一味違う小説が書きたい。
あと今回なんか新キャラが沢山出ますが、覚えなくていいです。
全員吸血鬼って事だけ頭に入れてればおk。
「────いい世界だ…………やや田舎臭い事を除けば、だが」
完全な円形を輝かせる満月を背後に、美しい金髪を緩くオールバックにした、妖しい中性的な顔立ちの美丈夫が呟く。貴族然とした服装と立ち振る舞い、タキシードに漆黒の外套を羽織る姿は不自然なまでに自然にその男の雰囲気に馴染んでいた。
────────美丈夫は、闇夜に生きる魔、吸血鬼だった。
「“公爵”、感慨に耽るのもいいが夜が明ける前に事を済ませるぞ」
公爵と呼ばれた美丈夫の背後から、似たような出で立ちの男が声をかける。その男も“公爵”同様整った顔立ちをしていたが、公爵と比べると中性的というよりも男性的な力強さを感じさせる。どこか気安い振る舞いは、お互いに信頼できる仲であるという事を醸していた。
「分かっている“侯爵”。如何に我ら吸血鬼と言えど、忌々しい陽の元では力が半減されるからな」
「そんな私達が“日の本”という国に渡ってきたのは皮肉めいてますわね」
公爵は興が削がれたと言わんばかりに顔を顰める。隣には血が凍る様な美女がいた。色素を感じさせない白銀の髪、色白の肌は闇夜を逆に際立たせるかの様で、豊満な胸部を強調させるコルセット、背中が開いた扇情的なドレスを着ていた────────そして、その背中からは身の丈程の蝙蝠の羽が生えていた。
「我が妻よ…………あまり笑えない事は言わないで貰えるかな? 外の世界もいずれは掌握する、まずはこの幻想郷を我々の住みやすい世界へと作り変えて力を蓄える」
公爵は妻と呼んだ吸血鬼の顎を自分に向けさせる様に指を添える、
「分かっています、今は雌伏の時────────ですね? いずれ私達吸血鬼がこの世を支配する」
「そうだ、万物の霊長を気取る人間共は所詮我ら吸血鬼の餌に過ぎん。だが数の多さでは負けているのは事実、幻想郷で吸血鬼の数を増やせば今度は外の世界へと侵攻する」
公爵の吸血鬼は言いながら、思い返す。生まれた土地を人間共に追われた事実を、数百年前までは気の向くまま遊び殺していたにも関わらず、近年では人間の数が増えて、吸血鬼の概念的弱点を突く武器も多く増えた。
(あぁ…………忌々しい家畜共め、武器に頼ろうと百、二百程度は物の数では無いが千、二千、しかも休む暇も無く断続的に攻め入れられば我らとて────────)
そこまで考え、公爵は思考を打ち切る。最早過ぎた事であるし時間が有限である以上、今は為すべき事を為すまでだ。
「“侯爵”よ、集った同胞達はどれ位いる?」
「声を掛けた全吸血鬼、幻想郷に同時に攻め入るのは賛同したが…………俺達と徒党を組んだのは約八割────────大体
「残りは?」
「自由に襲い回るだろうな、唯一静観を決め込むのは“スカーレット嬢”の所だけだ」
「そうか」
特に悲観する事もなく、ただ公爵は感情を交えず返答した。歴史が浅く、人間や東洋の妖怪を甘くみている若い吸血鬼達は勝手に特攻し始めている頃だろうか、同族が今この瞬間に死んでいる事実にも特に侯爵は何も思わなかった。
「好きにすればいい…………妖怪だからといって全く統率が取れない者など猿に等しい。今後の計画の妨げになる」
「スカーレットの小娘はどうするの?」
「こちらの邪魔をしないなら不干渉を貫く、だがもしも幻想郷の支配権で口を出してきたら………………そうだな、
公爵の妻が如何にも面白くなさそうに、不満げに鼻を鳴らす。同族を差し出す夫の非情さにではなく、件のスカーレット嬢の事が純粋に気に食わないだけだった。五百年と言う歴史の浅さにも関わらず、自身達と同等の力を有していながら臆病風に吹かれた者など、彼女にとって同情するにも値しない。
「気持ちは分かるがな…………何が“貴方達の運命はもう先が無い”だ。俺達の問題じゃなくてテメェの節穴のせいだろうが……!」
