次から春雪異変です、あと今回の話はちょいと鬱テイストです。
でも幻想郷ってそういうとこあるじゃん?って作者思うワケ。
「んー、思った以上に冷えるな。日光が届かない以上に冷気が溜まっているというか…………陰気なものを感じるというか」
いよいよ冬になるという時期に、輝雄は一人森の奥へ散策に来ていた。
以前に香霖堂店主────森近霖之助から珈琲豆を買ってから様々な物品の説明や購入など交流を深めている内に、彼はこれだけの物が仕入れられる無縁塚とは何なのか聞いてみた、すると
『オススメはしないし、安全も保証出来ないけど。興味があるなら実際に“
と言って無縁塚までの道のりを快く教えてくれた。
無縁という名前からして無縁仏と何かしらの関係があるものなのだろう。霖之助曰く、結界が緩んでいる場所とのことで一層物が流れ込みやすくなっているのだとか。
「妖怪も滅多に寄り付かないとは言え、あの人も大概怖いもの知らずだな」
殆ど獣道とは言え、一応道はある。真昼時というのに薄暗い、そして生き物の気配がまるで感じられない。歩きづらい場所はいっそのこと飛んでショートカットし、そして開けた場所に出る。しかしそこは、想像以上に幻想的な風景だった。
「綺麗だが………………どこか寂しいというか、悍ましさみたいなものも感じるな…………」
開けた場所であるはずなのに、日の光が指していない。まるで遮光カーテンに遮られているかの如く薄暗い。しかし視界は良好だった、何故かと思い辺りを見渡してみると怪しい藤色の燐光に満たされている──────────光源は
「時期は三月ぐらいだったと思うが…………言うだけ野暮か」
森の木々とは生態系から隔絶されているのだろうか、信じられないほどの枝垂桜が天幕を造り周囲に広がっている。日光を吸収して光っているのかと思ったが、よくよく見てみると桜その物が仄かに輝いている。
──────―幻想的な美しさ、同時に何故か死を連想させた。
虫の音すら聞こえない程生き物の気配が感じられないのは、この場所が濃い死の気配を纏っているからだと、彼も本能で悟る。恐らく感じられる寒気は温度によるものでは無く、死の恐怖など概念的な物。
(……………………長居すべきじゃないな)
皮膚に直接訴えかける様な怖気から生者がいる空間では無いと、手早く探索を始める。ここで拾ったものは使えそうな物であれば、霖之助が買い取ってくれるとも言っていた。輝雄はゴロゴロと転がっている角ばったサッカーボール位の石に足を取られないように歩き始める。
少し歩き始め無縁塚の奥までくると、そこかしこに幻想郷では見られない外の世界の道具が不法投棄されたゴミの様に落ちていた。壊れている物もあれば、殆ど新品同様のものもあり、中にはそもそも商品の箱から出されていない物もあった。
「んー…………魔法瓶とかあったら、これからの冬に便利なんだが」
霖之助から借りた背負える籠を地面に置いて、使えそうな道具を手に取って見ながら確かめる。買い取ってもらえそうな物、自分の生活に役立ちそうな物、生活には余裕が出てきたとはいえまだまだ油断は出来ない。長い独り暮らしの経験上、備えと蓄えはいくらあっても良い。
「…………………………しかし石多すぎないか? 河原でも無いのに」
言いながら輝雄は、邪魔な足元にあった角が取れた長方形の石を横にどけた。そして何故か、石をどけた下には────決まって歪な窪みがあった。
♢
「よしよし、収穫は上々だな」
汚れていない使えそうな道具に、霖之助に売れそうな道具等を大量に籠に入れて輝雄はそれを背負う。電化製品の類は幻想郷では殆ど使えないが、霖之助はそれでも興味があるらしく買い取ってくれる。使えるようになる目途でもあるのだろうか、そんな事を考えながら籠に荷物をまとめる。
「俺が気にする事じゃないけど金は何処から捻出してるんだ、あの人?」
まぁ、どうでもいいか、と結論づけて帰りを急ぐ。香霖堂で買った懐中時計を見ると午後四時、冬が近づき太陽も徐々に早く没するようになっている。夜になると妖怪の活動が活発になる為急がなくてはならない。
(やっぱ妖怪のホームグラウンドで戦うのは油断出来ねぇしな………………)
尤も、満月で吸血して正気を失っているフランドール・スカーレットよりも強い野良妖怪などそうそう居ないが以前に出会った風見幽香の様な妖怪もいる。彼は枝垂桜の天幕を出来るだけ散らさないように避けながら、足早に帰ろうとする────────────―が。
「■■■テ……………………■■け■………………■■を……」
(……………………………………妖怪か? ここには近寄らないんじゃ…………?)
