する事は出来ない。少なくとも能力の効果範囲には含まれないだろう。

 

(フランの視界を奪うか視界に収まらければいい…………煙幕なんて無いし、どうする? 最悪目ぇ潰すか……?)

 

 第二段階、『握る』。これは分かり易い、能力都合上手にしか脆い点を出現させらないのであれば手首から先を斬り落とせばいい。

 

(怖いのは有効射程が不明な点と、直接触った状態なら手に移すという工程を省けるのでは? という懸念…………)

 

 だがしかし、そもそも今のフランは能力で攻めてこない。そんなもの使わずとも地力の差から押し潰すことが可能なのだから。分かりやすい隙など晒すわけが無い。

 

「来ナイノ? ジャアコッチカラ 行クヨ!!!」

 

「チッ!!!」

 

 弾丸の如くこちらとの距離を一気に詰めてくるフランに対し、真正面から激突することは幻想入りし、それなりに鍛えられた輝雄にとっても即死しかねない。常人がダンプカーに突撃するようなものだ。

 

「(──────―真正面から力比べは出来ない、だったら!!!)こうだな!!」

 

 輝雄は近くにあった木を手刀で貫き、そのまま力任せで引っこ抜きフラン目掛けて投擲する。青々と葉が茂っている生木が何本もダーツの様に殺到する。

 

「邪魔!!!」

 

 無論そんな物がフランの障害になるはずもなく炎剣で全てを撃ち落とされる、が輝雄の狙いはそこでは無かった。

 

「ワッ!?」

 

 生木というのは意外にも多くの水分を含んでいる為燃えづらい。燃えている剣とは言えど一気に焼却とはいかない、火力で消しきれなかった破砕した木片と木の葉がフランの周りに滞空し、僅かな時間その視界を遮る。

 

「力を過信してるからそうなんだよッ!!!」

 

「グッ!?」

 

 すかさず木片と木の葉で出来た煙幕に弾幕が殺到し、フランを削る。大量の霊力が込められた弾幕はフランを包むように四方から襲い掛かり確かにダメージを蓄積していく──────がしかし、

 

「鬱陶シイッッ!!!」

 

 ただの弾幕でやられるほどフランは甘い吸血鬼では無い。怒号と共に放出された魔力は煙幕諸共弾幕を消し飛ばし視界を晴らし、フランは小賢しい真似をした下手人を探し辺りを見渡すが輝雄は何処にもいなかった。

 

「………………逃ゲタノ?」

 

 先程までは湖の岸部に居たはずだが、そこに残っているのは輝雄が衝突したことによって出来たクレーターと引っこ抜かれた木々の後だけ。訝しみながらフランは湖上空へと高度を上げながら周囲に警戒していると──────大量の水飛沫が体に掛かる。

 

「水?!?!」

 

 何故か上空を飛んでいるにも関わらず、大量の水飛沫が飛んでくる。そして水飛沫に混じっている弾幕。水中で暴発する共に弾幕が飛んでくる、弾幕自体はさして問題ではないが水だけはそうはいかない。

 

(水中!? なら上に────―!!)

 

 吸血鬼にとって流水は概念的弱点、日光ほどではないが流れる水の中を多くの悪魔は渡れない。無理に渡ろうものなら如何にフランと言えども弱体化は免れない。下から殺到する弾幕を避けながら上昇しようとすると狙いすましたかのように極大のレーザーが迫ってくる。

 

「ガアッ!?」

 

 直撃こそしなかったものの範囲が広く避けきれずに体に端を掠める。それでも今のフランとって大した痛手にはならない、しかし思うように戦えずチマチマと削られることによって苛立ちが募り始め、炎剣が呼応しさらに巨大化する。

 

「イイヨ! 湖ゴト蒸発サセテ──────」

 

「環境破壊は良くないぞ」

 

「──────ガッ!!?」

 

 背後から聞こえた声に反応し振り返ると同時に──────―フランの頬に肘鉄が突き刺さり、振りぬくと同時に弾幕を放ち、同時に地面に着弾した。

 

(上空に逃がしたら俺に勝ち目はねぇ! 遮蔽物がある地上戦に持ちこまねぇと!)

