幻想禍津星   作:七黒八白

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本当は紅霧異変で会わせるつもりだったんですけど、引き伸ばしに引き伸ばして春雪。
我ながら無計画ったらないぜ(泣)!!!



第二十四話 燦々たる彼、鬱々させる彼女

 ────────幻想郷中の“春”を集める。

 

 異変の首謀者が一体何を企んでいるのかは現時点では判断しかねる、パチュリーとの話し合いからそう考えた輝雄は急いで紅魔館の玄関から出る。未だに空は晴れておらず、針が刺すような冷気が漂っている。振り続ける雪により、色とりどりの花が咲き乱れる庭園は白一色だった。

 

(………………気のせいじゃなけりゃどんどん寒くなってないか?)

 

 ────────何故か胸騒ぎがする、単純に冬から季節が変わらないだけで済むのだろうか? 

 

 そんな事を考えながら輝雄は紅魔館からそのまま真っ直ぐ雲へ向かう、分厚い乱層雲の中を飛翔し続け雲の上を目指す。上空に近づくにつれ空気が薄くなっていくのが分かるが特に体に不調は感じない為、そのまま速度を上げていく。

 

 ────そして

 

「おぉ…………! 久々に青空を見た…………!」

 

 目が届く範囲は全て雲と、どこまでも続く青い空だった。本来なら眼下には幻想郷の山や里も見える筈だが現在は雲海に隠されている。雲とは対照的に青一色の上空、そして五千メートル飛んでなお全く変わらない太陽、そんな当たり前の光景に感動した。それだけ美しい空だった。

 

 幻想郷に来て間違いなく外の世界よりも恵まれている事は空を飛べるようになったことだ。雲海の上で澄んだ青空に感動しながら輝雄は疑問を覚えた。空気は薄くなっている以上、幻想郷においてもある程度の物理法則は通じている。にも拘らず────

 

「────────暖かい、だと…………? 高度約五千メートルだぞ、地上より三十度は低い筈…………」

 

 一般的に高度千メートルで六度程気温は下がる、にも拘らず何故か全く寒くない。どころか地上よりも暖かいくらいだった。まるで雲の上だけ時期相応の気温になっているかのようだ。輝雄はパチュリーから貰った“春”が入った小瓶を懐から取り出す。

 

「さて、術式の効率がどうとかパチュリーさんは言ってたけど、どうかな…………?」

 

 そして栓をしていたコルクを外して、外に“春”の結晶を空中に振りまく。もしもパチュリーの予想通りに雲の上に原因があるなら結晶は滞空するか、どこかの流れていくはずだと輝雄は考えた。

 

 周囲に巻かれた“春”は一瞬自由落下しそうになったが、宙に留まり、そして風も無いのに一つの方向に流れていく。彼はその流れを少しだけ距離を取って追いかける。

 

「ビンゴ…………さぁ、何処のどいつだ? 身勝手な事をしでかしやがって」

 

 獰猛な笑みを浮かべ、牙をむいてこれから異変の首謀者とどう戦うか考えながら飛翔し続ける。既に太陽は傾き始めている、あと数時間で日没。妖怪が相手だとすれば場所にもよるが不利なのは輝雄の方だろう。

 

 ──────しかし

 

(────────関係ないな、いい加減寒いのは飽き飽きだ)

 

 人里はもうそろそろ限界を迎えるだろう、幻想郷の生態系の心配もある。今頃霊夢や咲夜も異変解決に奔走しているのだろうか。霊夢は不明だが自分よりも早くに出たらしい咲夜ならもう既に首謀者に到達していてもおかしくない、そんな事を考えながら“春”を追いかけながら飛んでいると妙な物が見えてきた。

 

「いかにも………………って感じだな」

 

 かなりの距離と高度まで飛び続けた結果、“春”の結晶が徐々に増え続け、まるで桜吹雪の様に雲海の上で渦巻いていた。白と青しか存在しない中、美しい光景に見惚れるが不気味な物が一つだけ浮いていた。

 

