空戦シミュレーターを極めたので異世界でエースとして君臨します 作:PlusⅨ
でもネタとしか思えない武器や料理から歴史を変えるレベルの傑作が出てくるのもまた事実である。
あれから数日後、地上待機中の俺とアレックスの元に、スクランブルが下令された。
要請してきたのはパトロール飛行中のエナと、その新たな相棒となったミッキーのペアだった。
俺たちはすかさず飛び立ち、現場へ向かった。俺たちが辿り着くまでの間に、別のルートをパトロール中だった、マオとクラリスのペアも急行させた、と地上基地の要撃管制官から連絡があった。
『とはいえ新人コンビじゃ心許ない。レイ、お前さんの部下だ。フォロー頼んだぜ』
「丸投げするなよ。死にそうにないところに誘導して、牽制に徹するように指示するのがそっちの仕事だろ」
『そうしようと思ったが、お嬢ちゃんたち、もう敵群に突っ込んじまった。血気盛んだな』
「畜生」
『隊長なら部下をちゃんと教育しておけ。死なせたくなかったらな』
「了解だ」
吐き捨てるように返答し、俺はアフターバーナーを作動させ、スカイレイを加速させる。アレックスも同じくついて来ながら、現場の仲間たちへ通信を行った。
「こちらアレックス、あと五分でミサイルレンジに入る。それまで持ち堪えて!」
『こちらエナ。私とミッキーは離脱に成功した。でも、代わりにマオとクラリスが敵機と格闘戦になって追いかけ回されてる』
「敵は何機?」
『フィッシュベッドが三機。マオに一機、クラリスに二機が食らい付いている。めまぐるしいドッグファイトになってて割り込めない』
その状況を聞き俺は内心で舌打ちした。数の上ではこちらが有利だが、ドッグファイトに持ち込まれてしまっては数の有利が活かせなくなる。
高速で飛行する相手を攻撃できる位置というのは非常に限られる。空中戦というのは、その位置の取り合いだ。そして数機がかりで襲いかかろうとも、その攻撃位置につけるのは常に一機のみだ。
空中戦とは漏斗の如し、とは撃墜王と呼ばれた名パイロットの言葉だ。味方が多くても、同じ攻撃位置に集まってしまえは空中衝突して自滅してしまう。
数の有利を活かすには、距離をとってミサイルを同時発射するか、又は誰かが囮役となって敵を引きつけているうちに、別の味方が有利な攻撃位置につくという連携が必要だ。しかしたった一機で大立ち回りを延々と続けられては、連携もクソも無い。
逆に言えば、数の上で不利な場合は、敢えてドッグファイトに持ち込んで、相手の数の有利を潰すという戦術とも言える。もっとも、こんな戦術を選べるのは、腕に相当な覚えがある奴だけだ。
つまりもし敵が敢えてそうしたならば、手強い相手と言うことになる。
「アレックス、中距離ミサイル発射準備だ」
「待ってよ、レイ、この距離じゃ敵とマオたちを区別できない。同士討ちになっちゃうよ」
「撃ちはしない。敵にロックオンアラートを聞かせてやるだけだ。それで少しは牽制になる。――マオ、クラリス。こちらレイだ。今からミサイルロックオンしたままそっちに突っ込む。その隙に離脱しろバカタレども!」
返答は無い。そんな余裕がないことぐらい承知済みだ。俺はFCSのミサイル誘導電波を照射しながら、戦闘空域へと突入した。
――――
レイ隊長の声が聞こえた。
バカタレ、という罵倒に思わず口元が緩んでしまう。隊長は無愛想なのに、人の好さが隠しきれていない。そんなマオの評価を思い出しながら、私は左ロール、左ヨーを同時に行い、背後の敵機からの機銃攻撃を避けた。
その敵機がオーバーシュートして私の前方に出てくる。絶好の攻撃チャンスだが、私はその敵を追わず、すかさずローリングシザースに移る。
まだ背後に敵は居る。その敵は、私が前方の敵を狙う瞬間を待ち構えていた。今ここで攻撃に転じるのは自殺行為以外の何者でもない。
私は上下左右に愛機のフィアットを振りながら、周囲の状況を確認する。
支援を要請していたエナさんとミッキーさんたちは離脱に成功したようだ。
あの二機は敵機の奇襲を受けて、共に翼の一部を損傷していた。飛行に問題は無いけれど、戦闘機動は無理だ。そう判断した私は、マオと共に敢えて敵にドッグファイトを挑み、乱戦に持ち込むことで二人を逃した。
ここまでは目論見通り。次はマオに逃げてもらわないと。
私の視界に一瞬だけ、マオの機体・BAC ライトニングの姿が目に入った。双発エンジンを縦に並べたその特徴的な機影は遠目でも非常にわかりやすい。イギリス人は思考は合理的だが作るものは奇天烈だ、と父はよくボヤいていた。ライトニングはそれを象徴するような機体だ。だけど、奇天烈な機体だけど性能は高い。流石は大英帝国だ。
そんなことを頭の片隅で考えながら、私はスキル・三次元高速演算を発動させた。
私の脳裏に、今見渡した光景が俯瞰図となってイメージされる。敵と味方の位置関係が一目で理解できる。私は、マオと、彼女を追う敵機と、自分の位置関係を把握し、さらにその予測進路を割り出す。
このままだと、マオは左に急旋回しようとするはずだが、敵機は既にその動きを読んで、先手を打ってその予測進路上めがけ機銃攻撃を放つ筈だ。
