紅霧異変と比べて長いなぁ……。でも山場だからしっかり書かないとなぁ……。あ、感想などありましたらお気軽にどうぞ。
そして今回もアンチヘイト注意予報発令。
殺意の籠った霊力を纏う博麗の札と針を、鮮やかで艶やかな無数の蝶が撃ち落とす。幽々子は距離を保ちながら弾幕を相殺し、西行妖が咲くまで時間を稼ごうとする。それに対して霊夢は淡々と無表情に詰将棋の様に幽々子から逃げ場を奪うように弾幕と結界を張り、本気で祓いにかかる。
「あらあら、必死ねぇ? 彼の事そんなに好きだったのかしら」
によによと、目を細めながら扇子で口元を隠し、幽々子は優雅に笑う。いつ“本当は死んでませんでしたー! ”とネタばらしするか考えながら。博麗の巫女が本気で襲ってきているにもかかわらず、幽々子はいつも通りの余裕を湛えていた、むしろ楽しんでさえいた。
「………………そんなんじゃないわよ。ただ、一線を越えたアンタを排除するだけ!」
幽々子の挑発にも霊夢は全く動じない。霊夢は陰陽玉を操り幽々子を背後から撃ち落とそうとし、幽々子は扇子を霊力で強化し舞のように扇子を振りぬき迎撃する。陰陽玉と衝突し、和紙で出来ている筈の扇子が金属音染みた不協和音を奏でる。
「あら…………固いわね、岩くらいならスッパリ斬れるのだけれど」
博麗の巫女が代々継承していく陰陽玉。その用途は多岐に渡り、純粋な武器としてもかなりの威力と硬度を有する、それこそ
「亡霊になったら死体を供養するか、亡霊になった原因を取り除く事────────つまりアンタを消せば輝雄は成仏できる!!!」
陰陽玉に気を取られた幽々子の背後からお祓い棒を唐竹割に振り下ろす、当然幽々子もそれに気付き扇子で受け止める。お祓い棒が扇子と交差し幽々子の足元が勢いよく陥没し、全く引かない霊夢と幽々子の霊力が拮抗する。霊力によってお互い強化された獲物は、素材からは考えられない衝撃を生み出し周囲に風が吹き荒れた。
「亡霊になったからって別に不自由はしないわよ? ただちょっと、私の命令には逆らえなくなるだけで」
「もういい! アンタは二度とその減らず口を叩くな!!!」
力が益々籠められるお祓い棒を止め、徐々に押されながらも幽々子は焦った様子も見せず飄々としている。その姿に霊夢の出力が一段階上がり、陰陽玉の退魔の輝き増していく。霊夢が更に霊力を高めて、幽々子を扇子ごと叩き潰そうとした瞬間────────幽々子は鍔迫り合いを止めて身を翻す。
「────────ッ!!?」
「腕力勝負はお嬢様の仕事じゃないわ。
────────やっぱり弾幕で仕留めましょうか」
突然幽々子という支えを失った霊夢は前に躓いたように体勢を崩した。幽々子はその隙に素早く高密度高威力の弾幕を展開し────────至近距離から放った。
(殺しはしないわ、貴方は幻想郷に必要な人材。それに貴方に危害を加えれば、輝雄は間違いなく私を殺しに来るでしょうし…………まぁ、もう私死んでるけど)
勝ちを確信し、万人すら魅了する微笑みを浮かべて扇子を振るう。それに従い無数の色とりどりの蝶の弾幕が霊夢に殺到し────────
「────────無想天生」
────────
「────────!!!」
回避された、ならまだ分かる。その為に故意に鍔迫り合いに持ち込んだのだが予想はしていた。
迎撃された、ならあり得る。尤も考えられた可能性だった。それならそれで背後から攻撃しようと考えていた。
────────しかし、すり抜けて真正面から突っ込んで来るのは全くの予想外だった。幽々子の余裕が、遂に崩れる。
「弾幕ごっこなら反則かもね。
────────
(速い! 迎撃────────)
幽々子は扇子を霊夢を袈裟がに振り下ろすが、突如、
(!? ────────
霊夢が用いた技術は
そして嵐の前の静けさの様に、霊夢の霊力が一瞬だけ
「うぉ────────りゃぁぁぁぁああああああッ!!!」
「ぐッ!!!?!?」
咄嗟に防御を固めたが、その上から蹴り飛ばされ────────勢いを殺しきれず、十数メートル先の西行妖に叩き付けられた。幽々子に載せられた運動エネルギーが西行妖に伝わり大きく揺れ、桜吹雪が舞う。
「…………よく防御出来たわね、でもアンタあんまり体術得意じゃないでしょ?
