2021年は平和……うおおドラゴン狩りじゃぁぁぁ!!!   作:蒲焼丼

17 / 22
半年ぶりです! 生存報告も兼ねての更新になります!
INTERMISSION1 の中の話はほぼ書き終えているので、しばらく日を置いて次話も投稿しようと思います。


Count 8. 殺竜兵器

 

 

 

 どすどすどす、と地割れを起こす勢いで絨毯を踏みしめ進む。

 ぎりぎりぎり、と歯軋りの音も添えて、エメルは議事堂内を突き進んでいた。

 先日決行された東京都庁での救助作戦はつつがなく、……人命救助「は」つつがなく成功した。リストに載っていた人間全員が無事だったのは幸いだ。

 手放しで喜べないのは、人命以外の点で損害が発生していたからである。

 13班からの報告によれば、研究室内のPCからは手当たり次第という形でデータがぶっこ抜かれていたらしい。救助された研究員の証言が確かならば、犯人は「黒い戦闘服」を着た連中で、「英語」を口走っていたとか。あてはまる集団なんてひとつしかいない。

 

 

「SECT11め……舐めた真似をしよって……! ドラゴン討伐以外に何が目的で東京へ来た!?」

 

 

 まあ、百歩譲ってデータはいいとしよう。損害は出ているが、それに対する補填はできているから。

 

 

『なんで外に出たーっ!!?』

『すみませんごめんなさいごめんなさいーーーっ!!!』

 

 

 都庁から議事堂へ帰還してくるなり、エメルよりも先に民間人が飛び出して拳骨を食らわせた少年少女……奇しくも、異能力者と判明している三人の子どもが、記憶媒体を確保していたのである。鴨川という姓を持つ少女が半べそで差し出してきたそれには、SECT11に抜かれる前のデータがしっかりと収められていた。

 目を白黒させている間に受けた説明によれば、都庁に残っていた研究員の中には、異能力の検査をきっかけに鴨川嬢と懇意にしていた者がいて、鴨川嬢はその研究員の身を案じるあまり、私物の空気銃を抱えて都庁へ向かったらしい。残りの二人、朝比奈家と奥田家の少年たちは、彼女の動きに気付き、その後を慌てて追ったそうな。

 

 

『それで……都庁について、研究員と合流し……SECT11が来るよりも前に、データを保存していたと?』

 

 

 ドラゴン討伐に役立つ貴重な研究データだ。正直、一方的に奪われることを防いだ行動についてはでかしたと言いかけたが……片やプロの戦闘集団、片や異能力者がいると言えど、場数など踏んでいない素人たちである。よくSECT11を出し抜けたものだ。驚きと安堵と疑わしさを整理できず、本当におまえたちだけでやったのかとこぼれ出た問いには、異様に力強くうなずかれた。

 ちなみに、議事堂を出る際にムラクモや自衛隊に声をかけなかったことについては、

 

 

『帝竜討伐直後なのに迷惑をかけるのは……』

『忘れてました……まじでうっかり……』

『右に同じです……まじでうっかり……』

『結果冗談じゃない迷惑かかってるんだけど、馬鹿じゃないの』

 

 

 最初が鴨川、次が奥田、その次が朝比奈、最後にばっさり切り捨てたのがシキである。

 直後にミナトがシキの口を押さえて頭を下げていたが、馬鹿げているという意見には同意だ。彼ら三人は議事堂で生活しているはずの民間人だ。……全員共通して、異能力の検査でB~S級の能力を持っていると診断はされたけれども、ムラクモには参加していない一般人なのである。

 そんな未成年が物騒な事件に巻き込まれたと知れ渡ってみろ、何かにかこつけてこちらを批判するだけの政治家連中が何を言い出すか。万が一のことがあれば、将来の戦力足り得るかもしれない若者を失っていたかもしれないのだ。いずれにせよ命綱なしの綱渡りだったのである。

 文句の一つも言ってやりたいところだったが、彼らの働きでデータが失われることはなかったし、死傷者は一人も出ていない。説教は子どもたちの身内に任せ、エメルは早々ムラクモの指揮に戻った。

