幻想禍津星   作:七黒八白

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 彼女は紅くも在り、同時に青くも在った。

 そしてタイトルの“静かな”の後は作者の好みから察してください。



第五十一話 それはまるで、静かな───

 

 

 

 

「わぁー! 修治! れいか! わたあめ! わたあめ買って!」

 

「はいはい、修治も食べる?」

 

「いえ、私は一口分けてくれればそれで────────」

 

「男のクセにケチケチしてんじゃないわよ! 今日くらい豪快にいきなさい!」

 

 日が沈み始めた黄昏時、いつもなら人通りは少なくなり閑散としているが今日から三日間は違う。(やぐら)の周りで人が踊り、祭囃子(まつりばやし)が奏でられる、普段の着物よりも華やかな色合いだったり模様だったり浮かれた格好で多くの人が歩いている。

 

「流石に今日ばかりは妖怪も大人しいでしょうね」

 

「へぇ、妖怪にもそういうTPOの配慮があるんですか?」

 

「てぃーぴーおー……? が何かはよく分かんないけど、妖怪も祭りは好きでしょうし、酒を楽しく呑める行事は邪魔したりしないわ」

 

 俺は霊郁から渡された綿飴を受け取りながら、周囲に意識を張り巡らせてみる。全くでは無いが妖怪の気配は殆ど感じない、普段ならもう少し顕著に妖気を感じるのだが今日ばかりは夜でも大人しくしているつもりらしい────────無論、里の中限定だろうが。

 

「…………ていうか、なんでれいかもお面着けているの?」

 

「ふふふ、似合う?」

 

 霊夢の問いかけに、霊郁は俺とよく似た狐の面から少しだけ素顔を覗かせる。俺の狐の面は隈取りなどが赤くなっているが、まるで対になる様に霊郁の面は青く縁取られている。髪もいつもはそのまま下ろしているが、綺麗に三つ編みで纏めてある。

 

 そして色を合わせる様に普段の九割がた紅い巫女服では無く、白い百合が美しく映える青空を思わせる着物だった。和服は体のラインが出ずらいものだが、それでも彼女の恵体は隠しきれていない。

 

「いいでしょ? これ! 新調したのよー、どう? 似合ってる?」

 

 ずらした面を戻し、素顔を隠し。見せびらかす様にその場でクルリと回る。珍しく────────も無いか、いつも通り浮かれているようだ。そんな感想を頭の中で浮かべていると膝下辺りからゴツ、と叩かれる。視線を落とすと霊夢がコチラに目配せをしていた。

 

 ────────なんか言うことあるでしょ? 

 

 俺の勝手な脳内変換だが、そんな意図を感じた。コイツ本当に四歳かよ………………でも、確かに、そうだな────────

 

「────────そうですね、似合ってますよ。とても綺麗です」

 

 まぁ普段なら未だしも、今の礼儀正しい青年を演じている時なら別に忌避感は無い。それに今日は折角の夏祭り、俺も少し浮き足立っている。今夜くらいは“らしく”無くてもいいだろう。

 

「…………! やっぱり!? でしょでしょ! 普段の巫女服もいいけど偶にはこういうのも着てみたかったのよね〜! こんな機会じゃないと着れないからさー!」

 

 誰に見せるわけでも無いが、やはり理由も無く着飾るというわけにもいかなかったのだろう。霊郁は普段の三割り増しくらいはしゃいでいるようだった、しかしあまり跳ね飛ばないで欲しい、周りの視線もあるが胸部装甲の荒ぶり方が凄まじい、溢れるって、まろび出るって。

 

「しかし、何故私と同じ様に面で素顔を隠しているのですか?」

 

「一々巫女様巫女様って、畏まられたら折角の祭りが台無しでしょ? それに貴方だけ面を付けてたら怪しまれるし、合わせてあげてるのよ」

 

「わたしもつけた方がいいー?」

 

「霊夢さんは食べるのに忙しい様ですし、頭につけてるだけでいいでしょう」

 

 俺は近くのお面屋から霊夢のサイズにあった狐の面を買う。俺と霊郁が付けている物よりも子供っぽいデザインの可愛らしいお面だった。ゴム紐なんて気の利いた物はない為、霊夢に付けてあげた。