「…………ふふふ、こんな事になるなら妖夢の修行を受けておくんだったわ。
それにしても、最近の幻想郷は琉球空手が流行っているのかしら? 女の子が脚を上げて蹴るだなんて
「りゅー……きゅー……? 何の事よ? 空手は分かるけど。
さっきのは
「………………偶然かしら?」
────────何故か幽々子には、先の霊夢の蹴りが輝雄の姿と重なって見えた気がした。現にそれほど知名度がある技でも武術でも無い、知り合いならば組み手などで体術を共有している方が自然だ。
しかし、今はそんな疑問よりも霊夢との戦いを楽しむ事を優先する。派手に蹴り飛ばされたが、戦闘には支障は無い。幽々子は扇子振い弾幕を展開しようと────────
「────────うっ!?!?」
────────する前に後ろの桜の木が妖しく輝き始め、幽々子の動きが止まる。瞳から光が失われ、力なく宙を漂う。その様子に霊夢の動きも止まった。
「は!? ちょっとアンタ!? 何したの!!! 何してるのか分からないけど今すぐに辞めなさい!!!」
西行妖から漏れ出す異様な妖気と邪悪な気を感じ取った霊夢は幽々子に呼び掛ける、しかし幽々子はそれどころでは無かった。
(何……? ……意識、が…………!? 霊力…………!? 練れ、な────い────────)
そのまま幽々子の意識は、引き延ばされる様に完全に闇に沈む。そして見計らったかの様に西行妖から枝が伸びて大木の
(────────!? 何が起きてるのか分からないけど、多分ヤバい!!!)
今まで、様々な場面で働いた霊夢の勘。未来予知に等しいそれは────────覚えが無い程、痛烈に死の予感を霊夢に告げる。
死の予感を感じると同時に行動に移っていた、ほぼ反射的に投げられた札は枝を弾く為、幽々子は陰陽玉で救出しようとする。既に霊夢は幽々子の事を敵として認識していなかった。
────────だが西行妖の枝は隙間を縫うように札を躱し、陰陽玉を弾幕で撃ち落とした。
「────────!? ただの妖怪桜じゃない……!? 明確な自我を、理性を持っている…………!」
本能による防衛では無い、確実に幽々子を捉えて取り込む為に最善最速を取捨選択した動きに霊夢は驚愕する。そうこうしているうちに幽々子は
「────────これは!? 幽々子様!?」
「────誰!? いや誰でもいいわ! あの桜は何なの!? ユユコって奴はどうなったのよ!?」
幽々子が西行妖に取り込まれると同時に、白銀の髪と緑色のベストが特徴的な少女が後ろから現れた。霊夢は直感的に異変の首謀者の関係者であると見抜き、襟首をつかんで問い質す。妖夢はその鬼気迫る勢いに素直に答える他なかった、何より非常事態である事と異変どころでは無い事が西行妖の様子から理解出来てしまったから。
「ぐッ!? わ、分からない…………! 幽々子様はただ桜を咲かせたかっただけだ……! 西行妖に取り込まれるなんて幽々子様自身さえ知らなかった……!」
「じゃあ、あの桜────西行妖って何なのよ!!」
「それも分からない…………ただ文献には“咲かせるな”と書いてあったことしか…………」
「咲かせんじゃないわよ!!!! そんなもん!!!!!」
輝雄とほぼ同じ反応をしながら霊夢は乱雑に妖夢を突き飛ばす、そして歯噛みしながら考える。これほどの妖怪桜、冥界と幻想郷が繋がったまま放置すればどうなるか。
「(何かが起きるとしたら間違いなく紅霧異変の比じゃない! だったら当然────────)────────アンタ名前は!?」
「よ、妖夢…………」
「ヨウム! アンタは今すぐに西行妖の再封印について調べて来なさい!! 多分なんかあるでしょ!!? こんだけの妖怪桜、いざという時の備えや対処法あって然るべきよ!」
半ば、確信のない期待に近い。しかし咲き始めたばかりの時点で既に嘗て無い程の膨大な妖力を霊夢は感じていた。しかも徐々に増していっている。最終的にどれほどの妖怪として降誕するのか、霊夢を持ってしても予想が出来なかった。
「────────時間は稼ぐから早くしなさい!」
「わ、分かりました!」
────────桜まだ、一分咲き。
♢
ほんの数分前の出来事、幽々子が取り込まれる前の出来事。