 

 砂埃が晴れない内に最速で追撃を仕掛けに行く、もはや彼の頭の中に時間稼ぎや手加減という考えは消えていた。

 

 

 

 

 

 

「凄ぇなアイツ! 何者なんだ! もしかしたら勝っちまうんじゃないか?」

 

「…………どうかしら」

 

 激しくぶつかり合う両者とは距離を取り、遠方から観戦している魔理沙は言う。隣にはお世辞にも具合が良さそうには見えない霊夢がいる。やや険しい目で一進一退のその戦いを見ているが何を思っているのかは分からない。

 

「まぁ負けるとしてもだ、その時は私達が割り込めばいいだろ? お前も別に見捨てるつもりは無いんだろ?」

 

「………………」

 

 魔理沙の言葉に霊夢は何の反応も返さない、ただいつになく真剣な顔でどんよりとした瞳を外来人に向けているだけだ。流石に魔理沙もこれはただの事では無いと理解したが、何故こんな事になっているのかは分からない。

 

(外来人と何かあったのか……? だとしてもここまで取り乱すか……? そもそもあの外来人は一体何者なんだ? 私が見た時は確実に息が無かった、誰かが回復させたとしてもあそこまで持ち直せるのは普通じゃない………………そもそも何で吸血鬼と戦っている? 戦えている?)

 

 仮にあの外来人が幻想郷に来てから、もしくは来る前から妖怪と戦える力を手に入れていたのだとしてもあのレベルの吸血鬼と張り合えるのは異常だ。

 

 スペルカードルールは弱い人間が妖怪とある程度対等に戦うために作られた、その事情を考えれば形成は不利とはいえ本気で殺しあえている現状は凄まじい。実は人間ではないのではと本格的に疑わしい、ひとまず魔理沙は隣の霊夢に彼の正体に聞いてみる事にした。

 

「なぁ霊夢? お前あの外来人と知り合いなのか?」

 

「そんなわけ無いでしょう…………向こうはどうか知らないけど」

 

 正直期待はしていなかったが、やはり知人などでは無い様だ。だったら今の挙動不審な姿は一体何なのかと思うが本人も分かっていない様なので、そこは後回しにする。

 

「ホントか?」

 

「少なくとも私には覚えがない…………はず」

 

「はず……? イマイチ要領得ないな」

 

 ますますらしくない、と魔理沙は思った。歯に衣着せぬ物言いをし、時には礼儀知らずとも言える程不遜な態度を取ることさえ珍しくないこの巫女がここまでしょぼくれている? 紅い霧よりもこちらの方が余程異変なのではないか。

 

「…………戦況がいよいよ傾き始めたわね」

 

 霊夢の言葉に釣られ目を向けてみると、地上に墜落した吸血鬼に外来人が追撃を加えていた。陥没した地面から飛び出した吸血鬼が空へ逃げようとすると、すかさず足首を掴んでもう一度地面に叩きつける。鈍い砕ける音と共に地面が隆起し吸血鬼がめり込む。

 

 外来人はそのまま馬乗りになろうとしたが吸血鬼は霧になって逃れ、逃げる事をあきらめたのか真正面から迫撃に持ち込まれる。怒号を叫びながら辺りの木々をなぎ倒し、攻撃を紙一重で避けながら外来人は徐々に紅魔館に近づいていく。

 

「うーん…………ありゃなんか狙ってんな」

 

「…………」

 

 その姿を博麗の巫女は何も言わずに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「逃ゲルナァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」

 

 服こそ泥に塗れ、ボロボロだが体力と魔力はまだまだ有り余っているのかフランは弾幕も木もあらゆる障害を真正面から蹴散らして真っすぐ輝雄に迫ってきた。地面に墜落した際に何処かに飛んでいったのか、それとも魔法が解けて消えたのかは知らないが炎剣は無い。

 

(完全に頭に血が昇ってるな────―誘導は簡単だ、あとはもうちょい痛手を!!)

