2021年は平和……うおおドラゴン狩りじゃぁぁぁ!!!   作:蒲焼丼

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プロローグと一緒に間違えてアップして慌てて引っ込めたやつです。
ここからCHAPTER1開始になります。



CHAPTER1 新たなる戦場
Count 3. 再演 竜を狩る物語


 

 

 

「意識レベル、グレードⅠ。2、1……覚醒するぞ!」

 

 

 真っ暗な世界にするりと入り込んできたのは、聞き慣れた少年の声だ。

 起きろと言われたわけではないが、その声で暗示がかけられるようにして目が覚める。霞む目で辺りを見回せば見知った顔があって、隣のベッドではミナトが同じように寝ぼけまなこでまばたきを繰り返していた。

 ミロクが「13班!」と顔を輝かせる。

 

 

「よかった……目が覚めて……」

「ミロク……。ここは、議事堂か」

 

 

 寝起きだというのに鼓動が忙しない。早く、と急かすように脈が逸る。

 そうだ、のんびり寝ている場合じゃない。自分たちは、確かスカイタワーで……。

 

 

「……そうだ、あいつ!」

 

 

 ベッドから飛び降りる。が、うまく体重を支えられずにふらついてしまう。看護師のナミが体を支え、点滴が抜けていないか確認しながら怒った。

 

 

「急に起きちゃダメですよ! 三日間、ずっと昏睡してたんですから。ゆっくり体を慣らさなきゃ……」

「三日……? 三日も寝てたの?」

 

 

 ここ数日、意識を失う前から今まで、何もかもが去年の再現みたいで気味が悪い。唯一違うのは、一か月ではなく三日で自分もミナトも目が覚めたということだが。

 

 

「ミナト、あんた体は?」

「うぇっ……う……たぶん、問題ないよ。ちょっとだるいけど」

「よし」

 

 

 とりあえず、体については万が一の事態は起きていないようだ。少し安心する。

 あとは、自分たちが眠っていた間に何が起きて、今は13班が、人類がどの立ち位置にいるのかになるが……。

 

 

「ミロク、今どういう状況?」

「うん……三日前のこと、覚えているか? あの、ドラゴンの群れ……それから『真竜フォーマルハウト』……」

 

 

 真竜フォーマルハウト。ニアラではないドラゴンの名前。

 自分たちだけが見ていた悪夢などではなかった。それだけで、竜災害の再来を悟るには十分だ。

 

 

「ごめん……俺、何もできなかった……。一年前と全く同じだ……世界中にドラゴンが現れてたったの三日で……世界は壊滅状態だ」

「気にしないでよ、ミロク。できることをやってくれたんでしょ?」

 

 

 寝癖のついた髪を整えながらミナトがミロクを慰める。緊張からか少し強張った笑顔で、彼女は控えめに被害状況を尋ねた。

 

 

「こっちは……もうめちゃくちゃだ。生存者たちはパニックになって、そのうえ、キリノまであんなことに──」

 

「え、キリノさん……?」

「何、何があったの?」

 

「わ、わかんない……避難する途中で何かがあったらしくって、ずっと意識不明の重体なんだ……」

 

 

 意識不明の重体。

 自分たちが大事に至っていないからと薄れていた戦慄がよみがえる。ムラクモ総長で、司令塔で、前大戦でドラゴン討伐の大きな助けとなったキリノが危険な状態にある。

 ミナトと顔を見合わせる。

 ムラクモ機関も、人類の拠点としての議事堂も、昨年より拡充が進んでいるため、都庁時代よりは余裕があるだろう。けれど、今の状況は。

 

 こちらの思いを代弁するように、ミロクが目尻を下げて弱々しく言った。

 

 

「シキ、ミナト……こんな時、どうしたらいいんだ……?」

 

「戦う以外に何がある?」

 

 

 凛と芯の通った声が空気を渡る。

 橙の衣に象牙色の羽織。合わせて存在を主張する金髪。

 数日前となんら変わらない様子で、ムラクモ機関最高顧問の女性が迷いなく部屋に入ってきた。

 

 

「エメル……」

「ようやく、目覚めたか。……状況は把握したか?」

「……ミロクから聞いた」

「またドラゴンが来たんだよね。信じたくないけど」

「ああ。そして本日よりキリノに代わって、私がムラクモ総長代理に就任する。早速で悪いが、ムラクモ本部まで来てほしい」

 

 

 エメルの表情はいつもと変わらず引き締まっているが、まとう雰囲気は触れれば切れる刃のそれ。去年の竜災害中に見せていた、怒りを根底にした強すぎる信念だ。

 本当に始まってしまったのだなと今さらながらに自覚する。やることは変わらないが、時間をかけて築いてきた平穏を、皿を逆さまにするように容易くひっくり返されたのはため息をつくしかない。相変わらず、被害の規模が大きすぎる。

 

 反省会はここまでにして、部屋を出ていったエメルを追わなければ。

 ベッドから腰を上げて靴を履く。点滴を抜いてほしいとナミに告げると、彼女は複雑そうな顔で針が刺さっている箇所に触れた。

 

