幻想禍津星   作:七黒八白

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 やったー!文字数をそこそこに抑えられたぞ!約九千文字………そこそこか?これ?

 あと主人公のプロフィールとか要りますか?
 サザエさん時空で基本的に歳はとらないので特に意味は無いんですけど。




第三十六話 果てぬ未練の矛先

 

 

 ────────幻想郷に春が戻った。

 

 如月だと言うのに吹雪が激しかった三日前では考えられ無い程、博麗神社では桜が咲き誇り、少しの人間と様々な妖怪が宴会に興じていた。その中には霊夢にアリスや魔理沙、騒霊の三姉妹、紅魔館の者達、慧音や妹紅も居た。

 

 当然、幽々子と妖夢に連れられた輝雄も異変解決の主役として宴会の真ん中────────

 

「何もこんな端っこじゃなくても…………いや、桜は綺麗ですが……」

 

「私はここでもいいけど…………いいの? 貴方頑張ったのにこんな脇で」

 

「興味無い、どうでもいい」

 

 ────────では無く、周囲の喧騒から少し離れた場所で幽々子と妖夢の三人で呑んでいた。輝雄が無理矢理場所を決めたわけでは無く、二人が彼に合わせてあげた形で端を選んだ。

 

「…………別に俺に合わせなくてもいいぞ。好きに回ってこいよ、俺はテキトーに呑んで、テキトーな時間に自分の家に帰っから」

 

 桜にもたれながら度数の高い日本酒を一気に煽る。西行妖打倒から三日経った事により全快したので、既に飲食は通常の物に変わっている。幽々子も妖夢もパチュリーの魔法程回復の術に長けていない為、心臓と肩以外自然治癒で治した。妖夢にはドン引きされ、幽々子は何故か残念がっていた。

 

(いや本当になんで残念そうにしてたんだ…………穀潰しが一匹消えるのに)

 

 療養中、白玉楼では粥しか食べられなかったので栄養価が高く、味付けの濃い物を欲していた彼には苦しい日々だった。無論、善意で看病してくれている二人にそんな我儘は言わなかったが彼とて辛いものは辛い。黄泉竈食(よもつへぐ)ひを疑ったが冥界と黄泉は区分が違うらしいが、彼にはよくわからない話だった。

 

「相変わらずブレませんね、確かに名誉を欲する方には見えませんが…………それでも関係者や世話になった人達に顔は見せた方が良いのでは?」

 

「正論を突きつけやがる………………辻斬りの癖に」

 

「辻斬りじゃありません。庭師です、剣術指南役です」

 

「三日間幽々子が剣振ってるとこ見た事無いが」

 

「………………」

 

 気まずそうに妖夢は黙って目を逸らした、輝雄は盆の酒を胃に流し込みながら幽々子を見やると“テヘペロ”的な顔で誤魔化している。可愛いかもしれないが、輝雄にはどうでもよかったのでシカトを決め込み焼き鳥を食む。

 

「この主人にしてこの従者ありって感じだな」

 

「どういう意味ですか!?」

 

「妖夢が優秀で私は幸せ者ってことよー」

 

「そうですか! 悪い気はしませんね!」

 

「…………ちょっと不安になる位チョロいわね」

 

(アンタもな)

 

 渾身のテヘペロを無視された幽々子はちょっとだけ悲しそうだったが、輝雄に差し出された焼き鳥で機嫌が直る。両手に三本ずつ違う種類の焼き鳥を持ち、リスのように頬張る姿は花より団子────────というよりも花より肉といった感じだった。

 

「ふぅー…………腹ごなしにちょっとばかしツラ見せてくるわ」

 

「いってらっしゃい。勝手に帰らないでね? 私、待ってるから」

 

「………………苦手なんだけどな、こういう催しは」

 

 一瞬目を離した隙に全ての焼き鳥を平らげ、そこにはいつもと同じ雅な雰囲気を漂わせた幽々子がいた、その早業に少し驚愕し、更に内心を見透かす様に先手を打たれ、彼は帰るに帰れなくなる。人も妖も楽しげに酒を呑み、騒ぐ宴────────しかし彼の中には腑に落ちないような違和感、心の底から笑う事を拒絶する何かを感じていた。

 

(…………まぁ、いいか。一日だけだ、なるようになれ)

 

