幻想禍津星   作:七黒八白

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 二次創作の設定回って需要無さそう…………でもやる!!!!

 そして毎度毎度誤字報告ありがとうございます!日時的にほぼ投稿と同時でビビりましたが…………




第三十九話 能力と術式

 

「シッ────────」

 

(上段から水平斬り突きから脚掛けと同時に入れ替わり────────)

 

 木刀を構える、妖夢と輝雄が蹲踞から立ち上がり、息を合わせて同時に駆け出す。素早く片方が打ち、片方が護り、交互に攻防が展開される。戦いでは無い、俗に言う約束組み手と呼ばれる物である。

 

 お互いに速度は同程度ではあったが、やはり一連の行動は妖夢の方が滑らかで予備動作が分かりづらかった。技術の練度では劣る輝雄は純粋な肉体性能で喰らい付く。しかし稽古なので力押しだけで勝とうとはしない、剣術としての技を身に染み付かせる為だ。

 

 木刀がぶつかり甲高い音が断続的に白玉楼に響き、肌を掠める様に木刀が空を斬る。時間が経つにつれて無駄が削ぎ落とされ、動きが剣術に適応していき動作が早くなる。

 

「ふぅー……一旦、ここらで休憩しましょうか」

 

「……分かった、休んでてくれ。俺はもうちょい木刀振ってるから」

 

「根を詰める過ぎると逆に非効率ですよ」

 

「無理してるわけじゃない。ただもう少しでコツが掴めそうなんだ」

 

「そうですか…………では一つ助言を。考えながら動いてる内は二流ですよ」

 

「優しいね、涙ちょちょ()れそうだぜ」

 

 言いながら既に輝雄から妖夢は意識の外に弾き出され、木刀を正眼に構える。よく例えられる“剣を腕の延長とする”考えや感覚にまだ達していない彼は我武者羅(がむしゃら)に剣を振るうのでは無く、筋繊維一本に至るまで意識を張り巡らせ、蝶が止まりそうな程、ゆっくり構えから型通りに剣を振るう。

 

(遅足の型通し…………既に知識として知っていたのか、或いは感覚から辿りついたのか。どちらにせよ凄まじ勢いで技術を吸収していく…………!)

 

 妖夢は考える────────型とは、技とは、術とはつまるところ最小限から最大限の効率を出す物であると。これは用いる物が拳だろうと剣だろうと霊力だろうと大差は無い、現時点で力の絶対量が決まっているのならそこから如何に最適解を出すか────────戦いでは毎秒それが求められる。

 

(だからこそ身体の感覚と頭の思考が直結する様に何度も反復練習をする、その為には速く動くよりも()()()()()()()()()()()…………誰にも教わらず実行しているなら大した物ですね…………)

 

 ────────生き物が持つ感覚に固有覚と呼ばれる物がある。

 

 簡単に言えば、自分の身体が今どの程度どうなっているかを感じとる感覚。俗に言う運動神経は主にこの感覚に当たる。当然、人間の理想的な動きと現実の動きは乖離している、その為に何度も同じ行為をして文字通り体におぼえこませるのだ。

 

 ゆっくりと動けば、当然理想の動きとして微調整が効く。しかしその分身体の動きが不自然な体勢を長時間保たなくてはならず、息一つにも気を張り巡らせ無ければならない。

 

(体術も剣術も、根本は同じ…………動く稽古よりも動かない稽古が辛いんですよね)

 

 輝雄の額から大粒の汗が流れて瞳を舐める、しかし瞬き一つせずに全神経を剣と動きに注ぐ。一心不乱、一意専心、未完なれど淀みのない心技体。

 

「……………………」

 

妖夢には、その姿が美しく見えた。まるで斬る事だけに特化させた刀の様な機能美を意識に宿している。何が彼をそこまで突き動かすのか彼女には分からなかったが、思えばあの異変の日から気付けば目で追っている自分がいる。

 

「…………あの」

 