しかしそうなる前に、レイ隊長がレーダーを照射したようだ。私の耳元にロックオンアラートが鳴り響く。マオを追っていた敵も自分がロックオンされたことに気づいたのか、その動きが、一瞬だが戸惑ったように鈍った。
その隙に私は急旋回、急加速、マオと敵機の間に割り込む。
「マオ、今のうちに離脱して!」
「了解!って、クラリスはどーすんのさ!?」
「私は大丈夫、逃げ続けてれば死にはしない!」
マオのライトニングが離脱し、私は三機に囲まれた。ロックオンアラートが一瞬途切れ、すぐにまた鳴り出す。位置関係から見て、これは背後の敵機からだ。それに気がついた私は、新たなスキルを発動させた。
スキル・被弾回避。敵からの致命的な攻撃を確率50%で回避できる特殊スキルだ。
けれどこれは、誰がどこから攻撃してきたかを私自身がハッキリ認識していなければ効果はない。そのため、基本的に目視外や、背後からの攻撃が基本となる空中戦では使い辛いスキルとして他のパイロットからは敬遠されているマイナースキルらしい。その上、こんな乱戦だ。単独で発動させても効果は無い。
だから私は、もう一つのスキルを発動させた。
スキル・ステータスオープン。
私は、この空域にいる人たちのステータス画面を、イメージ図として周囲に浮かび上がらせた。もっとも、視界や計器を塞がないように縮小させて片隅に浮かべているので、詳しい内容はわからない。でもそれで充分だ。私が知りたいのは、「誰が私を攻撃するのか」その一点だけだから。
視界の片隅で、ステータス画面の一つが赤色に変わり点滅した。攻撃だ。脳裏の三次元イメージ図とステータスが一致する。私は即座に操縦桿を引き、フットバーを蹴飛ばして愛機を左斜め上方へと急上昇させる。
その直後、先ほどまで私の居た空間を、ミサイルが白煙を引きながら飛び去って行った。確率50%とはいえ、それは回避機動を取らなかった場合の話だ。ちゃんと回避機動を行った上てスキルを加えれば、ほぼ確実に攻撃をかわせる。
だけどロックオンアラートは鳴り止まない。三機ががりの攻撃が矢継ぎ早に私に襲いかかる。私はそれを必死になって避け続けた。
――このまま避けきれれば、敵もいずれ弾切れになる……
戦闘機が全力で戦える時間は多くない。燃料、弾薬、そしてパイロットの体力、それらは一秒毎に目に見えて減少していく。
あと数分でいい。私は避け続けるだけで、この空域での戦いを収めることができる。
回避、上昇、降下、ロール、宙返り。
私はただひたすらに愛機のフィアットを操り続け、敵の攻撃を避け続けていた。
その時だった。敵の一機が私の前方へオーバーシュートした同時に、私の背後の敵がミサイルを放った。
私は反射的に回避機動とスキル・被弾回避を発動させ、そのミサイルを避けた。
その直後、目の前の敵機が爆散した。
「えっ!?」
私が避けたミサイルが、そのまま前方の敵機を追尾し、命中してしまったのだ。
コクピット内に開いていたステータスの一つが消滅する。死んだ。あのパイロットは脱出する暇すらなく、爆炎で燃やし尽くされた。
(私が避けたせいだ。私が殺した…)
その事実に愕然とすると同時に、私はあることに思い至った。そういえばさっきからずっと鳴っていたはずのロックオンアラートが止んでいる。
「まさか……」
私が背後を振り返ると同時に、背後に二機いた敵の内、一機が爆発したのが見えた。
脳裏の三次元映像に、レイ隊長のスカイレイの機影が加わっていた。今、敵を撃墜したのは隊長だ。さらに残る一機も、その射程に収めている。
私は無意識にエアブレーキを全開にしながら操縦桿を引いていた。両手両足で操縦桿、スロットル、フットレバーを同時に操作し、急減速、急旋回、螺旋軌道を描かせながら、スカイレイと敵機の間に、私はフィアットを割り込ませた。
――――
クラリスに襲いかかっていた二機の内、一機を撃墜し、即座にもう一機もミサイルロックオンした、その直後だった。
まるで瞬間移動したかのように、俺と敵機の間に、クラリスのフィアットが出現した。
「――っ!?」
俺はミサイル発射トリガーにかけていた指を咄嗟に放し、機体を旋回させた。
危うく衝突しそうなほどの至近距離だった。
俺は離脱しながら、敵機とクラリスの方を見た。クラリスは敵の背後にピッタリと食らい付いている。攻撃には絶好のチャンスだ。
しかし――
クラリスは撃たなかった。
だが一度ならそれも不可解な話ではない。攻撃という行為は人殺しに他ならないのだ。その心理的負荷がパイロットに与える影響は大きい。兵士の誰もが容易く引き金を引けるわけでは無いのだ。
ましてやクラリスは新人だ。そんな彼女がいきなり敵機を墜とせるはずがない。
だから俺は、攻撃命令を出さなかった。代わりに通信回線を開き、彼女に呼びかける。
「離脱しろ、クラリス。そいつは俺がやる」
返事はない。彼女はまだ敵を追っている。攻撃機会は既に失したが、それでも敵機に振り切られることなく食らい付いている。
いい腕だが、しかし、一機の敵にばかり何分も掛かり続けるのは愚策でしか無い。
クラリスのフィアットが再び攻撃チャンスを得たが、彼女はやはり撃てなかった。
(……いや、あえて撃たなかったのか?)
