空戦シミュレーターを極めたので異世界でエースとして君臨します   作:PlusⅨ

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 視点交代

 一人称は、別の登場人物の内面を描くときに章ごと変えなきゃいけないので、あんまり好きじゃないんだよね……


第5話・クラリス・フェルナー

 ドイツで反動分子として捕らえられ、家族ごとシベリアへ送られてから半年。私たち一家は、同じ収容所に居た他の政治犯と共に、強制労働の最中に脱走した。

 

 私たちが向かったのは満州国だ。脱走を手引きしてくれた西側陣営のスパイが亡命の手配を整えてくれているらしい。満州湖までたどり着けば、そこに用意された船で対岸に渡り、政府軍の勢力下に入ることができる。

 

 しかしそのためには、東側陣営の支援を受けている満州国反乱軍の勢力圏を抜ける必要があった。

 

 かつて戦争終結のきっかけになった隕石落下により荒野と化した中国北部の大地を、私たちは徒歩で歩き続けた。

 

 けれど、途中、ソ連の指示を受けた反乱軍の襲撃にもあい、仲間たちは次々と命を落としていった。

 

 最後に残っていたのは、私たち一家だけだった。若干17歳の少女の私と、その両親のために、他の仲間たちは皆、自ら囮や捨て駒となって私たち一家を先へ逃してくれた。

 

 そんな数多の犠牲の果てに、私たちはようやく満州湖の近くまでたどり着くことができた。満州湖を渡る亡命用の船が待つ場所まで、後十数キロメートルほど。あと少しだ。私たちは疲れ果てた体を引き摺るように歩き続けた。

 

 上空で爆音が聞こえたのは、その時だった。見上げると、幾つもの飛行機の黒い影が、頭上で入り乱れるように飛び交っていた。

 

「お父さん、 あれは何?」

 

 私は父に問いかけた。

 

「政府軍と反乱軍の空中戦だ」

 

 父も空を見上げ、少し興奮したように笑った。

 

「政府軍の戦闘機が勝てば、ここは安全になるぞ」

 

「どちらが政府軍なの」

 

 と、母は空を見上げず、足元に目を落としたまま呟いた。長い逃避行で、母の気力と体力は限界に達していた。

 

「MiGが反政府軍だろう。…政府軍より数が多いな…」

 

 父の声から力が抜けたのがわかった。それで政府軍の方が不利なんだと私は悟った。私の体からも力が抜けそうになる。

 

「お父さん、もう歩けないよ」

 

「大丈夫、もう少しだから頑張ろう」

 

 父も疲れ切っているようだったが、それでも私のことを励ましてくれた。

 

「でも、あの飛行機がこっちに来るわ!」

 

 そう言って私が指差した先には、さっきよりも明らかに近づいている、戦闘機の姿があった。

 

「伏せて!!」

 

 父が叫んだ瞬間、すぐ頭上をその戦闘機が物凄いスピードで通過していった。

 

 父は咄嵯の判断で、私を抱え込むようにして地面に倒れ込んだ。その直後、大地が揺れ、轟音と衝撃波が私たちを跳ね飛ばした。

 

 私はそのまま気を失ったのだろう。一体どれだけの時間が流れたのか、私がハッと目を覚ました時、空は既に暗くなり、星が瞬いていた。

 

 私は父の胸に強く抱きしめられたまま、地面に仰向けに倒れていた。父はうつ伏せになって私に覆い被さっていた。

 

「お父さん……お父さん……」

 

 父からの返事は無かった。私は父に抱きしめられたまま、上体を起こす。父の体が私の上から転がり落ちた。

 

 父は下半身を吹き飛ばされ、死んでいた。

 

「あっ…お父さん……お父さん……っ」

 

 頭がパニックを起こしそうになる。でも泣き叫びそうになる前に、私は母のことを思い出し、必死に理性を繋ぎ止めた。

 

「お母さん、お母さんはどこ?、返事して!お母さん!?」

 

 私は必死になって母の姿を探そうとした。しかし、既にその周囲には動くものは何一つ無かった。

 

 数十メートル離れた場所に、クレーターがあった。その縁に、幾つもの塊が散らばっている。暗くてわかりづらいけれど、近づくと肉が焦げた匂いがして、それでこれが人間の欠片だと分かった。

