幻想禍津星   作:七黒八白

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 主人公はもう少し露悪的に描きたいなと思っています。だってありきたりなお人好しのオリ主は見飽きているでしょう?

 それはそれとしてコメント欄を非ログインでも書けるようにしました。もしも荒れたら戻しますが、感想お待ちしてます。



第二十三話 塔、死神、刑死者

「…………ぐっ……頭が痛い……」

 

 ────久々に飲み過ぎた。

 

 寝室に差し込む朝の光から上白沢慧音は目を覚ます。そして尋常ではない寒さから急いで火鉢をつける、ここ数ヶ月でこのルーチンワークにも慣れたものだった。

 

「そういえば昨夜は輝雄も一緒だったな……」

 

 記憶を掘り返す、妹紅と輝雄が食材を持ち寄り、異変について話し合い、最近は満月がまともに出ていない為に仕事が溜まり、イライラするまま酒を煽り………………それ以上は何も思い出せない。

 

 寝室から今に出てみると酒瓶も鍋も綺麗に片付けられている、妹紅がやったのだろうか、それとも輝雄だろうか。ひとまず、昨夜は結局風呂に入らなかった為にお湯を沸かす準備をする。寺子屋がないため普段よりは時間に余裕がある。

 

 慧音は微かな期待をしながら窓の戸を開いてみる、しかしそこにはここ最近いつも通りの雪景色と朝にも拘らず曇天の空模様だった。

 

「いつになったら雪は止むのだろうか………………博麗の巫女が動かない様ならいっそ私が出るか…………?」

 

 しかし、そうすると今度は人里の護りがガラ空きになってしまう。結界で閉じられた幻想郷と言えどそれなりに広い、あてもなく飛び回るとどれだけ時間が掛かるか慧音にも見当がつかない。

 

 そして異変を起こしているのが妖怪だとしたら慧音も勝てるとは限らない、当然と言えば当然だが妖怪は通常の生物とは違う。銃のような物理的な武器が効く相手ならば慧音でも何とかなるが、煙のように実態が無い相手だと博麗の巫女の様に退魔の術や武器が必要になる

 

 ────────────つまり相手次第では完全な無駄足どころか慧音が返り討ちになる可能性も十分にある。博麗の巫女が幻想郷において決して廃れることが無いのはその為である。

 

「………………いや、まだ余裕がある内に動くべきだな。このままでは里だけでは無く幻想郷の生態系にも影響が出るかもしれない」

 

 里の人間が飢えないように輝雄が鹿や熊などを仕留めて二束三文で卸しているが、それも行き過ぎれば狩りつくしかねない──────というか霊力が使えるとはいえ素手で熊を仕留めていたのは驚いた、里の猟師顔負けの成果をあげている。慧音も霊力を扱えはするが素手で熊の首を捩じ切るのは無理だ、心情的にも。

 

「彼に依存し過ぎるのも、な………………」

 

 リスクがあるのは何も慧音だけに限った話ではない、この里に住む者全てが該当することだ。そうと決まればさっさと汗を流して異変解決に出ようと、里の留守を任せる為に妹紅を探しに出かけようとするが──────

 

「おーい慧音いるー?」

 

「ん? 妹紅か? 何か忘れ物でも──────いや丁度いい、ちょっと留守の間里に居て欲しいんだが」

 

 ──────ちょうどバッタリ玄関で、その妹紅と出くわす。

 何か忙しいかったのだろうか、少しだけ息を切らしており汗ばんでいる。

 

「くっそ………………アイツ足速すぎんだろ、天狗かよ…………」

 

「妹紅? 何かあったのか?」

 

「いや何も。それよりも慧音、留守を任せたいって?」

 

 小さく何かを呟いた気がしたが、慧音には内容はよく分からなかった。しかし妹紅が問題無いというなら問題ないのだろうと気にする事無く、慧音は異変解決に出向く意を伝える。それを聞いた妹紅は『まぁ、そうなるだろうな』と予想していたように、特に驚かず聞いていた。

 

「その間私の家を好きに使って貰って構わない、頼めるだろうか?」

 

「別にいいけどさ…………輝雄のヤツが帰って来てからでいいと思うぞ」

 

「何?」

 

 何故そこで彼の名前が出てくるのだろう、そういえば彼はいつ帰ったのだろう? 妹紅は朝方に会っている様だが……………………慧音は少し嫌な予感を覚えた。

 

