友好的にも高圧的に書いても違和感無いキャラって逆に使いづらい。作者の力量がモロに出るから。
────────天狗。
日本では河童や鬼と並んで有名な妖怪。そして諸説あるが魔王の使いとして仏教に伝わる世界を一つ支配したとも、神から零落し魔物になったとも、修行を怠り傲慢な僧の成れの果てとも────────或いは、
これ程多くの出自があり有名な妖怪はそういない。どれが正解で、どれが間違っているというものでは無く、恐らくどれも正解なのだろう。魔王の使いの天狗もいれば、零落し妖怪になった者もいた────────無論、怨霊から派生した天狗もいるのだろう。
そんな天狗は、幻想郷では良くも悪くも目立ち有名である。種族的にとても疾く、歴史深く呪術に知恵と知識があり、妖怪にしては異例と言っていい社会を築く。鬼も縦社会を築くが組織だって動く事は無い、同じく河童も共同作業は苦手である。
数多くいる妖怪の中でも天狗だけ、集団行動を得意とする珍しい種族である。そもそも妖怪が社会性や集団行動を不得手とするのは
「あやややや、やっと見つけましたよー」
だが、そんな天狗にもやはり変わり者やはぐれ者、或いは世渡り上手な者がいる。排他的で高圧的な天狗の中でも人里に頻繁に関わる天狗────────射命丸文は地面に影を残さない程、人里の上空から前々から探していた人間をその赤い瞳で捉える。
米粒よりも小さく見える高所からでも鴉天狗の視力を持ってすれば見分ける事など容易い、人間側からは彼女が人の形をしているかも定かではないだろうが。
「紅魔館ではナイフで針の筵にされた後、紅い槍が飛んで来て、白玉楼では頭の硬い庭師に阻まれ、亡霊には言論統制を強いられて幾星霜…………だがしかし! 私は屈しませんよ! 真実を追い求めるジャーナリストとして!」
因みに、西行寺幽々子の言論統制の内容は“件の外来人と冥界の主の熱愛疑惑!? ”を出せとの事だった。射命丸として“いや、知らんがな”という感じで興味が唆られず大衆にウケなさそうなのでボツにした────────瞬間、幽々子の表情が消えて反魂蝶が数万匹飛んできたが。彼女は意外と根性はあった。
「あややや………………私じゃなかったらマジで危なかったですね、アレは…………嶋上輝雄さん、でしたっけ? 彼が冥界に行ったら向こう数千年は白玉楼から出されず輪廻は廻れないでしょうね…………」
古今東西、愛ほど呪いに転じやすい物はない。愛を理由に鬼女になった人間は数知れず、そんな事を考えながら射命丸は手帳片手に嶋上輝雄の観察を欠かさない。無論、直接取材も考えているが本当の事を全て話すとは思っていない射命丸は、まずは普段はどう過ごしているのかを密着取材(無許可)する事にした。
「朝早くから家庭菜園の手入れですかー…………牧歌的ですねぇ、何ともつまらない」
寝巻きなのか、黒い袖無しの肌着に動きやすそうな半ズボンで菜園に水をかけている。眠たげな眼で欠伸をしている姿はとても異変で活躍した者とは思えない。感じられる霊力も常人と大差なく、制御出来ていないのか、締め切ってない蛇口の様に漏れている────────素人感丸出しだ。
(…………期待外れね、妖怪桜は愚か吸血鬼すら倒せそうにないじゃない…………)
彼はそのまま適当に水を振り撒いた後家に戻り、少ししたら水色の髪の少女と一緒に人里の中心へ向かって行った。水色の髪の少女の情報は持っていなかったが、射命丸は彼女から僅かに漏出する妖気から妖怪である事を瞬時に察する。風を手繰り会話を聞くと“鍛冶は順調でいつも満腹! ”とか“今夜は妹紅さんと屋台で呑むから飯は作らなくていい”など聞こえてくる。
「へー! 妖怪と暮らしてるんですか! ふむふむ興味深い……恐らく里の有権者には言ってあるんでしょうが度胸ありますね、傘を持っている事から傘の付喪神ですかね?」
