幻想禍津星   作:七黒八白

26 / 86

 スゲーどうでもいいことですが、五、六千字位を目途に書きたいのですが話の切り処が解らず長々と書いてしまいます。
 苦肉の策で♢で最近場面転換したりしてるんですが、何かいい案無いですかね。


第十六話 図書と人形と星

 

 人里郊外、田畑が多く住宅はまばらな地域。

 東の博麗神社から日が昇り始めようとする早朝に、小さな庭で動く人影があった。

 

「ふ──…………シッ────────!」

 

 気を整え、構え、一呼吸の内に教わった武術の型を通す。

 

 動きやすい白いカンフーズボン、上には何も着ていない。余分な脂肪は付いておらず膨れ上がった筋肉。金剛力士像のような引き締めらた肉体は彼が日頃からどのような生活を送っているか傍目にも理解できる。

 

 肌についた汗が、俊敏で鋭利な動きに付いて行けずに宙に残る。それはさながら残像のように彼の動きを正確に浮き表していた。そして数秒と経たずにあらゆる技を全力で通し、吐いた息と身体から立ち昇る熱気が周囲を白くする。

 

「は──……」

 

 丁度、東側の小山よりも高く昇った太陽から光が差し、庭に居る彼を照らす。

 

「…………よし、筋トレとストレッチしたらシャワー浴びてメシにすっか」

 

 輝雄が人里に住み、既に二週間以上経過していた。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 幻想入りして早一ヶ月以上、時の流れの速さと怒涛の連続だったことを輝雄は朝食をかき込みながら思い返していた。

 

「なんか色々あったなぁ…………」

 

 咀嚼後に吞み込み、茶を飲んで一息つく。とても十代後半とは思えない程老成した雰囲気が漂わせるのはそれだけ忙しかったからか、はたまた彼が爺臭いだけか。

 

 やれ力に自信あるなら大工で少し手伝え、と木材とか運んだり。

 

 やれ山菜とりに行くので護衛しろと、人里の人達に頼まれついていき。

 

 やれタケノコ取りに行くから手伝えと、人里の人達と妹紅の手伝いに行き。

 

 やれ博麗神社への奉納をしろと、とても一人では引いていけない荷物満載の荷車を任されたり。

 

 まぁこれは飽くまでも一般人基準で輝雄にとっては然程苦では無かった。道中の雑魚妖怪も拳骨一発で骨肉臓物纏めて木っ端微塵した、何事であろうと輝雄からすれば邪魔する奴が悪い。

 

 あと何故か人里で唯一と言っていい有権者である稗田とか聞いたある苗字の使いの方々から会いたいとか話が聞きたいとか来ていたが、忙しさを理由に保留中にしている。

 

 ハッキリと断れないのは有権者に嫌われるのは確実にマズいからだ、最悪慧音さんにも迷惑がかかる可能性がある。

 

「あれだよな、まず間違いなく古事記の……めんどくせぇなぁ」

 

 そんな事をぼやきながら空になった食器を重ねてまとめて洗い場の水に浸しておく、しかしその甲斐あってか輝雄の評価は『危険人物』から『警戒必須の不審者』くらいにはランクアップ? …………ランクダウン? した。

 

「………………まぁ石とか投げられんかったらそれでいいか」

 

 生活は何とかなっているのでよし! (現場猫)と自己完結し、今日の予定を考える。

 

 嬉しいことに寺子屋での仕事は順調と言えた、輝雄の体感的には学校というよりもどちらかと言えば塾に近い、元々起源的には寺子屋とは私塾に近い意味だろうし不思議なことでは無かった。

 

 労働基準法などない幻想郷では子供の内から店の手伝いなど別に珍しくもない、寺子屋と労働の二束わらじの子供も多い、モラトリアム等とほざき親の金で遊び惚けている外の世界の人間とは大違いであると輝雄は感心したものだ────────────要するに外の世界のように毎日毎日夕方まで拘束されるわけでは無い。

 

(慧音さんも里の守護と歴史家としての仕事も兼任しているなぁ…………いやそれにしたってあの人働き過ぎでは?)

