幻想禍津星   作:七黒八白

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特に進んでないけど、キリがいいので。前も書いたなこんな事。

あともしかしたら並行して外伝とか書くかも。需要?

私にもわからん。


第十四話 住所不定無職、家を手に入れる

「──────────と、まぁ、大体そんな感じですかね。自分が幻想入りしてから異変までの流れは」

 

「…………………………」

 

 輝雄は全てを話した。

 包み隠さず、一切合切余すことなく、出されたお茶が冷めるのも構わず。

 自分の身の上話は殆どしなかったが、それは異変自体とは関係ないと考えた為である。精々語った事は高校生という学徒であったことくらいだ。

 

 ちゃぶ台の対面で人里では教師をしている“上白沢慧音”は黙って聞いていた。

 そして輝雄を監視するために同席した“藤原妹紅”も座っている輝雄の後ろで壁にもたれかかりながら腕を組み、聞いていた。

 

 方や組んだ手を額にあて俯き、方や異質な物を見る目で赤い眼で鋭く睨みつける。

 

「………………すまない、私の理解が追いついてないため確認させてほしい」

 

「はい、どうぞ」

 

「君は紅魔館に拾われて、レミリア・スカーレットの思惑で異変に巻き込まれた」

 

「はい、そこまで紆余曲折ありましたが」

 

「そこで十六夜咲夜というメイドと戦ったり、レミリア・スカーレットの妹のフランドール・スカーレットと戦い何とか生き残れた」

 

「まぁ、はい。霊夢とかパチュリーさんとかに助けられたりしましたが」

 

「君は元々外の世界で普通の一般人だったんだよな?」

 

「はい、二重表現になってますが」

 

「──────────何で生き残れた?」

 

「体感的には一回死んだっぽいんですけど」

 

「いや本当に何故君は生き残れたんだ!?」

 

「真面目にやってきたからですかねぇ……」

 

 そうとしか言えない、少なくとも輝雄自身は当たり前の努力等を積み重ねて偶々運に恵まれたのでこうなったとしか言えない。実のところ輝雄自身薄々自分が何か普通ではないことは感じ取っているのだが、具体的にどうとは説明できないのだからしょうがない。

 

「ふぅ────ー………………とにかく君が人里に悪意がないことは分かった、時間は掛かるだろうがそれは人里のみんなにも伝わるだろう。それで結局君はこの幻想郷、人里に住むという事でいいんだな?」

 

 眉間を強くつまみながら深く息を吐き、慧音は問い掛ける。

 時折幻想入りし、外から来た人間が人里に住み着くことはそこまで珍しいことでは無い。こうして彼女がそのことを請け負うのも何度か経験があり、妖怪から人里の人間を守れるだけの実力があるからである。もっとも如何に妖怪と言えど、まず人里周辺では騒ぎは起こさないが。

 

「はい、諸事情から恐らく外の世界には帰れない──────帰ったとしても、もう元の生活には戻れそうにないので心機一転新天地でゼロからスタートしようかと」

 

「…………君のその行動力というか精神力には見習いたいものがあるな」

 

 長年幻想郷で過ごして多くの外来人を見てきた慧音からすると幻想入りした外来人の反応や対応は大別して二種だ、『絶望して自殺しようとするか』『一目散に外の世界に帰ろうとするか』。妖怪に襲われ、死にかけてなお、ここで暮らすことを前向き考えている彼はもはや異常を通り越して意味不明の域にある。

 

(──────―しかしそんな事ばかり考えてもしょうがないな)

 

 一先ず嶋上輝雄という青年には悪意がないことは理解した、そしてその上で人里に住むというのなら彼女としては力を貸すことを渋るという選択肢は全く無い。

 

「成程分かった、取り敢えず住む場所に関しては一つ心当たりがある。働く場所は…………そうだな、暫くは私の仕事の手伝いをして貰おうかな。実は異変のせいで少し手が回らない仕事があってな」

 

 彼の衣食住について話しながら慧音は考える、里の者達の彼に対する心証はハッキリ言って良くない──────―というか現状最悪と言っていいだろう。

 

 久しく起こっていなかった『異変』、スペルカードルールが初めて適応され平和的に解決したと文々。新聞にはあった。それでも人里の多くの人達からしてみれば不安を誘うものである事には違いない、そして博麗の巫女も先代と違って人里に近しい存在ではない。

 実のところ慧音自身今代の巫女にはまだ会った事は無い、流石に『霊夢』という名前位は知っているが…………。

 

(果たして彼を雇いたがる者はいるだろうか…………こればかりは時間に任せるしかない。実際歴史編纂が忙しいのは事実だしな)

 

「──────慧音さん?」

 

「ん? あぁ、すまない。少し考え事があってな」

 

