あと、ゆかりんファンの方々。キャライメージとか違ったらごめんね。
どうしても主人公のスタンスと合わないのよ、性格が。
つまり今回の話は今まで息をしていなかった“アンチ・ヘイト”が働くかもしれないという事、読む方々はお気を付けください。
────────嶋上輝雄の能力は彼の何者も寄せ付けず、他人に共感せず深入りしない、自身の在り方を歪めたくない強い
八雲紫は考えた、ならばその前提条件である精神力────────
西行妖を再封印するという絶対に失敗が許されない使命があるため、妖力を温存しようと考えていたが、甘かったと言わざる得ないだろう。内心紫は舌打ちをする。
(私とした事が恵まれてない人間の、後先省みない精神性を甘く見てたわね…………
出来る事なら能力を無効化してから彼の中身────────特にその来歴を
目の前いる男から凄まじい殺意と霊力を感じながら、紫は鼻の下を少しだけさする。まだ痛みは消えきっていないが血は既に止まった、問題は────────
(────────彼との近接戦闘を想定して
偶然かと一瞬疑うが、直ぐに思い直す。この人間に限ってそれは有り得ない。彼の能力────────“主に理不尽と不条理に抗う程度の能力”に依るものと考えるのが自然だ。
(
輝雄は何度か明らかに能力を無効化、或いはその効果を半減していると思われた場面があった。もしも、理不尽と不条理の基準が
(自分自身の限界も、私の能力も術式も、
いや
「時間が無いのに…………
果たして、私は能力の強みが大幅に削がれた状態で仕留められるのだろうか────────
「
「“飛車”と“角”、二枚落ちといったところかしら ……!」
────────この人のふりをした
「ウ────ォォォオオオオ゛オ゛オ゛オ゛ッッッ!!!!」
(さっきよりも数段速い────────!?)
人間のものとは思えない怒号が、暴風のように周囲の一体の何もかもを吹き飛ばす。
弾丸というよりも最早砲弾に近い勢いで、輝雄は大妖怪────────八雲紫に向かう。それに対して紫は真正面から立ち向かう事はせずに、直前にスキマの中に逃れ輝雄の遥か後方に移動する。
一足で数十メートルの距離詰め、拳が地面を大きく陥没させる。そして
(異常に発達した肉体に
人間にせよ妖怪にせよ、霊力と妖力という違いはあるが身体能力を補う形で強化を使う。十の力を持った人間が百の力を持つ妖怪に立ち向かう時、残りの九十を霊力で補填するというのが通常の場合。
しかし輝雄は全くの逆、
「遅れる筈が無い霊力が遅れているという事は、強化するまでも無くその膂力が人外の域に達しているという事…………霊力の操作の精度がそこまで拙い訳でもないのに。
────────分かっているのかしら?
「ヴル゛ァ゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!」
出血も相まってその姿、まさに怒れる鬼神。怒髪衝天となった輝雄は言葉を解さない獣の如く紫にもう一度向かう。先程の攻防と同じ動きで左右に揺さぶりをかける、しかも今度は紫の眼をして残像が残る速度で。紫は自分よりも圧倒的に速い敵に対して、持ち前の演算力からその動きを予測し、対応しようとする。
(タイミングさえ合えば速度は問題じゃ────────何を!?)
しかし紫の予測に反し輝雄は真っ直ぐには突っ込まず、寸前で地面を砕き粉塵に紛れた。殺意と怒り心頭かと思えば、まさかの戦略的な行動に一瞬驚かされる。
だが────────
(土煙に乗じる理性がまだ残ってたとはね…………でも馬鹿げた霊力で目を瞑ってても貴方の位置は手に取る様に分かるわよ)
────────土煙が立ち上がった場所から弧を書くように左後方に移動する霊力を紫は感知していた。今の輝雄の霊力出力なら例え冥界の端に居ても紫には感知出来る。そもそも紫の真価は近接戦闘では無く知略と千変万化の能力による術者としての戦闘、霊力からその位置を把握するなど息をするように容易い。
(────────寸前で避けて返す形で首を落とす!!!)
女性らしい細い腕に、尋常では無い力が籠り白手袋の下の爪が伸びる、更に膨大な妖力で強化され容易く斬鉄すら可能とする凶器と化す。土煙が舞い上がり、二秒有るか無いかという中で紫は既に位置の把握とカウンターの準備を完遂させた────────
(いま! ────────────────え?)
