幻想禍津星   作:七黒八白

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 何ぃ?紫のキャラが定まってないって?逆に考えるんだ。

 定まってないのが彼女のキャラなのだ(意味不明)。



第四十話 人の在り方、妖の生き方

 

 

 

「はい、じゃあ今日の授業はここまで。宿題は主人公の大庭の心情を五百文字以上で自分の考えも含めて書いてきなさい」

 

「はい! 因みに先生的には何で主人公は道化を演じずにはいられなかったと思いますか?」

 

「そうだね……持って生まれた気質もあるだろうけど、それ以上に彼の周囲には理解者が少なかった。特に家族や親族周りに優秀な人が多い事が彼を結果的に追い詰めたんじゃないかな、と先生は思う」

 

「なるほどー……」

 

 寺子屋での授業が終わり、授業で進めていた小説の感想文が宿題となり子供達は帰り支度を進める。いつの時代もどこの世界でも子供の心情は同じなのか、寺子屋の疲れもなんのそのと遊ぶ約束をして足早に立ち去っていく。

 

「じゃあね! 先生! また明日!!」

 

「はい、また明日」

 

「慧音先生と恋仲になったら言ってね!!!」

 

「ハハハッ────────ササマル君、君だけ感想文千文字ね」

 

「面白かったと楽しかっただけで五百文字埋めていい?」

 

 去り際に揶揄う言葉を残す教え子にやや大人気ない対応をする教師がそこにはいた────────というか、輝雄であった。傾き始めた夕日に向かって帰る子供達が見えなくなりまで手を振り、残った仕事を片付ける為一旦寺子屋の中に戻る。今日は慧音が用事があるとの事で寺子屋内には今は輝雄しかいない。

 

「…………テストの採点は、家でやればいいか。戸締りすませて俺も帰るか」

 

 部活の顧問などの無給の奉仕活動は無い為、寺子屋での仕事は余程の事が無い限り残業はしなくてもいい。輝雄は陽が落ちても平気で活動できるがさりとて夜にしか出来ない用事があるわけでも無く、彼も戸締りを確認してさっさと支度を済ませる、が────────

 

「あの! すみません! 慧音先生はいらっしゃいますか!?」

 

「────────何かありましたか? 御婦人」

 

 丁度寺子屋の敷地を出た所を、年若く美しい女性に声を掛けられる。腰まで伸びた艶やかな黒髪、左右対称の細い眉に黄金比の整った顔立ち、白雪の様な肌に、細い腰に和服の上からでも分かる胸の豊かさ。その女はすれ違う者達が振り返りそうな美貌を備えていた。一瞬、遅れて輝雄は紳士的に応じる。

 

「私の子が! 朝から見かけないんです! 友達の家にでも行ったのだろうと思ってましたが誰も見かけてないらしく…………もしかしたら里の外に…………!」

 

「(…………………………)成る程、ですが慧音先生はいらっしゃいません。代わりに()が探しましょう────────何か心当たりはありますか?」

 

 子が迷子になり、陽もそろそろ落ちて妖怪の時間になる。それを分かってるのだろう、母親らしい女性は嗚咽混じりに輝雄に縋り付く。対して輝雄は飽くまで冷静に情報を探る。泣き腫らして、僅かに鼻が赤くなる姿も見る者を魅力しかねない女は嗚咽を抑えながら答える。

 

「うぅ…………そういえば……異変が終わり、雪が溶けて山菜やきのこが採れるかもと言ってましたが……」

 

「だとすれば妖怪の山方面か…………?」

 

 輝雄は陽が落ちるまでの時間をざっと見積もり、あまり時間が無いと判断する。()()()()()()()をどうすべきか考えるが────────

 

「子供は俺が探してきます貴方は────────」

 

「待って下さい! 私も行きます! 何も出来ないかも知れませんがあの子がいないと私……! 私は……!」

 

「………………いいでしょう。可能な限り、対処します」

 