メモ帳に目を落とさず素早く考察を書き込む、そのまま二人は人通りの多い場所に向かって行ったので射命丸もかなりの距離を取った上で、後方から隠形の術を使い気配を消して地上に降りた。
(意外性はあるけど、あんまり情報の鮮度は無いし……精々新聞の一部を埋める程度のネタかしらね)
外の世界の記者と比べると、ややクラシックなルポライター風の衣装に身を包み彼女も人里の中心街に向かう。
♢
「まず何で君は八雲に敵視されているんだ?」
「自惚れじゃありませんが……恐らく、俺が幻想郷の人妖のバランスを崩すからと考えたからじゃないですかね」
「だとしても……あの妖怪に襲われてよく生きてたな」
「運が良かったのか……或いは俺を殺させない理由があるのか、何にせよ奴の狙いが分からない。恐らく、次戦う時はどちらかが死ぬしかないでしょうね」
「なんかお前ちょっと楽しそうにしてるか?」
水色の髪の付喪神とは途中で別れて、そして人里の守護者であり半人半妖の上白沢慧音とその友人なのか白髪赤目の少女と甘味処で団子を食んでいる。寺子屋は休みなのか騒がしい休日の昼間、彼女達の会話は周囲の喧騒に流されて誰も聞いてはいない────────耳聡い鴉天狗以外。
(八雲って…………あの八雲紫!? あの人間が!? とんだ特ダネだけど、これを新聞に載せたら大天狗達も黙って無いでしょうし、何より私の行動が八雲の思惑から外れていたら私が抹殺されかねない…………これは載せられないわね)
隠形で姿を隠しながら聞き耳を立てていると聞こえてくる内容に度肝を抜かれる。どう見てもそれほどの実力者には見えなかったが、まだ八雲紫が慈悲をかけて見逃した方が納得出来るくらいだった。路地裏から会話を盗み聞きしながら筆を走らせる、無論記載禁止の注釈付きで。
「………………」
「ん? どうかしたか、輝雄?」
「いえ、別に。ただ人里には珈琲に合う茶菓子は少ないなって」
「あー……確かに洋菓子はな、確かに少ない。これでも昔よりは増えたんだけどなぁ……」
輝雄の団子を食べる手が止まったのを、慧音と
(ふむふむ…………意外と社交的ね、博麗霊夢や霧雨魔理沙みたいに我が道を行くみたいな傍若無人な感じはしない。恐らく本性とは違うんでしょうけど)
「…………じゃあ俺はこれで、小傘に団子差し入れして来ます」
「お、そっか。じゃあ夜はミスティアの屋台でな。慧音もどうだ?」
「すまないが少し歴史編纂の方が捗ってなくてな……今回は遠慮しておく…………また酔い潰れるわけにはいかないし…………」
話が上手く纏まり途切れたのを見逃さず、輝雄は店主に団子をいくつか包んでもらい。甘味処の前で慧音達と別れる、彼は背が高く服装は外来人と同じ様な洋服なので人里では少し目立つ────────にも関わらず人混みをすり抜ける様に足早に進んでいき、あっという間に見えなくなる。
「ちょ────!? はやッ!?」
その気になれば一瞬で追いつけるが、ここは人里。しかも周りにはたくさんの人間がいる。まさか羽を生やして飛ぶわけにもいかず射命丸は人の間を駆け抜けて輝雄を探す。一見すると、普通に歩いている様にしか見えないその歩調は見せかけだけであり、早送りの様に輝雄はするりするりと、あと少しという所で曲がり角を曲がり、人影に消える。
「……………………これは、まさか────────」
嫌な予感がし始め、人通りの少ない通りの角を曲がるといる筈の青年がいない。気がつくと周囲の喧騒は遠く、筆一本落とす音すら響く静寂に包まれる。
「────────“職業に貴賎なし”とは言うが。感心しないな、無許可の密着取材なんて。それとも妖怪にそんなモラルを説くのは不毛かな? ────────なぁ、
「……………………あややや、妖怪と言えど千差万別。一概には何も言えませんね。ところでどうやって背後に回ったんですか?」
「別に? フツーに足音殺して回っただけだぞ」
(全く気づけなかった………………)