 

 何にせよである。人里の頼み事を聞き、見返りに食料や金銭をそれなりに都合して貰えたので貯蓄というほどでは無いがある程度の余裕は出来た。自身の実力的にも里の外の川だとか森から山菜や魚釣りなどで生活費の節約も出来る、というかこの間ヤマメが釣れて驚いたことは記憶に新しい、焼いて食ったメチャ美味かった。

 

「今日は寺子屋休みだしなぁ、どうすっかな」

 

 因みに稗田阿求に会いに行くという選択肢は無い。出来れば時間経過で忘れて欲しい。

 

「そろそろフランに会いに行くか? あ、ついでに霊夢に煎餅でも買っていくか」

 

 徒歩なら未だしも飛べるならさして距離は無い。折角のまともな休日、色々と有効に活用したい。そう思い立ったが吉日、輝雄は生徒がやっている和菓子屋に煎餅を買いに行くことを決める。

 

「そういや…………フランは煎餅食うかな? 人里の菓子よりも咲夜の方がクオリティ高そうだしな…………」

 

 財布を懐に仕舞いながら考えたが、買って向こうに気を遣わせてしまったり、最悪要らないと言われたらそれなりにショックなので紅魔館への手土産は無しにする事にした。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 店番をしている生徒から煎餅を買って博麗神社へ飛んでいく、飛んでいるので道筋も何もあったものではないがその道中も慣れたものだった。煎餅を落とさない様に抱えながら博麗神社上空からゆっくり降り立つ。

 

「…………? あれ、いないのか?」

 

 声を出し呼び出そうとして、この前二日酔い状態でグロッキーだった事を思い出した。また頭が痛いだのなんだのと言われ顎で使われるのは面倒くさいことこの上ない。

 なので霊力感知で霊夢の気配を探るが、しかし輝雄の感覚には何も引っ掛からなかった。

 

(普通、何もないのに気配は殺さんよな? 何処行ったんだアイツ?)

 

 ふむ、と訝しみながら境内を少し歩く。相も変わらず寂れている神社であった。立地が立地なので仕方ない一面もあるが、そして落ち葉がまばらに広がっているところを見るにまた掃除をサボったようだ。

 

(…………ま、いかに普段グータラでも出掛ける事位あるか。出直そう、『お茶出すから境内の掃除よろしくね!』とか言われたらたまったもんじゃない)

 

 輝雄は少しだけ呆れながらそう考え、このまま紅魔館に向かおうと空を飛ぼうとして──────────―何か甲高いような音が聞こえた。

 

「…………?」

 

 最近聞いたことがあるような気がして記憶を探っていくと、思い出したのは木槌で何かを叩く音。息を殺して暫く待ってみると、また同じ音が聞こえた。

 

(…………神社裏か、霊夢が何か修理してる? いやそれが霊力を抑える理由になるか? 寧ろ逆に俺の霊力を感知して手伝わせそうなものだ)

 

 好奇心猫をも殺す、とは言うがここは他ならぬ博麗霊夢の住まう、博麗神社である。

 まず妖怪は近寄らない、近寄るとすればそれはレミリアやフランの様なその種族において最強の一角を担う者だろう。

 

 

 

 ────―輝雄はその事実を認識した上で、考え、その正体を確かめる事にした。

 

 

 

(霊夢の実力は紅霧異変で解っている、けど万が一もある。霊夢に何かあれば人里にも影響は出るだろう………………勝てないしても正体だけでも──────―)

 

 そう覚悟を決めて、輝雄は気配を殺したまま神社の裏手で何が起こっているのか建物の陰から伺うと────────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…………駄目ね、東洋の呪術だから当然だけど資料なしじゃ限界があるわね………………やっぱり髪の毛とか必要なのかしら…………?」

 

 

 

 ──────────―青いドレスの金髪の美少女が夥しい藁人形を木に打ち付けていた。

 

 

 

「──────────────」

 

 

 

 ──────瞬間! 輝雄の脳内に(勝手に)浮かぶ宇宙空間と真顔で呆然とする猫! 

