幻想禍津星   作:七黒八白

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 作者の浅い史実知識から色々捏造してます。

 なるたけ違和感なく書いたつもりです。

 あとそろそろ新しいタグを付け加えると思います。ご了承下さい。



第三十三話 輝くような闇の中で

 

「かがお………………?」

 

 手からお祓い棒が抜け落ちる。

 

 宙に浮いたまま感情が抜け落ちた声で、霊夢が蚊の鳴くような声で呟いた。

 

 あらん限り見開枯れた伽藍堂(がらんどう)の黒い瞳は、西行妖の樹皮の割れ目に向けられている。

 

 霊夢も、妖夢も、たった今取り込まれた輝雄も。西行妖が幽々子を取り込んだ以上、それには何らかの意味があると考えていた。だからこそ、西行妖を倒してから取り返す、何故なら西行妖自ら幽々子を差し出す様な真似はしないと思っていたからだ。

 

 

 

 ────────そしてその無意識の思い込みを逆手に取られた。誰も、植物が人間を盾にするなど思わなかった。

 

 

 

「…………幽々子様…………輝雄…………」

 

 妖夢は既に心が折れかけていた、主人を救う為に自分の我儘を押し通した結果がこれだ。本来なら真っ先に犠牲なるのは自分の筈が、その責任を輝雄に押し付けた形になった。

 

 無力感と罪悪感、何も出来ない自分が殺したくて仕方がなかった。

 

 楼観剣を強く握り締めて、西行妖を力強く睨みつける。

 

 自分の至らなさ故に、起こってしまった災いを止める為に。

 

 善人とは言えないが、それでも全力で戦ってくれた強敵()の為に。

 

 ────────勝てない事と犬死にする事を覚悟して。

 

「霊夢さん…………後のことは私に任せて下さい。西行妖は飽くまで生者を死なせる妖怪…………幸い、冥界ならそこまで問題になりません。

 

 西行妖が開花した以上、幻想郷の春はすぐにでも戻るでしょう。貴方は結界に開いた孔を塞いで下さい、そして元の生活に戻って下さい」

 

 冥界には元々死んだ者しかいない、ならば西行妖の能力はそこまで問題にはならない。懸念があるとすれば、結界を超えて冥界に生者が来る事。しかしそれも結界で孔を塞いでしまえば済む話。

 

 妖夢はそう考え、霊夢に逃げるように伝えるが。

 

「………………………………」

 

「…………はい? 今、何か言いましたか……?」

 

()()()…………()()()()()…………」

 

 

 

 ────────その時、霊夢の脳内にはっきりと浮かび上がる。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()────────

 

 

 

「……………………………………さない…………」

 

「霊夢…………さん?」

 

 

 

 ────────消耗した筈の霊力が、その心情に感化され、燻る。

 

 

 

赦さない……赦さない、赦さない、赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない!!!! 

 

 

 小さな種火は留まる事を知らず、怒りに燃え移り、殺意の業火が霊夢の中の全てを支配する。

 

「お前は……! お前、だけはァァァッ!!!!!!」

 

 犬歯を剥き出しに奥歯が砕けんばかりに噛み締め、激情に任せ血を吐く程叫ぶ────────霊夢は時の流れによって摩耗した記憶を思い出し、そしてその光景と姿を重ねた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 八分まで咲いた西行妖、既に霊夢と妖夢が手を組んだところで最早どうにもならない妖力に達していた。完全に覚醒するまで秒読み段階、もはや八雲紫が全快状態でもどうにもならないだろう怪物。

 

 ────────しかし、そんなことで霊夢の怒りは止まらない。怒りは理性を奪い、勝算を組む思考力すら無くしてしまう。

 

「どうしてッ! どうして……どいつも、こいつも……! 私を置いて逝くのよ……!」

 

 霊夢は、眼から何かが流れ落ちるのを感じたが、それがなんなのか、何故流れたのか。今の彼女には分からなかった。

 

 彼女は概念的に()()事により不都合なら事象から逃れる。同時にその人間性にも影響を与えていた、神社の立地から交流関係が狭く大凡まともな大人や同年代との交流が乏しい────────そんな環境で、まともな人間が育つわけがない。

 

 

 

 ────────しかし彼女はただ強ければそれで良い、何故なら、博麗の巫女は幻想郷の安寧を保つだけの人生だ。()()()()()()()()()()()()()()()、まともな人らしさなど二の次以下だ。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

 ────────最初に感じたのは、桜の香り。

 

「………………ん? …………眠い……何処だ、ここ?」

 

 次に畳の感触と暖かな陽射し…………俺は微睡みの中から、穏やかに目覚めた。畳から上体を起こすとどうやら和風の屋敷の中の様だ…………何でだ? 

