2021年は平和……うおおドラゴン狩りじゃぁぁぁ!!!   作:蒲焼丼

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アイドル始め各職業、異能力者の特徴についての個人的解釈があります。長ったらしくて申し訳ないですがこういう考察が好きなんです……。



幕裏3. 素早くてマナが多いかもしれなくて、耐久力は紙

 

 

 

「身長は……よし、まだ伸びてる」

「ハジメー、おまえ身長いくつだった?」

「174」

「また一緒か! 決着つかねー。体重はおれの勝ちだけどな!」

 

 

「これは筋肉の差だな」とドヤ顔で言うオクタに軽くパンチを入れる。見かけだけじゃない腹筋の固さにちくしょうと歯軋りをした。

 血液検査やカウンセリングは引っかかることなく無事通過。怪我の影響もなく、作務衣のような薄い服を着て受けた身体測定は自分もオクタもいたって健康体だと太鼓判を押されて終わった。

 

 あとは運動能力や、それ以外の特別な力がないか調べて、異能力者かどうか精査していくことになる。

 

 

「そういうことで、これから運動能力テストを始めるぞー!」

「お、おおー!」

「おおー!」

 

 

 おお、おぉ、ぉぉ……。

 

 

「……さて、やるか」

「うぃっす」

 

 

 ムラクモ機関のイッキに続いて拳を宙に突き上げる自分たちの声が、建物の壁に当たってむなしく響く。

 議事堂前の広場だと改修作業で行き来する人たちの邪魔になるということで、測定は議事堂の裏側でやることになった。表じゃなくて裏。日向じゃなくて日陰。なんだか寂しい。

 憧れの女性がいないことがモチベーションに影響して、ハジメは路上にしゃがみこんだ。

 

 

「うー、シバさんに見てもらえると思ってたのに……」

「そりゃないない! 13班は東京復興作業の手伝いでいつも引っ張りだこだよ。あの二人は働き者みたいだからな。俺はムラクモに入って日が浅いから最近知ったんだけど!」

「イッキさんもおれらみたいに声かけられてムラクモ試験受けたんすか?」

「いや、俺は戦闘員じゃなくて第2班、通称情報支援班所属なんだ。自分で言うのもなんだけど、重度の職業マニアだから、おまえたちの査定に役立てると思うぜ。デュフ……」

「お、おお、よろしくお願いします……」

 

「やあ、待たせたネ」

 

 

 個性的な笑い方をするイッキにたじろいでいると、研究者らしき白衣を来た男と、キャリアウーマンのような女性が器具を複数持って歩いてきた。

 

 

「初めまして。私はマサキ。彼女は補佐のセンゴクくんダ。イッキと一緒に君たちの能力査定を行わせてもらう。まあ能力と言っても、異能力者かどうか確かめるだけだからね。君たちが今まで学校で受けていた身体測定と何ら変わりないから、緊張しなくてもいいヨ」

「よろしくお願いします」

「お願いしまっす!」

「うんうん、元気のいい若者が協力的なのは喜ばしい限りだ。素敵な女性諸君もいることだしネ」

「女性『諸君』?」

 

 

 ここにいるのは、自分とオクタとイッキ、マサキにセンゴクの五人。女性はセンゴクしかいないはず。

 女性の諸君ってどういうことだと思った瞬間、「わ!」と聞き慣れた声と手が背中を押した。

 

 

「だっ!? ……な、ニナ!? なんでおまえ、」

「ニナ姉だけじゃないよ!」

「私たちもいまーすっ」

「シホ、ミウ!?」

 

 

 マサキの背中からシホが、センゴクの背中からミウが飛び出してポーズを決める。ニナが自分の背中からするりと抜け出して、色違いのスポーツウェアを着た長女、次女、三女は得意気な顔をして横一列に並んだ。ニナが一歩前に出て胸を張る。

 

 

「その、異能力者かどうか確かめるっていう検査、私たちも受けることにしたから」

「はあ!?」

「えっ、ニナちゃんたちも異能力者かもしれないって言われたのか?」

「いいえ、なにも」

 

 

 まさかと目を丸くするオクタにミウが頭を横に振る。

 いつの間に行動したのか、三人はムラクモ機関のキリノ総長に直談判をしにいって、能力査定を受ける許可を取ってきたらしい。総長曰く「ムラクモの情報を他言しないのであれば、積極的な姿勢は歓迎します」……だそうだ。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! いいんすか、これ!?」

 

 

 マサキは妹たちに対して歓迎ムードなので、センゴクに尋ねてみる。

 普通は駄目なんだがな、とセンゴクは凛々しい見た目に似合いの中性的な口調で、手に握る紙の束をめくった。

 

 

「2020年……去年の竜災害で、我々は国内の異能力者のデータの大半を損失してしまった。この一年を通して復旧を進めてはきたが、まだ発展途上の状態だ。データベースにない希望者がいれば、査定は一応受けてもいいことになっている。私たちとしてはありがたい。が、……マサキ主任、くれぐれも必要以上の接触は避けるように」

「嫌だなあ、どうして睨むんだい? 私が粗相をするとでも?」

「その通りです」

 

 

 ぎろり、と鋭い目つきでセンゴクはマサキを睨む。対するマサキは何のことだかわからないというように笑って肩をすくめた。

 ……とりあえず、OKということらしい。

 

 

「そういうことだ・か・ら」

「よろしくね、ハジメくん?」

「リョウゴくんもね!」

「おお、よろしく!」

 

