前回のあとがきに書きそびれましたが、幻想郷の生活様式を色々探ってみた結果よくわからない、ということがわかりましたので。
電気とか水道とか世界観にそぐわない物は大体河童とかのせいです。
作者「河童が悪いよー河童が」←下衆野郎
太陽が頂点から少しだけ傾いた時間帯、昼食を丁度食べ終えているだろう頃合いに幻想郷の人里の寺子屋は少しだけ騒がしかった。
雲はまばらで暖かな日差しと爽やかな風が開けっ放しの障子から吹き込んでくる。いつもなら子供達は眠気に逆らわず夢の世界に旅立とうとして担任の先生から愛の鞭────────ならぬ頭突きを喰らうが今は誰も机に突っ伏していない。
「えーと、こんにちは…………でいいのかな。僕は嶋上輝雄という者です。知ってる子もいるだろうけどこの間幻想入りしたばかりで、今日からこの人里に住むことになりました。
そして君たちの先生、上白沢先生のお手伝い…………まぁ副担任をする事になりました。先生の代わりに授業したりもするけど何分僕も幻想郷に関しては無知な所もあるから助けてもらえたら嬉しいかな。今後ともよろしく」
(出会ったばかりの私でも分かりやすい位猫を被っているな………………)
今朝がたの里の自警団との一触即発の雰囲気は何処へやら。表面上は爽やかで礼儀正しい青年にしか見えない。実際輝雄は自身に無害な相手にはその様な対応しかしないのだが。男子たちは興味津々で、女子は少しだけ色めき立ち質問攻めに手を挙げる。
「はいはいはいはーーーーーい!!! 輝雄先生は恋人とかいるんですかーーーー!?」
「いやー悲しい事に年齢=恋人いない歴なんだよ…………皆は好きな女の子にはイジワルしちゃ駄目だよ、逆効果だから」
「はーい、先生の好きなものは何ですか?」
「食べ物かな? それとも趣味かな? 食べ物は鴨ソバで、趣味は読書とかかな? みんなと一緒に楽しめたら幸いだよ、それ以外の事でも気にせずに気楽に誘ってね」
「はーーーーい! 身長と体重はどのくらいですか!?」
「身長は187センチで体重は86キロかな? かなり前に測ったから今は違うかも? そもそも幻想郷ってセンチとキロで伝わる?」
「はい! 科目は何を教えてくれるんですかー?」
「幻想郷の事は全く無知だから歴史以外の教科になるかな、得意科目は文系かな」
「はい。何で幻想郷に住もうと思ったんですか?」
「単純に外の世界に帰れないからだよ、僕はちょっと特殊みたい。僕もよくわからないけど」
「はいはい! ぶっちゃけ慧音先生とはどういう関係なんですか!!?」
「ハハッ、どんな関係でも無いよ。だって今朝会ったばかりだからね」
「はーい! 外の世界ではどんなことしてたんですか?」
「高校生っていう学徒だったよ。君たちよりも年上で色々なこと学んで将来を模索してる大人と子供の中間的な感じかな?」
「はいはい! 今後も先生として寺子屋で働くんですか?」
「現状では何とも言えないかなぁ。でも個人的には君たちの力になりたいと思ってるよ」
「はーーい、先生ってー今後は恋人とか考えてるんですかー?」
「ハハハ、さあ? そればっかりは縁があるかないかで僕の意思とは関係無いからね」
「へい! 新聞には吸血鬼と戦ったりしたってあったけどマジっすか!?」
「まさか、博麗の巫女様に救われたんだよ。いやー危なかったなぁ、九死に一生を得るとはまさにあのことだよ」
「ねぇ、先生って強いの? 博麗の巫女よりも?」
「戦ったわけじゃないけど多分間違いなく博麗の巫女よりも弱いよ」
「あー輝雄? そのあたりにしておこう。あとあまり子供達の前で博麗の巫女の事を呼び捨てにしないように、一応里の人達の間では畏敬の対象になっているからな」
矢継ぎ早に質問が飛んでくるが怯むことなく言い淀むことなく丁寧に簡潔に答えていく。それを見た慧音の感想は「意外と人前で話すことは慣れている」だ、教師の経験は無いらしいがこれならばすぐ慣れるだろう。
「よーし皆! そこまでにしようか。そろそろ授業を始めるぞ、今日はいつもより早めに切り上げるから少し内容を詰め込むからな」
頃合いを見計らい慧音が子供達の質問タイムを終わらせる。早くに授業が終わると聞き、大多数の子供達が喜ぶ。何処の世界でも学校が早く終わると聞いて喜ばない子供はいないのだろう。
輝雄は今のところは副担任のような立ち位置ではあるが先生どころか家庭教師の経験すら無いので、今はまず雰囲気に慣れる所から始めるという事で後ろで待機する事になっている。
