幻想禍津星   作:七黒八白

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 なーんも変わり映えもしない日常、だから良い。


星 彼と彼女の日常

 日曜日、誰もが必要している日であり心躍る日である。神ですら休むのだから間違いない、異論は認める。

 

「…………よく晴れてるな」

 

 早朝六時程に俺は起きた、今日は日曜日である。学校も運良くバイトも無い、あぁ素晴らしきかな日曜日。おぉ死に絶えるべきかな月曜日以降。

 

 しかし、だからといってダラダラと二度寝したりはしない。俺は俺なりに休日を全力で真っ当するために素早く起き上がる。顔を洗い歯を磨くといった日常的な習慣を手早く済ませて、マグカップ一杯分のインスタントコーヒーを飲み干す。

 

「んー…………あんまり美味くないな」

 

 同じカフェインとクロロゲン酸なのだがドリップとは全然違う、それでも今はこれで充分である。運動前にカフェインを摂取すると効率が上がる、なのでいつもランニングに出る前には簡単にインスタントコーヒーを飲んでいる。

 

 身体を痛めないように軽く柔軟と筋トレをした後で鍵を閉めて、いつものランニングコースを走り出す。山や森など緑が多い土地であるため、とても空気が湿っぽい、しかし梅雨はもう終わっている為に不快感は無い。寧ろ既に昇り始めている太陽光と相まって非常に清々しい気分だ。流れ落ちる汗を振り払うように、強く地面を踏みしめて徐々に加速していく。地面の反発から足腰の筋肉が温まり、熱は血流に乗って全身をかけ巡る。

 

「ハッ…………ハッ…………ハッ…………」

 

 規則正しく行われる呼吸にはまだまだ余裕がある。加速に加速を重ねて遂には自転車を軽く追い越す速度に達し、そのまま軽く十キロ程走った。流石に息が切れ滝のような汗が噴き出す。クールダウンを兼ねて自宅まで歩いて帰り、到着すると素早くジャージを脱ぎ捨てシャワーを浴びる。

 

 火照った体を冷ますように冷水が汗を流し落とす。次第に給湯器が効き始めたのか温水に変わり体を温める。そのまま軽く頭と体をサッと洗い流した後私服に着替え、朝食の準備を始める。

 

 濃い目の味噌汁、納豆、焼き鮭、もっさりと盛ったサラダ、ふんわりとした卵焼き、やや硬めに炊いた山盛りの白米。

 

「ご機嫌な朝食だ……………………ちょっと献立違うけど」

 

 しかし美味けりゃ、何でもいいのだ。何時いかなる時も美味い飯はただそれだけで正義だ。朝から珈琲以外何も摂取せずにちょっとキツめの運動に精を出し、程よい疲労と空腹感が食欲を連打する。

 

 まずは一口味噌汁を啜る。汗を流し塩分が不足した体には染み渡る、味覚を通して脳が喜ぶのが理解る、これは体が欲しているものだという証左である。

 一旦白米をかき込み咀嚼し味噌汁の味と米の食感を楽しむ。やや硬めに炊いた白米はそれだけ嚙み応えがあり、口の中で味噌汁と調和する、しかし飲み込めばあっさりと口の中はサッパリしている。

 リセットされた口に今度は卵焼きを運ぶ、焼き立てでふんわりとした食感と卵の風味が口から鼻腔へ流れる。濃い味付けはしていないが、それだけにいくらでも食べれそうな前菜の味わいがある。

 次は焼き鮭である、皮目はほんのりと焦げ目が付いているが、身は全く焦げておらず油でテラテラと輝いている。箸で身を割り一口大サイズを頬張る。それだけで完結している鮭の味を嚙みしめ、今度は白米と一緒に口に運ぶ。これもまた一興。

 一通り楽しみ、どの料理の出来栄えも納得いくレベルだった事を確認し終えた俺はサラダを一気に咀嚼する。シャキシャキとした新鮮なサラダで口の中を洗い流した後、今度は一心不乱に食事に向かう。