「だから、つい一刻程前にアイツも異変解決に出たんだよ。なんかアテがあるみたいだったぞ」

 

「それは本当か!?」

 

「あぁいや、異変が何処から起こっているのかじゃなくて。何処へ行けば手掛かりが見つかりそうって意味だぞ?」

 

「そうなのか…………いや、しかし…………」

 

 その驚愕は喜びでは無く、どちらかと言えば不安に属する物だった。

 慧音は輝雄の実力をよく知らない、吸血鬼とも戦えたとは又聞きしたが実際に彼が戦っている姿は見たことは無い。何より彼が外来人だというなら対妖怪の術など修めていないだろう。

 

「…………心配だ、彼は何処へ向かった? 今から追いかける!」

 

「待て待て! 無理すんなとは言っといたし! アイツも危なくなった逃げるって言ってた! それにアイツ馬鹿みてぇに速いからもう追い付けないよ」

 

「しかし…………!」

 

「────慧音聞け」

 

「………………!」

 

 なおも渋る慧音に対して妹紅は正面から見据える。その真剣な表情に少しだけ慧音はたじろいだ、普段は慧音が妹紅を生活の指導したりして頭が上がらない関係だが、こと戦闘や妖怪に対する経験では妹紅が勝る。

 

「心配する気持ちはわかる、けどなお前が里を留守にするのはそれだけで危険だ。私がいたとしてもな…………それに──────」

 

「それに?」

 

「──────多分、輝雄は死なないよ」

 

「何を根拠に…………!」

 

 何故そんな事を言い切れるのか、妹紅も輝雄が妖怪と戦っている姿など見たこと無い筈だ。確かに彼は外来人だったが、それも最早昔の話。慧音にとって輝雄はかけがえのない同僚であり、人里の一員だ──────万が一の場合を、決して許したくは無かった。

 

「長く生きているとね…………偶に見るんだよ…………」

 

「………………何をだ」

 

 妹紅の、あまり見たことが無い表情に聞き返す。慧音の知る限り彼女の生きた時間は凄まじい物の筈だが。そんな彼女が“偶に”や“滅多に”という表現をするのはそれだけ重い意味がある。

 

「“人間は妖怪よりも弱い”

 そんな当たり前の事実に背いて、そして死んでも、死んでも死んでも、死ぬほど死に掛けても。

 どれだけ地獄を見ても、勝算が無くとも、自分の未来をかなぐり捨てても────────抗い続ける奴」

 

 妹紅が意を決しように重々しく口を開いた。抽象的だが、重みがある言葉だった。

 

「あぁ言う輩はね、行き着くとこまで行かない限り絶対に止まらないよ。だから私達は待とう」

 

「………………三日だ、三日経っても音沙汰が無ければ私も出る。これは譲れない」

 

 妹紅は一体彼に何を見たのか、仮に妹紅の言っていることが的を得ているとしら彼は何者なのか。疑問は尽きないが慧音は一先ず妹紅の言う通り、里の守護に専念する事にした。

 

「いいよ、でもまぁ…………アタシの予想じゃそんなに掛かんないね」

 

『あー、要らん汗かいた。風呂一緒に入らせて貰っていいー?』そんな呑気な事を言いながら妹紅は脱衣所へ消えていった。慧音はただ見送るばかりである。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「…………………………………………ザブイ”、デズ」

 

「アッハイ」

 

 紅魔館の正門、紅美鈴はいつも通り門番をしていた。しかし氷点下のこの気温では流石に妖怪でも快適とはいかないのだろう。冬服に着替えてマフラーなど巻いているが、顔色はあまり良くない。

 

 良くないというか青白い、見える肌は全て血色が悪い、現在進行形で震えている、輝雄は温かいスープと毛布をあげたくなった、勿論そんな物は無いが。

 

「いやお嬢様の命令を反故する気は有りませんがこれ普通に死刑宣告じゃないですか? この気温でずっと立ってろって妖怪じゃなかったら普通に死んでますよ? 身体が鈍らないようにずっと体を動かしているんですけど止まったらまた冷えてしまうので何だか自分がマグロになった気分ですよお陰で武術のキレが一段と増した気がしますなのでちょっと輝雄さん手合わせしていきませんか!?!?」

 

「すみませんちょっと急いでいるのでまた今度(超早口)」

 

 ガチガチと歯を震わせながら早口で喋る紅美鈴、何とも言えない哀愁が漂っていたが輝雄の用事に彼女は関係無い。一緒に身体を動かして少しでも暖を取ろうという魂胆を無視して通り過ぎようとする。