 

 乱雑に振り回される鋭い爪が伸びた腕を掻い潜り、背負い投げで脳天から地面に叩きつける、フランの頭部は拳程の石を砕き地面に突き刺さる。普通なら即死だが輝雄はそのまま追撃で顔面を踏み抜こうとする。

 

「──────―ッッッ!!?」

 

 しかしそれが自身にとって脅威であることを感じ取ったのかすぐさまその場から転がり輝雄から距離を取る。それを追いかける形でまるでモグラ叩きの如く輝雄はフランの頭部目掛けて拳を振りぬき、通った後に等間隔に小さなクレーターが出来る。

 

(こいつ……さっきから…………)

 

「消エテ!」

 

 起き上がる暇すら与えない追撃を鬱陶しく思ったのか、受け身を取る様に掌を地面に叩きつけると同時に弾幕を故意に暴発させる。衝撃によって周囲一帯が吹き飛ばされ、フランとの距離も無理矢理引き離される。

 

「ッ!! (視界が────―!!)」

 

 粉塵を払いのけフランを逃がすまいと上空に飛びすぐに補足する、が──────

 

「────四人!?」

 

「禁忌」「フォー」「オブ」「アカインド」

 

 四人のフランが取り囲む形で輝雄を迎える。一名だけ背部に魔方陣の様な物が展開されいる、ハッタリやフェイントの可能性もあるがそうでないのなら魔方陣があるフランが本体だろう。問題は──────―

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「当テテ上ゲヨウカ?」

 

「考エテイルコト」

 

「力ノ分裂カ、単純ナ分身カ」

 

「正解ハ────」

 

 全てのフランが炎剣を手に造り出し、輝雄に殺到する。

 

「「「「力量ハ ソノママノ分身!!!」」」」

 

「出鱈目にも程がある……!」

 

 四方八方から振り回される剣を紅魔館の周囲を飛び回る形で逃げ続け避け続ける、しかし速度に差がある以上すぐに追いつかれ回り込まれる。前面から来たフランの空竹割を避けても横から来た分身体の続く水平切りは防御せざるを得なかった。

 

「ッ゛ッ゛~~~熱ッ!!」

 

「レア ガ良イ!? 其レトモ ミディアム!? ウェルダン!?」

 

 腕を霊力で強化していても熱まで防ぎきれるわけでは無い、肉の焼ける臭いが輝雄自身から漂ってくる。その臭いを胸いっぱいに吸い込み恍惚としながらフランは嗤う。

 

「グッッ!!!」

 

「!!」

 

 それでも歯を食いしばりながら、フランの頭部を掴み急降下し地面に叩きつけ、炎剣を握った手を踏みつぶし剣を触れなくする。そして顔面を掴んだままゼロ距離から弾幕を放った。

 

「ハァッ!!」

 

 輝雄と地面に挟まれる形で逃れられないまま極大の光線を受けた分身体はそのまま上顎が消し飛び、そのまま空気に溶ける様に消えた。

 

「ア~ア、消エチャッタ」

 

「サッキカラサァ、輝雄チョット女ノ子相手ニ容赦ナイネ?」

 

「ガンバレ、ガンバレ、マダ三人イルヨォ?」

 

(このレベルのフランがあと三体…………?)

 

 分身を左右に浮かばせながら本体のフランが悠々とこちらを見下ろしている。

 既に輝雄の体は限界が来ていた、霊力や能力で如何に自分を強化出来ても怪我や疲労が消えるわけでは無い。

 

 体の各所に打撲と火傷と開き始めた咲夜の切創、外傷だけではなくパチュリーの魔法でも内臓や骨格も治り切ったわけでは無い、霊力も既に全開時の半分以下。疲労はピークに息が切れ、膝が笑い始めている。

 

(せめて……せめて! せめて一対一に持ち込めれば!!!)

 

「…………息モ絶エ絶エッテ感ジダネ、イイヨ──────」

 

(ヤバ──────―!)

