空戦シミュレーターを極めたので異世界でエースとして君臨します   作:PlusⅨ

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 今回も会話シーンの半分くらいをAIに任せてます。
 AIがレイに変なことをさせ出した……


第20話・意外な素顔

 鷹峰徹がさっそく騒ぎを起こしている。さっさと何とかしろ。

 

 司令からの不機嫌な声を、俺はガンルームで電話越しにぼんやりとした頭で聞いていた。今日も終わりの見えないデスクワークに追われて、ちょっと休憩しようとデスクに突っ伏して昼寝をしていた時に内線電話が鳴り響いたのだ。

 

「鷹峰って、例の新入りか。騒ぎってなんだよ、まだ着任予定時刻じゃないだろう」

 

『基地に来る前に街で騒ぎを起こしたそうだ。貸本屋から苦情の電話がきた』

 

「貸本屋? それってあそこか」

 

『そう、貴様のいきつけのあの貸本屋だ。常連だろ。ちょっと行って謝ってこい』

 

「いやいやいや、待ってくれ。話がいきなりすぎる」

 

 俺は頭を振って眠気を吹き飛ばすと、受話器を握りしめて抗議した。

 

「第一、俺はまだあいつのこと何も知らないんだぞ。どんな奴かも分からないし、何が起きているのかもわからないのに謝罪に行けと言われても困る。だいたい、なんで俺が」

 

『鷹峰は貴様の部下だ』

 

「まだ着任してないだろ」

 

『人事発令は本日付で出されている。本人が居ようが居まいが、日付が変わった瞬間から鷹峰は第1小隊の隊員だ』

 

「なんて理不尽な理屈だ」

 

『管理職になるとはそう言う事だ、今のうちに慣れておけ』

 

「勝手に出世させるな。給料上がってないぞ」

 

『鷹峰の不始末を片付ければ報酬をくれてやる』

 

「つまり緊急任務として扱ってくれるという事だな。了解した。出撃命令をくれ」

 

 俺は念を押した上で司令の命令を受け入れた。

 

『達成条件は貸本屋の店主に詫びを入れて、それから鷹峰を連れて基地に戻って来ること。あとでさらに苦情の電話が来たら報酬は減額するからな』

 

「了解、これより出撃する」

 

 ブツッという音と共に、通信が途切れた。

 

「はぁ……」

 

 俺は天井を見上げながらため息をこぼす。なんとなく、狭山司令も同じようにため息をついているような気がした。彼女の苦労もわかるが、しかし同情する気にはならない。俺も部下に仕事を押し付けることができれば別かもしれないが。

 

「アレックス達に押し付ける訳にもいかないし、俺がやるしかないか」

 

 とりあえずまずは問題の現場を見てみないことには始まらない。俺は机の上に散らばっている資料をまとめて立ち上がると、そのままガンルームを出て行った。

 

***

 

 いつもの貸本屋に借りていた漫画を返しに行った私は、店内で珍しい光景に出くわした。

 

「レイ隊長…?」

 

「ん、クラリス? ここで何をしている?」

 

 店の奥のカウンターに座っているのはレイ隊長だった。彼は私の姿を見つけるなり、驚いた様子だった。

 

「それは私のセリフです。どうして隊長が店番をしているんですか」

 

「……どうしてと言われても、話せば長くてな」

 

 レイ隊長は深いため息を吐きながらその理由とやらを話そうとしてくれたけど、そのとき他のお客さんが本を手に私の後ろに並んでしまった。

 

「あの、隊長。他のお客様が…」

 

「そうだな。説明はあとだ。君の返却手続きを先にしてしまおう」

 

「あ、私は後でいいので、先に後ろのお客様を」

 

 私は振り返って並んでいた客を先にレジへ通した。だけどよく考えたらこのレジには店員は居らず、代わりにレイ隊長が居るのだ。お客さんを通してしまって良かったのだろうか。

 

 そんな疑問に固まってしまった私の前で、レイ隊長はお客さんを前ににこやかな笑顔を浮かべていた。

 

「いらっしゃいませ。貸出ですね、商品をお預かりします」

 