 

「いやここで置いて行くって人間ですか輝雄さん!? 待って!? 一人にしないで下さい!?」

 

「ちょ、離し──────寒ッ!? てか冷たッ!?」

 

 輝雄は行動と言葉を普段の三倍速くらいで門を通り抜けようとしたが、半泣きで凍え死にし掛けていても流石妖怪にして達人、素早く後ろから紅美鈴に抱き留められる。

 

 長身で出る所は出ていて引っ込むところは引っ込んでいる美女に抱き着かれるという幻想入り前の腐れ縁の男子同級生が聞いたら血涙を流しそうなシチュエーションだが、その感触も身震いする程の冷気を纏っていては台無しだった。

 

「あぁ…………輝雄さんの背中あったかいなりー………………」

 

「その言い方誤解を招きそうなんで辞めて貰えますか!? つか俺も寒いってか冷たい!? 折角走って温まったのに!」

 

 紅魔館に来る前に、人里の中で妹紅に追い掛け回された事によって温まったはずの身体が凄まじい勢いで冷えていく。余りの温度差に白い蒸気が霧のように立ち込めた、何気なく輝雄の運動量と代謝の異常性が垣間見えた。

 

「かがおさん…………わたしなんだかとってもねむいんです………………」

 

「それアカンやつやパトラッシュ!!!」

 

 まるで何かから解放されたように穏やかな表情で美鈴は脱力し、眠りにつこうとするが全力で輝雄が前後に振って起こそうとする。傍から見るとまるで最愛の恋人を死なせまいとするドラマのワンシーン、に見えない事も無い………………かも知れない。

 

「…………………………このクソ寒い中、何イチャついてんのよ」

 

「これがそんな風に見えんのか!!?」

 

「死の安らぎは 等しく訪れよう

 

 人に非ずとも 悪魔に非ずとも

 

 大いなる意思の導きにて……………………」

 

「パトるな!!! いい加減起きろ!!!」

 

 振り回されながらもそれでもなお眠ろうとする美鈴を起こす輝雄を、しっかり防寒着を着こんだレミリア・スカーレットが冷たいジト目でこちら見ていた。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「咲夜? あぁ異変解決に出かけたわよ」

 

 紅魔館内、パチュリーのいる図書館へ通じる廊下をレミリアと歩きながら輝雄は咲夜の姿が見えない理由を聞いてみた。

 

「アイツが? なんで? 異変解決なんて興味無さそうだけど」

 

「いくら何でも冬が続き過ぎよ、いい加減紅魔館の暖房の燃料が尽きるわ。魔法で賄うのも面倒だし」

 

「日が照ってないのは吸血鬼的にはありがたいんじゃないか?」

 

「紅魔館の庭園見たでしょ? 折角美鈴が手入れしてるのに雪一色よ、風情が無いにも程があるわ」

 

「その美鈴さんお迎えが来かけていたけどな」

 

 なお現在は来客も無いだろうという事で温かいスープを飲んだ後にぐっすり眠っている。流石に妖怪でもずっと不眠不休とはいかないのだろう、というよりも美鈴がタフ過ぎただけでもある、そしてレミリアが忘れていただけでもある。

 

「で、輝雄? 貴方は一体どんな用なのよ? 咲夜に会いに来たの?」

 

「いや、俺が会いに来たのはパチュリーさんだよ。異変について聞きに来たんだ」

 

「成程ね………………輝雄は世話を焼いてくれる女より、世話を焼かせる女の方が好みなのね」

 

「話聞けやコラ」

 

「美鈴程じゃないけどパチェも着瘦せするタイプなのよねー…………ちょっとムカつくわね、捥いでやろうかしら」

 

「クソどうでもいい情報アリガトウ、案内はもう良いから一人にしてくれるか?」

 

 ケラケラ笑いながら少し怖い事を言うレミリアに対して、どうでもいいと皮肉を愚痴りながら彼は呆れていた。二人並んで廊下を歩きながら他愛も無い話をする、一方は人外、もう一方は人間。幻想郷ならではの光景だろう。

 

 そんなこんなで図書館に到着し、いつもよりも薄暗く湿っぽい雰囲気に包まれた本棚をかき分けて魔女の元に輝雄はようやく辿り着いた──────なお、暇潰しという理由で結局レミリアもついて来た。

 

「………………あら、咲夜が行ったと思ったら今度は貴方が来るのね」

 