「愛ほど難儀で難解なものはない、とオレは思う────────或いは教えられた」
赤銅色の瞳の青年────────嶋上輝雄の姿をした
「ビタミンだとか鉄分だとかカルシウムだとか、そういった物が不足し衰弱して死ぬのは分かる。飯を食わねば死ぬなど幼子でも分かる理屈だ。
────────然るに、愛を理由に人間が、時に妖怪が、生きて死んでゆくのは何故なんだろうな…………幻想が形になるこの世界でも、愛とやらは不可視で不定形で、なにより不確かな事だけが確かだ」
「昔のオレなら、それっぽい言葉で、それらしい事を言っていたと思う。だか今は余計にわからなくなってしまった。
利他的だとか、無償性だとか、そういう割に合わない献身が愛なんじゃないかと思っていた────────今にして思えば汗顔の至り。知ったか振りにも程がある、底が浅すぎた。
────────だが逆に理解出来た事もある、愛とは必ずしも美しい物では無いという事。時に悍ましく、時に凄惨で、時に醜悪だ────────丁度、今のお前の様に」
カガオは座っている
泥と血が染み付いていたが、辛うじて金髪であった事が分かる。本来の金糸の様な一糸乱れぬ美しさは見る影も無い。半ばから引き千切られた箇所もあった。
顔は、大凡
破れ、はだけたドレスの下は
一番目を引いたのは
しかし、そんな状態でも八雲紫にはまだ息があった────────息があっただけだった。
「…………今のお前のその状態はな、お前に神隠しされた外来人の大凡の末路だ。痛いか? しかし外来人にはそこから
「……………………………………ゅ……………………」
先の輝雄と似たり寄ったりの死に体で、紫は何かを呟く。最早戦うどころでは無い、妖怪でもこの状態で放っておけば死に至る。八雲紫が死んでいないのは手加減された事と、ただの何となくだった。
「あぁ、因みに“忘れられない限り妖怪は死なない”なんて生っちょろい考えは捨てた方がいい。別に妖怪は不死身では無い、完全に殺すにはちょっとコツがいるだけだ。
────────例えば、今の外の世界には“いんたーねっと”だとか“えすえぬえす”とか言う手軽で、気軽に、誰でも使える瓦版があるが…………そこにお前の姿と名前を出したら、半永久的にお前の情報が残るが、果たしてそれでずっと妖怪として生きていられると思うか?
────────答えは“否”だ、何故なら
────────妖怪の種にもよるが、人間に恐怖される事で妖怪はその存在を保つ。
弱い妖怪ならば大した恐怖は要らないかも知れないが、八雲紫程の大妖怪ならば恐怖として、脅威として、普遍的に認識されなくてはならない。
そしてその力量から一度でも死ねば、復活にかなりの時間を要する。その間も忘れられず、恐怖を保たなくてはならない。妖怪にとって死は縁が遠いものではあるが、決して無縁では無い。
「今の外の世界でも妖怪への認識はある、
だからお前達は────────
有り得ない想定だが、もしも幻想郷と外の世界で戦争が起これば、三日と経たず幻想郷と妖怪は滅ぼされるだろう。それほどに人は文化と文明を育んだ、それほどに人は嘗ての様に
「…………嬉しく思う反面、寂しくも悲しくもある。しかしだからといって、引き止めるわけにもいかんだろう? 育てば巣立つのは必定…………見送らねば」
────────カガオは、何かを思い返すような、ここではない何処かを見ているかの様な遠い目をしていた。しかしそれも一瞬の事、紫に向ける眼は飽くまで鋭く敵意が籠っていた。
「────────だからこそ、お前をオレは認めない。
種としての競争では無く、騙す形で一方的に搾取するなど許されん。少なくとも、閻魔天と如来菩薩が認めてもオレは認めん。
何が美しさだ、勝っても負けても
「………………」
紫は何も答えない、というよりも答えられる様な状態では無い。か細い息づかいだけが彼女の生存を伝えていた。
「…………あぁ、何か既視感があると思えば……そういえば
────────あの時は確か…………そう、虫の死骸と自分を重ねていた」
彼は面影を重ねる、目の前で死に掛けている妖怪を、無知で無力で無気力だった幼子を、虫の死骸と。
「“一寸の虫にも五分の魂”だったか?