 

「あの、シキちゃん、ミナトちゃん。ふたりとも……怪我の手当は私たちができるし、なんならカウンセリングも可能だから、そんなに落ち込まないでね」

 

 

 なんだか念の入った言い方だ。気になって視線を送ると、ナミは気まずそうにしつつ、言葉を選んでゆっくりと話す。

 

 

「またドラゴンが来ちゃったから、議事堂の人たち、焦ってるみたいなの。だから、もしかしたらあなたたちに、今どうなっているのか、とか、質問をしてくる人もいるかもしれないけれど……」

「ああ、『なんで負けてるんだ』っていちゃもんつけてくる奴らもいるってことね」

 

 

 オブラートに包まれた言葉を解釈して返すと、申し訳なさそうに目を逸らされた。

 別に自分はいい。気にしない。異能力を持たない一般人はなす術がないのだから、そういう行動に出るのは百歩譲って文句は言わないでおく。

 ただ、前線に出たことのない奴らが安全圏から飛ばす野次など受け入れる気もない。あまりにもしつこければ、守ってやるから帝竜の前に出てみろと返すだけだ。

 

 視線を向けると、案の定ミナトは血色を悪くして床を見つめていた。ダンジョンの探索で敵が出てこないか心配するように、時折部屋の出口をちらちら伺っている。

 相変わらず人の視線ばかり気にする奴だ。議事堂には嫌味な議員もいるが、おそらく敵ではないのだから、精神的余裕は対ドラゴンに回してほしい。

 

 

(……それができてれば苦労しないか)

 

「? な、何、シキちゃん……」

「別に」

 

 

 戸惑うミナトの服をくつろげ、だらしないと思われない程度に崩す。

 髪を払い、袖をまくり、包帯やガーゼに保護された部分を露出させる。あとはサイズの大きい上着を肩にかければ、いかにも要介護の傷病人ですという装いになった。

 実際怪我人なのだ。もし部屋の外に不満を募らせているような奴らがいれば、この姿で戦闘の過酷さを見せつけてやればいい。

 

 

「文句つけてくる奴がいれば、わざとらしく怪我が痛むフリでもしなさい」

「で、でも心配かけるのはよくないんじゃ……」

「そもそもこの状態で一方的に文句言ってくるのが自分勝手なんだから、気なんか遣わなくていいでしょ。ほら、ムラクモ本部行くわよ」

 

 

 ナミに礼を言って部屋を出た。

 地下にあるムラクモ居住区から地上階にあるエントランスを進む道に、今までの活気はない。雨雲のように垂れ込める陰気に、行き来する自衛隊員が重い装備を鳴らす音。そして、遠巻きに自分たちを囲む、ネガティブな視線。

 繋いでいるミナトの手が力を込めてくる。ビビるんじゃないと念を込めて握り返す。

 視界の端に何人か議員も捉えたが、これ見よがしな格好をしているためか、声をかけてくる気配はない。

 ヒソヒソと交わされる声を抜け、堂々とムラクモ本部の扉を開け放つ。

 

 

「入るわよ!」

 

 

 喝を入れるような入室に、部屋中の視線が一気に集まり、ムラクモ、自衛隊の面々がわっと駆け寄ってきた。

 

 

「13班だ! 怪我は大丈夫?」

「あのーその……えっとなんていうか、ドンマイ!」

「本当に丸三日眠ってたんだな。目が覚めてよかったよ」

 

「ええい、話は後だ! 全員そこをどけ!」

 

 

 エメルの鋭い声が飛んで人が散り散りになっていく。

 部屋の奥ではムラクモ総長代理の彼女とシズカ、そしてリンが待っていた。

 

 

「13班! 目覚めたのか……! ええと、ここに来るまで、大丈夫だったか?」

「私は問題ない」

 

 

 ミナトを振り返って返事を促す。

 ムラクモ本部に立ち入りできるのはムラクモや自衛隊の関係者だけだ。ドラゴンについての知識や戦闘経験のある面子は、不安そうな顔をすれど、不満を向けてくることはない。この部屋は精神的安全圏だ。

 叱咤ではない温かい反応に迎えられ、ミナトは肩から力を抜いてへにゃりと笑った。

 

 

「え、えへへ……シキちゃんが守ってくれたので大丈夫でした。体の方も順調に回復してます」

「そうか、よかった」

「シキ、ミナト、待っていたぞ。シズカ! 13班に状況の説明を」

「は、はいっ!」

 

 

 エメルに促され、シズカが跳ねるように背筋を伸ばす。勢い余って踵を浮かせ、危なっかしくバランスをとりながら秘書は背後のモニターを振り返った。

 

 

「三日前に現れたフォーマルハウトは、スカイタワーを根城として、世界中の都市にドラゴンを送り込んでいます……。世界の主要都市は抵抗する間も無く、再び、ドラゴンの支配下に置かれました……」