 

 

 

 ハイカラだな! (白目)

 Pi→ そっとしておこう……(震え声)

 五円玉に紐を通して催眠を試そう! (錯乱)

 

 

 

 そして脳内にあらわれる謎の選択肢。

 一番興味が惹かれたのは三番目だったが流石にあからさまにヤベー奴にそんなことを試す気にはなれなかった。妖怪は怖くないがメンヘラサイコ女は怖い。

 

 ────────―逃げようそうしようそれがいい。何、霊夢なら大丈夫さ。なんたって博麗の巫女なんだから。

 

 そう結論づけて身じろぎ一つせずにそのまま覗いていた建物の陰から体を戻し、音を立てず逃げようとし、

 

 

 

 ────────―パキッ

 

 

 

 掃除をサボっている事によって散らかっていた小枝を踏み砕く──────―いやそんなベタな事ある? などと思ってももう遅い。ギュン、と凄まじい勢いで金髪の少女が振り向く。

 

 

 

「……………………」

 

「あ、どうもー……」

 

 

 

 ────────十秒程、お互い固まり。輝雄が先に脱兎の如く逃げ出した。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず初めに自己紹介しておくわね私の名前はアリス・マーガトロイド魔法の森で修行中の魔法使いよそして博麗神社で何をしていたかというと私の目標である完全自立型の人形を作る為に東洋に伝わる藁人形を用いた呪術から何か着想が得られないか試していたのよだから決して誰かを呪おうとしていたわけじゃないのよ信じて!!!!!!!」

 

「メチャクチャ早口でつらつら喋ってて草」

 

「一から十まで何から何まであなたのせいだけどね!!??」

 

「あと草って何!?」と叫びながら博麗神社の裏で、丑の刻参りっぽい事をしていたアリス・マーガトロイドはこちらにクッキーと紅茶を差し出す、口止め料という事だろう。何処かで昔似たようなやり取りをしたような、しないような気がしながらクッキーを口に運ぶ。

 

 あの後輝雄は脱兎如く森の中に走って逃げ出した。速度制限などの法があったら確実に捕まる速度で走っていたのだが、彼女ことアリスは意外と健脚なのかしつこく追って来た。悪路の森の中で確実に時速百以上は出てたが、かなり必死の形相でついてきていた。

 

 そのまま三十分程走り続けてしつこいなと考えていた時、「あれ、そういや俺飛べたな」と思い出した彼は走った勢いのまま戦闘機のように空へ飛んだ。

 

 満月によって強化されたフランと死闘を繰り広げた事により、吸血鬼と同等の速度を出せるようになったのでそのまま逃げようとしたのだが、「待って! ホントに待って!! せめて弁明の機会を頂戴!」と汗だくになり森の中を駆け抜けたせいで悲惨な状態になり、若干半泣きで呼び止められて仕方なく彼女の家まで付いて行った。

 

「にしたって家主不在時にそんな事するかね、霊夢に頼んでからやればよかったじゃん」

 

「魔法使いは一応分類的には妖怪なのよ………………博麗の巫女が快く承諾してくれるとは思わないわ」

 

「いや多分このクッキーと紅茶で十分釣れると思う」

 

 ────―だって割とがめついしアイツ。

 

 ウマウマ、と程良い甘みと食感を楽しみながら紅茶を飲む。周囲には作成した人形が所狭しと並んでいる。髪の色から瞳の色、顔の造形までどれ一つとして同じものは無く、まるで人形の博物館の様だった。あまりの人形の完成度に、本当に人形が意志を持ってこちらを見ている様な錯覚を覚える。

 

「──────不気味かしら?」

 

 眼を薄め得意げに微笑みながら、人形を操りこちらのティーカップに器用に紅茶を注ぐ。甘い香りが輝雄の鼻腔を擽る。

 

「いや? 壮観だなぁ、とは思ったけど。あと物珍しさ」

 