四人ほど座れる長い木の机が縦に三列並んでおり、教室の広さ的にはまだ余裕はあるが現状はこのくらいが丁度いいのだろうか。最後列の机の一人分空いている方の部屋の隅で上白沢──────もとい慧音先生の授業を受ける、科目は歴史。
(皆は上白沢先生じゃなくて慧音先生って呼ぶのか、俺の事も輝雄先生って呼ぶし苗字よりも名前呼びが一般的なのか? ………………それにしても……)
固い言い回しで一定のリズムで淡々と話される歴史の話は輝雄にとってはそこそこ興味深く然程苦では無かった。しかし昼食を終えた子供達にはきついのか既に船を漕ぎ始めている者もいる。
元高校生だった輝雄としても気持ちは分からないでも無かったので慧音が気付く前に、素早く音を立てず移動し肩を叩き優しく起こしてやった。そんなこんなを行いながら寺子屋一日目の授業を粛々と聞いていた。
「………………」
────── 一人の少女を見ながら。
「どんな感じだった? 今日は半日だけだったが?」
「実際に教鞭を振るったわけでは無いので何とも言えませんが、皆素直で気楽にやれそうですね」
「そうか、まぁ確かに皆良い子だし今日は十人だけだったから顔も名前を覚えるのも難しくないだろう」
「………………そうですね」
「いやーそれよりも今日は誰も眠らなかったな! いつもなら二、三人寝落ちして頭突きしてるんだが。ハハハハ」
(幻想郷には体罰という概念が無いのかな???)
取り敢えず授業を滞りなく終わらせた後、教材を片付け寺子屋の職員室や倉庫などを案内され、明日からの授業予定などを教えてもらいながら慧音と談笑していた。内容に輝雄は若干引いたが、生徒との関係は良好そうなので良しとする。
慧音は義務感だけではなく、本当に生徒に愛情を持っているだろうことが流石に輝雄にも理解できた。だからこそ、その発言にある違和感に気付いてしまい確信する。
────────それが果たしてどんな意味があるのか、正直今の輝雄には少し判断しかねるが。
「…………子供達は、この後すぐに家に帰るんでしょうか?」
「うん? そうだなぁ…………いつもなら日が傾いている時間になってるからそうだろうが、今日は授業が早くに終わったからな。みんなで一緒に遊んでいるんじゃないか」
「そうですか、この後特に予定が無ければ少し子供達の様子を見に行ってもいいでしょうか?」
「それは勿論構わないが…………どうかしたのか?」
「いえ、べつに」と短く断り、手早くされど丁寧に今日使った教材を片付け明日使う教材纏めて家に持ち帰る準備等を整える。そして慧音と夜にまた慧音宅に集まる約束をして寺子屋から出る、夜に集まる約束をしたのは輝雄が文無しで今晩の飯が無いからだ。
無論輝雄としては雨風しのげる家を紹介してもらっただけで充分なのでそこまで世話にはなれないと断ったのだが意外と押しの強い慧音に押し切られる形で約束を取り付けられた。
(急いでたとは言え押し切られてしまった…………果たして恩を返せるのは何時になるのやら)
肉体的な疲労や負担は時間経過でどうとでもなるが、気苦労や気疲れだけは如何ともしがたい。他人に甘えるしかない現状にやや歯痒いものを覚えながら、彼は生徒の後を追った。
人里で大勢の子供達が遊べる場所はそこまで多くないらしく見つけるのはそこまで難しく無かった、人里の外に程近いやや自然が多い場所だ。僅かながら木々と茂みがある様子にまるで自然公園のような印象を受けた。
「あ、輝雄先生じゃん! どしたのー?」
間延びした幼い声が遠くから聞こえた、当然寺子屋で見覚えがある生徒だった。少年は茂みの辺りで何かを探していた様だが輝雄に気付くと小走りで駆け寄ってくる。
「確かキヨシ君だったね、他の皆は?」
「うん? この辺りでかくれんぼしてっけど」
「何人で?」
「十人」
「寺子屋にいた子全員でここまで来たの?」
「うん? どうかした?」
何を聞いているのかよく解らないのだろう、首をかしげながらキヨシはあっけらかんと答えた。その答えに輝雄は恐らく自身の考えと狙いが間違っていないだろうこと確信する。
「そうか…………かくれんぼが終わった後でいいから、ここじゃなくて人里の中心に近いところで遊んでもらえるかな? まだ異変終わったばかりで活発な妖怪もいるかもしれないから」
「あぁ、うん。そういうことなら。いいよ、わかった」
もしかしたらごねられるかもしれない、と考えていたが思いのほか聞き分けがいい。幻想郷という環境が環境だけに妖怪に関する事には敏感なのかも知れない。
輝雄は木の近くの石に腰掛けキヨシが一人、また一人と見つけていくのを眺める。