まさか、と俺はその考えを否定しようとしたが、俺があの敵をロックオンした時に、まるでそれを遮るように割り込んできたフィアットの動きを思い出した。
(あれは意図的だったのか? いや、それこそまさかだ。どんなに腕が良くても、あんなにタイミングよく割り込めるはずが無い。まして、何故そんなことをする必要が――)
「――レイ、新たな敵機をレーダー探知したわ。きっとカナード付きよ!」
アレックスからの通信にハッとなる。確かに、新たに一機の反応が現れた。このタイミングで単機で来るなら、確かにカナード付きに間違い無いだろう。
クラリスが敵機にかかりきりになってしまっている以上、そちらには手を出せない。ならば、当初の計画どおり、俺とアレックスでカナード付きを相手にするしかない。
「アレックス、俺たちで先にカナード付きをやる。上昇して奴の頭を押さえるぞ」
「了解よ」
俺はスロットルを開けて一気に加速すると、そのまま急上昇を開始した。そのすぐ後をアレックスのスーパーセイバーも付いてくる。
「……来たか」
俺のスカイレイも敵をレーダー探知。速度マッハ2、数は一機のみ。間違いなく奴だ。クラリスめがけ一直線に突っ込んでくる。
「……させるものか」
俺は機体をさらに上昇させ、そのまま縦ループさせながらカナード付きの予測進路に向け降下を開始した。
スパローミサイル発射準備。ロックオンレーダー作動。カナード付きの側面上方からビームアタックの態勢でパワーダイブ開始。
ロックオン。
「アレックス」
「私もロックオンしたわ」
「時間差でやる。フォックス2」
俺はミサイル発射を宣言しトリガーを引いた。
スカイレイから放たれた二発のスパローミサイルが真っ直ぐに飛んでいく。
一呼吸置いてアレックスのスーパーセイバーからも二発のスパローが発射された。
俺の攻撃を避けたとしても、アレックスの攻撃が襲いかかる二段構えの作戦だ。
しかし、
「反転しただと!?」
レーダー上で敵機の機影が急に遠ざかり始めた。そのままミサイルの射程外へとあっという間に遠ざかってしまう。ミサイルは燃料を消費しきって、届かなかっただろう。
「あいつが仲間を見捨てるとはな…」
意外な成り行きに思わずそう呟いたが、すぐにそれは誤解だと気がついた。
もう一機、敵機が遠ざかっていくのを、レーダーが捉えていた。
あれはクラリスが追いかけまわしていた機体だ。クラリスは敵を撃墜できず、結局、振り切られたのだ。カナード付きはそれを確認して、すぐに離脱したのだろう。
しかし、奴がこの空域に接近したことで、俺とアレックスはそちらへの対応を余儀なくされ、敵機が離脱する隙を与えてしまったのは事実だ。カナード付きが敵機を救援に来たというなら、奴はきっちりその任務を果たしたわけだ。
とはいえ、クラリスがもし敵機を撃つことができれば、そうならなかったわけだが。
「クラリス、無事か?」
俺は通信回線を開いて呼びかけた。しかし、返事は無い。
「クラリス! 聞こえているなら応答しろ!」
もう一度叫ぶと、「……はい」とようやく気落ちしたような声が返って来た。
先程の彼女への疑念が頭を掠めたが、俺はそれを振り払った。ここは戦場の空だ。飛んでいる時に余計な疑念に囚われてしまうのは命取りになる。
「第一小隊、帰投する。アレックス、クラリス、編隊を組んでついてこい」
俺はそう宣言し、基地へ機首を向けた。
―――第9話あとがき―――
アレックスのスキルが盛り盛りになってもうた。
だれがどんなスキルをいくつ持っているかは明確に決めておらず、話の都合及び私とAIの思い付きでどんどん後付けされていく予定です。