幻想禍津星   作:七黒八白

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 沼った、やっつけ感が否めないけどそれでもいいやと出します


第十二話 決別

 後に紅霧異変と呼ばれるようになるスペルカードルールが適応された初めての異変から三日経ち。

 

 フランが暴れた為に紅魔館と辺りの地形が破壊され、紅魔館の責任となりメイド妖精が修復していた。博麗の巫女である博麗霊夢が異変を解決したことを鴉天狗の新聞で大々的に報道され宴会が開かれている間、輝雄は──────────

 

「おいダイヤ8止めてんの誰だ、マジで死ぬから辞めろ? 俺もうパス一回しかないからマジで」

 

「そうね、手札が苦しいから早く出して欲しいわ。♧の10ね」

 

「いやでもパチュリー様一番減ってますよね? ♡の3です」

 

「でも美鈴と二枚差よ? 疑るのは辞めて頂戴」

 

「私も苦しいわ、あとパス二回しかないし。♤のQ出すわ」

 

「これキングとエース繋がらないから死にやすいですよね~。あ、♧のJ出しますね」

 

 ──────────自粛中の紅魔館メンバーと七並べをしていた。

 

「違うんだよ小悪魔さんそこじゃないんだよ、パス。はいこれで俺もうパス出来ないから! マジで出して? ダイヤの8出してホント」

 

 輝雄の手札は悲しい程♢スートで、そして全て8以降になっている。パスは五回で全て使い切った、しかも手札が一番多い。

 

 輝雄が穴を開けた客室でパチュリー、美鈴、レミリア、小悪魔でトランプで遊んでいたのだがまるで勝てていない。どうも彼は運命に囚われないだけであって決して運がいいわけでは無い様だ。

 

「とか何とか言ってホントは出せるんじゃないの? ブラフじゃない?」

 

「ブラフじゃないブラフじゃない、もう初めから苦しいから。てかパス五回使ってブラフとか意味不明だろ」

 

「♢があからさまに出てませんね…………」

 

「あーまずいわね、これパチュリーが上がるわ。誰か止められない?」

 

「無理ですよコレ大富豪とかじゃないんですから、これもう完全にパチュリー様上あがりますね」

 

「おいマジで誰だ! 極悪人だって! 極悪人いるってこれ!!? ♢が! ♢がマジですっからかんじゃねぇか!?」

 

「「「「人間は貴方にだけよ?/ですよ?」」」」

 

「違う! そうじゃない!」

 

 輝雄、渾身の叫び。しかし悲しいかな、五回のパスを使い切り手札を並べる。♢のK、Q、J、10、9が広げられる。運命の女神は彼に微笑まず唾を吐きかけた。

 

「運がないわねぇ、貴方。ていうか本当に♢しかなかったのね」

 

 レミリアが苦笑しながら紅茶を飲み、

 

「いやーこの手札は辛いですねー、しかも輝雄さんの手札全部離れたところにあるから意味ないですし」

 

 美鈴が手札と場のカードを見比べ、

 

「使った4枚も7から遠かったから何もしなくても多分死にましたよね、これ?」

 

 小悪魔が冷静に分析し、

 

「まぁまぁ、そんな事もあるわよ。誰が極悪人かは知らないけど」

 

 等と言いつつ、いけしゃあしゃあとパチュリーは♢の8を出した。

 

「お前じゃいッッッ!!!!」

 

「皆様、昼食が出来ました」

 

 そこかしこに修理中の工事が目立つ紅魔館で輝雄が叫び、咲夜の食事を出来たことを皮切りにお開きとなった。

 

 

 

 輝雄が幻想郷に来て半月程経った昼下がりの出来事だった。

 

 

 

 

「ところで輝雄? 体はもういいの?」

 

 昼食の最中、レミリアは対面側に座っている輝雄に聞く。

 フランを止めたあの後、パチュリーが治療したのだが全身打撲と切創、骨折数ヶ所とヒビ十数か所、内臓損傷と捻挫幾つかという通常なら数ヶ月はベットの上から動けない容体だったらしいが輝雄にはもう何の傷跡も無く、包帯すらしていない。

 

「一日寝たら治った」

 

「もう驚かないわよ」

 

 パチュリーの回復ありきとは言え、次の日にはもう自分の足で歩き始めている。

 三日も経てば例え吸血鬼のレミリアであっても実際に見て無ければそんな重症を負っていたなど到底信じられなかっただろう。

 

「でさ、レミリアさんちょっと聞きたい事があるんですけど」

 

「レミリア」

 

「ん?」

 

「赤の他人に呼び捨てされるのは気に喰わないけど、貴方にならいいわ…………それにフランの事もあるしね」

 

「はぁ、そりゃどうも」

 

 珈琲を飲みながら輝雄が尋ねるとレミリアがすかさず返した、しかし輝雄は特にこれといって反応は無く流す。レミリアなりの好意的な現れなのだが、彼からしてみれば「会話が楽」以上の意味を見出せなかったようだ。そしてそれが少しだけレミリアには癪に障った。