男子のテツ、コウスケ、タクミ、ササマル。女子のサチ、マイ、チヨ、タツキ、アサヒ。寺子屋で見かけていた子供達十人。
「キヨシ君これで全員かな?」
「うん、そのはずだけど?」
「…………因みに寺子屋で、僕が答えた質問って何個か覚えてる?」
「え? いや覚えて無いけど?」
これといって考える素振りも見せず答える。それに対して「ならいいよ」と、誤魔化し
生徒達にはキヨシと同じように言いくるめて人里の大人たちの目のつくところで遊ぶように伝えこの場を離れさせる。
「じゃあねー! 先生ー! また明日ー!」
こちらを見ながら走り去っていく姿は外の世界の子供達と何ら変わりないものだった。少年少女の姿が見えなくなるまでこちらも小さく手を振り続ける。
「…………さてと」
気怠げに首をゴキゴキと鳴らしすぐ近くの茂みまで近づいてく、ガサガサと草をかきわけ────────
「──────―見つけた。名前は何て言うのかな、妖怪さん?」
「………………へぇ、あなたは私が見えるんだ」
──────―
「いつから気付いていたの? 服装も人里の子供に合わせて着物にしたのに」
「お前博麗の巫女って呼び捨てにしただろ」
────────────―寺子屋には十一人居た。
余りにも自然といるものだから輝雄も最初は生徒かと思ったが、慧音との会話などから彼女が周りから認識されていないと解った。
「お前につられて博麗の巫女って呼び捨てしたけど、お前は注意されなかったからな」
「それだけ?」
「あと慧音さんは今日は十人ってつってたから、嫌でも気付く」
「そりゃあそうだろうけどさ、そもそも何で私が見えてるの?」
薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングに緑の瞳、そして服の下からシュルリと細い蔦のようなものと拳ほどの閉じられた瞳のような器官が出てきた。
「お前の能力がわからないから何とも言えないな、その目…………? 目でいいのか? 関係してるっぽいが」
「うーーーん、あると言えばあるし無いと言えば無いかな。ていうかさっきと口調違うね」
「妖怪相手にはもう取り繕わない、下手に出てもどうせ戦いになる時はなるし」
先程まで輝雄が腰掛けていた石の上で座りながら少女は答える。何処から取り出したのか薄黄色のリボンがついた鴉羽色の帽子を被り、自己紹介を始める。
「私はね
「
そういえば自身の住んでいたところにも似たような伝承があったな。と輝雄は思い出す、心を読んで次々と言い当てるという話だったが姿が見えないという言い伝えは聞いたことが無い。
「そうそう、でも心なんて読んでも良い事無いから瞳を閉ざしちゃった。そうしたらね、何でか皆に気付かれ無くなっちゃって…………『無意識を操る程度能力』ってところかな。以来ずーーーーっとあちこち放浪したりしてるの」
「放浪…………ね」
「妖怪だからね、人間みたいな飲食は殆ど要らないんだよ」
ふーん、と関心が薄そうな相槌を打つ。レミリアやフランは人間の血液を必須としていたがそれも妖怪それぞれのようだ。
そして『無意識を操る程度能力』、恐らく周りの意識を自身に向けさせない事によって認識できないのだろう。それどころか寺子屋の子供達と一緒に遊んでいたのに忘れられているということは記憶にも極端に残りづらいのだろう。
「かくれんぼなら最強だな」
「そうだね、強すぎて誰にも見つけて貰えないという点に目を瞑れば」
「他の遊びにすればよかったじゃん」
「だって私が提案すると、私に意識が向いて妖怪ってバレるかも知れないし…………」
「…………おい、まさかと思うがバレると不味いような真似してないだろうな?」
建前上幻想郷は人間と妖怪が共存共栄している、人里に妖怪が入ってくることも一応は認められているらしい、無論暴れない、目立たないという条件付きだが。
だが、もし、この古明地こいしという妖怪がその能力で誰にも気付いてないうちに生徒に手を出しているなら──────―。
「してないよ、私が気付かれないだけでやる事成す事全部が全部無かったことになるわけじゃないから。仮に子供が死んだりしたら絶対に騒ぎになるよ」
「…………噓だったら承知しないぞ」
霊力を漲らせ―――――ようとして納める。
現行犯なら兎も角、まだまだ幻想郷のことを知らない内から争いの種になる様なことはすべきではない。そう判断し、古明地こいしの事を黙認する事にした。何より人里郊外とはいえここで争っては益々輝雄の心証は悪くなる。