 

 ……のだが。

 

 

『コード・アルファに問題発生? どういうことだ!』

『はっ……はいっ! 富士からの搬送中に、反応がロストしてしまいまして……』

『なんだと……? あれが人類にとってどれほど重要なキーかわかっているのか!?』

 

 

 数日後には部下に向かって口から怒声が飛び出していた。一難去ってまた一難とはこのことだ。

 

 

「ちょっと任せておくとすぐこうだ! これでは体がいくつあっても足りんぞ!」

 

 

 すれ違った誰かが肩を驚いてこちらを振り返ってくるが気にしている場合じゃない。

 現状、対ドラゴン戦線はしっちゃかめっちゃかで何もかもが噛み合っていない。経験も知識も手探りの状態だったという昨年のムラクモ機関の方が、まだ落ち着いて対応できていたのではとすら思う。

 ナビに13班への言付けをしていたが、腹の底から怒りが噴火している体でじっと待つことはできなかった。自身の小さな歩幅に舌打ちしながらムラクモ居住区へ突撃し、彼女たちの部屋へ駆け込む。

 

 

『13班! 緊急呼び出しだ。すぐに──』

「ええい、いつまで寝ている! さっさと起きろ、任務だ!」

 

 

 ナビのコールが響くのと扉を開け放つタイミングはほぼ同時だった。

 ターミナルの画面の中でミロクが目を丸くする。頼みの綱の女二人は休息中だったらしく、頭を押さえてベッドから跳ね起きた。

 

 

「うるっさいわね! その起こし方やめてくれない……!?」

「な、なになに、何……任務、緊急?」

「緊急事態だ。ムラクモの研究施設から議事堂に向かって輸送していた殺竜兵器が、都内でロストした!」

 

 

 さつりゅうへいき、と目の前の戦闘員たちは緊張感のない活舌で復唱する。そういえば説明をしていなかった。そこからか。

 あまりの面倒くささに漏れそうになった舌打ちを抑え込む。シキとミナトは身支度を進めつつ聞く姿勢になっていたので、逸る胸中を深呼吸で凪がせ、努めて冷静に語りかけた。

 

 

「以前、言ったな。この戦争に勝つための『策』がある、と……その策こそが殺竜兵器だ。次なる真竜の襲来に備えて、一年前から着手し、密かに作らせていた」

「何で密かになのよ、私たちにも共有しなさいよ」

「いいや、そう簡単に生み出す、増やすことができる代物ではない。それほど貴重で、真竜討伐の決定打となる武器なのだ。おいそれと情報は漏らせない」

 

 

 それこそ自分たちも輸送隊に加えるなりしろとツッコんでくるシキをひと睨みする。文句も確認も全て、今ばかりは後回しだ。とにかく説明、把握、行動が第一の事態である。

 

 

「この殺竜兵器が破損したり、第三者に奪われるようなことがあれば、フォーマルハウトへの対抗手段は永遠に失われる。事の重大さが分かったか……?」

「永遠に……替えなんてきかないくらい大事なものってことだよね? 行かない理由はないし、もちろん協力するけど……」

「よしなら行動開始だ最後に反応があったのは地下鉄の北戸線八王子駅だ13班は直ちに出動だ殺竜兵器を発見回収しろ殺竜兵器については絶対に口外してはならん肝に銘じておけ!」

「いやちょっと待って話をー!?」

「服をつかむな! 伸びるでしょうが!」

 

 

 ミナトがうなずいたのならこれ以上留まる必要はない。13班の二人の襟首をつかみ、一息で要点を伝えて議事堂から叩きだす。

 

 

「頼むぞ、傷のひとつでもつけてくれるな……!! あれは人類の命綱そのものなのだからな……!!」

 

 

 比喩でも誇大でもない。すべてはドラゴンに勝利するためだ。そのための欠けてはならないピースが、敵性体が跋扈する東京のどこかにある。

 念に念をこめて伝えれば、文句を言いかけていた13班は口を閉ざし、顔を見合わせて出発した。

 前回の大戦で人類を勝利へ導いた二人だ。大丈夫だとは思いたい、が……。

 

