幻想禍津星   作:七黒八白

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 同じ場所に居ても、
 同じ物を見ていても、
 同じ事を考えてるとは、限らない。


第四十七話 彼女は星を見た、彼は泥を見た

 

 

 

「ねぇ輝雄? 貴方は十年後の幻想郷でどう過ごしてたの?」

 

「…………なんでそんな事を聞くんだ?」

 

 珍しく霊夢が散歩に出掛けて留守の時、霊郁がそんな事を聞いてきた。俺は掃除の手を止めて彼女に聞き返した。別に言いたくない訳では無い、ただ意図が知りたいだけだ。

 

「だって貴方、元外来人でしょ? そんな貴方の目線から幻想郷はどんな風に写っているのか、人里でどんな生活してるのか。妖怪絡みの事件や異変以外では人里に関わらない私からすると、色々と不明瞭なのよ」

 

「…………生活はそんなに困ってない、寧ろ他の人より生きる手段は多いと思うから、そこそこ恵まれていると思う」

 

 まぁ、その分妖怪に目を付けられている気がするが…………幸い、俺は戦えるのでそこまで問題では無い────────八雲紫クラスの妖怪だと()()厳しいが。

 

「────────人付き合いは?」

 

「…………ぼちぼち、だな。一緒に酒を呑む仲の良い人くらいいるさ」

 

「へぇ〜…………因みに女性?」

 

 何故かニマニマしながら聞いてくる霊郁、なんだコイツ。この前の川遊びの時もそうだったけど、やたらと俺の女性関係事情に首突っ込んでくるな。とは言え嘘をついても霊郁には博麗の勘という、ちょっとした異能の域に入っているパッシブスキルがある。ここ最近で学んだが下手な隠し事は逆効果だ。

 

「まぁ女性だけどな。絶対間違いなく確実に、異性としては見られてないし、俺も見てない」

 

 慧音さんは多分年下をそんな目では見てないと思うし、妹紅さんに至っては何かもっと浮世離れしている。紅魔館? 美鈴さんは純粋に俺の事をそんな目で見て無さそう、あとの連中は知らん(無関心)。

 

「あら? あらあらあら? 私はそんな事は聞いてないわよ? なになに? 何を想像してたのかしら? ふふふ、私が妬くとでも? お可愛いこと!」

 

 ────────ウザい、シンプルにウザい、果てしなくウザい。

 

 こちらから先手を打ったのは間違いだった。彼女は素早く距離を詰め、ニンマリと笑みを深めて(くすぐ)る様に脇腹をつついてくる。

 

 距離が近い、距離感がめっちゃ近い。普通の男子なら勘違いしても仕方ないレベル、でも俺は捻くれ者なので美人でもパーソナルスペースに入られた事の不快感が大きい。

 

「そういうお前はどうなんだ? 人里離れて、関わりも最低限。今の生活に嫌気が刺したりしないのか?」

 

 俺の周りぐるぐる周りながらおちょくってくる霊郁を押し除け、逆に俺は聞いてみる────────博麗の巫女という役割をどう思っているのか。

 

「んー…………別に? 物心ついた時から博麗神社(ここ)に住んでて、私に出来る事、私にしか出来ない事、それでご飯食べてたから嫌気とか疑問とか特に無いわね」

 

 ………………思っていたよりもドライな感想だった。人助けに達成感とか使命感を感じるタイプでは無いのだろうか、そんな所も霊夢と似ていた。どっちにしろ霊郁は今の生活に満足しているのだろうか────────だったら、俺の覚悟も無駄にならなそうだ。

 

「……………………以前から気になってたが、霊夢はお前が産んだわけじゃないんだよな?」

 

「当たり前でしょ、流石に年齢的に無理があるわよ………………あと、そんな相手いないし。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、これは確実」

 

「────────何故言い切れる? 遺伝子検査でもしたか?」

 

「イデンシ…………? が何なのかは知らないけど。あの子は陰陽玉を使えた、だから博麗の巫女としての素質はある。私が知る限り、あの陰陽玉は博麗の血筋しか使えないみたいだし…………嘘だと思うなら試してみる?」

 