 

 開けられた障子からは暑くなく、心地良い日光が差し込んでいる。庭に敷き詰められた砂利には僅かに桜の花弁が見えた────────今の時期は春…………だったっけ? というか枯山水だろうか? 

 

「…………寝起きだからか? 頭が(まわ)んねぇな……」

 

 ぼんやりとした意識で俺は、いつからここに居たのかとか、何で見知らぬ場所で寝てたのかとか、色々考えたが霞がかかった様に思考も意識もはっきりしない。

 

 ………………とりあえず家主を探してみようか、まるで明晰夢の様な心地で縁側に出て、ふらふらした足取りで歩く。夢を見たまま歩くようだった、実際に俺は白昼夢でも見てるのかもしれない。

 

「…………なんか……忘れてる気が……ここは本当に何処なんだ…………」

 

 歩いていても宙に浮くかの様に、意識はいつまでもはっきりしない。ただ暖かな日光と信じられない程巨大な桜から、ひらひらと花弁が落ちる景色を見ていると全てがどうでもよくなってきた………………いや、まて、あの桜、どこかで────────? 

 

「…………あら、貴方も取り込まれたのかしら。悪い事をしたわね」

 

「……………………すみません、誰ですか?」

 

 何かを思い出しかけていた最中に、声が掛かる。視線の先には縁側に座ってる桃色の髪の少女がいた。

 

 湯気が立つ湯呑みを両手で嫋やかに持ち、ぼんやりとした光を宿さない瞳は美しいかったけれど、何故か死を連想させた。

 

 

 

 ────────美人薄明、血を感じさせない色白の肌も相まって、まさにその少女にぴたりと合う言葉だった。

 

 

 

 俺にしては珍しく色ボケでもしてるのだろうか、浮いている様なこの心地がそうさせたのかも知れない。俺の言葉に、彼女は憂う表情で困ったように少し笑った。

 

「……思い出せないの? ここに来る前の事を? それとも私だけなのかしら?」

 

「……もしかして、家主の娘さんでしょうか? でしたらすみません、記憶が曖昧でして…………さっき目が覚めたばかりなんです」

 

 許可を得ているかどうかも分からず、人ん()で寝る。我ながらとんでもない図太さである。そう考えると顔から火が出そうだった、礼節は大切にしている方なのだが…………俺は一体どうしたと言うのだろう? ここに来る前何があった? 

 

「ここの家主は私…………って事になるのかしら? 一応、白玉楼を模しているようだけど……本物は()でしょうし」

 

「白玉楼……? 模している……? 外……?」

 

 どういう事だ? ここが白玉楼という建物を模した偽物で、本物は外に有る。言葉通りならそうなるが、ここは既に屋外に等しい………………というか、目の前の少女にも身に覚えが────────

 

「────────ッ!?」

 

「…………やっと思い出した?」

 

 ────────目の前の少女を記憶から探ると、脳内に電流が走る様な感覚と共に、芋蔓式に記憶が掘り起こされた。あまりのショックに眩暈すら覚えた程だった。

 

「そうだ……俺は、西行妖を……でも西行妖が人質を……取り込まれて…………! 何処だ!? ここは!? 霊夢は!? 妖夢は!? 何でお前がいる!? 西()()()()()()!!! 今あの桜は────────!」

 

「落ち着きなさい、時間はまだあるわ…………私が答えられる事は全部答えてあげる…………座ったら? 輝雄」

 

 目の前少女────────西行寺幽々子は落ち着き払ってそう言った。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「ここは西行妖の内部……と言っても物理的な空間では無いわ────────難しい言葉で言うなら心象世界、魂の原風景。

 

 西行妖の精神、或いは妖怪としての能力で造られた異空間…………もっとも、西行妖自体ここを制御出来ている訳じゃないみたいだけど」

 

「八雲紫のアレ(異空間)と似たようなもんか………………制御出来てないって? どういう事だ? 根拠は?」

 

 縁側に隣に座る少女に聞く、言うまでも無く西行寺幽々子である。さっきまでは記憶が無かったため違和感なく話していたが、妖夢と戦った後に話した雰囲気とは大分違う。

 

 あの時は底知れない知性と同時に、和気藹々とした何処か楽観的というか享楽的な一面も見えたが今はその真逆、陰鬱とした病人の様な雰囲気を纏っている…………これがあの西行寺幽々子? 幽霊の癖して活き活きしていたのに? 