 子を思っているのか、またも泣き始め顔を隠す指の間から涙が流れる。それを感情を宿さない目で見ながら、輝雄は婦人を立たせて妖怪の山まで向かう。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「山には縄張りを持つ妖怪が沢山います、ですが縄張りに入らない限り向こうからは襲ってこない。離れないように」

 

「はい…………」

 

 妖怪の山、その麓で輝雄が先導し草を踏み固め道を作り婦人が後から付いて来る。既に陽の光は山の向こう側に隠れて、木々の下は薄暗くとても人間の眼が効く様な状態では無い。しかしそれでも輝雄はまるで分かってるかの様に迷うこと無く歩を進める。

 

「………………あの、輝雄さん? 真っ直ぐに進んでいるようですが、宛はあるのですか?」

 

「………………人間も妖怪も、残す痕跡は霊気や妖気だけじゃない」

 

「………………」

 

 後ろからついて来る婦人の方を振り返らず、僅かな間を置いて輝雄は語り出す。黄昏時の妖怪の山、早送りでもされる様に光量は落ち、入れ替わる形で夜の帳が下りてくる────────行きはよいよい、帰りは怖い。そんな童歌を彼は思い出す。

 

「足跡や臭跡…………妖気を抑え姿形を変えても中身が変わったわけじゃない。ほんの僅かな立ち振る舞いにも違和感は出るものだ。

 

 ────────人里の人間は、例え子供が迷子になっても一緒に妖怪の山まで行こうとはしない。空も飛べないようじゃ足手纏いになるからな、陽が暮れたら尚更だ。命懸けになれば人間そこまで馬鹿じゃない」

 

「────────」

 

 何も喋らない婦人の方を振り返らず、尚歩き続ける輝雄。そしてその先には木々が開けた場所があり、子供がその中心で眠っていた。彼は子供に外傷が無く、妖気なども感じない事から妖怪に乗っ取られていない事を確認し────────遂に婦人の方を見る、泣き腫らしていたはずの顔は心臓が凍り付きそうな程、無感情な真顔だった。

 

「陽は没した、里からは離れた。いい加減その作り物の皮捨てたらどうだ? ────────女狐」

 

「────────随分な言い草だな、確かに試す様な真似をしたのは悪かったが…………この周囲には結界を貼っている。千年の時を生きた妖怪でも簡単には破れない程の強度のな。実際その子に害は無かったろう?」

 

 婦人の姿がピントが合わない写真の様にぼやけ、次の瞬間には肩までの金髪と藍色の道士服、札の貼り付けられた布の帽子には獣の耳があるのか沿う形に盛り上がっている────────そして()()()()()()()

 

「とんだ大物だな、白面金毛九尾の狐とは……! 流石に感動を禁じ得ない!!」

 

「…………感動? 恐怖と間違ってないか?」

 

 ゆらゆらと揺らめく金毛の尾を目を見開き驚く輝雄に対して、婦人────────改め、八雲藍は訝しむ。目の前の人間は驚愕こそすれ恐怖はしていない、その事実に藍の警戒心は一段階上がる。

 

「インド、中国、そして日本……国を跨ぎ暗躍した大妖怪。現代でもアンタは創作において有名で大人気だからな、有名人にでも会えた気分だよ」

 

「華陽夫人に妲己か………………言っておくが、その九尾達と私は無関係だからな、九尾の狐という種族自体は妖獣ではメジャーな方だ」

 

 藍は何度か似た様な質問、或いは過去に同一視された事があったのかどこかウンザリした様な面持ちでため息混じりに話す。輝雄は術で眠らされたのか、まるで起きない子供を抱き抱え分析に努める。

 

「成る程、別にアンタしか九尾の狐がいないってわけじゃないのか…………だとすれば語られる伝説はまるで九尾のバーゲンセールだな。で? 玉藻の前として国を傾かせた伝説は史実なのか?」

 

「…………私はその時、九尾では無かった」

 

