空戦シミュレーターを極めたので異世界でエースとして君臨します   作:PlusⅨ

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 空戦描写の参考資料は「エースコンバット」です。

 ハッキリ言ってガバガバです。

 誰か詳しい人いたら教えてくれると助かります。


第1話・スクランブルファイター

 満州国国境沿い上空一万メートル。

 

 俺、巣飼零士は、相棒のアレックスと共に、国境に侵入しようとする国籍不明機を追い返すため、緊急出撃していた。

 

 国籍不明機は旧式のミグ15が二機。こいつを追い返す、もしくは警告を無視するようなら撃墜する。俺のF4Dスカイレイと、アレックスのF100スーパーセイバー。俺たち二機でかかれば、容易い任務だった。

 

 そのはずだった。

 

「こちらレイ。レーダーコンタクト。敵機を捕捉した。おいおい、ちょっと待て。話が違うぞ?」

 

 最前線基地からの要撃管制に従って敵機の近くまで飛行した俺は、自機のレーダー画面に映った敵の数を見て、目を見張った。

 

 隣で飛行するアレックスが、悪態をついた。

 

「六機もいるじゃないのよ! 地上レーダーぶっ壊れでもしたの?」

 

 その文句に、要撃管制官が「無茶いうな」と言い返してきた。

 

「おそらく国籍不明機は密集陣形で二つのグループに別れて接近してきたんだ。地上レーダーの性能じゃ二つの塊しか映らん。現場に到着してから詳細が判明するなんていつものことだろ。すぐに増援を出してやるから、文句言うな」

 

「増援が到着するまで、私たちが生き残っていればいいけどね」

 

 アレックスが皮肉混じりに答え、続けて、俺に対してこう言った。

 

「レイ、編隊の後方に回り込むわよ。三回警告して相手が従わなかったら即攻撃。一撃加えた後は、さっさと距離を取って増援くるまで粘る。いいわね」

 

「こちらレイ、了解。……だが警告する暇は無さそうだぞ。敵機が散開した。そのうち二機が反転。こいつは攻撃行動だ。ミサイルが来るぞ! アレックス、回避だ!」

 

 俺がスカイレイを急旋回させたと同時に、ミサイルの接近を知らせる警報がコクピットに鳴り響いた。

 

 俺は右手で握る操縦桿を手前に引きつけると同時に、左手のスロットルを前方へいっぱいに押し込む。

 

 スカイレイはアフターバーナーを点火し急上昇し縦ロールを開始。俺の体に加速Gによる凄まじい負荷がかかり、俺の視界が暗くなりかける。

 

 警報が鳴り止んだ。ミサイル回避に成功したのだ。

 

 縦ループを続けていたスカイレイは上昇から急降下に移ろうとしていた。俺は機体を横ロールさせ、インメルマンターンで再び敵編隊に機首を向ける。

 

 レーダー画面では、真正面から敵の二機が接近しようとしていた。おそらく俺たちにミサイル攻撃を仕掛けてきた二機だ。お互いに正面から向かいあった場合、赤外線による熱源誘導ミサイルは使えない。発射した機体がレーダーで命中する瞬間までミサイルを誘導してやる必要があるため、その間、単調な動きしかできないのだ。

 

 ミサイルを回避した俺にとっては絶好の反撃の機会だった。

 

 しかし、スカイレイに搭載されている空対空ミサイル・サイドワインダーも単純な赤外線追尾でしかないため、敵の後方に回り込まないとロックオンできない。

 

 俺は敵の予測針路に機首を向け、機関砲発射トリガーを引いた。スカイレイの主翼に装備されている20ミリ機関砲四門が咆哮をあげ、空中に曳光弾が尾を引いて飛んでいく。

 

 正面から迫っていた敵の一機が、その曳光弾の射線に飛び込んだ。

 

 すれ違いざま、俺はその敵機が胴体から細かな破片をいくつも飛散させたのを確認した。

 

 俺は固有能力として「動体視力アップ」と「視野拡大」を獲得している。そのため、常人なら視認できない一瞬の光景でも、ハッキリと視ることができた。

 

