幻想禍津星   作:七黒八白

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今更ですが旧作設定は反映されてません、やった事ないので。

なのでアリスも霊夢を博麗の巫女って呼んでました。


第二十話 紅い天蓋花、黄色い天蓋花、咲う花

 丁度良い気候、暑くも無い寒くも無い。温度感は人それぞれだろうが暑いと感じる人は木陰へ隠れれば丁度良く、寒く感じる人がいれば日光を浴びれば丁度良いだろう。

 

「相も変わらず霊夢はグータラしてたな、巫女が活躍しないって事は平和なんだろうが………………」

 

 そんな気候と天気が続いている季節、布団を干せばよく乾き夜はよく眠れる事間違いないだろう、そんな事を考えながら輝雄は博麗神社から人里までの帰り道を歩いていた。虫の声はすっかり聞こえなくなり、徐々に自然は枯れ始めているのが見える。

 

 輝雄が本気で飛べば神社から人里まで五分と掛からないが、折角のいい天気で寺子屋の授業も今日は早上がりとなったので時間を持て余していた。何でも人里の人達は冬に備えて少し忙しいらしい、子供達もその手伝いだろう。曰く幻想郷では雪が積もる事は珍しくないのだとか。

 

「冬、か……………………俺も何か用意とかしといた方が良いかな?」

 

 火鉢は勿論必須だろうし、暖を取る為の薪や保存のきく食料なども必要だろう、とは言え素人には違いないので帰ったら慧音辺りに聞いてみようと計画を立てる。だが一人暮らしの為そこまで手間も金もかからないだろうし、まだ時期尚早なので、今は涼しい秋の空気を楽しみながら歩くことにする。

 

「あ、そういや霊夢からおにぎり貰ってたな…………昼過ぎだし、もう食っちまうか」

 

 人里に住み始めてからというもの、腕っぷしを買われたのか博麗神社までの奉納品の運搬係を任されている。初めはその強さに恐れをなして、里の者は遠巻きから白い目で見ていたが人とは慣れる生き物、熊や虎なら兎も角、言葉が通じる人間ということで今は頼られている────────或いは利用されている。

 

(見返りがあるから良いけど………………都合の良い手のひら返しと取るべきか、信用され警戒されなくなったと見るべきか………………あ、梅干しだ。美味ぇ)

 

 神社までの道中は比較的安全ではあるが、飽くまで比較的。それを逆手にとって襲ってくる妖怪が居ないとも限らないし、何より碌に整備されていない道で荷車を引くのは重労働である、どの位かというと早朝出ても帰りは昼になる──────―普通の人間なら。

 

「あの三人完全に俺が寺子屋終わる時間見計らって来たよな………………何が『いつも通りの金額でよろしくだよ』、俺じゃなけりゃ帰りは夜だぞ…………ったく」

 

 輝雄が里から神社まで奉納するまでにかかった時間、僅か十分。色々と面倒くさいと思った彼は荷車を担いで空を飛んだ。霊夢には『食料とか横にして潰れてないでしょうね?』と小言を貰ったが握り飯も貰えたので、彼の中では差し引いてもプラスである。

 

「歩きながらだと食いづらいな………………何処かで腰を据えるか、良い天気だし」

 

 食べ始めてしまった梅入りのおにぎりだけ即座に完食し、何処かに座って食べようと場所を探す。普段ならこの辺りでよく妖怪に襲われる(そして返り討ちにする)のだが、今日は不思議なことに行きの時も全く妖怪の姿も、気配も感じられなかった。

 

 幻想郷に住み始めて様々な事を教わり、そして彼自身の経験から理解した事だが、妖怪は腹を満たすために人間を襲ってくるわけでは無い。勿論それは種族やその妖怪の生態にもよるのだろうが、そもそも古明地こいしの話では妖怪は基本飲食不要らしい。

 

(────―となると、人を襲い殺すのは恐怖を得るためのパフォーマンス、いい見せしめってわけだ。食べる食べないは重要じゃない、()()()()()()()()…………)