 鋭い赤銅色の瞳、無駄の無い練り上げらた五体、平時は無感情だがいざという時は鬼神の如き形相と強さ。それは妖夢が追い求めていた強さでもあった、何故あの時西行寺幽々子を救えたのは自分では無かったのだろう────────悔恨が、いつまでも拭えない。

 

「…………すみません、ちょっと」

 

 どうすれば彼の様に強くなれるのだろう、体や技だけで無く心も。近づきたいと思った、彼の強さに。彼の心に。彼の隣に。そうすれば今度こそ護り切れる気がした、そしてあわよくば跡継ぎを────────「あのすみません幽々子様!? 私のモノローグ改竄しないで下さい!!!」あら? バレてた?」

 

 妖夢の背後からぬるりと幽々子が竹の水筒を持って姿を現す、目を細め穏やかに微笑む姿は全く悪びれていない。妖夢からしてみればいつもの事だった、何故か輝雄に対して並々ならぬ感情を抱いている事にされたのは少し不服というか解せないが。

 

「でも彼の事を最近よく考えているじゃない?」

 

「ッ!? どうしてそれを────!?」

 

「あ、やっぱり」

 

「………………鎌かけましたね!?」

 

 水筒を渡されると同時に、さも当然の様に鎌を掛けられ語るに落ちる。根が真面目な妖夢は大体の場合幽々子や紫に揶揄われる、無論相手が悪過ぎるのもあるが。一拍遅れて気づき、視線で抗議するが幽々子にはやはり届かない。主の視線の先を追うと、やはり先にいるのは件の彼だった。

 

「……何か気になる事でも?」

 

「いいえ? ただ凛々しいなぁーって思ってただけよ?」

 

「……そうですか、私はてっきり幽々子様が惚れたのかと思いましたよ」

 

 それは意趣返しのつもりだった。やられたままじゃ悔しいからという子供じみた仕返し、この程度で幽々子を動揺させられるとは露程も思ってなかったが妖夢には、それ位しかし思いつかなかった。横目で見ながら水筒を傾け────────

 

「────────え? もう惚れてるけど? 妖夢は知らなかったの?」

 

「────────? (脳が理解を拒む)

 ……………………? (脳が理解し始める)

 ────────なんて? (でも信じられない)」

 

「今凄く間があったわね……そんなに信じられない? あと汚いわよ」

 

 鳩が豆鉄砲を喰らうどころか、迫撃砲でもぶち込まれたかの様に間抜けな顔で惚ける妖夢。口からは飲んだ水がダダ漏れだった。幽々子はいくら何でも驚きすぎだろうとやや呆れている。硬直からようやく幽々子の言葉に意識と理解が及び、妖夢はパニックになりながら幽々子に詰め寄る。

 

「どどど、どういう事ですか?! 何で彼に!? よりにもよって輝雄なんですか!?」

 

「気になるなら延々と語ってあげてもいいけど、好きになる理由も嫌いになる理由も余人には理解出来る物じゃないわよ? ………………あと、言い方には少し気をつけなさい? ()()()()()()()って…………何?」

 

「………………!」

 

 いつも飄々として涼やかにしている自分の主人が、細めた瞳の奥に僅かに赫怒を燻らせる。それを真正面から見てしまった妖夢は、まるで大蛇に生きたまま呑まれる様な心地になり、すぐに撤回した。

 

「も、申し訳ありません…………」

 

「いいわよ〜、でも本当に気を付けてね? 彼の事だから怒らないし気にしないだろうけど逆に気を遣って白玉楼(ここに)来なくなるかも知れないから」

 

「…………」

 

 次の瞬間には、そこにはいつも通りの幽々子しかはいなかった。それに今まで感じた事のない不安と、どこか疎外感を妖夢は覚えた。

 

 曰く、西行妖に封じられていた富士見の娘とは西行寺幽々子、本人の事。そして今まで気にした事もなかったが自分の主が亡霊として成り立っているのは西行妖に縛られていたから。

 

 ────────では、その縛りから解き放たれ生前の記憶を取り戻せた今の幽々子は、妖夢の知っている幽々子と同じなのか? 