────────しかし紫の手刀が切り裂いたのは人間大の霊力弾、言うまでもなく輝雄の作り出した物。
「霊力の感知にはセンスが問われるんだってな? お前なら絶対感知すると思ったよ────────なぁ、賢者サマ?」
背後の煙が風に流され、直前まで
「死んッッッ────────────────どけぇぇえええ!!!!!」
「────────────────グブッ!?!?」
────────先の全力を大きく上回る限界を超えた一撃が紫の腹部に突き刺さり、輝雄の拳越しに何かが弾ける感触と同時に、喰いしばった歯の隙間から夥しい血を、勢いよく噴霧の如く噴き出した。
♢
紅美鈴との稽古から、霊力による身体能力強化は妖怪との戦いでは必須技術であると教わり輝雄もそれを実感していたが、必須であるが故に
────────だからこそ、輝雄は敢えて霊力による身体能力強化を解き、その一切の気配を遮断した。理性の無くなったふりまでして。
言うは易く行うは難し、生身の人間が妖怪の前に立つことは、素手で熊に殴りかかるよりも無謀である────ましてや相手は妖怪の賢者、八雲紫。文字通りの自殺行為である。しかし────────
(
────────例え、俺の身体が、生きたままバラバラに細切れにされようと、粉々に砕け散ろうと! お前だけは……! テメェ……!! だけはッッッ!!!)
────────血の味を感じながら、奥歯が砕けんばかりに噛み締め、輝雄は思い出していた。
無縁塚の陰摩羅鬼を、
人間至上主義という訳では無い、弱肉強食、殺しているのだから人間も殺されもする。至って自然な営み────────
幻想郷の維持のために、人里の人間を減らすわけにはいかないという理由から、外の世界の人間が無慈悲に無作為に無造作に殺されて、誰にも顧みられることも無く、まるで生ゴミの様に捨てられ寂しく朽ち果てていく………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………一体、何の冗談だ? 一体、彼ら彼女らが何をした? そこまでの仕打ちが必要な悪人や罪人だったのか?
人間は確かに度を越して愚かな一面はある、その事実を輝雄は
「────────どうして! お前なんかの! 身勝手なエゴの為に! お前のエゴなら!! お前だけが!!! 犠牲になってろッ!!!! 人間を巻き込んでんじゃねぇええええ!!!!!」
くの字に折れ曲がり、無防備に滞空している紫に、親指の付け根から足首、膝、腰、背筋、肩と全身を捻った運動エネルギーを左拳に載せて────────顔面を横から殴り抜く。
空気が貫かれる音と同時に今度は紫が岩を砕きながら一直線に飛んでいった、違う点は塀にぶち当たったにも関わらず
「…………ただの空間操作じゃないな……? もっと概念的で、応用力に富んだ能力か……? 或いは長生きした分、それだけ多くの妖術でも修めているのか…………」
────────客観的に見て、形勢逆転とは言い難い。不利なのは依然として輝雄の方だ。
“主に理不尽と不条理に抗う程度の能力”でどれだけ恒常的な進化を遂げようと、それまでに受けた負傷は癒えはしない。全身の至る箇所に打撲と骨にヒビ、内臓に至っては明らかに出血か破裂している。
そして能力に依る影響でも限界を超えるという事は、それだけ身体に負担を強いるという事。日常的な筋肉痛や成長痛でも動きは阻害される、ましてや既に満身創痍の輝雄、自分の状態はよく理解していた。
限界を超えて稼働しようとする筋肉は、打撲による内外の出血を悪化させる。
攻撃、防御、移動の衝撃は骨格に少しずつヒビを入れ、最終的に骨折に至る。
内臓は既に息をするだけで圧痛が走り、動かずとも引き絞られるが如く痛む。
「────────関係ないがな。二度と蘇らないよう、蝿も集らないぐらいグチャグチャにしてやる…………!」
妖怪の様に人間の体は決して都合良く出来ていない。
「……成る程ね、今私に降りかかっている脅威は身から出た錆、という事かしら……?」
輝雄の言葉は全く足りていなかった。しかし八雲紫は、その明晰な頭脳から相手の言わんとしている事を察していた。
察して理解した上で
「友人や家族ならまだ理解も出来るけど、幻想郷の犠牲になった人間は貴方にとって赤の他人でしょう。それを憂い、慮るのは、ただの後付けの偽善よ? 歴史に名を残せる英雄にでもなりたいの?
