幻想禍津星   作:七黒八白

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 今の所、作者の不安は伏線を自然に回収出来るかどうかです。



第五十話 遠回りさせる思人

 

 

 

 八月一日、まだまだ暑い日は続くがそれ以上に俺は緊張を感じていた。この間の謎の悪ガキ曰く、吸血鬼なら満月の時を選ぶ。そしてそれが正しければ────────あと、猶予は二週間。

 

 もうすぐで、この時代に来て一ヶ月が経とうとしている。霊夢の修行を手伝ったり、博麗神社の雑務をしたり、霊郁が酔っ払った時にダル絡みして来たり、風呂入ってる時に霊郁が乱入しようとしたり(未遂)、霧の湖に遊びに行った際に霊郁の水着が行方不明になったり────────いや悩みので大半アイツやんけ、ふざけんな。

 

「修治ー? ちょっと手伝ってー?」

 

「何ですか? 水着が行方不明になった際に借りて来た猫みたいに大人しくなった霊郁さん?」

 

「その話はヤメロォ!!!」

 

 顔を真っ赤にして叫び散らす巫女が居た、ていうか霊郁だった。人が居る海水浴場とかじゃなくて良かったな、水中から勢いよく飛び出した際に上に何も付けておらず、バルンと丸出────────。

 

「しゅ・う・じ・さん? 何を考えていらっしゃるのかしら?」

 

「痛だだだだだだだだだだだ! 今日の晩ご飯です! だからアイアンクローはやめぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!」

 

 しかし俺の思考はそれ以上再生される事は無く、霊郁のアイアンクロー(石を簡単に砕ける)が顔面を軋ませる。頭蓋が僅かにミシミシという音を立てている辺り、彼女の中であの事件は恥ずかしいらしい────────てかこの握力マジでゴリラ、てかゴジラ。

 

「おー、痛てて…………風呂乱入とかトチ狂った真似するクセにそれは恥ずいのかよ」

 

「それはそれ! これはこれ! それにタオルは巻いてたし!」

 

「どう違うんだよ」

 

 分からん、全くもって霊郁が何をしたいのか俺には分からない……………………逆に分かる奴いる? 居たら教えて? 次コイツが酔っ払ってダル絡みしてきた時、誘いに態と乗ってやろうか。経験者気取りたいのか知らないが、流石に分かる────────コイツめっちゃ初心(うぶ)だ…………まぁ、こんな所で一人暮らししていれば当然っちゃ当然か。

 

「そんな事よりも! ちょっと手伝って欲しい事があるのよ!」

 

「あーはいはい、何すりゃいいの?」

 

「人里に用事があるんだけどさ、男手が欲しいのよね」

 

 まさかの用件に反射的に仮面の下で顔を歪める、居候の身分で我が儘は言いたくないのだが、流石にそれは二言返事では了承出来ない。

 

「…………マジで言ってる? 俺あんま里に近づきたくないんだけど。言ったろ、タイムパラドックスとか起こしたくないって」

 

「今まで買い物とかではよく行ってたじゃない、今更よ」

 

 それはそうなんだが…………用事の内容によっては人との関わりがある可能性もある。だとすれば素顔を見せない人間が信用されるはずも無く、他者との軋轢が生まれる可能性も無きにしも非ずなわけで………………。

 

「なんか俺、コミュニケーションに躓く事が多いな…………」

 

「今さらでしょ?」

 

「さり気なくディスんないでくれる?」

 

 そこまで社会不適合者じゃないわ、俺は寝坊助の霊夢に人里まで霊郁と出掛ける事を言い。霊郁と共に人里まで歩いていく。空を飛べ無いという設定に霊郁も合わせてくれているからだ。

 

「ほいっと」 

 

 最初は博麗神社とは言え一人で霊夢を置いていくのはどうかと思ったが、霊郁が軽くお祓い棒を振ると神社周辺に結界が張られる。ここ最近何度も見ていたが、術者としての力量が俺とは段違いだ………………分けてくんない? その才能。下位互換の術を最近やっと習得した俺からすると真似するのも難しい練度だ。

 

「凄まじいな、十年後の霊夢も同じ位の力量だったが…………」

 

「まぁね、博麗の巫女は代々結界術に優れているのよ」

 

「……………………次代の巫女が結界術に優れていない事だってあるだろう?」

 

 俺の能力である“主に理不尽や不条理に抗う程度の能力”みたいに予めその身に宿している能力とは違い、結界術は自身の中で一から術を構築し発動する。要するに術者本人の才能や力量が問われる。

 

 俺の様に霊力の総量が足りていても、元も子もない言い方をすればセンスが無ければ使えない────という事も全然あり得るのだ。求められる能力は霊力の出力や総量では無く、精密な操作性や術の適正だからだ。

 

「それは無いわ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………?」

 

 ────────どういう意味だ? 必ず結界術に優れているだと? 

