幻想禍津星   作:七黒八白

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 主人公のステゴロの強さとかあんまり活かせてないな………。
 折角の個性なのに。鬼とか出始めたらもうちょい映えそうではある、いつなるかは知らん。


 そろそろ、出るなーあの人。人じゃないけど。


第二十六話 誰にも望まれぬ来客

 

 

 

 

「ぐっ…………痛てて…………」

 

「あら、起きたの?」

 

 魔理沙は異変解決に向かっていたはずなのに何故か自分に掛かっている暖かい布団と、隣から香ばしい紅茶の香りを感じ、目が覚めた。

 

 顔を横に向けてみるとウェーブがかかった短い金髪に青い瞳、周囲には似たような洋服のドレスを着た人形が浮遊している。同じ森に住んでいる魔法使い、アリス・マーガトロイドだった。

 

「………………なんだ、アリスかよ」

 

「『なんだ』とは何よ、全く………………輝雄に言われなかったら助けなかったわよ」

 

「…………輝雄? …………そうか! 私は────ッ!」

 

 目覚めたばかりで覚醒していない頭では一瞬言葉の意味が理解できなかった、しかし自分が輝雄との戦いに負けた事を思い出し起き上がろうとするが、僅かに上体を動かしただけで凄まじい頭痛が走りそのままベットに背中から落ちる。

 

「無理しない方がいいわよ、寝かせてただけで特に回復魔法とかは掛けて無いから。でも、その様子なら大事無さそうね」

 

 素っ気ない言葉をかけるが、それでも一応看病はしてくれていたのだろう。アリスは魔理沙が元気な様子を確認すると人形に魔理沙の分の紅茶を淹れさせる。人形から差し出された紅茶をぼんやりとした表情で眺め、ゆっくり起き上がり受け取りながら口を開く。

 

「………………なぁ、私はどのくらい寝てた?」

 

「貴方が寝てたのは一刻くらいね、私はそこまで詳しくないけど高山病ってそんなに簡単に治るものなの? もう少し休んでた方がいいんじゃない?」

 

「…………やけに優しいな、私達ってそんなに親しかったか?」

 

「別に? そうでもないでしょう。ただこの吹雪の中に放り出す程、私も鬼じゃないってだけよ」

 

 必要以上に会話するつもりがないのかアリスは手元の魔導書を読み始めた。魔理沙も回復しきらない内に異変解決に向かうのは得策ではないと考え、今だけはアリスの温情に甘んじる事にした。魔理沙は冷めないうちに紅茶を少しずつ飲み、ある言葉が脳裏によぎる。

 

『球速がどれだけ速くてもストレートだけじゃあな、変化球が無いなら脅威じゃねぇよ』

 

「……………………」

 

 目が覚めきってしまったのか眠りにつく事が出来ず、輝雄との戦いを思い出す。普段通りの弾幕ごっこなら恐らく自分が勝っていた、自信はある。しかし相手は弾幕ごっことしてではなく通常の戦闘として戦っていた、その意識の差が勝敗を分けた。

 

 魔理沙はそのことを攻めるつもりはない、流石に自身の行いを客観的に見る事ぐらいは出来る、反省するかどうかは兎も角。向こうは停戦や妥協案を出したにもかかわらず、一方的に戦いを仕掛けたのは魔理沙なのだから。その事を棚に上げて非難など、いくら噓をつくことが常習化してる魔理沙でも憚られた。

 

「…………なぁ、アリス? 私をアリスの元まで運んだのは輝雄なんだろ? 輝雄の奴なんか言ってたか?」

 

「────────そうねぇ」

 

 アリスのページを捲る手が止まる、そして一刻程前に俵の様に魔理沙を担いで来た輝雄を思い出す。

 

 横なぐりの激しい雪の中で自分が着ていたであろう防寒着の外套とマフラーを魔理沙に巻きつけ、彼自身は上半身に着ているのは黒いインナーと山刀(ナタ)を巻き付けているだけ、ズボンも特別防寒に適している様には見えない。氷点下の環境下では信じられない程の薄着だった。

 

 アリスも普通の人間ほど暑さにも寒さにも弱くないが、それでも吹雪の中でほぼ半裸の輝雄が平然としている事に顔を引き攣らせそうになった。気絶している魔理沙を風邪が引かないように気を使ったのだろうが、もう少し何か良い方法が無かったのだろうか。