 

 何故かその事実にジリジリと頭の芯から苛立ちとも怒りとも判別のつかない不快な物が湧いて来るが、彼にはそれが何なのか判らなかった。一先ずそんな事は後で考えればいいと妖怪の生態については脳の片隅に追いやり、人里への道を逸れて歩く。

 

「………………そういや前から気になってたけど、あの一面黄色いのって向日葵だよな」

 

 人里からも神社からも少し離れた所に見える黄色い絨毯のような一帯、人里に住む事を決めて霊夢にそのことを報告しに行った時から見えていた向日葵の群生地。そのあたりだけ綺麗に拓けており、中心部には一軒家らしきものが見える──────―人里の建物と違い洋風な造りのようだった。花畑の管理人だろうか、そして恐らく常人ではないだろう。

 

「………………ふむ」

 

 輝雄の記憶と知識が確かならば時期的に向日葵はもう枯れてもおかしくない、というか枯れてないとおかしいのだが。まぁ、そこは幻想郷、そういう事もあるのだろう。少なくとも運命が見えるだの時を止めるだのよりは現実的である。特に気にする事なく彼は向日葵が遠目でもよく見える場所、ついでに言うなら座れる様な場所を探す。

 

「………………あぁ、時期と言えば、この花も時期だったな」

 

 遠目に見える向日葵畑の周りを歩いていると座れそうな倒れた大木があった、何故大木があるかは別に気にしない、大方妖怪の縄張り争いか何かだろう────────―そして傍らには、茎から葉を一枚も生やさず咲いている紅い花、彼岸花。

 

「…………………………綺麗だな、幻想郷でも花は変わらないのか」

 

 独り言が多いのは傍から見れば気味が悪いだろうが周囲に気配は感じない為、彼は全く気にしない。大木にどっかり腰を降ろして笹の葉に巻かれたおにぎりを膝の上に載せる。風が涼しく、日が温かい。ちょっとしたピクニックのようで気分は悪くなかった。

 

 足元に咲いている彼岸花、山の麓を埋め尽くすように燦々と咲いている向日葵畑、おにぎりの具を楽しみながらただ眺めていた。紅い花と黄色い花、自然界でも中々浮いている色が不思議と調和していると思っていると、ふと花の事を考え始める。

 

「………………そういや、何だっけか、向日葵とか彼岸花みたいな花の事を別の言い方があったな」

 

「あら、詳しいのね。それって天蓋花じゃないかしら」

 

「あぁそうそう、確か仏具の装飾に似てるからって────────―!?」

 

 

 

 気配は微塵も感じなかったにも拘らず、手を伸ばせば届く距離から掛けられた声に一拍遅れて反応する。

 

 

 

 隣に微笑みを湛えた女性が立っていた。

 

 肩に届くかどうかの少し癖のある若葉色の髪、穏やかな眼差しだが鮮血の様な瞳、ブラウスの首元を黄色いリボンで留め、赤いチェックのベストとロングスカート。幻想郷では珍しい完全な洋服の装い──────────そして輝雄は経験上一瞬で悟る、()()()()()と。

 

「こんにちは、こんな所で一人ピクニックかしら?」

 

「──────あぁ、天気が良かったんでね。この時期にしか見られない物もあったし」

 

 格上である、その事実を認識した上で輝雄は一切態度は変えない。下手に出ないが傲慢な物言いもしない、平静平熱でサラリと答える。先程の声を掛けられた動揺はもう消えていた。女性はその様子を少しだけ興味深そうに見ながら輝雄の隣に腰を掛けた、恐らく自分が妖怪であることを悟られたうえで、彼が人間であることも全て知った上で。

 

「この時期にしか見られない…………彼岸花の事ね。好きなのかしら?」

 

「好き…………なんだろうか、ただ他の花と違うところが惹かれるというか、魅力的だなとは思うけど」

 