 

 輝雄が既に満身創痍であることを察したフランは分身と共に炎剣を振りかざす。すぐに回避に移ろうとするが、一瞬膝が機能せず足が縺れる

 

「────────―終ワラセヨッカ」

 

 轟々と輝く三本の炎剣はそのまま輝雄に真っ直ぐ特攻し────────

 

(死──────)

 

「覇ッ!!」

 

「夢想封印!!」

 

 ──────本体は美鈴に真っ直ぐ下顎から上空に蹴り上げられ、分身体は霊夢の結界と陰陽玉にかき消された。荒ぶる陰陽玉は光を放ちながら正確に炎剣から輝雄を守り、同時に分身体を打ち砕いた。

 

「美鈴さん! あとレイムさん!」

 

「行ってください輝雄さん! 止める手段があるんでしょう!?」

 

「……輝雄、事情は知らないけど丸く収まるならそうしなさい。でないと全部勝手にやるわよ?」

 

 美鈴は兎も角突如助け舟を出した博麗の巫女に不自然な物を感じながらも、輝雄は未だにガクついている膝を拳で数回叩き無理矢理動かす。越えられない限界、超えてはならない限界を自覚しながらも今一時だけは動かなくてはならないと血と泥に塗れた体に鞭を打つ。

 上空ではフランが脳震盪でも起こしたのか漂っている。カウンター気味に入った不意打ちの蹴りは吸血鬼をして無視できるものではない──────今なら確実に仕留められる。

 

「(ここを逃したらもうチャンスは無い!!!)動け、動いてくれ! 俺の体ぁああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

 

 喉から気合と血を迸らせ、地面を蹴り砕き、フランまで弾丸の如く飛び出す。幸いパチュリーが結界を張っているいるであろうエントランスホールとはそこまで距離は無い、殴り飛ばすなり羽交い絞めで諸共結界に入り込めばいい。

 

 

 両者の距離、百メートル

 

 

(行ける! 確実にフランの意識が戻るより先に俺の攻撃が入る!!)

 

 

 両者の距離、五十メートル

 

 

(妹様も決して消耗してないわけじゃない……流石にこれで────―)

 

 

 両者の距離、三十メートル

 

 

「……………………」

 

 

 しかし順調とは嵐の前触れでもある。

 不吉な物を感じた霊夢はすぐに陰陽玉とお祓い棒を構える。そして輝雄がフランまでの距離をあと二十メートルまで詰めた時、フランの紅玉の様な双眸が極限まで見開いた。

 

「マダ……マダ……マダ足リナイ モット! モットォ!!」

 

 瞬間フランが前方に伸ばした腕から、回転しながら広がっていく幾何学模様の魔方陣が展開される。未だにダメージから回復しきれていないようだがそれでも多量の魔力を注ぎ込み無理矢理魔法を発動させる。

 

「何!!? (この期に及んで何を!!?)」

 

 突然の出来事に一瞬怯みながらも輝雄は速度を上げてフランに向かった、しかしそれでも中断させることは叶わずフランやレミリアと似た翼を持った小人や異形の生き物が多数魔方陣から現れる。大小含め────────総数、約五百。

 

「あれは──────―お嬢様と同じ召喚魔法!? 妹様も使えたの!?」

 

「やってくれたわね、あの吸血鬼………………!」

 

 美鈴はその魔法がレミリアが使うものと同じ低級悪魔を召喚するものであると一目で看破する。一体一体の力量は然程ではない、それこそ一番強い悪魔でも図書館の小悪魔に毛が生えた程度であろう。しかし数が多い、現状もっともされたくない時間稼ぎに適した手段だった。

 

 時間が掛かれば掛かるほどフランの体力は回復する、ただでさえ吸血鬼は再生力が特出しているのだから。それを悟った美鈴と霊夢は輝雄の後を追う形で悪魔の群れに向かう。

 

(無理だ、間に合わない。倒しきるより先にフランの脳震盪は回復する! 三人がかりでもこの量は…………! せめて纏まっている今の状態で一網打尽に出来れば──────────)

 

 同時に輝雄も三人がかりでも召喚された悪魔の大群を滅している間にフランのダメージが抜ける事を悟る。フランは今輝雄達より上空に居る、このまま空に逃げに徹されたら全て元の木阿弥となる。

 

 そうなれば輝雄と美鈴では倒しきれないだろう、いや下手をすれば博麗の巫女ですら──────────

 

(終わっ────────────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻世『ザ・ワールド』!!! ────―時よ止まれッ!!!」

 

 

 

 そして世界は灰色に染まり、輝雄以外の全てが停止する。

 

 

 

「これは!!? 咲夜か!!?」

 