 

「…………そんな不安そうな顔しないの。大丈夫、私は私のままよ」

 

「幽々子様……」

 

 妖夢の不安を見抜いたのか、幽々子は優しく髪を撫でる。妖夢が知らない幽々子と妖夢が知っている幽々子、何処がどう違うのか彼女には分からないが、自分の事を子供扱いして手玉に取られるのはいつも通りだった。

 

「ただちょっと、恋くらいしたいじゃない? 生前は妖忌と紫以外と関わらなかったし」

 

「…………でも、やっぱりどうして彼なんです? 幽々子様なら引くて数多かと……」

 

「不特定多数にモテても仕方ないでしょ? 私そんな尻軽じゃないわ。それに────」

 

「それに?」

 

「妖夢も知っている人なら安心するでしょう?」

 

「それは……まぁ、そうですが……多分、彼は赤の他人はそこまで入れ込みませんが、一度懐に入れた仲間や家族は大切にすると思いますし」

 

「あら、貴方がそんな事を言うなんて珍しい。どうしてそう思うの?」

 

 その言葉に思わず否定しようとするが、確かに何処ぞの馬の骨よりは圧倒的にマシではある。無条件に優しさをかける絵に描いたような好青年にはほど遠いが間違いなく気骨があり、妖夢の予想だが彼は恐らく身内には甘い類の人間だと思った。

 

「殆ど勘に過ぎないのですが……西行妖との死闘で、彼は霊夢や私を護るためにも戦っていた様に思ったんです。

 

 無論それが最善だからという理由もあるでしょうが…………多分、彼は根は善人です。かなり悪辣に振る舞ってますが…………」

 

「でしょう? でもそういう所もイイのよねぇ…………それに私だけじゃ彼の相手はキツそうだから、妖夢ならいいかなぁって」

 

「…………? 剣の稽古なら私がつけますが…………?」

 

 彼は弾幕ごっこはしないという、ならば幽々子と模擬戦などする必要はないはず。剣術に至ってはまるで習おうとしないので妖夢の指南役は殆ど形骸化している。はて? と浮かぶ疑問詞に、幽々子が爆弾を放り込む。

 

「────────いや、夜の営みの方よ」

 

「ぶっ────────!?!?」

 

「そんなに驚く? 夫婦になるなら自然だと思うけど?」

 

 ────────なお、輝雄本人は剣に集中して聞こえていない。ついでに言うなら二人は別に恋仲ですら無い。

 

「だだだだだとしてもですよ!? 展開が早過ぎるでしょう?! しかも何で私まで巻き込むんですか!?」

 

「だって彼自前の身体能力だけで大妖怪と並ぶ水準よ? 私は霊力の強化無しだと普通の人と大差無いし…………彼の()()受け入れたら壊れちゃう……♡」

 

 何を考えているのか幽々子は曇った瞳でうっとりする。同時に言われて妖夢は思い出す、無意識に封印していた記憶を。幽々子の友人である八雲紫は輝雄の心臓と抉られた肩は治したが、それ以外には手を付けなかった。彼の精神を弄るような真似は幽々子が断固として許さなかったからだ。

 

 その為、当然妖夢と幽々子が彼の服を脱がして、身体を綺麗に拭いて傷が化膿しない様に手当てしたのだ。その時女性には無い、尋常では無いサイズの()()()が────────

 

 

 

う、うわぁぁぁあぁあぁぁあああああああああぁぁぁあ────────!!!!!!! 

 

 

「………………アイツ何で叫んでんの?」

 

「そういう年頃なのよ〜」

 

(……………………自作の黒歴史小説でも思い出したか?)