人間は良い言葉を造った…………本質を突いている。人も妖も、その命を成り立たせている魂には全く違いがない、それこそ虫と同じだ。
つまり、今ここでオレの能力で貴様の魂に干渉し、粉々に砕けば────────お前は完全にこの世界から消滅する」
彼は言う、“いつでも殺せるぞ”と。紫から立ち上がり、全く感情を宿さない瞳で、微かに
「………………死に掛けているのは分かるが、なにか言ってみたらどうだ? 言い訳でも、命乞いでも、呪いでも。
────────オレとしては、今まで幻想郷の為に犠牲になった人間に謝罪と感謝して欲しいが…………」
「…………………………こ…………ゆ…………」
「あ? 聞こえねぇよ」
蚊の鳴くような声で、紫が何がを呟く。殆ど原型が無い顔に耳を近づける。無論、不意打ちへの警戒は怠らない。カガオにとって、眼球や耳を喰い千切られる程度問題にはならないが。
「……………………ゆ…………ゆ……………………こ………………」
「────────────────」
────────その言葉は、謝罪でも感謝でも無かった。
もとより、そんな事を言うとは思っていなかった。腐っても大妖怪、例え二度と蘇れずとも生き恥晒す位なら死を選ぶ事は予想出来た事だった。カガオの予想外は────────虫の息になり、生死の境を揺蕩ってさえ、友を案じている事。無関心だった眼が、僅かに見開かれた。
「…………前言撤回し、そして謝罪しよう八雲紫。悪かったな、非常食と嗤って。
────────そして、今一度試すとしよう。
お前が果たして、この世界を愛している賢者なのか。
それとも、ただ生き汚く、人間を喰いたいだけの
そしてカガオは、紫の首を掴み目線まで持ち上げ────────
「────────そして勿論、人の未来は今を生きる人間に任せるとしよう」
────────手刀が血を纏いながら、紫の胸を背後まで容易く貫通した。
♢
「────────……………………ぐっ」
最初に感じたのは、背中の皮膚に砂利が刺さる感覚だった。そして取り戻した意識を体を動かす事により無理矢理覚醒させる、まるで碌に食事も取らず重労働したかの様な疲労感が纏わりつく。
「俺は何を…………? そうだ! 八雲紫!?」
霞む視界を
「…………なんで俺は無傷なんだ?」
────────しかし輝雄の体は全くの無傷だった。
辺りを見渡しても戦闘痕はあれど、八雲紫も誰もいない。自分の体も上半身はほぼ裸だったが、傷痕すらなかった。殆ど底をついたはずの霊力も充実している。
(八雲紫に放置された? あれだけ俺の事を殺したがっていたのに? しかも傷まで治療したのか…………? それとも気絶してる間に勝手に自然治癒したのか、能力による影響か…………?)
