幻想禍津星   作:七黒八白

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生き甲斐だった漫画は終わりましたが、この小説は続きます。
今はただ、あの先生に感謝を。

異変から数日後位からスタート


永夜抄編
第七十二話 不義を孕む


 

 

 

 ────────変わったわね、明らかに。

 

 

 

 瀟洒なメイド長の作ったパフェを退屈そうに、小さなスプーンで食べながらフランドール・スカーレットは思った。基本的にフランはレミリアと違い滅多な事では地下室からは出ない、昼にも起きないし、誰かを招く事もない────────典型的な引き篭もりであった。

 

 しかし、だからといって彼女がコミュニケーションに難があるとか、他人が怖いとか、そんな極めて人間的な理由から引き篭もってあるわけでは無く。陽光を嫌い嫌われた吸血鬼である事と、ただ単純に外に出る理由も興味も無いからである────────少なくとも、紅霧異変前までは。

 

(咲夜はなんか輝雄が暴れて以来嬉しそうというか…………しっとりした表情する事が多いし。

 パチュリーもなんか雰囲気が柔らかくなったし…………外出しようとしたり明らかに変わったし。

 お姉様もカリスマ(笑)を振り撒かなくなったし…………でも私にまで馴れ馴れしいのは普通にウザいわね。

 美鈴は────────いや、アイツは最初から打ち解けてたわね。本当に妖怪? 何で咲夜よりも先に仲良くなってんのよ…………)

 

 脳裏に浮かぶ中華風のドレスを着た門番は、良くも悪くも妖怪らしくない。輝雄が紅魔館に来た際も真っ先に仲良くなり、今でも一番打ち解けていると言っても過言では無いだろう、主に肉体言語で。何なら今でも庭先で仲良く殴り合い組み合っている。人間の彼はまだしも妖怪の美鈴が日々鍛錬に打ち込むというのも、生まれながらに強さがある程度決まってる妖怪らしくない。

 

 なんだかんだで紅魔館で一番付き合いのは美鈴だろう、そして彼を殺すような事にならず喜んでいるのも。咲夜は何かと忙しいし、パチュリーは体力は常人以下であるので仕方ないのだが。そのせいか最近二人の態度が美鈴にややツンケンしている、それを愚姉はケラケラ笑いながら眺めて紅茶飲んでいるのが最近の紅魔館だった。

 

「まるで発情した猫ね。まぁ、血統書なんて妖怪には無いのだから好きにすれば良いけど…………悪魔の館が聞いて呆れるわ」

 

 “知らない内に何人かお腹を膨らませてそうね…………”と溜め息をつく。人間は兎も角としても、同じ妖怪すらも恐れられ近寄る者がいなかった紅魔館に風穴を開けた。博麗の巫女ならぬ普通の人間が。フランは特別それを評価するつもりは無い、才人だろうと凡人だろうと彼女からすれば同じ人間。普通の人間からすれば蟻の区別などつかないのと同じ様に。

 

「────────でも、或いはだからこそ、成した事だけを見れば輝雄の成果は偉業と言うべきなのかしら? それとも異常と言えば良いのかしら?」

 

 クリームの上に載っていたイチゴを舌の上で転がしながら視線を上げ、そんな事を思う。そしてそんな事を考えている自分自身も、少なからず影響されているのだろう。以前までのフランならば、ただ図書館の本を読み、運ばれてくる食事を食べ、偶にレミリアに喧嘩を売る。495年間そのルーチンで生きてきた、彼女の生涯に特筆する事は無く、その必要も無い────────筈だった。

 

「あぁ…………いや、()()()()()()()()()()()()があったわね。でもあれもお姉様の判断で参加出来なかったのよね。

 アレは惜しかったわね…………この世界を吸血鬼(わたし)達の楽園にする。単純だけど良い考えだったんだけどねぇ…………」

 

 古い時代────────神代とも呼ばれた時代から生きていた()()()()()()()()()の悪魔、バティム。時代の流れから零落し吸血鬼になってしまった様だが、それでもその力は本物だった。本気で殺し合えばフランとレミリア、姉妹二人がかりでも負けかねない程。しかしレミリアはその誘いを断り、バティム率いる2,000体の軍と幻想入りする時間ズラした。

 

「結果、生き残りは皆無…………ふふふ、当時の巫女はそんなに強かったのかしら? それとも────────」

 