 

「これで三人お揃いね!」

 

「そうですね……」

 

「こうしてみると、私達まるで家族ねー」

 

「えー、修治がおとうさん? おにいちゃんならまだ良いけど…………」

 

 ────────恐らく、今日の祭りが最後の思い出となるだろう。残りの日数は吸血鬼に対して当てなくてはならない、日時と種族、情報のアドバンテージを活かすにはそれなりの時間が必要だ……………………そして、霊郁を出し抜く為にも。

 

「私がお父さんは嫌ですか?」

 

「嫌じゃないけど…………男ならもっと堂々してて欲しい!」

 

「ははは、善処します」

 

 霊夢的には自分の父親ならナヨナヨした今の俺は気に喰わないのか、ちょっと不服そうに見えた。霊郁はそんな霊夢を見ながら少し苦笑していた。

 

「確かにねー、もっと肉食系って言うか、護ってくれる強い感じを出して欲しいわねー」

 

 ────────その肉食系的な行動でつい先日赤面してた、おぼこい女は何処のどいつか知ってるか? 霊郁? 鏡を見ろ、答えはそこにある。

 

「貴方を護れる男なんて幻想郷でもそういないでしょう」

 

 無論、そんな事を言えば伝家の宝刀ならぬ伝家のお祓い棒でシバかれるのは分かり切っているので意味深にニヤニヤするのに留める。それでも霊郁には俺が何を考えているのか伝わったのか、やはり耳が赤い。コイツ緊張したりすると耳赤くなるのか。

 

「うっさいわよ、それよりもさっさと屋台回りましょう。八時には神社に戻るから」

 

「何故です?」

 

 霊郁は霊夢と手を繋いで先を歩き出す、俺も後に続いて歩き始める。周囲は各々の家族、友人、中には恋人と楽しんでおり俺達には気付いていない。

 

「内緒〜、ね! 霊夢」

 

「ないしょ〜、まぁたのしみにしてなさい! 帰ったらわかるわよ!」

 

 二人して同じ様な声音で、霊郁は面を付けているが霊夢と同じ様な顔で俺に説明してくれなかった。こんな事で血の繋がりを感じさせられるとは…………。

 

「ていうかさ、折角なんだから後ろじゃなくて横歩きなさい」

 

「そうよ! ほら! 修治手をだしなさい!」

 

 霊郁が不満そうにこちらに振り返り、霊夢が手を差し出してきた。一瞬、どういう意図があるのか、俺には分からず戸惑ってしまう。しかし偶然にも、視線の先に親子連れで祭りを楽しんでいる子供が見えた………………………………あぁ、そういう事、なのか? 

 

「私では不満なのでは?」

 

「“しょーらいせい”にきたいしているわ!」

 

「そうね、夏祭りが終わったら、秋はお月見、冬は雪合戦に縁日、春になったらお花見………………やる事はまだまだあるし、その間に私達のお眼鏡に叶う位の大和男子(やまとおのこ)になりなさい!」

 

「……………………期待が重いですね」

 

 

 

 ────────ごめん、その約束はきっと守れない。

 

 

 

(────────でも、必ず吸血鬼達は殲滅してみせる)

 

 

 

 小さく柔らかい、でも温かい霊夢の手を握り返しながら俺は、今だけは同じ道を歩く。この先もずっと歩んでられると思っている二人の側で、俺だけが途中下車する事を自覚しながら………………あぁ、我ながらなんて酷い裏切りだ、でも仕方ないだろ? 何事にも優先順位があるんだ。

 

「あ! 射的やろ! わたしお菓子の詰め合わせセットが欲しい!」

 

「あー、針投げていいなら自信あるけど…………修治? アンタ自信ある?」

 

「セオリーくらいなら心得てますが…………折角ならやってみればどうですか?」

 

 屋台のオヤジさんから渡された射的銃を、慣れない手付きで霊夢が構える。俺と霊郁はそれを横から支えてやった。

 

「ほら、霊夢さん。角を狙って」

 

「ねぇ、これ連射とか出来ないの?」

 

 ────────炭酸瓶の栓を抜く様な軽い音共に、コルクが商品の角に命中した。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「あの紐付きクジ絶対当たり入ってないわよ! 結局誰も一等の大吟醸酒手に入れられなかったじゃない!」