 おかず、白米、おかず、白米……………………そして全てのおかずが無くなり残った白米は納豆を乗せて頂く。納豆は貴重なタンパク源です(誤用)。

 

「ふぅー…………ご馳走様でした」

 

 米粒一つ残さず完食し、全ての食器を洗い場の水に浸しておく。

 そして窓から差し込む朝日を受けながらゆったりとドリップコーヒーを楽しむ。本当ならばミル(珈琲豆を挽く器具)でオリジナルのブレンドを作ったりしたいのだが、流石に金が掛かるので無理である。しかし市販と言えども、マグカップを温めて、珈琲の粉末の量を調整したりすれば案外味わいも変わるので不満は無い。

 

「…………苦みをもうちょい濃い目にしたいな。あ、市販の珈琲粉を別の物同士混ぜたら良い感じなるか……?」

 

 そんなこんなを考えながら、学校で借りた小説に手を伸ばそうとすると。

 

 軽い電子音と共に、スマホ画面のバナーに、何かが流れる。

 

「…………………………………………………………………………」

 

 

 

 ────────連絡アプリのメッセージだ、妙な緊張が流れる。

 

 

 

 無視するか……………………無視せざるべきか………………考える、考える考える、考える考える考える、考える考える考える考える、そして考えた結果。

 既読を付けないようにバナーから連絡の内容を読むことにする。

 

 俺は、何故か緊張で乾いた口内を潤わせる為に、少しだけ珈琲を啜った……………………何故かさっきより苦い味がした。

 

 

 

『やっほー! おはよーございまーす!! 先輩? 起きてますかー?

 今日って暇ですかー? (^^♪ もし暇なら遊びに行ってもいいですかー?

 無視したらヽ(`Д´)ノプンプン!』

 

 

 

 ────────何だろう、女学生に対してキモいメールを送るオッサンが連想された。

 

「……………………………………………………………………」

 

 そのメッセージに対して、俺は一切反応せずシカトを決め込む。どうせ学校で会えるのだからわざわざ休日に会う必要は無い。俺はそのまま栞を挟んでいた箇所から小説を読み始める、そしてマグカップに手を伸ばそうとして──────―軽い電子音。

 

 

 

『ちょっとー? 起きてますよねー? 見てますよねー?

 何で返事してくれないんですかー(。´・ω・)?

 可愛い後輩は構ってくれないと寂しさで死んじゃいますよ(´;ω;`)?』

 

 

 

 ────────何だろう、彼氏に対してメンヘラ女の構って願望が連想された。

 

 俺は心を落ち着ける為に少しだけぬるくなってしまった珈琲を一口啜る、やはり苦みが増している気がする。空になってしまったマグカップにサイフォンから珈琲を追加しようと席を立ち、戻ってきたらまた新しいメッセージが来ていた。

 

 

 

『ごめん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さよなら』

 

「ッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 それを見た瞬間、俺は財布と鍵だけ持って上着のシャツを羽織って玄関の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり……、嘘だったんじゃないですか……、中に誰もいませんよ」

 

「くぁwせdfrtgyふじこlp」

 

 後輩がそこにいた。

 

 DEAD END────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿野郎お前日曜朝っぱらからヤンデレストーカーみたいな真似すんじゃねえよ!!! 驚きのあまり俺の心臓が三三七拍子!!!」

 

「先輩本当に人間ですか?」

 

 ────────―じゃない。

 

 玄関の扉を開けた瞬間に後輩がいた時、割と本気でビビった。具体的には走馬灯が見えた、胸糞悪い。勿論後輩はそんなつもりは無いのだろう、ただの悪ふざけ……………………いやそれにしたって手が込んでるし、ハチャメチャに心臓に悪かったが。

 

「何しに来たんだよ。てか何で居る事分かったんだよ」

 

「いや普通に自転車追い抜いているとこ見かけたんで」

 

「成程、それで追いかけて自宅訪ねた? いや怖いわ」

 