 そう言うと霊郁はひょいと軽く指を振る、すると家屋から見慣れた白黒模様の礼装が飛び出してくる────────十年後の霊夢も愛用していた陰陽玉。博麗の巫女が代々受け継ぎ、攻防両方に秀でた神が造った宝具とでも言うべき物。あの大妖怪、西行妖の攻撃にすら罅一つ入らなかった一品だ。

 

「────────試してみたら?」

 

「……………………」

 

 霊郁が自身の霊力の接続を切ったのか、陰陽玉は輝きを失いその場に落ちる。ゴロリと重厚感ある転がる玉を見ながら、俺は屈む。

 

(博麗の血筋と霊力が使用条件…………なら、俺に博麗の血が流れていれば────────)

 

 膝立ちになり陰陽玉に手を伸ばす、触れた箇所からありったけの霊力を流してみる、結果は────────────────勿論、微動だにしない。

 

「やっぱり…………ま、分かってはいたけどね」

 

「俺も…………別に期待はしてなかった」

 

 ────────だが同時に、疑問も湧いてくる。

 

「なぁ、博麗って何なんだ? お前も霊夢も何処で産まれた? 幻想郷? 外の世界? もしくは他の世界か?」

 

「…………詳しい事は私も知らない。でも博麗の巫女は幻想郷と外の世界が別たれた時に、結界の維持役として立てられた────────幻想郷の成り立ち、その根幹に関わるから外の世界は考えにくいわね」

 

「………………」

 

 

 

 ────────果たして、そうだろうか? 

 

 

 

 博麗の巫女に良い感情を覚えていない妖怪が居てもおかしくない以上、博麗の一族が今も外にいても不思議じゃない。何故なら巫女が産まれる前に一族を皆殺しを企てる妖怪がいないとは限らないのだから。外の世界なら妖怪の脅威は無いし、医療水準の高さから死産の可能性は減るだろうし。

 

 それに人里の人間だって巫女の力を悪用を考える可能性だってある、根拠? そんなもの“人間だから”で充分だろう。現に人の味方でありながら、霊郁は人里で恐怖の対象にもなっている………………流石に妖怪ほどじゃないが。

 

(幻想郷が結界で外とは隔絶した異界になったのは、今から百数十年前。霊夢が十三代目なら………………一人当たり大凡、十数年。十代中頃から巫女を務めるなら代々博麗の巫女はだいたい三十前後で────────)

 

「なーに考えてんの?」

 

「────────うお!?」

 

 屈んだ状態で地面に目を落としながら考えていると、頭上に重さを感じた。柔らかくも弾力があり、パツパツに張った感触。目の前には霊郁の長く艶やかな漆黒の髪────────霊郁が乗っかているようだ、本当になんでコイツこんな距離感近いんだろう。

 

「貴方が悩むことじゃないわよ、霊夢は分からないけど………………私は博麗の巫女として働く事にマイナスな感情は覚えて無いわよ────案外楽よ? 周囲の喧騒から離れた場所で居を構えるって」

 

「………………そうか」

 

 ────────俺は、謂れのない憐みは侮辱と考える。

 

 霊郁が今の生活を苦に思ってないのなら、俺の憐憫など筋違いも甚だしい。彼女が人里の人達に恐れられている事実を知っているのか知らないのか────現時点では俺には分からない。しかし────────

 

「────────まぁ、何だ…………居候させてもらってるからな。俺の事は好きに使ってくれ、流石に良心の呵責が痛むような真似は出来んがな」

 

「…………え? なになに? まさか私に惚れちゃった!? ふふふふ…………まー、もう少し将来性とか感じさせてくれたら考えなくもないわよ?」

 

「お前マジでそればっかだな…………」

 

 恋愛脳なのか? それとも完全に揶揄っているだけなのか? 人間関係に乏しい俺には判断がつかない。でも、まぁ…………流石に霊郁が俺に好意を抱いて言っているわけでは無い事は分かる……………………うん、ただ揶揄われているだけだな、これ。

 

「ハイハイ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────────まず無いがな、そもそも俺の事も多分忘れるだろうし。

 

「言っとくけど、私は結構我が儘よ? その気があるならちゃんと養って一途に愛してね」

 