 輝雄は隣に座った女性の素性は全く聞かず、ただおにぎりを食べながら彼岸花を見ながら話す。曼珠沙華、地獄花、幽霊花、有名どころはこの辺りだったかとその花の名前を思い出していた、物騒な物が多いことが印象的だった。

 

「変わってるわね、この幻想郷ではあまり好まれない花なのに」

 

「それは何故? モグラ対策によく畑に植えられたって聞いたことがあるが…………」

 

「利用出来る事と好まれるかは別問題なのよ。なにかと死を連想させるし、単純に毒があるしね」

 

「ふーん………………ま、花からしてみれば知ったこっちゃ無いだろうけど、所詮善悪の価値基準と属性付けは人間特有の物だし」

 

 熊が山から下りて人を喰い殺しても悪でも無ければ罪でも無い、『気に喰わない』と思う人間がいるだけである。毒が有ろうと無かろうと、強く美しく逞しく咲き誇る。花はただそれだけで価値がある。少なくとも輝雄はそう考えていた。

 

「一際短い期間に一斉に咲いて、一斉に散る……………………ただそういう生態なんだろうけど、名前に反して寧ろ潔いものを感じるな」

 

 無論、花弁が散ったところで地中の球根はまだ生きている。それは輝雄も理解していたが、それでもその在り方は素直に美しいと感じた。叶うなら『自分もそんな風に在りたいと』、決して口にはしないが。

 

 そして感慨深く彼岸花を眺めている彼を見て何を思っているのか、女性はさらに笑みを深める。

 

「………………名前は?」

 

「ん? 俺か? それとも花?」

 

「貴方に決まってるでしょう」

 

「………………嶋上輝雄」

 

「ご丁寧にどうも、じゃあね」

 

 一瞬偽名を使うか考えたが彼はどうせ人里では少し有名だし、ここまで理性的な妖怪ならば人里の出入りも許されているだろうと考え、素直に答えた。それを聞いた女性は笑みを湛えたまま立ち上がり、日傘をさし何処かへ去っていく。

 

「………………って、おい、アンタは名乗らないのかよ」

 

「……? 私の事を知らないの?」

 

「知らん」

 

「……………………ふふふ、ますます面白いわね、貴方」

 

 即答する輝雄の何が面白いのか、クスクスと女性は笑っている。有名人なのだろうか、おにぎりを食べながら吞気にそんな事を考えていた。

 

 

 

「────────幽香よ、風見幽香。幽香でいいわよ、また会いましょう()()

 

 

 

『あと早死にしたくないなら幻想郷縁起を読んでおきなさい』と風見幽香はそう言い残してそのまま立ち去った。残された輝雄は色々考えながら、取り敢えずおにぎりを完食し。

 

「────────―アイツ、もしかして俺のこと初めから知ってたのか?」

 

 根拠は全く無い。しかし、何故だろう、何故かそんな雰囲気を感じた。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「あれが()()()()()()()なのね?」

 

 さわさわと、風にそよぐ大量の向日葵畑の中で女は()()呟く。絵になる美しいその風景の中には、いや()には似つかわしくない物が多く散らばる。

 

 ──────しかし、美しい女怪はそんな事は気にも留めない。

 

「………………見た感じそこまでの強さには思えなかったけど、本当に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 誰に語りかけているのか、それともただの独り言のなのか、その場には誰もいない。

 さわさわ、と時季外れの黄色い天蓋花だけが揺れている。

 

「まぁ、どっちにしろ過ぎた事ね。楽しみなのはこれからよ」

 

 一人、女怪は楽しみが増えたと微笑みながらクルクルと日傘を回している。

 

「人も、妖も────────―芽吹き、咲き誇るまで、どんな花になるのか分からないしね」

 

 

 

 ────────―花の愛で方も知らない、無作法な沢山の命()()()()を踏みにじりながら。美しい女怪はただ笑う。

 

 





最初はブチ殺し合わせようかなって思ってたんですけど、風見幽香の気まぐれなキャラクター性を考えてやめました。

殺し合わせたら一発屋みたいになってしまいますからね、もっと深く関わらせたい。
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