 

「簡単よ、私達が今ここで自我を保っていられる事がその証左…………まぁ、私達を消化して吸収するのに時間が掛かっているだけかも知れないけどね」

 

「ヤベェじゃねぇか…………さっさと脱出するぞ!」

 

「────────どうやって?」

 

 俺は強引に幽々子の手を握り立たせる。特に抵抗もせずにされるがままだったが、生気を感じさせないその瞳と共に問いかけられる。その時初めて俺は気づいた。

 

「霊力が…………無い…………?」

 

 全く無いわけじゃない、しかし西行妖に取り込まれる直前に全て炎に変換した為、今の俺は────────

 

「そんな空を飛ぶ霊力も無いようじゃ…………脱出なんて夢のまた夢ね…………」

 

「…………おい、さっきから何で他人事なんだ? お前にはこの状況を何とか出来るのか?」

 

 暖簾に腕押し、糠に釘。西行寺幽々子は魂でも抜けたように腑抜けた返事しかしない、何故そこまで落ち着いてられる? 俺はまだしも、自分がどういう状況がわかってないのか? 

 

「そんな恐い目で見ないで…………ただ思い出しただけよ」

 

 飄々しながらも超然とした冥界の主人としての姿は何処へやら。俺が手を離すと幽々子はゆっくりまた縁側に座った。立っていたところで今の俺は能力の行使どころか飛ぶ事すらままならない、少し悩んだが俺も座って少しでも霊力を回復させる事にした……焼石に水だろうが。

 

「…………何を思い出したんだ」

 

 他人の人生には興味が無い。普段ならどうでもいいと一蹴したが、状況が状況の為一応聞いてみる事にした。巨大な桜の木────────幽々子の言う通りなら、精神世界の西行妖をぼんやり眺めながら、彼女は語り始める。

 

()()()()()…………同時に、あの桜がなんなのか、どうして私が亡霊になったのか……全部、思い出したの…………紫には悪い事をしたわね」

 

「…………そうか、確か亡霊は生前の記憶が無いのか」

 

 幻想郷に住まうにあたり、その辺の知識は慧音さんや妹紅さんやパチュリーさんから教わった。亡霊には生前の記憶は無い、そして原因にもよるが死体が供養されると天に昇る。逆に言えば供養されない限り、彷徨い続ける事になる。彼女は恐らく後者なのだろう、つまり────────

 

「西行寺…………あぁ、なるほど“西行”か…………じゃあ富士見の娘ってのは────────」

 

「────────私の事よ。嘗て自分の能力を疎んで、西行妖の下で自刃することによって、あの忌まわしい桜を封印した……………………なのに、他の誰でもない私が解いてしまった………………」

 

 憂いを感じさせる表情が更に曇る、陰影が濃くなるその姿は闇を纏っている様だ。“今の方がよっぽど幽霊らしいな”なんて考えながら、俺は思い出す。

 

「……………………なるほど、掘った穴を埋めて返すが如く、とんだ笑い話だ…………落語でありそうだな」

 

 ────────西行。若しくは西行法師。

 

 歴史に詳しかったり、古文をよく読む奴なら聞いた事がある苗字だ。かつて武士だった佐藤義清(さとうのりきよ)が後に歌人、或いは僧として名乗った名前。

 

 諸説あるが平安時代末期の人間で、二十代から三十代の頃に────────

 

「────────縋る子供を縁側から蹴落とし、妻子を捨てて出家した」

 

「…………」

 

 俺の考えを見通したのか幽々子は先んじて言う。そうだ、どこまで正確に後世に伝わっているか不明だが西()()()()()()()()()()()()()────────残された者達の心情は…………時代と価値観が違いすぎて、俺には想像も難しい。

 

「歌聖は……西行妖の下で自刃した。そしてその歌聖を慕う者達も後追う形であの桜の木の下で死んでいった…………西行妖が生まれた理由はそれが原因…………」

 

「“願はくは花の下にて春死なむ その如月の望月のころ”…………本願を実際に遂げていたわけか…………自殺という形でだが」

 

 まさか古典の教科書に載っている人物の子孫とは考えていなかったが。幽々子は懐から扇子を取り出し、広げた扇を西行妖に向けて振るう。

 

 すると巨樹の根元に法師の様な袈裟を着た若い男性と今より幼い姿の幽々子が映る。心象世界と言っていた事から、恐らくある程度思い描いたものを映せるのだろう、薄らぼんやりと人影が出来上がった。

 

 幼い少女はあどけない表情で法師の袈裟を掴むが、男はそれを乱暴に振りほどく。大人の力にただの少女が勝てるはずも無く突き飛ばされ、砂利の上を転がり手足を擦り剥く。

 