 

「ええい、こうしてはおれん!!」

 

 

 殺竜兵器の無事を確認するまで気など抜けるはずもない。ムラクモ本部で作戦の動向を確認するため、エメルは息をつかずに踵を返した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 車を走らせてくれた自衛隊員へ手を振り、太陽から逃れるように地下に踏み込めば、陽を浴びていない湿った空気が体を包む。

 風が吹いていないため、ここにはフロワロの香りが溜まっている。一歩進むたびに地面で淀んでいた砂埃と毒の花粉が舞い上がり、思わず口を押さえた。

 

 

『殺竜兵器は巨大なカプセルに収められているはずだ。必ず見つけ出し、無傷で持ってこい。失敗は許さんぞ!』

 

 

 自分たちとナビの呼びかけよりも早く、殺気すらまとったエメルの声が通信機から響いた。フロワロが咲いてからまだ探索の進んでいないエリアで大きな音声を出すな、マモノやドラゴンが集まってきたらどうする。

 

 

『フロワロ濃度は……何だ、他エリアより高いな……? ティアマットが支配してた丸の内からはかなり離れてるから、あいつを倒してもここのフロワロは大して減らないんだろうけど……』

『去年、ザ・スカヴァー討伐を中心に探索したのは至台場の地下道だから、ここはほぼ手が入ってない場所ですね。ただでさえ、地上の探索と整備で手いっぱいだったし……ミロクは13班の支援に集中してあげて。地形把握と分析は私が』

 

 

 怒鳴り声を浴び続けた耳を双子の声が優しく撫ぜる。ミナトがだらしなく表情を崩してミロクとミイナをかわいがっているところをよく見るが、ストレスが降り積もる今の状況ではあながち馬鹿にできない。実際、普段何とはなしにコミュニケーションを取っている彼らの声で今安心を感じているのだ、自分がどれだけ苛立っていたのかよくわかる。

 通信機の向こうから流れる声と打鍵音に双子ナビの姿を思い浮かべつつ、自分が先頭、剣の届く範囲より少し距離をとってミナトが後ろから続く。

 目標は巨大なカプセルに入っているとのことだが、はてカプセルと言われても、飲み薬やらおもちゃが入った手のひらサイズの物しか思い浮かばない。兵器そのものの外観についてさえ共有されていないのに、見つけられるのかどうか。

 ダメ元でミロクたちに尋ねてみるが、彼らも自分たちと同じく何も知らされていないらしい。殺竜兵器か、とミロクがぼんやり呟いた。

 

 

『兵器っていうくらいだから、巨大な爆弾とか、大砲とかか? 想像できないけど、エメルがこっそり作らせてたくらいだから、すごいんだろうな……』

「そんな物を輸送中になくすって、マジで何してたのよ輸送隊は」

『エメル、すごく怒っててちょっと怖いです……なんだかピリピリしてる……』

 

 

 もちろんエメル本人には届かないよう、13班とナビの間だけに限定された通話で小声を交わす。

 ぱっと見、フロワロの繁茂による異界化のパターンは、昨年散々走り回った地下道と同じだ。脱線して転がる車両に、壁に大きく穿たれた穴。地下帝竜は都内の地下を這いずってここも通っていたのかもしれない。

 となると、ここ一帯も迷路のように入り組んでいる可能性が高い。ただでさえ暗闇の中、手持ちのライトだけ視界が狭くて歩を進めにくい。未知のエリアということもあってミロクたちもできる支援が限られている。兵器に何かあってはいけないし、時間との勝負ではあるが、このままのペースではちょっとまずい。

 

 

「シキちゃんどうしよう、灯りつけようか? 電気を通す装置は見当たらないから、火を照明代わりにすることになるけど……ここ地下だから、酸素が尽きないように加減すると、ちょっとしか使えないかも」