先程の身のこなしからただ者では無い事は勘付けていたが、まさか逆に背後を取られる事になるとは考えていなかった射命丸は内心かなり焦る、無論表情には出さないが。
「すみません、確かに勝手に後をつけたのは私が悪かったです。でも後から取材して許可は取ろうと────────」
「────────嘘じゃないが、上手く論点をすり替えてるな。どうせ俺が気付かなかったら尾行で得た情報の事は墓の下まで持ってくつもりだったろ」
振り返ると同時に謝罪して言い訳をする射命丸を、輝雄は切って捨てる。慣れているのか、それとも単に相手の本性を見透かしているのか彼の表情は平静平熱────────つまらない物を見る様な真顔だった。
(…………妖怪に向ける目じゃないわね、まるで────────)
「────────「
「────────あややや? 何の事ですか?」
ほぼ全く動揺は表に出さず惚ける、事情を知らない第三者が見れば輝雄が突拍子の無い事を言い出した様にしか見えないだろう。しかし彼は確信していた。
「職業に貴賎はない、無いが────────やっぱり個人的にはどうにもジャーナリストは思う所があってな…………特に相手の事情だの何だのを全く考慮せずに、真実なんて二の次でゴシップしか書かないパパラッチはな」
「随分な言いようですね、私が腹いせに面白可笑しく記事を書くとは思わないんですか?」
「思ってるさ、
「意思表示?」
瞬間、目の前の人間の纏う空気が変わる。カラリと晴天の様な気質の博麗霊夢とは違う、何もかも焼き尽くすの圧倒的暴力の威圧感。周囲の影響を考慮してか霊力は出していないが先までとは明らかに流れが違うのを射命丸は感じた。
(霊力の流れが安定した! さっきまでは態と素人を装っていたの!? 明らかに完全に霊力を完全に操作出来ている! この威圧感、まるで嘗ての山の四天────────)
「お前ら天狗が幻想郷で幅を利かせてる事は知っている、それは別にいい。人里も少なくない恩恵を貰ってるみたいだしな。
だが、もしも天狗が人を攫ったり新聞で誹謗中傷みたいな記事書いてみろ。例え、全ての天狗を敵回しても
────────俺は、必ず、
「………………ぷ、くくく、笑っちゃいそうになりましたよ。正気ですか? 大天狗は愚か、山の妖怪全部敵回す様な物ですよ? しかも確実に八雲紫を始めとした賢者達だって────────」
「────────愚かだと笑いたければ笑えばいい。俺は
「…………………………」
馬鹿にするように、実際に馬鹿にしているのだろう、笑いを押し殺す射命丸を冷ややかな視線。しかし真っ直ぐ見つめ意志を変えない輝雄。それに何を思ったのか、射命丸の貼り付けた様な笑顔が僅かに崩れる。射命丸の細めた赤い目と輝雄の赤銅色の瞳が交差する、剣呑な空気が流れるが────────
「…………ま、主義主張は人の勝手ですね。上には報告しませんが一応覚えておきます。ではまた会いましょう、それまで面白いネタを蓄えてて下さいね、輝雄さん」
「お断りだ」
────────射命丸は相手をせず、隠形で気配を消したまま翼を生やし、上空へ消えてゆく。周囲には人はいなく、すぐに雲の中へ消えていったので騒ぎにはならないだろう。輝雄はそう判断し、そのまま見送った。
♢
「────────生意気な人間もいたものねー、外来人だからかしら?」
妖怪の山までの道中、もとい上空。射命丸はメモに得た情報の加筆と考察を書き込んでいく。素早くスラスラと走らせる筆には迷いが無い、しかし遺憾ながらこれらの記述は新聞には載せられ無い。
「うーん…………駄目ね、八雲紫の件を除くと殆どただの日常の延長線にしかならないわ。こんな事なら異変が終わった後に直接取材すれば良かった………………でも、あの吸血鬼と怨霊が結構本気で襲ってきただろうからどっちみち無駄か…………」