 レイ隊長はお客さんから本を受け取ると、手慣れた様子で貸し出し手続きを済ませてしまうと、代金を受け取り本を手渡していた。

 

「はい、どうぞ。ご利用、ありがとうございました」

 

 レイ隊長は最後まで営業スマイルを絶やすことなく見送った。そのあまりの手際の良さに、私は呆然と立ち尽くしてしまった。

 

「……あの、隊長?」

 

「なんだ」

 

「今のって、どういうことですか?」

 

「何がだ」

 

「いえ、だから、なんで貸本屋の店長みたいなことをしてるのかなって思って」

 

 私が尋ねると、レイ隊長は少し困った顔をして頭を掻いた。

 

「まあ、成り行きでこうなったんだが」

 

「えっと、つまり、どういう事なんでしょう」

 

「話せば長くなる」

 

 レイ隊長は言いづらそうにしながらも、ゆっくりと事情を説明してくれた。

その事情とやらは本当に長い話だった。

 

 事の起こりは、新たに第八八隊に配属される予定だった鷹峰徹というパイロットが、着任前にこの店に立ち寄ったことから始まったらしい。

 

鷹峰さんの目当ては本ではなくて、彼が探していたのはこの店の店主だった。なんでも鷹峰さんは、彼に命を救われたことがあるのだという。

 

「それで、鷹峰さんはその恩を返したくてここに来たんですよね」

 

「ああ。だが肝心の店主は不在だった。そこで鷹峰はしばらく待っていたらしいんだが、そのとき彼の相手をしていたのが、ここの看板娘でもある店員の女の子だ」

 

「はいはい、いつも笑顔が素敵なあのお姉さんですね」

 

「そうそう、その子だ。鷹峰は店主を待っている間、その子と二人きりだったらしい」

 

「ふぅん。それがどうかしたんですか?」

 

「鷹峰は彼女に惚れたんだろうな」

 

「はぁ」

 

「店主が戻ってきたときには鷹峰はもう居なかった」

 

「……」

 

「そして看板娘の女の子も居なかった」

 

「それ、ただのナンパじゃないですか?」

 

「俺もそう思う」

 

「はぁ」

 

 その後、店主は周りの店の知り合いから事情を聞いて、鷹峰さんが来たことを知ったそうだ。そもそも店主は知り合いの鷹峰さん本人から八八隊に配属されたことは聞いていたらしく、それで苦情の電話をかけ、それを受けてレイ隊長が謝罪に訪れた……と、ここまでは理解できたのだけど。

 

「そこから何がどうして店番をする羽目になったんですか」

 

「店長に頼まれたんだ。鷹峰と店員を捜してくるから、それまで店番してろってな」

 

「いくら常連でも無茶苦茶な頼みじゃありませんか、それ?」

 

「昔、図書館で仕事していたことがあるんだ。といっても通っていた学校で図書委員として働いていただけだがな」

 

「図書委員?」

 

「生徒が図書館の管理をするんだよ。日本じゃ割とよくある話さ。俺が通っていた学校はでかい図書館があってな、本屋の店員並にこき使われたもんだ」

 

「学生がそんな活動をするなんてまるで想像ができません。学生が学業以外のことをさせられるなんて」

 

「そういう文化なんだよ、日本って国は……いや、俺が知ってる前世の日本ではの話だ。こっちの日本は知らん。とにかくそういう経験があるって店主には話したことがあるし、実際にここの手伝いもしたことが何度かある」

 

「手伝っていたんですか」

 

「バイト代として、奥の休憩所を利用するときコーヒーとケーキを付けてくれるって言うからな」

 

「………」

 

 この隊長が甘いものにつられて店番を引き受けていたとは思わなかった。レイ隊長はカウンターで腕を組みながら言った。

 

「しかしまあ、今回は流石にただ働きだ。鷹峰の奴め、どうしてくれよう」

 

「あ、あの隊長? お客さん来たみたいですよ」

 

「む」

 

 扉を開ける音がして、お客さんが入ってきた。私は慌ててレジから離れる。レイ隊長はお客さんが本棚を眺めながらぶらぶらと歩いている様子を眺めながら、レジから立ち上がり本棚の整理を始めた。

