実は吸血鬼との戦いは『虐殺』で全部詰め込もうとしてたんですよ。
なんでこんな長引いてるんですか?(現場猫)
公爵は空間座標を操作して自分を含めた三人で範囲外まで逃げようとする。
侯爵は青年の術式の結界が完成するよりも前にその首を刎ね飛ばしに掛かる。
婦人は術の発動で動けないであろう青年を撃ち抜こうと鮮血の弾幕を射出する。
三者三様に最速、最短、最善の方法で
────────しかし、それら全てを上回る速度で結界は完成した。
「────────馬鹿な、速すぎる」
果たして何度目か、公爵の驚愕が無意識に零れる。あり得ないことばかり目の前にいる人間は起こしてきたが、今回ばかりは本当にあり得ない事だった。
吸血鬼よりも膂力がある、まだ分かる。膨大な霊力で強化しているなど考えられる。吸血鬼よりも速く動ける、不可能では無い。何らかの能力で概念的に加速している可能性もあるだろう────────だがしかし、それらは飽くまでも元からある能力の使用、若しくは身体能力の延長線上の水増しでしかない。
会得していない技が、
(────────騙されたのか? 本当は最初から結界と術式の同時展開が出来たのか? いや、だとすれば出し惜しみする理由が無い筈! こちらが調子づく前に殲滅出来たはずだ! ここにきて急成長したとでも!?)
どれほど考えても答えは出ず、術式が展開された現実は変わらない。
「
「………………自ら手の内を明かすことによって能力の底上げか?」
三人の吸血鬼は感じ取る。大幅に減った青年の霊力が僅かに出力を取り戻し、自分達の身を焼き尽くそうとする不快な焔が魔力を蝕むのを。ただ一分間、焔を防ぎ続けるだけなら何ら問題は無い────当然、目の前の
「それもある。だが、こいつは背水の陣ってやつだ。
この術が俺の奥の手、これが破れたら俺にはもう徒手空拳以外無い────────お前らは、ここで、この世と泣き別れだ」
吸血鬼達は真正面から青年に立ち向かおうとしなかった、何故なら先程の結界は条件を設ける事によって強度を上げていた、ならば即興で造られたこの結界の強度は劣ると考えたからだ。公爵は先刻と同じ様に、拳に魔力を込めて能力を行使した上で結界の内壁を殴りつけるが────────返ってくるのは鈍い手応えだけだった。
(────────砕けない!!? 何故だ!? 結界の範囲を絞り強度上げたのか? いや、それだけではこの強度とは釣り合わない! そもそも何故瞬時に結界を生成出来た!?)
レンズの様な歪みすら先の物よりも小さく、罅すら入らない。ただ分厚い強化ガラスを叩いた様な鈍い音が響いただけだった。公爵の疑問をよそにその背後では侯爵が青年に迎え撃ち、婦人は血を放出し援護に回ろうとする、しかし体外に出た婦人の鮮血は、瞬時に沸騰し弾けた。
(体外の血液操作が殆ど機能しない…………! 結界で空間を分断し、内部の空間に能力の効果を満たす…………自分自身に能力の適用が容易い様に結界空間内を己の身に見立てて、空間内全てに能力が強制的に働いている!)
恐らく、通常の弾幕も同じ様に焼却されるだろう。自身の能力が封じられた事実に婦人は、冷静に受け止めて体内のみに血液操作を留める。侯爵は全身から高出力の魔力を身に纏いながら青年との迫撃戦にもつれ込む。
「この世と泣き別れ? それは貴様の方だろう!? 人間!!!」
「虚勢だと思うか!? 吸血鬼!!!」
鬼の巨拳が振り下ろされ、輝雄の上段突きが向かい撃つ。お互いに餓狼の如く牙を剥き出しに純粋な力で押し潰そうとする、しかし拮抗したのは一瞬、焔を纏う霊力が侯爵の魔力の膜を貫いて、肉を溶かし骨を焦がす。しかし激痛に呻く隙すら無く音を越え、またお互いの拳打が交わる。
侯爵もただ打たれているだけでは無い、千体を越える吸血鬼との連戦、公爵の防御不能の攻撃、婦人の血液による右腕の深い負傷────────加えて、恐らく身の丈以上の術式行使による激しい消耗。結界を張る前に比べて輝雄の体術のキレが無い、明らかに疲弊している所に侯爵の横膝蹴りが脇腹に刺さり、輝雄の食い縛った歯の隙間から血が僅かに吹き出す。
(逆に言えばここまで追い詰めてようやく互角!!!
