空戦シミュレーターを極めたので異世界でエースとして君臨します   作:PlusⅨ

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 航空機アクションものなのに、空戦するの久々な気がする…


第21話・大統領、誘拐(2)

 出撃命令から数分と経たず、俺たち第一小隊は空へと舞い上がっていた。基地上空で編隊を組み、要撃管制官から示された針路に機首を向ける。

 

 目指すは黄海。政府専用機がその上空を朝鮮半島へ向けて真っ直ぐに飛行しているのを、沖縄と九州それぞれにある在日米軍のレーダー基地が捕捉していた。

 

 それはすなわち、俺たちが政府専用機の元へ辿り着くには、朝鮮半島を超えてさらに西へと向かわなければならないということだった。

 

 つまり朝鮮社会主義人民共和国領を通り抜けることを意味する。当然、戦闘も避けられない。

 

「本当にこの針路でいいんだな? 朝鮮軍に攻撃されても反撃するな、なんて命令は受け付けないからな」

 

 俺は作戦司令室にいる筈の狭山司令に向かって声をかけた。

 

『今更、覚悟の上だ』

 

 狭山司令は短く答え、そしてこう続けた。

 

『朝鮮半島が反乱軍の拠点となっているのは誰もが知るところだ。その上、政府専用機の針路は真っ直ぐ平壌空港を目指している。今回の一件、朝鮮が表立って反乱軍に協力しているのは間違いないだろう。一刻を争う事態だ。狂った独裁者なんぞに遠慮は無用。朝鮮半島上空を全力で突っ切り、政府専用機を確保せよ!』

 

 了解、とだけ返し俺たちは空を駆けた。

 

 内心ではとんでも無くヤバい作戦に加担していることは理解している。しかし命令は命令だ。俺はそれに従う。

 

 これは思考放棄じゃない。これは狭山司令個人の暴走では無く、満州国の総意であり覚悟であるはずだった。

 

 もしそうで無くとも、そうなる。誰がなんと言おうとも、だ。満州国にとって大統領の存在はそれほど重要な位置を占めていた。

 

 まもなく朝鮮領空に差し掛かろうとした時、俺の耳に通信機を通して朝鮮語が聴こえてきた。

 

「朝鮮の人民空軍からの警告だ」

 

 そう言ったのはミッキーだった。流石は語学センスを買われて諜報機関に引き抜かれた元スパイだ。彼は通信機越しの不明瞭な朝鮮語をすぐに訳して伝えてくれた。

 

「領空侵犯機に告ぐ、一分以内に引き返さなければ撃墜する。だそうだ。ホワイト、こちらから何か言い返すことはあるか?」

 

「問答無用だ」

 

 トムキャットのホワイトの声が届いた。

 

「キャットワンから各機へ。前方、朝鮮人民軍の迎撃部隊と思われる戦闘機群を発見」

 

 レーダーを確認すると確かに敵影が映っていた。数は十機以上。対するこちらの戦力は五機。圧倒的不利だ。

 

 しかし、だからといって逃げるわけにはいかない。ホワイトが俺たちに対し、矢継ぎ早に指示を下す。

 

「先ずはトムキャットで遠距離ミサイルを叩き込み敵編隊を崩す。発射と共にダイヤモンド陣形を組んで突っ込むぞ。一撃を加えた後はそのまま黄海目指して離脱する。先頭はトムキャット、しんがりはスカイレイだ。──レイ、君に私たちの背中を預ける」

 

「了解だ」

 

 返事と同時にトムキャットの主翼下ハードポイントに搭載された六発の長距離空対空ミサイル、フェニックスが放たれた。最大射程200Km、慣性飛行後、自らアクティブレーダーを発してターゲットを追尾し攻撃を加えるタイプだ。

 

 200Km先の目標など機種はおろか戦闘機か民間機かどうかも判別不能だ。しかし民間機は編隊飛行などしないし、そもそも今回は攻め込む側であるので、立ちはだかるものは問答無用で撃ち倒す覚悟だった。