 

 顔を真っ赤にしながら何かを振り払う様に頭を振り叫び散らす妖夢を、離れた位置から幽々子と輝雄が生温かい目で見ていた。知らぬが仏、輝雄は何も気付かず、隣で微笑む幽々子は何も語らない。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「それじゃ始めるわよ〜」

 

「はい、幽々子せんせー。その前にいいですか?」

 

「何かしら?」

 

 妖夢と輝雄は軽く水を浴びて汗を流し、身体を拭いて私服に着替えてから白玉楼の一室にて三人は集まっていた。二人の前には教師の様に幽々子が立っている。

 

「霊力や能力や術式の解説をしてくれるのはありがたいのですが

 

 ────────妖夢さんは何で僕から異様に距離を取ってるんですか?」

 

「簡単に言うなら思春期よ!」

 

「違います!」

 

「じゃあ、何でだよ」

 

「…………この変態!!」

 

「マジで何でだよ???」

 

 ちゃぶ台を机代わりに座る輝雄は、妖夢に部屋の隅から罵倒を投げ掛けられる。何故かいきなり変態認定され疑問が尽きないが、折角の先達者である幽々子から直々に霊力や術に関して講義してもらえるので変態扱いを一旦置いておく、果てしなく不服だったが。

 

「はい、じゃあまずは“能力”と“術式”の違いは分かるかしら?」

 

「多分…………先天的な物と後天的に取得した物であるか、ですよね?」

 

「正解。貴方や私の能力は先天的な物、紫もそうよ。でも式神術や結界術なんかは誰でも後天的に取得出来る物よ。まぁ、結局才能に左右されるけどね」

 

 輝雄の答えを幽々子は補足を入れながら肯定する。輝雄が知っている限りでは霊夢の結界術とパチュリーの魔法が“術式”に当たる。何故なら幽々子や輝雄の様に生まれながらにその力を備えていたわけでは無いからだ。特に魔法は術者本人がオリジナルで開発するという、他者の魔法を模倣する事も出来るが、基本的に流派などがあるわけでは無いらしい。

 

「主なメリットは普及させやすかったり汎用性に富んでいる事、勿論術者の力量次第だけど。

 

 デメリットは対策が立てられやすい事、既存の技術という事は術のメカニズムが理解し易いから相手が予め対抗策を持っている可能性が高いのよ」

 

「成る程…………逆に生まれ持った異能は独自の法則性があるから対策が立てられにくいって事ですか?」

 

「そうね、少なくとも初見は通じるでしょう。紫ぐらいの術者なら即座に解析して対策を作りかねないけど…………普通は無理だけどね、即興で術式を一から作るなんて。

 

 そしてデメリットは多くの場合、汎用性が乏しく、普及は出来ない。後天的に魚のエラや鳥の羽は生やせないでしょ? そういう事」

 

「…………とんでもないな、アイツ」

 

 汎用性に乏しいのはあまりにもその個人に合わせてあるからだろう、何せ生まれながらにその身に刻まれているのだから。例えば目の見えない者に色が想像出来ない様に、耳が聞こえない者に歌が分からない様に、独自の“感覚(世界観)”というものは文字や言葉に表しても十全には伝わらない。

 

 そして能力を合わせるよりも術式を能力に合わせる方が現実的であると幽々子は続ける。その話に思い出すのは八雲紫に衝撃や打撃が効果が薄かった事。

 

(八雲を最初殴ったあの感触…………多分能力を付与した術式を自分で開発したのか?)

 

 恐らく八雲紫は計画的に自分を襲った、ならば輝雄に対して有利に立ち回れる様に想定して、それに合わせた戦術も練ったはず。だとすれば自身の“主に理不尽と不条理に抗う程度能力”を付与した結界などを作れば今後八雲相手に有利に立ち回れ────────

 

「うーん、理論上可能だけど…………かなり難しいでしょうね」

 

「…………その心は?」

 

「まず相手の能力の理解や正しい知覚と認識。そして術式の構築は弾幕の生成よりもずっと複雑だし、何より貴方が紫に対抗するには術者として未熟過ぎる。はっきり言って無謀ね」

 

「…………そんなに?」

 

「闇の衣を纏う大魔王相手に“ひのきのぼう”で立ち向かうくらい無謀ね」

 

「そんなに!? てかドラクエ知ってんの!?」

 

(………………“どらくえ”って、何?)