 

 

 画面に浮かぶのは、町中の監視カメラや観測班によって設置された定点カメラからの映像だ。画質は粗いが、異形の花が繁茂しているのははっきりわかる。

 文字通りの再現だ。2020年の繰り返し。リンが首を振ってくそ、と吐き捨てる。

 

 

「どうしてなんだ? どうして、またドラゴンが……? あれから一年……ようやく平穏が戻ってきたんだ! それがこんなにあっさり……!」

「そう、たった一年で現れた真竜。そして、黒きフロワロ……」

 

 

 エメルが細い指を顎に添えて目を伏せる。「たった一年」と口にしたが、この間隔でのドラゴンの再来はありえないことなのだろうか。ドラゴンたちの常識なんぞ知る由もないからわからないが。

 ムラクモ総長代理も、断言はできずに「何かがおかしい」とだけ漏らす。

 

 

「この竜災害は何かが──狂っている。これが何を意味するのかは、さすがの私でもわからん……。どちらにしても、我々が為すべきことはただひとつ。この議事堂を足がかりにして、死力を尽くしてフォーマルハウトを狩る。それ以上でも以下でもない」

「……ですが現状、スカイタワーには致死性の高い黒いフロワロが茂っていて、近付くことさえできません……」

 

「致死性……去年見た赤いフロワロとは違った色だった」

 

 

 シズカの言葉に、無意識に眉間にしわが寄る。

 立つことはおろか、呼吸さえままならない環境を作る猛毒の黒花。思い出せば、自分たちはその花に囲まれた状態で気を失ったのだ。体に影響はないのだろうか。

 それを尋ねると、マサキをはじめとする研究員たちが現状、異常はないと教えてくれた。

 昨年の昏睡時に通常のフロワロに対する耐性がついたことに加え、シキとミナトは『竜を狩る者』。幸いと言っていいかわからないが、数日間の軽症、傷の治りが遅くなっていた、程度で済んだらしい。

 

 説明に戻り、シズカがモニターに出ている簡易的な東京の地図を手で示す。写真に合わせて23区や外の市が、ほぼ隙間なく赤で埋められた。

 

 

「東京はそのほとんどの地域を赤いフロワロに侵食されていて……除染ができているのは議事堂内だけ……です」

「状況は絶望的だが、我々には星の加護を受けた『狩る者』、ムラクモ13班がいる」

 

 

「だからこそ問おう」とエメルが見上げてくる。

 赤い瞳に自分たちが映った。血の海に体が沈んでいるように見えてしまって目を逸らしたくなる。

 けれど、自分たちを囲む世界も、彼女の口から出る問いも、全てが事実。

 否定したいのなら──覆したいのなら、方法は一つしかない。

 

 

「今回の竜との戦争は、前大戦を凌ぐ果てのない戦いとなる。……シキ、ミナト、その覚悟はあるか?」

 

「愚問ね。やられたらやり返すだけよ」

 

 

 竜が災厄を繰り返すなら、こちらも再び取り払うだけだ。覚悟なんて考える必要もない。

 隣に立つミナトを見る。同じくエメル、シズカ、リンが視線を向ける。

 パートナーは寝起きのような緩慢さで脱力し、頭も支えられないのか首を傾げて笑った。

 

 

「あー……やっぱり、そうなるよね……」

「……強制はしたくない。しかし、あまり時間もない。覚悟を……決めてほしい」

「いやぁ、覚悟なんて決まってないよ。去年からずっと」

 

 

 歯切れの悪さにシズカとリンの表情が曇っていく。

 ミナトの目はここではないどこかを見ている。空を眺めるようにあてどもなく、何かを探してぱちりぱちりとまばたきを繰り返していた。

 聞き耳を立てていたメンバーもまさかというようにこちらを見て、何かを察知したナビたちが専用席から飛び降りて走ってきた。目もとを赤く腫らす片割れの手をミロクが引いている。

 

 

「ミナト、どうした? 病み上がりだもんな、どこか調子でも悪いのか?」

「ありがとう。私は大丈夫。ミロクたちこそ無理してない?」

「オレたちはいいよ。けど、たった数日で……この一年がなかったことに……ミイナも泣き止まないし……」

「だ、だって、キリノが……! キリノ、大丈夫だよね……? このままだったら、どうしよう……う……ぐすっ……」

 

 

 世界がまたどん底に蹴落とされ、いつも隣にいた人が生死をさまよう状況は、冷静な双子の心も思った以上に蝕んでいるみたいだ。先日に見ていた笑顔が一転、ミイナは絶えず大粒の涙をこぼしている。彼女はしゃくりあげながら、「それに」と付け加えた。

 

 

「わ、私……シキとミナトにも、あんな風に、なってほしくないです。今回は運良く助かったけど、また似たようなことがあったら……」

「──」

 

 