 彼女は陽の下には出れないので、庭園の日陰に放った眷族であり使い魔の蝙蝠の視界を自分と繋げる。見える先には紅い館の手入れが行き届いた庭園で開けた場所で美鈴と輝雄が打ち合っていた。お互いに肉体のぶつかり合いから出るとは思えない重低音、象がタップダンスでも踊っている様な衝撃は全て二人の攻防から発生していた。

 

『輝雄さん! ここまでにしませんか!? ぶっちゃけかなりキツイんですけど!!』

 

『辛くなきゃ身に染み付かないでしょ。お互いの武を高める為、美鈴さんも納得したでしょ』

 

『いやそうなんですけど!! なんかまた異様に強くなってません!? 一向に追いつける気配が無いんですけど!! 師としての立つ瀬が無いんですけど!!』

 

『やっぱ命懸けの実戦でしか得られない経験値ってやつですかね、能力による伸び代も有るでしょうけど────────』

 

『────────隙あり!!!』

 

『────────残念、疑似餌』

 

 滑らかな曲線的打撃と、流麗で先読みしづらい脚運び。吸血鬼としての性能が極めて高い為、フランにはそれら全てを視認できていた。しかし力量などを同程度に抑えた場合は恐らく近接格闘では美鈴に遅れをとる事になるだろう、とフランは客観的に一切の驕りなく予想する。それは間違いなく紅美鈴の妖怪らしくない修練の表れであった。

 

(逆に言えば、先天的な強さを後天的な技量は超え難い。輝雄の強さはどちらかと言うと持って生まれた才能(もの)…………美鈴の苦労が偲ばれるわね)

 

 どんな強者も全く隙が無いという事は絶対に有り得ない。故に武の駆け引きは如何に隙を少なくし、付け込みづらい様に素早くさり気無く隠す事にある────────逆に、相手の攻撃時に生じる隙を突く為に故意に隙を晒す事も然り。

 

 お互いに必中ギリギリの間合い、話していた為か輝雄の気が散り、疎かになった回避に詰め寄ろうとした美鈴。しかしそれすらも嘘偽り(ハリボテ)、逆に読んでいた輝雄に半拍早く懐に潜り込まれる。踏み出すと同時に美鈴の脚を引っ掛け、膝を軽く曲げて背面の体当たり────────八極拳の貼山靠(てんざんこう)、またの名を鉄山靠(てつざんこう)とも呼ばれる投げ技に近い打撃。

 

 カウンターをまともに食らった形になった美鈴は踏み留まる事も出来ず、大型ダンプカーにでも撥ねられた如く弾き飛ばされる。凄まじい勢いに流される中、それでも巧みに身体を操作し脚から着地しようとするが、それすら間に合わせない速度で輝雄が詰め寄る。ヤケクソ気味に突き出された美鈴の蹴り、されど輝雄は掠める様に首を傾け軽々と避ける。そればかりか宙を舞う美鈴に組み付き、自由を奪う為に諸共正中線を軸に独楽の様に回転しながら地面に叩き付け素早く臍の上、重心に馬乗りになって押さえ付ける。

 

『…………まだ続けますか?』

 

『ははは…………続けるって言ったら私何されるんですかねー?』

 

『勿論、普通に殴ります』

 

『アッハイ、ワタシノマケデス』

 

 如何にも慣れていない色仕掛け、当然そんなものに分かり易いリアクションしてくれる筈もなく。淡々と握り拳を翳した輝雄を見て“あっ、これは巫山戯てたら殴られるな”と悟った美鈴は早々に降参する。実戦ならば、輝雄はそのまま頭蓋骨を陥没するまでやるだろうが飽くまで試合。その白旗を皮切りに美鈴から降りて手を引き起こす。それを見てフランが思うのは、やはり妖怪と人間らしくない関わり合いだという事。

 

『はー…………もうちょっと師範として優越感に浸りたかったなぁ…………』

 

『今でも美鈴さんは俺の師でしょう』

 

『…………輝雄さんよりもずっと弱いのに?』

 

 差し出された輝雄の細かな古傷だらけの手を見ながら美鈴が言う。原則、妖怪の肉体に不可逆的な傷は残らない。精神に依存する妖怪にとって、吸血鬼でなくとも時間をかければ四肢を生やせる事は珍しくもない。故に、長い年月鍛錬をしているにもかかわらず美鈴の手は白魚のように綺麗で美しい。対する輝雄は武の道に踏み込んで短いのにも関わらず、短期間で余りに苛烈な鍛錬によって既に歴戦の戦士と見紛う拳となっている。掌のマメが潰れ、皮膚がズタボロになっては生え替わり、拳ダコが丸く出来ている────────こればかりは、才能からは生まれない。

 

(…………美鈴は真摯に武に打ち込んでるから、その努力の跡に何か思うところでもあるのかしら?)