 ────────桜吹雪、その中心にまるで虚空に空いた孔があった。

 

「パッと見、ブラックホールみたいだな…………引力は無いから違うんだろうけど」

 

 そして雲の上に集まった“春”は渦巻きながら、その虚空に吸い込まれいていく、それを暫くの間見ながら彼は孔が何処に繋がっているのか、その先に首謀者がいるのか考えてみるが結論は出ない。

 

(戻って来れる保証はないが…………)

 

 悩んだのちに、このまま足踏みをしていても仕方がないと結論づけて。覚悟を決めて入ろうとした瞬間に──────―

 

「待ちなさい、そこの人間」

 

「そっちは行かない方がいいわよ~」

 

「ていうか行かないでー、邪魔されたくないのー」

 

「あ?」

 

 ────────色違いの似た服を着た、三姉妹の様な楽器を持った少女達に止められる。

 

 ヴァイオリンを持った金髪の少女、トランペットを持った薄い水色の髪の少女、キーボードを持った薄い茶髪の少女。顔立ちがとても似ている、ほぼ間違いなく血縁関係があることが伺える。

 

「誰────────かは、どうでもいいな。何でこの先に行ってはいけないんだ?」

 

「………………取り敢えず、名乗っておくわね。私達はプリズムリバー三姉妹、私は長女のルナサ」

 

「私は次女のメルランよ、管楽器を担当してるわ~」

 

「三女のリリカです! 主に鍵盤楽器を担当してるけど全部の楽器が使えるよ!」

 

「だからお前らが誰かはどうでもいいつったろ。何でこの先に行っちゃいけないんだ?」

 

 雲の上に来れている時点でこの三姉妹もただ者では無い事は察している、人ではない可能性も十分ある。問題は何故自分の事を止めるかだ。そして、止めるという事はこの三姉妹が異変の首謀者に関わりがあるのならこの先に首謀者がいるという証左でもある。

 

「その先は冥界よ…………愛する人でも連れ戻したいの? 琴は持ってないようだけど」

 

「いや? この先が冥界ってのは今知ったよ。そして俺が用があるのは冥界の主だな、多分ソイツだろ? 異変の首謀者…………そしてお前らは雇われた用心棒、三首の魔犬ってところか」

 

「………………察しがいいわね」

 

 金髪の少女────────ルナサ・プリズムリバーが孔が何処に繋がっているか告げ、さらに異変の首謀者が居る事と自身達が用心棒という事も素直に認めた。ルナサは冷静に、そして輝雄に対して静かに語りかけてくる。

 

「異変解決なら不要よ…………もうすぐ“春”が集まりきって異変が終わるわ。博麗の巫女にも伝えてくれる?」

 

「伝えるさ、『お前が炬燵で丸くなっている間に俺が片付けた』ってな」

 

「……………………話聞いてた? 異変は────────」

 

「お前が本当の事言っている保証がどこにある? そもそも身勝手な真似でどれだけの人間が迷惑を被っていると思う? 

 “もうすぐ”じゃない、“いますぐ”に異変を終わらせろ」

 

 ルナサの忠告を輝雄はバッサリ切り捨てる。そもそもの話、人里側が被害者である以上加害者側に配慮などする必要は無いと彼は考える。第一今の今まで死者が出ていないのはただの偶然だ、輝雄には相手に譲歩するつもりは毛頭無かった。

 

「…………私達にそんな事を言われても」

 

「だろうな────────だからそこをどけ、俺が直談判する。邪魔するなら容赦しない」

 

「…………!」

 

 沸々と、輝雄の霊力が殺気交じりに湧き上がる。この威嚇で怯んで道を譲るならそれで良し、譲らないようなら暫くの間楽器の演奏が出来ない体にする。阻む様なら誰であろうと、人妖分け隔てなく嚙み砕くのみである。

 

「…………少しだけ話し合いをさせて」

 

「一分で済ませろ、一秒でも遅れたら攻撃を開始する」

 

 時間稼ぎは許さない、言外にそう示す。三姉妹は集まり輝雄には聞こえないように頭を突き合わせてヒソヒソと話し合う。

 

(どうする? 多分あの人かなりの手練れよ)

 

(三人がかりで戦えばいいんじゃない~?)