 しかし歌聖は、西行法師は、西行寺幽々子の父は、無関心な目で一瞥した後に背を向け、歩き出す。

 

 少女は、泣くでもなく、怒るでもなく、ただ茫然とそれを見ていた。何をされたかすら、もう会えない事すら理解して無いのだろう。

 

 

 

 ────────これが幽々子の生前の、在りし日の情景。

 

 

 

「西行法師は…………父は武芸に秀で、学問にも精通している将来有望な武士だったわ…………でもある時、突然出家した…………私を“邪魔だ”と一人残してね」

 

 西行妖の根本から薄らぼんやりとした二人の姿は霧の様に消え、今度は少し成長した幽々子と先と同じ、しかしボロボロになった法師の袈裟を着ている白骨死体が転がっている。

 

 いや待て、おかしい、幻影の幽々子の成長具合から十年も経ってないはず。西行法師は確か七十代で亡くなったのでは? 

 

「…………俺が知る限りでは、西行法師は時代背景にそぐわない程長生きしたはずだが?」

 

「外の世界ではそう伝わっているの? でも実際は違うわ、恐らく父を慕う人達によって虚実入り混じった伝説が残されたのでしょうね」

 

 法師の骸とそれを眺める美しい歌人の娘は消え去り、今度は多くの人達が明りに誘われる蛾の様に桜の木の下で眠っていく………………俺も幽々子も、それをただ眺める、止めようとはしない。これは過去の出来事だし、実際に当時の幽々子も恐らく止めきれなかったのだろう。

 

「──────何がそこまでさせるのかしら」

 

「何が? 父親? 慕った人? それとも桜?」

 

「………………………………全部」

 

 うんざりするように、或いはしていたのか、当時の価値観ではどうだったのかは知らないが娘である自分を捨てて、勝手に歌人として旅立った事、それをどう評価したのかつられて死んでいく人達──────幼幽々子の目にはどう映っていたのか、まるで想像がつかない。

 

 この白玉楼にいつから幽々子が住んでいたのかは知らないが、これは西行妖の元で起こった話ならば生前の幽々子もいたという事になる。

 

「そうして西行妖は人の生気を吸い取る妖怪桜になり、その娘にも同じ『死に誘う程度の能力』が宿った…………西行妖の側にいたからか、元から私にあった能力が覚醒したからか知らないけどね。どちらにせよ多くの人、いや妖怪すら死に誘う程の桜になってしまったわ…………」

 

「………………ここから離れようとは思わなかったのか」

 

 同じ能力があった。西行妖が先か、幽々子が先かは知らないが、少なくとも幽々子には西行妖に支配されないだけの力があった。その気になれば逃げる事は容易いはずだ、しかし幽々子は首を横に振る。

 

「思わなかったわ。どうせ行く宛も何も無いし、私が人の多いところに行けば、それだけで私の能力で人が死んでいく…………ならせめて、父が死んだ場所で私も最期を迎えたかった」

 

「────────理解出来ないな」

 

「……………………」

 

 ────────西行寺幽々子のその心情を、なんと言語化したらいいのか、俺には全く分からなかった。

 

 どうして自分の事をそこまで蔑ろにした父を慕えるのか、そんな父を追って死んでいった無関係な奴ら、挙句傍迷惑な能力まで生えてしまって…………何故同じところで死にたいと思えるのだろう。血の繋がりか? それが親子の情なのか? 

 

「あぁ…………まるで分からない、全然分からない」

 

「…………正直、父を憎む気持ちが無い訳じゃないわ。でもね? 親が子を育てる事は当たり前の事じゃないのよ、親にだって自分の人生がある。父は私よりそっちを優先した、したかった──────」

 

「────────お前はそれで良かったって、本気で思えるのか?」

 

「……………………」

 

 確かに、その通りだと思う。愛しい我が子と言えど全てを躊躇いなく捧げられる親など、物資が豊富な幻想郷の外の世界でも稀だろう。ましてや時は平安時代、名誉だとか家格だとか様々な(しがらみ)があり子供を政略道具に使う事も珍しく無い、そんな時代だ。現代とは倫理観が違いすぎる。

 

 だがしかし、当時の幽々子はそれを全て理解できていたのか。したとしても、納得できていたのか────────親に独り残され、娘は笑って送り出せたのか…………関係無いはずなのに、俺にはそんな疑問が尽きなかった。

 

「あんたは納得出来たのか? 捨てられて、振り回されて、その後も縛られて………………全部めでたしめでたしで終わったと?」

 

「…………駄目かしら? 自分を捨ててもなお、親を思う事は」

 

「──────俺ならクソ喰らえって思うね」

 