 その場で声かけるとかあるじゃん。何で気配殺してあとを追って、ヤンデレストーカーみたいな真似をするんだよ。良い船に乗るとこだったわ、氏ねじゃなくて死ねされるとこだったわ。

 

「まぁまぁいいじゃないですか、そんな事。先輩は別にギャルゲの主人公みたいに難聴でも無ければ煮え切らないような性格じゃないでしょう」

 

「別に良くは無いけどな、で? 結局何しに来たんだよ?」

 

「特にこれといって用はないんですけど…………暇なので遊びに来ました!」

 

 俺はちゃぶ台対面に座る後輩に対して珈琲を差し出す。家に上がらせるのは初めて、というか大家さん以外初めて人を上げたと思う。自分の人間関係や交友関係の狭さに独り愕然とするが表情には出さない。

 

「珈琲を飲む習慣はないんですけど…………成程、これはこれで味わい深いですねー…………ちょっと苦いですけど」

 

「浅煎りにしたりすると、苦みが減るんだがな………………砂糖要るか?」

 

「ありがとうございます、貰います」

 

 袋入りのシュガーを渡され、それを一本二本と入れていく後輩によそを俺は遊べるような物何かあったかと探す。一応据え置きのゲーム機と携帯ゲーム機位はあるのだが、専らソフトは中古品の安い奴しか買ってないので新作のは無い、何ならパーティーゲームのような奴も買ってない。俺は人生もゲームも基本ソロプレイである。

 

「んー………………どっか遊びに行くか? 駅前以外だと小動物の死骸が珍しくないような田舎街だとたかが知れてるが」

 

「あ! それなら私ちょっと先輩にやって欲しいゲームソフト持ってきたんですよ!」

 

「始めからそのつもりだったのかお前? いや別に良いけどさ」

 

 そう言って後輩がカバンから出したのは渋い顔をした忍者が刀を突き立てているパッケージのソフトだった。ゲーム会社を見てみると、俺の記憶が確かなら心折設計(誤字に非ず)で有名な会社の筈だ。

 

「ちょっと前のゲームですけど楽しめると思いますよ」

 

「ふーん、和風のアクションゲームか…………? 面白そうだけどなんでこれをチョイスしたんだ?」

 

「言えぬ……(渋い声)」

 

「はいはい、やれば良いんだろやれば」

 

 何故か梅干しを食べたような渋面でネタバレしない後輩をよそにゲーム機の電源を入れてソフトを入れる。和風のBGMと昨今のゲームにしては割とシンプルなタイトルが出てくる。

 

 

 

 ──────────―そして、地獄が始まった。

 

 

 

「R1で攻撃、L1でガードとパリィなのか……ちょっと独特な操作だな」

 

「理論上は今のステータスでもラスボスまで倒せます、()()()()

 

「何その含み? 逆に怖えよ、どんなゲーム性なんだよ」

 

 チュートリアルを問題なくクリアして、基本的な操作を覚える。後輩は隣で持参したポテチ片手に見ている。いや何食うてんねん、寛ぎすぎやろ。

 

「おいなんか、社長出てきたぞ。デュエルディスク開発してそうな社長」

 

「登竜門的なこのゲームにおいて最もネタにされ踏みにじられた人です」

 

「え? 何? じゃあ強くないの? 倒せるの? キャラ濃そうなのに」

 

 いきなりなんかラスボスでも不思議じゃないオーラ持っている武将っぽい人と戦う事になり────────────心折設計の洗礼を受ける。

 

「ちょおおおおお!!? 『危』って何!? 『危』って何!? まだ知らない要素が出てきたんだけど!?」

 

「気合いで頑張ってくださいね(笑)」

 

「何笑てんね────────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛腕がああああああああッッ!!!!」

 

 何が何だか分からない内にボコされる。全く歯が立たない、チュートリアル終えたてで戦う相手ではない事を知った時には主人公の腕がトんでいた。

 

「この人は味方なの? もう誰も信じられないんだけど」

 