 先ずは一機撃墜。残る一機の対処を考える間もなく、「ヤバいヤバいヤバい、もうだめかもぉ!?」と、悲鳴じみた声が上がった。アレックスだ。

 

 俺はスカイレイを旋回させながら、素早く首を巡らせて彼女のスーパーセイバーを探す。

 

 居た、下方だ。三機がかりで格闘戦に持ち込まれ、追い立てられている。

 

「アレックス、俺が上から突っ込む。その隙に急降下で逃げろ」

 

「了解、頼んだ!」

 

 アレックスが答えた時、俺はすでに機首を大きく下げ、パワーダイブを仕掛けていた。サイドワインダーのシーカー作動。スーパーセイバーを狙う三機のうち一機に狙いを定める。

 

 ロックオンを知らせる音が鳴り響き、俺はミサイル発散トリガーを引いた。スカイレイの主翼のパイロンからサイドワインダーが白煙を引きながら空中に躍り出て、三機のうち最後方に居た一機に吸い寄せられていった。

 

 俺はサイドワインダーの命中を確認する前に機体をひねり、スーパーセイバーのすぐ後ろに迫っていた敵機に機首を向け、20ミリ機関砲を撃ちながらフルスロットルで突っ込んだ。

 

 機関砲は命中しなかったが、俺の攻撃に気づいた敵機が散開し、スーパーセイバーへの包囲網が崩れた。

 

 アレックスは即座に機体を急旋回させ、目の前を横切ろうとした敵の一機を機関砲で撃墜、そのまま急降下する。

 

 俺も彼女の後を追って急降下。地表面近くまで高度を下げる。

 

 要撃管制官からの通信。

 

「レイ、アレックス、針路を東北東に取れ。その方角から加藤とエナが急行中だ」

 

「分かった」

 

 俺とアレックスは同時に返事をした。

 

 俺の脳裏には先ほどの敵機の残骸が過ぎっていたが、パイロットの脱出を見た覚えはなかった。

 

 すなわち人を殺した訳だが、それ以上深く考える余裕は無かった。今は生き残って任務を果たすことだけに集中しないと、次の瞬間にも死ぬかもしれないのだ。俺を殺そうとした奴の死に囚われたせいで死ぬのは御免だった。

 

 俺とアレックスの後方では、僚友を失った敵戦闘機たちが慌てて編隊を組み直し、俺たちを追撃しようとしていた。しかし、その動きは明らかに鈍っていた。

 

 スカイレイのレーダーが、俺たちの前方に新たに二機の機影を探知した。敵味方識別装置が味方機の信号を受信する。加藤のF101ヴードゥーと、エナのMiG21フィッシュベッドだ。

 

「こちら加藤。レイ、アレックス、まだ生きてるか」

 

「こちらレイ。三途の川を渡りかけている。さっさと鬼どもを追い払ってくれ」

 

「こちらエナ。任せて・アタシが全滅させてやる!……って、畜生、逃げるな!」

 

 エナが突然喚きだしたので何事かと思いレーダーを見ると、敵機が反転して引き返しはじめたのがわかった。向こうもこちらの増援が接近しているのに気づき、撤退を決めたのだろう。

 

「こちらエナ、敵機を追撃する」

 

「やめろ、エナ。深追いするな。それは任務じゃない」

 

 加藤がエナを押し留める。

 

 エナは昔、親を紛争で殺されている。俺たちが戦っている反政府勢力がエナの仇と繋がっているらしいことから、エナは時に、敵を深追いし過ぎることがあった。

 

 そんな彼女の抑え役が、うちの部隊のベテランエース、加藤の役目だった。

 

 敵機はそのまま、国境の外へと出ていった。その数は三機に減っていた。

 

 アレックスが言った。

 

「私が一機撃墜、レイが二機撃墜か。これで今月のトップエースはレイで決まりだね。おめでと」

 

「……」

 