 短く、しかしはっきりと答える。だが輝雄はそれ否定とは捉えなかった。

 

「となると江戸時代に創作された九尾の狐伝説はデマで、古い文献の方の“玉藻の草子”に出てくる二尾の妖狐がアンタなのか?」

 

「…………博識だな」

 

 自身の正体に近付かれた不快感からか、或いは輝雄がただの力押しの馬鹿では無いと気付いたのか、僅かに藍の目尻が歪む。対する輝雄は不敵に微笑むだけで攻撃も逃亡にも移ろうとしない。凪を受ける大樹の様に子供を肩に抱えて、悠然と立っている。

 

(……余裕の現れか? はたまた何か策を講じているのか…………少なくとも私が紫様の────────)

 

「────────お前、紫の部下だろ」

 

「……………………何の事だ?」

 

 思考を遮る形で、正体を言い当てられ僅かに返答が遅れる。動揺こそ出さなかったが、返事の僅かな間から彼は確信して笑みを深める。

 

「図星の“間”だったなぁ……今の。さっきも言ったろ? 人間も妖怪も残す痕跡は色々ある、お前から八雲紫の匂いがする。

 

 奴の事だ、俺の事を嗅ぎ回るなら(ツラ)が割れてなく変化の術が使えるお前が適任と思ったんじゃないか?」

 

「ほぅ、悪知恵が回るじゃないか。それで? 私が紫様の部下だと分かってお前はどうするんだ? ────────まさか、子供を抱えたまま戦うのか?」

 

 揶揄う様にマウントを取る言動に苛立ったのか、藍は敢えて挑発する。“無防備な子供を抱えたお前は戦えるはずが無い”と。わざわざ人間に変化して嘘泣きしてまで藍は()()()()()()状況に持ってきたのだ。本来ならば子供を助けた後に藍の本懐があったのだが、失敗した以上路線変更するしか他ないと考えるが────────

 

「何も獲って喰おうという訳じゃない。少しだけ私と────────」

 

「────────試してみろよ」

 

「……………………なんだと?」

 

「俺が、()()()()()()()()()()()()()()()、試してみろよ。どうせ人間の命なんざ何とも思っちゃいないだろう? 子供一人の骨が残らない弾幕ぐらい放てるだろ?」

 

「正気か? お前は兎も角その子は間違い無く────────」

 

「だ・か・ら! 試してみろっ()ってんだろが! 何だ? 千年狐狸ともあろう者がたかだか一人の人間に恐れをなしたか!?」

 

 ────────輝雄はあからさまに見下す様に、藍に挑発しかえす。守るべき者を抱えて本気では戦えない筈の男が、大妖怪相手に真正面から喧嘩を────────否、殺し合いを売った。

 

(何を企んでいる…………!? 子供は確実に死ぬぞ! ……それとも私相手に守りながら勝てると────────いや、まさかこの男……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!)

 

 輝雄は不敵な笑みを崩さず、寧ろさっきよりも不気味に笑みを深める。夜の山の中に獣の息遣いの様な生温い風が藍の首筋を撫で、彼女には目の前の男に疑心暗鬼になる。考えてみれば里の外で人が死ねば真っ先に疑われるのは妖怪だ、その死体の損傷や破壊跡が大きければ尚の事。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(────────真人間とは思ってなかったが、想像以上に頭の螺子が飛んでいるな……嶋上輝雄!)

