空戦シミュレーターを極めたので異世界でエースとして君臨します   作:PlusⅨ

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 設定とは後から生えてくるもの。


第14話・キャットウーマン

 基地の滑走路へ向けて、一機の大型戦闘機が舞い降りてくる。可変翼を備えた双発の戦闘機、VFX-14トムキャットだ。

 

「思ったよりも早く入手できたんだな。もっと遅れるかと思った」

 

 俺がそう言うと、隣に居たマッキー婆さんがしわがれた甲高い声でヒッヒッと笑った。

 

「手数料をたんまりもらったからのお、最優先で取り掛かったのさ。多少は手間取ったが国家ぐるみで黙認してくれたこともあって順調に行ったわい。機体を非合法に密輸することに比べりゃ朝飯前よ」

 

「国家ぐるみで黙認って、具体的にはどうやったんだ?」

 

「先ず完成していた試作機のうち三機分をグラマン社の方で廃棄処分にしてもらってな。実験中の事故で故障したという理由じゃよ。それでバラされた部品を日本軍のF-4ファントムⅡ用の部品と偽って持ち込んだんじゃ」

 

「それを日本で組み立ててこっちに回してもらったのがアレって訳か」

 

「いやいや、まだもう少し続きがあるんじゃ。日本軍に回された部品は当然別物じゃから、書類の手違いってことで在日米軍の基地に返還されてな。そこでしばらく保管されているうちに今度はグラマン社の別の試作機用の部品として米国に返却されることになったんじゃが、その部品を載せた貨物船が出港中に試作機計画がキャンセルになってしもうたわけよ。結局行き場をなくした部品は再び日本の港に下ろされ、しばらくコンテナに収められたまま放置されることになった、と」

 

「ちょっと待ってくれ、なんでそんなにややこしいことになっているんだ?」

 

「意図的にややこしくしたからじゃよ。おかげで関連した書類が大量に発生してね。わずかなミスがどんどん重なっていき、気が付けばその所有者も責任者も誰が誰やらという状態さ。そうなったところへ、アタシが中古のF-4Dを発注したんだがの、ちょっと書き間違えてF-14って注文書に書いてしまってのお。同じ港に置いてあった大量のコンテナからVFX-14のコンテナが運ばれてアタシの工場に届いちまったってところさ」

 

「もはや訳がわからん。よくそれでアメリカや日本で大問題になってないもんだ……そうか、黙認ってそういうことか」

 

「そのとおりだ」

 

 と、別の方向から声がした。そちらへ振り返ると、ちょうど狭山司令が傍に歩み寄ってきたところだった。

 

「大統領閣下が米国大統領と日本の首相に直接交渉してくださってな。おかげでとんとん拍子さ」

 

「凄いな」

 

「ああ、まったくさすがは閣下だ。人たらしの天才だよ」

 

「いや、凄いと言ったのは大統領のことじゃない。その大統領を動かした司令の人脈に感心したんだ」

 

「お? 私のことか?」

 

「ああ、いくら満州湖水上警察が大統領直轄組織だからって、その戦術部隊の司令官がおいそれと会える相手でも無いだろう」

 

「まあ確かに、正規の手続きを踏んでいたら何年たっても無理な話だな。だから非公式な手段で直接、話を聞いてもらった」

 

「どうやったんだ」

 

「なあに、簡単な話だ。自宅で夕飯を食いながら相談したんだ。娘の頼みとあって、あっさり承諾してくれたよ」

 

「自宅? 夕飯? 娘?」

 

「言ってなかったか? 大統領閣下は私の父だ」

 

「はあっ!?」

 

「ま、正妻ではなく側室の子の一人だけどな。……どうした、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をして」

 

「豆鉄砲どころかミサイルをぶち込まれた気分だ……」

 

 突然のカミングアウトに頭が追いつかないうちにVFX-14トムキャットが滑走路に着陸した。いつのまにか格納庫前では、新型機の噂を聞きつけた他のパイロットたちも押しかけ、その姿を眺めていた。

 

「やっぱりデカイな。この基地のどの戦闘機より一回りは大きいんじゃないか?」

 

「あれで艦上戦闘機ってんだから信じられねえよな。機体が重すぎて空母の短い滑走路じゃ飛ばせないんじゃないか?」

 

「その辺はエンジン出力の向上と可変翼のコントロールによる揚力の増加、そしてカタパルトの発展で問題なかったけど、そいつはあくまで前世の話だからなぁ。この世界より十年は先の技術で開発された場合の話しだ」

 

「こっちの世界はせいぜい六十年代半ばぐらいの技術力だからな。前倒しで開発されたあの試作機が、果たして使い物になるかどうか…」

 

 背後のパイロットたちがそんな話をしながら、ちらちらと俺に視線を向けてくる。アレの管理と評価は俺が任されることになっているので、彼らの反応も当然だった。

 

 格納庫前へ牽引されて出てきた機体は、やはり大きかった。

 

 全長19m、主翼を全開にした状態での全幅20m、全高5m。大柄な体格は前世で見慣れたものだったが、この世界の基準で見るとかなり巨大だ。

 