 その称賛に、俺は素直に喜べなかった。前世の俺なら、トップエースと呼ばれたら傲慢なくらい増長しただろう。だがこの世界では、現実の戦場では、それは「人殺しが上手い奴」という意味にしか、俺には思えなかった。

 

 それにもうひとつ、気分が乗らない理由があった。その月のトップエースに選ばれた奴は、パイロット全員に酒を奢らなくてはならないという暗黙の掟が、ウチの部隊には存在するのだ。

 

 アレックスが弾んだ声で俺に言った。

 

「山﨑ウィスキーのシングルモルト!頼んでもいいよね!?」

 

「もっと安いやつにしろ」

 

 俺がそう言うと、アレックスは不満そうな声を上げた。

 

 その後、俺たちは、加藤とエナと合流し、基地に帰還した。

 

 帰還後すぐに俺たちは四人揃って隊長室を訪れ、報告を行った。

 

「ご苦労だった」

 

 第八八隊の隊長、狭山 桜(さやま さくら)中佐は、俺たちの戦果報告を聞き、無感動にそう告げると、俺たち四人にそれぞれカードを手渡した。

 

「出撃及び戦果分のKPだ。これを使って、機体と、そして君たち自身の更なる強化を行うといい。引き続き活躍を期待する。以上だ。下がってよろしい」

 

 俺たちはラフに敬礼し、さっさと退出した。

 

 俺はそのまま自分の部屋に引っ込もうとしたが、しかしアレックスに捕まってしまった。

 

「トップエースさん、どこ行こうとしてるのかしら〜?酒場はそっちじゃないわよ」

 

「日も暮れないうちから飲むつもりかよ」

 

「今日は金曜日だから、いいの!」

 

 アレックスは、俺の腕を掴んで離そうとしない。

 

 俺とアレックスは、同じ隊に配属された同期だった。

 

 アレックスは俺のことをレイと呼ぶが、俺もアレックスのことを呼び捨てにする。

 

「レイ、一緒に飲まない?」

 

「嫌だよ。お前の酒癖の悪さには付き合いきれない」

 

「えぇ〜、ケチ〜」

 

「ケチで結構」

 

「じゃあ、せめて一杯だけ付き合って」

 

「……しょうがないなぁ」

 

 腕を絡ませてしなだれかかってくるアレックスに、俺は根負けした。

 

 こんな俺たち二人の様子を、加藤とエナがすぐ近くで見ていたが、彼らも俺たちのやりとりは見慣れているので、いつものこと、と特に反応もせずにスルーしている。

 

「加藤、エナ、あんたたちも一緒に飲む?」

 

 アレックスの問いに、加藤とエナは二人揃って首を横に振った。

 

「遠慮する。俺は一人で飲むのが好きだ。飲み代はレイにツケておくよ」

 

「アタシも、飲むより先にシャワー浴びたいね。アンタら二人でよろしくやってればいいよ」

 

 二人はそう言い残して、さっさと立ち去ってしまった。

 

 結局、俺たち二人は連れ立って基地内にあるバーに向かった。

 

 エナからはよろしくやれといわれたが、俺とアレックスは別にそんな関係じゃない。

 

 正直、アレックスを女として意識していないと言えば嘘になる。美人だし、性格も明るく、俺とも気が合って会話もよく弾む。

 

 ただ、恋人同士では無い。あくまで友人だ。男女関係を深めるには、俺たちの関係はあまりにも近すぎた。

 

 俺が転生して養成部隊に送り込まれた時からの同期生。それ以来、ずっと同じ部隊でコンビを組んで戦い続けている。

 

 恋人を通り越して、もう家族のようなものだ。血の繋がった家族同様、身内に欲情を感じるのは抵抗感を感じてしまう。

 

 アレックスもその辺は同じで、一度、俺のことを異性としてどう思うか、と尋ねたら顔をしかめて「ありえない」と言われたことがある。腕を絡めたりとスキンシップは過剰だが、それはあくまで俺が家族と同類として扱われているからであり、要は文化の違いに過ぎないのだ。

 

 広い基地の片隅にあるバー『黒ネコ』に着く頃には、すっかり日が暮れていた。

 