 こちらを試すようにアリスは問いかけたが、サラリと輝雄は流し紅茶を飲む。別に初対面の相手の趣味にとやかく言うつもりは全く無かった。それがやや意外だったのか少しだけ彼女は目を丸くした、が次の瞬間には元の理知的なアイスブルーの瞳に戻った。

 

「それにしても魔法使いはてっきり運動出来ないのかと思ってたんだが、意外と走れるんだな」

 

「え…………あぁ、さっきのね。あれは魔法糸で人形を操る技術の応用で自分で自分を動かしていたのよ。人体構造を無視した動きでない限り限界以上の動きが出来るわ………………もっとも、奥の手だしまさか人間相手に使うとは思わなかったけど」

 

「凄ぇな、滅却師の乱装天傀じゃん」

 

「クイン…………? よく分からないけど、外の世界にも似たような魔法があるのかしら?」

 

「あ、わからないなら気にしなくていいです。ハイ」

 

 ついついクセで話してしまう、輝雄は内心反省する。休日で紅魔館に向かうはずが、何故か人形師のアリスと知り合いお茶会になってしまった。このまま一日を潰すのも良くないと思い立ち紅茶を飲み干し、輝雄は席を立つ。

 

「紅茶とクッキーとありがとう、神社の呪術の件は俺が適当に誤魔化しとくよ」

 

「いいの? 迷惑じゃない?」

 

「まぁ、女の子の手作りクッキーの対価としちゃ妥当だろ」

 

 ────―後輩も手作りのクッキーだのチョコだのでよく騒いでいた。

 

 少しだけ時間を経ってしまったが、今からでも飛んでいけば昼前には着けるだろう。霊夢に買った煎餅はまた今度新しいのを買えばいいだろう、これはフランあたりにでも渡せばいいかと結論付ける。

 

「博麗神社に向かうの? 霊夢はいなかったけど…………」

 

「違うよ神社は道中寄っただけで、ちょっと紅魔館に遊びに行こうとしててな」

 

「へぇー…………紅魔館に…………──────────―紅魔館に!?」

 

 アリスの動揺が伝播したのか、周囲を飛び回っていた人形の動きが乱れる。彼女はティーカップを置き何かを逡巡するかのように考えてから口を開く。

 

「紅魔館って…………あの紅魔館よね?」

 

「『あの』がどのかは知らんが、レミリアの居城の紅魔館だ」

 

「…………仲、良いの?」

 

「あー…………多分? 呼び捨てでいいって言ってたし」

 

「………………ねぇ、さっきも言ったけど私の目標は完全自立型の人形を作ることなの」

 

 そう言われ、少しだけ輝雄は思い返す。先程の弁明の時にそういえばそんなことを言っていた。彼女はそのために呪術から何か得られないか博麗神社で試していた、と。

 

「あぁ、そのために東洋呪術を調べてたんだよな?」

 

「えぇ、それで最近はあまり進展してなくてね………………だから紅魔館にいるという魔女に前から接触出来ないか考えていたのだけど…………これは天恵という奴かもしれないわね…………」

 

 人形にティーセットを片づけさせる。そしてまた少しだけ考え、意を決したように話始めた。

 

「──────お願い、私を紅魔館に連れていってくれない? 今は何もしてあげられないけど…………いつかこの恩は返して見せるから」

 

「…………紹介するだけなら別にこのクッキーでチャラでいい」

 

 ニヤリと笑いながらクッキーを口に運ぶ。その言葉に彼女は顔を綻ばせて──────

 

「ありがとう! じゃあ少しだけ待っててね………………誰かさんのせいで()()()()汚れちゃったから」

 

「ア、ハイ、すみませんでした」

 

 

 

 ♢

 

 

 

 輝雄はアリスのシャワータイムと身支度が終わるまで、サクサクとクッキーを食べながら人形を観察し待っていた。考えてみれば彼女は中々大胆な事をしているのでは? とも思ったが、だからといって彼がする事は待機以外ない、精神的に紳士だから。

