すんません、あんま進んでないです
僅かに欠けた満月が浮かぶ遥か上空、そこに二つ人影があった。片方は変わった紅白の巫女服を着たまだ幼さ残る少女、博麗霊夢。片方は紫を基調とした道士服に妖しさを感じさせる妙齢の女性────────に見える八雲紫。二人は並走する形で黙って飛行していたが、突如紫が僅かに眉を顰める。
(この霊力は…………輝雄? しかも里の近くで…………? アイツ、一体何を────────?)
「────────紫?」
「────────なんでも無いわ、霊夢。先を急ぎましょう」
「…………いいわ、今は異変解決が最優先だからね」
明らか誤魔化した紫を、霊夢は追求はしなかった。毎度の事ではあるのだが目的や理由の分からない異変が起こっている真っ最中、加えて妖怪にとって影響の多い異変である為
「…………でも、意外ね」
「何がよ」
短く冷たく、やや突き離す口調で霊夢は聞き返す。そんな霊夢の様子にも気にせず紫は揶揄う様に続ける。
「私に急かされて素直に動くなんてらしくないんじゃない?
それとも何かモチベーションが上がる事でもあったのかしら?」
「…………らしくないなんて言われる程、アンタと長い付き合いじゃないわね」
「そうでもないわ。貴方が知らないだけで、私はずっと前から貴方の事を見ていたのよ…………
「便利な能力使ってやる事がストーカー? 暇なのね、賢者って」
一言一言ごとに会話を打ち切ろうとする意志が見え隠れする、しかし紫は邪険な物言いには表情を一つ変えない。ただ涼しげに、前を行く紅白の巫女に嘗ての
「────────そういう巫女は暇じゃないのね、働き者で感心するわ」
「────────えぇ、特に最近は教師のクセに退治屋紛いの事をする奴がいるから」
巫女と賢者は月夜を飛んで、結界の基点となっている迷いの竹林に向かう。
♢
「────────何が起こっているんだ!?」
真夜中に人の気配が全く無い里の大通りを走りながら、青みがかった銀髪を靡かせる女性がいた、名前は上白沢慧音。彼女は満月の際、ある日課を行うのだが何故か今夜はそれが出来ず、その事から月が欠けている事に気付いて竹林に向かおうとした所────────つい今し方、里の郊外から巨大な魔力を感じ取った。
「方角からして輝雄に何かあったのか…………!? だが里の外れとはいえ人里の中に違いない、にも関わらず妖怪が暴れたのか…………?」
走りながら状況を確認していると同時に思う事は、十年程前の異変。まだ幼く、半妖になりたてで力の使い方をよく分かっていなかった頃の自分、非常事態に呆気に取られている中────────里の空を覆う程の吸血鬼をたった一人で擦り傷一つ負わず鏖殺した巫女。何故か、あの時見上げていた背中と向かう先にいる青年が重なった。
「────────っ! 何を馬鹿な事を…………! 彼は彼女とは違う…………! 助けなくては!!」
その強さか、はたまた孤独か。似たものを無意識に重ね合わせたが即座に振り払い、速度を上げる。慧音は特異な
そこには────────
「…………ん? あぁ、慧音さん。気付かれましたか? 申し訳ない、お騒がせしました」
────────ブラブラと、手足が関節の部位から不自然に曲がった少女の首根っこを掴んでいる輝雄がいた。
「輝雄…………? その子は…………?」
「この子はフランドール・スカーレット、紅霧異変を起こしたレミリアの妹ですよ。
因みに、
自然治癒出来る範囲も速度も桁違いの吸血鬼は四肢を捥いでも即座に生やしてきますから…………
そんな場違いな事をサラリと言いながら、まるで糸が切れた人形の手足が不自然にブラブラする様に左右に揺らす。あまりにも異常なその光景に頭の中が真っ白になり、慧音は聞きたかった事を全て忘れてしまった。慧音のそんな様子を知ってか知らずか輝雄は話を簡潔に纏めて空を飛び始める。
「慧音さんは里の守護を頼みます、既に巫女を筆頭に各勢力が異変解決に乗り出しているみたいです。
でも念の為に、俺もこの子と出掛けます…………あ、あと小傘に朝には帰るって言っといて下さい」
返事を待たずして輝雄はものの数秒で月光の中に紛れてゆく、残された慧音は我に返り周囲を見渡して見る。多少弾幕や攻防の跡が残っているが輝雄の家や畑は壊されておらず、道も同様である。
(────────あり得ない、異変を起こせる吸血鬼の妹。
その実力は同等以上と考えるべきだ。さっきの娘が本気なら、この周囲一帯消し飛んでも無い方がおかしいんだ。輝雄に配慮したのか…………?