 ミロクが手を強く握っても、シキがおおざっぱに頭を撫でてやっても少女は泣き止まない。マサキがポケットから出した怪しい色のキャンディは突っぱねられた。

 ミナトは何も言わない。次々と生まれては落ちていくミイナの涙を眺めているだけ。瞳に感情は浮かんでおらず、ただ現実を反射する鏡のようだ。

 その様子によからぬものを感じたのか、シズカが切羽詰まって一歩踏み出した。

 

 

「このままでは、いずれ議事堂もフロワロに飲み込まれてしまいます……。とても重いものを背負わせてしまいますが……13班の力がなくては、ドラゴンから世界を救うことはできません。どうか……どうか、よろしくお願いします!」

「あ、いえ、大丈夫です。協力する意思はあるので。ただ……」

 

 

 ミナトはぎこちなく体を半回転させた。ムラクモ本部の入口へ視線を送り、申し訳ないというように手を上げる。

 

 

「ちょっとだけ、時間をもらっていいですか? 三十分以内には戻ってきますから」

 

 

 具体的に時間を述べて許可を求める彼女に首を傾げ、まあいいだろうとエメルは頷いた。

 

 

「その程度なら問題ない。待っているぞ」

「外に出るなら、私ついていくけど」

「ううん。大丈夫。一人で行くよ」

 

 

 自分の申し出に頭を横に振り、ありがとうとパートナーは笑みを作る。一人でうろつけば嫌な奴らに捕まってしまいそうな気がするのだが、それを承知で彼女は大丈夫と言った。なら任せていいかもしれない。

 

 

「……なんかあったら呼びなさいよ」

「うん。それじゃあ、少しだけ席を外しますね」

 

 

 いってきます、とのんきに手を振る女が一人、重苦しい空気の中を場違いな緩さで歩いていく。

 部屋にいる全員が、意図を図りかねるという顔でミナトを見ていた。ある者は去年の彼女を知るがゆえに、ある者はその緊張感のなさに。

 

 

「あ……あ、み、ミナト!」

 

 

 混乱した様子のリンがたまらず声を上げた。

 振り返ってきょとんとするミナトに、彼女は舌を噛みそうになりながら必死に呼びかける。

 

 

「アタシは、おまえを信じてる! 一年前、世界を救った13班なら大丈夫だ! 待つよ、おまえの心が決まるまで……」

「……はぁい。ありがとうございます」

 

 

 返されたのは間延びした声と、脱力した笑顔だった。

 

 今度こそ13班の片割れはムラクモ本部から退出する。

 なにあれ、とどこからか困惑した声がこぼれた。

 

 

「なんか……様子がおかしくなかった? こんな時にまで笑う子だったっけ」

 

 

 うん、そうだ、と賛同する声が波紋のように広がっていく。

 

 

「そりゃ、二回目だもん。嫌になっちゃったんじゃないか。去年何度も死にかけて勝ったのに、またこんなことになったんだから」

「だとしたら、ちゃんと戻ってくるかな……ちょっと怖くないか?」

 

 

 彼女の挙動に対する疑問、気遣い、不安。言動に対して気が抜けているんじゃないかという場違いな指摘まで、意味をなさないノイズが本部の中に溜まり始め、それを咎める声が生まれる。

 

 連鎖するそれに、ため息を吐かずにはいられなかった。

 

 はーーーっ、と限界まで二酸化炭素を追い出し、酸素を吸い直して、

 

 

「うるさい」

 

 

 腹から発声するのと同時に震脚を一発。

 

 部屋全体が揺れ、壁に接着された大型モニターががたがた揺れる。

 無駄口を叩いていた者は全員、崩れそうになる資料と機材に抱き着くことに全神経をつぎ込んだ。当然室内は静かになって、何人かが血走らせた目でこっちを見てくる。

 

 

「くだらないことばっか口にすんな。陰口叩くんなら真夜中別のフロアとか、絶対聞かれない状況でしろ。三十分て言ってたんだから、その間待ってればいい話でしょうが」

「で、でもさぁ……彼女は何をしに行ったんだ?」

「踏ん切り付けに行ったに決まってんでしょ」

 

 

 恐る恐る尋ねてくる作業員を睨む。それでもなお言いたげな視線をちらほら感じたため、面倒だが声を大にして言ってやる。

 

 

「人によって食べ物の好き嫌いがあるでしょ、それと同じよ。あいつにはあいつのやり方がある。いい? あいつに文句言っていいのも殴っていいのも、同じ場所で肩並べてドラゴンと戦った奴しかいない」

 

 

 つまりは自分だけだと周囲に伝える。

 一心同体というのは大袈裟だけれど、それなりの時間や戦いを共にした自負はある。ミナトがいない場所でミナトのことをああだこうだ言おうがそれは全てただの想像に過ぎない。

 文句を言ってばかりの議員とは違い、ここにいる人間は戦う者に対する理解がある。堂々と説き伏せてやれば、やかましかった雑音は鳴りを潜めた。

 

 これで身内……ドラゴン討伐に何かしらの形で関わる者は、余計な行動を起こすことはないだろう。

 あとはあいつを待つだけだと腕を組む。するとリンが「すごいな」と隣で呟いた。

 