 

 力でも技でも敵わない。この幻想郷で、妖怪が人間に優位に立つ事が出来ない。これが穏やかな気質の美鈴では無い一般的かつ普遍的な妖怪であれば、激昂して輝雄を殺しに行っても何ら不思議ではない────────何故ならその恐怖を与えて、精神的に上位に立つ()()()()()()()()なのだから。

 

『その強さは、あの日貴女が手を差し伸ばしてくれたから出来た物です。

 例えそれが、レミリアの戯れの様な命令で、貴女はそれに逆らえなかったのだとしても。

 ────────俺はこれを多大な恩だと思ってますし、貴女の美徳故だと思います』

 

『…………』

 

 弱肉強食は妖怪の世界では当然の理。同じ妖怪であっても見殺しも珍しく無い妖怪にとって、恩義による尊敬というものは未知に等しい。それこそ門番として人と関わる事が多い美鈴でさえそれは変わらないだろう。その言葉に何を想うのか、フランには美鈴の僅かに見開かれた瞳には驚愕以外の感情が混じっている様に思えた。

 

『思うに…………強いとか、弱いとか、それだけじゃないんじゃないですかね、師弟関係って。

 …………これでも割と尊敬してるんですよ?』

 

『…………ふーん、どうですかねー。輝雄さん、嘘つくの上手ですもんねー』

 

『あ、やっぱ根に持って────────』

 

『────────今度こそ隙あり!!!』

 

『────────うぉわっ!!?』

 

 まさか助け起こした直後に飛び掛かられるとは流石に思っていなかったのか、今度は輝雄が組み付かれる。お互いに反撃と抵抗を重ね揉みくちゃになりながらゴロゴロと転がってゆく。

 

 

 

 ────────うわちょ辞め、な、何をするだー! さぁ! 参りましたか!? 参りましたよね!? 参ったって、ちょっと何処触ってるんですか!? スケベ!! だったら離れてくれませんかねぇ!? あ、ギブギブギブギブ!! 降参(ギブ)だって!! 極まってるって!! 乙女の身体を(まさぐ)った罪は重いんですよ!!! いや今はどちらかと言うと姿勢的に罪より体重の方に押し潰ぎゃあああああぁああぁぁああぁ────────。

 

 

 

「……………………………………………………」

 

 使い魔の蝙蝠越しにそのやり取り観ながら、小さなスプーンは少女の指の力だけでグニャリとひん曲がる。

 

 

 

 

 

 ♢

 

 

 

 

 

『────────湿布を下さい、腰痛に効くやつ』

 

『────────紅魔館(ここ)は診療所でも無ければ私は青い猫型ロボットでも無いわよ』

 

 腰をさすりながらげっそりした輝雄を、にべも無く突き離す動かない大図書館────────パチュリー・ノーレッジ。少し呆れた表情で、しかし微笑みながら滅多な事では閉じない読みかけの本を栞を挟んでから閉じて向き直る。果たしてどれだけの人間が、いや妖怪も含めてこの魔女に同じ対応をさせるだろうか。少なくともフランが知る限り自身の姉は読みながら対応されていた、無論互いの信頼関係も有るだろうが。

 

『で? 何で唐突に老人や数日に渡って読書しっぱなしの私みたいな事を言い出したの?』

 

『マジで運動しろアンタ。いや、ちょっと美鈴さんとやり過ぎちゃいまして…………』

 

『……………………まさか昼間から? 外で? 貴方が腰を痛めるほど()()()? いくら何でも貴方それは────────』

 

『────────(ちげ)ぇーよ。何を想像してんだ、ただ首を極められながら海老反りになったから痛めただけです』

 

『それはそれで“ただ”で済ませて良い事じゃないと思うのだけど』

 

 何でも無さそうに説明する彼に、ドン引きを隠そうともしない魔女は当然の様に治癒魔法をかける。ここまで面倒見の良い性格でも無かった、いつも眠たげに本を読みそれ以外を極力排除した生活を送っていた筈だ。美鈴はまだ社交的な性格と言えなくも無いが、パチュリーは確実に変わっている。

 

『…………そういえば、咲夜から聞いたのだけど貴方自分で治癒術を覚えたそうじゃない?』

 

