幻想禍津星   作:七黒八白

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この前日譚に意味はあるのだろうか………?

 あ、タイトルに深い意味は無いかもです。


風 天高く、凶星依りて、開く花

 風が涼しい、空が高い、雲は無い。

 

「ん──────…………いい天気ですねぇー…………」

 

 夏はすっかり過ぎ去って炎天下の空はもう無い。今年はそこまで残暑が厳しく無いのか、登校も辛くない。近年では信じらないレベルの猛暑が当然のように続いており、それはこんな田舎町でも例外ではない。特にコンビニも近辺にない田舎だとちょっと出歩くのも死を感じる程だ。これでも都心に比べればまだマシだそうなので信じられない。

 

「えっと、確かこっちの方だったっけ…………?」

 

 駅周辺の少しだけ開発された繫華街を一人練り歩く、子供頃はまだこの辺りは空き地等が目立ち駅も寂れていたのだが、いつの間にかそれなりに人通りが多くなり利便的になっていた。田舎と都会、線路はまるで境界線。

 

「便利なのはいいことなんですけどねー…………」

 

 それでも、見知った景色がいつの間にか変わっているというのは何故か寂しいものを感じてしまう。あと十年もすれば、どんどん田畑が埋め立てられてコンビニや住宅地に変えられていくのだろうか。もしかしたら山も切り崩されたりするのかも知れない。

 

「…………………………」

 

 人の時代の流れ、かくも早く。置き去りにされる者は数多い。私がここに居られるのも後どの位だろうか。

 

「ま、今考える事じゃありませんね」

 

 そんなセンチメンタルな事を考えていると、私はいつの間にか目的地にたどり着いていた。駅から近い中々の立地に新しくも、どこかアンティークでお洒落な喫茶店。

 

「いらっしゃいま────────げ」

 

「『げ』とは何ですか『げ』とは、幽霊族の生き残りの少年ですか」

 

 そのお洒落な店で、従業員の制服を着た先輩がいた。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「いやー先輩似合いませんねーウェイター服で良いんですか? 似合いませんねー」

 

「なにしに来てんだよ、あと二回言うな、そしてなんか頼め」

 

「スマイル一つ」

 

「頭ハッピーセットかテメー」

 

 謎の暴言と共にお冷が出される、今日は学校は休日なので先輩の自宅に襲げ────────もとい遊びに行こうと思っていたのだが、バイトが入っているとの事で冷やかすついでに昼食をそこで取る事にした。そこまでお腹は空いていないため、量が少ない物が良いのだが……………………ふむ。

 

「オススメとかありますか?」

 

「一番高いの言ったら頼むか?」

 

「考慮はします」

 

「………………まぁ、女子にカレーはあれだし、パスタ辺りがいいんじゃないか」

 

「なるほどー、じゃカルボナーラで。あと珈琲」

 

 意外とその辺り配慮はできるのか先輩が勧めてきたのはパスタだった。店員的には高いのを頼ませるべきなのかも知れないが、先輩はそういう事をしない。注文を取ると先輩はそのままカウンターの奥へと消えていった。

 

「なんていうか………………フェアな人ですねー……」

 

 時間帯かそれとも偶然か、店内に客は私以外いない。まぁ、田舎町だと客層は駅前でも地元の人達だろう。クラシックなのかどうか私には分からないが、店内の雰囲気に合わせた穏やかな曲を聞きながら、静かに私は先輩が食事を運んでくるのを待った。

 

 厨房で料理をしているのだろう物音、カウンターでドリップされている珈琲、先輩はその横で焙煎された珈琲豆をミルで丁寧に挽いていた。案外様になっている、正直あの人が真面目に働いている姿は意外だった。

 

「ちょっとちょっと! 輝雄君! 彼女は誰だい!? いやぁ君も隅に置けないねぇ」

 

「九割九分九厘、古賀さんが想像しているのと違いますよ。つーか芳仲店長に頼まれてたお使いはどうしたんですか?」

 

「今帰ってきたばかりだよ。で? 彼女とはどういう関係なのさ」

 

 …………………………むふふふ、褒めるがよい褒めるがよい。人の子よ、我を貴び奉り信仰するがよい、むふふふふ。

 