────────―掠れる様な、しかし甲高い鳥のような鳴き声が聞こえた。
周囲に意識を張り巡らせるが、そもそもこの無縁塚自体に陰気な物が充満しているためか上手く気配が読み取れない。素早く前後左右のみならず、上下も確認するが何者も見当たらない。
(視界が効かないここで戦うのは得策じゃねぇ…………やるなら森の外!)
微かと言えども妖怪の声が聞こえた以上、既にこちらに狙いを定めたと考えるべきだ。そう思い立った瞬間、輝雄は姿の見えない敵を探すのをやめて、森の外へと一気に駆け出した。
相手の戦力も能力も全くの未知数だが紅霧異変を経て、そしてそれからも心身ともに鍛える事を怠ってはいない。外の世界にいた時のような健康のためのようなトレーニングでは無い。純粋に生き残るために、殺し合って生き残るための力を鍛えてあげてきた。
(レミリアやフランと同格の妖怪だとしても逃げることぐらいなら確実に出来る、それ以下なら出方次第だが確実に殺せる!!!)
数十キロ近い道具を背負いながら森の中の悪路を駆け抜ける、あと一分もしない内に森の外に出られるというところで────────────―それは姿を現した。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」
「っと!? 危ねぇな!!!」
耳障りな怪鳥染みた鳴き声を上げながらソレは上からの降ってきた、数秒前まで輝雄がいた場所に爪を振り下ろし、太い木の根を乱雑に切り裂いた。その一撃を寸前で察知し、荷物を捨てて、中空で身を捻り回避する。
彼ならば直撃しても致命傷には至らないだろうが、常人ならば右半身と左半身が泣き別れしていても可笑しくない威力があった。この時点でこちらを殺しに来ている事は確実だが、輝雄は一応意思疎通を試みる。
「■■■て■■を■ッテ!!!!!!!」
「何言ってんのか分かんねぇよ、縄張り入っちまったなら謝るからさ。見逃してくれないか?」
ソレは今まで会ってきた妖怪よりも妖怪らしい姿をしていた、足から頭まで高さ三メートル位か、体は人間と同じ様な造りだった。しかし手首辺り先から、足首辺り先から鳥の鉤爪になっている。よく見てみれば、首から上も鳥の様に変形し、口元に至っては
「殆ど聞き取れないけど、よくその嘴で喋れるな……………………で? 見逃してくれる?」
「■■■■■■エ!!! ■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」
「あーはいはいはいはい。人間の、エサの戯言のなんか聞くに値しないって感じね、知ってた知ってた────────────────────────じゃあ殺すわ」
正面から猛然と迫ってくる敵の嘴を相手の股下を潜り抜け、回避する。嘴は一撃で大木を貫通し、大木が周囲の木の葉を巻き込みながら倒れる。避けた輝雄を追いかける様に振り返るが──────────彼は背後にはいなかった。
「■■■■■■………………?」
「──────────―先に仕掛けたのはそっちだ。死んでも文句言うなよ?」
「──────────―!!?」
訝しむ様に唸りながら周囲を見渡していた妖怪の頭上から、声が降りかかる。妖怪は反射的に上を振り向き────────────そこにすかさず霊力を纏った手刀が一閃。
「■■■■■■──────────―!!!!」
上に向こうとする妖怪の首の力とは逆に、振り下ろされた手刀は空竹割りの如く嘴を根元から斬り落とした。妖怪に通常の打撃などは効果が薄く法術などで
ましてや再生力の高い吸血鬼をして急所には受けられない程の威力なら尚の事。元々聞き取れなかった奇怪な鳴き声は、更に苦痛で濁った叫び声になる。痛みに耐えかねたのか妖怪は背を向けて逃げ出そうとし──────────―。
「そっちから仕掛けておきながら旗色が悪くなったら尻尾を巻いて逃げる。ちょっと虫が良すぎないか? 妖怪としての矜持を貫いて────────────潔く死んどけ」
「──────■■■■■■ッ!?!?!?」
────────貫手が背後から射貫いた。
皮膚を突き破り、筋肉を裂いて、骨格を割り箸の様に容易く砕きながら、掌に感じた
「前から思ってたけど妖怪の血も赤いんだよな。まぁ、どうでもいいけど」
──────────握り潰して、手を素早く引き抜く。
「■■■■………………あ■■■ウ…………」