────────生者が死者に囚われるべきじゃないわ、貴方は生きているのだから、もっと建設的に人生に向き合いなさいな。例えここで私を殺せても得る物は何も無い筈よ」
考えの至らない子供を諭すように、物事の判別すら出来ていない愚者に知恵を授ける様に、賢者は感情を交えず静かに語りかける。
「その犠牲は!!!! お前が!!!! 生み出したものだろうが!!!! お前のエゴが!!!! 人間を犠牲してんだよ!!! この薄汚い寄生虫が!!!!
────────楽園などと偽り!! 仮初の安寧を人間を騙くらかす形で植え付け!!!!
────────何が楽園だ!!!! 何が美しさだ!!!! 俺が偽善ならテメェは欺瞞だ!!!!!!!」
それに対して愚者は自分の愚かさと至らなさを、全てを理解していた上で、賢者の行いが美しくもなければ全て都合の良い様に歪められ、脚色されたプロパガンダと恐怖政治に過ぎないと断じた。
「いらないんだよ………………何も!!! お前を殺せて…………! 自分の矜持を貫けるなら何も!!! 今ここで!! 命惜しさに意志を曲げるぐらいならな!!!!」
「……………………そう、本当に、憐れな人間ね、貴方は………………………………。
────────誰を犠牲にしようと、誰を死なせようと、何を踏みにじろうと。
人間も妖怪も、神でさえも、自分の一生を謳歌すべきなのに………………何故、貴方達は、貴方達人間だけが、自分以外の事に命を投げ出せるの………………?」
────────八雲紫のその言葉は、目の前の輝雄だけでなく、彼を通して誰かに投げかけられているようにも見えた。
「理解しなくていい………………お前は、俺が、ここで殺す」
「…………何百年ぶりかしら? そんな熱烈な
輝雄の肉体の完全崩壊まで残り十分を切るが、両者の共にその半分も要らない事を理解していた。
八雲紫は慢心を捨てた。幻想郷の為に友人の為に、これからも
輝雄は死を決意した。妖怪が妖怪らしく生きる事は悪でも罪でもないと理解し、その上で例え傲慢でも全てを否定し踏みにじり────────人間の未来を良しとした。
少しずつ彼我の距離が縮まる。
“決して交わらないであろう”と、お互いにお互いを理解した者同士が雌雄を決するために。
「────────ッ!!!」
先に動いたのは輝雄だった。弾幕による攻撃では八雲紫には決して届かない事を理解していたからだ。例えどれだけ動きが読まれても例え攻撃の全てが通じなくとも、次の瞬間にも木っ端微塵に砕け散りそうな五体を愚直に信じぬき、心中する事を決めた。
八雲紫もその近接戦闘に応じた。妖怪であるにも関わらず、身体能力では大きく劣っている。その事実にも動揺せず弾幕や能力に逃げなかった、弾幕を展開するよりも輝雄が圧倒的に速いという理由も有ったが、妖怪であるという自負と淡い矜持もあった。
一撃一撃が、勝敗を傾けるに相応しい必殺の威力を秘めていた。輝雄は力と技と本能に任せ、八雲紫は長年の経験値と演算力で膂力の差を埋めていく。秒間に数十の攻防、人間どころか並の妖怪ではその全てを眼に映す事も叶わない領域の戦い。
(憎い! 心底憎いはずなのに……! 認めないといけないな……! コイツの全てを! 邪悪なだけじゃない! これ程の強さ! 絶対に! 持って生まれた物だけじゃない────!)
言葉にはしなかったが────────いや、言葉ではないからこそ輝雄は理解した。八雲紫の積み重ねてきた物を、幻想郷の為か、若しくはそれ以外の何かか、流石にそこまでは分からないがこの女はこの女で天賦に胡坐をかくこと無く磨き上げたのだ、と。
(強い! 純粋に! 果てしなく! 一打一打ごとに速く鋭く正確さが増してきている! これだけ激しく動きながら! 私の動きをどんどん吸収して自分の武に投影している────!)