「“侯爵”、そう口調を荒げるな。そして服を破くな」
怒りで肉体が一回り怒張し、紳士然とした服の各所から布が裂ける音がする。公爵はため息を吐きそうになるが寸前で耐え、巨人も捻り潰せるその膂力を抑えさせる。
公爵はもう一度満月を見上げる。月光から降り注ぐ魔力は吸血鬼の本能を刺激し、あらゆる力を底上げしてくれる。この満月の条件下に置いて、吸血鬼は多数の弱点を抱えていてもなお最強たり得る不死性や魔力を持っている。
例え噂に聞く、東洋の大妖怪────────八雲紫であっても一対一で戦いでもしない限り負けはしないだろう。自惚れでは無く、確固たる自信が公爵はあった。八雲の能力も対策は練っている。
(────────ならば、スカーレット嬢が見たものは………………否、
一抹の不安、しかし既に幻想郷に乗り込んでいる。今夜という機会を逃せば、速攻で幻想郷のパワーバランスを崩して吸血鬼達の楽園を作るという計画は成功しないだろう。
そして声を掛けた同胞たちの手前、退く事等出来ない。彼らも全てが従順というわけでは無い、飽くまで利害の一致による共闘なのだから。どんな不安要素があっても公爵は前に進む以外あり得ないと結論付ける。
「“侯爵”
「今夜中に終わらせるのに必要だったのか? 一応、結界で
「女は私に残しておいてね、特にあの
「喰べるのに一々風呂に入らせんのか?」
「“侯爵”! 貴方は前々から思っていたけど吸血鬼としての品性が足りてないわ! 泥が付いた食材をそのまま齧るなんて人間でもしないわよ!」
「────────二人共、そのあたりにしておけ」
言い争う侯爵と婦人を静かに、だが一喝。それだけで二人は公爵の声に含まれた圧に押し黙ってしまう。公爵とは、貴族の最大級の称号。これはただ吸血鬼の歴史の長さなどといった序列によるものではない。
「吸血は我々にとって強化だけでなく回復にもなる、あって困ること無い。妖怪の特徴として天狗を除き結束する事は無いだろうが………………長期戦も十分考えられる。日中は霧を発生させやすい場所から幻想郷全域に日光を遮る魔法を使う」
ただでさえ、血の気が薄い肌が公爵の威圧によって青ざめる二人の間を悠々と通り抜けながら公爵は淡々と語る────────最早茶番はこれまでだと。
「
満月が煌々と輝く夜の世界で、まるで演劇の様に両腕を広げて語りかける。眼下の拡がる闇が蠢き彼と同じ真紅の輝きが無数に湧いて出てくる。
「さぁ、同じ志の元集まった同胞達よ。
────────殺せ、嬲れ、喰らえ、滅ぼせ、そして栄えよう。
この世界を私達の理想郷に変える、その為にも東洋の妖怪には死んで貰い、人間は家畜として飼いならそう」
────────千を越える悪魔達が一斉に飛び立ち、まずは自分達の拠点となる湖まで殺到する。月が昇り始め僅か一時間程度の事、未だに幻想郷の
「……………………何だ、あれは?」
“公爵”は幻想郷の二重の結界に悪影響を与える事なく秘密裏に入ってきた、それは隠れ潜む為では無い。吸血鬼千体以上という魔力、遅かれ早かれバレるのは時間の問題である。ただ幻想郷の妖怪が臨戦態勢に入る前に痛手を与え、体勢が整う前に混乱させたかった。
────────だからこそ、湖を覆い隠す様に張られた結界に戸惑いを隠せなかった。
「月が綺麗だな────────おかげで、お前らの醜態もよく見える」
顔の上半分を隠す狐の面の奥から、吸血鬼とは違う、濁った血の様な赤い瞳が覗いていた。
♢
「────────誰だ? 貴様は」
“公爵”は苛立ちを隠さず、されど冷静に努めて、明らかに自分達に立ち塞がっている何者かを分析する。ただでさえ夏の夜にしては肌寒い空気は、虫や小動物達の気配を消しさり周囲は耳が痛くなる程の静寂に包まれる、お互いに一挙手一投足隠す事は出来ない。
「誰だっていいだろう? それとも吸血鬼サマは、一々殺す人間の名前を覚えてくれるのか?」
(妖怪………………では無いな、