 コクピットの風防が開き、副座式のシートから、パイロットが降りてきた。一人だけだ。フライトオフィサは居ない。

 

 そのパイロットがヘルメットを脱ぐと、クセっ気のある赤い長髪が零れ落ち、彼女――パイロットはそれを鬱陶しそうに手で撫でつけながら、こちらへと歩み寄ってきた。身長165cmほどの小柄な体躯だが、その瞳には自信に満ちた光が宿っている。挫折を知らない順風満帆な人生を送ってきたのだろう。戦場を知らない瞳だが、まあそれも当然だ。彼女は軍人ではないし、傭兵でもない。

 

 その彼女が狭山司令の前で右手を差し出した。

 

「グラマン社より派遣されてきました、アビー・ミラーです。お久しぶりです、ミス・サクラ。父がよろしくと言っておりました」

 

「歓迎するよ。父のウィリアム大佐は元気かね」

 

 狭山司令は差し出された手を握り返しながら、にこやかに尋ね返した。

 

「ええ、いつも通りお元気ですよ。あなたに会えたらきっと喜ぶでしょう」

 

「それは光栄だ。ところでトムキャットの調子はどうだったかな」

 

「最高でした! 戦闘機って、こんなにも気持ちよく飛べるのですね!セスナとは全然違いました」

 

 アビーと名乗った女パイロットは興奮気味に目を輝かせた。

 

「グラマン社の設計士である私がテストパイロットを務めろなんて言われたときは流石に耳を疑いましたが、まさか本当にたった二週間で戦闘機を飛ばせるようになるなんて、今でも信じられません。なんだか夢のようです。これが“チートスキル”と呼ばれている満州国の最高機密だったのですね」

 

「私が言うのも何だが、かなりオカルトだと思うよ。大統領以外は原理も理屈もわからない謎の力だ。必要とはいえあの“契約書”にサインしてもらった以上、三年間は君の行動に制約がかかってしまうが、そこは了承してもらいたい」

 

「もちろんです。私自身、納得してここに来ていますから。もし叶うなら、父が開発したこの機体で実戦だってこなして見せます」

 

 その言葉に狭山司令は苦笑した。

 

「勇ましいな。しかし君に万が一のことがあっては、ウィリアム大佐に合わせる顔が無い。…アビー、君は彼とともに性能評価試験を行って欲しい。紹介しよう、トムキャットの管理担当者の巣飼零士だ」

 

 そう言って俺の方へと手を向ける。俺は一歩前に踏み出して、軽く頭を下げた。

 

「巣飼だ。これからよろしく頼む」

 

「八八隊トップエースのスカイレイね。噂はホワイトから聞いているわ」

 

「ホワイト教官とも知り合いなのか。酷い噂じゃなけりゃいいが」

 

「安心して、凄腕という評価よ。このドラ猫もあなたなら乗りこなせるって太鼓判を押していたわ」

 

「いくらホワイト教官でも見たこと無い新型機の評価は下せないだろう。ただのリップサービスだ。あの人もそれくらいは言うさ。…で、実際のところどうなんだ、こいつは。飛ばしてきた君の意見を聞きたい」

 

「あら、もう仕事の話? 熱心ね」

 

「む?」

 

 アビーの反応に戸惑っていると、狭山司令に横から肘で小突かれた。

 

「相変わらずデリカシーの無い奴だな、貴様は。先ずは彼女を休ませてやれ。仕事の話はそれからだ」

 

「それもそうか。すまん」

 

「先ず控室へ案内してやれ、彼女の私物もそこに置いてある。それから居住区へ」

 

「それは俺に運べということか?」

 

「不満か」

 

「運ぶぐらい別にいいが、女性用居住区に俺が立ち入るのは拙いだろう。それこそデリカシーの問題だ」

 

「貴様からデリカシー云々言われると腹が立つな」

 

「お互い様だろう」

 

「貴様の部下たちを使え。それで問題解決だ」

 

「わかった。司令の命令だと言ってやらせよう」

 

「おい、なんで私に責任を押し付けようとするんだ」

 

「俺たちは傭兵だ。地上じゃお互い対等なんでね」

 

「この前クラリスに罰走させたくせによく言うわ」

 

 俺が狭山司令にさらに言い返そうとしたとき、傍でアハハと笑う声が聞こえた。アビーだ。

 

「ミス・サクラにここまで言わせるなんて、あなた面白い人ね。気に入ったわ」

 

「それは誉め言葉か」

 

「もちろん。あなたは知らないでしょうけれど、この人、超がつくお嬢様なのよ。こんなに気安く話せる相手なんてそうそう居ないわ」

 

 お嬢様か。確かにそれはついさっき知ったところだ。まあ知ったところで今さら態度を変えるのも不自然な気もするし、そもそもだからどうしたという気分でもある。

 

 狭山司令もその辺はあまり気にしてないようで、いつもどおり「ふん」とそっぽを向いて面白くなさそうにこう言った。

 

「こいつはこういう奴だ。というか傭兵部隊のパイロット連中はみんなこんなものだ。家柄だの権威だの全く意に介さん。私の苦労も知らずにな」

 