八雲紫も目の前の人間────────否、嶋上輝雄を認めていた。策を弄さずに真正面から立ち向かう人間。もしも彼がもっと研鑽を積んでいたら、もしも彼と戦うのがもっと後の出来事だったら。間違いなく、ここまで拮抗した戦いにはならなかっただろう。
一度の瞬きも許されない、過負荷気味に加熱した神経と意識は二人の時間を引き延ばす。まるで飴細工の様に周囲の景色が伸びてゆく、宙に浮く塵すら鮮明に見える。しかし二人の全神経は目の前の強敵だけを見据えていた。
「シッ────────!」
「────────!?」
無限に続くかと思われた千日手を先に破ったのは────────やはりというべきか、八雲紫。針の穴を通すように輝雄の攻撃、防御、立ち回りの本人さえ自覚していない無意識の
その隙を突かれて尚、輝雄の超人染みた反応速度は僅かに爪を掠らせる程度に終わらせたかに見えたが────────
「────────私の能力! 忘れたかしら!!?」
「ガッ!?!?」
────────避けられた場所に小さなスキマを作り、輝雄の後頭部に繋げて脳を揺らし僅かに態勢が崩れる、貫手にもかかわらず貫けない硬さに舌打ちしながらも、一撃で仕留める為首を刎ねようとする。しかし先に輝雄が紫の懐に潜り込み
「ぐッ────!? 離────」
血みどろの泥臭い戦いをするとは知っていたが、骨すら軋む力で急に抱き着かれるとは思わず紫は一瞬固まる。だがそれも一瞬のこと、紫は直ぐに持ち直しガラ空きの延髄を砕こうとする、よりも早く輝雄が
「がぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!」
「────────づぁッッッ!?!?!?」
────────
ツンとした鉄臭く、肉を鈍い物で断ち切る生々しい音、そして硬質な物が複数束ねた上で力づくで切断された音が耳と体の内部から伝わる。咄嗟に引き剝がそうにも泥と血に濡れたドレスの上から、肉を抉る程の力で爪が食い込み逃がれられずにまともに喰らって────────喰らわれてしまった。
「……………………ッ! せめて…………! 戦い方だけでも人間らしくしなさいよ………………!」
ここのままでは喰い殺されかねない。そう悟った紫は爪で肉が抉られる事も、ドレスが引き千切られ裸体すら晒すことも厭わず一目散にスキマを開いて反射的に
「ぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁぐぅぅぅぅぅがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あッッッ────────!!!!!!!!」
爆撃機の絨毯爆撃にも等しい弾幕が輝雄に降り注ぐ、死体どころか肉の一片も残すつもりは無い程本気で撃つ、撃つ、撃ち続ける。それは我が身を喰い千切った恨みでは無く、もう純粋に輝雄前に立ちたくない気持ちの表れだった。
(…………っ! 確実に! 息の根を!)
敗けていないにも拘わらず、僅かに敗北感が植え付けられるが、それよりも紫は確実に勝つことを優先する。全力で疾走し弾幕から逃れようとする輝雄をスキマの位置を変え、行く先に偏差射撃で悉く撃ち抜く。四方から弾幕が迫り鑢で削るように血と肉が弾けていく、しかしそれでも急所だけは他を犠牲にしても守り、既に数千近い紫の弾幕を受けても斃れない。
「ヤァァァァァァァクゥゥゥゥゥゥゥゥモォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オッッッッ!!!!!」
「………………っ! なんてしぶとい…………! 埒が明かないわねっ!!!」
────千年以上生きてきた中でも、全くと言っていい程、
紫にはこの後にも西行妖を止めるという大仕事がある、このまま妖力全てを使い切るわけにはいかない、悪手である事は重々承知であったがスキマから踊り出て、今度こそ自らの手で輝雄を仕留めにかかる────────胸中の
「■■■■■■■■■ッッ!!!!!!」
「ッ………………………………!!?」
爆煙の中から現れたその姿は。服と靴は弾幕の爆撃によって消し飛んだのか、ほぼ半裸だった。血に塗れ所々焦げたその姿は、もう野生児よりも野蛮でゾンビよりもおぞましい。
肉が削げ骨が見え掛けている個所もあった、右腕は肘から先が
────────しかし、それでも、輝雄は、膝を着いていなかった。
「────────死ね! 死になさい!! 死ぬでしょう!!? 普通!!? そこまでいったら充分でしょう!!? さっさと死になさいよ!!? なんで、なんで死なないのよ!!? 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねッ死ねッッ死ねッッッ!!!!!!!!!」