 

『突然すまないアリス、コイツ預かって貰えないか?』

 

 そんな事を考えながら玄関の扉を開けて呆けているアリスに、吹雪を受けながら上半身半裸の大男はいきなりそんな事を言い出した。輝雄にとって、この時だけは幻想郷が法治国家では無い事が僥倖だったろう。

 

『…………輝雄、私は一応妖怪に分類されるけど人攫いの共犯者になるつもりは無いわよ?』

 

 しかしアリスもただの少女では無い、悲鳴など上げずに冷静に取り敢えず輝雄に対して下衆な行いの片棒を担ぐ気は無いと断る、無論彼がそんな事をするとは全く思わないが。アリスは一緒に紅魔館に行ったあの日から、様々な交流から輝雄の人となりは大方把握していた。

 

 ────────いや、それでも一人暮らしの女性の家に半裸で訪れるのは正直ドン引きである。彼が偶に何を考えているのか本気で理解できない時がある。

 

『違ぇよ。戦って気絶させたはいいが神社に霊夢はいないし、紅魔館は多分不味いし、人里は慧音さんに引き留められるからアリスしか頼れなかったんだ』

 

『………………それは構わないけど、貴方今何してるの? 異変解決?』

 

 やや破天荒というか常識に囚われない彼に対して、少しだけ眩暈がする感覚を覚えながらアリスは一応事情を聞いてみる。彼はバツが悪そうな顔をしながらもそれを肯定し、魔理沙を俗に言うお姫様抱っこに抱え直してアリスに差し出す。

 

『まぁな、それで魔理沙とちょっと戦ってな。不意打ちがムカついたからスペルカードルール無視して倒した』

 

『はぁ…………貴方結構恐い性格してるのね、吸血鬼と仲良くなれるわけだわ。分かったわよ、分かったから服を着なさい。見てるこっちまで寒くなりそう』

 

 魔理沙を受け取りアリスの人形が輝雄の防寒着を返す、それを着直しながら輝雄はそのまま立ち去ろうとする。

 

『待ちなさい、折角だし紅茶くらい飲んで行ったら? 珈琲のほうがいいならそっちもあるけど?』

 

『ありがとう、でもそれは異変解決してからだな。人里はもう限界が近い。

 子供達もいい加減、肉体労働の手伝いばかりな冬休みにウンザリしてるだろうしな』

 

 アリスが呼び止めるがそれを断り、また雲の上に向かおうとする。しかし何かを思い出したのか少し留まり、上空からアリスに振り返る。

 

『あぁそうだ、魔理沙が目覚めたら言っといてくれ。今度はちゃんと真っ向勝負しようって、やる気があるならだけどな』

 

 “ソイツ負けず嫌いそうだし”、そう言い残して今度こそ雲の中へと凄まじい速度で上昇していき、十秒と掛からず姿が見えなくなった。その背中を見送ったアリスは魔理沙を抱えたまま家の中に戻り、人形に扉を閉めさせる。

 

 

 

「────────“やる気があるなら、また戦ってもいい”って言ってたわね。

 貴方が負けず嫌いな事はお見通しみたいね」

 

「………………気が利き過ぎて逆に鼻につくぜ」

 

 魔理沙は気を悪くしたのか、布団をかぶりそっぽを向いて無理に眠ろうとする。それを見たアリスは“まだまだ子供ね”と言い残して使い終わったティーセットをキッチンまで運ぶ。

 

「…………今日中に晴れそうね……輝雄、珈琲に合うクッキーも焼くから無事に帰ってきなさい」

 

 窓から見える吹雪は一向に衰える気配が無い、しかしそれでもアリスは何かを確信していた。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

 ────────魔理沙がアリスの家で目覚める少し前。

 

「………………意外だな、冥界とか幽世ってのはもっとおどろおどろしい雰囲気かと思ったが。

 ────今の常世よりも明るいくらいだ」

 

 結界の孔を抜けて輝雄は冥界に辿り着いていた。当然だが冥界に来るのは初めてなので、その風景に圧倒されていた。常世とは違い様々な植物の花が咲き乱れており、まさに春真っ盛りだった。特にゾンビとか妖怪などは見かけられない。

 

「建物はあれだけか…………ほぼ間違いなくあそこに首謀者がいるだろうな」

 

