前段階、ってところかな。
あと何回もあらすじ変えて、ごめんなさい。これで最後なんで。
「へぇー、結構綺麗ね……もっと散らかってるかと思ったわ」
「茶ぁ淹れてくるから、ジッとしてろよ」
「さて
「ジッ・と・し・て・い・ろ? な?」
「はいはい、別にアンタにどんな性癖があっても言いふらさないわよ」
「ねぇよ。余計なお世話だ」
長い長い冬が終わり、束の間の春を謳歌している人里。
その人気が無く、田畑が目立つ郊外の一人暮らしにはやや贅沢な一軒家────────輝雄の家に、霊夢が来ていた。
お互いに特にこれといった用事があったわけでは無い。輝雄がいつもの様に博麗神社まで奉納品を運び、霊夢が淹れた茶を飲んで、適当に適当な会話をして、“さぁ帰ろう”とした時に思い出した様に霊夢が言った。
『…………不公平じゃないかしら?』
『んぁ? …………何が?』
彼は眠たそうに欠伸しながら、振り返って聞き返す。その先には縁側で湯呑みを持つ霊夢。いつになく真剣な面持ちをしているが輝雄の反応は冷ややかだった、何故なら鉄火場以外ではこの巫女はとことん怠惰であると知り尽くしているからである。
『アンタ、神社、来る。私、いつも、お茶、出す。アンタ、帰る、だけ』
『何でカタコト? 茶菓子とか持って来てんじゃん』
『とにかく! 偶にはアンタが私を招待しなさいよ』
『賽銭要求して何番煎じかも分からん茶を飲ませるのがお前にとっては招待なのか』
それなりに不平不満はあったが特段用事は無かったので、結局輝雄が折れて霊夢を自宅に招いた。子供達のテスト用紙と教材を置いたままにしているちゃぶ台に、菓子受け。晴れているため開け放たれている障子から見える庭は家庭菜園になっている。
「…………生活感あるわね、幻想郷には慣れたのかしら?」
「安定はしてるな、俺は妖怪を気にせず里の外に出れるから偶に里の人達の依頼とか受けて野菜とか金銭貰ってるし」
「え? 何? アンタ潤ってんの? だったらもっとお賽銭入れなさいよ」
「あくせく働いた結果だよ。おめぇも働け」
「鬱陶しい雨の時期が去ったら前向きに考えるわ」
「冬もそんな感じでグータラしてたろ………………」
「あー! あー! 聞こえない聞こえない、きーこーえーなーいー!」
淹れたての茶を差し出し、騒ぎながら耳を抑える霊夢の対面に腰を据える。まだ夏の暑さは到来しておらず梅雨の湿り気の有る空気が強い。しかしアスファルトなど無い幻想郷。風は心地良く、空気には排気ガスの様な余分なものが含まれていない為、外の世界で育った輝雄からしてみればあの田舎町よりも住みやすい位だった。
「そんな事よりも! 何か無いの? 外の世界の面白い話とか。香霖さんとこよく行ってるんでしょ?」
「ん? お前も香霖堂行ってんのか。別に面白い話をしに行ってるわけじゃねぇよ、道具の使い方を教えたり買い物しに行ったりしてるだけだ。お前は?」
「私はこの巫女服の新調とか、後はお祓い棒と針の買い足しね」
「………………お前、金は?」
「ツケよ」
「さては払う気無いな?」
当然のように言い切る霊夢を冷ややかな目で見る輝雄、対する霊夢は鼻歌交じりにどこ吹く風だ。輝雄は一番最初に出会った紅魔館の時から薄々感じていたが、世間から浮いているのは本人の気質もあるが育った環境もあるのかも知れないと思い────────同時に思った事を口にしてみた。
「そういやお前、親は?」
「────────」
ほんの僅かに、霊夢の意識が止まる。不快感からでは無い、ただ虚を突かれただけだ。霊夢は顔を僅かにしかめて気まずそうに眼を逸らす。彼はその反応に地雷を踏んだかと思い、撤回する。
「…………すまんな、言いたくないなら言わなくていい」
「…………そういうわけじゃないわよ。ただ今まで誰にも聞かれた事無かったから────────言ってもいいけど、アンタが先に私の質問に答えて」
霊夢は逸らしていた眼を輝雄に向ける。少女の黒曜石の様な澄んだ瞳が、青年の赤銅色に濁った瞳と正面からかち合う。どこか言いずらそうに、自身の中から言葉を選びながらおずおずと霊夢は口を開く。
「アンタ…………もしかして
「
「────────そう…………そう、よね…………」
霊夢が何を疑っているのか、なんとなくそれを察した輝雄は断言する。それが一体何を意味しているのか、霊夢は何故その考えに至ったのかまでは分からなかったが、輝雄は飽くまでも正直に答えた。
「…………で、言いたくないならいいがお前の親は?」
「…………吸血鬼異変の際に、亡くなったわ」
「…………そうか、遺体は?」
「…………無い、妖怪の餌になったのかもね」
────────半ば察してはいた。