 

 トムキャットから放たれたミサイルが、白煙の尾を引きながら遥か前方へ飛び去っていく。俺たちはトムキャットを先頭に編隊を組んだまま加速、敵編隊へと突撃する。

 

 ミサイル到達予想時刻になり、トムキャットパイロットである鷹峰が結果を告げた。

 

「命中三、不明三。目標残り八機。敵は編隊を乱し散開した」

 

「アッシー、針路215度だ。まだ編隊を維持している奴が三機いる。コイツを叩く」

 

 ホワイトの指示でトムキャットが針路をわずかに変更し、加速を開始。その動きに俺たち他の四機が追従。

 

 ホワイトからの指示が飛ぶ。

 

「アッシー、トムキャットの短距離ミサイル用意。惜しむな、ロックオンした片端から撃ち落とせ。ミッキー、マオ、トムキャットのミサイル発射後、前方に出て機関砲で牽制射撃を加えながら突破しろ」

 

 指示の直後、トムキャットの翼の下に搭載していた短距離空対空ミサイル・サイドワインダーが次々と放たれた。ミサイルが白い航跡を残しながら飛翔していく。

 

 そのミサイルを追うようにミッキーのフリーダムファイターと、マオのライトニングがアフターバーナーを吹かせ、加速しながら前方へ出て、機関砲を放つ。

 

 その向かう先で閃光と爆発が立て続けに起きた。

 

 敵機がブレイク。散開するなかをフリーダムファイター、ライトニング、トムキャット、フィアットが飛び抜ける。

 

 散り散りにされた敵機が慌てて反転し追撃に移る。

 

 しんがりである俺はその様子を味方編隊から離れた後方上空から眺め下ろしていた。

 

 先行する四機の背後に回り込もうとする敵機を、さらに背後から攻撃するのが俺の役目だ。しかし俺の背中を守る奴はいない、危険なポジションでもある。俺はコクピットで独り、言葉を漏らした。

 

「背中が寒い。……アレックスが居ないせいか」

 

 味方編隊の背後に回り込もうとする敵機を見つけ、俺はその背後に向けて機首を向ける。

 

 敵の機種は旧式のMiG-17。俺はスロットルレバーを押し込みパワーダイブ。敵戦闘機との相対高度差がどんどん縮まっていく。

 

 サイドワインダーロックオン。

 

「フォックス2」

 

 機体下部から放たれたミサイルが一直線に飛んでいき、そして敵機に突き刺さった。爆炎が上がる。

 

 俺はそれを一瞥すると、すぐに操縦桿を操り旋回。先行する仲間と合流するべく機速を上げた。他の敵機はもう着いてこれないようで、その距離はみるみると開いて行った。

 

「高度を1000フィートに落とせ」

 

 ホワイトからの指示。彼女は続けた。

 

「ここから先、朝鮮半島上空を駆け抜けるぞ。いつどこから地対空ミサイルが飛んでくるか分からん。低空飛行のまま黄海を目指す」

 

「了解」

 

 高度を低く保ちつつ、起伏の多い土地を飛び抜ける。

 

 朝鮮半島の土地は痩せて赤茶けており、山々にはほとんど木が無ければ、田畑にもあまり作物が育っていない。まるで砂漠地帯のような土地だ。

 

 この国は第二次世界大戦終結後、日本から分離独立したものの、北朝鮮こと朝鮮人民民主主義共和国と、南の大韓民国の二つの国家に分裂した。

 

 しかしそれから数年後、満州国での内乱発生と呼応するかのように、北朝鮮軍が大韓民国へ侵攻し、朝鮮戦争が勃発。半島全土を焦土と化す激戦の末、大韓民国は敗北し、済州島へと追いやられてしまった。そして北朝鮮が「朝鮮社会主義人民共和国」と改名し、半島唯一の国家となったのだ。

 