「……………………駄目だ、全くわからん。あの妖怪が考え無しに放置するとは思えないが………………そういえば西行妖は…………?」
強いショックによる一時的な健忘症なのか。はたまたあの妖怪に頭の中を弄り回されたのか。どちらにしろ何にしろ、考えても答えが出ない以上、問題を棚上げする他ない。
八雲紫の術中に嵌っているかも知れない事実に、何か気持ち悪い物を感じながらも輝雄は西行妖がある空を見やる。いつか見た枝垂桜と同じ、しかしそれ以上の妖しい輝きを放ち、周囲には桜の花弁と蝶が舞っている。
「…………どう見ても厄ネタだな。ま、自業自得って事でここは一つ────────」
「────────嶋上輝雄!!!」
砂利から立ち上がり長居する理由も無いので、さっさと帰ろうとすると背後から鋭く呼び止められる。聞き覚えがあったので内心少しウンザリしながらも振り返ると、白銀の髪に緑のベストを着た少女────────魂魄妖夢だった。
「よぉ魂魄、何処行ってたんだ。神隠しにでもあったか?」
「ッ!? 何故貴方がスキマを────────いや、そんな場合では無い! 力を貸して下さい! 西行妖は────!」
「やっぱり災禍だったか? そりゃご愁傷様、じゃあ俺は帰るわ」
「な────────何を言っている!? こんな時に冗談はよせ!!」
「俺は至ってマジだが? 因みに正気でもある。
────────お前こそ冷静に考えろよ、
「………………!?」
輝雄は非常事態であるという事は察していた、察してはいたがその上で当然と言わんばかりに、西行寺幽々子を見捨てる選択を取った。さして罪悪感も感じていない。
「どんな都合のいい脳味噌してんだ、お前? 百歩譲ってまだ誰かに唆されたとかなら分かるさ。あぁ、自分の事ぶん殴ったとは言え非常事態、戦力は少しでも多いに越した事はないわな。
────────でもそもそもだ、西行寺幽々子は
────────何で被害者側に助けを求められる? 厚顔無恥にも程があるだろ。恥を知れ、西行寺幽々子が死のうがどうなろうが…………俺はどーでもいい……」
「────────」
そこには、興味も、関心も、
────────嶋上輝雄の主な行動指針は応報、善性では無い。彼は、彼に非がないと感じれば、無償で戦ったりはしない。
他者に迷惑をかける事もかけられる事も厭い、基本的に自己完結している。かつてフランを助けたのは自分が原因だったから、輝雄に幽々子助ける理由も、西行妖と戦う理由も無かった。例えそれで冥界が滅んでも輝雄の知る所では無い。
「お前が何を言おうと、俺はもう知らん。そもそも俺程度が加勢した所で事態が良くなるとは限らんしな、焼け石に水かもよ?」
「……し、従わないのなら────────」
「────────どうするんだ? 殺すか? いいぞ、別に? ………………俺とチャンバラしてる間に手遅れになるかも知れないが」
つまらなそうに欠伸を噛み殺し、妖夢に背を向けて輝雄は歩き出す。方向は当然西行妖の反対側、つまり幻想郷への帰り道。
怒りに震えているのか、妖夢が俯き拳を握っている事には気付いていたので、いつ襲われてもいい様に心構えはしておく。
────────そして砂利を踏みにじる音が聞こえた。
(俺が言うのも────もとい思うのもなんだが、暴力に訴えるしか能が無いのか…………)
強者であるが故の驕り、従え踏み躙る事が当然という意識の行動、周りが迷惑をどれだけ被るかなど全く省みない。無論、勝手な輝雄の推測に過ぎないが当たらずも遠からずだろうと、霊力で強化し臨戦態勢に入ると同時に振り返ると────────
「────────お願いします。力を貸してください」
────────魂魄妖夢が土下座していた。
一切の興味と関心が消えていた輝雄の表情が明確に変わった、全くの予想外の行動に霊力が霧散する。刀を二振り横に置き、正座で手を重ねて深々と頭を下げている────────もしも、輝雄がその気になれば十回は軽く殺せた。
「────────何の真似だ」
「土下座です。貴方の力を貸して下さい、幽々子様を…………私の家族を────────」
「五月蝿い黙れだったらなんだ俺には関係無い」
一息に言い切り輝雄はまた踵を返して帰ろうとする。しかし、すかさず妖夢が輝雄の腰に抱きつき引き止めた。輝雄止める事は敵わず、引きずられる形ですがりつく。
「待って下さい! 今までの事は謝ります! 償いもします! だから幽々子様を────────!!」
「うるせぇつってんだろうが!!! 別に謝罪して欲しいわけじゃねぇんだよ!! 償いもいらねぇ!! そもそもお前が本当の事を言っている保証がどこにある!? 全部終わった後!! 約束を反故した罰は誰が下す!!? 口先だけだろうが!!!!」
妖夢ごと引きずり、なおも頑なに輝雄は帰ろうとする。手で押し退けて引き剝がそうとするが、肩の骨が軋んでも妖夢は依然として力を緩めない。
「ではどうすれば力を貸してくださるんですか!?」
「どうしようが手伝う気はねぇよ!!! さっきも言ったが俺が加わってもどうにかなる保証は無い!!! アレだけの妖力!!! 現状でも八雲紫すら持て余す!!! しかもまだまだ上限には達していない!!! 諦めろ!!!」
応えるつもりも無いが、期待に添えない可能性もあると伝えた。しかしそれでも妖夢は離れない。引きずられる事によって膝が砂利で削れる、痛々しく血が地面に残る────それでも妖夢は力を緩めない。
「しかし西行妖の再封印や討伐法などの記述は見つからなかったんです!!! もう貴方以外────────」
「だから俺の知った事か!!! お前らが撒いた種だろうが!!! 他人巻き込むんじゃねぇよ!!!
