幻想禍津星   作:七黒八白

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無茶苦茶に、してくれないかい?



第五十九話 “私達は特別”

 

 

 

 ────────月が何故か、紅く見えた。

 

 

 

「…………何かしら、この胸騒ぎ」

 

 炎天下の日々もそろそろ終わるだろうと感じさせる晩夏の夜、私こと博麗霊郁(れいか)は、里からの奉納品を荷車に載せて引きながら月を見た。ほぼ満月に見えて、その実少し欠けた月は薄っすら辺りを照らす。しかしいつもの神聖さとは裏腹に今晩の月は何故か少し紅い。

 

「────────急がないと、いけない気がする…………!」

 

 吸血鬼は全て斃した筈だ。人里に被害は無く、霊夢も輝雄も無事だ。何も問題は無いはず────────なのに、私の博麗の勘は、痛くなるほど脳裏に警鐘を鳴らしている。

 

 獣や妖怪に荒らされる事も気にせず荷車ごと奉納品を捨て置く。普段ならこんな勿体無い真似はしないが、幾ら霊力で強化出来るとは言え山道で数百キロを引っ張っていくのはそれなりに時間が掛かってしまう。

 

 里から博麗神社までの道のりは半里ほど、殆ど手入れされていない山道を風より速く駆け上がっていき、境内までの長い数百段の階段を一足で()()。山の頂上、博麗神社、私と霊夢と輝雄の家。

 

 ────────だが境内に張られた結界の内に入った瞬間、濃密な妖気が身体を包み込む。常人ならそれだけで良くて失神、最悪の場合は命に関わる異常な濃度。雑魚では逆立ちしても出せない膨大な妖力。結界の内側に遮断される形で充満していたのだろう、着地と同時に私は地面を踏み砕きながら、正面を見据えた。

 

「人の家で随分と寛いでいるじゃない? 

 ────────招いた覚えは無いわよ?」

 

「でしょうね、でも仕方ないじゃない? 

 ────────霊夢に用があったからね」

 

 その力の持ち主であろう妖怪は、足を組んで偉そうに賽銭箱に座っていた。紅い月の燐光に照らされた境内は、まるで元々化け物の住処だったのではないかと疑う程────────妖しく、怪しく、鮮血の臭いと共に満ちていた。

 

「……………………」

 

 思わず歯軋りし、瞳孔が開く。それを愉しむかのように、目の前の化物は茶化す風に嗤いながら賽銭箱から立つ。同時に彼女の影の中から剣が生える、間違いなく能力に依るものだろう。

 

「怖いわねぇ……大丈夫よ、博麗霊夢は殺してないわ。ただ霊力を使われたら面倒だから呪符で力を封じて、気絶して貰ってるわ」

 

「────────へぇ、人質ってわけ? いい度胸してるわね……!」

 

 噴火しそうな霊力を、丹田に抑え込み、淀み無く全身に巡らせる。落ち着け、私……! 私が負ければ人里も霊夢も誰が助ける? その為には霊夢に人質の価値があると向こうに感じさせるのは下策…………飽くまで平静を装う。

 

 見かけない姿(なり)だが、恐らく八雲紫と同格の大妖。しかし真正面から戦えば()()()()()()()()()()。相手もそれが分かっているから、こんな妖怪にしては回りくどいやり方を────────待てよ? 

 

 

 

 奴が浴びてる返り血の、境内に満ちている()()()()()()が、霊夢の物でないのなら誰のものなのだ? 

 

 

 

 

「………………霊夢は、本殿に捉えてるとして────────輝雄は?」

 

「カガオ…………? あぁ! ハイハイ、そう言えばそんな名前だったかしら? アイツ?」

 

 まるでたった今思い出したと言わんばかりに、目の前の妖怪は手を打つ。それは、まるで、もう既に終わった事を後から思い出した様で────────

 

(嘘…………嘘よ、嘘に決まってる……だって彼は、だって私はまだ、彼に何も伝えられて────────)

 

 あり得ない、あり得ない、あり得ない、とは思いつつも彼がいながら、こんな妖怪が好き勝手にしている現状が────────全てを物語っている。

 