────────この人間をここで逃してはならない!!! 満月時以外で勝ち目は絶無!!!)
(ッ…………!!!
────────結界の差し引き条件に
血を吐き捨てながら肘鉄を振り下ろし鬼の膝を砕く、硬質な物が砕け肉片と混じる音が骨伝導を通して侯爵の脳内にに響く。しかしそれでも侯爵は怯まない、輝雄に向かい果敢に攻め立てるが、体の端が徐々に焼け始め焔が体を登り始めた。そして、それを見て輝雄は確信する。
「成る程、お前────────二人みたいに術式に対する防御手段が無いのか!!!」
「ッ…………! だったら何だ!! その前に貴様を喰い破ってくれる!!!」
────────全く考えられない事では無い。
そもそも吸血鬼は古今東西の妖怪を見渡しても、頭一つ抜けた再生力を持っている。強固な防御手段など本来は必要無いのだ、比類なき腕力と天狗以外では追い付けない速度が有れば。
────────しかしこの場において、慢心にも近いその手札の少なさが大きな不利に繋がってしまった。
当然、その隙を見逃す輝雄では無い。術式の出力を公爵と婦人に一割ずつ、残り八割を侯爵に集中させる。侯爵の体の端に沸き立つ火の粉は勢いを増し、数秒も拮抗する事なく侯爵の魔力出力を上回った。
「がッッッぁぁぁあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛────────」
生きたまま焼かれる事による苦痛は、呼吸が出来ない事にある。概念的な炎と言えど酸素を消耗し、侯爵の口に入るのは魔を焼き尽くさんとする焔のみ。体がいくら再生しようと燃え盛る炎が消えるわけでは無い、しかも退魔の力を備えた焔────────既に侯爵の肉体も魔力も、限界を迎えていた。
「────────まだだ」
既にトドメを指すまでも無く
「ッ!? 人間ッ!!! こっちを見────────」
その研ぎ澄まされた殺意に公爵が気付き、意識を自分へ向けさせ様とするが────────時すでに遅く、焔を纏った手刀は熱したナイフをバターに通すよりも容易く、吸血鬼の体を十七分割にし────────残った肉塊は悉く打ち抜かれ、塵は風に流れる事すらなく宙に溶ける様に消え去った。
「侯、爵………………」
「────────次」
侯爵が死んだ事によって出力がまた二人吸血鬼に配分される、それを感じ取ると同時に、公爵は自身を基点とした周囲の空間を能力で固定し焔を防ぐ。婦人も同じく血を纏い焔を防ごうとするが────────生成される血液が火力に追い付いていなかった。
「次は、お前だ。阿婆擦れ」
「────────ッ!? さっきから阿婆擦れ阿婆擦れと…………レディの扱い方がなってないわね……! モテないでしょう!? 貴方!!!」
「まぁな、否定はしない…………だが鼻につく吸血鬼を女扱いする人間なんざ、この世の何処を探してもいないと思うぞ?」
躊躇なく距離を詰める輝雄に対して、吸血鬼の婦人は逆に距離を取る。結界展開時の発言により霊力の出力が僅かに戻った事から、一分という制限時間に嘘偽りは無い────────しかし、たった体感数秒が恐ろしく長い。
(私よりも我が妻の方が消耗が早い!!! 恐らく出力の配分は5:5では無い────────妻を先に仕留める気か!!!)
公爵は自身よりも防御に長けている筈の妻が、魔力と血を自身よりも異常な速度で消耗している事から相手の狙いを察する。結界が無くなれば輝雄は無防備になる、だから確実に一対一に持ち込める様に最低でも婦人をここで落とすつもりだろう、と。
「させるか────!!!」
(────だろうな、もっと見せろ…………
血を纏う防御、吸血鬼の再生力、それすら上回り焼却しようとする輝雄の焔。婦人は術式効果に対抗するのに精一杯で攻撃に回れない、攻勢に出ようものなら、瞬く間に血の防御を貫き火が回る。それが分かっていた公爵は能力で
追いかける形で迫っていた輝雄の前に突如として公爵が現れる、真正面からとはいえ逃げていた婦人から、物理的慣性を無視して急に出現して向かってくる公爵にも完全に対応し、クロスカウンターが左頬に打ち込まれる────────しかし、公爵も反撃を織り込み済みで
(────────ッ!? 頸椎が砕けたのか!? いや違う!! コイツ、頭を砕かれるのを避けるために態と
(化け物め…………! 初見では無いとは言え、入れ替え先にカウンターを合わせてきたか……!)