 すると、今度は空間そのものが歪み始める。白玉楼も、西行妖も、その場に在るもの全てが水面に落とした色水をかき混ぜるように渦を巻き、黒く染まっていく。上下の感覚すらなくなり幽々子も座った態勢のまま隣で宙に浮いている。

 

「何だ…………!」

 

「私の番は終わり、今度は貴方が話す番よ」

 

「話す? 何を?」

 

「言ったでしょう? ここは心象世界、根底にあるのは西行妖だけどここを構成している物には私と貴方の精神も混じっている────────私は、知りたいの。貴方はどういう人生を辿って、今の人格が形成されたの?」

 

 桜の木、砂利の枯山水、古風な武家屋敷、それらを構成していたものがどろりと溶けて混ざる。さながら蛹の中身のように。気色の悪いマーブル色になったと思えば、次の瞬間には()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────────ここ、は…………」

 

「見覚えのある景色…………?」

 

 生活感のある部屋、季節が季節なので扇風機が出ている、キッチンからはリビングが見渡せ、奥にはソファーとブラウン管のテレビがあった────────恐らく、西暦二千年代の人からすれば当たり前過ぎる光景。

 

「……………………ガキの頃の、俺の家だ」

 

「へぇ…………幻想入りする前にいた家とは違うの?」

 

「まぁ……な」

 

 西行寺幽々子は自分が亡霊になる経緯────────ある意味で彼女が彼女足る所以を見せた。なら、これから起こる事は大凡予想がつく。

 

「…………お前が無理矢理俺の記憶を読み取ってるのか?」

 

「半分違うわね…………この世界は元々無色透明だった。でも私が取り込まれて白玉楼が出力された…………そして今度は貴方の心が出力される。

 

 西行妖の妖怪としての生態か、はたまた貴方自身が()()()()()()()誰かに知って欲しいんじゃない?」

 

「…………何を馬鹿な事を」

 

「人は、ずっと秘密を抱えてられる程強くない。貴方は孤独だったから話す相手がいなかっただけ…………或いは心を許せる相手がいなかったのかしら?」

 

 ────────俺自身が、この記憶を持て余し、誰かに打ち明けたかった? 

 

 理性ではそんなはずが無いと思いながら、俺の記憶は進んでいく。時刻は夕方頃、キッチンからは鍋で何かを煮込む音が聞こえる。幽々子と近づき覗いてみると、さっきの幻影と同じくホログラムの様に透けた女性がいた。

 

「…………誰?」

 

「…………お袋」

 

「瞳は……黒ね」

 

 最後に見たのは、もう十数年も前になる…………あのボロアパートには写真すら置いて無かったから。黒髪に黒い瞳、普通の女性だった。今更ながら俺の瞳の色は隔世遺伝でなければ親父由来なのだろう…………若しくは血の繋がりなんて無いのか。

 

「…………お父様は?」

 

「知らん…………蒸発したらしい」

 

 だから俺は親父の顔も名前も知らない、お袋も決して語ろうとはしなかった。子供の頃はその意味が分からなかった…………だが荒みきって、まともな人間性がすり減った今の俺なら、少しだけ予想がつく。

 

「お袋は………………母さんは、親から勘当されてる」

 

「…………誰の種から、産まれたかも分からないから?」

 

「………………この人は、何も悪くないのにな」

 

 片親、シングルマザー、にも関わらず一軒家住まい。どこからそんな金を捻出したのか…………母さんはいつも周囲から奇異の視線や嫉妬の的になっていた。しかも俺の瞳の色が変わっている事も相まって()()()()()()をする奴もいた。

 

「…………貴方は、気づいていたの?」

 

「…………この頃の俺は確か四、五歳だ。呑気に遊ぶただのクソガキだよ」

 

 玄関を開けて手も洗わず、俺と幽々子の膝までしかない小さな少年がリビングに入ってくる────────瞳は赤銅色だった。

 

「あら、可愛いわね」

 

「誰しもガキの頃はそんなもんだ」

 

 少年は母親に叱られる、しかし母親は本気では怒っていない。

 

 嗜められる事すらどこか嬉しそうに笑ってた少年は、素直に台を使って洗面台で手を洗う。

 

 母親が呼ぶ、少年は席に着く、皿にカレーが盛られた。

 

「…………平和ね」

 

「……………………」

 

 

 

 ────────在りし日の過ぎ去った、胸焼けするほど牧歌的な日常。

 

 

 

 何一つ代わり映えしない、何処にでもあるだろう家庭の一場面。当たり前過ぎるその光景は既に俺の手から零れ落ちた物。これからあの赤銅色の瞳の少年は、その人格が荒み切って擦り減り続けて、生き難きを生き、負け難きを負け続け────────俺になる。