 

「相変わらず紅いわね…………霧の湖が近いのに目立つわ」

 

「だよな…………てかさ、今まで自分から行こうとは思わなかったのか?」

 

「だって吸血鬼よ? 実力は言わずもがな、妖怪の中でもかなりプライドが高くて、幻想郷でも屈指の警戒対象になってるもの」

 

 アリスと話しながら当然のように飛行し、紅魔館に向かう。まだ距離があり霧が立ち込めているのにも関わらず、アリスと輝雄にはすでに館は見えている。アリスも魔法使いで、広義的には妖怪に分類されるようだが、だからといって仲良しとはいかないようだ。

 

(そういえば慧音さんも言ってたな…………妖怪は基本群れない、とか。人間と違って単独として、個としての力があるから殆どが横繋がりも縦繋がりも持たないんだっけ?)

 

 無論例外的に群れをつくったりする妖怪もいるらしいが、全体からみれば希少種である事には違いないらしい。その例外が河童や天狗だと輝雄は聞いた。

 

「それにしても…………吸血鬼に襲われてよく無事だったわね」

 

「ん? あぁ、いや無事では無かったんだけどな」

 

「生きているなら無事と言って差し支えないわよ、吸血鬼が相手ならね」

 

 道中輝雄は自分が幻想入りした事や、その時に異変に巻き込まれた事などを話しておいた。その際に何度か慧音と同じ様な反応や発言、やり取りがあった。やはり普通はあり得ないことなのだろう、妖怪に襲われて生きている人間は。

 

「よし着いたぞ、門番に挨拶するからついて来い」

 

 飛んでそのまま入るような真似はせずに、正門から少し離れたところに着陸する。門の前には華人服の赤髪の妖怪が器用に立ったまま寝ている──────―言うまでもなく紅美鈴である。

 

「………………寝てるけど。素通りしていいの、あれ?」

 

「駄目だ。礼節的な意味じゃなくてな──────―」

 

 言いながら輝雄は手から小さな光弾を作り出し、それを眠っている紅美鈴に投げつける。それを見たアリスは驚くが、止める間も無く光弾は一直線に美鈴に飛んでいく。

 

 輝雄が放った光弾が寝ている美鈴の一メートル圏内に入った瞬間────────────―寝たまま美鈴の脚が奇麗な弧を描き、光弾を弾いた。

 

「な? 下手に近づくと反射行動で蹴りがくる」

 

「………………出来れば普通に起こしてくれませんか? 輝雄さん?」

 

「警備的には問題ないとはいえ、寝てるのはどうなんですか美鈴さん?」

 

 光弾を弾いた際に起きたのか、寝ぼけ眼をこすりながら美鈴はこちらに気付く。寝たままでもセキュリティーには問題がない事は散々体術の稽古で体に教えられた──────―無論エロい意味では無い。

 

「お久しぶりです、本日は紅魔館にどのような用向きですか」

 

「普通に遊びに来たのと、あと彼女がパチュリーさんに会いたいそうです」

 

「どうもこんにちは。魔法使いのアリス・マーガトロイドです」

 

 軽く会釈しながら背後にいるアリスに促すと、礼儀正しく自己紹介をする。美鈴はそれに少し眉をひそめる。美鈴にして珍しい反応だなと輝雄は少しだけ訝しむ。

 

「魔法使いですか………………一応聞きますが、本を盗んだりしませんよね?」

 

「え? ………………いや、しないけど」

 

「あ、それ多分霊夢のツレのほうです。彼女の事じゃありませんよ」

 

 美鈴の警戒対象とは違うことを輝雄が訂正しておく、彼も実際に話した事は無いのだがどうやら紅霧異変の際にいたらしい。魔法使いでパチュリーに弾幕ごっこで勝利を納めた後勝手に本を物色、そして窃盗したらしい。聞く限り輝雄には良い印象は全く無い

 

「そうですか、それは失礼しました。パチュリー様でした図書館に居ますので………………ていうか図書館以外にはいませんので輝雄さんに案内をお願いしていいですか?」

 

