幻想禍津星   作:七黒八白

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 これから曇るよ!



第四十九話 気質の子

 

 

 

「……………………駄目だな、まるで見当が付かない」

 

「やっぱり?」

 

 蝉時雨が喧しい森の中、俺は霊郁と一緒に人里周辺の森や山を散策していた。青々とした草の匂いと腐葉土の香りがする、暑さと相まって湿度もややある為、着流しが汗でジットリ肌に吸い付く。

 

 霊郁も巫女装束をパタパタと揺らし、体を冷やそうと試みている。黒いインナーが汗でピッチリ張り付き、胸の形が浮き彫りになり何とも艶めか────────いや何考えてんだ俺は、死ねよ(自己嫌悪)。

 

「詳しい時間や場所は分からないの?」

 

 霊郁は流れる汗を鬱陶しそうに拭いながら目的の────────吸血鬼の根城や、異変の兆候や情報を聞いてくる。しかしながら、初めからそんな情報があればこんなかきたくもない汗をかく必要はない。

 

「まさかタイムスリップするとは思わなかったからな…………そこまで調べは無かった。でも俺の自宅にあった十年後の新聞を逆算して、今年の夏である事には違いない」

 

「今年、か……………………あと二、三年。せめて一年あれば────────」

 

「────────ん? 時間があれば何とかなるのか?」

 

「────────いや何でも無いわ! てか耳良すぎでしょ!」

 

 

 

 ────────吸血鬼異変、何があったのかその詳細は謎が多い。

 

 

 

 恐らく、当時(現在)の尤も関わりがあったであろう霊郁が死去。妖怪達も西洋妖怪に攻め込まれたという、ある種の醜態醜聞を隠したためだろう。確か弾幕ごっこがない為、妖怪が人間を襲えず弱体化していたとか、慧音さんから聞いた話だが。

 

 そして今の時代の阿求は霊夢より幼い、当然筆など持てる筈も無く、記録は無いに等しい。ましてや吸血鬼異変の吸血鬼はレミリアと紅魔館一行以外殲滅されたのか、十年後の世界で紅魔館以外で吸血鬼を見た事が無い。無論他の異界などに行った可能性もあるが。

 

「疑うつもりは無いけど………………にしちゃあ、吸血鬼なんて一匹も見つからないわよ?」

 

「んー………………機を見計らって速攻かつ電撃戦で攻めてくるのかもな」

 

 隠れる事も忍ぶ事も、予兆も予想も無く、圧倒的な火力で埒外から叩く。少なくとも不意打ちとしてはかなり有効だ。八雲紫も結界の外から入るもの全て把握しているわけじゃないだろうし、感知出来ても大量の吸血鬼。片手間に容易く、とはいかないだろう。

 

「博麗大結界の外から? なら後手に回るしかないわね…………」

 

(……………………レミリアやフランと同格、若しくはそれ以上が数百や数千…………幻想郷全ての妖怪を敵に回す事を想定してるなら、逆説的にそれくらいの戦力が必要になると考えられる)

 

 はっきり言って、無策で後手に回れば霊郁は勿論、八雲紫でも危ういだろう。今更怖気づく気は全く無いが、果たして俺一人が命を投げ出したくらいでどうこうなるか………………? 

 

(…………………………せめてこっちの土俵に持ち込めれば)

 

「一先ず人里周辺には隠れていない事が分かったから、後は二手に別れて探しましょう………………多分、見つからないだろうけど」

 

「博麗の勘か?」

 

「それもあるけど………………自尊心が強い妖怪程、計画性とか立てずに力押ししようとする傾向があるのよね。確か吸血鬼って鼻持ちならない奴なんでしょ? そんな奴らがコソコソするかしら?」

 

「…………一理あるな」

 

 八雲紫はそうでも無いが、レミリアはまさにその典型的な例だと言える。石橋が崩れるならそれも一興と楽しむ余裕や、敢えて無計画に進むような享楽的な所があった。

 

(勝手なイメージだけど…………吸血鬼って悪徳領主みたいな貴族っぽいイメージあるし、小細工とかある種の相手への警戒心の現れとも言える事はしないか?)