「心配しなくても幻想郷の大多数の妖怪は人里の人間に手は出さないよ」
「…………どうかな」
「それよりもさ! 結局なんで私のこと気づいたの?」
「さてな? 何でだろうな?」
「えーつまんない、答えてよ」
石の隣に座っている輝雄にこいしは聞くが当然彼ははぐらかす。自身の能力についてあまりまだ把握していないというのもあるが、手の内を晒す程彼は自身家では無い。「どうしても教えてくれないの?」と子供らしい声で聞いてくるがにべも無く「教えない」と切り捨てる。
「ちぇ、ケチだね。お兄さん」
「まぁな、もしどうしても教えて欲しけりゃ好感度稼ぎにでも励んでくれ。まぁ暇で暇でしょうがないとしてもそんな事──────―」
「本当!? いいよやるやる! 言質取ったからね!」
「え? ちょ、待────────」
やりたくないだろう、と続けようとしたがそれを遮る形でこいしが顔をズイっと近づけてきた。言い切る前に急にテンションが上がったと思ったら言質を取ったと石から飛び降りる。
「最近ヒマだったからさー、今度またお兄さんに会いに行くから。無視しちゃ駄目だよ!」
そしてこいしは止める間もなく、あっという間に走り去って行ってしまった。情緒不安定なのはきっと彼の気のせいでは無いだろう。
「……………………まさか食いつくとは」
「適当こいただけなのに…………」と若干後悔する、いや別に教えると確約したわけでは無い。だから教えなくとも問題ない、そう考え直し輝雄は夜の約束に備えて一旦自宅に戻る。
「……そうだ、暇だしあの新聞読んどくか」
「なぁ、慧音? 本当にアイツを──────輝雄の奴を教師に採用にすんのか?」
「気に食わないのか? 妹紅」
夜も更けて、慧音宅にて妹紅と慧音が呑んでいた。つい先刻まで輝雄もいたのだが仕事初日から出遅れたりするわけにはいかないので先に帰った。何より酒を飲んだことが無いのでどの程度まで呑めるのかわからない、とのことだった。
「確か外の世界じゃ二十を超えないと酒は飲めないんだっけか…………アイツがそんなもん律儀に守ってたとはな…………意外だ」
「確かに自警団に連行された時は露悪的に振舞っていたが、彼は本来穏やかな性格なんだろう」
徳利からお猪口に酒を注ぐ、慧音自身彼の本性全て見通せたとは勿論思っていない。さりとて人里に危害を加えたりするとも露程も思っていない、子供達の反応を見れば自ずと判る物だ。
「彼が何故、幻想郷に住むことにしたのか。それを考えればある程度は察せるさ」
「へッ、どーだか。私は信じるにゃまだ早いと思うがね」
妹紅はお猪口を置いて徳利ごと一気に煽る。それを見て慧音はやれやれとお猪口に残った酒を飲み干す。
「……ふぅ、妹紅は彼の事をまだまだ信じられないか」
「今日会ったばっかだしなぁ……」
それに、と続け徳利を乱暴にちゃぶ台におく。
「文々。新聞にあいつのことは載ってなかった」
「それがどうかしたのか?」
「あの文屋だぞ? 怪我人だからって取材を自重すると思うか?」
その言葉に慧音は少しだけ考えを巡らせる。まだ一升瓶の半分も飲んでいない為思考は然程濁っていない。
「……紅魔館の者達が匿った、と考えるのが自然だな」
「しかも悪魔とその傘下達だぞ? 何だってたかだか外来人の為にそこまでの事をした? それにあいつが幻想入りした理由もわからん」
妹紅の言っていることにも一理ある、吸血鬼からすれば外来人などはっきり言って餌でしかない。それを殺されずあまつさえ鴉天狗から匿えてもらえた。慧音をして何をすればそこまで気に入られたのか理解できない。
「幻想入りするってことは外の世界から完全に忘れられるって事だ……………………
慧音が知る限り幻想郷を覆う結界は、幻想郷の内の神秘やそれを糧に生きる妖怪や神仏が力や格を落とさないために概念的な常識と非常識の結界で外の世界と隔てられていると聞く。
それ故に幻想郷には外の世界から忘れられた者が流れ着く。妖怪や神仏なら話は簡単だが、生きた人間となると親族全てと友人など関わりのある人間関係全てと完全に絶縁して、やっと幻想入り出来るかどうか………………。
「………………まさか、
「無い話じゃない無いだろう、だとしたら何かあると思うのが普通だ………………まぁ今のところ完全に邪推だけどな」
酒を飲みながら、交わす内容は少しだけ不穏な物を孕みながらもされど結論は出ず。夜は更けていく。
しばらくの間は戦闘描写は多分ないかなぁと思います。
伏線と異変以外は割とライブ感で描いてますので。
こいし?さぁ?どっちでしょう?