「ライトみたいに一瞬で消灯できるならいいけど、そうじゃないんでしょ。マモノが寄ってくる可能性もあるし……、……いや、それだ」

「え?」

「ナビ、ガスとか粉塵とか、一気に引火するような危険がないか確認できる? あとできるだけ敵性体の位置をマップに反映して。よし任せる。……視界を確保するための光源はライトのままで。火が使えるなら、それは囮にして」

「あっ、なるほど……頭いい!」

 

 

 どうしたってマモノもドラゴンもいないことにはならないのだから、やり過ごして先に進むしかない。火を灯すことで事故が起きてしまわないかだけを念入りに分析し、問題ないと確認してからミナトにOKのハンドサインを向ける。

 サイキックの腕が、そこそこ開けた何もない場所を捕捉する。

 攻撃手段ではなく、目印として炎が浮かんで数十秒。息を殺しながら見守る中、あちこちの物陰から次々とマモノが這い出てくる。四足歩行の獣からうねうねとシルエットを変える異形まで、灯りを覆い尽くすほどの大漁だ。嬉しくないが。

 唇は結んだまま、ほとんど這うようにして移動する。急いでいることもあって焦りと共に心拍が加速するが、いつの世も急がば回れだ。音を立てず、停滞している空気を乱さず、慎重に。

 ある程度地下道を進んだところで、改めてナビへ周辺の反応検知を頼む。手持ちのレーダーも使って探るが、めぼしい反応はない。ライトで周辺を照らしても、浮かび上がる影にカプセルらしいものはない。

 この先は瓦礫と電車の車両が積み重なった壁で行き止まりだ。無理に崩せばマモノたちが集まってきて大混乱になるだろうから先へは進めない。となると。

 

 

(……残ってるのは……)

(『穴』ね。そこの)

 

 

 状況とアイコンタクトで互いの思考はすぐに読めた。

 電車が通るために丸く大きく掘られた地下鉄道。その壁面に大きく空いた、蛇の巣穴を思わせる洞。奥に広がるサイケデリックな苔が埋め尽くす空間。

 ザ・スカヴァーの発生で生まれたのだろう異界だ。あいつは帝竜の中でも最大の体長だったが、神奈川付近のここまで活動範囲にしていたとは。

 

 

『……よし、壁に空いた穴から奥に侵入してみよう。……今度は、ちゃんとナビゲートするからな、信じてくれ』

「大丈夫、信じてるよ。ミロクのナビだもん」

 

 

 ガトウに叱責された昨年を思い出したのか、ミロクの声はいつもより低くて慎重だ。必要な言葉はミナトが小声で返したので、自分も相槌だけしておいた。

 ミナトが灯していたむき出しの炎に知能のないマモノが触れ、耳障りな悲鳴が響く。一気に騒がしくなったマモノたちの騒音に便乗し、線路の上から壁の向こう側に駆け込んだ。

 懐かしくも嬉しくない一年振りの景色に迎えられる。緑と青の渦巻き模様とフロワロの赤が目に痛い。

 

 

『……このあたりまで前大戦の影響が残ってるな……。ん……ちょっと待てよ?』

「何、異常でもあった?」

『いや、一瞬、多数の生体反応を感知した』

「は、何? 多数?」

 

 

 わざわざ声に出してアナウンスしたのだ。ただのマモノやドラゴンとは別の反応なのだろう。なら、考えられるのは人間だが……。

 

 

『こんなところに、生存者集団が……?』

「集団……」

 

 

 なぜだろうか、本来喜ばしいはずの生存者の存在を聞いて苛立ってしまうのは。

 

 

『こっちでもう少し解析を続けてみる。13班は先に進んでくれ!』

 

「こんなところで人間の生体反応……? 多数……? 集団……?」

「し、シキちゃん? うわすごい眉間のしわ……」

 

 

 自分たちの活動範囲内に現れる複数人の人間。この情報だけで嫌な気分になってくるのはなぜだろう。

 つい最近嫌なことがあったからだと自分自身で答え合わせをする。ぼんやり浮かんでくるのは銃と英語と黒づくめだ。

 嫌な予感しかしない。気付けば頭を抱えるようにして髪をかきむしりそうになっていた。

 

 