「いいですよ、あとフランにも会いに来たんですけど」

 

「妹様もあれから少し明るくなってますので、もしかしたら部屋の外にいるかもしれませんよ。流石に何処に居るかはわかりませんが…………」

 

「わかりました、こっちで勝手に探しときます」

 

 お嬢様にもよろしくお願いします、と言い残した美鈴にアリスの手作りクッキーを分け与えて門をくぐる。手入れが行き届いた童話の様な見事な庭園を真っ直ぐ進み紅魔館のエントランスホールに入る、相変わらず紅系統で内装が揃えられている。

 

「中も紅いのね…………」

 

「やっぱアリスもそう思うか…………てか、もう綺麗になってんのな」

 

「? どういう事?」

 

「──────────―そこのデカいのが暴れてメチャクチャになったのよ」

 

 突然、アリスの背後から声が掛かる。全く気配を感じなかったアリスは反射的に人形を魔法糸で操り周囲に展開しようとするが、それを輝雄に止められる。

 

「待った、アリス。敵じゃない」

 

「それは貴方達次第だけどね」

 

「美鈴さんには快く通して貰ったんだけどな咲夜?」

 

「美鈴はいつも大体通させるから当てにならないわ」

 

 銀髪の瀟洒なメイド、咲夜がそこに立っていた。銀色のトレイを持っているところを見るにレミリアのティータイムに付き合っていたのだろう。美鈴と同じ様に紅魔館に来た理由を話し、暴れない事を条件に通してもらう。それを静かにアリスはただ眺めていた、どこか呆然としているようにも見える。

 

(いつ現れたの…………このメイド? 輝雄は気づけたの?)

 

「くれぐれも物を壊したりしないように、片付けるのは私なんだから──────―特に輝雄」

 

「そんな釘刺さんでも壊さねぇよ、てかエントランス壊したのも異変だったからだし、お前が襲って来たからだし」

 

「私はいいのよ、どうせ片付けるのは私なんだから」

 

「自分で言ってて悲しくないか? それ?」

 

 そのまま咲夜はレミリアの元へと去っていく、それを見送りアリスと共に図書館に向かう。

 

「…………本当に紅魔館の面々と仲がいいのね」

 

「んー? 仲、良いのかね? 正直よくわからん。世話になったのは事実だが」

 

 感心したようにアリスが呟く、それを先頭を歩きながら振り向く事なく輝雄は興味なさげに答える。そのまま歩き続け図書館にたどり着く、明らかに外観と釣り合ってない大きさと、古びた紙の香りが感じられる。聳え立つ本棚はまるで迷路の壁の様だった。

 

「壮観ね…………一体何千、何万冊あるのかしら…………」

 

「さぁな、パチュリーさんも把握してないらしいし、この図書館の性質なのか知らんが勝手に蔵書が増える事もあるらしい」

 

「呪いが掛かった魔導書ならあり得る話ね、読まれない本は駄作以下だもの」

 

「そんなもんか? ………………こっちだなパチュリーさんは」

 

 本棚の背表紙を物色しながら右へ左へと本棚の迷路を抜けていく、アリスも一流といって差し支えない魔法使いである。この図書館に入った瞬間から大きな魔力は感じ取っていた、それが目的の魔女だろう。しかし彼までそれを感じ取っていたのは少し予想外だった。

 

「………………………………彼女連れで図書館デートかしら? 暫く見ない間に良いご身分ね、輝雄?」

 

「そんなんじゃありませんよ? 彼女が、アリスが貴方に用があるそうです。俺はフランに会いに来るついでです」

 

 本棚の角を曲がった先に彼女、パチュリー・ノーレッジが居た。当然のように本を読みながら受け答えする。輝雄の紹介からアリスを一瞥し、そしてまた本に視線を落とす。

 

「………………成程、それなりの力量を備えた魔法使いみたいね。私とは少し毛色が違うみたいだけど、物体を操作するのかしら────────―例えば人形とか」

 