「大丈夫です、この人は装備強化してくれる人ですから! 人間不信に陥らないで下さい!」

 

「お前のせいだよ???」

 

 負けイベントを終えて、知らない場所からスタートする。隣にいる後輩の思惑通り地獄を見た後なので誰も信じたくなくなっているが、面白そうなのでまだ続ける。

 

「あーはいはい上段と中段はパリィかガード、掴みは回避、下段はジャンプね。“理解(わか)”ったわ、これで勝てるわ」

 

「そう思っていた時期が私にもありました…………」

 

「いやいやいけるってマジで、反射神経自信あるし」

 

 道中にいる中ボス的な存在を倒して自信をつけた所を────────―再度地獄に叩き落とされる。

 

「こいつデカッ! てか全然怯まな────────パワーボムッッッ!!?」

 

「さっきの鈴を寺に持っていくと良い事ありますよ」

 

 何故か戦国時代なのにプロレス技で殺されて、

 

BBA()TUEEEEEEEEEEE!!?」

 

「まずは体力削って! じゃないと体勢を崩せません!」

 

 老化現象をものともしない跳び回るくノ一にチワワ扱いされ、

 

「忍具鬼(つえ)えええ! このまま逆らう奴ら全員ぶっ殺していこ──────―え、なんか

 、コイツ……首どっかに忘れて来てんだけど???」

 

「あ(察し)」

 

 脇道に入ったところで注意書きの張り紙を見てないばかりに背後から『自主規制』され、

 

「なんかこの社長ギガスラッシュ使ってくるんですけど!?」

 

「いやーそれでも流石ですね先輩、初見以外ほとんど詰まってないですね」

 

 俺は人間やめるぞーッとギガスラッシュを喰らい、

 

「なんかこのシルバーバック強いけど残機一個だけ? 首取れちゃったけど──────────ふぁッ!!?」

 

「一々良い反応しますよね、先輩」

 

 猿の『自主規制』から『自主規制』が『自主規制』する姿にリアルに怖気、

 

「なんかこの世界のデカい奴スーパーアーマー常備してんのなんなの!? しかもコイツ声からして女か! 尼さん!?」

 

「よく気づきましたね、元ネタは人魚の肉食べたあの人ですよ」

 

 またスーパーアーマー持ちの敵にズタズタにされて、

 

「親父ィィィイイイイイイイイ!! なんでワレ死んだこと知ってんねん!!」

 

「まぁ会話から察せる限り………………そういう事ですよね」

 

 魔法学校の教師とは違い、欲望にまみれた育ての親に復讐を果たした。

 

 

 

 

 

「いや濃い! 濃いよ! 朝だったのにもうおやつの時間じゃん!!」

 

「でも楽しかったでしょ?」

 

「楽しかったけど! これ先輩と後輩の休日の過ごし方として正しいか!?」

 

「相場がどういうものかは知りませんが私は楽しかったですよ、特に先輩が初見の敵に殺されて叫び散らしている姿は」

 

「人の心とかないんか?」

 

「後輩が喜んでるんですよ? 嫌いですか?」

 

「嫌いやね」

 

 俺の隣でニコニコ顔で、何故か清々しいやり切った感を出している後輩に素直に悪態をつく。いや好きなゲームを布教したい気持ちは分からないでもない。でもこれは休日にちょっとというレベルでは無い、死に覚えゲームは軽々しく勧めていい物では無い。

 楽しいからいいけど。結局その日は特にこれといって変わった事も無く、後輩に勧められたゲームをして、クリアするまで貸してくれるというごくごく普通の時間を過ごした……………………まぁ、偶にはこんな日常も悪くはないだろう。

 

 

 

 

 

「因みに色々なルートエンドがありますので全部踏破してくださいね」

 

「人の心とかないんか?(part2)」

 





絶妙にネタバレしないように配慮しました。
まぁ、この題材の二次創作もあるから問題は無いと思いますけど。因みに作者はこんなサクサクは進めませんでした。
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