「あんまり褒めない方がいいですよ。ほら、自分しか店内にいない事を良い事にあからさまにドヤ顔してますよアイツ。美少女である事を差し引いてもちょっとキモイ」

 

「結構な事じゃないか。女の子はね、例え持って生まれた容姿や才能であっても褒められたら嬉しく思うものなのさ。あと女性にキモイはダメだよ輝雄君」

 

「はぁ、そっすか。そろそろパスタ出来るんで持ってきてもらえますか?」

 

「ブレないねぇ…………君、もう少し愛想良くなった方がモテるよ?」

 

「ゼロに何をかけてもゼロですよ」

 

 この喫茶店の上司なのだろう、二十代半ば位の古賀という青年とひそひそ話していた。先輩の方は結構素っ気ない感じだったが、あまり嫌そうな感じはしない。あとキモイって言ったの聞こえてますからね先輩? 

 

 多分アレくらいが先輩にとっていい距離感なのだろう。雑談をしながらも挽き終えた粉末をフィルターに入れて『の』の字を書くようにお湯を注いでいく。ここからでも分かる位いい香りがする。実を言うと少し前に珈琲を出されてから飲む習慣が出来た。健康にも良いみたいだし、慣れると中々癖になる。

 

「ほい、お待ち。ストレートコーヒー」

 

「ちょっと先輩? 今の私はお客さんですよ? それなりの言い方があるんじゃないですか?」

 

 店に入った時は似合ってないと揶揄ってしまったが、トレイに載せてコーヒーを持って来た先輩の姿は贔屓目無しに見ても中々の風格があった。熟練の執事っぽい、私の勝手なイメージだが。しかし物言いは少し気に食わない、そのことを伝えると一瞬だけ目尻がピクリと動くが。

 

「────────………………お待たせしました、お客様。こちらご注文のストレートのホットコーヒーです。熱いのでお気を付け下さい」

 

 ……………………おぉ、思っていた五倍は様になっていた。

 

 不覚にも少しカッコイイと思ってしまった。そしてカウンターの奥では押し殺すように古賀さんが笑っている。多分先輩がここまで手玉に取られるのは珍しいのだろう、気に喰わない事には毅然とした態度を取る人だ……………………尤も営業態度よりは優先順位が低い様だが。

 

「いやー先輩のこの姿が見れただけで元が取れましたね」

 

「『元』ってなんだよ『元』って。ここは喫茶店だ、パチ屋やホストクラブじゃないし、騒ぐなよ」

 

「はいはーい、わかってまーす」

 

 普段と反して常識的な言動を取る先輩をよそに運ばれてきたパスタに手を付ける、食欲をそそる香りから中々の出来栄えである事が伺える。意外とこの店は穴場なのかも知れない。そうしているうちに先輩はトレイ片手にカウンターに戻っていく。

 

「いやぁ頭が上がらないみたいだねぇ? 輝雄君?」

 

「お客様ですからね、一応」

 

「そうかい? 楽しそうだったけど?」

 

「仕事にやりがいを感じるのは良い事でしょう、ハラスメントや違法な行いが無いのは当然として」

 

「うんうん、それはその通りだ。輝雄君も昨今のSNSで炎上するような馬鹿な真似はよしてくれよ? まぁ、君はそんな事は絶対しないと信じてるけどね」

 

「………………ハラスメントと言えば、古賀さんの入江さんへの態度は若干グレーゾーンに入っていると思いますよ。入江さんが古賀さんは『そういう人』って知っているから流してますけど気を付けた方がいいですよ」

 

「ハッハッハッハ──────────マジで???」

 

 私が隠れた名店の料理に舌鼓を打っていると先輩の雑談が聞こえてくる、普段の古賀さんの営業態度がよろしくないようだが、そんな事はどうでもいい、パスタ美味しい。

 

「うん……まぁ……それはそれとして。輝雄君今日は昼までだっけ? なんか食べてく?」

 

誤魔化したな………………じゃあ珈琲とサンドイッチでも」

 

「ハイハイ、制服置いてきてね。あと折角なんだし彼女と相席しなよ」

 

「…………確かに、席を取り過ぎたら掃除面倒ですもんね。分かりました」

 

「はっはー? 『彼女』って否定しないんだ?」

 