上空を覆う千を越える悪魔達、対するはたった一人の人間。公爵の背後からは嘲笑を押し殺した声が漏れてくる。時間が惜しいと考えた公爵は、特に何の悪意も無く、含みも無く、若い吸血鬼達を
「
血気盛んな複数の若い吸血鬼が、弾丸の様に飛び出す。我先にと、仲間と分け合うなど考えずに、自分がいの一番に独り占めするのだと、狐面の青年に向かう。対する青年は落ち着き払って、着流しの袖の中で組んでいた腕をゆっくり解いて────────
「まぁ、そう死に急ぐなよ。夜は永い、ゆっくりしていけ」
────────一瞬、姿が消えて、通り過ぎた時には一様に吸血鬼達の
「………………!」
“公爵”だけで無く、背後の同胞達も動揺を隠せなかった。吸血鬼といえど玉石混合、誰もが公爵の様な大妖怪と呼ばれる水準に達しているわけでは無い────────しかし、人間など例え武装していても瞬殺して余りある力は有る。
(────────それを、すれ違いざまに一瞬で複数体瞬殺…………)
────────公爵に、ほんの僅かに、今まで感じた事が無い緊張が走る。
「人里は……ここから東に行った方にある。もしも
人間は、青年は、あからさまに分かり易い挑発をする。誰もがその意図を見え透いていた、彼の目的は人里に吸血鬼を行かせない事であり自分に吸血鬼を釘付けにする事だと、公爵だけで無くその場に居た吸血鬼全てが悟った。
青年はケラケラと、愉しそうに嗤いながら湖に張られた結界に降りていく。その見え透いた挑発と罠に吸血鬼達は────────
「────────奴を殺せ!!! 家畜に立場という物を魂の髄まで刻み込め!!!!」
────────一人残らず、そのプライドが沸騰し後を追いかけ結界に乗り込む。
半球状の結界は暗幕の様に内部が見通せない、しかしどんな罠があっても喰い破ってみせると公爵を始めとした吸血鬼達は敵の土俵に自ら入った────────
「────────プライドが高い奴は乗せやすくて助かるよ、ホント」
「────────!? 何だ! 魔力が!?」
湖を覆う結界は、意外な事に視界が通る程度には月明かりと星明かりは入っていた。しかし公爵は気付く、
「結界に織り込んだ条件は
────────一つ、お前ら吸血鬼達が外から入れても内からは出られない。代わりにお前らが
自慢するように狐の面を付けた青年は朗々と語り、左腰に下げていた太刀を素早く振り抜き────────困惑から立ち直る前に吸血鬼を八体斬り捨てる。
青年は復活しない様に念入りに、手足を斬り落とし臓腑を斬り分け、瞬く間に頭部を三枚に下ろした。加えてその刀身には霊力から生成された焔が肉片を焼却し、太刀そのものに宿る怨念からか瘴気が残った屍すら穢してゆく。腐る様にグズグズになった吸血鬼だった物は、全く再生の兆しを見せなかった。
「貴様ッ………………!?」
「どうした?
吸血鬼達が、二秒前まで人と同じ形をしていたとは思えない残骸となって湖や湖畔に落ちてゆく。怒り、動揺、だが何よりも“公爵”がその時感じたものは────────
「────────巫山戯るなよ! 人間風情がッ!!」
「!? 待て! 考えなしに突っ込むな! 奴は────────」
公爵の思考を打ち切る様に怒号が響く、それに賛同した吸血鬼達が公爵の静止を振り切り一斉に青年に向かってゆく。弱体化してなお、天狗以外では追いつく事も難しい速度で────────凡そ数十体。
「結界の話がまだ終わって無かったな、条件二つ目だ。
────────月光に含まれている魔力を阻害する、差し引き条件は
つまり環境要因による
地上から十数メートルに浮いている青年を、決して逃さない為に吸血鬼達が上下左右を取り囲む────────しかし、誰もそのまま踏み込まない。牙を剥き出しに、怒りを隠さず、朗々と語りかける青年に半秒と掛からない筈の距離を誰も詰められなかった。
「…………
「…………何?」
微かに、含み持たせながら青年は嗤う。赤銅色の瞳には────────嘲りがあった。