 

 ニナが顔を覗き込むように近付いて、ミウが満面の笑みで首を傾げる。最後にシホがオクタの名前を呼んで手を振り、オクタはさらっと三人を歓迎した。場の空気が一気に体育の授業のような雰囲気に染まっていく。

 父と母は妹たちを注意しなかったんだろうか。いや、したはずだ。したけど、頑固な彼女たちが素直に頭を縦に振るはずがない。たぶん今頃、議事堂の中で呆れながらコーヒーを飲んでいると思う。

 

 

「さあ、予定の二人から五人に増えたことだし、遅れないように終わらせてしまおうか。まずは準備運動をしっかりして、短距離走のタイムから計測するヨ」

 

 

「はーい!」と妹たちの声がきれいに揃って空に伸びていく。オクタはノリノリで肩を回していた。

 

 

「よっしゃハジメ、測定のついでに勝負しようぜ!」

「気楽でいいなあ……。ていうか、おまえ俺より足遅いじゃん」

「何おぅ!? おまえなんか毎度持久走でへばって倒れそうになるじゃんかよ!」

「はぁ? いつの話だよ」

 

 

 バチバチバチと視線が空中でスパークする。

 妹たちのことは仕方ない。今さら戻れと言っても聞かないだろうし。

 というか、これはそもそも身体能力の測定だ。声をかけられた自分たちならまだしも、妹たちが異能力者というのはないだろう。たぶん。

 もうそういう話は置いておいて、今は記録の測定に集中しよう。

 

 

「……負けて吠え面かくなよ」

「こっちの台詞だっつーの」

「お、なんか燃えてる!」

「頑張れー!」

「いやおまえらも走るんだよ!」

 

「はい、それじゃあいくヨ? 位置について! ……用意、……」

 

 

 ピーッ! とホイッスルの音が響く。

 

 

「だらあああああっ!!!」

 

 

 同時に雄叫びを上げて、男子二人は走り出した。

 

 

 

 

「ママ見てー! お兄ちゃんたちが走ってるよー! ちょうはやーい!」

「あらほんと。若い子は元気ねぇ」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 結果を端的に言うと、オクタは身体型異能力者の判定を受けた。

 イッキが目を爛々と輝かせて、ヒーローものの番組で挟まれる「説明しよう!」みたいなノリで語り始める。

 

 

「デ ス ト ロ イ ヤ ー ! ! ! その名に相応しい壊し屋! デストロイヤーは異能力者の中でも体の頑丈さが秀でている。飛び抜けた筋力に体力。しっかり下地を積めば、矛も盾もこなせる典型的なパワー型だ」

「なるほど、DPSとタンクを兼ね備えてるってことっすね。何気に最強じゃねぇ?」

「うん。そして素早さは最低だな」

「最低!?」

 

 

 確かに、オクタは持久力はあるけど瞬発力はあまりない。議事堂外周の長距離走は負けたが、短距離走に反復横飛びはこちらが速かった。

 

 

「まあ、遅いつっても異能力者の中での話、一般人とは比べ物にならないから。それに、火力はそれを補って余りある。さらに、その重い一撃は少しの間、相手の体に余波を残すんだ。俺たちはそれを『D深度』と呼んでいる!」

「デストロイ深度!」

「デストロイヤーは攻撃の重さ、D深度が命! 攻撃を積み重ねて超弩級の一発を当ててやれ!」

「イヤッフーッ!」

 

 

 イッキの説明にいちいちリアクションをとり、最終的にテンションMAXで空アッパーをしたオクタは、数秒置いてこっちを振り返った。

 

 

「……つーわけだったんだけど」

「お、おう、そうか……」

 

 

 それにしても彼が腕っ節型の異能力者か。言われてみれば体格は同年代の中でもがっしりしているし、引越業者や球場でのビールの売り子など、体力勝負のバイトをいくつも掛け持ちしていた。運動ができるタイプのオタクである。

 大阪から東京に移動する間、マモノに襲われたときはいつもオクタが殴り合ってなんとか追い払ってくれたことが何度かある。思い返せば兆候はあったのだ。

 

 

「オクタ リョウゴくんだったネ。君の話は医者とミナトくんから聞いていたヨ。君の場合、元からあった素質もそうだけど、議事堂に来るまでのサバイバル生活で能力が昇華されたんだろう。これからまた細かい検査をしていくけど、おそらくA級かS級だろうネ」

「マジっすか!?」

「そんなに驚くことでもないだろう? 武器も着けてない拳一つでコンクリートにヒビを入れられたんだかラ。ただ、体の使い方をしっかり熟知していないとどれだけ頑丈でも痛めてしまうかもしれないから、そこは勉強がひつようだネ」

 

 

 数分前、オクタがパンチで小さいヒビを走らせたコンクリート片をマサキは笑って小突く。そして手の中の用紙にペンで何かを記入していった。

 次に自分たち兄妹の方を向いて、まず妹たちに一言。

 

 

「お嬢さん方。君たちはとても元気な『普通の人』だヨ。異能力者ではなかったネ」

「えー!?」

「おや、残念だったかい? でも検診の結果では実に健康な体だったヨ。それでよしとしようじゃないカ」

「主任、セクハラすれすれだぞ」

「これでかい? えー、で、」

 

 

「おめでとうでいいのかな?」とマサキはこっちに笑いかける。

 

 