 

 慢心、とまでは行かずとも人間の事を見下していそうではある。だが裏を返せばそれだけ個としての力は抜きん出ている、妖怪という基準で考えてもだ。

 

「私は東周辺を探索してみる、貴方は無理しないで。何処でばったり十年後の知り合いに会うかも分からないもの」

 

「あぁ………………分かっているとは思うが、吸血鬼の根城を見つけても────────」

 

「────────先走らず合流してから戦う、貴方こそ一人で戦ったりしないでね?」

 

「………………分かってるならいい」

 

 釘を指す筈が逆に釘が刺される、霊夢と同じ黒曜石の様な瞳が真っ直ぐこちらを見据える。俺はその目を真っ直ぐに受け止めた────────少しでも逸らしたら、何もかも見抜かれそうな気がしたから。

 

「………………ま、お互いに無茶はやめましょう。貴方も私も帰りを待ってる人がいるんだから」

 

「………………あぁ、そうだな」

 

 

 

 ────────俺にはそんな奴はいない、とは返さなかった。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「────────とは言ったものの、どうしたもんかな」

 

 タイムパラドックスを起こさない為に、十年後の知り合いの前には顔を出したくない。なので幽々子や妖夢がいる冥界には行けないし、射命丸にも会う可能性がある妖怪の山も論外、人里はそもそも情報が集まるかも怪しい………………おいおい、割と詰んでね? 何処を調査すればいいんだよ。

 

(…………“たられば”の話をしても仕方ないが八雲紫に協力を取り付けられれば…………幻想郷と博麗の巫女の危機ならアイツだって出張ってくるだろうし────────つーか、この時代のアイツ何してんだよ! 霊郁死なせんなよ!!!)

 

 東側────────博麗神社がある方を霊郁に任せて、俺は西側の山やら丘やら川やら虱潰しに探してみるが吸血鬼の様な巨大な魔力は感じない。精々が雑魚妖怪が襲ってきた程度である。無論、首から上を拳で消し飛ばした。

 

「………………時間と体力を浪費している気がしてならない、やっぱり今の幻想郷にはいないのか?」

 

 肉体を強化しても体感の暑さは変わらない、だから熱中症対策に竹で出来た水筒には塩と砂糖と果汁の自作のスポーツドリンクが入っている。それを飲みながら周囲を見渡そうとすると────────

 

 

 

「暑ー………………い。しぬ…………しんでしまう…………地上、暑すぎでしょ…………」

 

 

 

 ────────木の下でへばっている………………なんか、良いとこのお嬢様っぽい奴が居た。

 

 腰まで届く青い髪、真紅の瞳、端々に品を感じさせる刺繍の入った白い半袖の服、空模様のロングスカートに革のロングブーツ。まぁ、暑そうな格好ではある。特にブーツ、熱が籠って仕方ないだろう。

 

「なによこの暑さ…………私は地上じゃなくて地獄に降りてしまったのかしら…………ああ、こんな事なら桃を持ってくれば良かった……でもアレ美味しくないのよね………………」

 

「………………」

 

 木陰に座り込み虚な目でぶつぶつ言っている姿は、外の世界なら110番待ったなしの不審者具合だった………………メンドクセー、助けなきゃダメ? これ? めっっっっっちゃ無視したい、何故か面倒な事になりそうだ。

 

 人里から遠く離れた場所に平気でいる事からまず只者では無い、しかしこの気配は妖怪では無い。感じた事が無い為、所感だが…………寧ろ妖怪とは対極に近い気配だ、でも純粋な人間でも無い気がするが…………いいや、助けるか。

 

「………………あのー、良ければ水飲みま「────寄越しなさい!!!」早ッ!?」

 

 脱力し切った体勢から瞬時に飛び出し、水筒がひったくられた。まだ口は付けてなかったからいいものの…………見た目は十代半ば程度の少女はそのまま喉をくびくび鳴らしながら水筒を飲み干した、まるでビールを仰ぐおっさんだ。

 

「────────ぷはっ! でかしたわ! 地上の人間にしては見所あるわね貴方!」

 

「あ、そっすか。じゃあ私はこれにて」

 

 ────────あぁ、もう面倒くさい気しかしない。

 

 良かれと思い助けたがたった数秒で後悔し始める。しかしだからと言ってここで悪態を吐くのは二流のする事、面倒くさいと思ったなら! 既に相手から距離を取っているのが一流! 奪い取られた水筒も取り返さず、そそくさと俺はその少女から離れて調査を再開────────

 

「ちょっと!? 待ちなさいよ!? この私が見所あると言ってあげているのよ! 名を名乗り平伏する所でしょ!?」

 

 ────────ウッッッッザイ! 霊郁みたいな可愛げあるウザさでは無い、シンプルに鼻につくウザさ。

 

 例えるならお客様は神様を自称して店員に横柄な態度を取る中年のオッサンに近い。バイト先でよく現れていた中年を俺は思い出し、目の前の美少女に重ねていた。嫌な事を思い出させやがって…………。