 冥界に上空から見えた途轍もない広さの武家屋敷の様な建物。何百段あるか分からない階段の先にあるソレは見事な枯山水の庭と信じられない程巨大な枯れた木が遠目からでも見えた。

 

 ────────そして枯れた巨木に“春”が集まっているのも。

 

「………………………………?」

 

 輝雄はそのまま屋敷に向かおうと歩き出すが、何となく、後ろに視線を感じた気がして振り返る────────当然誰もいなかった。

 気を張り詰め過ぎているのだろうか、と思い直し。首を鳴らして肩を回す、そして異変解決の為に歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………巫女でも、魔女でも、メイドでもなく貴方が一番乗りとはね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「どんだけデケェんだよ………………」

 

 近づけば近づく程その屋敷の大きさに圧巻される。紅魔館も庭園を合わせれば結構な大きさだったが、この武家屋敷の敷地は間違いなくそれ以上である。特に枯れた巨木が一番大きい、恐らく広葉樹の様だが輝雄が知る限りこのデカさに当て嵌まる植物は無い程だった。

 

(バオバブか? いや違うな、この形状と枝の広がり方は北半球の植生だよな…………それにこの異様な雰囲気、一体……?)

 

 最初輝雄は霊力と体力を回復させる為に冥界に入ってからは歩いていたが、尋常ではない長さの階段に辟易し半分時点で飛翔した。そして枯山水庭園に繋がる大きな門に到着し、振り返るとかなりの高さにあるのか冥界全体が見渡せる。

 

「こんだけ見渡せる場所に居を構えるって事は冥界の権力者なのかな?」

 

「────────えぇ、ですので。貴方の様な曲者を通すわけにはまいりません」

 

「そう言うな────────よッとぉ!!! 危ねぇな!!!」

 

 輝雄が誰に言うでも無く呟いた独り言に、返答がくる。それに対して呑気な返事をすると

 

 

 

 ────────振り向きざまに、頸が合った箇所に真剣が水平に薙ぎ払われる。膝を曲げ、背を反らし、目の前を銀閃が素早く通り過ぎた。

 

 

 

「今のを避けますか…………ただの曲者では無く、面倒な曲者みたいですね」

 

「曲者には変わりないのか、てか不意打ちしたいなら黙ってりゃいいのに」

 

「────────その時は貴方の蹴りが反撃としてきていたでしょう?」

 

「────────ハハ、ナニヲイッテルンダ。ソンナワケナイダロウ?」

 

 輝雄は余裕綽々な笑みを浮かべながら、ワザとらしく片言に返事をする。彼は冥界に入った時点で臨戦態勢は解いていない、そのため足音を殺した後ろの気配にも気づいていた。

 

 白髪と銀髪の中間のような髪を綺麗に切り揃えている様はまるで市松人形のようだった。黒いリボンがついたカチューシャで髪を整え、肌は女性という事を差し引いても色白く、輝雄が見た所感では背丈と年齢は霊夢と同程度に思えた。

 

 白いカッターシャツの上から緑色のベストを着用しており、同色のスカートを穿いている、そして草履かと思えば意外や意外、ローファーらしき物を履いている。

 

「和洋折衷か? ハイカラだな」

 

「お褒めに預かり恐悦至極────────しかしその余裕、何時まで持ちますか!」

 

 門の狭い範囲内で更に距離を詰めて唐竹割に長刀が振り下ろされる、革靴という融通が利かなそうな履き物であるにも関わらず、瞬く間に距離を詰めてくる。

 

 しかし直線的な動きに加えて、目の前から構えを見ていたのならば避けられないことは無い。輝雄は故意にギリギリで躱し門をひらりと飛び越えて枯山水の庭園に躍り出る。敷き詰められた砂利と自然物を模しているであろう無骨な岩が、広い敷地に点在していた。

 

「お前は首謀者の従者か? ボスは何処だ?」

 

「冥土の土産に教えて差し上げましょう」

 

「ここがその冥土だろうがよ、何? 帰りに包んで渡してくれんの?」

 

 せせら笑う輝雄に対して女剣士はまともに取り合わず、刀をゆっくり鞘に納め腰だめに構えた。それを見て輝雄は訝しみ、近接では無く弾幕を用いるのかと考えるが。

 

(…………納刀? 戦意喪失────────いや!)