 

「隊長、私も手伝っていいですか?」 

 

「経験があるのか」

 

「父の書斎はこの店くらいの広さがありました」

 

「凄いものだな……わかった。頼む」

 

 レイ隊長は私の申し出を受け入れてくれた。

 

 それからしばらくの間、私とレイ隊長は本屋の仕事に没頭した。お客さんが来たときは二人で協力して接客を行い、お客さんが帰ったらまた作業に戻る。それを何度も繰り返していくうちに、気付けば日が落ち始めていた。

 

「あいつらいつになったら帰ってくるんだ」

 

 暗くなり出した外の通りを眺めながらレイ隊長がため息を吐いた。私は壁にかけられている時計を見上げる。時刻は既に夜の七時を回っていた。仕事帰りに立ち寄った客も概ね捌けて、世間は夕食の時間だ。貸本屋への客足も一刻の空白の時間に入り、店内は再び私とレイ隊長の二人きりになった。

 

 その隙を見計らい、私たちも夕食を摂ることにした。私が三軒隣りにある近所のパン屋へ買い出しに出かけている間に、レイ隊長がコーヒーを淹れてくれていた。店内の奥の休憩スペースで二人、夕食を摂る。

 

「そういえばクラリス、君は今日、何をしにここへ来たんだ?」

 

「貸本屋ですよ。本を借りに来たに決まってます」

 

「そりゃそうだ。何を借りに来た、と訊くべきだったな」

 

「あのマンガですよ、『氷雨降る夜に』。最新刊が入荷されたと聞いて借りに来たんです」

 

 答えながら私は傍の手荷物から借りた最新刊を取り出した。これ一冊しか入荷されていなかったので仕事の合間に借りておいたのだ。公私混同、職権濫用と言われてもしょうがないので良心が痛む。だから近いうちに教会で懺悔でもするとしよう。

 

「ああ、それか。前巻はすごく気になる終わり方をしていたな」

 

「はい。私も最新刊が出るのが待ちきれなかったです。続きを読めなかったら死んで死にきれない、って隊長が以前仰ってましたけど、その気持ちが理解できてしまいました」

 

「あの時、君は俺のことを笑ったよな」

 

「申し訳ありません。漫画の魅力がこれほどまでとは……マオが掲載誌で追う派なので、ことあることに先の展開を話したがるんですよ。あの子の口を塞ぐのにどれだけ苦労したか」

 

 私の言葉を聞いて、レイ隊長が急に顔を顰めた。

 

「…なるほど、そういうことか」

 

「どうしたんですか?」

 

「この前、酷い目にあった。マオが深刻な顔をしながら相談に乗って欲しいというから聞いてやったんだ。そしたらあいつ、最新刊の内容をベラベラ話しやがった。誰も聞いてくれないからストレスが溜まっていたんだと。アホかあいつ」

 

「そういえば隊長から酷く怒られたって言っていましたね」

 

「アレックスも掲載誌派だから俺もそうだと決めつけてペラペラ喋りやがった。俺も楽しみにしていたのになぁ…畜生」

 

 目に見えて落ち込んだレイ隊長が不憫に思えて、私はおずおずと最新刊を差し出した。

 

「あの、よろしければ先にお読みになりますか」

 

「いや、そこまでしなくていい。ただ…」

 

「ただ?」

 

「俺だけネタバレされて悔しいから、先に展開を話してもいいか?」

 

「絶対にやめて下さい!」

 

 私は最新刊をバッグに戻した。

 

「読まないのか?」

 

「まだ仕事中です。途中でお客さんが来て読書を中断したら、先が気になって接客に身が入らなくなるじゃないですか」

 

「真面目なようで割と自分本位な意見だな」

 

「本音ですので」

 

「納得のいく答えだよ」

 

 そう言ってレイ隊長は微笑んだ。つられて私もクスリと笑う。この人の前では何も取り繕う必要が無い。その気楽さが、とても好きだ。最近、仕事以外で共通の話題ができたことも気楽さの一因だと思う。

 