 信じようとしない私の理性とは裏腹に、()()()()()()()()()()()()()は、一番信じたく無い可能性を肯定する。

 

 

 

「嶋上輝雄は、私が殺した!」

 

 

 

 ────────その言葉を聞いた瞬間、世界の色と時間が失われたかの様に全てが停止して。私の脳内には、彼と過ごした一ヶ月間の青い夏が一気に巡った。

 

 

 

 蝉時雨の中、青い炎天下で出会ったあの日の事。

 

 一緒にお酒を呑んで、楽しく騒がしく酔った日の事。

 

 三人で川や湖に泳ぎに行き、少し恥ずかしかった日の事。

 

 三人で夏祭りを回って、二人で花火を見て未来を思い描いた事。

 

 

 

『霊郁、お前もしも吸血鬼異変を生き残れたら、もっと人里と関われ。巫女としてじゃない、地に足を付けた一人の人間として』

 

 

 

 ────────もう、その未来は、たった今閉ざされた。

 

 

 

(あぁ……なんで…………どうして…………今になって、私は────────)

 

 目の前に、油断ならない相手がいると言うのに、私は目頭が熱くなり鼻の奥がツンとするのが抑え切れなかった。喉に奥に何かが詰まった様に息がしづらい。

 

 輝雄の笑ってた顔が、

 

 輝雄の怒ってた顔が、

 

 輝雄の照れ臭そうな顔が

 

 輝雄の私と霊夢を想う顔が

 

 輝雄の、輝雄の、輝雄の、輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の輝雄の────────

 

 

 

「そう…………ぶち殺すわ!」

 

 

 

 想いは、声にならず。思いは、終ぞ届かなかった。

 

 

 

 私は蓋をする様に、巫女としての仮面を被る(巫女としての役割に徹する)

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

「────────ぶっ殺してやる!!!!!」

 

「────────(はら)うの間違いでしょう!?」

 

 紅い月下の中、博麗霊郁の赫怒を嗤い続ける喰人鬼、宵闇妖怪ルーミア。霊夢が捉えられ、輝雄が死んだ、既に霊郁の中に人妖の調停者としての思考は消えていた────────今はただ、目の前の悪鬼を滅殺すること、それだけが彼女を支配した。

 

「ふぅー………………────────ッ!!!」

 

「────────ッ!」

 

 身を纏う霊力が収束し、霊郁の肉体を強化する。誰もが大なり小なり行う霊力を用いた、ただの身体能力強化。しかしそれを見た瞬間、ルーミアに戦慄が走り全力で両腕を妖力で強化し、交差して防御に徹する────────

 

 

 

「噴ッ!!!」

 

「は? ────────ガッッッッッッ?!?!」

 

 

 

 ────────そして、それが悪手であった事を、次の瞬間には思い知らされた。

 

 

 

 妖力を回して強化した筈の両腕は半ばからへし折れ、当然の様にルーミアの顔面を撃ち抜いた。しかし霊郁の拳の威力はそれだけに留まらず、ルーミアは博麗神社周辺の大木を何十本とへし折り、地面を何度も跳ねて削りながら、数百メートルはぶっ飛ばされる。抉られた地面とへし折れた大木は────────人の域を明らかに超えていた。

 

「やっば…………ゴリラの方がまだ可愛いわね…………」

 

 辛うじて皮一枚で繋がっている、肘と手首半ば程からブラブラと千切れかかっている腕を見ながらルーミアは冷静に霊郁の戦力を把握する。ルーミアにとって肉体の負傷は然程問題では無い、問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(単純な威力じゃない────────多分、輝雄の炎と同じ退魔の力ね。

 違う点は輝雄よりも効果が上って事ね、触れた箇所の妖力が消失して妖力の防御が易々と破られた!!!)