 

「まぁ簡単に当たったら商売あがったりですしね、そんな物ですよ」

 

 帰り道、博麗神社の長い階段を昇りながら霊郁は憤慨している。その手には小さな金魚が入った袋がある。俺は途中で疲れて寝てしまった霊夢を背に抱えている、穏やかな寝息が伝わってくる。

 

「ぐぬぬぬ…………こうなったら全部一回で引いてやろうかしら」

 

「普通に買った方が早くないですか?」

 

 霊夢が射的の屋台で思わぬ才能を発揮した後、金魚すくいと輪投げで霊郁が屋台荒らしという名の無双を披露し、最後に最高級のお酒が景品になっているひも付きクジで存分にカモられた。正直言って俺も霊郁の意見に賛成だ、祭りであの手のクジで当たってる所見たことない。

 

「お得意の博麗の勘で当てればよかったじゃないですか」

 

「それはなんかズルいでしょ!? 私は運で勝ちたいのよ!」

 

「さっき金に物言わせようとしてましたよね?」

 

 頬を膨らませて怒りを露わにしている姿は、華やかな着物姿と相まって昔を思い出した────────あぁ、後輩もこんな感じだったな。焼きそば食って、ラムネ一気に飲んで、二人して咽て……………………霊郁も同じ位の歳だ、とても博麗の巫女という実力者と俺には思えなかった。

 

「────────ちょっと?」

 

「────────ん?」

 

 階段を昇り切り、いつもの神社の境内に入ると霊郁はこちらを少しだけ不満そうな顔で見ていた。先程のインチキ臭いクジに対する怒りとはまた別種の、どこか寂しくてむくれているような顔。

 

「今、私を通して他の誰かを見てたでしょ?」

 

 ジロリと、鋭い眼光がこちらを貫く。俺は蛇に睨まれた蛙の様に身がすくみ息をのむ。後ろめたい事なんて何も無い筈なのに、親に怒られる子供みたいな心地だった。

 

「………………いえ、そんな事は────────」

 

「────────誤魔化しても()()()()()…………でもいいわ、悪気は無いんでしょうし、きっと()()()()()()も無いんでしょうし…………はぁ……」

 

 …………………………そんなつもりって、どんなつもり? 俺は言葉や文脈から読み取ろうと考えるがやっぱりよく分からない、だって俺は昔をちょっと懐かしんだだけだ。

 

 霊郁は呆れたのか、ため息を吐いてトボトボと家に上がる。俺も背後に抱えている霊夢を起こさない様に縁側から家に上がって霊夢を横にしてやる。時刻はもうすぐで夜の八時になる、霊郁と霊夢が言っていた内緒とはいったい何なのか。

 

「そろそろね………………ほら、霊夢? もう時間よ? 起きなさい」

 

「んー………………いいわよ、どうせまた来年見れるし」

 

 霊郁は横になり眠っている霊夢の肩を揺らして起こそうとするが、それよりも遊び疲れたのか霊夢は眠る事を優先する。仕方ないと、複雑な表情をしながらも霊郁は風邪を引かないように毛布を掛けてやる。

 

「そうね………………また、来年でも一緒に見れるわよね」

 

「………………そろそろ何が起こるのか教えてくれないか?」

 

「慌てない慌てない、どうせならお酒でも飲みながら待ちましょう」

 

 今日の為に用意していたのだろう、神社裏手の井戸から桶に入った酒瓶を取り出す。井戸は年間通して気温では無く地温に影響する為、夏は冷たく冬は暖かい。なので冷蔵庫代わりにも使える。

 

「氷の術式とか使えたら便利なんだけどねー…………輝雄? 貴方は使えないの?」

 

「無理、熱とか炎とかなら使えるけど」

 

「じゃ、しょうがないわねー。そういう術って適正とか向き不向きがメチャクチャ問われるしねー」

 

「………………霊郁はどういった術に向いているんだ?」

 

「私は────────ていうか、博麗の巫女は代々結界術と巫術に向いているわね」

 