 

「貴方もこの時点ではまだ、普通の子供だったのね…………」

 

「今でも俺は普通の人間だよ…………殴られたら殴り返したくなる程度には」

 

 ぐにゃりと、空間が歪んで場面が跳ぶ。

 

 時刻は同じ夕方、しかし今度は屋内では無く家の玄関前に俺と幽々子は立っていた。暑さは感じないが、夏の夕焼けは世界を真っ赤に染め上げていた。遠くからはカナカナと、何処かもの悲しい(ひぐらし)の鳴き声が聞こえる。

 

 遠くから薄汚れた姿の少年が歩いてくる、どれだけの距離を、どれだけの時間を掛けて歩けばそうなるのか、服装は泥と血に塗れて見える箇所の皮膚は汗でべたつき反射し戦地帰りの如く汚かった。

 

「…………何があったの?」

 

「平たく言うと…………誘拐された」

 

 

 

 ────────そして、ほぼ飲まず食わずで数日間、県を二つまたいで歩いて帰ってきた。

 

 

 

 正直言って、今でも理由は良く分かっていない。

 

 結論から言うと()()()()()()()()()()()()、母さんは別に教徒でも何でもないのに、何故か俺がピンポイントで狙われた。この時期、不審者が子供に話しかけるという事があり子供を夜遅くまで出歩かせないようにと自治体から注意喚起があった。無論、母さんも俺にその事を言って注意を促していた。

 

 

 

 ────────だがそんな事は意味を成さなかった。

 

 

 

 偶然人が周りにいない時、俺を見かけるや否や車が前後を挟み、何かを首筋に注射で打たれた。恐らく睡眠薬だろう、この時点で間違いなく狂信者しかいない危険な団体であることが幼い俺にも感覚的に理解できた………………だが分かったところで何も出来なかった。

 

 立ってもいられない眠気が襲い、次に目覚めた場所は山中の建物の中だった。内側からも開けられないように鍵を掛けられて、日に何度か食事が運んでこられた。そして偶に何度か儀式なのか、沸騰された塩水の湯をふりかけられた。周りには狂信者たちが何かを唱えていたのを覚えている。

 

「沸騰した……塩水……? それは────」

 

「イカれているだろ…………? しかも爪を剝ごうとまでしてきやがった…………」

 

「────────まさか…………貴方は…………」

 

 子供心ながら、心底恐怖したことを今でも鮮明に思い出せる。火事場の馬鹿力なのか、自身の倍以上ある大人を数メートル突き飛ばし、窓を割って三階から飛び降りて俺は山中を彷徨った。後ろから聞こえる怒号、追い付かれたら命は無いと本気で思った。

 

 全力で走った、走って走って、枝が刺さり足から血が出ても。転んでもその勢いで思いっきり前転して一度も止まること無く、俺は山を駆け下りた。何処をどう走ったのか、夢中でよく分からなかったが、いつの間にかとっくに日は暮れて深夜になり、俺は車一つ通りかからない車道に立っていた。

 

「…………誰かに助けは求めなかったの?」

 

「その時の俺は、もう母さん以外の人間は信じられなかった…………交番の警察すら撒いたよ」

 

 帰りさえすれば────────帰りさえすれば日常に戻れると、その時の俺は信じて疑わなかった。

 

 想像力の足りない子供らしい発想だった、自分がいない事によって母がどうなったかなど全く考えていなかった。親が全部何とかしてくれる、そんな馬鹿な事を本気で考えていた。

 

 

 

窓から差し込む夕焼けに照らされた

 

部屋の真ん中には

 

力無くブラブラと人間が一人、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

う────────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 

 

 

 

────────母さんだった。

 

 

 

「…………自殺?」

 

「わからない…………自殺かも知れないし、宗教団体が何かしたのかも知れないし…………警察は恐らく自殺だろう、と」

 

 どちらでも同じ事だった、幼い俺にとって母さんだけが家族だった。特別親しい間柄の友人がいるわけでも無く、親戚との仲も悪い母さんの子供を親切に引き取る者いる筈が無く。あれよあれよと葬式が済まされ火葬され、流れ作業の様に親族に遺産を騙し取られ、疫病神のように育児放棄でまた軟禁された────────もう、俺には、生きる気力が全て無くなっていた────────全てがどうでもよかった。

 

「虫けらだな…………まるで」

 

 ゴミが山ずみされた狭いマンションの一室、特に鍵がかけられているわけでも無いが俺には脱出しようとする力は無かった。ただ横たわり、ゾンビのようにやせ細ったその体から命の灯が消えるのを待つだけだ。別に地獄に堕ちたって構わなかった…………現状よりも悪くなるとは、どうしても思えなかった。