意外な事に、それだけで妖怪は倒れてそのまま動かなくなった。無論残心は解かず、そのまま背中に空いた穴から血が溢れなくなるまで警戒し続けたが、結局その鳥と人間を足した風貌をした妖怪は起き上がる事は無かった。
「…………………………ふむ? 吸血鬼みたいに再生力や生命力が高い種族じゃ無かったのか?」
完全に死んだのか、その屍は少しづつ宙に溶ける様に塵と化していく。妖怪の死骸は時間が経つと体を形成していた妖力が無くなり、跡形もなくなる。無論これも一概には言えないが、輝雄が相手をしてきた雑魚妖怪は全て同じ様に消えていった。
「今まで出会った妖怪は力量のある妖怪程、人に近しい姿と知性を得ている傾向があった………………となるとコイツも雑魚妖怪って感じなのかな」
半端に人の言語を発していた様にも思えたが、と不思議に思いながら回避の際に散らばってしまった荷物をまとめる。
幸い拾った収集物も霖之助に借りた籠も壊れてはいない様だった。弁償せずに済む事を安堵しながら籠を背負って、空き缶拾いの要領で背中に道具を放り込んでいくと、塵となった屍後から白い何かが転がってきた。
「…………え? 妖怪の持ち物か?」
『そんなRPGみたいな事ある?』と内心ツッコミながらそれを拾い上げてみると──────────────。
「────────────────────────は?」
──────────―土がこびり付き、薄汚れた、人の
♢
「──────────あぁ、それは多分“
「…………………………………………おんもらき?」
後日、その他諸々の用事を済ませた後に輝雄は博麗神社まで訪ねて来ていた。
彼が居合わせた場所、対峙した妖怪の風貌、声が鳥の様だった事、そして倒した後に出てきた頭蓋骨等から霊夢はさして時間を掛けず答えを出した。
「そう、あんまり放浪とかしたりしない
「………………どういう妖怪なんだ」
「簡単に言えば、碌に供養されず放置された亡骸から出た陰気が妖怪化したものよ………………広義的には妖怪だけど性質的には“
霊夢は輝雄が買ってきた煎餅を食べながら答える、晴れた空の縁側で茶を飲みながら話すには似合わない話題だったが、霊夢は気にした様子も無い────────ただ彼だけが少しだけ項垂れている。
「……………………………………無縁塚なら、不思議じゃないってどういう事だ」
「…………もう気づいているでしょ、アンタそんな馬鹿じゃないし」
「──────答えてくれ」
俯いていた顔が少しだけ霊夢に向き、淀んだ赤銅色の瞳が覗く。霊夢は少しだけ言いづらそうに、しかしはっきり答えた。
「──────あそこはね、
「────────────」
────────妖怪は、人間という観測手無くして存在出来ない。
全ての妖怪が人間と共存できないわけでは無い、妖怪だからといって人間を殺さなくてはならないわけでは無い。
しかし、恐怖されない妖怪は妖怪として存在を保つことは出来なくなる。だからと言って人里の人間を狩り続ければ回り回って妖怪側の首を絞める事になる。
──────
それはさながら、自国生産出来ないので輸入品に頼る政策のように、倫理と道徳を度外視した
日本だけに限った話でも年間の行方不明者など優に一万を超える、そしてこれは判明しているだけの数、氷山の一角に過ぎない。顕在化していない潜在的な総数は倍を超えるかもしれない―――――――――その一部が幻想郷に神隠しされている、という事だろう。
「…………………………………………………………………………俺が、殺したのは、人げ────────―」
「
「…………………………」
「思うところがあるのは分かるわ、けどね。
そして霊夢は無くなったお茶を追加しに台所へと消えていく、縁側で一人になった輝雄は霊夢の言葉と自分に襲い掛かった陰摩羅鬼、そして幻想郷のシステムについて考える。
『■■■■………………あ■■■ウ…………』
(…………あ■■■ウ…………あ■■■う…………ありが、とう…………?)
あの陰摩羅鬼は、
「……………………寒いな」
──────────―そして、長い長い冬が来る。
残念ながら作者は経済的な理由で東方の書籍を全て把握してるわけじゃありません。
なので原作などで既に陰摩羅鬼モチーフの妖怪が出てて、ビジュアルが違うかったらすみません。
因みに陰摩羅鬼のビジュアルは某鬼の教師をイメージして頂ければ。分からない方はごめんなさい。