「あの、隊長…ネタバレ抜きで漫画の話しません?」

 

「つまり?」

 

「隊長的に、知ってしまったその展開は予想通りでしたか? 期待通りでしたか?」

 

「それズルくないか!?」

 

「ストーリーも佳境に入ったところでのどんでん返しの引きでしたからね。先の展開が想像もつかないですし、これでもし期待外れな展開だったらどうしようと不安でしょうがなくて……」

 

「入れ込み具合が思いの外重症だな」

 

「離れ離れになっていた恋人同士がようやく再会できて感動のキスシーンというところで、まさかの敵同士だと判明して別れることになるなんて誰が思うんですか。そんな残酷なことありますか。こんな結末ならいっそ死んだ方がマシですよ」

 

 私はテーブルに突っ伏しながら嘆いた。レイ隊長が呆れながら首を振った。

 

「だめだこれは。こんなんじゃ先に読んでしまった方が気が楽だろう。接客はもういいから最新刊をさっさと読んでしまえ」

 

「いいんですか、ありがとうございます」

 

 私はすぐにバッグから最新刊を再び取り出した。一度深呼吸をして早る気持ちを押しとどめながら、ページを開く。

 

 そこには待ち焦がれていた物語の続きがあった。

 

「……はぅぅ、良かったぁ」

 

 読み終えた私を前に、レイ隊長がコーヒーを啜りながら言った。

 

「思いの外、ベタな展開だったな、というのが俺の感想だ」

 

「何を言っているんですか。こういうのでいいんです、こういうので。愛し合う二人は幸せなキスをして終了。最高じゃ無いですか」

 

「キス、か……」

 

 そう呟いてレイ隊長が目を細めた。何やら考え込んでいるような表情だ。

 

「どうしたんですか、隊長?」

 

「いやな、ちょっと気になったんだが、その、西洋じゃキスとかは挨拶がわりと聞いたことがあるような無いような気がしたんだが……実際のところ、どうなんだ?」

 

 いったい急にどうしたのだろう? レイ隊長にしては随分と歯切れの悪い質問だった。私は訝しみながらも、祖国での暮らしを思い出しながら答えた。

 

「そうですね、人によると思いますが、親しい間柄では頬に軽く唇を触れさせる程度の軽いスキンシップはしますね」

 

「やっぱりするのか」

 

「はい。家族同士では親愛の情を示すためによくやりますよ」

 

「へぇ」

 

「……いったい、どうしたんですか?」

 

「何が?」

 

「この漫画の話題にしては不自然です。隠し事してませんか?」

 

「いや、それは…」

 

 レイ隊長は言い淀んだが、しかし私に本音で話せと命令したことを彼自身も思い出したのだろう。

 

 彼は渋い表情のまま、ポツリと呟いた。

 

「…昨日、アビーからキスされた」

 

「はぁっ!?」

 

 思わず大きな声が出てしまった。他に客がいなくて良かった。いやでも、キス!? アビーさんが、レイ隊長に!?

 

「いや、だから頬へのキスだぞ! つまり単なる挨拶とかそういうレベルだろ!? 変なことじゃないんだろ!?」

 

「変ですよ! 挨拶のキスってのは家族とかそういう仲でのことです! 仕事の同僚程度じゃしませんよ!」

 

「そ、そうなのか…?」

 

「あ、いえ、でも挨拶のキスにもいくつかありますから、あながち…うん、あながち……なくもない、です」

 

 私は自分に言い聞かせるようにそう言った。何故そう言い聞かせているのか自分でもよくわからないが。

 

 まあ実際、知人友人レベルでも頬キスに近い挨拶はする時もある。軽くハグしながら、一瞬だけ頬と頬を寄せ合い、唇は接触させずにチュッと音だけ鳴らすやり方だ。

 

 そんなごく軽い挨拶でもアジアでは一般的では無いことぐらい、私も知っている。だからレイ隊長も、ちょっとそれで驚いてしまったのだろう。きっとそうだ。

 

「念のために訊きますが、どういう状況で、どんな感じにされたんですか?」

 

「あ、ああ、確か──」

 