「…………!」

 

 一目瞭然と言わんばかりにパチュリー・ノーレッジはアリスの魔法の系統を言い当てる。アリスの目的は図書館の魔導書とパチュリーに会うことだった、そしてそれは間違いではないこと確信した。

 

(これほどの魔法使いと同格、或いはそれ以上の吸血鬼と戦った!? 彼は一体……………………)

 

「じゃあ俺はフランに会ってくるから、ここからは各自自由行動ということで」

 

 ──────―そして隣にいる男にアリスは戦慄を覚える。明らかに運がいいだけでは有り得ない。外来人でなくとも普通は死んでいるはずだ、弾幕ごっこではない戦いなら尚の事。しかし輝雄はそんなアリスの驚愕をよそに踵を返す。

 

「ちょっと待ちなさい、輝雄」

 

 そのままアリスと別れ、フランの部屋へ向かおうとする輝雄をパチュリーが呼び止める。相変わらず読書をしたままだが、特にこれといって輝雄は顔をしかめたりしない。

 

「何ですか?」

 

「フランと遊ぶ気なの?」

 

「えぇ、そう約束しましたので」

 

「だったらこれからちょっとだけ、私も貴方の修行を手伝って上げるわ」

 

 全くの唐突な提案だった、まだ輝雄が紅魔館に監禁されていた時でさえも面倒な様子を隠さなかったにも関わらず、自らパチュリーらしからぬ申し出だった。これには彼も驚きを隠せない。

 

「………………何故に?」

 

 どういう吹き回しなのかと背伸びして、本の向こう側のパチュリーの顔を覗こうとするが、サッと本の向きを変えて阻まれる。なんでそんな真似をするのか、輝雄にはその心情がよく解らなかった。

 

「フランを止めてくれたお礼と、そのフランにまた貴方が殺されたりしたら流石に申しわけないもの。いくら落ち着いたとはいえ何がきっかけで暴走するか解らないしね」

 

「今度までに教材を用意しておくわね」と言い渡されて、今度こそ輝雄はフランの部屋に向かう。彼としては腑に落ちないものがあったが、「自分に益があるならいいか」と納得し、その場を後にした。そして図書館の中にはアリスとパチュリーだけが残される。

 

「で? 貴方は私に用があるのよね?」

 

「…………えぇ、そうよ」

 

「用向き次第だけど魔導書を()()くらいなら良いわよ。そっちの用件次第では、こっちの条件も飲んでもらうけど」

 

 それはアリスも想定内の提案だった、自分から提示出来るものとしては魔法の森から薬草などだろう。しかしそれよりも興味が惹かれるものが出来てしまった。

 

「別に構わないわ………………それよりも彼は何者なの?」

 

 アリスは外来人にそこまで詳しくも無ければ、外の世界にも詳しくない。しかし彼の話に一切虚偽が無いなら、幻想郷という基準でも凄まじい強者である。それこそ博麗に並ぶといっても過言ではない。

 

「…………さぁ? それは私も興味があるのだけど──────」

 

 アリスの問いに対して本に落としていた視線を一瞬だけ彼女に向ける、しかしやはりすぐに本に視線を落として紅茶を口に含む。周りに置かれている本は日本における歴史や文化、神や妖怪などに関する文献のようだった。

 

「──────―本に載ってない事はすぐには解らないわ。これからの付き合いでゆっくり紐解いていかないと………………貴方はどうする?」

 

 叡智を求め、魔導を探究する魔法使い。進む道は違えど、その問いに対する返答は一つだけだった。

 





 フラン「ねぇー輝雄?」
 輝雄「何だ」
 フラン「紅魔館のペットになれば働かずに済むよ?」
 輝雄「ごめん被る、俺は幼女に飼われて喜ぶ変態じゃない」
 フラン「なら美鈴みたいなボンッキュボンならいいの?」
 輝雄「何処で覚えたそんな言葉」
 フラン「お姉さまが読んでた本に―――――――」
 輝雄「やめて差し上げろ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。