「いえお気になさらず。それでこの後すぐに住居に案内して下さるので?」

 

「そうしたいのは山々なんだが…………寺子屋に顔を出さなくてはならなくてな、人里のみんなにも君の事を説明しなくてはならないし──────」

 

「────────じゃあ私がやるよ、そいつの住居の案内」

 

 慧音の言葉に被せる形で静観していた妹紅が突然名乗り出る。それに慧音は少し目を見開くが妹紅の提案に反対する理由は特にない、むしろ渡りに船だ。

 しかし確かに彼女ならば万が一にも対処できるだろうが、いつもの彼女らしくなさの様な物を慧音は少し感じた。

 

「決まりだな、場所は先月急死した爺さんの空き家だよな?」

 

「あぁ、そうだ。しかし────────―」

 

「大丈夫だって、私の方から色々と説明しとくから。ほら行くぞ輝雄、こんな暖かい時期とはいえ野宿はしたくないだろ」

 

 またも慧音の言葉を遮る形で輝雄の返事を待たず、肩を掴み立ち上がらせ玄関に向かう。輝雄も特にそれに逆らう事なく付いて行く。

 

「………………行ってしまったか…………正直、不安だ」

 

 足早に立ち去られ、慧音は一人自宅に残される。いつの間にか飲み干されていた湯吞を見ながら慧音は考える。

 

「シマカミ、カガオ…………か」

 

 当然、その言葉に返答するものは誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 前を妹紅が歩き、その三歩程後ろを輝雄歩く。

 当然談笑などある筈も無く周りからやや奇妙な物を見る視線を集めていた。

 

 好奇心の目。

 畏怖の目。

 猜疑心の目。

 安堵の目。

 

 様々な感情や興味が入り混じった目が、眼が、視線が二人に注がれる。

 

「辟易しますね…………元を糺せば自分のせいなんでしょうが」

 

「………………いや、お前は悪く無いだろ。一から十まで何から何まで、お前はただ巻き込まれただけだ」

 

「…………!」

 

 まさか返事が来るとは思わなかったので輝雄は少し面食らった。

 時代劇に出てくる様な街並みならぬ里並、大いに興味がひかれる目新しい物ばかりとは言え、注目されているのはこちら側。流石の輝雄も人里に住むのであれば、これ以上の悪印象は植え付けたくない為妹紅の背中だけを見ていた。

 

「突然幻想入りして、吸血鬼に攫われて、挙句異変に巻き込まれて死にかけて…………いや実際一回死んだのか? 何にせよだ、憐憫の情を隠せない程お前はどうしようもない巻き込まれた被害者だ」

 

「…………それはどうも」

 

「────────でもだからこそ分からない」

 

「…………?」

 

 歩き続けている内に人通りの多い所を抜けたのか周りにはもう人は居なかった。店などが立ち並んでいた大通りから外れている静まり返った場所、恐らく人里の外にほど近い住宅地だろうか。最も家の庭や畑などがある為か家と家の距離はそこそこあるが。

 

「何で帰りたがらない? 不可思議な力にでも魅せられたか?」

 

 ──────────妹紅こと、藤原妹紅の嶋上輝雄への印象は『得体が知れなさすぎる』である。

 

 確かに彼は悪人では無いだろう、しかしそれは今までの行動からの見解に過ぎない。全て噓偽りなく話したと考える程妹紅はお人好しでも無ければ愚かでも無かった。最悪の場合、紅魔館と未だに繋がっている可能性もある。

 

「私はもう外の世界がどうなってるのか詳しくは知らないが、結構平和なんだろ? 大規模な戦はなくなって久しく、多産多死なんて一昔前の概念になっていて、物質も豊富なんじゃないのか?」

 

「……………………」

 

 ────────輝雄は何も答えない、ただ黙して聞いているのみである。

 

「お前はこの世界──────幻想郷に何を見ている? それを知らなきゃ私はお前を信じられない」

 

 ────────輝雄は何も反応しない、ただ真っ直ぐ冷めた目で見ている。

 

「どうなんだ?」

 

「………………別に俺は何も見ちゃいない、この世界でも外の世界でも」

 

「……………………」

 

 ────────輝雄は何も飾らず、偽らず、誤魔化さず、妹紅の問いに答える。

 

「ただ今回の異常事態に巻き込まれた事も。今までからしてみれば初めての体験ではあっても、自分で選択出来て自身の行動次第でどうにかなるならマシな方だった。世の中努力じゃどうにもならない事が多い中、足搔けば足搔いた分着地点が変わるんだから」

 

「………………」

 

「────────要するに、何があろうとただ普通に生きていくだけだ。神隠しに会おうが妖怪に襲われようが関係無い」

 