「あら珍しい、貴方が自重するなんて。明日は槍でも降るのかしら?」
「────────!!?」
天狗は、どちらかと言えば身体能力よりも呪術的な強さが強みである。風を操る、幻術で惑わす、千里先を見渡す、大天狗にもなれば容易く羽扇を一振りで天候すら変える。
社交的で愛想よい振る舞いでそう思わせないが射命丸文は千年の時を生きる大妖怪、幻想郷でも上から数えた方が早い実力者────────しかし、そんな射命丸でも自分の上から声が掛かるまで全く気配に気づけなかった。
「あやや…………これはこれは、紫さんでしたか」
「えぇ、久しぶり…………って、程でも無いかしら。文?」
上半身を覗かせていたスキマから、ぬるりと這い出てスキマに腰を掛ける。長い金髪に特徴的な帽子、紫色を基調としたドレス、優雅に
「ずっと見てたんですか? 声をかけて下さっても良かったのに」
「生憎、私が貴方を見かけたのは人里に入って、出てくるところだけよ。里で貴方が何をしてたのかは見てないわ…………大体予想はつくけど」
(嶋上輝雄に会って何をしたかは具体的には知らない? もしかして誤魔化せ────────)
「────────誤魔化せないわよ、下手な嘘をつくのは止めなさいな。無駄にリスク背負いたくないでしょう?」
「────────いやいや! 滅相も無い! 賢者を口先で騙せるなんて考えてませんよー」
和かな表情のまま射命丸はどう誤魔化すか素早く頭を回そうとするが、当然紫はそんな事を許さない。紫は扇子で口元隠しながら冷たい視線で射命丸を見つめる、冷や汗が流れ緊張で僅かに表情が崩れ始めるが────────
「そんなに怖がらなくても別に何もしないわよ、輝雄と私が犬猿の中で異変時に戦った事なら好きに書いていいわよ。それを伝えにきただけ、大天狗がどう判断するかまでは責任を取らないけど
「………………それは何故でしょうか? 私が面白おかしく書き立てるとは思わないので? いや、勿論私は真実しか書いてませんが」
────────ただ客引きを良くするため誇張する事はある。
それは心の中に留めて紫の真意を探ろうとするが、賢者はあっさり言う。いつも煙に巻こうと、ややこしい言い回しをする彼女らしくなく。
「そんなに深い意味は無いわ。
────────貴方達天狗は情報操作で幻想郷を
「────────」
「本当にそれだけよ────────じゃ、頑張ってね。楽しみにしてるわよ、貴方の
言いたい事を言い終えたのか、スキマの中に消えてゆく紫。去り際のその顔は、見下す様な感情も嘲る様な感情も、何も無かった────────彼女にとって、本当にどうでもいい事で。たまたま見かけたから声を掛けた程度だった。
「……………………………………」
一人残された射命丸。時に、天狗は種族的に多くの特徴がある。
賢い、しかし嘘をつき誑かす。強い、しかし出し惜しみほどほどに手を抜く。弱きに威張り強きに媚びる、不真面目だが真面目を装う。
だが────────
『俺は
『
「────────舐めんじゃないわよ」
────────プライドは高い。
無意識に指に力が入り、筆を砕く音が空に虚しく響いた。
阿求の話とかチルノ達妖精組とか日常回を複数考えてますが、次の異変描いた方が良いですかね?
作者も次の話は愉しみにしてるんですよね。ちょいアンケートとります。
どれを優先して欲しい?上から異変、日常、学生時代
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次からが本当の地獄だ……
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おめぇの出番だぞ、日常回!
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貴様と過ごした学生生活、悪くなかったぜ…