 

「おまえの言うとおりかもしれない。ミナトのこと、よくわかってるんだな」

「……」

「な、なんだ、アタシ余計なこと言ったか?」

「言ってない」

 

 

 リンが慌てたのは自分の眉間にしわが刻まれたからだろう。

 彼女は的外れなことは言っていない。ミナトのことは、議事堂の中ではパートナーである自分が最もよく知っていると言える。逆も然りだろう。

 好きな食べ物、起床時の寝ぐせ、仲の良い相手、大抵のことは把握している。戦うときの呼吸だって、傍にいるだけでよくわかる。

 志波 湊は自分が一番知っている。

 ただ、だからといって()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……」

 

 

 4月17日を思い返す。真竜フォーマルハウトが降臨する前の日。13班に割り当てられた部屋で、就寝する直前のひと時。

 あの時垣間見た物は、それまでは知らなかったパートナーの欠片。

 別に驚くことじゃない。人間、自分自身のことすら完全掌握はできないのだ。ならば別の人間を解き明かすなんて無理なことだろう。

 新しい一面なんて、これからもぽろぽろ表れる。

 

 ただ、それを目の当たりにするのは、知ることは、

 

 

(……良いことなのか、それとも、)

 

 

 そしてついさっき、あの笑顔が異様なほど完成度の高い作り笑いであると気付きながら、ミナトを一人で送り出した自分は正しかったのか。

 

 勢いをつけて首を振る。傍にいたナビたちが驚いて目を剥いた。

 何を余計なことを考えている。これじゃ数分前の周りの奴らと同じじゃないか。

 くそ、もやもやする!

 

 

「あーーーっ!!」

 

 

 謎の息苦しさを吐き出すために声を出す。

 思いの外空気は震え、また大型モニターががたがた揺れた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「ただいま戻りましたー」

 

 

 言葉通り、三十分ぴったりでミナトは帰ってきた。相変わらずの笑顔だが、今度は作り物ではない自然な表情だ。

 同じく三十分前から表情を変えずにうつむいているミイナに苦笑し、彼女を優しく抱え上げる。

 

 

「ミイナ、大丈夫?」

「だ、大丈夫です。すみません、困らせてしまって……」

「困ってなんかいないよ。……ごめん、そんな顔させるなんて、13班の年長者として失格だね」

 

「13班は私とあんたの二人しかいないけどね。それはそれとしておかえり」

「ついでに言うとムラクモ機関と自衛隊を合わせてもミナトくんは年少寄りだヨ? それはそれとしておかえり」

 

 

 シキとマサキの補足に「しーっ!」と指を立て、ミナトはミイナを抱え上げたまま続ける。

 

 

「大丈夫。キリノさんはきっと目を覚ましてくれるし、この竜災害だって乗り越えられる。ドラゴンに仕返しするために、ミイナもミロクと一緒に協力してほしいな」

「……」

「だーいじょうぶ。不安なら泣いていいよ。自然に涙が止まるように、私もできることをするからさ。例えば、帝竜を倒してくるとか」

 

 

 ミナトが片目を閉じてみせる。似合わない格好のつけかたとその言葉にリンとシズカの顔が綻び、伝播して落ち込み続けていた空気が静止した。

 つまり、と声をかける。

 

 

「やるってことで、いいのね?」

「うん。いや、元からやるつもりではあったんだけどね? ちょっと気持ちが追いついてなくて……でも、やっとエンジンかかったよ」

 

 

 自分の気持ちどうこうではなく、人の顔色を見て動く。相変わらず面倒な性格だが、去年みたいに無理だと嘆く彼女はもういない。

 無駄な心配だったなとため息をつく横で、ミイナの涙を振り落とすようにミナトは回る。慌ててしがみつく少女ナビに彼女は笑い、小指を出した。

 

 

「去年、シキちゃんが私の手を引いてくれたみたいに、今度は私も一緒に先駆けになる。顔を上げてもらえるような背中を見せて……背中を、」

 

 

 背中、と繰り返してミナトは目を伏せる。

 背に残る禍々しい痕を思い出すように眉間にしわを寄せ、彼女は再び勢いよく自身の頬を叩いた。

 

 

「背中でも手でも顔でもなんでもいいや。とにかくやるよ! ……ミイナ、一緒に戦ってくれる? ちゃんと生きて、帝竜の首を持ち帰るからさ」

「……帝竜から採取するのは、検体とDzだけですよ」

「あっ、はい」

「……ふふ。これ、去年も言った気がする」

 

 

 口に手を当ててミイナが笑う。小さく細い小指が、ミナトの小指と絡んで上下に振られた。

 

 

「シキとミナトのナビはミロクだけど、私も、私ができることをします。一緒に頑張ります」

「うん、よろしくね!」

 

 

 柔らかく抱きしめあって、ミナトはミイナを床に下ろす。ほんの少しだけ羨ましげなミロクの視線を察知して彼も抱え上げ、悲鳴と笑い声が響く中、エメルが切り替えるように咳払いをした。