 

 確かに血統により才能はある程度保証されているのかも知れないが、それも飽くまで確率論の話。優れた血統でも落ちこぼれが生まれる時だってあるだろう、にも関わらず歴代の巫女全員結界術に秀でていた? あり得るのか、そんな事が。

 

 若しくは才能ある奴しか巫女に選ばれない? いや、そもそも複数人巫女の適性がある子が現れる事があるのか? 霊夢は境内に捨てられていた所を拾われた…………今までの巫女がどうだったか知らないが、霊夢に才能があったのは完全に偶然だ。

 

「────────まぁいいじゃない、そんな事。早く行きましょう」

 

 しかし、霊郁は俺の疑問に答えることなく。困った様にただ曖昧に笑い、歩き出した────────何故か、俺はその横顔がいやに目に付いた。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

 霊郁と人里に着いた時、最初に感じたのはいつもと違う騒がしさ。最初は霊郁が用事があるとの事で妖怪絡みかと思ったが、しかし人々の顔は暗い感じはしない。寧ろ和気藹々と活気に満ちている、これは────────

 

「夏祭りの屋台の準備よ、私は人里で妖怪が暴れない様に結界張るから、貴方は力仕事担当ね」

 

「縁日…………とはまた違うのか? 博麗神社ではやらないのか?」

 

「道中が危ないでしょ? まぁ結界敷けなくはないけど…………人里の方が色々都合がいいのよ」

 

 成る程、確かに妖怪が襲わないという保証は里の中だけだ。ならば里で開催するのが一番手っ取り早いだろう、十年後は博麗神社でも偶に催し物があったがアレはスペルカードルールによる弾幕ごっこの影響も大きい。今の弱肉強食の風潮がやや強い幻想郷では同じ事は難しいだろう。

 

「おぉ、巫女様! 来てくださいましたか!」

 

「────────うむ、人里の護りは万全を期す。貴方達は何も心配する事は無い」

 

「────────!?」

 

 恐らく、人里の年長者である老人が霊郁に話しかけてきた。それは良い、別に不思議な事でも何でもない────────俺が驚いたのは霊郁の変容ぶり、いや誰だよお前。なんか厳格な仙人とか達人みたいな口調だ…………に、似合わねぇ…………。

 

「だがしかし、人里に張る結界は里で妖怪が妖術などを使用できない様にするだけの物。

 

 妖怪の出入り自体は制限することは出来ない、決して妖怪相手に喧嘩など売ったりしない様に若い衆に伝えておくように」

 

「はい、それは勿論でございます……………………所で巫女様? 隣にいる狐の面を着けた男性は…………?」

 

 老人は恭しく霊郁に頭を下げて了承しながら、俺に対して訝し気な目を向ける。敵意や嫌悪感は感じない事から純粋に誰かと思っているだけなのだろう、俺はこの時代の里では本当に必要最低限しか来ていない。覚えられていないのも無理はない、俺の努力も無駄では無いようだ。

 

「あぁ、彼は私の弟子だ。身の回りの世話させ、修行中の身でな。面もその一環だ、気にしないでいい」

 

「こんにちは、修治と言います。この度は祭りの準備の手伝いに来ました。遠慮なくお申し付けください」

 

「それはそれは、有り難い。何分人手が足りておりませんので」

 

 老人は特に怪しむことなく、納得してくれた。幻想郷という不可思議な事が常である環境よりも、霊郁という博麗の巫女に対する信頼が大きいのだろう。

 

 素顔を隠している大男に全くといっていいほど警戒心が無い。まぁ、妖怪ならもっと分かりやすく脅威として振る舞うから顔を隠すなんて回りくどいやり方はしない。

 