 

 先手を取る事は容易い、子供諸共この周囲一帯を焼き尽くす事も藍からすれば赤子の手を捻るよりも簡単な事だ────────だが目の前の男がそんな事も分かっていない愚鈍な者とは思えなかった。確実にこちらの実力を考慮した上で何かを目論んでいる。

 

「(………………駄目だ、()()()()出来ない)……力づくでしか物を語れないとは、ガッカリだな。貴様が教鞭を振るっているとは子供達の未来が不憫でならないよ」

 

「その未来を、食い物にするケダモノがお前らだろうが。安心しろ

 

 ────────お前も八雲も、いつか殺ってやんよ」

 

「…………っ……」

 

 輝雄の殺意かそれとも言葉か、僅かに藍は顔を顰めてスキマの中に消えてゆく。そして同時に周囲に貼られていたであろう結界が無くなり、遮られていた妖気が漂いだす。

 

 いつまでも山の中に居れば妖怪に気取られる為、輝雄は即座に飛翔し人里に向かう、山から抜けるまで周囲を警戒するが特に気配は感じなかった。

 

(…………危なかった。あの狐にこの子を人質にとるつもりが無いのは幸いだったな…………戦っていれば間違いなくこの子は無傷じゃ済まなかった。

 

 ────────だからって人質として価値があるとも思わせても逆効果だしな……)

 

 輝雄はどこで誰が見ているか分からない為、口には出さず表情も変えず内心溜息を吐いた。子供を見捨てる様な言動は何の事は無い────────ただの逆張りのハッタリだった。

 

()()()()()()妖怪である事には気付けたが……まさか本当に子供を攫ってたとはな………………やってくれやがる、一人なら戦えたものを。しかし何が目的だったんだ? あの狐…………“獲って喰おう”ってわけじゃ無いか…………読めねぇ、八雲紫の差金には違いないだろうが……)

 

 殺すつもりにしては回りくどいやり方だし、初めから子供を盾にした方が効率的な筈だ。輝雄は思いつく限りの目的を考え八雲紫と従者の思惑を逆算するが、どれも纏まらないため一旦棚置きした。

 

 人里の入り口には提灯を持った人集りが見える、子供がいない事に気付いた自警団が捜索していたのだろう、中心には慧音がいた。輝雄が子供を抱えて上空から降りて来る事に気付いた彼女が駆け寄ってくる。

 

「輝雄ッ! 見つけたのか!? 一体どこで……」

 

「妖怪の山の麓です。特に外傷はありませんが一応医者と霊夢には見せた方がいいでしょう、多分大丈夫だと思いますが……」

 

 そして子供の本当の母親と父親らしき者が慧音の後ろから出て来る、輝雄とは特に面識が無く、噂でしか知らないのか彼に対してかなり警戒しているようだった。輝雄は特に不快感を出す事もなく未だに眠る子供を差し出す。

 

「────────ありがとうございます! このご恩は一生忘れません!!」

 

「…………いえ、()()教師として当然の事をしたまでです。お気になさらず」

 

 父親と母親らしき二人は深々と頭を下げて、自宅へと帰っていく。自警団達も用は済んだとその場で酒場に向かう者、帰路につく者、各自解散していく。残された輝雄もそのまま家に帰ろとするが────────慧音に呼び止められる。

 

「輝雄……私には子供だけで妖怪の山に行ったとは思えないんだが……お前は何か知らないか?」

 

「────────長くなります、夕食出すので俺の家で話します」

 

 出来る事なら言いたくは無かったが、ほぼ間違無く自分が原因である以上隠す事は彼には出来なかった。ここで自己保身の為に嘘をつけば里全体を巻き込む可能性があるからだ。

 

(最悪里追放か…………? ツイてないね、今に始まった事じゃないが)

 

 住み慣れ始めていた人里と今の自宅、幼少期の親戚による盥回しを思い出し少しゲンナリとするが、それは慧音には悟らせず。小傘が待つ自宅に慧音と向かう。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

 後日談ならぬ前日談、紫は藍に言った。

 

「突然だけど藍、嶋上輝雄の弱みを握るか浮気写真みたいな物撮ってきてくれない?」

 

「紫様! いきなり過ぎて訳がわかりません!!」

 

 もうそろそろ初夏に入ろうとする時期。湿度が消え、入れ替わる形で温度が上昇し始める。しかしそんな事は全く関係無く、紫は自分の式神である八雲藍に頼み事という名の拒否権の無い命令を下した。

 