幾ら戦闘が得意では無いとはいえ、慧音は里の守護の為に妖怪と戦う事もままある。最近は輝雄が受け持っているがそれでも力量を計る目までは衰えてはいない。見る者が見れば明らかに不自然なその戦跡を訝しむも答えは出ず、慧音は輝雄が消えた方角を見つめる。
「輝雄…………お前は────────」
視線の先には何年経っても変わらない月だけが浮かんでいた。
♢
「…………ちょっと、運ぶならもうちょっと優しく運びなさいよ。猫じゃないんだから」
「あ、起きた」
泳ぐ様に軽やかに夜空を飛行していると、首根っこを掴まれていたフランが目を覚ます。如何にも不満と不機嫌である事を顔に表しながら、プラモデルでも作る様に強引に外れた骨を捩じ込もうとする。
「おいおい傷めるぞ、入れてやるからジッとしてろ」
「流石マッチポンプが上手いわね、そうやって一体何人誑かしてきたのかしら?」
「脱臼させてくるDV男怖過ぎるだろ、あと別に誰も誑かしてない」
言いながら慣れた手付きでフランの外れた肘、肩、膝、股関節を嵌め込む。身体の各所からやや硬質な音がなると同時に、伸びていた靭帯が吸血鬼特有の再生力で即座に治った。フランは二、三度確かめる様に関節を動かしてその感触に満足する。
「…………ま、約束だしね。良いわ、輝雄の指示に従ってあげる」
「あぁ、とは言え正当防衛なら俺もとやかく言わん。でもこっちから殺しにかかるのは無しだ」
「ハイハイ…………で? 脱げば良いの?」
「何が???何で???」
誰もいない夜空を飛行中、余りにも唐突過ぎるフランの言葉に輝雄は目が点になった。だが恐らく大抵の人間なら同じ反応をするだろう、隣の幼女がストリップを提案すれば。
「男が女の子の事を好きに出来る権利を得たらする事なんて一つでしょう?」
「そんな事は無くない? 一つな事別に無くない???」
「
そんな…………!? 一体どんなプレイを何回するつもりなの…………!?」
「そんな事は一回もしない(断言)」
「まぁ負けちゃったしねー、仕方ないか…………。あーあ、もうちょっとロマンチックなの想像してたわ。まさか屋外の空でヤルなんて…………」
「いやマジでさっきから何なのお前────────ヤメロォ!!! 脱ごうとすんなぁ!!!」
フランが溜め息を吐きながら襟に伸ばした手を止める。側から見ると何故か危ない一面に思えなくも無いが、脅されているのはどちらかと言えば輝雄の方である。
「何? なんなの? 発情期なの? お願いだから辞めてくれ。
そして俺以外にやってくれるか? 凄ぇ迷惑だから。俺これでも教師だから」
「不老長寿の妖怪に発情期なんて無いわよ…………ま、意中でも居たら話は別でしょうけど。
ほら、私ってば破壊する能力があるから貴方の世間体とか破壊しようと思って」
「概念すら能力の範疇だと言うのか…………じゃねーよ。
何が目的だ。てめぇコラ、負けた腹いせか?」
やや憎々しげに言いながら二人一緒に結界の力の源を逆探知の要領で辿る。つい最近からだろうか、輝雄は紅魔館の面々が何か変わったと感じていた。特にパチュリーと咲夜はその変わった様子が大きい、具体的どうと言うと言葉に詰まるが、何となくではあるが距離が近いというか馴々しくなったと彼は感じていた。
「まさか、それは負けた私が悪いのよ。人間に負け惜しみなんて、それこそ妖怪失格よ。
────────ただ、それだけの強さがありながら。貴方が人間
輝雄の周りを星の公転の様にクルクル回りながら、確かめるかの様に、試すかの様に、フランは続ける。
「
私、今の貴方よりもあの時の貴方の方が好きよ。
────────だから辞めて欲しいの、その下手くそな人間の
宙空で逆さまになりながら頬杖をついて、ニンマリ深い笑みをつくる。幼い少女とは思えない色気は、確かに悪魔を思わせる蠱惑的な美があった。夏にも関わらず輝雄は少し肌が粟立つのを感じたが、意地が表情には出さなかった。それでも言葉が喉に詰まり、少し遅れて苦しげに否定する。