「自由とはそういうものでは、サクラ?」

 

「アメリカ的な自由を想像していると幻滅するぞ、アビー。それと私のことは職務中は司令と呼んでくれ。無頼な傭兵連中ばかりだが、一線は引かねば示しがつかん」

 

「は、了解しました。司令」

 

 アビーは背筋を伸ばし、綺麗な敬礼をしてみせた。狭山司令も敬礼を返し、俺に言った。

 

「では第1小隊長殿、司令の名をもって小隊員を荷物運びに使用することを命令する。ちなみに見返りを要求されたとしてもそれは小隊長のポケットマネーで支払うように。これも命令だ。以上、復唱」

 

「開き直ったな……畜生、了解、司令の名をもって小隊員を荷物運びに使用します」

 

「よし、かかれ」

 

 俺が肩を落としながら答えると、司令は満足げな顔で手を振ってその場から立ち去って行った。

 

「まったく、あれで大統領の娘とか冗談だろ」

 

「あら知っていたのね」

 

「君が着陸する直前にカミングアウトされたばかりだ。正直、今でも信じられない」

 

「でもあの若さで司令なんてやっているんだもの。正規の出世ルートを辿っていないことぐらい想像つくでしょ?」

 

「まともな経歴の奴なんて、ここには一人も居ないさ。君だってそうだろう」

 

「あら、私の経歴に興味があるのかしら?」

 

「話したければ話せばいいさ。ただ、どんな高学歴でもここじゃ意味がない。経歴じゃ敬意は得られんよ。……そうか、狭山司令もそれを分かっていたから、今まで自分からひけらかさなかったんだな」

 

 それに気が付き、俺は狭山司令のことを見直した。別に軽んじていた訳でも無いが、これからはコーヒーぐらいは文句言わずに淹れてあげようという気にはなった。

 

 そんな俺の隣で、アビーが軽くため息を吐いた。

 

「これからパートナーになろうって女性を前にして、他の女性のことばかり話題にするなんてね」

 

「出会ったばかりでいきなり嫉妬か。……悪い。冗談が過ぎた」

 

「自覚はあるみたいだけど、私へのフォローは無し?」

 

「すまん」

 

「素直なのはいいけど、意外と女慣れしていないのね。それでよく戦闘機乗りなんかやってられるわ」

 

「関係あるのか、それ」

 

「パパが言ってたわ。戦闘機を操縦するのは女性を乗りこなすより難しいって」

 

 シレっと言い放つアビーを前に、俺はどんな顔をすればいいのか分からなかった。笑えば良いのか? というかそれは下ネタじゃないのかアビーパパ?

 

「女性三人を部下に持つ凄腕のエースって聞いていたから、さぞかし浮ついたプレイボーイだろうと思っていたのに、そうでもないのね」

 

 それは幻滅なのだろうか。しげしげと俺を眺め始めたアビーの視線に堪えかねて、俺は控室へ向けて歩き出した。

 

「控室へ案内する。いい加減、君も疲れただろう。早く休め」

 

「サンクス」

 

 アビーを控室の奥にある更衣室の扉の前まで案内する。控室に届けられていた荷物から、アビーは着替えが入ったバッグを手にもって更衣室の戸を開けた。

 

「レイ、これからよろしくね」

 

「ああ」

 

「それと、私、あなたのこと別に幻滅したりしてないから。むしろホッとしたわ」

 

「……そうか」

 

「また後でね」

 

 アビーは俺に微笑むと、静かにドアを閉めた。

 

 なんだこれ、どういう意味にとればいいんだ?

 

 アビー・ミラー、初対面でいきなり距離を詰められた気がする。アレックスのような長い付き合いでもないのに、いきなりこんな馴れ馴れしくされても困るのだ。そうだ、アレックスを呼ぼう。これ以上アビーと二人きりだと精神がすり減りそうだ。というか荷物持ちで呼ぶつもりだったんだ。そうだ、早く呼ぼう。

 

 俺は控室の内線でアレックスを呼び出し、助けを請うような気持で手伝いを頼んだのだった。




―――第14話あとがき―――

 展開に困ったらとりあえず後付け設定と新キャラ投入で乗り切る。先のことは明日の自分とAIに任せるスタイル。

 なんだかんだ言ってレイはヘタレな童貞メンタル。



[登場人物設定]

名前:アビー・ミラー

性別:女性

年齢:22歳

出身地:アメリカ

 グラマン社の社員であり、VFX-14トムキャットの開発チームの一人。テストパイロットとして第八八隊に配属される。

 明るく快活な性格で誰からも愛されるタイプの美人。

 父親はアメリカ空軍のトップエースで現在はトムキャットの開発責任者であるウィリアム・ミラー大佐。父の影響で腕利きの戦闘機パイロットはプレイボーイだと思っている。そのためレイのことも「第八八隊のトップエースでプレイボーイ」と思っていた。

 アビー自身は恋多きタイプではなく、異性との恋愛よりもスポーツやゲームなどの趣味に時間を費やしたい派なので、レイに対して特別な感情があるわけではない。

 ただ、レイのことは嫌いではない。
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