「そうね……急いては事を仕損じるというし、理由位は説明しておきましょうか

 

 ────────まず百合の間に挟まる男は問答無用で銃殺されても仕方ないのは分かるわよね?」

 

「いえ、分かりません。紫様が何を仰りたいのかも分かりません」

 

「ノリが悪いわねぇ……真面目なのは貴方の美点だけど、杓子定規は頂けないわね」

 

「お言葉ですが紫様が自由奔放過ぎるだけかと」

 

「ふふふ、適度な刺激は健康に良いしね。呑気にしてるだけじゃ楽ではあっても楽しくはないでしょう?」

 

 そんな従者の忠言も何処吹く風の八雲紫。幻想郷内の何処かにある八雲邸、無論八雲紫がその気になれば家ごとスキマで引越し出来るので何処にあるかなど瑣末ごとだが、その一室で八雲藍は珍しく昼間から起きている主に振り回されている。

 

「それで紫様、その嶋上輝雄というのは()()外来人ですね?」

 

「そう、私の肩を喰い千切って西行妖をほぼ単独で完全に祓った外来人よ………………藍、もし貴方が西行妖と戦ったらどうなる? 勝率はどのくらいになるかしら?」

 

 その言葉に頭脳明晰な八雲の式神は客観的かつ的確に、自身の戦力と西行妖の妖力から勝敗を算出する。答えは二秒足らずで出た。

 

「五分咲きなら、多め見積もって二割…………もしも満開なら絶無です」

 

「まぁそんなところでしょうね。私も()()()()()()なら似たようなものよ」

 

 紫は縁側で藍が淹れた茶飲みながら、ゆったり庭を眺める。そして右肩を撫でると、抉れた箇所を埋めた様に痛々しい古傷がある。機能性などは問題無い、普段は幻術で誤魔化している────────ただ人間にしてやられたという事実が矜持に障った。それを見て藍は特に感情を交えず言う。

 

「………………殺しますか?」

 

()()()、“幻想郷は全てを受け入れる”。幻想郷のルールに彼は別に抵触していない。襲ってきた妖怪を退治する事は別にルール違反じゃない…………例え私が相手でもね。

 

 これを曲げたら天狗を始めとした他の組織から本当の意味で信用を失う。“あの八雲紫が人間相手に幻想郷の矜持を曲げた”ってね。そうなったら何に飛び火するか分かったもんじゃない。あの男一人のためにそんなリスクは背負えない」

 

「ですが人間一人くらい簡単に────────」

 

「藍」

 

 藍の提案を遮り、紫が静かに一言発する。ただそれだけで周囲にいた小鳥が一斉に飛び去り空気が凍てつく様に温度が下がる。藍は九本の尾の毛が全て逆立ち、押し黙る────────否、黙らされた。有無を言わさない圧に空間ごと支配される。

 

「確かに、幻想郷において人間の立ち位置は確かに家畜のソレに近い────────でも人間を侮ってはいけない、嶋上輝雄はまさに人間の可能性を体現する者…………下手をすれば博麗の巫女以上に。下手につつけば藪蛇どころか龍すら飛び出しかねないわよ」

 

「………………紫様にとって、人間とは、どういった認識なのです?」

 

 幻想郷が結界で外界と分たれるよりも以前から藍は紫に仕えていた、しかしそれでも時折主が何を考えているのか分からなくなる。

 

 幻想郷の在り方から人間に対して苛烈であり加虐的なのは事実だ、外の世界と外交など絶対にあり得ない程────────何せ人を生きたまま喰う事を好む妖怪(知的生命体)がいるのだから。あり得るのは共存共生では無く生存競争による戦争だけだ、人の味を覚えた獣が駆逐される様に。

 

 普通に考えれば、幻想郷は妖怪達の為にあり人間はそれを維持する舞台装置に過ぎない。もしも妖怪が人間の恐怖(認識)なくして生きれるのなら幻想郷に人間の里も博麗の巫女も無かった筈だ。