 

(弾幕ごっこで三人で入れ替わりに戦えば相手の方が先にガス欠するよ、大丈夫だって!)

 

(…………そもそも何だけど、人里にこの高度まで来れる人間なんて居たかしら? 博麗の巫女が来る方がまだ自然よね…………)

 

 ルナサが妹二人に意見を求める、メルランは三人がかりで戦えばいいだろうと言い、リリカもそれに賛同する。しかしルナサは何故か嫌な予感が拭えない、正直に言うと戦いたくなかった。だからと言って素通りさせれば自分達の願いはかなわないかもしれない。

 

「因みに言っとくが、俺はスペルカード持ってねぇからやるならガチの戦いだ。そして俺は女でも戦いなら顔面でも容赦なく殴るし踏み抜く」

 

 そして相手はやる気、というか殺る気充分のようだ。ルナサは益々戦いたくなくなった。しかしやる気というワードでいい案が思いついて二人にそれを提案してみる。

 

(そうだわ、私の“鬱の音を演奏する程度の能力”でやる気を削ぎましょう。そして異変が終わるまで人里で静かにしててもらうように言い聞かせましょう)

 

(えー…………まぁいいけどさぁ……)

 

(私もそれでいいわよ~)

 

 ルナサの提案にリリカは少しだけ不満気だったが、メルランは特に拘りは無いのかそれでいいとルナサに一任した。僅か一分の話し合いを終えてルナサは輝雄に提案を話してみる。

 

「私達は“騒霊”だけど別に人間を積極的に襲う気はないわ………………でもだからと言って貴方を冥界に簡単に通すのも雇い主に対して不義理だわ」

 

「……………………まぁそれがアンタらの筋ってもんだろうな…………で?」

 

「“及ばないながらも時間稼ぎはした”という口実が欲しいのよ…………“一曲”だけで良いわ、私のヴァイオリンを聞いていきなさい。

 貴方がどれだけの実力者でも私達三人と戦うよりは時短になるでしょう?」

 

 彼は一定の理解を示しながら『それが自分に何の関係が?』と続きを促し、飽くまでも押し通るつもりであると示す。それをルナサは感じ取り、折衷案として自分の策を出す。

 

 ルナサ・プリズムリバーの能力、“鬱の音を演奏する程度の能力”は聞いた者の耳や脳では無く、()()()()()()()()()。自分の思い通りに相手を精神操作するのでは無く、究極的言ってしまえば心を落ち着けるだけの音を出す能力、だからこそ人間に対しても妖怪に対してもかなり有効である。

 

(尤も、私が本気で演奏すればほんの数分で重度の鬱位気分が落ちる事になるけどね…………異変に挑むなんてとても出来ないはず)

 

「………………三分で済ませろ」

 

「えぇ、()()()()()()()()()()()()()

 

 戦うよりもリスクが無いと判断したのか、彼はその場で腕を組んで宙に留まったまま胡坐をかく。それを見たルナサは準備は整ったとヴァイオリンに魔力を通し、優美な音を奏でる。

 

 人間に聞かせるにせよ妖怪に聞かせるにせよ、普段はリリカとメルランと三重奏(トリオ)の為、人前で独奏(ソロ)で弾くのは初めてだった。しかも聞くのは彼一人だけ、妹二人のせいには出来ない、言い訳は出来ない、どこまでも自分だけの技量が試される。

 

(騙すような形だけど────────演奏自体は手を抜かない)

 

 今まで人前で演奏する時よりも三人で練習する時よりもずっと緊張し、ルナサは時間の流れが緩やかになる感覚を覚えた。普段は息をするように出来る事を丁寧に、されど美しく奏であげる。

 

(どう? まだ一分位でしょうけど、もう飛んでるのも辛いんじゃない?)