『ん、あぁ…………まぁな』

 

『…………何時(いつ)、誰から教わったの?』

 

『あー…………いや、教わってはいないな。見て盗んだだけだよ、使ってる所と相伝の書物からな。あとは自分の感覚から術を形にした』

 

『大した才能ね。壊す能力と違って作ったり治したりする術は出来ない奴には一生出来ないのに…………もしかして向いてたんじゃない?』

 

 率直な褒め言葉に何故か輝雄は複雑そうな顔をし、パチュリーには見えない方へ顔を背ける。フランも言われてみればと、少し訝しむ。あの博麗霊夢でさえ(修行をサボり気味らしいとはいえ)簡易的な物使えなかった筈────────にも関わらず、実戦レベルで使える様になったそうだ。姉であるレミリアがゲンナリした顔になるまで朗々と聞かされたらしい。

 

『そうでもない。分かり易い外傷なら簡単に治せるけど、身体の内部とかはまだまだ甘い…………現に腰痛めたし』

 

『美鈴を泣かせて?』

 

『泣きたいのはこっちだよ…………いや、そんな事より聞きたい事があったんだ』

 

『へぇ? 何を聞かれるのかしら? 危ない事?』

 

 椅子に腰掛け座っている輝雄に魔法を終え、パチュリーは小悪魔に紅茶を頼みながら机を挟み対面側に座った。小悪魔の淹れた紅茶を堪能し終えるのを待ち、ゆっくりと輝雄は言葉を紡ぎ出した。

 

『────────約束や契約を交わした相手の行動を縛る様な術はあるか?』

 

『…………成る程、貴方さては妖怪と何か交わしたわね?』

 

『まぁ、な…………』

 

 先程まではただ単純に輝雄を揶揄い、楽しんで緩んでいた瞳は叡智を取り戻し鋭く光る。彼の心境やその言葉の意味する事から僅か数秒で、パチュリーは大凡の背景状況を掴んだらしい。彼女は紅茶に視線を落として少し逡巡したが“貴方なら一人でも突き止めるでしょうね…………”と続きを話し始めた。

 

『結論から言えばあるわよ…………ていうか術式としては、かなり普遍的で標準的な部類ね』

 

『そうなのか?』

 

『悪魔に願いを叶えて貰う代わりに死後の魂を渡す、なんて話よく聞くでしょう? 

 能力や術式の制約や誓約だって、術の仕様や自身の覚悟への()()()とも言えるし。

 詰まるところ、契約や約束とは最も古い(まじな)いの一つなのよ。

 そして、同時に最も多くの術者の命を奪っている術とも言えるわ…………。

 何故なら天地ほど力量差が有っても、ただの口約束であっても、両者の合意があれば格下が格上相手に有意な契約を結ぶ事だって出来るわ…………例えば、相手の大切な人を人質にして無理矢理結ぶ、とかしてね』

 

 一気に喋った為か、パチュリーは深く一息ついてから紅茶を静かに口に含む。輝雄はそれを聞いて何を思ったのか、黙って自身の手を────────()()を見ていた。その姿を見て、日本には庶民にも知れ渡っている契約の儀式があったとフランは思い出す。

 

(まじな)い、か…………』

 

『そういえば、日本には有名な約束の儀式があったわね。

 確か“指切り”だったかしら? 起源は遊女との約束で破った罰として文字通り指を切り落としたそうだそうだけど…………………………………………』

 

 物憂げに独り呟き小指を眺めている輝雄を見てパチュリーの蘊蓄(うんちく)が止まり、長い沈黙が続く。それは何か考えている様にも見えたが、さながら飢えた肉食獣が品定めする様にも見えた。

 

 どちらにせよ、主人の主人らしからぬ異様な雰囲気に小悪魔は表情を強張らせ、無言のまま距離を取った。ただ一人、物憂げな輝雄だけが気付いていない。その様子はフランすら内心ドン引きしていた、自覚ないぶん余計にタチが悪い。

 

(駄目だコイツ…………早く何とかしないと…………)

 

『────────輝雄、試してみる?』

 

『…………何を?』

 

()()()()()()()

 

 魔女がフワリと浮かび、ゆったりとしたローブが熱帯魚のヒレの様に幻想的に宙を舞う。それは優しく雅に、妖しく艶やかに、畏れ怖けさせる様に輝雄に寄り添う。その絵画的美しさに反して、パチュリーの目はフランも見た事が無いほど────────昏く、そして冷たかった。