 

「気付くのが遅い!!!」

 

 構えの意図に気付き剣士の直線状から全力で逸れようとするが、先程の倍以上の速度で迫りくる。異常な瞬発力により剣士の足元の砂利が爆散し、輝雄までの砂利も抉られたように散っていった。

 

「ガッ────────!!?」

 

 空間が歪んだと錯覚する速度で刀身が振りぬかれ、逃げ切れなかった輝雄の腹部に刃が通り、身体がくの字に折れ曲がる。剣士は前傾姿勢で通り過ぎ、打ち据えられた輝雄は力無く宙を舞った。

 

(手応えあり…………咄嗟に身を捻り、躱そうとしたが避けきれなかったかな)

 

 剣士は得意げに、小さく笑みを綻ばせて愛刀である楼観剣(ろうかんけん)を鞘に納めて────────

 

 

 

「────────残心怠ったな?」

 

「────────!?!?」

 

 

 

 ────────こちらの心を見透かした声に身体一瞬強張った。

 背後であとは受け身も取れず、墜落するだけの筈だった曲者はどこから取り出したのか、短刀を()()()振り下ろす。咄嗟に取り回しが良い小刀、白楼剣(はくろうけん)で受け止めるが。

 

(重い!? 何ですかこの膂力!? 人間の力じゃ────────)

 

 地に足を着けて踏ん張っている自分に対して、空中で吊られているかの様な体勢の相手側。どう考えても地の利は自分側にある筈にも関わらず、勢いを殺しきれず仰け反った。

 

 ────────その隙に、すかさず放たれる横蹴りが強かに肩を撃ち据える。

 

「────────!?!?」

 

 霊力で身体を強化して防御したが、それでも鎖骨と上腕骨と肩甲骨が強烈な衝撃に軋む。仰け反っていた体勢であった為、踏ん張りが効かずに勢いよく塀まで吹っ飛ばされる。頑丈に出来ている塀は剣士の衝撃を緩和せず、反作用をその身に返す。

 

「かっ……はっ……!」

 

「ふー……幻想郷はすぐ刃物持ち出す女が多くておっかないね、外の世界のヤリ手のナンパ師とかが幻想入りしたら三日と経たず刺されそうだな。お前はどう思うよ?」

 

 くるりと、一息つきながら身を翻し足から着地する。そしてまた同じ様に余裕綽綽な笑みを浮かべ、どうでもよさげに世間話を投げかける。無論、相手がそれどころでは無い事を承知の上で。

 

「なぜ…………斬れていない…………!」

 

「ギリギリ斬撃と身体の間に山刀(ナタ)を挟めたんだよ。

 有ったら便利かなと思って持ってはいたが、まさか使うことがあるとはな…………」

 

 壁面に叩きつけられて、呼吸困難になっていながらも臨戦態勢を解かずに剣士は輝雄を睨みつける。その敵意の籠った視線を涼し気に受けながら彼は手元の山刀を弄ぶ。

 

(……………………私の刀の様な特殊な武器で無いなら脅威じゃない、問題は右肩の具合……!)

 

 肩を抑えて、力を僅かに加える。痛みはするが骨は折れていないようだった。しかし右肩周辺の骨格が痺れるほどのダメージは決して無視できない。刀を振る力が出し切れるかどうか、痛みを歯を食いしばりながら耐え、立ち上がる。

 

「……………………前言撤回します。貴方は曲者では無い、武士(もののふ)だ………………名前をお聞きしても?」

 

「……………………嶋上輝雄、ただの人間だよ」

 

「貴方がただの人間…………? 質の悪い冗談ですね。

 白玉楼の庭師兼剣術指南役を務めている魂魄妖夢です────以後、お見知りおきを」

 

「滅多矢鱈に真剣振り回している癖に以後も何もないだろう?」

 

「もし貴方が死ねばここで(冥界)暮らす事になりますよ、その前に閻魔の裁きを受けますが」

 

「ハッ!どっちもごめん被る!!!」

 

 図らずも両者共に弾丸の如く駆け出し、刃が交差し火花が散った。

 

 

 




 
 ちょいと新作ゲームに現を抜かしております。申し訳無い!
 それでも月一は最低限投稿しますので、無理な時は活動報告とかTwitterになんか載せます。

 マジで精神と時の部屋が欲しい。
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