 

 しかし、八雲紫は人間を家畜として見て、扱っているかと思えば時には我が身を削り陰から助け支える事もある。特に西行寺幽々子などが最たる例だろう、藍が式神になった時には既に幽々子は亡霊だった為どれほどの付き合いかは不明だが、それでも並々ならぬ関係性である事は理解していた。

 

「────────さぁ? そんなの一括りで言い切れる物じゃないわ。良き隣人ではありたいけど、ね?」

 

「………………左様でございますか」

 

「貴方こそ、人間の事どう思ってるのかしら? 餌? 友人? 庇護対象? それとも────────()()()()()?」

 

「………………………………」

 

 紫はクスクスと揶揄う様に嫋やかに微笑む、肩の醜い古傷を撫でながら。やはり八雲藍には主の心中は察せなかった、そして主の質問には答えられなかった。言いたくないのでは無い、彼女自身決めかねる様に混じり合わない物が胸中に渦巻いている────────だから、彼女は紫の命令に忠実に従う。兵隊蟻の様に、己の感情を交えず出さず、()()()()()()()()()

 

「……それで、何故嶋上輝雄の弱味を握れなんて命令を?」

 

「…………最近、幽々子が惚気話ばっかりするのよ」

 

「あっ(察し)」

 

 うんざり、というかどこか窶れている紫を見て藍は察する。何なら目の下に隈すら薄っすら見える。能力や術式の都合上、紫は演算力や頭脳をよく使う。そんな彼女からすれば睡眠時間が惚気話で削られるのは死活問題だ。なんならぽっと出の男に幽々子が取られたのも癪に触った。

 

「聞きたくも無いアイツの話を延々と聞かされるしあんな悪童が幽々子の側にいるのも悪影響だし────────合法的に排除したいのよ」

 

「矛盾してませんか。それに幽々子様は悪影響を受けるほど暗愚な方ではないでしょう」

 

「そうでもないわ、特に今の幽々子は生前の記憶を取り戻したし西行妖から救われたからか輝雄に心酔してるわ…………このままじゃ寝取られかねないわ!!!」

 

「寝てませんよね? 幽々子様と紫様別に」

 

 側から聞くと紫と幽々子が()()()()関係に聞こえるが、勿論そんな事実は無くただ紫が狂言を回しているだけだ。藍からすれば幽々子は亡霊とはいえ人間なのだから、人である輝雄と引っ付くのは寧ろ自然に思えた。これが妖怪ならば紫の心配もまだ分かるが…………もっとも、紫も藍もその妖怪だが。

 

「…………考えてみれば幽々子様が記憶を取り戻せたのは、その嶋上のお陰なのですから排除までしなくとも良いのでは?」

 

「だから別に殺すわけじゃないわ、ただ幽々子が愛想を尽かすような証拠とか掴みたい────────或いはでっち上げたいのよ。あとアイツは私の肩喰い千切ったから恩はそれで相殺よ」

 

 なお、先に仕掛けた事を紫は藍には言ってないし言わない。

 

「…………それで、私は具体的に何をすれば良いので?」

 

「フフフ………………どれだけ強くとも、所詮は非モテの友達もいない寂しい男……色仕掛けで振り回してやりなさい。そしてその無様な姿を鴉にでも流せばいいわ」

 

(陰湿……………………)

 

 だが、内心ドン引きした事を藍は紫に言わないし言ってない。

 

 

 

 

 

 

 

 





 他人には“私”、ある程度打ち解けた相手か妖怪なら“俺”。
 
 ちょっとネタバレするけど最初は藍の式神契約を輝雄が破棄して紫をホニャララするとか考えてましたが“式神にしても人格が変わるわけじゃない”という設定を見てボツにしました。

どれを優先して欲しい?上から異変、日常、学生時代

  • 次からが本当の地獄だ……
  • おめぇの出番だぞ、日常回!
  • 貴様と過ごした学生生活、悪くなかったぜ…
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