「お久しぶりです、一ヶ月ぶりくらいですかね?」

 

「そうね、フランも退屈してたわよ」

 

「遊んでやれよレミリア」

 

「フッ、これでも私は紅魔館の主よ? 色々と忙しいのよ、そう色々とね!」

 

((焼かれるのが嫌なだけね/だな…………多分))

 

 最早それ以外の姿を見たことが無い程いつも通り書斎机で本を読んでいた、言うまでもなくパチュリー・ノーレッジである。彼が来たことによって珍しく自発的に、本から顔を上げて魔法で椅子を動かし座る様に促した。

 

「異変解決のために来ました、何か手掛かりはありませんか?」

 

「単刀直入ね………………推測の域を出ないけど、それでも聞く?」

 

 輝雄は無駄な会話は一切省いてパチュリーに尋ねる、相手が頭脳明晰であることは既に知っている。ならば自分が余計な情報を入れる必要ない、そう判断してほぼ投げ出す形でパチュリーに話が振られるが特に気分を害した風でも無い。

 

 寧ろ魔法使いの生態や趣味嗜好として自身の見解や考察を語るのは得意とし、パチュリーとしても話が分かる輝雄と話す事は苦ではない──────吸血鬼の親友の様に無茶ぶりしないし。

 

「早速だけどこれを見なさい」

 

 そう言いながらパチュリーが机の上に何かが入った小瓶を出した、薄桃色に輝く結晶の様なものが漂っている。触っても問題ないのかパチュリーに確認を取ってから小瓶の中の物を観察する、よくよく見てみると桜の花弁に近しい形状だった。

 

「…………これは?」

 

「“春”よ」

 

 小瓶を手に取りながらしげしげと観察している輝雄の疑問に、パチュリーはすかさず端的に答える。それを聞いてもイマイチ要領を得ない彼は少しだけ顔しかめながら説明を促した。

 

「厳密に言えばそれは“春”という概念の気質、幻想郷では時期になるとそれが湧く事によって春という季節が来るのよ。いえ、春という時期に成ると言った方が正しいかしら?」

 

「……………………なら五月になっても“春”にならないのは異変でこれが出現しないから?」

 

 輝雄は何者かが、例えば冬の時期が長続きする事によって恩恵を得られるものがあるから今回の異変が起こったのか、と推測してパチュリーに確認する。しかしパチュリーは即座に首を横に振った。

 

「違うわね、順序が逆よ」

 

 輝雄の推測をバッサリ切り捨て、パチュリーが断言する。それをレミリアは小悪魔が淹れた紅茶を飲みながら眺めている。レミリア自身には今回の異変に首を突っ込む気は無いのか、二人の話し合いを今の所静観している。

 

「冬が長引いて“春”が出現しないのでは無く、何者かが“春”を簒奪している事によって冬が長引いているのよ」

 

「“春”を…………簒奪し、集めている? 何の為に?」

 

「さぁ…………? そこまでは分からないわ。でもその“何の為”って疑問に思う感覚は大事よ、幻想郷では()()()()()()()わ。

 ────────輝雄、推理小説で密室のトリックが犯人のテレポーテーションだった、なんてオチだったらどう思う?」

 

「………………ギャグ漫画かよ! ってツッコミますね」

 

「そうね、そういう展開が間違っているなんて傲慢な評価はするつもりは私も無いけど。少なくとも推理小説としては適切では無いし、推理やトリックを期待している読者に対しては誠実では無いわね。

 ────────でも幻想郷ではそんな事も全然あり得るのよ」

 

 魔法がある、霊力がある、空を飛べる、手から火を出せる、時間を止める、運命が見える。そんな事が()()()()()()事として幻想郷では罷り通る。パチュリーはwhen(いつ) where(どこで) who(誰が) what(何を) how(どのように)したのか? 等というある種()()()()()()事から事件の解決を図るのは不毛だと断じた。

 

 ────────しかし、

 

「でもwhy done it(何故犯行を行ったか)という疑問、これだけは幻想郷においても重要よ。何故なら異変という大きな出来事には起こした者の強い思惑がある、そしてそれを辿れば必ず首謀者に行き着く。それこそ推理小説よりも簡単にね」

 

「────────異変は得てして大規模だから、意志が反映されやすいから?」

 

 パチュリーは輝雄の返答に、今度は首を縦に振る。かつてレミリアが起こした紅霧異変は()()()()()吸血鬼であるレミリアが太陽を克服、幻想郷を支配しようとした事になっている。

