空戦シミュレーターを極めたので異世界でエースとして君臨します   作:PlusⅨ

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 生きとったんかワレェ!


第7話・あれは死神

 それから二日後のことだった。基地にあるパイロット用の待機室でくつろいで居た俺の元へ、マオが血相を変えて駆け寄って来た。

 

「た、隊長! レイ隊長! ニュースです、ビッグニュースです!!」

 

 この傭兵部隊に階級は無い。一応役職はあるが、基本誰もがTACネームか名前を呼び捨てるのが普通だ。指示に従うのは任務上のことであり、人間関係に上下関係を持ち込まないのがこの部隊の暗黙の了解だ。俺に対して役職付きで呼ぶのは彼女・マオぐらいのものだろう。

 

 マオはまだ入隊したばかりの新人で、哨戒飛行を数度経験しただけで、本格的な実戦は二日前の空戦が初陣だった。あの日以来、何故だか知らんが普段でも俺を「隊長」と呼ぶようになった。

 

 で、そんな彼女が何を興奮しているのかといえば、

 

「サイモンさんが…っ!」

 

「サイモン? アイツがどうかしたのか?」

 

 一昨日から昨日にかけて空戦で撃墜された多くの仲間が救助されたが、サイモンはそこに含まれてはいなかった。

 

「帰って来たんですよ!」

 

「マジか」

 

「おう、マジだよ」

 

 マオの背後から、当の本人がひょっこり姿を現し、部屋に入ってきた。

 

「よっ、ただいま」

 

「あ、ああ…お帰り。……サイモン、お前、生きてたのか!?」

 

「当たり前だろ。俺は不死身の男だからな。まぁ、今回はちょっと危なかった。脱出に成功したのはいいものの、救助ビーコンがぶっ壊れててな、満州湖のど真ん中に置き去りよ。いやー、マジでやばかった」

 

「それでどうやって帰ってきたんだ。まさか、泳いできたのか?」

 

「最悪それも考えたが、そうなる前に通りかかった船に拾われたんだよ。運が良かった。これも日頃の行いが良いおかげだな」

 

「悪運って言うんだよ、それ。とにかく、無事でよかった」

 

「俺が死んだらホワイト教官がまた曇っちまうよ。おう、そうだ。俺のキープボトル、まだ飲まれて無いよな」

 

「大丈夫だと思うが、どうだろうな。さっきホワイトがバーへ行くのを見かけたから、今頃もう飲み出しているかもしれないぜ」

 

「そいつは拙いな。早いとこ彼女に俺の無事を伝えなきゃ、あの姉さん、いよいよもってアル中になっちまう」

 

「ああ、早いところ教えて安心させてやってくれ」

 

「んじゃ、ちょっくら行ってきますか。……ああそうそう、忘れるところだった。レイ、狭山司令から呼び出しだ。司令室に来いだとよ」

 

「呼び出し?」

 

「俺を拾ってくれた船の関係者が、俺をここに送るついでに司令のところに来てるんだよ。…新高丸って言や、要件は見当つくだろ」

 

「…加藤の件か」

 

「エナも今頃、司令室に向かってるはずだぜ。お前らから色々と話を聞きたいそうだ」

 

 サイモンはそう言って俺から目を逸らすと、そばにいたマオに目を向けた。

 

「おい新人、お前は俺と飲みに行くぞ。生還祝いだ。嫌とは言わせねえぜ」

 

「ちょっと勝手に決めないで下さい! それ、パワハラでアルハラですからね!」

 

「そんなもん知るか。ほれ、さっさと来い」

 

「わわわ、腕引っ張んないでって、いやああ、セクハラ、変態、バカぁぁ」

 

 そのままサイモンにズルズルと引っ張られていくマオを見送った後、俺は司令室へと向かった。

 

 司令室の扉を開ける。中には、既にエナの姿があった。

 

 広い司令室の中央に応接用の大型ソファーが向かい合っており、狭山司令はそこに腰掛けて居た。そしてその向かい側に、男女の二人組が居た。

 

 狭山司令が立ち上がり、その男女に俺たちのことを紹介した。

 

「お待たせしました。こちらが一昨日の空戦に参加した私の部下、巣飼 零士と、ユン・エナです」

 

 俺とエナが軽く頭を下げると、その男女もソファーから立ち上がり、男の方が頭を下げた。

 