 

 幽々子の例えが外来人であった輝雄にはあまりにも分かりやすかった為か、輝雄の脳内にクソコラ画像の様に“ 滅びこそ我が喜び。死にゆく者こそ美しい”的な大魔王と顔がすり替えられた紫が浮かび、輝雄はひのきのぼうで殴り掛かる映像が過ぎる。

 

 当然、結果は腕の中で息絶えた。妖夢はよく分からない為置いてけぼりである。

 

「こればっかりは時間をかけて学んでいくしか無いわね…………そういえば霊夢には教わろうとしなかったの?」

 

「結界の張り方聞いて“ひゅーっとやって、ひょい”という説明を聞いてアイツから教わるのは諦めました」

 

「そこまでいくと、いっそ清々しいほど天才肌ね…………」

 

 世間一般で言われる天才は二種類いる。望んだ成果が出るまで諦めない努力型と、望んだ以上の結果を軽く出す才能型。間違いなく霊夢は後者でどちらかというと輝雄は前者だった。

 

「そうねぇ…………能力の制約に(のっと)った差し引き条件を設けたら少しはハードルが下がるかも知れないわね」

 

「差し引き条件?」

 

 能力に関する制約はパチュリーや咲夜との戦いを通してある程度理解していたが、初めて聞く話に輝雄は首を傾げる。

 

「何らかのデメリットを先に被り、代わりにメリットを得るやり方よ。貴方の能力が丁度分かり易い。

 

 “痛い目にあって、今度はそれに負けない様に強くなる”、この効果は貴方だけの特権じゃない。このある種の作用反作用の法則は全てに当て嵌まる法則よ。筋トレして腕力が増す様に、ランニングをして心肺機能を高める様に、人間には普遍的な事。貴方が異常な所は成長の()()()()ね。

 

 意図的に不利な条件を作って有利な効果を作る、尖った戦術だけど上手く嵌れば強いわよ…………条件を護っている内は。

 

 因みに幻想郷の結界も同じ様な理屈で成り立っているわ、外の世界から幻想や神秘が消えれば消える程、幻想郷内に神秘が充満し、それを拠り所にする者達は強くなる。

 

 だから外の世界と幻想郷は相容れない、だって神秘が薄まって妖怪達は弱くなってしまうから」

 

「………………成る程」

 

 能力や制約による力の差し引き、まさか博麗大結界と常識と非常識の境界結界にそんな仕様が適用されている事に輝雄は関心する。

 

(上手いな……外の世界で勝手に人間達が幻想を追いやり、幻想郷にその力が集う様にする…………これなら何もせずに幻想郷で妖怪の立場が安定する。恐らく幻想郷に妖怪や神仏が流れてくるのも同じ理屈か、八雲紫…………賢者は伊達じゃないか。

 

 ────────問題は俺に同じ真似が出来るか?)

 

 輝雄の能力による抵抗や能力の向上はある種の免疫力に似ている。風邪をひいた後、体内の細胞などが同じ病に罹らない様に免疫系を造る様に一度喰らった能力に耐性を得る。

 

 逆に言うと、初見の技や攻撃は()()()()()とも言える。もしも、あの時の八雲紫がそこに気付いていたら輝雄は生きてはいなかったかも知れない。

 

(しかも能力の種類や相性によっては抵抗力を得るのに時間が掛かる可能性もある、現に咲夜がそうだった。俺が相手の能力を理解していたりすれば話も変わってくるだろうが…………)

 

 主に理不尽と不条理に抗う程度の能力、抗う対象はある程度選べるが輝雄がそれを理不尽や不条理と捉えるには能力の制約上、輝雄がある程度不利でなければならない。唯一の救いは格上の相手ならほぼ間違いなく、限界への抵抗で身体能力や霊力の出力と上限が上がる事か。

 

「…………難しい事は後ね、まずは自分の能力の効果を出力出来る様にならないと」

 

「ん? 出力? それならもう出来るけど……」

 

「自分自身に能力を適用させるのは出力とは言わないわ。妖夢、アレ持ってきて」

 

「はい、只今」

 

 呼ばれた妖夢が返事すると同時に部屋から出る。待っている間にも幽々子の話は続く。

 