「……頭痛くなってきたんだけど、気のせいよねこれ。生存者っていうのもきっとただの民間人のことよね。どこかの誰かさんじゃなくて」

「き、気にしすぎだよ大丈夫大丈夫! ほら顔上げて……わあ、あれは何だぁ~~~フライドラゴニカだぁ~~~!! 久々にDzが取れるぞお~~~!!」

 

 

「戦闘だ~~っ!!」とやけくそ気味な明るい声にブブブという羽音が反響しあう。

 巨大化したトンボを思わせるドラゴンは今まで確認されている敵性体の中でもかなり素早い。が、向こうがこちらに狙いを定めるより前に、ミナトの指が鳴った。

 空気に湿り気があるためか、普段より遠い射程でも問題なく氷が出現する。亀の甲羅のように羽と背を固められたフライドラゴニカは呆気なく苔むした地面に落ちた。

 

 

「ほらシキちゃん、これであとは煮るなり焼くなり……ぶわっ!?」

「あっ、馬鹿!」

 

 

 ミナトがこっちの手を引いて呑気に踏み出した瞬間、フライドラゴニカの大きな目玉が発光した。

 視界を狂わせる強烈な紫外線を浴びてのけぞる背中を受け止める。抜刀の勢いで剣を振り上げ、頭と胴を繋ぐ節を切断する。ドラゴンの首がぽんっと宙を舞った。

 

 

「……あんた思いっ切り油断してたわね?」

「い、一応デコイミラーはかけてました……」

「そういう問題じゃない。ソルマネル使って。Dzは回収しておくから」

 

 

 わかりやすくしゅんとしたミナトを壁に預け、首をはねてもわずかにのたうっているドラゴンの胴にナイフを入れる。

 去年の今頃は戦いに不慣れで反応の遅れが目立ったが、今も今で気が緩みすぎだ。フライドラゴニカの武器である羽を封じていたから大事に至らず済んだが、他のドラゴンだったら致命傷をもらっていたかもしれない。いつになっても手のかかる相棒だ。

 

 

(いや、今のは……)

 

 

 そもそも、ミナトがあんな風に動いたのは自分の動きが鈍っていたから。ドラゴンを発見するのも後衛の彼女の方が早かった。

 五感が優れ、何かあればすぐに飛び出せる自分だからこそ先陣を務めているのに、注意力散漫にもほどがある。

 体調が悪いわけじゃない。自分で把握ができていない異常があったとしても、ミロクがすぐに教えてくれるはずだ。

 だったら何だ、このもやは。

 暗い場所にいるからか、気分が重力に引かれて下へ下へと沈んでいくような気がする。手元が狂い、サバイバルナイフが見当外れの肉を抉って血が小さく噴き出した。

 

 

「……ダメだ」

「シキちゃん? どうしたの?」

 

 

 薬が効いて目の焦点が合うようになったミナトがこっちを見る。

 

 

「このままじゃダメね。一回そこら辺のドラゴンと戦って切り替えるか」

「え、わ、私そんなまずかった!? いやもちろん反省してるけどっ」

「別に。あんただけじゃないってだけ」

 

 

 ドラゴンの肉体から力任せにDzを引き千切る。へばりつく血をセーラーの裾で拭ってミナトに預けたところで、

 

 

『おい、今は時間がないのだぞ! さっさと先へ──』

 

「キャアァァァァァー!」

 

 

 エメルの説教と甲高い悲鳴が重なった。

 

 

『13班! 現在地より西側、単体の生存者とドラゴン反応だ!』

『周囲の地形スキャニング完了、そこの穴が生存者反応のある部屋へ繋がっているみたいです!』

「ちょうどいい、行くわよ!」

「了解!」

『だから時間がないと──! いや、人命も優先すべきではあるが……!』

 

 

 もごもごしているエメルの声はミュートし、ミロクとミイナの指示に従い地面に空いた大穴へ飛び込む。U字になっているトンネルを這いあがった先には、へたり込んだ女性と、今まさに飛びかかろうとしているドラゴンがいた。

 

 

『シキ、相手の左脚、上がったタイミングで狙え!』

 