輝雄にとって、それは答え合わせの様なものだった。レミリアから聞いた話や、今住んでいる自宅に残されていた新聞、人伝に聞いた話から先代の博麗巫女は十年ほど前の“吸血鬼異変”を皮切りに全く姿を見せなくなったという。
ある時、輝雄が仕事終わりに博麗の巫女について聞いた時、慧音は言った。
『先代の博麗の巫女か…………実際に
────────そして、誰もが“博麗の巫女”と呼び称えたいたせいか、名前を誰も覚えていないらしい』
『………………名前を? そんな事が有り得るんですか?』
『分からん。だが実際に、どんな記録にも名前の記述が無い。巫女はただ“何代目”かだけが記録に在り、その活躍が残されている………………今の霊夢が変わっているんだ。歴代の博麗の巫女は妖怪が暴れない限り、人里に関わろうとしなかった────────ある種、近寄り難い、触れてはならない神聖な存在だったんだ』
『………………………………』
実際に死んだ瞬間や遺体は誰も見ていない事から生死不明が正しいが、十年も姿を隠している意味が分からない以上死んでいると考えるのが一番自然だろう────────それこそ、霊夢すら見ていないのならほぼ間違いなく、今、この世にいない。
(………………妖怪から恨みを買っていたなら、遺体もそうなるか…………幻想郷の外で育ったか、内で育ったかなんて、妖怪からしてみればどうでもいい事だろうしな)
まさか霊夢が初めから一人で暮らしていたとは考えにくく、独り立ち出来るまで誰かが側で生活面でも、修行面でも面倒を見ていた筈だと思っていたが、輝雄の想像以上に闇が深かった。
「────────憎くないのか? 妖怪が?」
「………………」
輝雄は、それを慰める事はしようとは思わなかった。しかし博麗の巫女として言えない事、言うべきでは無い事があるなら、八つ当たりでも良い────────自分に対してぶつけて、少しでも霊夢の中の消化し切れない
「────────憎くないわ、だって人間も妖怪を退治してるでしょ? お互い様よ」
仄かに、しかし確かに本心を隠す様にそっぽを向く前に、黒曜石の様な瞳には憂いがあった。それを見た輝雄は霊夢の肩に無意識に手を伸ばしかけ────────途中で辞めた。彼には、何をすればその憂いが除けるのか、まるで見当もつかなかったから。
「……………………そうか、
憐れみなどかけていない、と内心誰に向けるわけでも無い言いわけをして、霊夢にゆっくりするように言い残して彼は席を立つ。霊夢は気の抜けた返事をして、ぼんやり庭を眺めていた。
外の世界でも後輩相手に感じていた、越えられない一線を輝雄は霊夢から感じていた。
♢
(────────結局、全部私の勘違いだったのかしら)
一人残された霊夢は、茶が冷めるのも構わず物思いに耽る。神社とは違う、他人の家特有の違う匂いを感じながら“アイツは普段ここで生活してるのか”なんて考えていた。
何となくちゃぶ台から片付けられた用紙や教材を見てみる、そこには丁寧に子供達のテストの採点と一言助言が書かれていた。今度は学級日誌を見てみると子供の悪ふざけに悪ノリしたのか、漫画のキャラクターが描かれていた。
「…………ふふ、アイツ意外と絵上手いのね」
暇なので、湯呑みに茶を追加しに行こうと台所に向かおうとすると────────視界の端に茶色い紙の箱が映る。
「ん? …………何かしら、ゴミ箱?」
霊夢は名称は知らなかったがそれはダンボールと呼ばれる物、特に警戒する事もなく開けてみると、そこには血が染み付いていた跡が残るズタズタになった外来人の服。霊夢はそれが春雪異変の時に彼が着ていたものだと直ぐに気付いた。心臓の位置が裂け、血が赤く染めているのが痛々しい。
「西行妖との戦いでダメになっちゃったのね………………」
洗い流されたとは言え、致死量を超えた出血。全て綺麗に落ちる筈もなく、この色合いと生地では雑巾にも使えないだろう。それ程激しい死闘だったという事を衣服が物語っている。能力、運、周りの助けが無ければ何度死んでいたか。
(………………こんなに血が出るまで戦うんじゃないわよ)
思い返すのは春雪異変だけでは無い、紅霧異変の時も同じだった。何があったのか詳しい事は聞いてないが、遥か格上のフランにボコボコにされながら喰らい付いていた、一度殺されかけたというのに。何がそこまで彼を突き動かすのか、単純な善意だけでは無いのだろうが、霊夢には想像がつかなかった。
ふと、同時に思い出す。あの時自分は何故かいきなり頭痛に見舞われ、戦うどころでは無かったと。そして不思議な事に、何故か初めて会う筈の輝雄が敵では無いと確信した事。
(あの時、私は何を思い出しかけて────────?)