独楽の様に公爵の首が勢いよく数十回捻転する、しかし流された威力は頭を砕くには至らない。再生が完了する僅か数秒を狙い、輝雄は今度こそ頭を砕き割ろうと炎拳を握るが────────その脇腹に鋭い衝撃が走る。
「ガッッッ!!!」
「私の事! 忘れてるんじゃなくて!?」
あまりの速度に魔力の起こりを感じた時には既に着弾していた。婦人の方を見てみれば先と同じ構えで、手を合わせた指先を輝雄に向けていた。圧縮が足りなかった為か貫通はしなかったが、侯爵の膝蹴りが入った箇所に駄目押しを喰らう形になり────────拳を空を切った。
その間に既に公爵の再生は終わった。そしてレーザー染みた婦人の弾幕により、輝雄の上体は構えが崩れている。凪ぐ様に滑らかな魔力の起こり後に────────公爵の瞬間最大出力まで魔力は跳ね上がる!!!
(ヤバ────────!)
(空間座標を能力で固定。目の前の景色を、世界を一枚の絵の様に捉えて────────対象諸共! 薄氷の如く!! 木っ端微塵に砕く!!!)
公爵の能力は空間に対して作用している、つまり輝雄はただ巻き添えにされている形になる────────しかし、
落雷が落ちたと錯覚する衝撃音が、結界を越えて霧の湖に轟く。音の発生源には一人の鬼と人、そこから三次元的な罅割れが生じて────────人間だけが結界内の草原をぶち抜き、湖畔を砕き破りながら、森の木々を薙ぎ倒し地面深くに埋まった。
「術式が…………解けた…………? そうか…………基点により固定されている結界では無い以上、
身体を纏っていた不快な感触が消え、公爵は治り切らない火傷の痛みも忘れて息を吐く。結界で構築された夜明け前の草原の世界は泡沫の幻の様に消えていき、その様子に婦人も血の防御を解いて愛する夫を支える形で寄り添う。
「貴方! 無事ですか!?」
閉じられた結界とその空間を満たしていた術式が、無害な霊力となって周囲に霧散していく。指向性を持たずに、ただただ流れていく様子からは操られている気配は感じられない、その事実に心底二人は安堵する。
「あぁ、無論無事だとも。私の方が術の出力は弱かったからな…………それよりも一度休もう、今から八雲紫や幻想郷の妖怪と戦うのは流石に無謀だ…………聞けば幻想郷は様々な異界に通じるという。今は体を休め、また同志を集めてからでも────────」
千体以上の吸血鬼が死んだ、永い時を共にした戦友も失った、だが最愛の妻だけは生き残った。心身共にズタズタにされたが、その事実が辛うじて公爵の平静を保っていた。
満月の輝きに癒されながら、二人は緩やかに湖にの岸に降下していき────────視界の端に赫い輝き。
「────────貴方ッ!?」
そして、自分を突き飛ばした妻の左顔面が肉を焼く音と共に消えた。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
美しい顔は、半分程無くなり、綺麗だった銀髪は煤こけて頭部の中身が溶ろけるように漏れ出た。肉が焦げる匂いが鼻に流れて、呆気に取られた様に思考は完全に止まり、場違いにもその匂いが香ばしいと、公爵は感じていた。
「あーあ…………二人一緒に同じ所に送ってやろうと思ったのに」
銃の硝煙の様に茂みの中から煙と、
「────────────────」
「奥の手である結界と術式が解けて死んだと思っただろ? 残心を怠るからそうなるんだよ…………ま、周囲に俺の霊力が漂っていたせいもあるだろうがな」
輝雄は
────────しかし、だからこそ、そのアドバンテージを捨てた。
弾幕の出力を誤魔化し二人の油断を誘う為に、結界と術を解いて周囲に自分の霊力を満たす事により霊力感知から逃れた────────さながら、ずっと同じ匂いを嗅いでいると嗅覚が麻痺する様に、公爵は気付かず婦人は避けきれなかった。
「………………そうか…………今更だが、お前が瞬時に結界を張れた理由が分かった………………
「正ッ解ッ!! 結界術は“追従型”と“固定型”があるが、即興で造る場合は殆ど前者。
俺にとっては術の難易度はバカ高い、結界と術式付与なんて芸当を即座に出来るのはそれこそ八雲や博麗の巫女くらいのもんだろう!」
輝雄は公爵の全力の一撃を受けた為か、身体の各所から血が流れ髪にも染み付いている────────しかし、赤い双眸を見開き朗々と語る、まるで自慢する様に。
「────────だがしかし!