 しかしその治世が碌なものでは無さそうなのは、こうして高速で低空飛行しているだけでも充分見て取れた。荒野に告ぐ荒野。緑はほとんどなく、あってもそれは痩せた畑に芽吹いた僅かな野菜でしかなかった。都会のような高層ビルはどこにもない。未舗装の道には車やバイクの姿は無く、時折り農夫らしきものが引く大八車がポツリポツリと見えるだけだった。

 

 こんな場所でも人は住んでいるんだな。そう思いつつも、どこか哀愁漂う景色だった。

 

 やがて、視界の端に海が見えてきた。黄海だ。俺たちは速度を落とし、編隊を組み直す。

 

 その時だった。レーダー画面上で新たな反応が現れた。その数は五機。

 

「新手だ。待ち伏せされたな」

 

 俺は呟きつつ、まあ当然そうだろう、と内心では思っていた。戦闘の再開に備えスロットルを押し込もうとした時、ホワイトが言った。

 

「いや、待て。まだ仕掛けるな。待ち伏せでは無さそうだ」

 

「どういうことだ?」

 

 ホワイトは俺の問いには答えず、代わりにミッキーにこう問いかけた。

 

「ミッキー、聴こえているか。航空用の国際無線だ。連中がどこかと交信している」

 

「ああ、聴こえている。──どうやら相手は政府専用機のようだ」

 

「やはりそうか。この敵編隊は政府専用機を確保するために出てきた部隊だ。ミッキー、交信内容を解読しろ」

 

「もうやっている。……しかしまさか、なんてこった…」

 

「ミッキー?」

 

「機内ではまだ銃撃戦をやってるらしい。ハイジャックした反乱軍に対し、大統領のボディガードが反撃している」

 

「そうか、まだ抵抗が続いていたか。大統領は無事か?」

 

「そこまでは……いや、今会話に出てきた。大統領はコクピットに立て篭っているそうだ。…くそ、連中、政府専用機に対して撃墜命令を下したぞ。どうやら大統領の身柄確保は諦めたらしい。ハイジャックした連中もろとも吹き飛ばして殺すつもりだ」

 

「領空を強引に突破して正解だったな」

 

 ホワイトの呟きは、静かでありながら、どこか獰猛な響きをしていた。彼女は続けた。

 

「各機散開! 政府専用機を墜とさせるな。敵を叩き潰せ!」

 

 俺たちは一斉に増速。敵機との距離を詰めていく。その様子に気付いた敵機が慌てて回避機動を取り始めた。俺はそれを追うように機体を滑らせる。敵機との距離がみるみるうちに縮まり、ミサイルの射程に入った。

 

「フォックス2」

 

 俺はトリガーを引く。ミサイル発射と同時に機首を引き上げ上昇。ミサイルの航跡を残しながら敵機へ接近。

 

 敵機はフレアを連続射出しながら急旋回しミサイル回避機動をとる。俺はそれに合わせ同じく急旋回。

 

 ミサイルはフレアに引かれて外れたが、その間に俺のスカイレイは敵機を機関砲射程内に収めていた。HUD(ヘッドアップディスプレイ)の中心に旋回を続ける敵機の姿を捉える。相対距離は約1,000ft。メートルにしておよそ300といったところだ。

 

 これまでの機関砲であれば、このまま撃っても当たらない。敵機の未来位置に機首を向ける必要があった。しかし仰角をつけた改装機関砲なら、果たしてどうなるか。

 

 俺は操縦桿の武装選択スイッチを機関砲に入れた。火器管制レーダーが機関砲モードに切り替わり、HUDに敵機に対する弾丸の飛来予想位置がレティクル(照準環)として表示される。それは敵機としっかり重なっていた。

 

「フォックス4」

 

 俺は機関砲攻撃を宣言するとともに引き金を引いた。放たれた曳光弾が敵機の主翼を撃ち抜く。敵はそのまま錐揉み状態で墜落していった。これで二機目。俺はスロットルレバーを押し込み、次の獲物を探す。

 

 だがそこへ、

 

「レイ、6時方向に敵機。ブレイクポート」

 