 

 “腕を犠牲に威力を削がなければ死んでいた”。その事実に半ば冷や汗をかきながらもルーミアは闇を自身に集めて即座に千切れた腕の再生を完了させる。霊郁は自分が作った破壊痕を悠々と歩きながら、その様子を観察する。

 

(…………ただ単純に硬い、って感じじゃないな。多分能力で再生力を高めてるか、そもそも通常の攻撃を無効化してる…………九割九部、概念か事象を操る能力と見た、残りはそもそも能力二つ持ち………………。

 ────────まぁ、関係無い)

 

 

 

 ────────博麗霊郁の能力は“清める程度の能力”。

 

 

 

 この上無くシンプルな能力だが、それだけにこの能力は応用力に富み、尚且つ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魔の類に対して“祓い清める”という文言や表現がある様に────────妖怪や怨霊の(たぐい)は基本的に“負”の概念の集積体である。

 

 人々の恐怖や畏怖から生じた妖怪、人間の憎悪と無念から変じた怨霊、どちらも種類は違えど方向性は同じ負の想念である。そして霊郁の能力は物質だけで無く概念事象にまで及ぶ、つまり────────

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!! 凡そあらゆる負の力(妖力)無効化(浄化)されてしまう!!! 

 妖怪にとって全ての攻撃が致命打となり、逆に全ての攻撃が最小限に抑えられる!!!)

 

「────────お前が、どんな妖怪で、どんな能力を持っていようと…………関係無い。妖力が底尽きるまで浄化()し続ける…………!!」

 

 

 

 ────────妖力が、生命力に直結している妖怪にとって、博麗霊郁は絶対的な()()である。一挙手一投足、その全てが妖怪にとって絶死絶命の一撃となる。

 

 

 

 博麗霊郁と博麗霊夢を知る八雲紫は語る。

 

 “博麗霊夢は歴代巫女の中で、最も()()()巫女である”と。

 

 そして同時に先代巫女、博麗霊郁は八雲紫という賢者をして────────

 

 

 

「────────その穢れ、(みそ)(はら)う」

 

「────────ゾクゾクしちゃう♡」

 

 

 

 ────────歴代巫女の中でも“()()”と言わしめる。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

 ルーミアは周囲ごと自身を覆う様に闇を展開する。この闇はただの光が通らない事によって生じた闇では無く、能力から作られた彼女の弾幕の延長線上の代物────────強引に例えるなら、霧の様な黒い粒子状の弾幕である。

 

(妖力そのものが効果対象なら、遠くからチマチマ出力の低い弾幕で削るのは現実的じゃない。

 ────────一瞬じゃ浄化し切れない、高密度で高出力の闇を凝縮した剣で急所を貫く!!!)

 

 故に太陽光を防ぎ、ただの光で照らしてもその闇が晴れる事はない。加えて、当然ルーミアの妖力から生成された為に、彼女の気配を隠蔽するのにも適している。欠点として密度の高い闇はルーミア自身の視界も阻まれるが、逆探知の要領で霊力から霊郁の位置はミリ単位でルーミアには把握出来る。

 

 直ぐに浄化されない高密度の闇はルーミア自身の視力を奪ってなお、有り余る恩恵があった。月明かりさえ無くなった真の闇の中、ルーミアは滅多やたらに周囲に弾幕を放つ、狙いは霊郁では無く音から自分の位置を判別させない事にある。

 

()った────────!!!)

 

 真っ直ぐ霊郁には向かわず、闇越しに霊郁の意識が自分に向いていない事を確認し、剣を構え音も無く背後から迫る────────

 

「────────そこだな」

 

「────────!?!?」

 

 ────────しかし直前で霊郁が振り向き、妖怪ですら全く視界が効かない闇の中、正確に剣を摘み捉えられ、反撃で裏拳がルーミアに炸裂する。

 

 頭部を狙いに来ている事は察していた、予想外ではあったが反撃自体は想定していた為、辛うじて腕を挟み直撃は免れる────────紙細工の様に腕がひしゃげ、骨が皮膚を突き破っていたが、霊郁の能力を考えれば()()()()で済んだと言える。

 

 疑問を感じるより先に、ルーミアの身体は逃避を選んでいた。

 

「────────遅過ぎる」

 

 しかし、霊郁の拳打と脚撃はその反射行動すら容易く上回った。全く視界が効かない筈の闇の中、霊郁は的確に手刀でルーミアの手首を切り落とし、同時に黒剣を一撃で粉々に砕く。

 

 逃げようとした為に浮き足だったルーミアの足の甲を踏み砕きながら懐に潜り込み────────拳は音を置き去りにし、山すら平地に変えかえない乱打が人体の急所と言う急所を撃ち抜く。

 

 ルーミアの顔面が陥没し、容易く骨肉を喰い千切る歯が砕け散ってゆく。肋骨と胸骨がリズミカルに砕かれていき息と同時に波状に吐血する。ルーミアはただただ打たれるがまま、血を周囲に吐き散らし、叫ぶことしか出来ない。

 

「ごッぶッべッッッぼっぼぉ゛おおぉ゛ぉ゛ぉお゛ッおッお゛お゛あ゛あ゛────────!?!? 