 バーの中に入ると、カウンター席の一つに見知った顔を見つけた。

金髪碧眼の女。見た目通りの外国人である彼女は、俺たちの姿を見つけると、軽く手を振ってきた。

 

「やあ、お疲れ様」

 

「ホワイト教官、あなたがこの時間からバーに居るとは珍しいな」

 

「今月のトップエースがそろそろ決まる時期だからな。タダ酒にありつくチャンスは逃せんよ」

 

「さすがは教官殿ね。いい勘してるわ」

 

 アレックスが俺の背中を叩きながら、目の前の女、リリィ・ホワイトに言った。

 

「本日の出撃で、撃墜二機よ! 我らがスカイレイが圧倒的戦績で今月のトップエースに確定しました!」

 

「そうか。よし、マスター、そこのウォッカをボトルで入れてくれ。支払いはレイの名義で……あぁ、忘れてた。レイ、おめでとう」

 

「恐ろしく雑なお祝い、感激で泣けそうだ。ていうかアレックス、なんでお前が自慢げに言うんだよ」

 

「相棒の栄誉だもの。自分のことみたいに嬉しいに決まってるじゃない」

 

「なら飲み代も分け合おうぜ」

 

「それとこれとは別よ」

 

 アレックスは手のひらを返したかのように冷たく言い放つと、リリィ・ホワイト軍事顧問の隣のスツールに腰掛けた。

 

 リリィ・ホワイトはロシア系アメリカ人だ。アメリカ軍から俺たち傭兵パイロットに戦闘技能を指導する傍ら、実戦データを本国へ報告する役目を負ってこの第八八隊へ出向してきた女だった。

 

 そのため俺たちと違って最前線へ出ることは無いが、彼女の戦況分析と戦術指導には何度も助けられているので、立場は違えど俺たちの大切な仲間には違い無かった。

 

 俺もアレックスに続いて席に着く。そこで、俺はホワイトのそばに、既に二本の小さなボトルが並んでいることに気がついた。

 

 一本は既に空で、二本目も半分以上は減っているようだった。

 

 とんだ飲み助、と事情を知らない者が見ればきっとそう言うだろう。

 

 ボトルに気が付いた俺たちに、ホワイトが微かに微笑んで言った。

 

「お祝いの前に、弔いの乾杯に付き合ってくれるか?」

 

 黙って頷いた俺とアレックスの前に、バーテンダーがグラスを用意してくれた。

 

 ホワイトが残っていたボトルの酒を俺たち二人に注ぎ、そして自分のグラスにも注いだ後、掲げ持った。

 

「キムとリーに」

 

「安らかに……リーの奴、やっと見つかったんだな」

 

「君たちが緊急出撃した直後に捜索隊から連絡があった。撃墜地点から二十キロ離れた谷底に落ちていたそうだ。パラシュートが体に絡まって身動き出来ず、そのまま衰弱死したらしい」

 

 リーは一週間前に撃墜された仲間だった。機体から脱出したきり消息不明になっていた。

 

 俺はリーが残したボトルの酒を飲みながら、もう一人の戦死者、キムのことを思い出す。あいつが戦死したのは昨日のことだ。生きていれば、今月のエースはキムで確定だった。

 

 戦死者がこのバーに遺したキープボトルは、他のパイロットたちの共有財産として好きに飲んでいいという暗黙の掟があった。

 

 だが、死んだ奴の酒を飲むのは縁起が悪いと敬遠されることも多く、好き好んで飲みたがる者はごく僅かだった。

 

 ホワイトは、その僅かな内の一人だ。もっとも、彼女が好き好んで飲んでいるかは知らないが。

 

「口に合わないわ、コレ」

 

 アレックスが馬鹿正直に味の感想を述べた。

 

「クセが強くて飲みづらい。リーの奴、こんなの飲んでたわけ?」

 

 アレックスの問いに、俺は首を横に振った。

 

「あいつは飲んでないさ。酒に弱かったんだ。こんな味だなんて知らなかっただろうよ」

 