 

 

「よし、それでは具体的な作戦を説明する。シズカ、続けて頼む」

「……は、はい! 日本全土は議事堂を除いて既にドラゴンの支配下で……私たちはここから離れることさえできません……」

「ああ、なのでまずは領土を奪還する。少しでも多くのドラゴンを狩って、人類の領土を少しずつ取り戻すのだ」

「まあそれしかないわよね。まずはどこ?」

「現在、東京・丸ノ内が、最優先目標に設定されています。丸ノ内は、議事堂の目と鼻の先にあり、既に著しい異界化が確認されています。また、丸ノ内のフロワロは、日に日に、その勢力を拡大しつつあり、放っておくのは……大変危険です!」

「現状はこんなところだ。……何か質問はあるか?」

 

 

 あの厄介な黒いフロワロがはびこっているのは、真竜が根城として選んだスカイタワーのみと考えていいらしい。帝竜のエリアに咲くのは去年と同じく赤いフロワロなら、活動に支障はないだろう。

 それでも心配だとリンが腕を組む。スカイタワー襲撃の一件で、こちらはハンデを抱えてのスタートになってしまった。

 

 

「13班のコンディションは、思っていた以上に悪そうだぞ。うちも負傷者が多い。このままドラゴン討伐に向かうには……」

「……うむ。13班が本調子でない現状では、まともに竜と戦える戦力はゼロに近い。ゆえに、私の独断で『策』を講じた」

「策……?」

「……すぐにわかる。ムラクモ13班。これより正式に任務を通達する」

 

 

 断崖まで追い詰められている今、まずは踏ん張るための足場を固めることが肝要だ。自分たちの能力は追々取り戻していくとして、それ以外でドラゴンに対抗しうる要素に「装備」がある。

 戦うための武具、それを生産するための設備、その環境を整えるための資材が必要だとエメルはさかのぼって説明する。

 

 

「13班は、これから丸ノ内におもむき、ドラゴン討伐を行う。その際、ドラゴンの死体から手に入れられる汎用資材『Dz』を三単位回収する……。道中のマモノ、そしてドラゴンとの実戦を経験しながら戦闘の勘を取り戻してくれ」

「了解。三日も寝てたんじゃ体鈍ってるだろうし、まずは準備運動ね」

「去年よりはマシなはず……任せてください!」

「おまえたちが万全のコンディションであれば……、……いや、これは言っても詮ないことだったな。まずは肩慣らしだ。無事、Dzを届けてほしい」

 

 

 エメルが羽織をひるがえす。誰よりも幼い体だか、揺るぎない羅針のようにまっすぐ伸ばされた腕には迷いがなかった。

 

 

「それでは現時刻をもって、丸ノ内攻略戦フェイズ1を開始する! 各員、議事堂広場に集結。出立の儀を行った後、作戦を開始する!」

 

「新しいドラゴンが現れたのなら、こちらも新しいスキルを開発すべきだネ。ふふ……、やってやろうじゃないか!」

「よっしゃー! ドラゴンなんてまた返り討ちにしてやるぜ!」

 

 

 おーっ、と各々が腕を突き上げる。

 気が滅入っているのは確かだが、何もかもが未知で暗中模索をするしかなかった去年よりはいくらかマシだ。一度竜災害を乗り越えた経験をもって事にあたれば道は拓ける。

 

 ミナトの瞳に暗雲はない。彼女を見れば視線が返されて、互いにうなずき拳を合わせ、スイッチを入れた。

 

 

「またぐずっちゃったらごめんなんだけど……よろしくね」

「今さらでしょ」

 

 

 相方の不安そうな表情を鼻で笑いとばす。そして扉を開けて一歩踏み出した矢先、「ヘイ」と呼び止められた。

 日本よりは海外を連想させる呼び方。こういうノリはだいたいチェロンだが、響いた声は男のもの。

 ならば誰だと振り返る。目に映ったのはやはり知らない顔だった。

 青い髪の男女一組。男はライムグリーンのジャケット、女はビビットピンクのインナーと、攻撃的な色をまとっている。

 

 無遠慮に上から下までこちらを眺め、男の方が口を開いた。

 

 

「ようやく、お目覚めか。……ムラクモ13班」

「……命拾いしたわね。わざわざ助けてやったんだから、泣いて感謝しなさいよ」

 

 

 初対面は第一印象が最重要だと言う。ほとんどのイメージは見た目に持っていかれるが、次に決め手となるのが振舞いだ。

 爪や牙を利用して攻撃をする獣よろしく、派手な色の二人組……特に女の方は尊大さが目に余る。

 助けたというからどこかで何かがあったのかもしれない。だがこの数秒で抱いた第一印象からして、下手に出る必要はないなと判断する。

 

 おまえ普段から下手に出ねぇだろとツッコんでくるガトウの幻は無視して、遠慮なく棘を返した。

 

 