 簡単な挨拶を終えた後、老人は陣を取るために一旦持ち場に戻ると言いその場を後にした。俺は後で八百屋の方へ来るように言われ、霊郁は結界の為に半日かけて里の周辺に仕込みをするらしい。恐らく広域に結界を張るために何らかの要を設置するのだろう、なんせ里全体を覆うのだから。

 

「………………まぁ、結界の件は良いんだけどさ。お前、さっきのアレ何?」

 

「しょ、しょうがないでしょ? 巫女として舐められたりしない為には威厳あるように振舞わないといけないんだから。

 

 今はそうでも無いけど、博麗の巫女なりたての時は里の男性に見くびられたりしてたから超然とした態度を取ってたら…………いつの間にか、こんな喋り方をしないといけなくなって………………」

 

「…………大変だな、お前も」

 

 多分その男は、霊郁が素手で岩を砕けたり、毒物や薬物が効かなかったり、妖怪の大群でも容易く無傷で屠れる戦闘能力がある事を後で知って、内心戦々恐々とした事だろう。

 

 俺も霊力の使えるようになって大体理解してきたが俺や霊郁の戦闘力を表すなら戦車などに相当する、しかも空を飛べる事から下手をすれば戦闘機にすらやり方次第では充分勝てる。武装してもただの人間がどうこう出来るレベルでは無い。

 

「ま、いいのよ! 巫女のお勤めさえ滞りなかったら。それに最近はあんまりその辺のストレス感じてないし」

 

「へぇ? 慣れてきたのか?」

 

「それもあるけどね、貴方が家事をしてくれたり、霊夢と一緒に遊んでくれるから私も伸び伸び出来るのよ……………………これでも感謝してるのよ? 貴方が()()()()()を犯しても笑って許してあげるくらいには?」

 

 まるで手慣れた遊女の様な言動。無駄が無い引き締まった女性らしい身体つきに整った顔、霊郁がこちらを見上げる形で顎下をさすってくる。しかし俺は見逃さなかった、ほんの僅かに耳が赤くなり、少しだけ膝が震えたのを────────明確に緊張してるサイン、慣れない真似をしている証拠。別に好きにさせてもいいが…………いつまでもマウントを取られるのは面倒くさいな、ちょっと揶揄ってやろうか? 

 

「へぇ? じゃあ今夜、お前の部屋に行こうかな?」

 

「へッッッッ!?」

 

 顎下を摩る手を取り、指を絡める。俺の方が背は高いので霊郁は見上げる形で迫られ、壁際に追い込む────────所謂、壁ドン的な。普段の俺だったら酔っても絶対しないが、霊郁はこんな事くらいでは動揺しな────────

 

「いいだろ? だって許してくれるんだろ?」

 

「ちょちょまちょちょまちょちょままままま待って待って待って! 初めは交換日記から────────!」

 

 ────────いや、動揺し過ぎだろ。交換日記て、お前…………今日日少女漫画でもしないよ。

 

 マズい、人目がある人里でこんな事すべきでは無かった。まさか俺が逆に迫ってくるとは思って無かったのか、霊郁は顔を真っ赤にして大声で震えまくっている。しまった、こんな筈じゃなかったのに。

 

「それでは霊郁さん私は屋台の手伝いに行って参りますので後ほど!!!!!! (早口)」

 

 霊郁が正気に戻る前に俺が逆に足早に立ち去る………………何故か、敗北感。周囲の人目が集まる前に駆け出し、言われた八百屋に向かって走り出す。

 

「あ! 待っててば!! ………………く、博麗の伝書に男の落とし方とか残しといて欲しかったわ………………」

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「おい兄ちゃん! 今度はこいつを運んでくれ」

 

「承知しました」

 

 屋台の設置に必要な建材に、出し物に必要な鉄板や小道具の数々。多分焼きソバとかタコ焼きを作るための物だろう。意外なことに幻想郷はあからさまな洋菓子などは別として、大体の料理や食事は外の世界と同じだ。幻想入りでレシピ集とか流れているのかも知れない。

 

「いやー助かるわ、兄ちゃん力あんなぁ。やっぱり巫女様の修行のせいかかい?」

 

「まぁ、そんな所ですね。そういえばこの間、霊郁さんが人里に仕事に出掛けてましたが…………何か妖怪の被害でもあったのですか?」

 