 

「と、言われましても。貴方がどこのどなたか存じ上げませんので」

 

「じゃあ、仕方ないわね…………いい? よく聞きなさい! 私は幻想郷の土地の管理を任された比那名居一族の総領の娘! その名も比那な────────」

 

「水無くなったし……一回里に寄るか、もしかしたら何か情報あるかも知れないし…………」

 

「────────って聞きなさいよ!!!!!」

 

 腰に手を当てツルン、ストーン(擬音)と言った感じの胸を張り高らかな名乗りを、当然俺は無視して人里に向かおうとすると素早く回り込まれた。あぁ、なんかデジャヴ。こんな感じのやりとりが昔あった気がする………………一部、発育具合は大分差があるが。

 

「なんか果てしなく不敬な侮辱を受けた気がするわ…………!」

 

「名乗りを意図的に聞き流した事くらい寛大な心で許して下さいよ(すっとぼけ)」

 

「その事じゃないわよ! てかそれただの無視だし! ………………まぁ、いいわ。考えてみれば下賎な地上人なんかに誇り高い私の名前を教えてあげるなんて名誉! 恩人でも頼まれでもしない限り! 勿体無いもの!」

 

 態とらしくチラッチラッと、こちらを見ながら声高に言う青髪の悪ガキ。なんだコイツ、俗に言うツンデレか? 悪いが俺はマリベル(DQ7)以外のツンデレは受け入れられないから、CV.くぎゅーでも無理だから。

 

「すみません、ちょっと忙しいので。貴方の誇り高い(笑)名前はまた今度聞かせて────────」

 

「────────はぁ? 私と話す名誉よりも優先する事なんて無いでしょ?」

 

「んだよ、お前………………面倒くさいメンヘラ彼女かよ」

 

「────────は?」

 

 ────────あ、余りの面倒臭さについ口が滑った。

 

「アンタ…………いい度胸ね、メンヘラ? が何か分からないけど、どうせいい意味じゃないでしょう」

 

「………………“いい意味じゃない”って想像がつく程度には、自分を客観的に見れているんだな。凄い凄い、それは猿並みの知能だと出来ないぜ?」

 

 霊力が目の前の少女から吹き荒れる、予想に漏れずかなりの実力者なのだろう。あぁ、面倒くさい。霊力があまり使えないという事は必然的に()()()()()()()()というのに、雑魚妖怪程度なら問題ないが目の前にいる少女はそんなレベルでは無いのは明らかだった。

 

「────────感謝なさい! 目上の人に対する口の利き方ってもんを、教えてあげるわ!!」

 

「どうしてこう幻想郷では、人間性に問題有るやつが多いのかな…………」

 

 

 

 ────────まぁ問題無いが、()()()()()()()()()()()。俺は懐の楔の感触を確かめながら、最小限の霊力を流す。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「ちょっと!! 出しなさい!!!」

 

「安心しろ、五分程度でそれ解けるから」

 

 陥没した地面、へし折れた大木、局所的地割れ、不自然に出来た岩の剣山、周囲にはたった三分程度の間に出来た戦跡が夥しく残っている。やっぱり只者じゃなかったな、コイツ。

 

 俺は目の前の()()()()()()()()()()()()()()()()に話しかけながら服の砂埃を払い落す、とんでもない奴だ…………注連縄が巻き付いた石で殴るわ、体は鋼鉄みたいに硬いわ、割と本気で殴ったが平気そうだし。

 

「この私にこんな真似許されないわよ!」

 

「だからお前がどこのどなたかなんて知らないし、どうでもいい。馬鹿の一つ覚えみたいに見栄を張ってるが、それ以外になんか無いのか? 空しいとは思わないのか?」

 

「ぐっ…………」

 

 俺と同じ様に、戦闘で高価そうな服は泥にまみれて、所々が破れている。結論から言うと俺は勝てた、割と簡単に。恐らく彼女も本気では無かったが、それ以上にこちらの事を見下していた油断と慢心が大きいだろう。

 

 最初の一撃で俺の頭をカチ割りに来たが逆に石が砕け、驚愕し、ギアが上がり切る前に俺が畳み掛けた。まさか霊力も使わないただの人間の膂力が自分を上回るとは思わなかったのだろう、半端に力と自信が有ったことが裏目に出た。

 

「どういう体してんのよ!? 私の要石が逆に砕けるって!?」

 

「俺もまさか漬物石みてーな大きさの石で殴られるとは思わなかったよ…………俺じゃなかったらマジで死んでたぞ」

 