 

「で? 聞きたい事って?」

 

 勿論表情には出さないが。

 レミリアはこれでも五百年を生きる吸血鬼、常にカリスマ的な振る舞いを忘れない────────―もっとも身内には結構明け透けだが。

 

「初日に『人里に帰る手段は無い』と言っていたが、あれは本当か?」

 

「結論から言えば本当よ、でも貴方に帰る意思があるなら博麗神社の博麗霊夢を頼りなさい。彼女は幻想郷を覆う博麗大結界の管理を任されている。元の世界に送り返してくれるわ」

 

「……………………」

 

「でも幻想郷に住むのも問題無いわ。人里にはそういった人間も昔から一定数いるし、若い男性は労働力として引く手数多だし──────何なら紅魔館に住めば?」

 

「…………とりあえず、それは遠慮しとく」

 

 さらりと紅魔館に住まわせてもらう事を断り、飲み干したマグカップを置く。

 もはや彼を縛るものは何も無い。幻想郷に住むも、元の世界に帰るも自由である。

 

(幻想郷に来て、はや半月…………怒涛の連続だった。間違いなく人生で一番濃い時間だった)

 

 良くも悪くも得難い体験をした事を脳内で反芻しながら、今後のみの振り方について考える。

 

 フランとの戦いを終えて紅魔館側が伏せていた情報を色々とパチュリーや咲夜が教えてくれた限りでは結界で隔てられている幻想郷にと言えど、あくまでも日本と地続きであり、時間の流れなども咲夜の様な例外的な存在が操作でもしない限り同じであると。

 

(『急に消えた高校生が突如現れる!? 現代の神隠しか?』新聞や週刊誌の見出しはこんなもんかな? ………………くそったれのマスゴミ共め、政治家の汚職だけほじくり返してりゃいいものを…………)

 

 帰る事は出来ると言われても前と同じ生活が送れるとは限らない、特に自分は()()の事もあり騒ぎになっている可能性は客観的に考えても十分にあるだろう。

 

(バイトもクビになってるよなぁ…………せめて一度頭でも下げるのが筋ってもんだが、流石にそれだけで元の世界にもどるのはなぁ…………)

 

 つまり取れる選択肢は二つ

『お茶の間を騒がせる話のタネになる事覚悟で元の世界に帰るか』。

 

『全ての縁と思い残しを切り捨てて、この幻想郷に骨を埋めるか』。

 

(………………………………………………思い残し、か)

 

 

 

 

 

『私は…………実は卒業と同時に遠い所に引っ越すんですよね、だから先輩とは多分もう会えません』

 

 

 

 

 

「──────────―クククッ」

 

「輝雄?」

 

「あぁ、いや、ちょっとな………………何を馬鹿な事を考えてるんだと自嘲しちまった」

 

 一瞬迷った────────────一瞬だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………輝雄はもう帰ったかな…………?」

 

 紅魔館の地下深くに位置する個室に、少女は一人居た。

 つまらなそうにトランプタワーを作りは壊し、作りは壊しを繰り返していた。壊して、壊して壊して、壊して壊して壊して、壊し続けた。

 

「……………………やーめた」

 

 それすらも遂には飽きて床にトランプをばら撒いた。

 

 いつかの様にそれを片付ける誰かは側にいない──────────―もう会えはしないだろう、フランは共感こそしづらいが自分の行いが他者から見てどういうものか、他人の感情や理性がどういうものかは理解していた。

 

「………………まぁ、そこそこ楽しめたかな」

 

「クソつまらなさそうにしてるのに?」

 

「!」

 

 テーブルから顔をあげて声がした方には、外来人嶋上輝雄がいた。

 ただ一つの出入口に立っておりこちらを見ている、一言お邪魔と断りフランの元へやって来る。

 

「よ、三日ぶり。元気そうだな、流石吸血鬼。地形が変わるほどの威力で殴ったのに平気そうだな」

 

「…………輝雄もね」

 

 床に散らばったトランプをまとめテーブルに片付け、そしてフランと向かい合う形で座る。フランはそれを黙って見ていたが、その目は憂いている様な活力が感じられない目だった。

 

「──────―何しに来たの」

 

「世話になったからな、別れの挨拶だ」

 

「──────―世話した覚えはないけど」

 

「いやいや、異変の時助けてくれただろ」

 

「──────―あんなのただの暇つぶしよ」

 

「それでも俺は助けられた、それが俺にとっての事実だよ」

 

「──────―ねぇ、本当に何しに来たの?」

 

 誠実に答えている一方で、こちらの返答を混ぜっ返す様なのらりくらりとした話し方に僅かに苛立ちが募る。何故輝雄はここまで来たのだろう、こんな人外しか住んでいない様な館さっさと立ち去ればいいものを。