瞬間、霊夢は無視出来ない違和感に気付く。反芻する様に、あの時に脳裏によぎった光景をノイズ混じりに、されど鮮明に思い返す。
────────畳の上に寝ている
「…………………………………………なんで、
ただの思い違いか、それとも何か意味があるのか。
この
ジワリと汗が滲む。暑さでは無く、霊夢自身知らない何かが仕組まれている様な嫌な感覚だった────────幼い頃の自分に、一体何があった? 話しているのは誰だ? 話しかけられている相手は誰だ?
「────────あぁもう!! 暑いしジメジメするしやってらんないわよ!!!」
嫌な予感を振い払う様に血が染み付いたズタズタの衣服を振り回す、最早喉の渇きもどうでもよくなり、衣服を毛布がわりに畳の上に寝転がる。
「…………何してんだろ、私…………」
暫くボーッとしていると、自分の事を客観視して少し恥ずかしくなる。何故自分は家主不在時に衣服を漁り、騒いだ挙句寝転がっているのだろう。
腐れ縁の魔法使いにはよく傍若無人扱いされるが、その気になれば常識的な振る舞いだって出来る。ただ常識的な奴が周囲に少ないから、こっちが畏まるのが馬鹿馬鹿しいだけだ。
「………………………………………………………………」
何となく、何故か本当に何となく、霊夢自身何故そうしようと思ったのか分からないが────────なんとなく、血が染みた衣服を顔まで近づけた。
(…………臭くはないわね、普段からよく洗ってたのかしら)
因みに腐れ縁の魔法使いは徹夜後だと偶に臭う。そのくせ自分の神社には平気で来るのに、あの古道具屋には必ず身嗜みを整えてからいく。その手の事に疎い霊夢にすら、彼女の胸中は丸分かりであった。
男らしい────────のかは分からないが、ほんのりツンとする刺激臭に洗剤の香り。一番分かりやすいのは血の匂いだ、西行妖を倒した後の輝雄と同じ鉄の匂いがブレンドし、彼女の鼻腔を満たす。
(………………なんだろ……なんか、懐かし────────)
いつの間にか起き上がり、座った状態でかぶり付く様に衣服に顔を埋め匂いを嗅ぐ。いつも浮いている心地の彼女が、何故かその行為と匂いに引きつけられる。ほんの僅かな血と汗と、彼特有の香りに我を忘れて────────
「────────輝雄ー? 買い物終わった、よ………………」
「…………………………………………………………………………」
「「──────────────────────────」」
────────赤と水色のオッドアイの少女に、その現場を目撃される。
全てが見える! 全てが聞こえる! 全てが感じとれる! にも関わらず圧倒的な情報量に両者共に脳内で情報が完結しない────────故に、お互い何も出来なくなった!
(妖怪────────何で────────見られた────────輝雄────────どうする────────)
(誰────────!? ────────服────────嗅いでた────────? 巫女服────────博麗────────!?)
しかし某メイドが時間が止めたわけでも無く、某呪術師が無限回の作業を強要したわけでも無い。上澄みの思考が刹那の間に駆け巡り、霊夢は反射的に口止めに掛かろうとし、小傘は身の危険を感じ逃げ出そうと────────
「────────悪ぃ、財布忘れたわ。霊夢ー? 居間に俺の財布置いてないかー?」
────────その声に両者共に止まる。そして同時に行動に移した!