 建材を運び終えて、日差しから逃れる様に建物内でねじり鉢巻きを付けた中年男性に話しかける、何となく思い出した事だ。もう一週間以上も前だったから霊郁に聞きそびれてしまった。

 

 以前霊夢と二人で留守番していた時、霊郁が人里に仕事といって出掛けていった。前日に人里の人間が博麗神社に訪れ、俺が姿を隠している間に何かを話し翌日に出掛けた事から急ぎの用事では無かったのだろうが………………霊郁の力が必要とされる用とは何だったのか。

 

「んー? レイカ…………あぁ、博麗の巫女様の事か?」

 

「………………はい、そうです。何か知りませんか?」

 

 

 

 ────────何故、自分達を守ってくれている彼女の名前も碌に知らない? 

 

 

 

「…………!? なんだ、何か急に寒気が…………いや、それよりも巫女様が里に来た時に何をしてたかだよな?」

 

「────────えぇ、何か知りませんか?」

 

 唸るように腕を組み、頭を傾げている中年男性。すぐに思い出せないという事は、そこまで記憶に残る様な大きな出来事ではないという事か。流石に人死にが出たら俺や霊夢にも何かあっても良いだろうし、里ももっと緊迫した空気が流れてもいい筈だ。

 

「………………あ、そういえば。こないだ自警団の奴が霧の湖まで釣りに行ったんだけどよぉ。帰りが遅くなって夜道を歩いていたら、急に提灯の灯りが消えて前後不覚になってすっ転んだって聞いたな。

 

 でも別にちょいと擦りむいた程度で別に妖怪に襲われたとかは聞いて無いな、てか最近は妖怪の被害をトンと聞いてないし」

 

「………………最近は妖怪の被害が少ない? それは具体的にはいつぐらいから?」

 

 もうすぐで吸血鬼異変が起こると考えると、不安要素が可能な限り消しておきたい。俺は中年男性に聞き返すが、彼はお手上げポーズで首を横に振る。

 

「さぁ……? でも知性が無い獣同然の妖怪は畑を荒らしたりする筈なんだが、最近は聞かないな? なんでなんだろ?」

 

「いや私に聞かれましても…………」

 

 つい先日程、里から離れていたとはいえ俺は普通に妖怪に襲われたし。ただ単純に里の周辺にはいないだけなのでは………………或いは、誰かが雑魚妖怪を間引いている? 何の為に? 妖怪が消えて得するのは人間だとすれば里の誰かが? だとしても秘密裏にする意味が分からない。

 

「霊郁………………巫女様が祓ったとか、寄り付かない様にしたとか?」

 

「そういう話は聞いてないなぁ……それに寄り付かない結界は今日張りに来ているなら違うんじゃないか?」

 

 結局、休憩時間いっぱい男性に話を聞いてみたが特にこれと言って収穫は無かった。強いて言うなら妖怪の被害が最近は少ない、という事だけ。原因は不明だが大量の吸血鬼を相手にしないといけない可能性を考えると寧ろ好都合ではある。

 

「天狗? いや八雲? 駄目だ、分からん…………………………準備は出来ている、あとは場所をどこにするか」

 

 自分の知らない所で何かが動いている、しかしだからといって、それを確かめている時間は俺には無い。残り二週間、札を巻き付けた複数本の楔。俺はその感触を懐で確かめながら仕事に戻る。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「んー? こないだの里への仕事? 自警団の人が不可解な現象にあったていうから一応事情聴取と現場の調査よ………………なぁんも見つかんなかったけどね」

 

「妖怪の仕業かどうかは分かるか?」

 

「どうかしら? 妖怪なら人間をその場で襲うはずでしょ? ただ風で提灯の火が消えて、ビックリした拍子に転んだだけじゃない」

 

 夕暮れ時の帰り道、俺と霊郁は博麗神社まで歩いていた。今日と明日は準備に充てて祭りは二日後になるそうだ。なんせ里全体が祭りの会場、その分屋台を立てるのも一苦労だし催し物の準備もあるだろう。これでも早い位なのかもしれない。

 

「………………ねぇ?」

 

 夕焼けを背に歩いていると、足を止めた霊郁に呼び止められた。赤い逆光で表情がよく見えない。

 