 ホワイトからの通信を受け、俺は反射的に左へ急旋回する。後方から迫っていた敵機が俺を追尾すべく同じ方向へ旋回するが、俺はそれよりも早く右へと切り返していた。

 

 操縦桿を手前に引きつけつつ、推力偏向ノズルを上に向ける。その瞬間、スカイレイはほとんど直角に近い角度で急旋回し、同時に機体は横滑りを起こしていた。

 

 急激なGで内臓が圧迫される。視界がグルリと回転し、一瞬意識が飛びそうになるがなんとか堪えた。耐Gチートスキルの強化に加えてコツコツと耐G訓練も続けていた甲斐があったというものだ。

 

 しかし俺の身体は持ち堪えられたものの機体にも凄まじい負荷がかかったようで、あちこちから軋むような音が聞こえてくる。

 

 俺は推力偏向ノズルを定位置に戻しながら再度左旋回。背後にいた敵はスカイレイの急激なシザース機動に併せて切り返そうとしていたが、しかし旋回能力は圧倒的にこちらの方が上だった。

 

 敵機が前方にオーバーシュート、今度はこちらが追いかける番だ。

 

 レーダー上で敵機の位置を確認しロックオン。サイドワインダー発射。敵機はフレアを散布しつつ回避行動に入る。

 

 その動きを読んでいた俺は、敵機の回避行動に併せて旋回、機関砲を発射した。機体中心部へ曳航弾が吸い込まれるように着弾し、大量の破片が煌めきながら空中に散乱する。

 

 敵機は煙を引きながら落下していった。

 

「グッキル」

 

 ホワイトは俺にそう告げると、すぐに別の僚機に対して指示を飛ばす。

 

「マオ、敵への攻撃に五秒以上かけるんじゃ無い。背後に別の敵が回り込んで来ているぞ。クラリスはマオを援護しろ」

 

 流石はホワイト、的確な指示だ。

 

 彼女を乗せたトムキャットはミサイルを既に撃ち尽くし、今は戦闘空域を見下ろせる高空へ退避している。彼女はそこで敵機の動きを監視し、俺たちの戦術指揮をとっていた。

 

 その護衛にはミッキーのフリーダムファイターがついており、彼はトムキャットの周囲を警戒しつつ敵の交信に耳を澄ませていた。

 

 待機中にミッキー自身から聞いた話だが、奴のフリーダムファイターには暗号通信を傍受するための特殊な改装が施されているらしい。

 

 狭山司令の指示による改装と任務だそうだが、敵地のど真ん中で空戦しながらパイロット自身がスパイ活動をするなどオーバーワークもいいところだ。だからミッキーは積極的に戦闘には参加していない。

 

 クラリスはマオと組んでいるので、必然的に俺はソロで戦っていた。ホワイトが戦闘機部隊のリーダーとして俺をフォローしてくれているが、それでも背中が薄ら寒い。

 

──この前の約束、覚えてる?

 

 不意にアビーの言葉が脳裏をよぎった。

 

「レイ、敵が接近中。ブレイクポート」

 

 再びホワイトの声。

 

 俺は操縦桿を一気に押し込むと同時にフットバーを踏み込んだ。機首を急激に下げ左旋回しつつ急降下。直後に頭上を敵が放ったであろうミサイルが通過していく。

 

 俺はそのままの勢いで海面スレスレまで降下すると、機体の引き起こしと同時に急上昇をかけた。

 

 急激な機動によって発生した遠心力で身体がシートに押し付けられる。Gに耐えながらもなんとか上昇軌道に復帰する。敵は既に振り切っていた。回避成功だ。

 

──生きて帰る、って約束よ。……私を独りで置いていったら、ダメなんだからね。

 

 お守り代わりにくれたキス。戦闘中だというのに頬がむず痒い。

 

「験を担がせてもらうぞ、アビー」

 

 俺はスロットルレバーを押し込みアフターバーナー点火。スカイレイは猛スピードで加速し、戦闘空域へと舞い戻った。

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