 先人は言った、長い物には巻かれろと。そんなわけで輝雄はどんちゃん騒ぎの宴会の中を気配を殺して進む、知らない奴にはなるべく絡まれたくは無いからである。

 

 立地が立地なだけにやはり宴会の中心に彼女は居た、近くには魔理沙やレミリアなどの紅魔館組が酒を呑んでいる。既にやや赤ら顔になっているのは相当量呑んだのか、はたまたただ酒に弱いのか。

 

「…………ん? そこにいるのは……くぉら!! かがお!! ちょっとこっちきなさい!!!」

 

「あー………………早まったかなぁ……歩いて三歩で酔っ払いにエンカウントしちまったよ」

 

「そう言わずにこっちに来なさいよ、異変の事聞きたいし。てかアンタ今まで何処にいたのよ」

 

「端っこ」

 

「あー……貴方もしかして陰キャってやつ?」

 

「吸血鬼に言われたらお終いだな」

 

 どこでそんな言葉を聞き齧ったのか、まさかの吸血鬼に陰気な奴扱いされてしまい輝雄はヘラヘラと笑う。レミリアの後ろには咲夜が凛として日傘を差しているが意味深な眼で彼を見つめていた。

 

「貴方……もう平気なの?」

 

「ん? 何ならこの後紅霧異変のリベンジマッチでもするか?」

 

「しないわよ。私は忙しいんだから、それに────────」

 

 一旦言葉を区切ると同時に、時間が停止して世界が灰色に染まった。周囲の喧騒が嘘のように鎮まり咲夜と輝雄以外色が無くなり、咲夜が輝雄に詰め寄った。手を伸ばしきれない程の近距離、パーソナルスペースに入られた輝雄は少しだけ良い気がしなかった。

 

「────────()()、まさか忘れてないわよね?」

 

「反故する気は最初(ハナ)から無い…………けど、まぁ、お手柔らかに頼むわ」

 

 咲夜も十代半ば程度と大人びた雰囲気に反して、霊夢や魔理沙とほぼ同い年と言う。かなり上背がある輝雄を見上げる形で(くす)ぐる様に顎下を指でなぞられる、彼は顔にこそ出さなかったが背筋がゾワリとした。

 

「ふふふ、さぁ? どうしましょうか」

 

 年に反した色気を出したと思えば、次の瞬間時が動き出して、何食わぬ澄ました顔でレミリアの背後に立っている。どこからどう見ても瀟洒な従者だった。

 

(………………女って生き物は、コレがあるから怖いんだよなぁ)

 

「…………輝雄さん、何でそんな遠い目をしてるんですか」

 

「いや……腕っ節だけが強さじゃないんだなって」

 

「……? よく分かりませんが私にはありますか? その強さ」

 

「あー……よく分かんないんですけど無いんじゃないっすかね」

 

「えー……うぅ、ただでさえヒエラルキーが低くて、輝雄さんにもあっという間に抜かされて……私って一体……」

 

 かなり酒豪なのかそれとも泣き上戸なのか、大量の酒を豪快に呑んでいる美鈴。輝雄にはその姿に咲夜の様な裏表がある様に見えなかった、というか妖怪なのに輝雄が知る限り慧音の次くらいに人が出来ている。今更ながら、この人はこの人で異端だと思った。

 

「で、酒を一滴を呑まずに日陰で読書しているのは」

 

「無論、私よ。そして流石にちょっと位呑んでるわよ」

 

「自慢になりませんよ、パチュリーさん」

 

「私あんまりお酒強くないのよね、食も細いし……ていうか必要無いし」

 

「だから不健康なのでは?」

 

 珍しく外に出て不要な筈の飲食の場に姿を現しているかと思えば、パラソルの日陰の中でいつも通りに分厚い辞書の様な本を読んでいる。側に置かれてある盃を見ると呑んではいるようだか、少量のようだ。

 

「…………咲夜から聞いたけど大丈夫だったの?」

 

「少なくとも西行寺幽々子は敵じゃありません、恐らくですが…………。

 

 ま、八雲は完全に敵ですがね。俺が行方不明とかになったらそういう事だと思って諦めて下さい」

 

「末恐ろしい程割り切りが良いわね…………」

 

 本を閉じてパチュリーが一升瓶から酒を注いでくれる、しかし慣れてないのか、それとも酔いが回っているのか少し手元が覚束ない。それを見た輝雄は何も言わずに手を添え、パチュリーの手元を安定させる。