 

「うぅ……あぁああああ!! おとうさん、おかあさあん!!」

 

 私は大声で泣いた。泣いて叫んで、喉が潰れるまで泣き続けた。そしてその後で、自分が助かったことに気がつき、また声を上げて泣いた。

 

 

――――

 

 

 基地への帰還後、俺たちはいつもどおり狭山司令の元へ報告へ向かった。俺と、アレックスと、エナの三人だ。加藤はついて来なかった。

 

 着陸し、機体から降りてきた加藤は、呆然とした様子で、そのまま格納庫にあるパイロット控室に入ったきり、出て来なかった。

 

 俺たちも加藤を連れて行く気にはなれなかった。司令室に入り、狭山司令から加藤が居ない理由を問われ、俺はあらましを説明した。

 

「そうか。……加藤の件は了解した。しばらく放っておいてやれ」

 

 と、狭山司令は言った。いつも通り淡々とした表情で、加藤が民間人を巻き込んでしまったことなど大した問題では無いと感じているような態度だった。

 

 そう、彼女はそういう人間だ。それはわかって居たが……

 

「ほっとけって、司令、それはないでしょう!」

 

 俺より先に、エナが声を荒げた。

 

「加藤の気持ちを考えなよ! いくら戦争だからって、兵士を殺すのと訳が違うんだぞ!」

 

「言いたいことは分かるが、あいにくウチにはカウンセラーなんて気の利いた者は居ないのでな。折り合いは自分でつけてもらうしかない」

 

「そんな突き放した言い方! あんた、私たちの上官だろうがっ!?」

 

「加藤が私に慰めてもらいたがっていると、そう言いたいのか、エナ?」

 

「そうじゃない、そうじゃないけどさ!」

 

「奴が望もうと、そうでなかろうと、私が何を言ったところでその民間人が生き返るわけではあるまい。……それはエナ、君が一番理解しているはずだ」

 

 狭山司令の言葉に、エナは押し黙ってしまった。そう、彼女も戦闘に巻き込まれて家族を失っている。その復讐のためにここでパイロットをやっているのだ。

 

「この部隊に居るのは傭兵だけだ。みな自分の都合で人殺しをやっている。そして誰もそれを非難する権利は無い。その代わり、干渉もできん。それがここのルールだ」

 

「でも……加藤は私の相棒なんだよ……」

 

 力なく呟いたエナに、狭山司令は意外なことを言った。

 

「では、君が支えてやればいい。それが君の役目だろう」

 

「えっ……」

 

「違うのか?」

 

 狭山司令の口調はいつも通り淡々とした感情を感じない声だった。けれど、エナには届いていたようだ。

 

 しばらくの沈黙の後、エナは頷いた。

 

「……そうだね。司令、あんたの言う通りだ。加藤は私が面倒見る。……私じゃないと、多分、ダメだ」

 

 エナは背筋を伸ばし、狭山司令に敬礼した。

 

「ユン・エナ、退出します」

 

「許可する」

 

 エナは小走りに司令室を出ていった。狭山司令はそれを見送ると、すぐに俺に目を戻した。

 

「レイ、お前はあの新型機について調べろ。カナード付きのMiGなぞ聞いたことがない。おそらく新型だろう」

 

「了解だ。しかし調べろって、どうやって?」

 

「正規の情報部には私から依頼する。お前はとりあえずマッキー婆さんに訊け。金さえ積めばクレムリン宮殿さえ引っ張ってきてやると豪語する婆さんだ。ソ連の新型機の情報くらい持ってるだろう」

 

「いよいよもって漫画のキャラめいてきたな。マッコイ爺さんがTS転生したんじゃないか?」

 

「お前が何を言っているのかさっぱり分からん」

 

「エリハチって、有名な漫画が前世にあってな」

 

「やかましい、説明する必要は無い。転生者の戯言には興味ない。帰れ」

 

「了解、巣飼 零士、退出します」

 

「同じくアレクサンドラ・カー、退出します」

 

 二人揃って敬礼し、司令室から退散する。狭山司令からの指示どおり松木雑貨店へ向かう道すがら、アレックスが俺に言った。

 

「レイ、前から思ってたんだけど、あんた、狭山司令に対してけっこう気安く話しかけてるよね」

 