 妹紅に対して正面から言い切る。お前の信用を勝ち取るつもりなど毛頭ないと、胡麻すりや御為ごかしなどクソ喰らえと言わんばかりに正直に。

 

「…………お前の寝床はもうすぐそこだ、行くぞ」

 

 それに対して何も返さず妹紅は先に歩き出し────────―

 

「────────今の時代にもいるんだな、戦孤児みたいな奴が」

 

 ──────────―小さく零した。

 

「……………………」

 

 輝雄は、何も反応を示さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この家がお前の今住める場所だ、文句はないよな。あるなら野宿だ」

 

「…………いや、ありませんけど。本当にここであってますか?」

 

 小さいが一応庭がある、家庭菜園程度なら野菜が育てられそうだ。家の間取りや大きさは2LDK位か少し小さい位だろう。家の中は少し埃っぽく家具などには年季が入っている、先住民の物を処分せずに残しているのだろう。はっきり言って一人暮らしには過ぎた家だろう。

 外の世界の都内ならどれ程の家賃になるか…………少なくとも輝雄には絶対縁がない水準である。

 

(………………この家と比べたら俺が住んでいたアパートは犬小屋だな)

 

 住まわせてくれていた大家さんには申し訳ないが、とても比べられたものでは無かった。まずそもそも一軒家と比べること自体間違っているが。

 

「これ程の家なら他に住みたがる人いるでしょう? 皆が皆一軒家に住んでいる訳じゃないでしょうに」

 

「まぁそう思う気持ちもわかる。けどな実のところここはそこまでいい物件てわけでも無いんだよ」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「色々あるけどな、まず里の外に近いって事が大きい。万が一妖怪が来たら真っ先に被害に遭うだろうしな。妖怪だけじゃなく猪とか、滅多に無いけど熊とかも飢えて降りてくることも考えられる。あと店の類は里の中心に集中してるから距離があるこの辺はちょいと不便なのさ……………………少なくとも一ヶ月そこらですぐに埋まる程の魅力は無い」

 

「成程、駅近とかコンビニが近くにある物件が高くなるのと同じ理屈ですね」

 

「『えきちか』? 『こんびに』?」

 

「いいえ、何でもありません」と話しを切り、家の中を探索する。やはり土地柄か殆どが和風なテイストで整えられている、別にそれは構わないのだが驚いたことに──────────

 

「水道と電気が通ってる…………だと………………?」

 

「あぁ、河童とか山の連中がその辺の『いんふら』? を整えたんだと」

 

 ──────────江戸時代位の生活を送る覚悟をしていたのだが思いのほか文明が進んでいた、流石に電化製品は無い様だが。蛇口から水が出てくるし、紐を引くと蛍光灯がつく。

 

「カッパ」

 

「河童」

 

「河の童で」

 

「河童」

 

「相撲と尻子玉で有名な」

 

「河童」

 

「雨の日に着る」

 

「それは合羽」

 

「有名な寿司屋のイメージキャラクターになってる」

 

「それは知らん」

 

 ────────―流石に有名チェーン店も幻想郷には進出してなかった。

 まぁ忘れられた物が集う場所らしいので進出してたら問題なのだが。

 

「掃除道具位は残されてあるから掃除は自分でしろよ、私は慧音にちょっと用事がある。お前も一段落ついたらもう一回慧音の家に来い」

 

 そう言って妹紅は足早に立ち去る。本当に得体が知れない事が気がかりであっただけなのか、信用とまでは行かずとも一先ず様子見する事に決めたようだ。来た道をそのまま歩いてまた人里の中心部に戻る。

 

「………………取り敢えず、寝るとこだけでも綺麗にしとくか」

 

 妹紅を見送り部屋に戻る、部屋が多いわけでは無いが流石に全部やるには少し時間が足りない。まだギリギリ朝と言える時間帯だが人里の探索や仕事などやるべき事が多くある。箒と雑巾を探し手早く掃除を終わらせに掛かる。

 

 家中の窓を全開にして掃き掃除で埃を除きその後に拭き掃除をする、と頭の中で計画を立てていると半開きの箪笥の中に何かがあるのを見つける。

 

 妹紅曰く先住民が逝去された際に家具以外は大方片付けられたらしいが。輝雄は少し訝しみながらも箪笥を開け、入っていた紙媒体を引き出すとどうやら新聞のようだった。インクが薄まり紙は変色している、虫に喰われたのか所々穴も空いている。

 

「…………文々。新聞? 何でこんなところに…………しかもかなり古いな…………いやそれよりも掃除しねぇと」

 

 少し気になるが今は関係無いので取り敢えず近くのちゃぶ台に置いておく。

 

 

 

 変色した古い新聞の見出しにはデカデカと“吸血鬼異変”と書かれていた。

 

 

 

 

 




先住民のお爺さんはただのピンピンコロリです。
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