古来から川を越える行いを彼岸を渡る行為に見立てたり、山や湖に神が宿ると人々は思い────────信仰した!!!」
山や川、そういった物がある種の境界線────
故にこそ、
「後は俺の能力による強化とか、吸血鬼の弱点である湖に蓋をするとかで結界成立の条件を引き下げた…………。
てめぇの死因は人間舐め過ぎ!!
「死因、だと………………?」
目を見開いたまま息を引き取った婦人の目を、優しく閉じてやり、公爵は感情が抜け落ちた表情のまま────────荒ぶる魔力を輝雄に向ける。
結界と術式に使った霊力は戻ってくる事はない、犠牲にした能力の強化も同様。蓄積した疲労と負傷は決して無視できない。
肉体は右前腕に孔が空きかけ、全身打撲と擦過傷、脇腹の骨数箇所罅、もしくは骨折。身の丈を越えた術式行使のせいか、脳が茹るかの様に痛み鼻血が垂れる。
しかし────────
────────未だに嶋上輝雄のボルテージは上がり続けている、悪鬼羅刹よりも凄絶に嗤いながら。
♢
湖畔にて、鬼と人が静かに対峙する。お互いに近接戦闘で仕留める事を選択し、奇しくも同じ構えを取った。吸血鬼は膨大な経験値から、輝雄は武の理合いから。どんな攻防にも対応できる態勢で少しずつ距離を詰めていく。
「……………………我が名は、
「急にどうした? まさか命乞いか?」
彼我の距離、拳が届く必中圏内に入る前に吸血鬼が────────バティムが自ら名乗る。
「違う、
────────だが死して尚、この名を忘れるな」
────必中圏内まで、あと二歩、鬼が詰める。
「…………妻と友を殺されて、頭ん中憎悪で染まってるかと思えば…………意外と理性的だな」
────必中圏内まで、あと一歩、人が詰める。
「…………弱肉強食は、
種の生存競争、そこに善悪は無く、どちらも正しくなく間違っていない。だからこそ、両者は理解していた。お互いにどんな理由があろうと関係無い、それを知る必要も無い。
────────ただ、何処までも、何度でも、命尽きる迄、その宿痾を呪うしかないのだと。
「殊勝な心掛けだな………………俺は、嶋上輝雄だ。
────────多分、短い付き合いだろうがよろしくな?」
「あぁ、いいとも。
────────我が妻と友の安寧の為、ここで死ぬがいい」
牽制に出された拳が、両者同時に撃ち落とされる。足を止めた至近距離での撃ち合い、本来ならば迫撃戦は輝雄に分があるが右腕の負傷と霊力の消耗、加えて満月に依る強化が互角まで引き落としていた。だが疲労困憊であるのは何も輝雄だけではない、バティムも同じである────つまり、お互いに短期決戦にしか勝機が無い。
「オォ゛アアァ゛────!!!!」
鏡の様に、対照的にお互いの全力の拳がぶつかる。拮抗した威力は、大気を震わせ周囲の木々や地盤の残骸を吹き飛ばす。お互いに一歩も引かず、二人を中心にクレーターが生じ────────先にバティムが威力を流し、態勢を崩した輝雄に旋体を加えた裏拳が入る。
(薄々気付いていたがコイツ
(────ッ!! 何だよ、結構良い
裏拳で伸びた腕に飛びつき、柔道で言う
クレーターの中心、海抜十数メートル低い位置で、両者の中間に千切れた腕が舞う。
(霊力の流れから
────────だが! 奴が体術しか残されていないのに対して! 私にはまだ能力による
圧縮された時の中、緩やかに回転しながら飛んでくる自分の腕を見ながらバティムは確信する。
(────────だがその一撃を、当たる刹那、カガオの
結界空間内で輝雄は、バティムと彼の妻の座標替えでも不意を打つことは出来なかった。ならば
「────────さぁ、もう終わらせようか」
「────────来い、打ち砕いてくれる!」
西部劇のガンマンの様に、真正面からの撃ち合いに応じたように見せかけ────決着をつける。
(目で追うな…………タイミングを合わせろ! しくじれば────────死ぬ!!!)