 レイ隊長が語った昨日の話を聞き、私は頭を抱えてしまった。

 

 戦闘のショックで落ち込んでいたところを慰めてもらって、挙句、レイ隊長の無事を祈るためのお守り代わりのキスとか、これのどこが挨拶レベルですか。こんなのもう火を見るよりも明らかじゃないですか。

 

 というかどうしてアビーさんにだけそんなに優しいんですか。私の時とは対応が大違いじゃないですか。夜通し走らされた私は何なんですか。

 

 まぁあれは私が自ら言い出したことではありますし、レイ隊長も付き合ってくれたのでそれはそれで良いんですけど。それにもともと開発要員であるアビーさんと、志願して戦闘要員になった私とじゃ扱いが違うのも当然だと分かってはいます。分かってはいますけど!

 

 でも何か納得いかないというか……。

 

「く、クラリス…? 急に黙って、どうした?」

 

「いいえ、なんでもありません。大丈夫です、気にしないでください。アビーさんのことも、あれはただの挨拶レベルのキスです。ええ、そうです」

 

「そうか…なら、安心した」

 

「安心…ですか」

 

「ああ。てっきり、アビーが俺のことを、その…す…好きなのかと勘違いしそうになってな」

 

「ええ、無いですね。あり得ないです。まったく無いです」

 

「…いや、そこまで強く否定しないで欲しいんだが」

 

 珍しく弱気で戸惑っている隊長を前に、私は内心で舌を突き出していた。いつもなら本音を隠さずなんでも口にできるけれど、どうしてだか今だけはその気持ちを表に出したくなかった。自分でも気持ちがうまく整理できない。

 

 そんな時、ちょうど店に客がやってきたので、私はこれ幸いと席を立って仕事に戻った。レイ隊長も同じく仕事に戻り、これでこの話題は立ち消えとなって、私は少しホッとしたような、でもやっぱりちょっと残念なような──

 

──あぁ、本当に自分の気持ちがよくわからない……

 

 

 

 そんなこんなで夜八時になってしまった。このままでは帰りのバスに乗り遅れてしまう。というかもうすぐ閉店の時間だ。

 

「どうします?」

 

「扉を閉めて鍵をかける。レジも閉めろ。売り上げを確認する必要は無い」

 

「了解しました。で、それからは?」

 

「鷹峰と看板娘と店長を探す。手分けして近所に聴き込みだ」

 

「ですね」

 

 大きくため息を吐くレイ隊長と共に店を閉め、二人で外に出た時のことだった。通りの向こうから三人の人影が近づいてきたのが見えた。背の高い青年と大柄な中年男性が、互いの肩を組んで大声で笑いながら歩いてくる。そしてその後を女性がニコニコと笑顔でついて来ていた。

 

 その姿を見て私は胸を撫で下ろした。大柄の男性は店長、後ろの女性は看板娘だ。ようやく帰って来てくれたようだ。では長身の男性が鷹峰さんなのだろうか。

 

「遅い」

 

 不機嫌に言い放ったレイ隊長の前で、三人は足を止めた。

 

「よおレイ。店番ありがとうな。助かった」

 

「助かったじゃないですよ。いったい今まで何をやっていたんですか」

 

「昔の知り合いと再会したんだから飲みに行くに決まってるだろう」

 

 ちっとも悪びれた様子の無い店長。その息は確かに酒臭かった。

 

「他人に店番押し付けておいてよく飲みにいけるな、あんた。どんな神経してるんだ」

 

「レイは細か過ぎるんだよ。そんなんじゃ世の中やっていけねえぞ」

 

「あんたが貸本屋を営んでいられるのが不思議だよ。いや、酔っ払いにこれ以上何を言っても無駄だ。それより」

 

 レイ隊長は店長と肩を組んで……というか酔ってフラフラになっている店長に肩を貸して支えている青年に目を向けた。

 

「君が鷹峰だな」

 

「ああ、そうだよ。すまんね、店長引き止めちゃってさ。この人昔からこんなんでさ。って、店員なら知ってるか」

 

「君ほど知らん。俺は店員じゃないからな」

 

「え、そなの?」

 