 

「……慣れない事はするもんじゃないわね」

 

「大切なのは心遣いですよ、ありがとうございます」

 

「…………前から思ってたけど貴方結構紳士的よね」

 

 慣れない手付きで多めに注がれた盃を一息で飲み干し、周り見渡すがフランは見当たらない。あの特徴的な羽故に、見逃す事は考え難いとパチュリーに聞いてみる。

 

「フランは? いないんですか?」

 

「マシにはなったけどまだまだ出不精だからね、あの子は…………貴方から会いに来てあげて」

 

「それはいいけど頭の上に乗るなレミリア」

 

 注がれた酒を呑み干すと頭の上に重みを感じる、声と視界の端でパタパタと動く蝙蝠の翼からどうやらレミリアがもたれかかる様に頭上にいる様だ。

 

「パチュリーの予想は外れかしら? ねぇ輝雄、今回の異変は貴方にとってどうだった?」

 

「どうとは? 具体性に欠ける質問には抽象的にしか答えられないぞ」

 

「いいわよ、寧ろ主観性に基づいた抽象的な答えが欲しいのよ。で? どうなのよ?」

 

 肩から見えるレミリアの横顔、息を感じる程の近さ。幼くも縦に裂けた瞳孔と美しく整った顔は血が凍る様な迫力があったが、輝雄はそんな事よりも酒精の混じった息が気になった。

 

「…………そうさな、紅霧の時と同様自分の欲求(エゴ)に正直に従って動いただけだ」

 

「その割には随分と大立ち回りしたじゃない? 八雲紫には関わるなって忠告してあげたのに」

 

「向こうから襲ってきたんだ…………多分、前から目をつけられていた」

 

「つくづく退屈させないわね、貴方は…………ほら、霊夢が待ってるわよ。行きなさいな………………さっきから向けられてる殺気もウザいし」

 

「?」

 

 乗っかっていたレミリアが降りながら言った事に反応し、霊夢を見てみると赤ら顔でむくれていた。少し面白くなさそうではあったが、怒気は愚か殺気など発していない。輝雄は訝しんだが大した事では無いと捨て置いた。

 

そっちじゃないんだけど…………貴方、また厄介なのに憑かれたわね…………

 

 レミリアのその小さな呟きは、周囲の喧騒に流され輝雄の耳には届かなかった。既に輝雄は霊夢の隣まで行って何某かの説教を受けている、というよりもダル絡みされている様だ。レミリアは言うかどうか悩んで────────

 

 

 

「────────言わない方が面白そうね、うちの妹しかり」

 

 

 

 ────────女に刺された位じゃ死ななさそうなので、自分の愉悦を優先した。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「…………? なんか今、不名誉な事を思われた気が…………」

 

「ちょっとぉ!? きいてんのかがお!!? だいたいアン()()は────────」

 

(酔いど霊夢…………)

 

 話し始めて既に十分。時間の内約は九割九部九厘酔っ払いの呂律の回らない、というか意識も不確かそうな霊夢の説教である。

 

「…………コイツってこんなに酒癖悪いのか?」

 

「悪いっちゃ悪いが…………今日は一段と酷いな、お前何したんだよ」

 

 異変ぶりに会う魔理沙は少々引いている、普段から酒癖は良くないようだが流石にここまででは無い様だ。輝雄としてはなんやかんやで世話になったし殊勝な態度で聞いていたのだが中身が無い愚痴ばかりが続き、やや辟易してきた。

 

「おーい霊夢、その辺にしとけ。何があったか知らんが折角の宴会だ、説教だけで終わらすのは勿体ないだろ?」

 

「あぁん? まりさはねぇ、わかってないのよ! こいつはいかにもよすてびとみたいな()()()()をまとって()()けどねぇ〜まわりをないがし()()にはしないのよ!! ないがし()()にするのはじぶんだけ、わたしはそれがずっとまえから────────」

 

「あーはいはいそうだな。分かったから分かったから横になれ、そして酒瓶から手を離せ」

 

 友人である魔理沙の言葉に落ち着いたのか、それとも酔いが回り過ぎたのか、霊夢は支えられ茣蓙(ござ)の上で横になる。首を座っていなかった為余程呑んでいたのだろう。念の為、輝雄は回復体位を取らせて万一の際窒息しない様にしておく。

 

「ふー…………何があったんだ?」

 