 ケラケラ笑いながら言う彼女は楽しそうだった。巫女として戦い続ける事に憂鬱な物なんて、まるで感じさせない────────俺が言った不吉な未来の事なんてまるで感じさせない。

 

(………………死なない自信があるのか、それとも────────)

 

 

 

 ────────偏に、強者としての覚悟か。巫女としての矜持か。

 

 

 

「…………………………ぜってー、捻じ曲げてやる…………」

 

 幽々子の時もそうだったが…………まともな奴が、優しい奴が、正しい奴が、消費されて死んでいって、俺や妖怪みたいな頭のイカれたクソが世に憚るのは間違っている。

 

 クソはクソ同士で呪いあって潰し合えばいい、善人は穏やかに過ごして穏やかに畳の上で笑って死んでいけばいい、それが世界のあるべき姿────────それが道理ってもんだ。

 

「ん? なんか言ったー?」

 

「別に」

 

 霊郁は死なせない、霊夢を一人にはさせない。俺は生き残れないだろうけど────────そもそも誰の記憶にも残れないだろうけど、それでもいい。それで、いい。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「────────ていうかさぁ、貴方が持っていたあの太刀なんなの?」

 

 私は未だに謎が多い彼────────嶋上輝雄に聞いてみる。

 

 今から十年後の幻想郷からやって来たという男、明らかに人間離れした身体能力────────そして、私が近々起こる異変によって命を落とすと予言した。妖怪も大概訳の分からない事をしでかすが、彼はそれ以上に不明瞭な事が多い。恐らく、私に話していない事も多々あるだろう。

 

「あぁ、残華の事か? 物好きな幽霊に押し付けられた」

 

「以前言ってた、貴方に好意を向けたっていう?」

 

「………………いや、別にそうとは限らねぇだろ」

 

「ふふ、どうかしら? 鈍感な男は流行らないわよ」

 

 十年後なら私もまだ現役のはずだが………………彼の話が本当だと巫女は霊夢に代替わりして、私は居なくなっているらしい。だとすれば十年後の異変を解決しているのは彼か霊夢だと考えるのが妥当か。

 

「あの太刀、妖怪の亡骸から出てきたのね?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

 何でもないように答える彼は、やはり事の重大さを理解していないのだろう。別に妖怪から刀が取れた事がおかしいわけでは無い、日ノ本最古にして最大の災害龍もその精髄から神剣を出したという、稀ではあるが無い話では無い。

 

「あれトンデモない呪物よ? 下手しなくても千年物以上の。退魔の力とはまた違った形で妖怪やらに特攻になるでしょうね………………でも同時に人間に対しても有害な筈、なんで貴方平気なの?」

 

「そーいう能力だと思ってくれていい………………そういやお前って何か能力とかあんの?」

 

 サラッと能力持ちである事を明かしたわね………………なんで外来人なのにそういう霊力とか能力とかに造詣が深いのよ、そもそもその力量で外の世界出身って噓でしょ? 本当は魔界生まれとかじゃないの。

 

「“清らかにする程度の能力”。巫女らしい能力でしょう? お陰で生まれてこのかた一度も風邪に掛かったこと無いわ!」

 

「だから連日酒を吞みまくってんのか、肝臓とか綺麗そうだな」

 

「毒物とかも清らかにして無害化出来るからね、私には基本的に毒物薬物の類は効かないわ………………まぁ、流石に限度はあるけどね」

 

 一度に分解できる量を超えると流石に一時的に私でも酔ってしまったりするので、お酒はかなり強いのだが全く酔わないというわけではない。まぁ、大体次の日には完全に回復しているけど。

 

「────そして、そんな私の能力でも浄化しきれない瘴気と怨念を宿している太刀。はっきり言って捨てた方が良いわ。今は私が封印してるけど、いつ何時貴方を呪殺するとも限らないわよ?」

 

 彼が所持していた太刀、十年後の霊夢も目撃しているらしいし、何より純粋に危ないので札でぐるぐる巻きにして現在は博麗神社の倉庫に安置してある。

 

「………………この前、友人の屋敷に太刀を忘れた時、次の日に取りに行こうと思ってたらいつの間にか枕元に有ったことがあってな…………」

 

「………………一先ず、その友人に何事もなかったのは奇跡ね」

 

 あぁ……………………典型的な呪物の特性。でも彼自身にやはり何の害もない事を考えると、あの太刀は彼に害を成そうとしているわけでは無いのだろうか? 