 

 視界に入れた一瞬で標的の分析が済んだらしい。全身が鉱石で覆われたドラゴンの後ろ脚、地面を蹴りつけて勢いを付けようとしている左にミロクがマーカーを表示した。

 背後から巨体の下に滑り込む。通り抜けざま、地面から離れた相手の左脚に剣を引っかけ掬い上げれば、ドラゴンはバランスを崩して横転した。

 女性の保護は穴から飛び出してきたミナトに任せた。カバのような頭を持つ二足歩行の竜、アルマノスは外殻が強固で打撃も斬撃も効きにくい。今のうちに急所を突いて追い詰めないと、戦闘が長引いてしまう。

 狙うのは口の中か目玉。ワンパターンになりつつあるが、実際どの部位より柔くてダメージを与えやすいのだから、狙わない理由はない。ウォークライだってこの手で倒した。

 

 

「起きるな、そのまま寝てろ!」

 

 

 立て直そうとする体に突進し、頭の横から剣を突っ込む。切っ先は狙い通り目玉に突き刺さってアルマノスはしわがれた悲鳴を上げた。

 そのままもう片方の目まで貫通できればと思っていたが、天叢雲剣は途中でギシリと止まってしまった。頭蓋骨のどこかに引っかかったのか、単なる自分の力不足か。

 歯噛みする暇もなく、アルマノスが馬鹿力を発揮し全身で大きく跳ねる。振り払われたはずみで剣が目玉ごと頭から抜け、残った片目が忌々しそうにこちらを睨んだ。

 

 

『覚えてるか? こいつ岩を吐くのと全身で転がって轢こうとしてくるぞ、気を付けろ』

「大丈夫よ。それじゃあね」

 

 

 ミロクにではなく目の前の敵に向けて手を振る。アルマノスは鼻息荒く反撃に転じようとして──真横から来た氷の散弾にもう片方の目も潰された。

 パワータイプのドラゴンは知能が低い個体も少なくない。痛みを与えてきた相手に怒りを覚えれば、相手が複数いることなんて意識の外に放り出してしまう。

 そうしてまんまと視界を奪われた巨体を今度は火炎の檻が襲う。業火に炙られ外殻が柔くなったのを確認し、首に一太刀を叩きこんだ。

 血と煙を噴き出して倒れたドラゴンから生体反応が消える。戦闘終了だ。追撃で援護してくれたミナトへOKサインを送る。

 

 

「そっち、怪我は?」

「こっちの人はちょっと衰弱してるけど大丈夫──」

「キャアァァァァァー!」

 

 

 二度目の悲鳴がこだました。何だまたドラゴン化と身構えそうになったが、声を発したのはミナトが保護していた女性で、彼女がギラギラ光る目で捕捉しているのはまぎれもなく自分だ。彼女は「13班!」と自分たちを連呼して突進してくる。

 

 

「13班!? 今度こそ13班!? あの! 憧れの! 13班が! 私を助けに来てくれるだなんて! 夢なら覚めちゃダメ! 覚めないで、絶対!」

 

「……これ、衰弱?」

「……鎮静剤、打った方がいいかも」

 

 

 興奮気味の女性は熱烈なコミュニケーションを取ってこようとする。邪険にされるよりかはましかもしれないが、ここまで執心されても喜んでいいのかわからない。

 というか、彼女が今口走った言葉の中に引っかかるものがあった。

 

 

「『今度こそ13班』って言ったわね。私たちより前に誰かと会ってたの? それともドラゴンのこと?」

「ほわぁっ!? もももしかして私に話しかけてます!? ええっとですね、仰る通りさきほど他の方々を見かけたんですが、なんだか物騒な雰囲気だったので、私は隠れてました!」

「……黒い装備に銃火器を抱えた、英語を喋る奴ら?」

「えええ、なんでわかったんですか、さすが13班! エスパー!?」

「違う。エスパーはこっち」

「エスパーっていうかサイキックだけど……そうじゃなくて!」

 

 