「あー……まぁ……ちょいとばかし死に掛けた」

 

「またかよ…………スペカルール以外で戦うなよ、誰も得しないぞ?」

 

「いや、今回は色々特殊な事が連続したからな……今後はでしゃばる気は無いよ」

 

「はっ、どーだか」

 

 疑わしげな目で見てくる魔理沙に対して輝雄は何も言えない、基本的に人里に悪影響が無いなら彼が戦う理由は無いのだが、異変の影響は大体の場合幻想郷全体に及ぶ。考えれば考える程、誰も無関係ではいられない。人里の人間が異変を無視しているのは彼らには対抗手段が無いからだ。

 

「悪い、霊夢は任せていいか? ちょっとアリスにも会ってくる」

 

「大変だなぁロメオ?」

 

「茶化すな、そんなんじゃねぇよ」

 

 結局、まともな話は出来なかった。酔い潰れた霊夢と介抱する魔理沙を後にして輝雄は異変の際に迷惑を掛けてしまったアリスに謝罪と感謝をするべく向かう。

 

(………………しかし、あの霊夢の言い口。なんか引っかかるが────────)

 

 たまに神社へ来る事はあったが、あんな事を言われる程深い仲になった覚えは輝雄には無かった。彼にしてみれば精々ご近所付き合いの一環に過ぎなかったのだが。輝雄は微かに違和感を感じたが、さりとて考えても答えは出ない。

 

「…………博麗の勘ってやつか?」

 

「あら、何がかしら?」

 

「!? …………て、アリスか。驚かすなよ」

 

 考えながらフラフラと歩いていると、背後から声がかけられる。昼間の人目があるとはいえ油断を突かれ少しだけ緊張が走るが、声の主を確認して安心した。探してたアリスが不思議そうにこちらを見ていた。

 

「別に驚かしてないわよ、貴方が勝手に驚いただけ。何? 金髪の女性に不意に声をかけられる事にトラウマでもあるのかしら?」

 

「トラウマまではいってねぇよ」

 

「嫌な思いはしたのね」

 

「…………嵌めたな?」

 

 適当な場所に落ち着き、お互いに酒を注ぎながら異変について話し合う。輝雄は彼女の言い分から色々事情を把握されている事を察する。

 

「何? 皆知ってんの? チクったの誰だ」

 

「皆では無いわよ、私はパチュリーから。魔理沙は多分知らないでしょう、霊夢が言ってないならね…………大丈夫なの? 八雲紫を敵に回して?」

 

「別に? 悔いは無いし、それで死ぬなら弱い俺が悪い。そして八雲を殺す事にも迷いは無い…………尤も勝てる確信が無い限り、あの女が襲って来る事はもう無いだろうが」

 

 不安気な目でこちらを伺うアリスに対して何でもない様に呆気らかんと答える、事実彼には確信めいた物があった。流石に八雲の全てを理解したとは微塵も思わないが、おそらく直ぐにまた襲う事はないだろうと。

 

「…………随分と言い切るのね、あの妖怪は同じ妖怪から見ても異様で掴み所が無いのに」

 

「俺がそう思い込んでいるだけっていう勘違いの可能性もある、だが実際に殺し合ってある程度は奴の本心というか…………行動原理みたいなものは掴めた、それ以外もな」

 

「……? まぁ何にせよ、あまり無茶はしないようにね」

 

 “霊夢と魔理沙によろしく”と言い残し、アリスは席を立って魔法の森まで帰っていく。輝雄もそれを見送った、残るは騒霊の三姉妹だが演奏中で忙しそうだった。

 

「…………そろそろ戻るか、慧音さん達は後日でもいいだろ」

 

 同じ人里在住ならいつでも会えると考え、時間も押しているので彼は一旦幽々子の元へと戻る事にした。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

 ────────人は皆、誰かに望まれ産まれてくる。その望みは祝福かも知れないし、呪縛かも知れない。

 

 私の生誕は祝福だったのだろうか、呪縛だったのだろうか。

 

 恵まれた家系と境遇ではあったと思う、少なくともその日暮らしの様な困窮に喘いだ事は無い────────でもやはり、本当に欲しかった物はきっと私は生前手に入れる事は出来なかったと、今ならそう思える。

 

「ただいま、一通り挨拶回りしてきた」

 

「お帰りなさい。あ、今のちょっと新妻っぽくなかった?」

 