「アサヒナ ハジメくん。君もたぶん異能力者ダ!」

「たぶん!? たぶんって何すか!?」

「そして、何の異能力かはサッパリダ!」

「え、えぇ……」

「じゃあセンゴクくん、お嬢さん方を親御さんのところまで送ってあげテ」

「了解。さ、行こう」

 

 

 センゴクがニナ、ミウ、シホの背中を押す。けれど三人は素直に従わずに「ちょっと待って!」としがみついた。

 

 

「おにい、どうするの!? まさかこのままムラクモに入ったりとか……」

「いや、それはまだわかんないけど」

 

 

 今の段階じゃ決められない。というか入るとしたらムラクモ試験を受けて合格しないといけないのだ。まだまだ先は不透明である。

 

 

「おとなしくしてくれ。君たちは一般人だ。ここから先は彼ら二人と私たちの話になる。ご両親が心配していただろう。さあ、戻ろう」

 

 

 センゴクが駄々をこねる妹たちを優しく、しかしきっぱりと諭す。妹たちはしばらくわーわー騒いでいたが、鋭い眼光に当てられて体をすくめ、不満そうにこっちを睨みながら帰っていった。

 はははとマサキが笑う。

 

 

「お兄さんのことが心配なのかな? 優しい妹さんたちだネ」

「そう見えます? いつもイジられてばっかなんすけど」

「私なら構ってほしいがゆえのイジリだと解釈するヨ。よし、話を戻そうか。私はさきほど、君が何の異能力者かわからないと言ったネ? あれは嘘ダ」

「あ、はい……って、え?」

「ハッハッハ。一度言ってみたかったんだヨ、この台詞」

 

 

 いや、結局どっちなんだ。

 マサキは測定器具をワゴンに乗せ、議事堂へ戻りながらマイペースに話を進める。

 

 

「サッパリだなんて言ったけど、見当がついていないわけではないんダ。何から話そうかな……イッキ、ざっくりと説明をしてあげてくれ」

「了解! 俺の出番だ!」

 

 

 ワゴンを押していくマサキに続きながら、汗を拭う自分とオクタにイッキが片手を開いて指を立てる。

 

 

「いいか、よく聞けよ? 世の中の異能力者は大きく五種類に分類される。サムライ、トリックスター、デストロイヤー、サイキック、ハッカーだ。前の三種は前衛、後の二種は後衛。さっきも話したように、オクタはデストロイヤーに該当する。おまえが持ってる腕力と体の頑丈さはデストロイヤーの典型なんだ」

「……最低の速度も?」

「最低の速度も。まあそういう能力もしっかり鍛えていけば向上……てそうか、まだムラクモに入るとは決まってないんだったな」

 

 

 イッキはもったいないと言いたげな顔で頭を掻き、「じゃあ次はおまえだ」と自分の方を向く。

 

 

「アサヒナ。体力そこそこ。腕力そこそこ。素早くて小回りがきく。体の耐久力は紙」

「紙!?」

「最初はトリックスターに近いかと思ったんだが、それらしい特殊技巧や身のこなしが身に付いているわけでもないし……スピードタイプの後衛って感じかもしれないな。これから調べていくが、マナの総量やコントロール如何で結論を出そうと思う」

「マ……え、何?」

 

 

『マナ』。ゲームでよく聞く、魔法を使うときに必要になるエネルギー。

 いきなり非現実的な単語が出てきて置いていかれそうになる。まばたきするこちらを見て、イッキとマサキは同時に笑った。

 

 

「やっぱり、普通の人はマナの話を聞くとそういう反応するよな」

「仕方ないネ。日常生活でマナは使わない。存在そのものを知らない方がむしろ一般的なのサ」

「ま、マナってあれっすか? ゲームで魔法に使うあの……いわゆるMP?」

「そう! 人間は誰しもマナを持っている! さっきも言ったように、平和な日常生活ではまったく必要ないから世間には認知されてないし、一般人が持つマナはほとんど無いに等しいけどな」

 

 

 議事堂前の広場に戻ってくる。せっせと工事を進めている自衛隊やムラクモの人員に頭を下げて進み、マサキは器具をワゴンから腕に抱えた。

 屋内の階段はワゴンじゃ進めない。自分たちも慎重に器具を抱えて二人の後についていく。

 廊下を進み、階段を下り、居住区じゃない別のフロアに入る。壁や床は他のフロアと変わりないが、行き来するのは白衣を着た研究者がほとんどで、全員が左腕にムラクモの腕章を着けていた。

 

 

「マナっていうのはね、体力とは違う自然的・精神的なエネルギーのことサ。異能力者は皆マナの加護を受けている。マナを掛け合わせることで攻撃に属性を付けたり、相手に不利益な状態を与えることができるんだヨ。……さあ、着いタ」

 

 

 研究室と書かれたプレートが下げられたドアの前に立ち、寄ってきた助手に器具を預けてマサキは振り返る。その目が妖しくきらりと光った。

 

 

「アサヒナくん、オクタくん。これから説明を兼ねて、君らの異能力の精査に入っていくつもりなんだガ……保護者の方は例外として、このフロアや研究室、我々に関する諸々を口外しないと誓えるかい?」

「え?」

「ムラクモ機関の情報はおいそれと公にできない機密事項だからネ。君たちはムラクモのことを誰かに話さなくても生きていけるだろウ? もちろん、我々はこの検査で得た君たちの情報を他人に売ったりしない。そこは保証しよウ。だから君たちも約束してほしい。自信がないなら、とりあえず異能力者であることはわかったわけだし、今日はここで解散ダ」