 これは、と顔を見合わせる。

 脱出キットを起動させてナビと観測班に座標固定を頼む。その間にざっと周辺を見て回ったが、まだ熱の残るドラゴンやマモノの死骸と、真新しい空薬莢が発見された。

 女性が嘘を言っているようには見えないし、もう確定でいいだろう。

 生成できた脱出ポイントに未だ興奮状態の彼女を放り込む。「せめて握手を──」という声が途中で途切れ、洞窟の中は一気に静まり返った。

 

 

「……さすがにおかしくない? なんでこうも行く先々でかち合うわけ?」

「今回ばかりは……偶然とは思えないよね……帝竜がここにいるわけでもないのに」

 

 

 考えるのは後にしよう。もし、ここにいる目的が同じだとすれば、人数の多い向こうが先に探し物を見つけている可能性がある。

 顔を合わせるのはこれで二度目か三度目か。どちらにせよ、平和に交流できたことは一度もない。

 装備と道具の点検、ミロクによるバイタルチェックを済ませてさらに奥へ進めば……案の定だ。

 

 

『本当にSECT11じゃないか、どうしてここに……! さっきの生体反応はこいつらか!』

 

 

 見慣れてきた装備のアサルト兵が三人。自分たちに気付いても驚くことなく立ち話をしている。

 リーダー格の兄妹を含めた他メンバーはいない。目標であるカプセルらしい影もない。ならこの三人がここにいる意味は。

 

 

「……なぁルーシー、退屈しのぎにいっちょ賭けようぜ。何手であいつらを倒せるか、さ」

「あぁン、ゲイリー。それって素敵! なら、アタシは五手に賭けるわ」

 

 

 まあ、そういうことだろうなとため息をつく。

 現在地は大きな遮蔽物もない道だ、ある程度距離があっても向こうの英会話はよく聞こえる。

 ついでに、別方向から近付いてくる四足歩行の足音も。

 

 

『警戒! 大型のドラゴンが一体、接近中! この反応はグラナロドンだ、クソ、こんな時に……!』

「……ミナト、あんた一人でドラゴンと戦える?」

 

 

 帝竜やよっぽど強力な個体の竜相手でなければ問題ないとは思うが、一応確認しておく。

 パートナーはやや混乱したように瞬きをしながらもはっきり頷いた。

 

 

「た、戦えるけど……余波はそっちに行くかもしれないよ? いや待って、シキちゃんもしかして……」

「どっちもこっちの都合なんて考えない連中だし、同時に相手するしかない。どうしてもっていうなら交代してやってもいいけど、あんた対人戦苦手でしょ」

「いやいや、片方は人間だから、話せばわかるから! きっと、たぶん……!」

 

 

 なんて言いつつ、語尾が尻すぼみになっていくあたり自信がないのだろう。丸ノ内攻略の時のように断固反対と言い始めないうちに、それじゃ頼んだとミナトの背を押し、自分は踵を返す。

 

 

「ちょっ、シキちゃん! 相手は銃なんだからね! 無茶しちゃダメだよ!?」

 

 

 念押しする声と足音が遠ざかっていく。わかっていると手を振って、未だにヘラヘラと言葉を交わしているおちゃらけ共の前に進み出た。

 つま先で地面を叩いて急かすと、唯一顔があらわになっている金髪が他の二人をたしなめる。

 

 

「……おい、よせよ。敵には常に敬意を払う。それがステイツの勇敢なるソルジャーだろ……」

「クククっ……また出たぜ。お決まりの『勇敢なるソルジャー』だ。どうせショウジの受け売りなんだろ?」

「ショウジはこうも言ってるわよ。戦場を楽しもうってね。わざわざ極東まで来て、ドラゴン狩りも自由にできないんだから、少しくらいお楽しみがあってもいいじゃない」

「へへっ……ま、そーゆーことだな。じゃあ俺は……三手に賭けるぜ! って、あん?」

 

 

 ドゴン、という重い振動と、気合と悲鳴が混じったミナトの叫びが後ろから響く。

 ようやくこっちへ向き直ったゲイリーと呼ばれていた奴が、マスクの下で眉をひそめた、ような気がした。

 