「────────
「────────ッッッ!!!!」
誰が、ではなく、誰もが怒号を放つ。飢えた肉食獣すら生温い、そんな純粋な殺意が籠っていた。図らずも囲んでいた吸血鬼達が同時に飛び掛かり青年に殺到する。風を切り、闇夜に紛れ、姿が消えたとしか思えない速度で迫る吸血鬼を────────表情を一つ変えず、彼は細切れにした。
「────────ハハハ」
近づいてはいけないと考えた吸血鬼が居た、弾幕を放ち青年を消し飛ばそうと試みる。霧雨魔理沙のマスタースパークを彷彿させる指向性を持った魔力の高出力砲────────青年は、まるで滝を昇る魚の様に無傷のまま魔力の奔流を遡り、拳の一撃で頭部を木っ端微塵にした。
「────────ハハハ、ハハハ」
なら速度で翻弄しようとした吸血鬼が居た、月や星の明かりがあっても真夜中、黒い外套で闇に紛れ音も無く高速で飛行する。隙を見せた瞬間に頸動脈を噛み千切ろうとする────────しかし、青年はその速度を容易く上回り、口から剣の鍔まで差し込み内側から切り裂いた。
「────────ハハハ! ハハハ!」
吸血鬼が殺しに掛かる、吸血鬼が殺される、妖怪が人間を殺そうとする、人間に妖怪が殺される。
頭を砕かれ腹を裂かれ身体を焼かれ半身を両断され精神を穢され翼を千切られ首を噛み千切られ縦から押し潰され横から斬り刻まれ関節を捻られ心臓を貫通され肝臓を抜かれ肺を焼かれ端から斬り落とされ首を引っこ抜かれ蝶形骨を砕かれ脊髄を引き出され脚を千切られ腕を砕かれ上顎を捻られ下顎を股下まで抉られ肋骨を剥かれ仙骨を貫通され ────────
(────────何だ、これは)
「ク────────ッハハハハハハハハハハッッッ!!!!!」
────────まさに、悪夢だった。
青年は闇夜を縦横無尽に飛び回り、すれ違い様に吸血鬼達が、その端正な容姿がただの肉塊と化してゆく、いや肉塊ならまだマシだった。用いている剣が特殊なのか、斬られた箇所から黒い瘴気が焼け爛れさせる様に穢してゆく。辛うじて致命傷を避けた者も傷が癒えていない様だ。
「皆の者! 今だけは────────今だけはこの私に従えッ!!!」
時間にして一分あったか、なかったか。たったその程度の時間で既に吸血鬼は数十、ともすれば百体近く殺されたかもしれない────────しかし、敢えて“公爵”は心の中で
「レミリア・スカーレットの予言は真実だった!!! コイツが────────コイツは!!!
力負けしない様に食い縛る事すら後回しに、ある種の敗北宣言を公爵はする。また吸血鬼達に動揺が走る、侯爵と自身の妻すら“何を言い出すのか”と目を剥いている。しかしそれでも公爵は続ける────────槍ごと肩から脇まで袈裟がけに刃が通っても、血を吐きながら有らん限り叫ぶ。
「…………いい覚悟だ。存外、肝が座ってるじゃないか────────だが無意味だ」
青年は狐の面を放り捨て、頬についた返り血を親指で拭いながら瞳を赤く輝かせ────────薄く、嗤う。
♢
(ぐっ…………やはり傷が癒えん! あの刀、ケルト神話の呪槍の
膨大な魔力はそのまま妖怪としての格と能力の高さを示す、公爵程の吸血鬼となれば腕を生やす事も一秒掛からない────────にも関わらず、
「“公爵”! 無理はするな! 前は俺が立つ!」
「貴方、私と“侯爵”が奴を仕留めます。能力で援護して下さい!!」
「ま、待て!! 奴はまだ何か隠しているかもしれん! 様子見を────────」
「────────してる場合か!? もう三百は殺された!!」
上空で吸血鬼達が波状攻撃を仕掛けている、しかしその全てが青年には届かない。吸血鬼を上回る速度で羽虫でも殺しているかの如く次々と死んでいく、捨て身で攻め込む者も軽くあしらわれる始末。幾らあの人間が実力者だとしても、明らかに異常だと公爵は感じていた。