「いや別に」

 

「暖簾に腕押し、けんもほろろ…………ちょっとくらいデレてもいいのよ?」

 

 ────────親は居た。仲違いして死別したが、愛を感じなかったわけでは無い。

 

 ────────友も居た。人間じゃないし、その種の違いの上で寄り添ってくれた。

 

 ────────でも私は強欲にも満足して無かった…………もしかすると西行妖がなくとも亡霊に成っていたかも知れない。

 

「野郎がデレてもキショいだけだろ」

 

「知ってる、そういうの“つんでれ”って言うんでしょ?」

 

「尚の事キショいだろ……いや、人によるかも知れんけど少なくとも俺にそんな需要はねぇよ」

 

「私とってはあるわよ〜、ご飯三杯はいけるわ〜」

 

「アンタにしちゃ小食だな」

 

「…………女の子にそんな事言っちゃダメよ?」

 

 ────────私は“何を”欲していたのだろう。死後と生前の今際の際を思い出した今なら分かる気がする。

 

 私は、西行寺幽々子は家族が欲しかった? 違う。

 

 なら伴侶が欲しかった? 少し違う。

 

 私は、私が欲しかった物は、欲しかった人は────────

 

「女の子って…………いやまぁ、享年の時点で歳が止まっているならそうなるのか? ………………因みにアンタ歳いくつよ?」

 

「ん〜……確か元服の翌々年くらいに自刃したと思うけど……」

 

「────────え? まさか年下?」

 

「若妻よ、どう? 魅力的かしら?」

 

「いや俺ロリコンじゃないから」

 

「平安時代では全然普通よ? というか流石にロリは言い過ぎよ」

 

 

 

 ────────私の死に、本気で嘆き、本気で哀しみ、本気で怒り、一緒に悩み苦しんで…………そして一緒に死んでくれる人。

 

 

 

 綺麗事では無い、嘘偽りの無い、それが醜い私の本音。

 

 生前、今際の際で思った事は()()()()()()()()

 

 私を看取る人が誰もいない寂しさと、誰に向けるわけでも無い悔しさにも似た孤独。

 

 紫はいなかった、当たり前だ。彼女が居たら殴ってでも止めただろう。そして彼女には理想があり私はそれを知っていた、道連れには出来なかった、友人を死なせたくは無かった。

 

 妖忌もいなかった、彼は堅物で私の言う事全てを是とした訳じゃない。彼も紫と同様止めただろうし、既に伴侶を得て、家族がいた彼に道連れを強要など出来なかった。

 

 お父様の太刀を使い自刃する際に思った事は、死出の旅路を共にしてくれる人………………ずっと寂しかった、紫がいても妖忌がいても、種族が立場が煩わしかった。私は孤独感が拭えなかった、我儘という事は理解している。でもそう思ってしまう事まで否定出来なかった、私は私に嘘がつけなかった。

 

 西行妖が無くなった今、私は自身の未練だけで残っている。彼が天に昇れば、私の未練も無くなるだろう。

 

 ある意味では真っ当な亡霊に成った…………私から永遠は失われた。

 

 ────────でもね、いつか終わるとしても、私悲しくなんかないわ。

 

「西行寺、瓶くれ。酒注ぐから」

 

「私が注いで上げる、あと幽々子って呼んで」

 

「いや、自分で────────」

 

「────────やらせて。そして名前をちゃんと呼んで」

 

 遠目からは灼き尽くす様に輝く貴方、近寄れば傷付けぬ様に輝く貴方。私の終わりに、理解を示して、その上で生きるべきと断じた貴方。

 

 難しい顔をしながらも盃を出す彼。分かるわよ、貴方も自分が幸せな事に違和感を覚えて、人から真っ当な扱いをされる事に慣れてないんでしょう? 

 

 ────────私もそうだった。生きてちゃいけないんだって、責任を感じて自分でお腹を切ったの…………痛かったわ、でもね? 