「そうか?」

 

「あの堅物女に漫画の話をするの、あんたぐらいよ?」

 

「そうかな」

 

「そうだよ。……まあ、いいけど。それより、どうすんの? 加藤のこと」

 

「さぁな。あいつが自分で立ち直れるならそれで良し。無理だったらその時考える」

 

「ふーん。意外と冷たいのね」

 

「別に冷たくはないだろ。ただ、俺には加藤に何かを言える資格が無い。あるとすれば、それは巻き込まれた民間人本人か……または……」

 

「……似たような境遇のエナだけってことね」

 

「そういうこった」

 

 話しているうちに松木雑貨店に着いた。

 

「婆さん、居るかい?」

 

「ああレイかい、おかえり。機体を買い換える気にでもなったかい?」

 

「買う気はないが調べてもらいたい機体がある」

 

「なんだい、珍しい依頼だね」

 

 マッキー婆さんに例のカナード付きについて話すと、婆さんは店の奥から分厚いファイルを引っ張りだしてきて、それをめくり始めた。

 

「うーん、無いねえ。そんな機体は見たことも聞いたこともないよ」

 

「やっぱりそうか」

 

「市場に出回ってない試作機って可能性があるね。やろうと思えば調べることができるけど、どうするね?」

 

 マッキー婆さんはそう言って、親指と人差し指で丸を作って見せた。つまり、情報料だ。

 

「支払いは司令につけといてくれ」

 

「前金ももらうよ」

 

「払うから領収書くれ。宛先は狭山で」

 

 俺が勝手に司令の名義で取引をする様子を、アレックスが傍で呆れた顔で見ていた。

 

 

 

 

 それから二日後のことだった。第八八隊の非番のパイロット全員に集合がかけられ、俺たちは作戦会議室に集まっていた。

 

「本日未明、偵察任務中だったアズラエルが撃墜された。彼は直前に敵の新型機と遭遇している。レイ、君が先日交戦したカナード付きだ」

 

 狭山司令はいつも通りの淡々とした口調で言った。

 

「あいつがまた出てきたのか」

 

「アズラエルはカナード付きを目撃した後、すぐにアフターバーナーを吹かせて離脱を図ったが、奴の方が早かった。振り切ることができずに、そのまま堕とされた。推定速力はマッハ2だ」

 

 それを聞いて、室内が思わずどよめいた。現在この基地に所属している機体で、こいつを振り切れる者は先ずいないだろう。厄介な相手だ。

 

「このカナード付きだが、先日と今朝の行動から、おそらく満州湖近辺の反乱軍基地に所属しているものと思われる。アズの任務はこの基地の偵察だった。撃墜される前に、この基地で大編隊が出撃準備しているらしいとの報告を行なっている。その直後にカナード付きに撃墜されたことを考えると、おそらくこの基地兵力が満州湖へ侵攻してくる可能性は極めて大と判断する」

 

 狭山司令の目が光を帯び、その口元にうっすらと笑みが浮いた。

 

「敵の兵力は最低でも十五機、いずれもMiG 21フィッシュベッドだが、カナード付きも出てくるはずだ。これを迎え撃つ。全機対空兵装に換装せよ。費用は全て基地持ちだ。好きなだけ使え!」

 

 パイロットの誰かが口笛を吹いた。

 

「総員、スクランブル待機!」

 

 俺たちは敬礼、一斉に格納庫へ走り出す。その中には、エナと肩を並べて走る加藤の姿もあった。

 

 俺の隣で、アレックスがその様子を目にして言った。

 

「加藤、元気を取り戻したみたいだね。エナのおかげかな」

 

「だといいがな」

 

 各自が出撃準備を整え、愛機のそばで待機してから二時間後、スクランブル発進が下令され、俺たち第八八隊は空へと飛び立った。

 

 その数、十五機。満州湖上空で、一大空戦が始まろうとしていた。




―――第5話あとがき――――

 満州湖だなんて設定だけど、ぶっちゃけデカい湖ぐらいしか設定決めてないので、周りの都市がどんな風になってるとか、そもそも基地がどこにあって、反乱軍がどこから攻めてくるのかとか、そんなものまるで決めてない、行き当たりばったりな世界観だったりします。
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