 

 それでもルーミアは反撃に打って出るが、反射的に出した腕が絡めとられ肘から破壊され、引き千切られる。後ろ回し蹴りによってぶっ飛ばされ、樹齢数百年はあるだろう樹木にめり込み、霊郁の姿がかき消える程の瞬発力から姿勢を低く維持したまま、足、腰、背中、腕と丁寧に破壊力は運ばれ増していき────────両の拳が縦に合わされルーミアの腹部に突き刺さる。

 

 果たして妖怪越しにどれ程の衝撃が、生木にどのように伝播したのか、数百年と生きてきた大樹は()()()()()()()()()()()()()。ルーミアは気付いていた、そして同時に戦慄した、これが能力の影響では無く()()()()()()()()()()()()

 

「────────どうした? 早く立て、こんなものただの準備運動だぞ?」

 

(死────死んでいた!!! 深夜である事!!! ()()によって妖力が増していた事!!! どちらか一つでも欠けていたら十数回は死んでいた!!!!)

 

 這いつくばりながら血と砕けた骨か内臓か、それらがブレンドされたものを吐きながらルーミアは死にかけの虫の様に内心震えていた。霊郁は全く感情を感じさせない表情で────────そして、それに反比例する様に山火事の様な膨大な出力で霊力を迸らせ、ルーミアを見下ろしていた。

 

「………………妖力過多、まだまだ死には至らないか。だが妖力は着実に減ってきている。

 ────────さて、宵闇の妖怪? お前はあと()()()()()()()()()()?」

 

(これが────────幻想郷“最強”の博麗の巫女!!!)

 

 目隠しに分散していた闇を自身に戻し、たった数秒で満身創痍となった己の身体を再構築するルーミア。しかし霊郁に削られた妖力と比較して明らかに弱体化していた、ルーミアは闇という概念に自身の存在────────“魂”を担保している。故に身体が粉々になろうと、精神が凌辱されようと通常の妖怪の様に死にはしない。

 

 

 

 ────────しかし結局の所、その特性も能力に依る恩恵に過ぎない。

 

 

 

 反作用として光が絶対的な弱点になる上に、妖力が底を突けば大多数の妖怪と同じように自身の存在を保てず消滅する────そして、霊郁にはそれが容易に可能であった。相手が霊郁でなければほぼ無敵。まさに闇夜の女王と言えるが、全ての妖怪の天敵である博麗の巫女には分が悪すぎた。

 

「恐らく、お前のその不死性は“深夜”という環境要因と膨大な妖力に裏打ちされた物。

 闇という概念的特性を考えれば“光”が弱点。或いは妖力が底をつくまで殺し続ければいい」

 

「………………正解」

 

 口の中に溜まった血を吐き捨てながら、ルーミアは目の前の天敵を睨む。不敵な笑みを浮かべる一方で、内心は文字通り瞬殺されかねない現実に冷や汗が止まらない。

 

(視覚が無くても私を狙い打つ博麗の勘…………弾幕も能力も効かないなら、純粋な殴り合いでやるしかない! 

 ────────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………………!)

 

 視界封じの闇を広げるのは寧ろ逆効果、ルーミアは周囲に散布している妖気はそのままに全ての闇を自身に集中させ、最も強度が高い肉体(原型)を維持する。妖力は全て肉体強化に回して即死を防ぎ、接近戦の攻防に備える。

 

(………………何か企んでいるのか? 相性は最悪、力量も私が格上、普通の妖怪ならこの時点で逃げている筈…………()()()()()()()と言っていたが…………? 