 忘れもしない問答無用の時間操作能力。つい数時間前にギリギリで勝利を収めた相手が用いたもの、地上の紅魔館へ目をやると正面玄関に咲夜が立っていた。咲夜もこちらが気づいた事に気づいたのかナイフを一本投擲しながら叫ぶ。

 

「いいから行きなさい!! 十秒しかもたない!!」

 

「────────―ありがとう! 助かった!!」

 

 

 静止時間10秒間────―1秒経過

 

 

 咲夜から投げ渡されたナイフを逆手に構え、魔方陣から出てばかりで密集している低級悪魔の群れに突っ込む。時間が止まった世界で動いているのは咲夜と輝雄のみ、咲夜は時間を止める事に集中している為、加勢することは出来ない。

 

(十秒か…………──────―)

 

 ──────フランの炎剣と同様に刃を霊力で強化し一振りで数十体消し飛ばす。

 霊力によって僅かに青みがかった銀閃が前方数メートルの悪魔を空間ごと削られたように消える。

 

(──────―残り全て出し切る!!!)

 

 

 ────―3秒経過

 

 

 残り少ない霊力をほぼ全て弾幕に変換し、周囲の悪魔を蹴散らし残った頭部を徹底的に切り刻む。フランまであと十五メートル、時間停止が終わった後悪魔がどんな行動に出るかわからない以上一匹たりとも生かしてはおけない。

 

 

 ────―5秒経過

 

 

 拳が、蹴りが、斬撃が、周囲の悪魔を丁寧に確実にその命を自覚無いまま散らしていく、小柄な悪魔は一撃で木っ端微塵に粉砕し、巨体の悪魔は部位ごとに斬りゼロ距離弾幕で消し炭に変える。フランまであと十メートル、低級悪魔はその総数を半分に減らしていた。

 

(まだ半数!! いけるのか!? ────―てかやるしかねぇだろうが!!!)

 

 

 ────―7秒経過

 

 

「うぉぉおおおおぉぉおおおおお────────────!!!」

 

 

 輝雄は近くにいた悪魔の頭部を足踏み場に全力で()()。もはや霊力で強化された輝雄の脚力は岩を砕くどころか、鉄骨をひしゃげる水準まで進化していた。

 そんな脚の踏み場にされた悪魔は当然、上顎が粉砕し──────────―

 

 

 ────―9,99………………秒経過

 

 

「がぁぁぁァァァァアア゛ア゛──────────―!!!」

 

 

 ──────────―獣の如く吼え、周囲残り全ての悪魔の蹴り砕き斬り刻みながら跳んで、跳んで、跳び続けて加速に加速を重ね、

 

「……何て奴……凄まじい……」

 

 遠目に見ていた咲夜の目に全く映らない速度に達し、召喚された悪魔全てを屠ると同時に、

 

 

 ────―静止時間10秒経過

 

 

「──────え!?」

 

「殺ったァァアア!!」

 

 時間の止まった世界が終わり、フランの肘から先が銀のナイフで斬り飛ばされる。

 フランからしてみれば、いきなり自分が召喚した悪魔が全滅し瞬間移動した輝雄に攻撃された形だ。混乱するのも無理はない。

 

「────────腕ガ再生シナイ!?」

 

「銀のナイフだからな! もういい加減終わらせようぜ!!」

 

 混乱したフランを後ろから羽交い絞めにし、そのままエントランスホールに洒落た窓枠ごと粉々にする勢いで中へとフラン諸共突っ込む。

 

「パチュリー!!」

 

「分かってるわ!!」

 

 エントランスホールの中にはレミリアとパチュリーが居た、半透明の文字と陣が目まぐるしく駆け巡りその中心に輝雄とフランは墜落した。何が起きるのか理解したのか、腕が無いままフランが拘束を解こうと藻掻くが────────

 

「フラン、──────────」

 

「────────!? ………………」

 

 ──────────―輝雄に何かを耳打ちされ、抵抗を辞め、そのまま眠る様にフランと輝雄は意識を失った。

 

 

 





 魔理沙「私は?」
 泣く泣く割愛。

 補足 水中から極大光線打つと同時に背後に回った、ナメック星のグルド戦みたいな感じ。
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