 

 

 脅しているわけではないだろうが真剣だ。マサキは長い前髪の間から覗く片目にしっかりと自分たちを映している。

 隣り合う友人と目を合わせて意思疎通を試そうとしたが、エスパーじゃないので口を開かずに会話するなんて無理だ。ただ、互いに考えていることが同じなのはわかった。

 

 

「もちろん、誰にも言いません」

「ムラクモはおれらを助けてくれた。売るような真似なんてしないっす!」

「そうか、ありがとう。それじゃあ入ろうカ」

 

 

 研究室の扉が開けられる。

 失礼しまーす、と言いかけて、

 

 白衣を着てポーズを決めているミナトが視界に飛び込んできた。

 

 

「どうどうシキちゃん、私白衣似合う? 頭よさそうに見える?」

「はいはい、似合ってる似合ってる……あ、マサキ」

「へへへー、研究員の人たちかっこよくて一度着てみたか……え? うわあーっ!!?」

 

 

 こっちを振り向いたミナトが驚いて飛び上がる。顔を真っ赤にしてうろたえる彼女にマサキは爽やかな笑顔で手を振った。

 

 

「やあ、お楽しみのところ邪魔するヨ」

「シバさん、どもっす!」

「あ、あれ!? オクタくんもいたの!? ハジメくんも!?」

 

 

 手を挙げたオクタに目を見開き、次に自分を見て汗を浮かべ、ミナトはシキの後ろに回った。相変わらず無表情な女子の背中から彼女は恥ずかしそうに顔を出す。

 

 

「今さら隠れたって意味ないでしょ。バッチリ見られてたわよ」

「恥ずかしがる必要なんてないじゃないカ。白衣、よく似合ってるヨ?」

「やめてください忘れてくださいごめんなさい。穴があったら入りたい!」

 

(感想は)

(控えめに言って最高)

 

 

 見えないように背中に回した拳を相棒とぶつけ合う。白衣の裾をスカートのように浮かせて回っていた姿も、自分より小さな子の背中に隠れようとして身を縮める姿も網膜に焼き付け済みだ。

 神に感謝しつつ挨拶してみる。ミナトは真っ赤な顔を脱いだ白衣で隠し、消え入りそうな声でこんにちはと返してくれた。

 

 

「ところで、13班はどうしてここに?」

「ミロクとミイナに怒られたのよ、働きすぎだって。リハビリも兼ねて仕事してるのに。今日はもう休めってキリノにも言われて……休憩がてら、資料を借りてスキルの確認でもと思ってね」

「それ、休憩とは言わないんじゃないかい?」

「体を動かしてないから休憩よ。……で、」

 

 

 シキがマサキの肩越しに顔を覗かせる自分たちをじろりと見る。鋭い視線が顔から下、腕あたりに向けられた。ムラクモの腕章を探してるんだろう。

 それが巻かれていないことを確認してシキは首を傾げる。ミナトも続いて「あれっ」と声を上げた。

 

 

「そうだ、マサキさんはともかく、君たち二人はどうしてここに……あっ!」

「なるほど、異能力者だったわけね?」

「そうなんダ。これからランキングに入るところだヨ。……君たちの手が空いているのなら色々試せたんだが……休憩を言い渡されているなら手伝ってもらうのは無理か」

 

 

 マサキが顎に手を当てた瞬間「やる!」「やります!」と13班の二人が勢いよく挙手する。

 

 

「まだ午前中よ、ちょっと仕事しただけで休んでたら、体力ありあまって逆に死ぬ!」

「何かお手伝いできることがあるならぜひやらせてください! 異能力のランキング作業は見たことないですし、興味があります!」

「でも、総長にも休憩と言われているんだろう? 私が怒られてしまうヨ」

「体調はこれっぽっちも問題ない!」

「キリノさんには私たちから説明します!」

「え~どうしようかナ~」

 

 

 いいでしょお願いと女性二人に迫られて、心なしかマサキの頬が緩む。散々もったいぶって、満更でもなさそうに彼は両腕を上げた。

 

 

「じゃあ、少し協力を頼もうカ。ハードなわけじゃないから、負担にはならないだろう。オクタくん」

「うっす! なんすか?」

「シキと軽く組手をしてみてくれ。今はサムライに転身しているが、彼女は元々デストロイヤーなんダ。異能力者の中でも同じ能力を持つ者同士、より詳細なデータが取れるはずだヨ」

「えっ!? 13班と!?」

「へえ、あんたデストロイヤーだったの」

 

 

 シキがにやりと笑う。獲物を見つけた肉食獣のような眼光がオクタを射抜き、その様子を見たミナトが苦笑いをして額に手を当てた。

 

 

「シキちゃん、軽くだよ? 軽ーく組手だからね?」

「わかってるわよ、信用ないわね」

「だって楽しそうなんだもん……戦闘でのめり込むときの顔だし」

「それじゃあ下のフロアが空いてるから、そこで頼むヨ」

 

 

 マサキが指名した何人かの研究者やシキと一緒に、オクタは移動していく。

 ドアを開けて研究室から出るとき、オクタはこっちを振り向いて笑顔でサムズアップした。某映画の溶鉱炉に沈んでいく有名なシーンが脳内再生される。何死亡フラグを立てているんだおまえは。

 これはただじゃ済まないだろうなと友の背中を見送る視界に、ミナトがひょいと顔を出す。

 