 

「………………幽々子、頼めるか?」

 

「はぁい」

 

 意識してないのに甘えた声が出てしまう。傾けられた盃に私はお酒を注ぐ、並々に注がれた酒を思い人が味わう様に舌で転がし嚥下する。

 

 ただそれだけなのに、何故か楽しい。桜も、食事も、目に入らない。この瞬間の為に、あの痛みが、あの孤独が、あの苦悩の日々があったというなら────────私は納得するわ。不幸は幸福で帳消しになんてならないけど、それでも幸せだと思えるの。

 

 ────────あの瞳の輝きが、赤銅色のその輝きが、私の視界を狭めてしまう。私だけが見ていたい…………私だけを見て欲しい。

 

「…………美味しい?」

 

「…………そうだな、俗っぽいけど美女に酌されるってのも悪くない」

 

「まぁ、お上手ね」

 

「ハッ、どうせ言われ慣れてんだろ?」

 

「ふふ、どうでしょう?」

 

 そうね、無いわけじゃないわ────────でも貴方に言われる事が一番嬉しいわ…………まだ恥ずかしいから、言わないけど…………それはそれとして、あんまり他の女の子と絡まないでね? さっきの悪魔、思わず呪いそうになったから。

 

「そうそう、渡す物があったの」

 

「何? まさか冥土の土産とか言わないよな?」

 

(あなが)ち間違って無いけど…………はい、コレ」

 

 私は白玉楼から、より正確に言うと西行妖の残骸から見つけたソレを彼に渡す…………彼に相応しいかどうかよりも、私が彼に持っていて欲しいから。鞘がけに入れたソレを彼は受け取った。

 

「…………刀か?」

 

「正確には太刀ね」

 

 ────────生前、私が自刃した時に使った。私の遺体と共に西行妖に封じられていた。怨霊と化した西行法師が、生前も死後も愛用した古刀。

 

「…………なんか、ヤバそうな力感じるんだけど……大丈夫か? 呪われない? てか何か刀身赤いんだけど…………もしかして血か? これ?」

 

「大丈夫よ〜。寧ろ貴方以外が振るうと、多分呪殺されかねないから気をつけてね」

 

「安心出来る情報が何一つ無いんだが? いや俺剣術なんて使えないからいいよ、返す」

 

「お客様、そちらの商品は“くーりんぐおふ”は対応しておりません」

 

「そもそも買ってないんですけど!?」

 

 返そうとする彼を宥めて、受け取って貰う。妖夢には既に二本あるし、私は刀使わないし、だからって埃を被せる何だか寂しい。だったら、これからも災難に見舞われるだろう彼が持っている方がきっと助けになるだろうし────────

 

「────────私がいない時でも、その太刀が私の代わりに貴方を護るから。私の事、ずっと想い続けてね」

 

「…………急にどうした?」

 

「返事」

 

「…………偶に妖夢に剣習いに行っていいか?」

 

「勿論」

 

「…………分かった、あって困る物じゃないなら有り難く受け取ろう」

 

 渋々といった感じではあったが無事に受け取ってもらい、そして予想通り定期的に彼が白玉楼に来る様に自然に仕向けられた。あぁ良かった、これからも彼に逢える。冥界の管理を疎かには出来ないし…………通い妻というのも悪くは無いが。

 

「妖夢も喜ぶでしょうね〜、弟子が出来たって」

 

「喜ばしい事なのか? 弟子が出来るって」

 

「普段は家事で忙しいから人手が増える事は嬉しい筈よ?」

 

「俺は剣を習うのであって家事手伝う気は無いんですが?」

 

 酒を呑みながら交わす会話には意味は無い、ただの軽口の応酬。本当はもっと距離を詰めたいけれど今はいいわ、貴方もきっといつかは変われる時が来る。

 

 でも早くしてね? じゃないと私、亡霊じゃなくて貴方に取り憑く背後霊になりそうだから。

 

 

 

 

 

 





 西行寺の太刀

 造りは平安時代末期、古刀に分類され歴史に銘を残さなかった大業物
 嘗て武士だった歌聖はこの太刀で武勲を立てた
 幾人の、如何程の血を吸ったのか、最早持ち主もわからない

 そして半ば妖刀と化していた太刀を用いて富士見の娘は命を絶った
 家族を捨てた父への反抗か、歪ながら家族の繋がりを求めてか
 太刀は遺体と共に妖怪桜に葬られ、稀代の呪物と成った

 この太刀には強い情念が宿っている
 情念を向けられた男には無類の守り刀
 それ以外は振るう事を許さない非業の死を振り撒く妖刀

 銘は「残華」、与えたのは彷徨わない亡霊姫
 向ける想いはただ一つ、想う相手はただ一人
 呪いの原点にして人から生じる最も強い情念

 
 
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