公爵の静止を振り切って、婦人と侯爵が一瞬にして上空を飛んでいた青年に向かって行く。片や肉体操作し、巨人の様な剛腕を造り出し殴り掛かる。片や、血液からレイピアを造り出し頭部を貫かんとする。挟み撃ちにする形で青年に迫り────
「成程、大した威力だ。レミリアやフランと同レベルの大妖か?」
「「ッ!!?」」
────地形すら変える巨腕と音すら置き去りにする刺突を片手で留める。剛腕を片手で止めた衝撃波が大気を揺るがし、細剣を指で摘み生じた真空が僅かに青年の頬を浅く裂く、二人はあまりの衝撃に吸血鬼は血の気が退き、半ば現実逃避仕掛けるが辛うじて強者としての矜持が平静を保たせた。
「────遅ぇよ」
しかしそれよりも素早く顎下から削る様に蹴り上げ、青年は侯爵の巨腕にまたがり腕を肘関節から砕き力づくで千切りとられる、婦人が細剣で目を貫こうとするがそれを侯爵から捩じ切った腕を盾に寸前で止める。分厚い筋肉質の腕に剣が突き刺さり引き抜くのに僅かな時間差が生まれる。
「戦争だってのに煽情的な格好だなぁ? 誘ってんのか?」
婦人が剣を防ぐと同時に、青年が背後に回り蝙蝠の様な翼を根元から掴み取る、侯爵が僅か数秒で捥がれた腕を生やし、その剛腕を振るう。それを感じ取った青年は婦人の後頭部に頭突きを喰らわせ婦人ごと大きく降下し避けると同時に────胴回し蹴りで婦人を蹴り落とす同時に翼を捥ぎ取る。
「────ぎッッッ!?!?」
「お前ら妖怪ってさ、不思議と人間に姿よせてるのに不自然に他の動物の要素も取り入れているよな? 付け入る隙が多くて助かるよ」
ブチブチと、生々しい音を皮切りに湖畔まで全く勢いを衰えさせず婦人は一直線に叩き落とされる。落下の衝撃によって森が一部吹き飛び、深々と地盤を砕きに埋まる。その間にも侯爵の猛攻が絶え間なく続くが冷ややかな視線で青年は悉く捌き切る、どころか隙間を縫うように反撃を喰らわせ、魔法によって強化されている筈の剛体が徐々に削がれていく。
(魔法の強化をこうも容易く…………!? コイツは、一体…………!)
「人間んんん゛ん゛ん゛!!!!!」
だが吸血鬼としての再生力が即座に婦人の翼を戻し、肉体の負傷を癒す。憤怒の形相で婦人は下手人である青年を殺そうと翼で粉塵を払い除けるが、同時に青年によって四肢を砕かれた侯爵が飛んでくる。一瞬、避けるか迷うが婦人は数少ない認めた同胞を見捨てる真似は出来ず、自身よりも一回り大きな大男を受け止める。
「侯爵!? 貴方ほどの戦士が────────!?」
「────────人の心配出来る立場か?」
受け止めて、その場に踏み止まってしまった婦人ごと侯爵を太刀で貫く。まるで虫の標本でも作る様に二人の鳩尾を穿ち、そのまま結界の内壁に叩きつける。大多数の脅威と共に閉じ込められ、尚且つ自ら退路を断つ
何があっても吸血鬼を逃さない命懸けの覚悟で作られた結界は、一つ目と二つ目の条件に半ば重複する形で吸血鬼を閉じ込める事に特化させられている。
だから────────大気が爆ぜ、衝突した二体の大妖の身体の内部と外部が悉くズタズタになり、辛うじて皮一枚で形を保っている程度に骨格が粉々になる速度と威力で結界に衝突しても砕けるどころか罅一つ入る事は無い。
「────さて、残華の瘴気と怨念で暫くは復帰出来ないだろう」
台風でも通り過ぎた後の如く木々が地盤ごと捲れ上がり、水位よりも低くなった地面には水が流れ込む。たった一人の人間が
「化け物め……………………!!!」
「
治りきらず、膿む様に瘴気が蝕む傷口を抑えながら“公爵”が憎々し気に吐き捨てる。
青年は一歩前に進む。空を飛んでいる吸血鬼達は後ずさる。
青年は上空へと浮いた。吸血鬼達はさらに距離を取る、力量の低い者は結界の破壊すら試み始めた。しかし結界はびくともしない。
青年は
「死ぬには、良い日だな────────勿論、お前達がな」
────血が濁った様な、赤銅色の瞳が爛々と輝いた。
因みに、結界の中で退路を断って多数対一の不利な状況になっているので主人公は既に潜在能力150%発揮中。