テメェどんだけズレた事してんのか!? ズレた事を言ってんのか、自覚あるか!? 偶然人里で人死にが出てないだけでお前らがやった事は一歩間違えば凍死者が出てもおかしくなかった!!!
────────その癖、今度は自分達が危なくなったら助けろ!? どういう思考回路してんだ!?」
無関心で無表情だった筈の輝雄は、いつの間か怒りを爆発させていた。それは紫相手に戦っていた時にも劣らない激怒だった。
「────────お願いします!!! 幽々子様を! 助けるのを手伝って下さい!!! 私に出来る事なら何でもしますから」
「………………話にならねぇよ」
その場に力無く座り込んでしまった妖夢をその場に残して、輝雄は独り歩き出す。苦虫を嚙み潰したかのように顔をしかめてその場を後にしようと────────
「何でも…………! 何でも、しますから…………!!! 一人にしないで…………!!! おじいさまも………………ゆゆこさまも…………もう、誰も…………!!!!」
「……………………………………………………………………………………………………」
────────したが、気丈な振る舞いも、礼儀正しい従者の姿も、全て剝がれ落ち妖夢は泣き出してしまう。そこには気高い剣士の威風は無く、年相応の子供の姿しかなかった。
(…………………………クソが、嫌な記憶とダブりやがる)
その姿を通して、何を見たのか、何を思い出したのか、止まるつもりが無かったはずの輝雄の足が止まる。揺さぶられる心情と自身の行動指針、相反するそれをどうにかして折り合いを付けようと考えていると────
「────────!!? この霊力…………霊夢か!? おい妖夢!? 霊夢が来ているのか!?」
「ッ!!? はい……! 今、西行妖を、博麗の巫女が、押さえています…………」
大粒の涙を流し、嗚咽を抑えてながら妖夢が答えた。僅かに逡巡する輝雄。霊夢の実力で、果たして未だに天井知らずの西行妖をどうにか出来るか。西行妖がなんなのか、その実態すら不明な以上確かなことは何も言えない。
「(霊夢が負けるとは考えにくいが…………流石に知った以上帰る訳には行かないか……!)妖夢、気が変わった。西行寺幽々子は正直どうでもいいが……霊夢が死ぬのは看過できん。西行妖の討伐までは手を組むぞ」
「────────ありがとうございます!!!」
小さく舌打ちし、西行妖の方へ向き直る────────既に八雲紫すら比にならない妖力に達しつつある。三人がかりでもどうにかなるか、極めて厳しい戦いになる。
「────────この御恩は忘れません!!」
「ただの一時共闘だ。俺はお前も西行寺幽々子も信用も信頼もしていないし、反省も報恩も期待もしていない。
────────どさくさに紛れて味方撃ちしたら先に殺すからな」
────────死へ誘う妖怪桜に、誘蛾の如く三者三様集う。
ぶっちゃけ皆さん奴の正体に気付いてますかね?感想欄には書かないようお願いします。
因みに作者の性癖で、この小説に出るキャラは八割方ゴリ────────もとい近接戦闘が強いです、はいそこゴリラ廻戦とか言わない。