「巣飼 零士。満州湖水上警察特別航空隊、第八八隊第1小隊長、と言えば意味が分かるか?」

 

「第八八隊? って、え、第八八隊!?」

 

「君の上司だ」

 

 鷹峰さんの顔色が青ざめた。

 

「おい待ってくれ。──店長! なんでそんな人に店番させてるんだよ!」

 

「あ、言ってなかったか? レイは常連なんだよ」

 

「常連でも客に店番させるなよ!? た、隊長、あんたもあんただよ、なんで素直に店番しちゃってるんだよ!?」

 

「誰かさんが着任前に民間人を拐かしたと苦情が入ったもんでな。部下の尻拭いでタダ働きだ」

 

「すんませんでしたぁ!」

 

 鷹峰さんは店長を放り出すと、即座にその場で土下座した。店長は道路に伸びて、そのまま高イビキをかき始めてしまった。後ろで看板娘さんが相変わらずニコニコしている。正直、訳がわからない。

 

 土下座していた鷹峰さんが顔を少し上げて言った。

 

「あの、これには深い事情がありまして」

 

「言わんでいい。聞く気も、その時間もない。俺が受けた任務はお前を部隊に連れて帰ることだ。言い訳は司令相手に好きなだけやってろ」

 

「うっわ〜、そんなに話が大きくなっちゃうんすか。ヤバいね、俺またクビになりそう」

 

「安心しろ、そうはならないように俺が取り計らってやる」

 

「マジっすか! さすが隊長、話がわかる男!」

 

「ウチも人手不足なんでな。減俸で最前線送りが妥当なところだ。せいぜい役に立ってから死ね」

 

「鬼ですかアンタ!?」

 

「いいか、鷹峰」

 

 レイ隊長はしゃがみ込むと、土下座した鷹峰さんの胸ぐらを掴み、顔を引き寄せた。

 

「お前が何を思ってあの契約書にサインしたか知らないし、知る気もないが、これだけは言っておく。ここは戦場だ。お前が何をしようが勝手だが、俺や仲間たちに迷惑をかけるようなら、俺はお前を殺すことも辞さない」

 

 鷹峰さんは顔を引きつらせながら何度も首を縦に振った。

 

「いい返事だ。では帰るぞ」

 

 レイ隊長がそう言って、鷹峰さんを立ち上がらせたときのことだった。不意に、夜の町の通りに、ピンポンパンポン、と金管楽器の音色が流れた。

 

 その音に、ニコニコ笑っていた看板娘さんが首を傾げた。

 

「あら、商店街の町内放送だわ。こんな時間に珍しいわね」

 

『緊急連絡、緊急連絡』

 

 と、通りの電柱に備え付けられたスピーカーが叫び出した。

 

『警急呼集命令、警急呼集命令、第八八隊隊員は速やかに基地へ帰投されたし。繰り返します。第八八隊隊員は速やかに基地へ帰投されたし。以上で放送を終わります』

 

 これは外出している隊員への連絡手段の一つだ。私はレイ隊長と顔を見合わせた。隊長が頷いたのを確認して、私は大通りへ走り出し、そこでタクシーを捕まえた。

 

「第八八隊の隊員です。さっきの放送を聞いていましたよね。あと二人来ます。そうしたら基地までお願いします」

 

 すぐにレイ隊長が鷹峰さんと共にタクシーに乗り込んできた。鷹峰さんも緊急事態とすぐに察したのだろう。目つきが軍人としてのものに変わっていた。

 

「着任早々、実戦ですか」

 

「嬉しそうにするな」

 

 私が座った助手席の後ろ、興奮している鷹峰さんと不機嫌そうなレイ隊長を後部座席に乗せたタクシーは基地へと向かって走り出したのだった。

 

 

 

 




ーー第20話あとがきーー

 クラリス視点でAIに書かせた時、レイが何故かカウンターの奥に居てなんじゃこりゃってなりました。面白そうだからそのまま話を進めたら二人の意外な素顔がどんどん露わに。

 クラリスがただの漫画オタクと化してキャラ崩壊気味ですが全部AIのせいです。
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