「ああ言えばこう言う…………」

 

 

 美味い! 美味い! パスタ美味い! と某炎柱の様にかき込んでいると、いつの間にか先輩の姿が見えなくなる。

 

 何処に行ったんだろう、と思ったが折角の珈琲も冷めてしまうし仕事の邪魔はすべきではないので、私はそのまま昼下がりのコーヒーブレイクに洒落こむ、とても平穏だ。これには団長もニッコリ。

 

「ごめんね、ちょっといいかい?」

 

「はい?」

 

「君が最近よく輝雄君が話している後輩ちゃんかな?」

 

「…………多分? 先輩の交友関係狭そうですし」

 

 そう言って私の席までやってきたのは古賀さんだった。

 

「だろうねぇ。言っちゃ悪いけど輝雄君は慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度を隠さないし、いや僕らは分かってるけどね? 彼の根は真っ直ぐな事は。決して仲は悪くないよ?」

 

「………………先輩って、ここで働いて長いんですか?」

 

「まだ一年とちょっとだよ、けど芳仲店長も思い切った事をしたと思うよ。訳アリ中学生を雇うなんて」

 

 店内には私と古賀さんしか居ないためか、古賀さんは先輩の個人的な事情を話し始めた──────────―もしかしたら、彼は私も先輩の()()()事情をしている(てい)で話しているのではないだろうか? 

 

「────すみません、古賀さんはどこまで知ってるんですか?」

 

 だとすれば、これはチャンスだ。正直な話、ここまでくるともう個人的な好奇心が強い。彼のことが知りたい、私と同じ生まれる時代を間違えた程の才覚────その源泉。

 

「ん? …………あぁ、口止めとかされてた感じ? 心配しなくていいいよ、僕も色々と店長から聞かされてるからね」

 

「そうですか…………ていう事は私も古賀さんも先輩的には身内みたいな感じなんですかね」

 

「かもねー……。彼を見ていると、人は誰かに心を許さずにはいられないって思うよ。孤独は人を空虚にして狂気に染める………………実際、君の話をするようになってからかな? 彼結構明るくなってる気がするよ」

 

 なんか、中々詩的というか独特な表現するな、この人。さては文系か?

 

「へぇー……そういえば先輩って関西の方から来たそうですけど、地元は具体的にはどの辺なんですかね?」

 

 やや、いやかなり強引だがこのまま暗い話をするのもどうかと思ったので、話題をずらしてみる。関西しか聞いてないので、まずはもう少し出身を絞ってみたい。その思いで聞いてみたが、帰ってきた答えは予想外のものだった。

 

「え? 関西? 彼がここに来る前は()()の方にいたって聞いたけど?」

 

「──────────え」

 

 ────────―それは、どういう事だ。

 

「君が聞き間違えたんじゃない? 雑談に付き合ってくれてありがとね、そろそろ輝雄君が戻って来るから、僕は厨房に戻るよ」

 

 そう言い残すと古賀さんはカウンターの奥へと戻っていく、席に一人残された私は数舜放心していたが、意識を取り戻すと同時に考えを巡らせる。

 

(どういう事……? 古賀さんが噓をついているとは考えにくい、職場の関係にバレやすそうな噓をつくなんて先輩はしそうにない)

 

 今までの付き合いから考える限り、先輩はリスクを極力避けるタイプの人間だ。となると身の上話で噓をつかれているのは、私の方が自然ということになる。

 

(…………………………………………………………)

 

 ──────―その事実に、何かモヤっというか、イラッというか、ムカッというか、魚の小骨がのどに刺さる様な、胃もたれする様なものを覚える。

 

 確かに、興味本位でグイグイとプライベートな事に首を突っ込んだりした私も悪い──────ていうか鬱陶しかったのかも知れないが、『黙秘』ではなく『虚偽』であしらわれたという事にショックだった。

 

(…………………………迷惑、だったのかな)

 

 自惚れというほどではないが、私は普通の人間とは違うところがある。これは他人を差別的に見下しているのでなく純然たる事実だ。それこそ、見る者が見れば一目瞭然。

 

 だからだろうか、それに気付いてもらえた事。もしかしたらもっと深いところまで理解してもらえたり、そんな超常的な事で普通の学生の様に話し合えたり出来るんじゃないかと思ってた──────―何の事は無い、期待していたのだ、私は。