 

「じゃあハジメくん。こっちもこっちで始めようか」

「うぁっ、はい! よろしくお願いします!」

「あはは、そんなに固くならなくても大丈夫だよ」

 

 

 穏やかに笑うミナトの後ろで、イッキが彼女とこっちを交互に見て、何かを理解したように頷き、オクタと同じくぐっと親指を立てた。ちくしょう、色々と悟られている。

 マサキが次々と資料を運んできては傍にあるデスクに置いていく。その間、ミナトは人数分の椅子と小さな丸机、飲み物を用意して、長話ができる環境を整えてくれた。

 

 

「それじゃあ、君の話を再開しよう。マナは精神的なエネルギーで、君たち異能力者が特殊な技を使うときに必要とされル。また、世間一般にマナの存在は知られていない。ここまでは覚えているかい?」

「はい。日常生活では使わない、でしたっけ」

「そうそう。というか、存在を知っていても一般人には使えない。自分の意思でマナを操り、一般人には成せない技術を扱うことができる=異能力者なんダ」

「イッキさんは俺はマナが多いように見えるって言いましたけど、それは?」

「見えるというより推測だネ。君の身体測定の結果から予測したんだヨ。異能力は万能の力ではなく、大体が限定されて突出している物なんダ。ミナトくん、君たちのデータを借りてもいいかい?」

「どうぞ。……あっ! ちょっと待ってください!」

 

 

 ミナトは慌ててマスキングテープを取り出し、彼女とシキの情報が載る資料に貼りつけた。

 手渡された資料は身長の下の項目がテープによって隠されている。マサキが微笑ましく「隠す必要ないじゃないカ」と笑った。

 

 

「君もシキも健康的な体重ダ。むしろ体を張る役割なんだからもっと増やした方が──」

「怖いこと言わないでください! 健康云々は関係なく、なんか抵抗があるんです!」

「そう? シキは気にしないと思うけどネ」

「いいから、このまま続けてくださいっ」

 

 

 からかわないでほしいとミナトは顔を赤くする。その様子を見て、家で体重計に乗る妹たちを後ろから覗きこもうとして、全員から等しく回し蹴りを喰らったことを思い出した。

 うら若き女性相手に体重は気軽に振っていい話題ではない。もし不用意に触れれば四肢爆散の勢いで攻撃されても文句は言えない要素の一つ。それはムラクモでも同じらしい。口を滑らせないよう唇を引き結んで、マサキの説明を待った。

 

 

「えー、じゃあ続きだね。この資料、シキとミナトくんそれぞれのパラメーターを見てほしい」

「おお、見事に突き抜けてる部分が正反対……」

「そう。さっき言ったように、異能力は通常限定されて突出している物。デストロイヤーのシキはドラゴンも殴り殺せる最高のフィジカルを持つけど、サイキックのように膨大なマナや属性を扱うことはできない。反対に、サイキックのミナトくんは天災レベルの超常現象を起こせるけれど、フィジカルは他の異能力者に追いつかない。異能力者で身体能力とマナを扱う力が両方飛び抜けている例は極々稀なんダ。で、君のデータがこれ」

 

 

 真新しい用紙で作成された資料を出される。どこの項目も平均的で、目立つのは素早さが他より秀で、体の耐久面が低いこと。あとは、まだ分析しきれていないのか空欄になっている項目がいくつかある。

 

 

「君は素早いけれど、トリックスターのような敏捷性特化というよりはバランスがとれているような感じかナ。身体的特徴が飛び抜けているわけではない」

「じゃあ、これからマナを扱う検査をしてみて……後衛型の異能力者かどうか確定させるってことですね? 後衛なら私と同じだ」

 

 

 同類を見つけたことでミナトの周りの空気がぱっと華やぐ。嬉しそうな笑みにつられて自分も笑う。マサキが「微笑ましいネぇ」としみじみ頷いてコーヒーを飲んだ。

 

 

「君はマモノに襲われて大きな傷を負い、致死量の血を流したけど一命を取り留め、二週間で退院できるまでに回復した。異能力者に共通する凡人離れした自然治癒力を持っている。異能力者であることはほぼ確定ダ。ただ……どの職業になるんだろうネ?」

「え? ハジメくんはサイキックかハッカーじゃないんですか?」

「え? さっき、大方の見当はついてるって言ってなかったっすか?」

 

 

 ミナトと自分の質問が重なる。

 と、さらに被さってミナトが持つ通信機がピピピと音を立てた。

 

 

「はい、こちら機動13班のシバです」

『こちら10班のヒムロだ。シバ、少しいいか? この間提出された資料のことなんだが……』

 

 

 ミナトがどうしようというように顔を上げる。行っておいでとマサキが手を振り、彼女は眉尻を下げて手を合わせた。

 

 

「すみません、なるべく早く戻るようにします! ハジメくんもごめんね!」

「あ、いえ、お気になさらず」

 

 

 ミナトが慌ただしく研究室を出ていく。一人抜けてしまった状態で、マサキが脇のデスクに用意していた資料の山からいくつか紙束を抜き出した。

 

 

「ミナトくんが戻ってくるまでに話を済ませようカ。……この間もいたんだヨ。もう一人、君に似た能力の人物が。彼と君は新しい形の異能力者かもしれないんダ」

「新しい形?」

 

 

 話がさっぱり分からない。首をひねることしかできない自分に、マサキはコーヒーを飲み干し、手渡された資料を見て説明を始めた。

 