 あと体の事はお前も大概人の事は言えない、少なくとも雑魚妖怪よりは比べ物にならない位硬い。マジで何者だよ、少なくともただの人間では無い。

 

「クソ! ()()()があればこんな結界なんて…………! アンタ覚えてなさいよ!」

 

「覚えてられねぇよ…………俺も、きっとお前もな」

 

「はぁ!? 意味わかんない事言ってんじゃないわよ! 絶対にこの借りは返すわよ! 勝ち逃げなんて許さないから!」

 

 コイツ…………よく結界の中に閉じ込められながら強気になれるな。確かにお互いに不可侵の条件を盛り込んだから俺もコイツに手を出せないが、コイツは当然それを知らない。少しは怯めよ…………まぁ、意図せず強敵に結界の具合を確かめられたからどうでもいいか、もう少し条件を厳しくすれば吸血鬼異変でも使えそうだ。

 

「…………一応、礼は言っとく。お前のお陰で何とかなりそうだ、まだまだ問題はありそうだがな…………」

 

「…………何、アンタ誰かと戦うの?」

 

「…………どうして、そう思う?」

 

「死神と戦う前に、同じ様な表情をしている奴をよく見てたから」

 

「は? 死神? …………いやまぁ、幻想郷だしな。そういう事もあるか」

 

 益々目の前のツンデレ、いやツンケン娘の正体が気になるが今はそんな場合では無い。無駄にしていい時間など一秒だってないのだから、戦いに乗ったのは()()()の結界の具合を確かめたかったから。そしてもう満足したのでこれ以上は付き合うつもりは無い。

 

「じゃあな、二度と合わない事を願ってる」

 

「待ちなさいよ、私にこんな事しておきながら他の奴に負けるなんて許さないわよ。誰と戦う気なのよ?」

 

 ……………………話すべきか? 正直今の所手詰まり感が否めない。だがしかしコイツから俺達の情報が洩れる可能性は────────いや無いな、こんな自尊心高い奴が吸血鬼と繋がっているなんて考えられない。まず間違いなく妖怪と仲良しこよしなんて絶対に出来ない性格だ。

 

「────────吸血鬼、ヴァンパイア、ドラキュラ。

 

 多分、近いうちに本気で殺し合う事になる。だが何処から来るのか、いつ来るのか皆目見当が付かない、人里に被害を出さない為にどうすればいいか思案中ってとこだ」

 

「………………アンタの状況がよく分からないけど、近いうちに吸血鬼が来るのは間違いないの?」

 

「あぁ、確かな筋の情報で裏も取れてるから間違いない」

 

 ────────なんせ未来の情報というチート臭いカンニングだ、俺というイレギュラーがいてもまず外れる事はないだろう。そもそも吸血鬼が来なければ霊郁が死ぬことも無いのだが………………俺がそんな少し暗い事を考えていると、予想外の返答が飛んできた。

 

「────────なら、間違いなく()()()()()()でしょうね」

 

「……………………なんで断言出来る?」

 

 驚いた事に、ツンケン娘はさして考える時間もなく直ぐに断言した。こちらを騙そうとしている風では無い、彼女も確実にそう思って言っているようだった。

 

「ふん! これだから()()も知らないトーシローは…………いい? この世全ての生き物には気質があって妖怪も例外じゃないわ! 

 

 得意な気質であれば全力を出せるけど、逆なら力が制限される! 吸血鬼の(気質)が最も力を出せる時は! 

 

 ────────()()()()()()でしょう!」

 

「……………………お前、急に知能指数上がったか?」

 

「ぶっ飛ばすわよ!?」

 

 ────────だが、確かに頷ける話ではある。レミリアが異変を起こした時も()()()()だった。まるで役者の様に自分達が活躍出来る時を選ぶのであれば、当然日が沈み切った夜で────────妖力が満ち満ちる、完全に円を描く月の時だ。

 

「ありがとよ、思わぬ収穫だ。しかも都合良く()()()()()()()()()()()

 

「ちょ、ちょっと!? この結界解きなさいよ! このまま放置する気!? 待ちなさいよ!」

 

 話している間にかなり時間が経った、恐らくもう二分もしないうちに自動的に解除されるだろう。俺は後ろの騒がしい奴を無視して足早に立ち去る。

 

「まだまだ暑い日が続くからな、水分補給は怠るなよ。健康優良不良少女」

 

「だったら! せめて! 日陰に移動させなさいよ!」

 

「ごめん、それ動かせない結界」

 

 

 





 まだまだ続くよ、でも多分春雪よりは短いかな。
 今更ながら長すぎ、あの異変。
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