 

 鬱の音色は問題なく曲として成り立っている、ルナサは慣れないながらも会心の出来を確信して輝雄の方に目を向けるが────────

 

「成程な、これからの戦いに向けて景気づけには良い演奏だ」

 

「────────!!?」

 

 ────────全く意に介していない。

 寧ろこの先の冥界に向かうのに“景気づけ”に良いなどと言っている。その意を削ぐ為に鬱の演奏がされているというのに。ルナサは自分の企みに気付かれたのかと内心少しだけ焦るが、それならば演奏を中断させに掛かるはずだと思い直す。残り時間は半分も無い。

 

(────────どうして? もっと出力を上げて────いや演奏が乱れる。これ以上は調和が取れない)

 

 結局、三分間全力で演奏し続けたが輝雄を鬱の状態にさせる事は出来なかった。途中からもっと能力を強めようかと考えたが演奏自体に障る為、音楽家としての矜持が許さなかった。

 

「………………流石だな、丁度三分だ」

 

「えぇ………………ご清聴ありがとうございました」

 

 後ろにいる妹二人が不安げな様子だったが、それを目だけで制する。彼を止める事は出来ない、何故能力が効かなかったのかは不明だし、今から実力行使しようとすれば本気で排除されるだろう。何より約束した以上、それを破る様な真似は流石に憚られる。

 

「ルナサ、だったか?」

 

「…………何?」

 

 胡坐を解いてルナサの横を通り冥界の入口────────正式名称、幽明結界に入ろうとする直前に輝雄から声が掛けられる。

 

「良い演奏だった、機会があればまた聞きに行く」

 

「────────」

 

 ルナサは、自分の曲が人間にとっても妖怪にとっても脅威である事を自覚していた。

 

 ────────だからこそ、その言葉をかけられた時、どんな反応をすればいいのか分からなかった。

 

「あ…………えっと、あ、ありが「全員降下しろ!!!」────────!!?」

 

 取り敢えず何か言っておこうとした瞬間、ルナサは輝雄に覆い被さられる形で急降下させられた。突然の出来事だった為、頭が真っ白になり『あ、珈琲の香りだ。珍しい』等と場違いな事を感じた。

 

 

 

 ────────そして、つい数瞬程飛んでいた場所に巨大な極光のレーザーが通り過ぎた。非殺傷とはいえ凄まじい威力と範囲に空気が熱せられ膨張し、周囲の“春”が散っていった。

 

 

 

「ッ!!? メルラン!? リリカ!?」

 

 自身とほぼ直線状にいた妹二人が、何者かが放った弾幕に飲み込まれた。死んではいないだろうがそれでも不意打ちの高威力だった事は見て取れる。完全に弾幕が消え去った後には、先の一撃で気絶している二人が力無く漂っている。

 

「気絶してても飛翔は解いていないか…………落下死は免れたな」

 

「言ってる場合!? 妹達が────────」

 

「分かってる、助けに行ってやれ。

 

 ────────下手人は俺が相手しといてやる」

 

 抱きかかえられた状態で暴れるルナサを宥め、数十メートル程先にいる黒い三角帽子に白いエプロンを着た金髪の少女に目を向ける。

 

 箒に跨るその姿はパチュリーよりもある意味では魔女らしかった、そしてルナサが妹二人を回収し雲の下へと去っていくのを見てから輝雄に話しかけてきた。

 

「いやー危なかったなぁ、お前。あのまま騒霊の演奏を聞いてたらどうなってたか、分からんかったぜ?」

 

「────────白々しいんだよクソガキ。明らかに演奏が終わって、気が抜けた所を俺諸共撃っただろうが」

 

 紅霧異変を超えて、普通の魔法使いと普通では無い外来人が会合した。

 

 

 

 

 

 

 






 この話を描くにあたって三姉妹の事を調べてたんですけど、ルナサの能力って、あの閻魔様にもある程度効いているらしいんですよね。何気に凄くね?

 あと、タイマンでも強いらしいけど、好戦的とは無かったのでこうなりました。
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