 

 ────────あの太刀に込められた呪い、否。想いの主に余程気に入られているのか? 輝雄を護る為、彼の為に、あの瘴気と怨念が力として有るだけで彼の意志に反する真似はしないのか……………………にわかには信じられないが。

 

(……………………まぁ、()()()()()()()()()()()()。託される物、託す者、生き方に強い影響力を与える力は────いつだって呪縛染みているわね)

 

 

 

 ────────私は、博麗の巫女である事に違和感も不満もない。

 

 

 

 妖怪との戦いも、人里の人達に少し疎まれている事も特に何も感じない。妖怪は勿論、私はあまり人里の人達の事を()()()()()()()()()()()()()

 

 嫌い、だとか。気持ち悪い、とかじゃない。例えるなら犬や猫の事を可愛いと思っても、人に向ける愛とか恋とか覚えないのと同じ感覚だ。

 

 人を守るべきというのは理解できる、たった一人で生きていけるとまでは自惚れていない。里の子供たちや老人が妖怪に弄ばれる所を想像するだけで拳に力が籠る。

 

 

 

 ────────でも違う、()()()()()()()()()。私は、()()()()()()()()()。周りの人と同じ歩幅で生きていけない、抜きん出ていると言う事は()()()()()()()()という事。人は、人間は────────()()()()()()()()()()

 

 

 

「…………ねぇ? 十年後の幻想郷では、霊夢は一人じゃないの?」

 

「あ? 急にどうした? まぁ友人は多い方じゃないか? 人外も含めたらだが」

 

「────────そう」

 

 私は正直言って、霊夢には博麗の巫女になって欲しくない。私が苦に感じないからと言っても博麗の巫女は過酷な事には違いない、一体どこの世界に自分の娘にそんな艱難辛苦を歩んで欲しいと思うのか────────例えあの子が苦に感じずとも、多くの人と繋がりを持って生きて欲しいのだ。

 

 ────────そして図らずも彼の存在でその未来は証明された。巫女であれども霊夢は孤高では無い、あの子は、一人じゃない。

 

「ねぇ、ちょっと肩揉んでもよ」

 

「いやマジでさっきから脈絡無さ過ぎんだろお前、急にどうした? 別にいいけど」

 

「知らないの? 巨乳だと肩が凝るのよ」

 

 ────────でも少しだけ肩の荷が下りた気分よ、貴方のお陰で。出来る事なら霊夢には巫女になって欲しくないけど………………流石に高望みが過ぎるか。

 

「あ~いい、そこもっと強く。あと次は腰もお願いね~」

 

「歳か……………………」

 

「十七だつってんでしょ」

 

 あぁ、叶うなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()────────。

 

「そういえば貴方は霊夢とどういう関係なの?」

 

「んー……勝手な予想だが霊夢からすると他人というには近く、友人というには遠い……ただの知人だ────────でも俺からすると恩人だ」

 

「なるほどー…………あ〜、やばっ、そこそこ、あっあっ、ぐいって、押して」

 

「…………悪いが、喘がないで貰えるか?」

 

 霊夢と違い指圧が強く的確にツボを押してくる、快感が疲れを押し流し、脳が緩む様な心地になる。しかし……そうか……別に霊夢と恋仲とかじゃないんだ…………。

 

(────────なら、やっぱり()()()で行くべきかしら)

 

「ほい、じゃあ次は腰な」

 

「まだ日が高いから、お尻触っちゃ駄目よー?」

 

「落ちてもしねぇよ」

 

「痛だだだだだだ!? 痺れる!? 骨盤から全身に雷が走る!?」

 

 殺法即ち活法という事か、指圧された箇所からビリビリする感覚が全身走った。

 

 

 

 

 





 一人称でしか書けない物もある、三人称でしか書けない物もある。
 最近やっと、そんな事を学んだ。

 それはそれとして感想クレメンス(唐突な乞食)
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