 

「竜災害で大半のデータがなくなってしまったが、2020年以前より、我々は全国の素養ある者たちの情報の更新・管理を行っていた。そして近年、君とよく似た異能力者らしい人間がぽつぽつ確認されていたんダ。調査を続けてわかったのは、マナが多いこと、身体能力だけではなく、判断能力なども含めてある程度フットワークがいいこと、……あと、失礼だけど君と同じく肉体の耐久度が紙ってことだネ」

「紙!?」

「いや、バカにしてるわけではないヨ? むしろそこが薄いか厚いかというのは、前衛なのか後衛なのか判断する重要な要素なんダ」

 

 

 ここでも紙と言われてしまった。しょぼくれる自分にイッキが「紙は紙でも一般人よりずっと頑丈な紙だぞ!」と中途半端なフォローを入れる。必死な様子から悪意がないのはわかったので、丸めていた背筋を伸ばして聞きの体勢に戻った。

 

 

「えーと……そうだ、彼と君には共通点がもうひとつある。歌手だってことだネ」

「へ?」

 

 

 口につけようとした紙コップを落としそうになる。

 マサキは上着の胸ポケットからスマートフォンを取り出して机に置いた。インクの付いた指先が画面をタップし音楽プレーヤーを開いて、めちゃくちゃ見覚えのある曲名を押す。

 静かなピアノの伴奏に乗って、自分の歌声が流れ出した。

 

 

「これ、歌ってるの君だろウ?」

 

「ぶぁっ」

 

 

 今度こそ紙コップを落とした。バシャンと麦茶が床に飛び散る。筋肉が緊張して、肌の内側から表に汗がにじみ出るのがわかった。

 

 

「おや、何を驚いているんだい? 間違ってないだろウ? ほら、ソロと、男性グループと、ときどきあの妹さんたちと活動しているじゃないか、君」

「あ、は……い。そうっす」

「なんで知ってるんだって顔だネ。君たちは全国ツアーに至った売れっ子じゃないカ。メディアへの露出もある。ムラクモにも自衛隊にも君たちのファンはたくさんいるヨ」

 

 

 その割には、そういう類の接触がまったくなかったような。いや、自慢ではなく純粋な疑問で。

 控えめな言葉を選んで質問すると、そりゃあねとマサキは笑った。

 

 

「みんな大人だからネ。ついこの間まで死にそうになっていた君たちにサインくださーいとかきゃー本物よーなんて突撃するほど非常識じゃない。ここでは無理に芸能人として過ごさなくてもいいヨ。もちろん、君の情報は伏せておくかラ」

 

 

 ……そうか。完全にプライベートな自宅ではないのに、今まで肩の力を抜いて過ごせていたのは、この人たちがそういう風に動いてくれていたからなのだ。

 ありがとうございますと頭を下げようとして、ふと疑問が脳裏をよぎる。

 ついさっき部屋を出ていったミナトについてだ。彼女は先日、ラジオ放送に妹たちの歌をリクエストしていた。

 三姉妹アイドル「tricolor」。三つ子と勘違いされるほどそっくりな長女、次女、三女が組んでいるユニットだ。リクエストしていたということは、彼女は妹たちのファンなのかもしれない。マサキが言うように気を遣ってくれていたのか、はしゃぐような反応はまったくなかったけれど。

 

 

「あのー、シバさんは俺のこと……」

「さあ、どうだろうネ? そんなに気になるなら、いっそ本人に訊いてみるのもありなんじゃないかい?」

 

 

 マサキは相変わらず微笑を浮かべている。しかし優しさではなく漫画を読んでいるようにおもしろがる顔だ。

 

 

(……あの人は俺のこと知ってんのかな?)

 

 

 知られていたら嬉しいような恥ずかしいような。知られていなかったらほっとするような寂しいような。

 大勢の注目が自分に集まることなんて何回もあった。街中で声をかけられることだって何回もあった。なのに気になる人に認知されているかどうかでここまで悶々としてしまうなんて。

 

 

「さ、本題に戻ろうカ。今までの話のまとめだヨ」

 

 

 イッキがロッカーからモップを取り出すのを横目に、マサキは話を続ける。

 

 

「サムライは身体能力。トリックスターは俊敏性。デストロイヤーは運動能力。サイキックは超感覚。ハッカーは情報技能。……以上、今までは五種の異能力者が確認されていル。だけど近年、五種とはまた別の特徴を持つ者が少しずつ確認されるようになっタ。バランスが取れた後衛寄り、というぐらいまでは判明していル。ただ、彼らは皆CからB級程度だったようで、失礼ながら良質なデータは……」

 

 

 マサキは肩をすくめる。そして「そこで君の登場ダ」と自分を指差した。

 

 

「君と、さっき言った君に似た異能力者。二人は歌手であるという共通点を持っていタ。そして今まで調べてきた者たちも、運動部で長い間主将をやってきたとか、何かの組織・団体を率いるリーダーだったりとか、ファッションモデルをやっていたとかネ。人の上に立ち、人を動かすことが得意だったり、大勢の人間を惹き付ける強い魅力……そう、『カリスマ性』のある人間だったんだヨ」

「カリスマ……っすか」

「で、中でも君と彼は総合的に能力が高く、さらに日本で広く名を知られる有名人ダ」

「それは……い、異能力?」

「何か忘れてないかい? 『マナが多い』と言っただろウ? 君の方はまだわからないけド」

 