「飲みもしないボトルをキープしてたの?」

 

「私が頼まれたんだよ」

 

 ホワイトがボトルに残っていた分をグラスに注ぎながら言った。

 

「リーから頼まれたんだ。死んだら、コイツを飲み干してくれってね。ハハ、酷い酒を残してくれたよ、ホント……」

 

 ホワイトは苦笑いの表情でそう言って、グラスの酒を一息に飲み干した。リーのボトルは、それで空になった。

 

 ホワイトの目尻には涙が滲んでいた。酷い酒だ、本当に。

 

 俺も、アレックスも、死んだキムとリーも、この基地にいるパイロットはみんなホワイトの教え子も同然だった。彼女はこれまでも何人もの教え子を見送り、残されたボトルを空にしてきた。

 

「さて、湿らせてすまなかった。改めてレイのお祝いといこう。トップエースおめでとう、レイ」

 

「ありがとう、ホワイト」

 

 ホワイトが新たな酒が注がれたグラスを掲げる。俺も自分のグラスを掲げた。俺のグラスにはまだリーの酒が残っていた。俺はそれを飲み下す。

 

 この酒が酷いかどうか俺には分からなかった。俺も酒には弱い。飲む時はいつも弔い酒だ。そんなことを考えていたら、不意に、俺も何かを遺したいという気持ちに襲われた。

 

「……ホワイト、頼みがある」

 

「なんだ、レイ」

 

「あんたがさっき入れたボトル、アレ、俺の名前にしてくれないか」

 

「なんだ、藪から棒に」

 

「俺が死んだら飲んでくれ」

 

「………」

 

 俺の言葉に、ホワイトはその顔から表情を消した。

 

 何も言わないホワイトの隣で、アレックスが怒った顔で言った。

 

「レイ、冗談が過ぎるわよ」

 

 俺は答えず、曖昧な笑みだけを返した。不意に出た言葉だった。自分でも理由はよく分からない。でも、撤回する気にはならなかった。

 

「俺は本気さ。…ホワイト、頼むよ」

 

 俺の懇願に、ホワイトはまだ涙の残る目で俺をしばらく見つめたが、やがてため息を一つつき、バーテンダーに先程のウォッカのボトルを俺の名前に変えるよう伝え、そして席を立った。

 

「レイ…すまない。君の気分を害してしまったようだ」

 

「違うさ。あんたには感謝してる」

 

「……私にその酒を飲ませてくれるなよ」

 

 ホワイトはそう言い残して、バーから去って行った。

 

 ホワイトの姿が見えなくなった途端、アレックスがカウンターテーブルに掌を叩きつけた。

 

「レイ、なんてこと言ってんのよ、このバカ! 教官の気持ちを考えなさいよ!」

 

「静かにしろよ、アレックス。もう他の客も入って来てるんだぜ」

 

 アレックスはサッと店内を見渡し、俺の言葉どおり二、三人の新客の姿を見つけ、忌々しそうにため息をついた。

 

「マスター、さっきのボトル出して」

 

「おい、それはホワイトのだ」

 

「あんたのボトルでしょ。ホワイトには飲ませない。私が空にしてやる」

 

「何を言ってるんだ」

 

「それはこっちのセリフよ。…マスター、席を移るからボトル持ってきて」

 

 俺はアレックスに腕を引かれ、店内の一番奥のボックス席へと連行された。

 

 席に腰を落ち着けるなり、アレックスは俺に言った。

 

「レイ、理由を言いなさい」

 

 俺は改めて自分の気持ちを見つめ直した。答えはすぐに出た。

 

「別に死ぬつもりは無い。ただ、遺せる物があるなら、遺したかった。そんな気分になったんだ。思いついたら、すぐやるべきだ。死ぬ気はないが、明日も生きられる保証は無い。それだけだ」

 

「それだけ…って、ホワイト教官の気持ちも考えなさいよ。二人死んでナーバスになってるのに、あんたまで負担かけるんじゃ無いっての」

 

「確かに、無神経だったな。すまん」

 

「私じゃなくて、教官に謝りなさい」

 