 巫術、読んで字の如く巫女の術。原始的な宗教で使われる呼称でシャーマニズムで使われる術の総称である。巫女が神に力を借りて、その身に卸す術は大概これに含まれる。神道や鬼道とも言われる術体系であり、古くは呪術的な医療にも通じたという………………そう言えば十年後の霊夢も医療術使ってたな。

 

「────────ていう事は、病とか怪我も術で癒せるのか?」

 

「病は無理ね、毒とかも。そもそも私は両方とも縁が無いし、怪我を癒す術も使えなくは無いけど…………四肢の欠損とかは無理だし、他人を治すのも難しいわね」

 

「それは何で?」

 

「複雑な術を出力するのはそれだけ難易度が高いし、無くなった手足を生やすなんてそうそう出来ないわよ…………その手の権能を司ってる神仏を下ろせばまた話は変わってくるけどね」

 

「ほーん…………俺も覚えたいな」

 

「ははは、結界術も修得してない貴方じゃ厳しいわよ」

 

 ぐぬぅ…………分かっちゃいたが霊郁程の術者ですら厳しいのなら、俺だとまともに修得出来るのは何年、或いは何十年も修行しなくてはならないだろう。俺の能力が回復に向いていたらまた話は変わっていただろうが………………仕方ないか。

 

 彼女は冷水から取り出した酒瓶の水滴を拭きながらお猪口に注ぐ。注がれた酒を口元に近づけながら嗅いで見ると、と今までにない芳醇な香りが鼻腔を満たす。幻想入りするまで酒を吞んだことは無い為に、俺の酒の味に関する経験は全て幻想郷内での物だが、その中でも一番美味そうな香りがした。

 

「いい香りだ………………よっぽどの品なんじゃないか?」

 

「ん? まぁ、ある意味では手が掛かった品ではあるわね。御神酒(おみき)だもの」

 

「おいおい呑んでいいのかよ、そんな品物」

 

「こういうのはね、神饌(しんせん)って言ってね。儀式で神に供えた後、神の恩寵を受ける為に頂くのが一般的なのよ。どうせほっといても腐るだけなんだから気にしない気にしない!」

 

 言いながら霊郁は勢い良く酒を煽る、酒精が強いのか少し彼女の顔が赤くなる。それにつられて俺もお猪口の酒を呑む。濃厚な味わいが口いっぱいに広がり、程よい後味が喉を過ぎた後にも残る……………………今までに吞んだ酒よりもずっと満たされる気がするのは何故だろう、隣に座る霊郁も微笑みながらこちらを見ていた。

 

「────────お! 始まったわね!」

 

 遠くで爆音がして、人里方向の夜空を見て霊郁が言った。俺もその方向を見てみると何かが空へと昇って行き、一拍間をおいて音と光が炸裂して見事なグラデーションと共に円形に広がる────────花火だった。色とりどりの光の花は夜空を染めて、数秒で消えていく。

 

「成程…………雅だな」

 

「博麗神社の立地がちょっと高い所にあるから、丁度良く見えるのよねー。毎年夏祭りの後は花火見ながらお酒を呑むのが最高なのよ」

 

 一定間隔で夜空に打ち上げられる花火を見ながら、俺達は酒を煽った。霊郁のお猪口に注いで、霊郁は俺のお猪口に注いでくれた。後ろでは霊夢がスヤスヤと穏やかに眠っている、よっぽど疲れたのだろう。

 

「霊夢起きないわね…………」

 

「無理もない。夕方から二、三時間近く里の屋台を回り続けたんだから」

 

「そうね…………あんなにはしゃいでいる霊夢は久々に見たわ」

 

「例年は違ったのか?」

 

「うん…………私が忙しい時もあったしね。ふふ、きっと貴方と一緒に回れてこの子も楽しかったのよ」

 

「俺が? 何で?」

 

 俺がいる事で何が霊夢の琴線に触れたというのか、お猪口に注がれた酒に視線落として水面に写っている自分の顔を見るが何もピンと来ない。彼女は少しだけ赤ら顔でこちらを意味深な目つきで見ていた。

 

「…………ねぇ輝雄ってさ────親、いないでしょ?」

 

「…………どうして、そう思った? お得意の勘か?」

 

「半分正解、もう半分は…………私も親いないから。何となくそんな気がしたのよ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………」

 