 

 無論これは異変に関わっていない物が勝手に立てた予想であり、実際には紅魔館が幻想郷のルールに適応しているというアピールだったのだが。

 

(だが実際に、そのおかげで霊夢が紅魔館まで赴いて解決して、紅魔館は受け入れられている………………考えてみればあの異変はレミリアの思惑通りになったわけだ、フランと俺というイレギュラーがあったにせよ)

 

 ならば今回の異変、仮名付けるなら春雪異変とでも言おうか。異変の首謀者は何の為に“春”を集めているのか、輝雄は考える。仮に消滅などさせているのではなく、集めているのだとしたら何処へ向かっているのか。それが手掛かりとなる。

 

「パチュリーさん、どうすれば首謀者にたどり着けますか?」

 

「さっきも言ったようにその“春”は時期なれば自ずと湧くものよ。幻想郷全体から湧いた雪の結晶程の小さな物を一つずつ転移させるのは術式的に非効率。

 だとすれば首謀者の元へ、或いは特定の場所へ流れ込むような儀式が行われている可能性が高い」

 

「でも幻想郷全体からこんな桜色の結晶が集まれば流石に目立つはず………………となると、まさか外界に…………?」

 

「いえ、幻想郷の外は流石にあり得ない。この“春”も幻想の産物、妖怪が今の外で生きられない様にこの結晶も実体を保てない、あり得るとすれば幻想郷と繋がった異界。

 

 ────────そういえば、お誂え向きにここ最近の幻想郷はずっと曇天に覆われているわね? 吹雪の中、態々雲の上を飛ぼうとでもしない限り雲の上に何があるかなんて分からなさそうだわ」

 

「────────成程、そりゃ霊夢も炬燵から出たがらないわけだ」

 

 パチュリーはわざとらしくそう呟いて、話は終わったと本に目を落とす。それを見計らい小悪魔が紅茶を注ぐ。そして輝雄も向かうべき場所と為すべき事が分かったと言わんばかりに席を立ち、パチュリーに礼を述べて足早に立ち去る。結局レミリアは一連の流れを静観していた、そして輝雄がいなくなってから口を開いた。

 

「………………ふーん、やけに親切じゃない。パチェ? 咲夜にもそこまで教えて上げたの?」

 

「………………教えて上げようと思ったのだけど話を聞かなかったのよ」

 

「へぇ~? 貴方なら必要な情報を端的にまとめて、何処へ向かえばいいって言えそうなものだけどねぇ」

 

「………………何が言いたいのかしら? 持って回った言い回しはらしくないわよレミィ?」

 

 意味深な目つきでニマニマ見てくるレミリアをガン無視しながらパチュリーは紅茶を飲む、しかしそれでも不快なのか少しだけ魔力が高まっている。傍にいる小悪魔が少しだけ震えていた。そんなパチュリーの様子にもレミリアは恐れず悪びれずに今回の異変について考え、パチュリーに促す。

 

「咲夜とどっちが早いかしらね? 首謀者に辿り着くの」

 

「輝雄でしょうね。余計な戦闘は行わないでしょうし、咲夜はあれで抜けている所があるし」

 

 特に考える事も無く、パチュリーが断言した。それは頭脳明晰が故に出た結論なのか、それとも輝雄への信頼なのか。どちらにせよまたレミリアの笑みが厭らしく深まる。

 

「じゃあパチェは首謀者も輝雄が倒すと思っているの?」

 

「……………………ちょっと調べてみる?」

 

「は? どうやって?」

 

 そのレミリアの質問に対して、少しだけ興味が沸いたのか。また机の引き出しからパチュリーは何かを出した。掌サイズの長方形のカードの束、レミリアは一瞬トランプかと思ったが、その絵柄見て疑問が氷解した。

 

「タロット占い、クラシックねぇ………………それ信憑性あるの? 私の運命視の方が絶対精度高いわよ」

 

「でも輝雄には通じないじゃない」

 

「ぐっ…………」

 

 意趣返しなのかパチュリーに痛い所を突かれる。レミリアがぐうの音を出している間にせっせとタロットカードをシャッフルし、必要な道具とカードを並べていく。

 

「具体的に何を占えるのよ?」

 

「やり方次第ね、今回は輝雄の結末についてスリーカードでやってみるわ」

 