「そうだな、そうしよう。…俺は昔からそうだ。他人の気持ちより自分を優先してしまう。そのせいで前世じゃいつも他人を苛つかせてばかりだった」

 

「前世、ね。レイは転生前、引きこもりだったんだっけ?」

 

「ああ、高校の時に誰からも無視されるようになって、孤立して、それから数年間、部屋に引きこもり続けた。あの時は孤立させられたと思っていたが、今から思えば、俺から世間に背を向けてたんだな。他人を苛つかせる原因が俺にもあると、微塵も思っていなかった。全部周囲のせいにして、自分は被害者だと憤って、何にも残さないまま死んじまった」

 

「そして気がついたらこの世界に転生してた、か……。だから、何でも良いから遺したくなったの?」

 

「いや……違う、多分」

 

 俺は改めて自分の気持ちを見つめ直した。さっきは前世のことまで考えていなかった。この気分は、もっと別の理由だ。トップエースとして祝おうとしてくれたホワイトの好意を素直に受け止められなかった、その理由。

 

「多分、無意識に重ねてしまったんだ。死んだキムとリーを、俺が墜としたあの二機と」

 

「どういうこと?」

 

「敵も今頃、弔い酒を飲んでるだろうな、って、そんな気になっちまったんだ。だから、おめでとうと言われても素直に受け止められなかった。自分もそっち側だと思った。…多分、そうだ」

 

 エースと呼ばれたくて撃墜した訳じゃ無い。自分が生き延びるために敵を殺したのだ。きっと敵も同じ気持ちで戦っているのだろう。

 

 だが、それはつまるところ、俺もいつか敵の誰かが生きるために殺されるということを意味していた。

 

「レイ、それって……」

 

 アレックスは何か言いかけて口をつぐみ、グラスに注いだウォッカに口をつけた。

 

「レイ。私はやっぱり納得できないわ。あんたの言いたいことは何となく分かるけどさ、やっぱりこう……苛つくわ。あんたのそのナーバスな態度にさ」

 

「すまん」

 

「そうやって簡単に謝罪するところも苛つくわ。あんたが元引きこもりって初めて知った時は信じられなかったけど、今ならわかる。レイ、あんたの性根は引きこもりのままよ。自分の本音なんて誰にも理解されるはず無いって思い込んで、他人の気持ちに背を向け続けているんだわ。……だから、死人なんかに感情移入しちゃうのよ」

 

「……アレックスは、しないのか」

 

「……何を?」

 

「自分が殺した相手のことを、考えたことはないのか」

 

 アレックスはしばらく黙り込み、やがてため息混じりに答えた。

 

「あるよ、たくさん。でも、仕方ないじゃない。私たちは戦争してるの。殺し殺され、それが当たり前の世界にいるのよ」

 

 俺は何も言えなかった。平和な前世で引きこもっていた俺と違い、アレックスは戦争の耐えないこの世界で生まれ、その戦争で両親を亡くし、孤児として生き抜いてきたのだ。生きる意味を問うまでもなく、生きることだけが目的だった。

 

 そんなアレックスが傭兵になった理由は、孤児院のためだった。孤児だったアレックスを拾い育ててくれた孤児院に金を送るため、彼女は戦い続けている。

 

 アレックスには、戦う明確な理由がある。だから俺みたいに迷いなく戦えるのだし、そして今まで生き残ってこれたのだろう。

 

 そんな事を考えながら空のグラスを弄ぶ俺を、アレックスがウォッカを飲みながら睨みつけていた。

 

「死人より、生きてる人間の事を考えなさいよ」

 

「ホワイトにはちゃんと謝るよ。さっきもそう言っただろう」

 

「違うわよ。私のことよ、私」

 

「アレックスの?」

 

 それなら今ずっと考えていたところだ。だが、俺がそう言おうとするより早く、彼女が続けた。

 

「私の気持ちも考えてよ。今日、私が生きて帰れたのは、レイ、あなたに助けられたからなんだよ? その上、トップエースにまでなってくれてさ、私、本当に嬉しかったんだから」