その姿に直接触る事を疎んだのか、スキマの中から日傘を取り出し少しでも遠ざけようと乱雑に滅多矢鱈に振り回しまくる。肩の肉が喰い千切られているためか、その速度と威力は戦い始めの精細を保っていなかった────────八雲紫の脳内が完全に
傍目に見ても、輝雄にはもう意識は無かった、しかし身体に刻まれていたのか、それとも予めこうすると決めていたのか────────その無惨な死に体の姿からは想像も出来ない丁寧で、美しい、精錬な、ある種の芸術性すら備えた。空手の基本的な技、廻し受けで紫の攻撃を流した。
「あ────────────」
威厳あるはずの賢者が、まるであっけに取られた少女のような声を出した。
そしてやっと紫は我に返った────────が、その時には既に輝雄は消し飛んだ右肘の先に残りの霊力全てを使い、焔に変えて集約し────────
「■■ヤ■■■■■モ■■■■カリ■■■■■■シ■■■■ネ■■────────」
────────何かを言うと同時に八雲紫諸共、予め張られていた結界をぶち破る威力の、数十メートル以上立ち昇る火柱に飲まれた。
♢
「……………………………………………………」
耳鳴りが止まり、霞んでいた視界が元に戻る。遠くなっていた意識は、肌の焼ける感覚に無理矢理引き戻される。八雲紫が起き上がると数メートル先には、最低でも直径二十メートルはあるであろう爆心地があった。
────────そして、その中心に
「………………………………………………………………勝った……?」
身体中が焼け焦げ、表情もよく分からない。右肩に至っては炭化しており未だに火が燻っている────────最早、人間の原型を留めていないがそれは紛れもなく輝雄
輝雄の
「……………………勝った気が、しないわね………………まだ、呪術全盛の時代の、平安の陰陽師や退治屋…………あんな奴らより、ずっと強かったわよ、貴方…………本当に」
半分目論見通り、八雲紫すら殺すのに過剰過ぎる火力はスキマの中へと分散された。予想外だったのは威力のあまりスキマの許容量を超えてスキマが爆散し、その余波が火柱となり紫を襲った、その大部分はスキマの開口部分にいた輝雄に暴発する形で返ったようだが。
(大部分の威力が減衰されて、これだけの破壊痕……………………しかも────────)
紫は残った妖力で自身の境界を操り、傷を治す事に専念するが上手くいかない。まるで破魔の力が宿った攻撃を受けたように、ジリジリと焼けつく痛みが残る。喰い千切られた肩に至っては止血がやっとだった。
(これも“主に理不尽と不条理に抗う程度の能力”に依るもの…………? 違和感があるわね、どちらかというと能力というよりも彼自身の特性、もしくはそういった術式…………?)
抵抗したというなら、一体何に抵抗した結果、この効果が生まれたのか。紫は考えるが疲労困憊の状態では上手く考えが纏らない。
確かに炎とは古来から魔や邪気を払う効果があるとされてきたが………………だからと言って霊力から変換された火に、全てそういった効果があるわけでは無い。人間の霊力は飽くまで動力源、それに性質を与え変換するものが能力や術式。ならば、この破魔や退魔に近い力は何処から………………?
「………………いいえ、考えるのは後ね。今は幽々子の────────」
紫は考えるのを中断し、上空に空いた結界の穴から西行妖に向かおうと────────
「────────
「────────────────」
────────
「────────
(ありえない…………ありえない、ありえないありえないありえない、ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない絶対にありえないッ!!!!!!!)
原型を保っていなかった。息があっても最早物理的に動けるような構造では無かった。そもそも戦いの際中に致死量を超える出血もした筈だ。紅霧異変の時ように魔女がここにいてもあの重傷は絶対に治せない。死に抗ったとしてもとても戦う事など────────
しかし、紫が振り返った爆心地の中心には────────
「────────反吐が出るな」
────────爛々と、赤銅色の瞳を輝かせ、青年が立っていた。
主人公が何かを決意したからといって、それが正しさの証明にはならない。
紫の幻想郷の愛が本物だからといって、それが殺戮の免罪符にはならない。
ただそれだけ、たったそれだけ。
別に主人公は正義の味方じゃないし、妖怪に倫理観を説くつもりは無い。
人に理解を示さない化け物らしくあるなら、人が理解する必要がない化け物として排除するだけ。
それにしても、今回はいつも以上に筆が乗ったけど、同時に滑ってキャラが勝手に動きまくった………。
あと最後にちょっとネタバレですが、今回の戦いは紫の勝ちです。
ん?じゃあ最後なんで立ってんねん?……………………(ニッコリ)。