「ひ、昼間の事なんだけどさ…………あれ、マジ?」

 

 もじもじしながら、俯き、蚊の鳴く様なか細い声で聞いてくる────────何を言わんとしているか、残念ながら察せない程俺は鈍感では無い…………多分ここで“え? なんだって? ”とか言ったら普通に殴られる。

 

「お、お前…………無かった事にすればいいものを……」

 

 掘り返すなよー…………俺にとっても黒歴史だよー…………。思い出すだけで顔から火が出そうだ、今が夕刻で良かった、あまり目立たないから。もしかすると霊郁も顔が真っ赤になってるかも知れない。周りに誰もいなくて良かった、マジで。

 

「あー、忘れよう。お互いの名誉の為に」

 

「…………………………あっそ、いいわ、許してあげる。でも乙女の純情を弄んでおきながら無かった事にするのね、ふーん…………ふうぅぅぅぅぅん???」

 

「メチャメチャ根に持ってんな!?」

 

 ────────言っとくけどお前が先に仕掛けたんだからな!!! 

 

 微妙な空気が流れてしまったが、だからといって立ち往生するわけにもいかず。俺達は他人というには近く、知人というには少し離れて歩く。なんだコレ、どういう状況? 険悪では無いにせよ神社に帰るまでには何とかしようと話題を頭の中から探ろうとするが────────先に霊郁が口を開いた。

 

「…………………………ねぇ? 輝雄ってさ、もしもこのまま未来に帰れなかったら、どうするの?」

 

「どうって………………」

 

 

 

 ────────考えなかったわけでは無い。可能性としては一番あり得る話だ。

 

 

 

 時がくれば自然と帰れるなんて、都合の良い事が起きる方が不自然だ。あの魔法は不完全で過去への一方通行だったと考えるのが自然だ、もう一ヶ月近く神社に住んでいるが帰れそうな兆候は全く無い、今帰る事になるのはかなり拙いのだが。

 

(………………咲夜に借りた時計、どうすっかなぁ……)

 

 一応借り物なので大切に肌身離さず持っているのだが…………この時代の咲夜に渡しても仕方ないし、というかアイツ何処にいるんだろう? レミリアと一緒なのか? 戦う事にはならないといいのだが……。

 

「そうさなぁ………………とりあえず吸血鬼異変をどうにかしてから考えるよ」

 

「私としては働いてくれるなら、このまま神社に住んでくれてもいいわよ?」

 

 何でも無いことの様に言い放つ霊郁に、俺は少しため息をついた。恥じらい以前の問題だろう。

 

「お前な…………非常事態とは言え、未婚の女性が野郎と一つ屋根で暮らしてる事にちょっと危機感覚えた方がいいぞ」

 

 いや、居候している身分で言えた事では無いのだが。しかし、まぁ異変が終わった後は野となれ山となれ、多分俺は消えてなくなる。そうならない時は………………そうだな、幻想郷は他の異界に繋がってるみたいだしそっちに雲隠れでも────────

 

 

 

「あら? だったら私達────────契り結んじゃう?」

 

「………………………………………………………………は?」

 

 

 

 俺がもしも生き残ってしまった際にどうするか、ぼんやり考えていると前を歩いていた霊郁が何やらとんでもない事を言った気がする。俺からは霊郁の後頭部しか見えない────────だが、耳が真っ赤になっているのが見えた、いやもしかしたら夕焼けでそう見えただけかも知れない。

 

「……………………なんてねー、冗談よ! さて! 霊夢もお腹空かせてるでしょうしさっさと帰るわよ!」

 

「あ、おいちょっと待────────足速ッ!!?」

 

 言葉の真偽を問いただそうとしたが、霊郁はバビュンとでも聞こえそうな程の速さで博麗神社まで一直線に走り出した。俺も大概だが霊郁も大したフィジカル強者だ、追い付けなくは無いが…………今の霊郁とすぐに顔を合わせるのは、何というか、少し………………。

 

「……………………歩くか」

 

 ────────俺も、少しだけ間を置きたかった。

 

 

 





 霊郁は名誉欲とか無いし、博麗の巫女としての務めを機械的に(良い言い方をすれば忠実に)こなしているから名前はあまり知られていない。
 霊夢で言う魔理沙ポジの人もいないし。

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