「貴方の能力を大雑把に言うと“抵抗する”事。なら貴方の意識と力量次第で今からでも抵抗する対象を選べるはず」

 

「…………? だからそれが難しいって話だろ? さっきのが」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()、この場合は必要がないわ。だって、もうその身に刻まれているのですもの」

 

「お待たせ致しました」

 

 戸を開け入ってくる妖夢は何故か(たらい)を持っていた。ちゃぶ台に置かれたそれを除いてみると、丁度旬の川魚のヤマメやイワナが数匹入っていた。

 

「おぉ、いいサイズ…………で? 何すんの?」

 

「こうするの」

 

 幽々子が扇子を振るうと、その軌跡から美しく雅な蝶の弾幕が生成された。ひらひらと蝶は舞い水面の魚に近づく、魚達はソレを餌と思ったのだろう。口を開け飛び掛かり────────蝶が弾け、魚は動かなくなった。そして目の錯覚か、輝雄は魚から埃の様な小さな光が抜けたのを視界の端で捉えた。

 

「今のは…………死んだのか?」

 

「えぇ、今の弾幕には私の能力が込められていたから。これが能力の出力、自分だけではなく外に対してその法則や効果を与えるの。今日はこの辺りにしましょうか、どうする? 泊まってく?」

 

「…………ならお言葉に甘えて、同居人には言ってあるし」

 

「そう! 良かったわ。妖夢、早速御夕飯の準備して!」

 

「畏まりました。輝雄、客室まで案内します。ついて来て下さい」

 

 そして、幽々子を部屋に残して輝雄は妖夢について行く。一人残された幽々子は輝雄が泊まっていく事に、少し浮つきながら時間を潰そうと庭に出て散歩でもしようかと考えていると、ふと気付く。

 

「……………………()()()?」

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

(外部へ能力の効果を出力か………………確かに、今まで俺の能力は特性に近いと思っていたが…………ただ俺が未熟なだけだったわけか)

 

 輝雄は食事と風呂を済ませて二人、特に幽々子に晩酌を強く勧められた為かなり呑んだ後、当てがわれた和室で一人木目が目立つ天井を眺めながら考える。

 

 確かに今まで戦った妖怪達は殆ど能力の出力が出来ていた、というよりも妖怪にとって妖力や能力を扱うのは自然な事なのだろう。霊力を使えない人間は居ても、妖力が使えない妖怪など居ない。妖怪の個体としての強みはそこにもある。

 

「だからこそ人みたいに群れないわけだが…………まだまだやる事は山積みだな…………そんで、お前はそこで何してんだ幽々子?」

 

 どうすれば能力を使いこなせる様になるのか、まずは何を目指すべきなのかな考えながら、(ふすま)の向こう側に声を掛ける。十秒程音沙汰が無かったが観念したのか、まるで親に叱られる前の子供の様に静々と幽々子が出てくる。

 

「…………どうして起きてるの?」

 

「まだ寝てないから…………まぁ、お前が聞きたい事はそうじゃないか。何か薬物を酒に混ぜて飲ませたみたいだが、生憎それも効かない」

 

「…………まさか身体能力の強化が内臓まで対象だなんて、盲点だったわ」

 

「一応聞いとこうか、目的は?」

 

「…………聞いても怒らない?」

 

「この状況で怒らないなんて言うやつは間違いなく偽善者だぞ? 内容による」

 

 平静に淡々と言う輝雄からは怒気は感じられない、純粋に何故幽々子がそんな真似をしたのか聞きたかっただけだ。幽々子は寝巻きの袖で口元を隠しながら、月明かりでも分かる程顔を赤くしながら言った。

 

「そんな…………女の子から言わせる気? 夜に尋ねて来た時点で察して欲しいわ」

 

「相手から好意を向けられる理由が分からないから下心も出ねぇよ」

 

「ほら……体動かして、お酒も入って、いい感じに昂ってない? 据え膳食わずは男の恥よ?」

 

「致死性の毒が入ってるかも知れない可能性に気付きながら食べるのも、とんだ恥晒しだと思うがね」

 