「あんたたち、誰?」

 

 

 案の定、女の方が不敵な笑みのまま片眉を引き攣らせた。

 直近で自分たちが助けられるような状況と言えばスカイタワーの時で、確かに誰かとああだこうだしたような記憶がなくもないが、うん、おぼろげでまったくわからない。悪いが覚えていないものは仕方がないのである。

 

 宥めるように男が女の方に手を置き、値踏みするように自分を見た。

 

 

「ま、覚えてないなら、それもいいさ。この国のヒーローは、おまえたちだ」

「えーと、どちら様ですか? 私たち仕事があるので、ご用件がないなら失礼しますけど……」

 

 

 名乗りもしない二人組に、井戸端会議を終わらせるようにミナトが首を傾げる。

 どんな反応を期待していたのか、女が不満そうにため息をついて肩をすくめた。

 

 

「アンタたちの噂、こっちまで聞こえてきてたから、ちょっと楽しみにしてたんだけど……。あーあ、期待外れもいいとこ!」

 

 

 濃い紅色の瞳が何の遠慮もなく視線の矢を放ってきた。尖った爪が銃口のように自分たちに向けられる。

 

 

「これじゃショー兄どころか、アタシにだって指一本で殺せちゃいそうじゃん。アハハハッ!」

 

「あっ、シキちゃん!」

「おいイズミ!」

 

 

 侮蔑を包み隠さずぶちまけ、抉るような哄笑が廊下に響き渡る。

 甲高い声に弾かれ無意識に一歩踏み出したところで、ミナトが腰に腕を巻いて止めてきた。

 放せと言ってもパートナーは首を振って譲らない。同じく男の方も女を小突いて発言を咎めている。

 

 

「待って待って、落ち着いて! 人間同士で争ってる場合じゃないって!」

「うるさい放せ。一発殴る」

 

「ここで問題起こすんじゃねぇ! 俺たちはまだ、ここにいちゃいけねえことになってんだからな。本隊が来るまで、大人しくしてろ」

「ご、ごめん、ショー兄……」

 

 

 悪いねと男が片手をあげる。奥歯を食いしばる自分の代わりに、ミナトが低い声でいえ、とだけ返した。

 

 

「俺はショウジ・サクラバ。こっちの血の気の多いのは、妹のイズミ」

「ふん……」

 

「……志波 湊です。こっちは……んむぐっ」

「馬鹿正直に名乗るな」

 

 

 こんな時でも礼を欠かさないミナトの口を手でふさぐ。男……ショウジが片眉を上げて疑問を表すが、答える気はない。

 敬語や丁寧語と同じだ。相応の礼節を尽くす必要のない相手と判断しただけ。ミナトが名前を呼ぶのを聞いているだろうが、こんな奴ら相手に自分からフルネームを名乗るものか。

 

 

「いい加減放して。飛びかかったりしないわよ」

「ほ、ほんと? なら……」

 

 

 ミナトががっちりと絡めていた両腕をほどく。

 互いに会話の姿勢に戻ったと判断したのか、ショウジが口を開いた。

 

 

「まずはお手並み拝見とさせてもらうよ──」

 

 

 結局この兄妹は何をしに来たのだろう。重要な話ではなさそうなので、適当に聞き流す。

 

 それよりも、聞き間違いでなければこいつらは「自分たちはまだここにいてはいけないことになっている」と言った。騒ぎを起こさないように、とも。

 ということは、だ。

 

 静かに片腕を上げる。

 

 

「お互い、戦場を楽しも──」

 

「ふんっ!」

 

 

 相手が言い終わらないうちに真横の壁、設置されていた非常用のボタンに拳を叩きつける。

 指の骨がスイッチを押しこんだ直後、出番だと言わんばかりにけたたましいブザーが空気を引き裂いた。

 もちろんサクラバ兄妹はぎょっと目を見開き、余裕ぶっていた顔に焦りを浮かべた。ついでにミナトも仰天して耳を押さえた。

 三人の反応はお構いなしに通信機に向けて声を張る。

 

 

「ムラクモ! 自衛隊! 誰でもいいけど……議事堂内に不審な男女二名を発見! それぞれ銃と刃物の凶器を所持! うち一名から殺害をほのめかす発言を確認! 至急応援に来られたし!!」

「し、しししシキちゃん!? 何してるの!?」

「何って、通報」

「いやそうだけどそうじゃなくて! なぜ!?」

「別に間違ったことしてないでしょ? さっきの発言、あんたがビビってた『ドラゴンとの戦いに外野からヤジを飛ばす口先だけの雑魚』じゃない。しかも見ない連中で『ここにいちゃいけない』って言葉、ほぼ不審者で決まり。正しい方法で対処してるだけだけど」

 

「はあっ!? アンタ今何て言った!?」

「馬鹿、イズミ、やめろ!」

 

 