 単純な人質なら既に盾に使ってもおかしくない…………いや、寧ろ好都合! コイツさえ殺せば話は済む!!!)

 

 霊郁にはルーミアが何をしたいのか計りかねていた、自身を殺したいならば霊夢を盾に使う事が有効な筈。しかし戦闘自体は策を(ろう)せど、正々堂々としている。だが明らかに何かを企んでいる、その矛盾を気持ち悪く感じながらも────────霊郁は速攻で撲殺する事を選択した。

 

 またもや地面が爆ぜ、霊郁の姿が消える。ルーミアという大妖怪をして眼では追えない速度、しかし予め接近戦に備えていた為、霊郁の霊力を感知して辛うじて防御が間に合う────────だが、()()()()()()()である。

 

 防御の上から霊郁の能力によって膨大な筈の妖力は凄まじい勢いで削られてゆく、交差していた両腕がひしゃげて、再生し、ひしゃげて、再生しを何度も何度も破壊と再生を繰り返す。明らかな防戦一方、何も出来ないルーミアに対して霊郁は気味が悪い物を覚えずにはいられない。

 

「貴様────────結局、何がしたいのだ?」

 

「ふふふ────────さぁ、何でしょうね?」

 

「そうか、では死ね」

 

 業を煮やした霊郁の全力の拳が振りかぶられ────────寸の所で止まる。当たる瞬間に全力で防ぐ筈だったルーミアはその行動に一瞬思考が停止する。

 

(何を────────)

 

 霊郁の()()()()()()()()()()、そのままルーミアに触れた状態で向けられている。そしてルーミアが戸惑っていた一秒間に、霊郁は既にその技の準備を終えていた。()()()重さと鋭さの一撃では無く、速さと鈍さから生じる()()()()()()()────────

 

「────────発勁(はっけい)!!!」

 

「────────!!?」

 

 打撃は、通常物体の硬さに真正面からぶつかり、その威力を散らしてしまう。先の一撃ではルーミアは、霊郁の一撃を妖力の強化で押し止め残った威力は身体ごと突き飛ばされる形で分散した。

 

 

 

 ────────だが(けい)は違う。

 

 

 

 師、曰く“ 力は遅く、勁は速い”。曰く“ 力は散じ、勁は集まる”。曰く“ 力は浮き、勁は沈む”。ほぼ密着した拳から生じた威力は硬さを素通りする、先の一撃では派手に吹き飛ばされたのに対して、今回はルーミアは一歩たりとも退いていない。空気の壁すら貫き、人の目にも映る衝撃波を生む霊郁の拳は周囲に全く悪影響を及ぼさない。

 

 だがしかし────────

 

「────────ゴッッッブバッッッ!!?!?!」

 

 それは威力が弱いのでは無く、生じた威力は分散する事なく()()()()()()()()()()()()()()()()()事を意味する。霊力にせよ妖力にせよ、強化を常に全体に100%適応させる事は出来ない。妖力は腕を交差させて集中させていた、故に他の箇所は防御力が薄まっていた────────例えば、()()

 

「成る程…………輝雄から聞き齧った技だったが発勁(コレ)はいいな、ボディブローの究極形か。身体の表面を硬めたり、結界を張る妖怪もいるが、この技なら内側を直接潰せる」

 

「ひゅ゛ー! ……ひゅ゛ー! ……ごふッ! がはぁ゛……!?」

 

 手を伸ばせば届く至近距離、しかしルーミアには何も出来ない。何故なら霊郁の発勁はルーミアの五臓六腑を引き千切り、悉くをズタズタに引き裂いた。如何に妖怪と言えど痛覚はある、そして拷問がそうである様に、行き過ぎた苦痛は()()()()()()()

 

(ふざけんじゃないわよ……! ただの体術だけでこのレベル……! 多分、神社に囚われている霊夢を巻き込まない為にまだまだ余力を残してる…………!)