 パチュリーは大アルカナと呼ばれる二十二枚のタロットを念入りにシャッフルして、タロットを裏返しのまま並べる。そして左から順に縦位置を変えずに三枚を無作為に選び、ひっくり返す。

 

「スリーカードの占いは原因、過程、結果。もしくは過去、現在、未来。どちらも遠い未来の事は占えず近い未来を表すわ」

 

「へぇ………………で? この三枚は何を表しているの?」

 

 レミリアは興味深いのか、少し乗り出してパチュリーが選んだカードを見る。タロットの絵柄が何なのかはレミリアも知っているが、占いの結果やアルカナの意味までは知らない。

 

「…………………………大アルカナを用いた占いは意味が大げさだから必ずしも占い通りとはならないわ、これは飽くまでも可能性よ」

 

「もったいぶらないで早く言いなさいよ」

 

「………………正位置の塔、逆位置の死神、逆位置の刑死者」

 

 表に返したカードは左から順に、雷が落ちて壊れている塔、黒いローブに鎌を持った骸骨、木から吊るされている男だった。

 

「…………塔の正位置は事故、災難、崩壊。死神の逆位置は転換、始まり、終わり。刑死者の逆位置は報われない、終わりが見えない、自己犠牲」

 

 そしてこれらから物語を読むことがタロット占いとなる、パチュリーはアルカナの意味を思い起こしながらカードから輝雄が辿る結末を考える。カードによっては正位置と逆位置の意味が全くの反対だったり、殆ど変わらない物もある為に正確に読み取らなくてはならない。

 

(もしもこれが今回の異変を表しているなら…………『事故』や『災難』に遭って、彼は何らかの『転換』を迎え、ある意味では『始まり』またある意味では『終わる』、そして、その結果彼は『報われない』か『自己犠牲』の道を選ぶ………………?)

 

 パチュリーは少し考えたが、輝雄の性格が自己犠牲を選ぶとは少しだけ考えにくかった。フランの時には確かに命を懸けたが、あれは無償の善意などとは違うだろう。しかし、パチュリーにはそれ以上の意味をカードから見出せなかった。

 

「ふーん…………でもアイツは運命に縛られない能力があるみたいだし、あんまり気にすることは無いんじゃない? それに────────」

 

 レミリアは一拍おいて以前から考えて、疑っていたことをパチュリーに話してみる。

 

「────────輝雄が幻想郷に来た理由が、()()()の神隠しならアイツが幻想郷に来た事には何らかの()()があると見るべきよ。何を企んでいるのか知らないけど、そう易々と死なせはしないでしょう」

 

 レミリアは輝雄が幻想入りしたのは偶然ではなく必然だと考えていた。何故ならあれだけ社交的ならば人々から忘れられるというのは考えにくい、いくら輝雄自身が世捨て人のような考え方や価値観を持っていたとしてもだ。

 

 ────────幻想入りするならば人々の記憶から忘れられなければならない。これは意志の介在しない無機物以外、全て共通する。例外として誰かに神隠しされる事があるが……………まず八雲紫である。

 

「あんだけ濃いキャラしてる奴がそう簡単に忘れられるわけないわ、きっと賢者が絡んでるんでしょうよ……………………じゃ、咲夜もいないことだし私はもう寝るわね。小悪魔、私が自室に戻るよりも速くベットメイクなさい」

 

「え!? あ、はい! 承知致しました!!」

 

 言いたい事を全て言い終えたレミリアは欠伸をしながら席を立ち図書館を立ち去る、そして唐突に命令された小悪魔もその後を追いかける。残されたパチュリーはレミリアの言い分を考えてみるが────────。

 

(………………だったら八雲紫が輝雄も、その周りにもずっと無干渉なのは何故? 私達(紅魔館)はともかく、博麗の巫女あたりに何かを言っておかないのは不自然

 ────────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 ────────どう考えても説明がつかない事の方が多い。無論パチュリーが知り得ていない情報もあるのだろうが、それでも輝雄を野放しにしておくことはそれなりにリスクがあると考えるのが自然だ、何故なら彼は無力な外来人では無いのだから。

 

「……………………………………死神の逆位置、『転換』『始まり』『終わり』」

 

 彼は一体、何処へ向かうのか。そして何に、導かれているのか。

 そんな事がずっと頭の中で渦巻き、珍しく本に集中出来なかった。

 

 

 

 





 占い方は何通りかあるみたいですね。

 最初はヘキサグラムってのにしようかと思いましたが、セルフネタバレみたいになりそうで止めました(笑)
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