 

「おいどうした? 辛気臭ぇ顔して?」

 

「────っ、先輩…………」

 

「パスタ…………が不味いわけないか、現に美味そうに食ってたし。俺の淹れた珈琲不味かったか?」

 

「い、いえ! そんな事は…………」

 

 いつの間にか、先輩がこちらを見下ろしていた。私の表情が曇っていたせいだろう、先輩は自分が淹れた珈琲を気にしているみたいだ。私の返答が挙動不審だったからか、少しだけ先輩は申し訳なさそうだった。

 

「…………突っ立ってんのも邪魔になるから前、座らせて貰うぞ」

 

「あ、はい…………どうぞ」

 

 先輩は私の対面に座り、古賀さんに注文を頼む。私達の微妙な雰囲気を感じ取ったのか、最低限の会話もせず注文だけ聞いてそそくさと消えた。

 

「本当にどうした? さっきとは打って変わって暗いぞ、お前?」

 

「………………先輩は」

 

「ん?」

 

 言葉を口にしながら考える、流石にド直球に『なんで嘘ついたんですか?』とは聞けない。いや聞いても問題は無いが………………ただ単純に怖かった、拒絶されることが。

 

「──────き、嫌いな人とか苦手な人への対処とかどうしますか!?」

 

「は? 何お前? セクハラでもされたのか?」

 

「いや別にそういう事件性がある事ではないんですが、その…………先輩はそういう処世術とか上手そうだなって」

 

 我ながら中々苦しい言い訳だ、でもこれが精一杯だった。考えてみれば誰かと一緒に外食なんてかなり久々だ、家にいる二人とはそういったことは叶わないから。

 

「んー……? まぁ、処世術ってわけじゃないけど。最低限の筋は通すことは意識してる」

 

「え、嫌いな相手でもですか」

 

「あぁ、そうだ。でも筋を通したらキッパリ捨てる──────―結果、周りからどれだけ反感を買う事になっても」

 

「………………筋を通すって言うのは具体的には……?」

 

「道徳的にとか倫理的に駄目な事をしない、欺瞞や詭弁で相手を弄さないとか。噓ついたりしたらバレる事に一々気を揉まないといけないからな、まぁ、ケースバイケースだけど」

 

「………………因みに、私はそのケースに入ってますか?」

 

 

 

 おっかなびっくりそう聞く私を見た先輩は、一瞬目を丸くして──────―

 

 

 

「お前に噓ついたりしたら滅茶苦茶面倒くさそうだし、言いたくねぇ事はキッパリ断るからねぇわ」

 

「な、メンドクサイって何ですか!? メンドクサイって!?」

 

「いやお前、人のバイト先まで冷やかしにくる後輩は面倒くさいよ、満場一致で面倒くさいよ。ストーカー予備軍まである」

 

「はぁあああああぁぁぁあああああああ!? マジ有り得ないんですけど先輩!?」

 

「うるせぇ、声荒げんな」

 

 ────────―ケタケタ笑いながら、否定()()()()()

 ムキー! と正直こめかみに来る物があったが、それ以上に何か、喉に詰まったものが取れた気がする──────────―私はきっと、嫌われてはいないんだ。

 

「おーい輝雄君、痴話げんかなら他所でやってくれるかい?」

 

「いやマジでそんなんじゃないです、騒いですみません。ほらお前も謝れ」

 

「ハイハイ分かりましたよー、重ね重ね先輩がご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 

「あ”ぁ”ん!? 何サラッと全責任俺に押し付けてんだコラ!?」

 

 声怖ッ、完全にチンピラじゃん。

 

「君ら一周回って息ピッタリだね…………はい食後のデザート。お代はいいよ」

 

「そんな悪いですよ、払います!」

 

「大丈夫、輝雄くんの奢りだから」

 

「ゴチになります」

 

「おいゴル"ァ"」

 

「声怖ッ」

 

 ドス効きすぎでしょ、それもう完全にその筋の者の脅しなんで

 





 矛盾が生まれないようにしないといけないのが、伏線の難しい所。

 そして駅前だけ発展してるのは田舎街あるあるだよね?案外そうでもない?
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