 

 それなのに、とアレックスはウォッカを煽って、言った。

 

「なんでそんな、明日にも死んじゃうかもしれないこと言うのよ。私はあなたを信じてるのに、レイと一緒ならどんな時でも二人で生きて帰れるって信じてるのに、肝心のあんたがそんなんじゃ、私はどうすれば良いのよ!」

 

「どうと言われても、な…」

 

「私の目を見てよ、レイ!」

 

 いきなり両頬を手で挟まれて、無理やりアレックスに向き合わされた。

 

「レイ、全然飲んでないじゃない」

 

「俺が酒に弱いことは知ってるだろう」

 

「あんたの酒でしょ」

 

「ホワイトに飲ませる酒だ」

 

「飲ませないって言ったでしょ。あんたは死なせない。レイは私が守るんだから!」

 

「それは頼もしいな。…だいぶ酔ってるぞ、お前」

 

「酔ってないわよ! レイ、あなたからも言ってよ、ほら!」

 

 何を?と訊いたら殴られそうな気がしたので、大人しく思いついた言葉を口にした。

 

「アレックスは俺が守るよ」

 

「……っ!?」

 

「だから、俺を置いて死ぬなよ」

 

「……」

 

「おい、聞いてるか?」

 

「き、聞こえてるわよ。当たり前でしょ、バーカ!!」

 

 アレックスは顔を真っ赤にして、ウォッカの瓶を掴むと、そのままラッパ飲みし始めた。

 

「あぁもう、ムカツクわね、あんた。何でそんな恥ずかしい台詞サラリと言えるのよ。酔ってないくせに!ほら、あんたも飲みなさいよ!」

 

「瓶ごと押し付けるな。っていうか、ウォッカなんてラッパ飲みする酒じゃ無いだろ!?」

 

「私の酒が飲めないっての!?」

 

「俺の酒だ!」

 

「だったら飲みなさいよ!飲めないってんなら、私が飲ませてやるから!」

 

 アレックスは再びラッパ飲みすると、いきなり俺の首根っこに腕を回して体を寄せた。あまりに突然で予想外だったので、俺は何も出来なかった。

 

 アレックスの柔らかい唇が俺の唇に重ねられ、舌で無理やり口をこじ開けられた。それと同時にウォッカが俺の口いっぱいに流し込まれ、俺はその衝撃にむせ返りそうになったが、アレックスに唇を塞がれたせいで飲み下すしかなかった。

 

 アレックスは俺の口から溢れたウォッカを舐め取り、ようやく解放してくれた。

 

「お、おまえ、何やって――」

 

 問い詰めようとした瞬間、視界がぐらりと揺れた。飛行中に失速したような感覚。畜生、急性アルコール中毒で墜落だ。俺は無意識に脱出レバーを掴もうと手を泳がせ、アレックスの手からウォッカのボトルを弾き飛ばしてしまう。

 

 ボトルが床に落ちて砕けると同時に、俺自身も床に倒れて意識を失った……




―――第1話あとがき―――

 本編もAIの支援を受けて執筆。まず自力で3~4行を執筆した後、AIに続きを書かせ、その内容が気に入れば採用、そうでなければ消去してまたAIに書かせるか、または自力で継続というやり方。

 この第1話で、AIの案を採用したのは下記の通り。

・最初の空戦シーンでアレックスが助けを求めるセリフ

・バー『黒猫』という名前と、既にリリィが先客としているという展開

・終盤のアレックスの露骨にツンデレた態度とセリフ。

 地の分よりも会話の方がAIは書きやすいような印象。ただし男女の会話だとすぐにラブコメにもっていこうとする模様。

 あとたまにそこに居ないキャラクターが突然登場したり、キャラクターの性別が入れ替わったりする(リリィの一人称が「俺」になったり、レイが女言葉になったり)。

 AIは基本的に文脈で判断しているらしいので、中性的な話ことばだと性別がブレることがよくある模様。ちなみにキャラ設定については別枠で設定しておけばブレることは無いらしい。
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