霊夢は衣服をダンボールに叩き込み、小傘を睨み付け“お前喋ったらどうなるか分かるよな? ”と目で語る。小傘は一瞬で“あぁこれは逆らったら駄目なヤツだ”と悟り精神的に全面降伏し、素早く買い物籠をちゃぶ台に置いて正座で待機する。
「……………………なにしてんの?」
「「いや、別に」」
「……………………小傘、顔青いぞ」
「「いや、別に」」
「いや霊夢には聞いてないし、知り合いか?」
「「いや、別に」」
「お前らオウムか?」
玄関から直結する廊下から居間まで僅か五秒、そこにはもう何食わぬ顔で冷めた茶を飲む霊夢と、何故か顔面蒼白で正座する小傘しかいなかった。
「てか輝雄、何でアンタん
「あー……大切に使ってた傘が付喪神になってな。捨てたら恨まれそうだから置いてる。人は襲わせないし、襲ったらキチンと殺すから気にすんな」
「へッ!?」
サラリと言われた衝撃情報に、小傘は変な声が出る。まるで朝の挨拶くらい気軽な殺害宣言だった。しかし霊夢はそれでもやっぱり猜疑的な視線を向ける。
「気にするわよ……てか、嘘でしょ。付喪神は捨てられた恨みから生じるもの、大切に使ってるなら出ない筈よ」
「へー、知らなんだわ。じゃあコイツが特別なんじゃね?」
小傘の頭に手を置いて左右にグリグリ揺らす、小傘は特に嫌がる様子は見せずされるがままになっている。輝雄は状況はよく分かっていなかったが、小傘の存在が霊夢にとって好ましくない事は何となく察した。霊夢の詰問を、のらりくらりと
「アンタね…………人間と妖怪どっちの味方なのよ?」
「どっちの敵にも味方にもなった覚えは無いし、人里の人達も俺の事を味方とか仲間なんて思ってないと思うぞ。とにかく、コイツは俺に一任しろ」
「…………ま、その程度の妖怪にアンタが遅れを取るはず無いか……」
「そ、その程度とは何よ!? 私だってその気になれば────────ピッ!?!?」
霊夢にあからさまに見くびられて言い返そうとするが、霊夢が霊力を放ち威圧する。一概には言え無いが霊力の多寡は分かりやすい強さの指標になり、博麗霊夢の霊力の総量も出力は共に超一流である。とても小傘が太刀打ちできる相手では無い。
「アンタ────小傘って言ったかしら?」
「は、はい……」
輝雄の後ろに隠れながら返事をする姿は小動物の様だ、ついでに霊夢は頂点捕食者の様だった。輝雄は間に挟まれながら“コイツ女子力より戦闘力の方が高そうだなぁ”なんて呑気に考えた。
「
「はいッ! 墓の下まで持って行きますッ!!!」
(妖怪って墓あるんだ………………)
凄味を感じさせる霊夢、ビビり散らかす小傘、小傘が買ってきた煎餅を呑気に齧る輝雄。彼女達の間に何があったのか気にはなったが、聞けば最後、霊夢が暴れまくるのは目に見えていたので成り行きに任せた。流石に戦いになるなら止めるつもりだったが、一応霊夢は小傘を見逃す事にしたのか霊力を抑える。
「あーそうそう、財布忘れたんだった。どうする? 待つか?」
「…………いや、だったら甘味処で奢んなさいよ」
「へいへい、仰せのままに」
「私も私も!!」
今度こそ財布を懐にしまい、二人で揃って外に出る。後ろからは小傘も飛び跳ねながら付いてくる。
妖怪という事を隠し、慧音には伝えた上で輝雄の家に住まわせている。一説では主婦業は月収にすると三十万位と聞いた事があるので、輝雄は家賃は取らない代わりに家事を自分より多めにやらせている。
何より────────
「────────ただし小傘、てめーはダメだ」
「────────!?!?!」
「…………嘘だよ、だから泣きそうな顔すんな」
「…………人前でイチャついてんじゃないわよ」
────────
言うまでもなく独自設定です。間に受けちゃやーよ。
因みにこの小説の慧音は現在大体二十半ば位の年齢で、先代巫女の時は