 

「…………無様だと思うか?」

 

「…………いいえ、無惨だと思うわ」

 

 俺の足元に横たわる死に掛けの子供の俺、それを見ている幽々子は触れなくとも、慈しむように撫でる。こうして俯瞰してみると“傍に落ちている虫の死骸と似ているな”なんて俺は他人事のように思っていた………………いっそ、死んでいれば楽になれたのかも知れない。

 

 でも────────俺は死ななかった。運良く、或いは悪く、悪臭に苦情を入れた隣人が俺が居る事に気づいて警察が呼ばれた、次に目が覚めたときは病院で点滴を受けていた。

 

 俺を育児放棄していた…………名前ももう忘れたけど、親族の誰かはそのまま獄中生活。しかし今回の事件が余程センセーショナルだったのか、週刊誌とか新聞に取り上げられた。顔と名前は晒されずとも親が居ない事で疑われ、周囲と衝突が絶えない俺は各地を追われる様に転々と引っ越した。

 

 (たらい)回しに親族の元を回り流石に憐れんだのか、最後に山奥の地方都市で落ち着いた、高校までは支援することと、それまでに掛かった支援金を無期限無利子で返すという約束と共に。

 

 いつも地獄だった、いつだって地獄だった、いつも死にたかった、いつ死んでもよかった、もう他人に人生をめちゃくちゃにされて、全てを失ったから、毎日毎日、無情と無常を噛み締め噛み潰して食傷気味だった。

 

 周りの目が悪意に満ちている被害妄想に悩まされ、飛び起きる事も少なく無かった。自殺を考えた事もあったが、身元を保証してくれた人に申し訳ないと思い、高校卒業までは耐える事にした。周りの人間と何一つ足並みを揃えられない俺は、当然孤独に浮いていた。

 

 

 

 ────────全て台無しになって、全て取り返しがつかなくなって、全てが尊いものだったと気づいた。そんな後悔だけが人生だった、そんな苦悩だけが生涯になった。

 

 

 

「まぁ…………ざっとこんなもんだな、どうだ? 俺のクソつまらない不幸自慢は」

 

「………………」

 

「どうした? 笑ってくれていいんだぞ? “その程度で死にたがるな! ”って。千年の時を過ごした亡霊からすれば欠伸が出るだろ?」

 

 周囲の空間はまた歪み、今度は白玉楼も俺の記憶も映らない。ただ暗く黒い闇の中、西行妖だけが光源となり聳えている。桜の木の下で

 、俺達は向き合う。

 

 俺の目の前にいる幽々子は何も喋らない、何かを飲み下す様に押し黙る………………何故か、眼が潤んでいる様に見えたのは、俺の気のせいだろうか…………一体、何秒何分黙っていただろう。意を決したように幽々子は口を開いた。

 

 

 

「────────普通に生きるのって、難しいわよね」

 

 哀しげに、儚く、涙を流しながら幽々子は微笑み、そう言った。

 

「────────ほんと、生きたかったよな、普通に」

 

 

 

 俺は、他人も自分も憐れまない、共感しない。だって人を憐れむ程幸せでもなければ、恵まれているとも思えないから。人の事を知った気になれる程、人と深い関係を結べ無いから。

 

 そして一度でも自己憐憫に陥ったら、もう戻れない気がしたから────────あの日から、ずっと耐えてる何かが、決壊しそうだから。

 

 でも、今だけは、どうしようもない位、幽々子に共感してしまった…………熱く、冷たい何が、眼から流れた気がしたけど────────それがなんなのか、俺には分からなかった。

 

 もう、いいのかも知れない…………だって、ただの人間にしては良くやった方だろう…………俺には西行妖から脱出する方法は無い。この後死ぬだけなら、人里への心配も何も無い…………ただ死んで終わるだけ────────嶋上輝雄の人生の幕引き、掃いて捨てる程いる人間の、ありふれた悲劇的終わり。

 

 

 

 …………もう………………疲れた………………終わるなら…………それもいい。

 

 

 

「…………ねぇ? 貴方、死にたいの?」

 

「…………どうかな、なんかどうでもよくなった」

 

「どうして……?」

 

「…………誤魔化してた矛盾を、突きつけられたから、かな」

 

 どの道、俺にはこの状況を解決する手段など無い。西行妖に完全に取り込まれるか、はたまた永遠にこのままか…………俺達以外に、人が居ない以上、恐らく後者だが。

 