 

『貴方が誰と何の契約を交わしたかは知らないけど…………この先、貴方の手に余る事があった時に私が全力全霊で力を貸して上げても良いわ。但し────』

 

 日に当たった事など無いのではないかと思うほど、白く細い手がスルリと輝雄の頬に撫でて添えられる。流石に何かを感じずにいられなかったのだろう、使い魔越しにも彼が唾を呑み込むのがフランには分かった。

 

『────貴方の命に危険が迫ったのなら、何よりも先に自分の身の安全を優先なさい。

 誰を見捨ててもいい、誰を殺してもいい、逃げてもいいし負けてもいいし愚かでも醜くても、生き延びなさい。お願いだから、命を投げ出す様な真似はしないで』

 

 優しくも有無を言わさないその迫力は、輝雄に目を逸らす事も許さず距離を取ることも許さない。迫力に飲まれたまま緊張も隠せずに彼は聞き返す。

 

『…………見返りがパチュリーさんの助力だとして、俺がその契約を破った際の罰は何になるんですか?』

 

『そうね…………なら、こういうのはどう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 逆に私が貴方の助力を拒んだ時、()()()()()()()()()()()()()()()()。拒んだ助力を命じても良いし、しないと思うけど殺す事も嬲る事もそれ以外の事に私を使ってもいいわよ…………どう?』

 

『…………随分俺に対して有意な契約ですね。俺が紅魔館に敵対するとは思わないんですか?』

 

『全く思わないわね。貴方なら悪用はしない、断言出来る。

 仮に紅魔館に敵対するとしても、貴方は私を利用する事は無いでしょう』

 

 クスクスと魔女は微笑みながら語る────────お前はそんな事はしないだろうと。同じ人間に対してすら警戒心が高く、そして同じ人間にすら信用されきっていない輝雄は、何故かパチュリーから寄せられる信用に正体不明の畏怖を覚えて僅かに皮膚が泡立つ。魔女はそれすら慧眼で見抜き、笑みを深めて彼の膝に収まる。大きな体格差からすっぽりと収まり、まるでお姫様抱っこでもされている様に魔女は彼の膝の上で寛ぐ。

 

『ふーん…………本で読んだことしか無かったけど結構良いわね、これ。

 これなら長時間座ってても腰を痛めなさそう、暖かいのもグットね』

 

『普通にリクライニングチェアでも作ったらどうですか』

 

『まぁ、それはそれとして…………で? どうする?』

 

 膝の上から見上げる形で聞いてくるパチュリーに若干たじろぎながらも輝雄は少し考え、そして直ぐに答えた。

 

『────────やめておきます。

 どんな理由であれ、俺は誰かの命を背負えるほど出来た人間じゃないので』

 

 そして聞きたい事は聞き終えたと、輝雄は小悪魔が見繕った契約関係の書物を数冊持って図書館を後にする。残されたパチュリーと小悪魔はいつもの定位置に戻り、そのまま各々いつも通り悠々自適に過ごす筈だが、やはりと言うべきか────────小悪魔が興味津々といった表情でパチュリーに食い付く。

 

『パチュリー様パチュリー様!! さっきのはどういう意味での提案だったんですか!? もしも輝雄様が了承したらどうしてたんですか!? その場合は一体何をするつもりだったんですか!?』

 

『貴女には関係ないわ。そもそも輝雄が了承しなかった以上“たられば”の話をしても意味無いでしょう』

 

『えー…………まぁ確かに()は無さそうでしたねー…………』

 

『────────うふふふ…………貴女の脈を無くしてあげましょうか?』

 

『あ! いやいやいやいや! 大丈夫ですよまだまだこれからですよ! ちょ、まっ、パチュリー様? 何ですかその大きさのロイヤルフレア? なんか戦闘民族の星を消し飛ばせそうな位の大きさ────────』

 

 

 

 そして、炎の逆光に照らされるパチュリーを最後に図書館に忍ばせていたフランの使い魔が綺麗な花火の映像を最後に蒸発する。その後小悪魔がどうなったか、フランは別に気にしなかった。 

 

 

 

 

「おーっす、フラン遊びに来たぞー」

 

「出たわね天然ジゴロ、私も弄ばれるのかしら」

 

「急に何!?」

 

 

 

 ────────そうだ。明らかに変わっている、わたしも。

 

 

 

 

 





どうでもいいNGシーン

輝雄「やっぱあの約束無かったことにするわwwww」小指ブチィ‼︎

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