 

「何だぁ? おチビちゃんだけかよ。もう一人は……おいおい、ドラゴンと遊んでやがる」

「ええ? それじゃあ三手もかからず終わっちゃいそうじゃない、つまんないわ!」

 

『シキ、落ち着け! 血圧上がってきてるぞ!』

 

 

 ミロクの声にミナトの念押しを思い出して、眉間に寄っていたしわをほぐす。

 そうだ、落ち着け。相手は人間。同じ異能力者ではあるが、ダイゴやタケハヤのように頑丈な体かどうかはわからない。本気で殴る蹴る斬るをしたら死んでしまう可能性だってあるのだ。

 自分の頭と口はお飾りではない。本能で殺し合うのは知性のないドラゴンと同じだ。まずは対話だ、対話から。

 

 

「……言っても無駄なのわかってるけど、私はあんたたちより理性があるから前置きしてあげる。大人しくどいて、そこ通して」

 

 

 向こうに合わせて英語で話しかけてやる。言葉の壁をこちらから超えて同じ土俵に立ってやるという出血大サービスだ。

 だというのに、

 

 

「チッチッチ、ダメだぜおチビちゃん。この先は俺らの仕事場なんだ。遊びたいなら他へ行きな?」

 

 

 だのに、

 

 

「ほら、向こうでお友だちが遊んでるじゃない。混ぜてもらえば? ああ、恥ずかしいなら一緒に声をかけてあげましょうか?」

 

 

 こいつら。

 

 

「よせって。彼女たちは丸ノ内の帝竜を倒していたんだぞ。実力はあるはずだ」

「倒したって、ショウジたちにお膳立てされたうえででしょ? 去年の竜災害でも帝竜はこの子たちが倒していたって聞くけど、きっと丸ノ内の時みたいに大人にレクチャーしてもらってたんじゃないの」

「困るぜリトルガール。どうしてもこの先に進みたいなら、パパかママを連れてきな!」

 

 

『血圧180mmHgオーバー!! シキ!!』

 

 

 ミロクが悲鳴を上げた直後、洞窟が大きく揺れる。次いで頭上で硬い物が砕ける音が聞こえた。

 遅れて聞こえるミナトの焦った声。グラナロドンが地震を起こし、自分の真上、洞窟の天井が崩れたというところだろう。

 自分を中心に、地面に直径数メートルの影が落ちる。ただでさえ薄暗い場所なのに視界がさらに暗くなり──鬱陶しくなって拳を振り抜いた。

 つむじに迫っていた大岩は思ったよりも派手に砕け散る。大小入り混じる欠片が降り注ぐ視界の中、減らず口を叩いていた輩はおもしろいくらい静かになっていた。

 

 

「ねえ」

 

 

 改めて話しかけたところで、自分の口角が不自然に上がっていることに気付いた。そういえば、人間は怒りが一定を超えると笑うことがあるとどこかで聞いたことがある。

 靴底から髪の先まで満ち満ちていた憤怒が、炭酸飲料の缶を開けるように体外へ排熱されていくのを感じる。

 今は一周回って晴れやかな気分だ。やることがはっきりして、遠慮する必要がなくなったからかもしれない。

 

 

「さっき賭けしてたわよね。私も混ぜてくれない? そこのあんたが五手、そっちのあんたは三手だったっけ? あんたは?」

 

「あ、え?」

 

 

 金髪に尋ねれば青い目が戸惑いがちにしばたかれた。通信機の向こうからは「ミナト! 早く! シキが人殺しになる!」「人殺し!!??!?」とかなんとか聞こえてきたが右から左へ流しておこう。

 

 

「賭けないの? じゃあいいわ。あんたはなしね」

 

 

 うっかり剣の身が鞘から抜けないよう、紐で鯉口をきつく縛っておく。防具に緩みがないか最終点検もして。

 さて、誰が賭けに勝つのか答え合わせだ。おっといけない。自分も賭けなければ。

 

 それじゃあ、と拳を合わせる。

 

 

「──おまえら、二手で潰す!!」

 

 

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