ゆっくりと飛んでくる腕が、バティムの視界を遮り、再生を終えた腕で、それを払い落した時には────────輝雄は既に眼前に居た。
空気を貫き、その拳がバティムに届く瞬間────────
(────────今!)
♢
「…………………………ここは、何処だ……?」
気絶していたのか、それとも眠りから覚めたのか、気が付いた時にはバティムは
彼は反射的に日差しから逃れようとするが────────何故か能力も魔力も使えない、どころか弱いとはいえ日差しを浴びても
「…………? 何故だ、吸血鬼が日光を浴びれば蒸発するはず…………?」
「────────そりゃあそうだ、この世界の日光はただの
「────────誰だ!?」
背後からかかる
「そう身構えんなよ、オレはお前と戦う気は無い。そもそも
丸太に座りながら、パチパチと燃える焚き火を見ている男には警戒心がまるで無い、発言からバティムが吸血鬼である事は知っているにも関わらず。その得体の知れなさがバティムに慢心を許さなかった。
「…………待て、“決着が着いた”? どういう事だ? そもそもここは何処でお前は誰だ? シマカミカガオは何処に行った?」
「質問が渋滞してんな…………まぁいい、順番に答えよう。
────────“決着が着いた”はそのままの意味だ、ここはオレの世界だ、オレは…………そうだな、お前に
────────
「…………………………」
「…………受け入れられないか?」
「────────いや、
彼自身意外な程、バティムはその事実を受け入れた。憎悪も敬意も、妖怪である事も全てかなぐり捨て、削ぎ落とした全力の戦いだった。だからだろうか、
「それがいい、信念、矜持…………それらを誇り、戦う事は良い事だ。だが終わった後までそれに拘り続けるのは重しにしかならない。
────────
「矜持、か…………私は最後の戦いで奴と真正面から打ち合わない事を選んだ。それは
「────────
そもそも、そういう駆け引きを含めた競い、争い、戦い、殺し合いだ、逆に輝雄が死んでも同じ事だ……………………誇れ」
バティムに、目の前の男は語る。お前は確かに最後まで妖怪として、吸血鬼として、その矜持を貫いたのだと。命惜しさに曲げる事はしなかったのだと────────
男の予想外の言葉に、
そうこうしている内に、本格的に日が昇る。擬似的な物とはいえ数百年ぶりの朝日は────────
「────────あぁ…………こんなにも、暖かかったのだな…………忘れていた…………」
そして、彼は草原の日の出を
♢
────────両者の振り抜かれた拳は、片方は血に濡れ、片方は空を切っていた。
「…………………………
残心を解かないまま、
嶋上輝雄の能力“主に理不尽と不条理に抗う程度の能力”は、自身にとって不都合な事象全てに抵抗出来る。
眼前で数回行使された座標操作、自身に何度か使われた座標固定、そして最後の一撃が当たる刹那にバティムの能力が干渉した────────
「結界術を使った時、
俺にはもう徒手空拳以外無いと思い込んだ…………その時点でもう、お前は負けていたんだ」
────────しかし、既に輝雄はバティムの能力干渉対して完全な抵抗力を得ていた。ズラされる筈の輝雄の座標は全く動かず、カウンターや避ける事を考慮してなかったバティムは意識するより早く死んだ。
「…………………………正直言うと、お前らに恨みは無い。俺はただ俺の
────────だが、それでも、お前達には死んでもらう他なかった。恨むなよ? これも生存競争だ」
因みに呪術を作った神様は諸説ありますが、スクナヒコらしいです。
すくな……呪い……うっ、頭が……。