 擦り寄ってくる幽々子が服をはだけさせるが、輝雄は冷静にソレを元に戻す。下腹部の更に下に伸ばす手をインターセプト、輝雄を押し倒そうとするが体幹が強すぎて微動だにしない────────もしかしたら彼は、菩提樹の下で生命の答えに辿り着けるかも知れない。

 

「…………もしかして、私の事嫌い?」

 

「…………」

 

 筋肉質な胸板にもたれ掛かりながら幽々子が上目遣いで彼を見つめる、理性が無くなる程では無かったが流石に罪悪感を僅かに覚え、輝雄は話し始める。

 

「……お前、妖夢から聞いてないのか?」

 

「何を?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………」

 

「そんな野郎がどうして見捨てようとした奴と乳繰り合えるよ、そこまで厚顔無恥じゃない。少なくともそのつもりだ」

 

 自分にはそんな資格は無いと、幽々子を優しく退ける。流石にここまでされて何も気付かない程彼は難聴でも鈍感でも無かった────────気付き、向き合い、その上で自分は西行寺幽々子に相応しく無いと答えを出した。

 

「手のひら返しで態度を変える様な奴、嫌いだろ?」

 

「…………えぇ、そうね」

 

「もう夜も更けてきた、自室にもど────────」

 

「────────益々貴方が欲しくなってきたわ」

 

「!!?」

 

 蕩けるような、熱に曇った瞳を向けて幽々子がしなだれかかる。彼は引き剥がそとするが凄まじい力で掴んで離さない、密着する事によりお互いの体温を感じられ、心臓の鼓動も感じる。亡霊にも関わらず体温があるので心臓が動いている事には驚かなかったが、異様に心拍数が早い。

 

「ふふふ…………慣れてると思った? 今でも精一杯なのよ? 

 

 ────────だから愛して、永遠とは言わないから、()()()()()()()()()()()()()、私に……消えない傷を刻んで?」

 

 綺麗に割れて引き締まった腹筋から胸板にかけて撫でられ、首筋から頬まで、まるで甘えてくる猫の様に顔を擦り寄せる。輝雄は理性とは裏腹に下腹部に熱が溜まり力が入りそうになるのを感じ、流石に内心少し焦る。

 

「きっと、愉しいわよ? ────────誰も知らない花園を踏み荒らすのは」

 

「────────」

 

 まさに蠱惑、魔性、底無し沼の様な魅力がそこには宿っていた。普段の知恵者でありながら天真爛漫な少女の姿はそこには無い────────在るのは、()を自分の虜にしようとする()だけだった。

 

 背後の月明かりが二人を照らし、少しずつ幽々子の桜色の唇が近づき、輝雄も距離を詰める、そして後一寸という所で────────

 

 

 

「────────今はこれで勘弁してくれ」

 

 

 

 ────────輝雄は幽々子の額に軽く口付けをする。

 

 幽々子は不意を突かれたのか、キョトンした顔で呆然とする。誤魔化す様に輝雄は顔を背けるが────────幽々子は耳が赤くなっているのを見逃さなかった。

 

「…………………………」

 

「おい…………頼むからなんか言ってくれ、笑ってくれてもいいから……」

 

「…………………………」

 

「…………? おい幽々子? 幽々────────気絶……だと…………!?」

 

 箱入り育ちの身内以外に付き合いが殆ど無いお嬢様には、少し刺激が強かったようだ。茹で蛸のように顔を赤くして幸せそうに目を回して寝ている、幽々子も相当量の酒を呑んでいた事も関係しているのかも知れない。

 

「…………どうしよ、コイツの部屋知らんぞ…………」

 

 輝雄は少し考え、半端なく広い屋敷を歩く事と、この場で寝かせてしまう事を天秤に掛けて────────幽々子を布団で、自分は壁にもたれ掛かりながら寝る事にした。

 

 

 

 

 

 





 多分その内ここから引用する………かなぁ?

 あと主人公が一線を越えるとしたら外伝でIFの世界線で書く事になります。つまり本編とは関係無いってこと。期待はするな。

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