「私も霊夢と同じでね、先代の博麗の巫女に拾われて、物心ついた時には巫女として神社に住んでいた。

 

 俗世から離れた場所で修行して、幻想郷の安寧を維持して────────先代が妖怪に殺された時に私が代わる形で“博麗の巫女”に成った」

 

 霊郁は酒を吞み、そして花火よりも高い位置にある夜空を見上げる。視線の先にはある筈の物が無い────────今夜は新月だった。夜空と同じ黒い闇なのに、まるでぽっかり空いた穴の様に見えた。

 

「私は、博麗の巫女。それが私の価値、それが生きる意味。でもね────────人生って本来そんな予め決まってるものじゃないでしょ?」

 

「………………」

 

「そりゃ友達がいなくても、恋人がいなくても、家族がいなくても、寂しくない奴はいるでしょうよ…………でも、私も霊夢も、きっと()()()()()()()()()()────────環境で、そうなっただけ。私はもう気にして無いけどねー、巫女歴長いし」

 

 血か、才能か、或いはそれ以外の何かか。霊郁と霊夢は生まれながらにして博麗の巫女足りえる要素を持っていた、そしてほぼ自動的に巫女となった。周りには誰もいない、いや居なくなったのだ。霊郁も、霊夢も…………もしかすると、歴代の巫女達も。

 

「お前は…………強者としてでは無く、普通の人の様な生活に憧れていたのか?」

 

 霊郁は何も答えなかった。でも、俺の眼には彼女の微笑みが、何故か────────

 

「……………………幻想郷(この世界)は美しい、でもね同時に思うの? たった一人の人間の意志によって存続が左右される世界は歪だって────────正気の沙汰じゃないでしょ? だって自分の意志次第で世界を滅ぼせるのよ?」

 

「…………核ミサイル発射ボタンを子供に持たせているようなもんか」

 

 ────────息が詰まる程、美しく、そして哀しかった。

 

 守ってやりたい、俺が初めてこの過去の世界に来て霊郁を救いたいと思ったのは、見殺しにする気分の悪さから逃れたかったというのもある。無論、十年後の霊夢を一人にさせたくないという使命感もあった。

 

 

 

 でも、今は────────

 

 

 

「────────霊郁、お前もしも吸血鬼異変を生き残れたら、もっと人里と関われ。巫女としてじゃない、地に足を付けた一人の人間として。

 

 弱い所も醜い所も無理に隠さないでいい、博麗の巫女としての威厳なんて捨てちまえ」

 

 

 

 ────────巫女としてじゃなく、一人の人間として生きて欲しい。かび臭い巫女の慣習なんてクソ喰らえだ。人助けなんて柄じゃないなんて事は俺自身よく分かっている、でも本気で俺は霊郁を死なせたくない。そう思った、そう思えた。

 

「別に巫女としての役割と普通の人の生き方って矛盾するもんじゃないだろ、人並みに友達作って、恋人作って、家族作ってもいい筈だ」

 

 ────────霊夢だって、自分本位に生きていた所があった。まだ間に合う筈だ、お前まだ十七だろう? 

 

「………………家族、ね。私の事を好きになってくれる人なんているかしら? 私ってさ、妖怪を殴り殺せるのよ? 普通の人からすると怖くないかしら?」

 

「いるさ、きっとな。女は男の手に余るくらいで丁度良い、実際に旦那が嫁さんの尻に敷かれている方が家庭って安定しているらしいし」

 

「………………貴方は、手に余る女、好き?」

 

「俺なんかのちっさい手に収まる女、この世にいねぇよ」

 

 俺が一体どれほど不器用で、どれほどの物を取り溢してきたか…………人に言っといてなんだけど、俺多分一生結婚とか縁ないだろうなぁ、別にいいけど。

 

「────────そう、それは良い事聞けたわ」

 

「なんで俺の器量の悪さが良い事なんだよ………………」

 

「ふふふ、なんででしょうね?」

 

 ────────その微笑みは、さっきの悲哀は無くなり酔いが回ったのか、代わりに頬の紅潮が増していた。

 

 

 

 

 





 この世にはいないけど、あの世には手に収まろうとする亡霊はいる。

 ここからちょっと更新頻度落ちるかもです。
 用事とかじゃなく、しっかり書き込みたいからです。
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