「ただいま戻りましたーっ」

「お、ナイスタイミングだネ。ミナトくん、君の出番だ。今から色々と試してみよウ」

 

 

 小さく息を弾ませてミナトが戻ってきた。彼女はマサキから後を引き継ぎ、机と椅子を片付け、「こっち来て」と手招きをする。

 後についていくと、研究室の奥、何もない小さな部屋に案内された。分厚いガラスが張られていて、さっきまでいた場所から中を覗けるようになっている。

 ミナトは自分たちが異能力者かもしれないと教えてくれた日と同じ、猫柄のネイルを指先に着けた。確かクロウと言っていたか。

 

 

「よし、続きだね。君の異能力は、物理じゃなくて特殊能力型の可能性がある。私もサイキックでマナを使って戦うから、君の能力を引き出すお手伝いができるかもしれない」

「あの、マナが大体なんなのかはわかったんすけど……ついさっきまで知らなかったわけで、使い方とかさっぱり……」

「そうなんだよね。私も最初はそんな感じだったの。まずはイメージするところから始めてみようか」

 

 

 ガッシャン、と部屋の奥の壁が音を鳴らして動き始める。議事堂に来るまでに何度か見たマモノを模した的が出てきた。ミナトは一旦部屋の外に出て、数十分前のマサキのように腕に荷物を抱えて戻ってくる。

 刀、ナイフ、銃、ナックル、外に刃が着いた円盤、手に着けるかぎ爪などなど。色んな武器が床に慎重に下ろされる。

 

 

「使わなくても変わらない人もいるんだけど、武器を媒体……えーと、ギターに対するアンプみたいなものかな。増幅器代わりにすることで、効率よく能力を発揮できる人もいるのね。私もそうなの。まずは武器なしの状態で色々試して、何かつかめたら、どの武器でどんな形の力を使えるか実験してみようか」

「は、はいっす!」

「まずマナを使う感覚だけど、どう説明すればいいのかなー……」

 

 

 ミナトは身振り手振り交えながら、ときどき指の上に火や氷を出して説明していく。

 真剣な横顔に見入りながら、自分も見よう見まねでマナなるものを意識するところから始めてみた。

 

 ……そういえばオクタは無事だろうか。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「いやーやべー! 超強かった! さっすがムラクモ13班!」

「おまえ下で何してたんだよ……組手だっけ?」

「おう、ほとんど投げられて終わったけどな」

 

 

 オクタは思ったよりボロクソになっていた。バンダナが取れてシャツの襟が伸びて髪は埃まみれで膝がガクガク笑っている。まあ本人は満面の笑みだからひどいことはされていないと思う。たぶん。

 

 

「今はデータの集計中とかで結果が出るのは後日だけど、おれはS級の可能性が高いって言われたぜ!」

「おまえがSぅ~?」

「んだよその顔! そういうおまえは何してたんだよ?」

「マナについて勉強してた。マサキさんたちが言うには、俺は新しい形の異能力者かもしれないとかなんとか」

「何だそれかっけえずりぃぞ」

 

 

 ミナトやマサキたち曰く、人によって様々という前提はあるけれど、素質を持っている人間は何らかのきっかけで異能力に目覚め、扱えるようになるらしい。

 自分の場合、病院でマモノに襲われて負った大怪我が短期間で治ったことから、その時点で異能力が発現していた可能性が高いんだとか。

 さすがに今日だけでは、異能力者特有のマナを使う技、というのは出せなかったけれど、自分の体に変化が起きていることはわかった。超能力を扱うミナトを手本に言われるがまま瞑想すると、胸だか腹の奥で何かが渦巻くような……そんな不思議な感覚がある。

 

 とりあえず異能力を持っていた結果は家族に報告したほうがいいとのことで、昼食の時間を機に今日は解散になった。

 

 

「……なぁオクタ、おまえムラクモ入んの?」

「や、どうだろうなー。親父も母さんもムラクモは信頼してるみたいだけど、それとおれが入るのは話が別だって言ってたし」

「基本反対されるよな。うちもあんまいい顔されなかった」

 

 

 今後どう動くかはまったく考えていない。ムラクモの人間はこっちの意思を尊重してくれる。家族はもちろん心配している。

 かっこよく戦うムラクモには憧れるけれど、自分は戦いたいのか? と自問しても答えが出ない。絶対嫌だなんて嫌悪はない。でも戦いたいという意思はあるかというと……結局答えは出ないままだ。

 自分の異能力がどんなものかもはっきりしていないわけだし、進路はひとまず保留にしようと思う。

 

 居住区に入ってオクタと別れる。割り振られたスペースで過ごす家族のところに向かう背中を見送って、自分たち一家のスペースに帰った。

 

 

「ただい……」

 

 

 ま、と声を出そうとしたところで足が止まる。

 父と母が誰かと話していた。後ろ姿で顔は見えないけど、でかい。下手したら身長二メートルはいくんじゃないだろうか。その手に持っている大人サイズ湯のみがおちょこみたいに小さく見える。

 

 

「いやあ久しぶりだなぁ! あんたが死んだら俺も世も大切なものを失うところだったんだぞ? 息災みたいで安心したぜ」

「かたじけない。そちらも家族一同無事なようで安心した。これからもよろしく頼む」

 

 

 珍しくはしゃいだ笑顔を浮かべる父に武士のような口調で応える相手。青く染められ後ろに流された髪がライオンのタテガミみたいに見えた。厳つい体つきに身に着けている服はミリタリー系で、戦地帰りの軍人のような印象を受ける。