「…………ふりとか、らしさだの、俺は元々人間だっつーの。
第一、お前に好かれたからなんだってんだよ? お前の為に捨てる物も曲げる事も何も無い」
「────────あの傘妖怪の為には曲げたのに?」
「………………………………………………曲げてない」
しかし即座に切り返してくるフランの言葉に、思わず詰まった。唐突に確信を突かれた返答に、今度こそたっぷり十秒は掛かった。辛うじて入った否定は、寧ろフランには満足だったのか笑みは益々深くなる。輝雄には分からなかった────────目の前の吸血鬼は、何を企んでいるのか全く分からなかった。
「ふふふ…………貴方って、面白いわね。
人間だからといって無条件に心寄せられず。
妖怪だからといって無慈悲に見捨てられず。
いつまでも相容れない衝動を持て余している、幻想入りして結構経つでしょうに」
「…………黙れ」
謳う様に、愉しげに輝雄の矛盾を突き詰める。いつかの霊夢とは違い弾糾では無く、優しさすら感じさせる声音だと言うのに神経に鑢でもかけられているのか、輝雄の頭に血が上りこめかみの血管が怒張する。それを見たフランは更に上機嫌になって続ける。
「その苦悩を取り払う方法教えてあげる────────自身の快と不快だけを生きる指針にすれば良いのよ。人間でも不快なら八つ裂きにして、妖怪でも気に入ったなら服でも皮でも剥いで組み敷けば良い」
「黙れ…………」
「第一いつまで外の世界の常識に囚われてるの? この
「────────黙りやがれ」
フランが言い切るよりも先に喉元を掴む。か細い少女の首が更に剛力によって細まり、若木が軋む様な音が鳴る。息すら難しく一秒後には捻じ切られてもおかしく無い状況でも────────フランはただ恍惚すら思わせる表情で輝雄を見つめていた。
「…………良いわよ、今は貴方に従ってあげる。
貴方が望むなら誰も
────────だって、その方が愉しそうだし」
「知った風な事ばかり、てめぇは何なんだよ…………!」
「悪魔だけど? 知らなかった? 人の常識や情緒で計らないで欲しいわ」
輝雄は、余りにも異質なフランの精神性に戸惑いを隠せなかった。今までの妖怪とも、姉のレミリアとも、違い過ぎるその思考と言動に思わず手が出てしまう。しかし、結局その首をそのまま手折る事は出来ず、しかめ面のまま竹林の方角へ飛んで行く。フランはそれを少し後ろから追いかける。
(────────良い、凄く良いわ)
輝雄には見えてない後ろで、フランは恍惚とした表情で
(輝雄、貴方はきっと、いつか
人も妖も、神さえも貴方は
────────何もかも憎くて、赦し難いと思う、その
────────どちらかと言えば、擽ったく、もどかしく、憧憬にも似た熱い鼓動を感じていた。
「…………しかし、よくパチュリーさんがお前を一人で外出させたな。俺なら絶対許可出さんぞ」
「でしょうね、だから黙って出てきたわ」
「……………………え」
「大丈夫よ、身代わり置いてきたから」
「…………? もしかしてフォーオブアカインドの分身か?」
「あれは近くに分身を出す魔法だからここまで距離があると分身を保てないわ。
それにさっき四人上限まで出してたでしょ? 身代わりを置いてきたわ」
(…………身代わり?)
────────一方その頃、主とその妹無き紅魔館では。
「……………………美鈴? 貴女、何してるの?」
「私は悪魔の妹、フランドール・スカーレット!!!
貴方のハートを破壊しちゃうぞ(ヤケクソ)!!!」
「うわキツ」
パッツンパッツンのフランの服を着た(着せられた)美鈴が地下室に監禁されていた、そしてパチュリーの心無き感想に泣いていた。
一応、フランは年相応に純粋無垢です。
妖怪の欲求と悪魔の淫靡と少女の思慕を、狂気に満ちた純粋無垢さで出力してます。
なので邪悪ではありません、何をしても悪意は無いから。
省かれたどうでもいい場面
フラン「脱いで♡そして着て♡」
片手で破壊の目を握りながら、自分の服を差し出す。
美鈴「」