 

 肉体の負傷を通して、ルーミアの精神にも罅が入る。能力の恩恵が無ければとっくに死んでいる事実もまた彼女を追い詰めた、それでもまだ折れないのは()()があるからに他ならない。現在進行形で揺さぶれる内臓の激痛を無視してルーミアは闇を生成して、形を成す。

 

「────────分身? 効くと思うのか? そんな小細工」

 

 本体であるルーミアを守る形で、闇から這い出る様に同じ顔、同じ身体のルーミアが現れる。森の中を埋め尽くす様に黒剣を構えた数百体近いルーミアに囲まれて尚、霊郁には全く焦りの表情は無い。

 

 一体の分身が霊郁に斬りかかる、霊郁は半身を反らして裏拳で頭部を砕いた。

 

 二体の分身が突き刺しに来る、直前で跳び躱して二体同時に頭部を蹴り砕く。

 

 三体の分身が弾幕で消しに来る、霊郁の圧倒的な霊力出力でまるで届かない。

 

 四体が、五体が、六体が、七体が、八体が、九体が、十体が十一体が十二が十三が十四が十五が十六十七十八十九二十三十四十五十六十七十八十九十百千────

 

 

 

「────邪魔だ!!!」

 

 

 

 ────────その全てが、霊郁の一喝によって呆気なく消し飛んだ。

 

 本体であるルーミアよりは弱いとは言え、並の妖怪よりは遥かに強靭な分身も霊郁からすれば塵芥に等しい。爆音を越えて爆発そのもの、地面が砕け木々は根本から吹き飛ばされ、森を埋め尽くしたルーミアの分身は()()()()()()()()

 

「………………何処に行った?」

 

 

 

 ────────しかし、ルーミア本体は消えていた。

 

 

 

 霊郁を中心に、隕石でも落ちた様な戦跡には本人を除き誰もいない。残っているのは僅かな妖気だけ。

 

(逃げたか……? いや、今更逃げるか? そもそも奴は何がしたいのか────────!!!)

 

 ────────瞬間、霊郁は感じ取る。残された僅かな妖気は()()()()()()()()()()()()()()

 

「────────霊夢!!!」

 

 それは()()()()では無く、霊郁の経験から来る予感と親としての使命感。妖怪に付け狙われ無事で済むはずがない、霊夢に何かするつもりがあるという疑念から、霊郁は脊髄反射で走り出す。自分が作り出した破壊痕を更に深々と抉る様に数百メートルを一秒と掛けず駆け抜け、博麗神社に舞い戻った。

 

 そこで霊郁が目にしたのは────────

 

 

 

「いや速過ぎんでしょ、アナタ本当に人間?」

 

 

 

 ────────腕と眼を呪符で封じられ、畳の上に横たわる霊夢に近づくルーミア。

 

 

 

(ぶッ殺すッッッッッッ!!!!!!!)

 

 殺意は思考を追い越した、ルーミアが身構えるよりも速く詰め寄り払いのける様に鈎打ち(右フック)が顔面を撃ち抜く。頭蓋が拳の形にめり込み、そのままルーミアは神社本殿の壁を突き破り屋外まで殴り飛ばされた。

 

「霊夢! 霊夢ッ!! 起きなさい!! 無事なの!?」

 

 しかし霊郁にとってそんな事はどうでもいい、霊夢さえ無事ならば、霊夢さえ安全な場所に避難させれば、ルーミアの祓い方など腐る程有るのだから。

 

「……………………ん、れい……か……?」

 

(良かった! どこにも怪我は────────)

 

 力を封じていた呪符を剥がし、霊夢を揺さぶり起こす。意識は朦朧としている様だったが、五体満足でルーミアに何かされた様子は見当たらない。自分を覗き込む霊郁を認識した霊夢は霊郁に抱き着き────────

 

 

 

「霊郁! 霊郁ぁ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとう

 

「────────え?」

 

 ────────()()()()()()()()で霊郁の腹部を貫いた。

 

 

 

 




霊郁は能力の恩恵で、妖怪相手なら常に確定急所で効果は抜群だ!状態です。
当然能力も基本効かない。霊夢が全ての項目で八十から九十点取れる天才なら、霊郁は戦闘だけ二百点取れる鬼才です。

あと描写的に必要無いので省きましたが、霊郁の浄化は毒物全般にも有効です。
全力なら放射能も効かないレベル。核爆発は………事前準備無しは流石に死ぬ、かも?
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