 ていうか誰、と様子を伺う自分の背中に、いつの間にかニナ、ミウ、シホがくっついていた。

 

 

「うわ、おまえらいつの間にっ」

「うわって何よ。そっちこそいつの間に戻ってきてたの?」

「おかえり、ハジメくん」

「おにい、あのオジさん誰? パパの知り合い?」

「いや、知らない」

 

 

 電車ごっこみたいに連なって観察する自分たちに母が気付いた。けらけら笑って手招きして、それに父たちも気付く。

 

 

「お、ハジメ、帰ってきたか」

「おかえりハジメ。あんたたちもそんなところで縮こまってないで、挨拶しなさい」

「えーと……っておまえら押すなよ! だぁ!?」

 

 

 ぐるりと厳ついオジさんが振り返る。ゴーグル越しの三白眼に怯えた妹たちに思い切り背中を押されて転がる。

 議事堂の冷たい床に頭突きをかました自分を、オジさんは優しく助け起こした。

 

 

「大丈夫か」

「あ、どうも、すんません……。俺、ハジメっていいます。後ろのは順にニナ、ミウ、シホっす」

「驚かせてしまった。すまない。我は猿鬼堂 吟路という」

 

 

 エンキドウ、ギンジ。めちゃくちゃ強そうな名前だ。

 エンキドウは自分たち四兄妹を数秒見つめて、「親御によく似ている」と納得したように頷いた。

 妹たちはいつの間にか母の傍にくっつくように移動していた。自分もブーツを脱いで父の隣に座る。

 父はエンキドウを仕事上のパートナーだと紹介した。去年の竜災害で連絡が取れなくなっていて、ついさっきばったり出会ったらしい。

 父は芸能事務所で所長兼マネージをしている。仕事上のパートナー……ということは、

 

 

「エンキドウさんは……えーっと?」

「おまえたちと同業者だぞ。こら、大声出すな。騒ぐなよ」

 

 

 父の答えに驚いて叫びそうになる妹たちの口が素早く塞がれる。

 自分たちと同業ということは、彼も歌手なのか。

 

 

「……演歌? ヘビメタ?」

「おまえ見た目で判断してるだろ。アニソン中心だよ」

「あ に そ ん!!?!?」

 

 

 ギャグ漫画みたいにずっこける。妹たちも同時に転んでどがしゃん、と大きな音が鳴った。

 

 

「あ、あに、あにそんってあの、アニメソング……?」

「それ以外にないだろ。あんま驚いてやるなよ、こいつ見かけによらず繊細なんだ」

「むう……やはり驚かれるか」

 

「アニソン歌手? マジで?」

「オクタはなんでここにいんだよ!?」

「いや、アニソンって聞こえたから」

 

 

 いつの間にかオクタが横であぐらをかいていた。驚いた様子のエンキドウに深く頭を下げるあたりさすがオタク、自分が好きな分野に携わる人へのリスペクトを欠かさない。

 

 

「自分が若造のときは演歌歌手を目指していた。だがなかなか芽が出ず挫折してな……そこを拾ってくれたのが、カミタカ殿だ。言われるがままアニソンの世界に踏み込んでみたが……なかなかに奥が深い」

「この声でアニソン……は、もしやあのお方では!? マジ!? おれオクタ リョウゴっていいます。握手してください!」

 

 

 父との付き合いを説明し、オクタと握手を交わしたエンキドウは「そろそろ行かねば」と立ち上がる。脇に置いていたサポーターやグローブを身に着ける彼を、父が名残惜しそうに見上げた。

 

 

「おいおい、もう帰るのか? 色々積もる話もあるだろ」

「すまない。が、議事堂にいる間は歌手ではない。他にやるべきことがある」

「やるべきこと……? 何だ、手伝えることなら相談してくれよ」

「……相談ではないが、報告しておこう。ムラクモに入ることにした」

 

 

 家族一同、手に持っていた湯のみを落とした。

 

 

「ムラクモ……? おまえ、異能力者だったのか?」

「……その判定を受けた。まだ詳しくはわからないが、協力を頼まれている。自分はできることなら彼らに力を貸そうと思ってな」

「おいおいおい、マジかよ……」

 

 

 呆ける父にエンキドウは深く頭を下げた。静かに向けられる広い背中が、もう決めたのだ、と語る。

 

 そこで、ふと思い出した。

 

 

『この間もいたんだヨ。もう一人、君に似た能力の人物が』

 

『そうだ、君との共通点がもうひとつ。歌手だってこと』

 

 

 いや、まさか、まさか、

 

 まさか。

 

 

「あの、エンキドウさん」

「なんだろうか」

「もしかして、異能力者だって判断されたとき、『何の異能力かわからない』とか『今まで確認されていた五種にあてはまらない』みたいなこと、言われませんでした……?」

「む? なぜ知っている」

「……俺も」

 

 

 力の抜けた指で自分を指す。

 俺も同じだったんですと伝えれば、エンキドウは驚いたように目を丸くした。

 

 数分後、ミナトがエンキドウを探して居住区を訪ねてくるまで、自分たちは固まったまま目を合わせていた。

 





三輪先生がたぶんTwitterにあげていたパワフル♂が「アイドル……か……」と若干照れているイラストを見た瞬間「これだ!!!!!」と思ったのが今回登場のおじさん誕生経緯でした。
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