 たった一本の桜に背をもたれかかる、上を見るとヒラヒラと舞う桜吹雪…………大妖怪とは思えない美しさだった。手に何か暖かいものを感じ見てみると、隣に幽々子が座って、手を重ねてた。

 

「…………暖かいわね、貴方の手」

 

「…………お前こそ、亡霊なのに暖かいんだな」

 

「…………ねぇ、折角なら幽々子って呼んで?」

 

 彼女の頼み、意固地になって断る理由も最早無い。

 

「…………幽々子」

 

「…………もう一回」

 

 彼女は少しだけ、目を細めて頰赤らめた。俺は素直に、子供っぽいなと思った。

 

「幽々子」

 

「もう一回」

 

「幽々子」

 

「もう一回」

 

 彼女が頼む、俺は応える。

 

 何度も何度も、彼女は頼む。何度も何度も、俺は応える。

 

「ふふふ、ふふふふふ…………」

 

「…………どうしたよ」

 

 涙が流れた後が、どんな化粧よりも美しく、(わら)う彼女を飾ってた、そして死を連想させた。

 

「────────ねぇ輝雄? 私ね、貴方のお陰で、生まれてきて良かったと思えたわ」

 

「────────────────」

 

 

 

 ────────なんだ、それは。

 

 

 

「どういう事だよ…………」

 

「だって私初めて殿方に名前を呼んで貰って、手を握って貰えたんですもの。生前も没後も…………友達の紫を除いて、私の手握る人なんていなかったわ────────私はね、きっと貴方の手の暖かさを知る為にこの世に生を受けたのよ」

 

「……………………………………………………」

 

 

 

 ────────なんなんだ、それは。

 

 

 

 それが、たったそれぽっちの事が、西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 

 

 一刻前は啀み合ってさえいた野郎と、友でもなく、従者でもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼女の今までの生涯の結果だと? 集大成になってしまうのか? 

 

 

 

「────────巫山戯るな」

 

「────────え」

 

 

 

 思いついた、ここから脱出する方法を。俺に霊力が無いなら他所から持ってくればいいだけだ。俺は幽々子の手を握る、絶対に離さないように、彼女を逃さない為に。

 

「俺は……例えば、辛くてやっていけないなんて理由でここで終わろうとしていたと思ってた。それなら別にいい、俺も痛い程…………死ぬほど分かるから────────けど、たかが今日会ったばかりの男の過去を知り、共感して手を握る程度で満足してハイお終い?」

 

 

 

 ────────外には、恐らく今でも妖夢が。業腹ではあるが八雲紫がお前を助ける為、尽力してたというのに。

 

「西行寺幽々子、お前はまだ、自分の人生と向き合うべきだ」

 

「…………でも私、もう疲れて────────」

 

「────────だったら飯でも食って寝ろ! 休めばいいだろうが!」

 

 西行寺幽々子はとっくの昔に死んでいる、そういう意味では彼女の人生は既に終わっている。助けたところで甦りはしない。もしかすると、ここで得た生前の記憶も外に持ち越せないかもしれない。しかしそれでも────────

 

「ここを出て、自分の事を思っている奴らと向き合え。

 

 ────────少なくとも、お前は俺より()()()絆が多い。こんなところで果てるのは早すぎる、お前の霊力を俺に寄越せ」

 

「何を────────」

 

()()()()()()()()()()()()()。上手くいくかは賭けだが異物として吐き出されるかもしれない、されないならされないで力づくで突き破る!!!」

 

 霊力は肉体ではなく、その精神や魂から湧き出る力。ならば今ここに確かにいる幽々子にも霊力はある。手から流れてくる幽々子から霊力を受け取る、俺自身も可能なら限り吸い上げる。霊力を根こそぎ奪われる感覚に幽々子が眉を顰めた、悪いとは思ったが我慢して欲しい。

 

「…………強引な人、私ってば早まったかしら」

 

 しかし何故か、嬉しそうに幽々子は俺にしがみつく。心変わりの理由は不明だが好都合、手を離し腰に片手を回し抱き寄せる。そしてもう一方の手で炎を造る────────今度は、もう外さない。

 

「────────顔は上げるな、火傷するぞ」

 

「────────もうしてるわよ」

 

 ………………? いや、たった今炎出したばかりなのだが…………いや、どうでもいいか。

 

 

 

 そして、俺達は星の無い空を見上げて、昇る。

 

 

 

 





ブチギ霊夢。

後幽々子が言わなさそうな事を言いまくってるのは、生前の記憶に影響されたからです。

一度の挫折が後の人生や人格を大きく変えるように、たった十数年でも亡霊として過ごした千年と等価ではありません。少なくとも千年の中に親との死別は無かったでしょうしおすし。

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