 わかりやすく「雑魚」を強調してやれば、今度はイズミという妹の方が前のめりになってショウジに抑えられる。

 ショウジは自分たちの様子を見て、ついでに挨拶がしたかっただけだと言う。それにしては手土産がないどころか舐め腐った態度だったのでやはり信用できない。

 

 

「ここにいちゃいけないってのは、こっちの話だ。これでも一応、おまえたちのこと心配してたんだぜ?」

「心にもないこと言うな。用事が済んだんならさっさと帰れ。盗った物は置いていけ」

「だから犯罪者扱いしないでくれる!? こんなしょぼい建物から物盗んだりするわけないでしょ!」

「はっ、どうだか。出会い頭に殺すだのなんだの口走った輩だしね」

 

 

 四方八方から大勢の足音と声が響いてくる。苦笑いを浮かべてショウジが一歩下がり、ミナトが気づかわしげに声をかけた。

 

 

「あのー……私たちもやらなきゃいけないことがあるので、このへんで。どうぞ、お帰りはあちらになります……えっと、不審者、じゃ、ないんですよね?」

「だから、違うってば……! わっ!? ショー兄!?」

「確かに用事は済んだわけだ。忠告通り帰らせてもらうよ。また今度な」

「不吉なこと言うな。おととい来やがれ」

 

 

 これでもかと毒を吐いてやるがどこ吹く風、ショウジはひらりと手を振り、イズミの首根っこをつかんで歩き出す。

 兄妹はそのまま消えるかと思いきや、寸前でイズミが曲がり角にしがみついた。言われっぱなしではいられないのだろう、顔を真っ赤にして犬歯がむき出しにされる。

 

 

「狩る者だかなんだか知らないけど! 実力もないのにちやほやされて……日本人ってほんっとバカ!!」

「初対面でどや顔で挑発してくる馬鹿よりマシよ! あんたたちだって日本の姓名でしょうが! さっさと行けこの鮫女!」

「サメ女って何よ! ていうか一緒にしないでくれる? あたしもショー兄もアメリカで生まれて育った、純粋なアメリカ人なんだから!」

「イズミ! 置いてくぞ!」

「ごめん、ショー兄! だってこいつらが……!」

「いいから、早く来い!」

「ま、待ってよ! ショー兄!」

 

 

 青いポニーテールがぱっとひるがえる。

 直後、先にムラクモ本部から退出していたリンたちが背後の曲がり角から飛び出してくる。

「凶器」に「殺害をほのめかす」という単語が効いたのか、彼女たちはガチガチの重装備に鬼の形相で「大丈夫か!!」と叫びながら陣形を組んだ。

 

 

「警報装置を増やしておいて正解だったな! ドラゴンが来て大変だって時に……、……ん? 不審者はどこだ?」

「悪い、逃げられた」

 

 

 一応謝罪の言葉と経緯を述べてもう大丈夫だと告げる。自衛隊員たちは安心したような肩透かしを食らったような顔で銃を下ろした。

 情報提供を求められたので、一連の出来事と外見的特徴を共有し、任務だからとこの場を離れる。

 警報は議事堂の人間たちに平等に聞こえていたようで、外へ続く出口に立っていたエメルも怪訝そうな顔をしていた。さらに自分を見て首を傾げ、訓練はほどほどにしておけと見当違いの注意をされる。

 この息切れは運動ではなく言い合いによるものなのだが、馬鹿正直に告げるのもなんだか嫌なので、わかったとだけ返しておいた。

 

 

「これより出動する。……準備はいいか?」

「ん、平気」

「いつでもいけるよ」

「よし、では、これより出立の儀を始める。ついてこい」

 

 

 外に出る。広場には自衛隊員、ムラクモの戦闘員はじめ前線に立つ面々が列をなしていた。背後の屋内や窓からは物珍しげな一般人の視線が集まっている。

 片手を上げて自分たちを入り口に留め、エメルはそうそうたる顔ぶれを見回した。静まる広場で、すう、と息を吸う音が口火を切る。

 

 

「これで全員、集まったな。ムラクモ13班。そして、自衛隊の諸君。これより、我々は再び竜と戦うことになる。状況は絶望的かもしれないが、何も恐れることはない」

 

 

 皆がエメルを注視する中、見送りに来ていたナースたちだけが、自衛隊員のひとりひとり、そして自分たちを悲痛な顔で見つめる。横でミナトがわずかに動き、大丈夫ですよと呼びかけるように手を振っていた。

 

 

「我々は一年前も勝利を手にしている。竜を狩る知識と経験が既にあるのだ。恐れるな、立ち向かえ! 輪廻に抗え、因果を断ち切れ! そして……」

 

「全ての竜を狩り尽くせ!」

 

 

 幼子の姿からは想像できない、怒りによって極限まで研がれた声が響き渡る。

 体に染み付いた動きで自衛隊が敬礼を返し、装備の揺れる音が法螺貝の代わりに戦いの始まりを報せた。

 




劇中の発言からしてショウジとイズミは議事堂に忍び込んできたんだと思うのですが、どこから入ってきたんですかね……。警備の人もっと頑張って!
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