 

「馬鹿なの? 自分の事を殺そうとした相手に挨拶なんて。それとも外来人は皆そうなの?」

 

「知らん。『皆』なんて括りに入った覚えがないからな────────本当に挨拶に来たんだって、それに()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……………………何のこと?」

 

 ピクリと僅かにフランの目尻が動く。輝雄が言っているあの時とは異変の彼と戦った時の事だろう、またフランは顔をテーブルにうつ伏せになり彼から顔を隠す。

 

「惚けんなよ、アレでも手加減してた方なんだろ? その気になれば捨て身で能力使って殺せたはずだ」

 

「…………………………」

 

 フランは何も答えない、しかし感情を表すように魔力が揺らめく。

 

「多分レミリアとの戦いの最中で意識は戻ってたけど、戦うのが楽しくて狂ったフリを────────────」

 

 言い切るより先に、フランの拳がテーブルを粉砕した。振り下ろされた拳の風圧が対面の輝雄の髪を揺らし、二人と中心に破片が円を作る。

 

 木片が飛び散りテーブルの脚が部屋の隅に転がっていき、机の上に載っていたトランプがしまわれたケースが落ちる音がやけに大きく部屋に響いた

 

「だったら何? 何が言いたいわけ? 『手加減してくれてありがとう』とでも言いたいわけ?」

 

 フランとしてはたまったものではなかった。自分の演技は全て輝雄には見破られていた、その上で情けを掛けられている。羞恥心やら何やらが頭の中を駆け巡り、息が詰まる。今の打撃も本当は輝雄に向けたかったが、寸の所で踏みとどまった。

 

「カッカすんなよ………………まぁ、それも無くは無いけど。あの勝負で勝利と思われるのは業腹なんでな──────────―また遊びに来ていいか?」

 

「………………はぁ?」

 

 ────────本当にこいつは何を言っているのだろう。

 

「手加減されて、何人にも助けられて『勝った』なんて図々しいだろ? いつになるかはわからんが、またここに来るよ。そん時また戦おう」

 

「………………貴方、死にたいの?」

 

 ────────帰りたくはないのか元の世界に、散々だったろうに。

 

「まさか、ただ──────────」

 

 輝雄は床に落ちたトランプケースを拾い上げてフランに差し出しながら笑い掛ける。さも当然の様に、何も可笑しい事などないという風に。

 

 

 

「──────────ずっと部屋に籠ってるより楽しかったろ?」

 

「………………えぇ、そうね、楽しかった、楽しかったわ」

 

 

 

 五百年間、自室に籠り一人遊びをしていた少女は、初めて自らの意思で他者の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今頃慧音は頭を抱えている頃かな? 異変のせいでいつもの仕事が出来なかったみたいだし………………」

 

 人里に続く道を歩きながら、長い白髪に所々赤い札を結びつけた少女が一人呟く。

 

 昼間であり人里に近いとはいえ里の外を独り歩きするのは褒められた事では無いが、彼女はそんな事も全く気にする事も無く、ポケットに手を突っ込みながら長い髪を揺らし知り合いの家に向かう。

 

「博麗の巫女が速攻で解決したみたいだけど。慧音は里の守護があったから異解決には向かえなかったしみたいだし……………………私が行くべきだったかな」

 

 幻想郷では度々不可思議な事が起こる為、自分のような()()()()()()()()()()は大抵のことを「まぁ、いっか」で済ましてしまう。

 

 なので普段人里から離れた場所で住んでいる自分は紅い霧の事を見過ごしてしまい人里の人間が屋外に出られず、自分の知り合いが里の守護に掛かりきりであった。

 

 そんな事を考えながら人里に到着し人通りの多い往来を歩いていると何やら騒がしい、はて? 今日は何か縁日だったかなと考えを張り巡らした瞬間にその考えを捨てる。

 

 これはいつのもの賑わいとは違う何か良からぬ事が起きた時の雰囲気だった。パニックなどにはなっていないが、不安そうにしてる婦人や慌ただしく走る自警団や屈強な男たちが目の前を横切る。

 

「なぁ、そこの兄さん? 騒がしいけど何かあったのか」

 

 今まさに走り去ろうとしている若者を捕まえ、端的に聞いてみる。その若者は知り合いと言うほどの仲では無いが慧音と居る時に何度か見た顔だった。向こうもそのことに気づいたのか、しかめっ面を解き口早に答える。

 

「あぁ、アンタか! いやなに外来人が来たって門番していた自警団から報告があったんだけど──────────」

 

「へぇ、怪我でもしてたのか?」

 

 外来人も怪我で運ばれる外来人も珍しくないが、確かに妖怪にでも襲われ死にかけているなら大変だろうと勝手に予想をつけると────────それ以上の情報が飛び込んできた。

 

「いやソイツがなんと()()()から来たってんだよ!!」

 

「────────何だと?」

 

 

 

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