 男は日本人のように見えた。歳の頃は二十代半ば過ぎくらいか。スーツ姿だが、その体つきや目つきは、鍛え上げられた者のそれだった。

 

 かたや、女の方は――女というより、少女だ。十代後半の少女、欧米人だ。彼女は会釈ではなく、俺に向かって手を差し出した。

 

「クラリス・フェルナーです」

 

「どうも」

 

 握手を求められているのだと気づき、慌ててその手を軽く握り返す。

 

 クラリスという少女はエナにも手を差し出し、握手した。

 

 エナは、俺とは違い、クラリスの手を離そうとしなかった。

 

「アンタが……あなたが、新高丸に乗っていた、亡命者なの?」

 

「ええ、その通りです。……ユンさん、あなたが加藤さんのパートナーであることは、サイモンさんや狭山司令からお聞きしております」

 

 エナの顔が強張る。

 

 クラリスは、エナの手を離し、数歩ほど離れてから、今度は頭を深々と下げた。

 

「私を助けて頂いたこと、心より感謝いたします」

 

「……やめて……」

 

 エナが、声を絞り出すようにそう呟いた。エナの肩が震えていた。

 

「あたしにそんなこと言わないで……加藤はずっと悔やんでた……あんたを巻き込んだって……自殺さえ考えていたんだ……だから……っ」

 

 そこから先は言葉にならず、エナは壁に背をもたれて、両手で自分を抱きしめながら、俯き唇を噛み締めた。

 

 そんなエナの前で、クラリスが顔を上げた。彼女の顔は、エナの態度に驚くでもなく、むしろ、全て分かっているかのように、哀しみに満ちた目をして、呟くように言った。

 

「私が…加藤さんを死に追いやってしまったのですね……」

 

 この少女は、それを伝えに来たのだ、俺はそう悟った。

 

「君は、加藤の死に責任を感じているのか?」

 

 俺は思わずそう訊いていた。

 

 クラリスは哀しげな瞳を伏せたまま、小さく頷いた。

 

「何故だ」

 

 俺は再び訊いていた。

 

「君は俺たちの戦闘に巻き込まれた被害者だ。そのせいで身内を失ったんだろう」

 

「レイ!」

 

 エナが、俺の肩を掴んだ。

 

「加藤は巻き込みたくてやったわけじゃ無い! あれは事故だったんだ。あの低空でミサイルを回避するには、地面に叩きつけるしかないって、アンタだって分かってるだろ!?」

 

「だが巻き込んだのは事実だ。故意にしろ事故にしろ、被害者には関係ない。――クラリス、君は俺たちを恨むのが自然だろう」

 

 俺の言葉に、彼女は微かに首を横に振った。

 

「加藤さんが死んだのは、私のせいです」

 

「筋違いだと言っているんだ。君に責任をとってもらう必要なんてない。俺たちの生死は俺たち自身のものだ。加藤は自分の命でケジメをつけた。それだけだ」

 

 クラリスは、ゆっくりと目を閉じる。そして、静かに息を吐いてから、口を開いた。

 

「確かに、私は加藤さんの事故により、父と母を失いました。そのせいで加藤さんを死神だと、恨んでいました……」

 

「だったら」

 

「加藤さんが撃墜される寸前、私は船橋に居ました。迫ってくる戦闘機を前に、私は怒りをぶつけていたんです。死神め、死んでしまえ、と。その直後に戦闘機は被弾しました。まるで、私の祈りが通じたかのように……」

 

 クラリスの唇が震え出した。

 

「……私は、神に祈ってしまったのです。……あの人の死を……お父さんとお母さんを殺した男を殺してくれと…神に…祈って……」

 

「違う」

 

 そう割り込んできたのは、もう一人の男の方だった。

 

「俺が通信機で君の存在を明らかにして支援を要請したんだ。君の存在を利用して、彼らの同情を引こうとした。そういう意味では、加藤機を哨戒艇へ体当たりさせた責任は俺にある」

 

「無線の声はあんただったのか。いったい何者だ」

 

 俺の問いに男は答えた。

 

「亡命に関する政府機関の担当者、とだけ答えておく。悪いがこれ以上は言えない。後は察してくれ」

 

 要するに満州国のスパイだ。俺は頷いて了解の意を示した。

 

 クラリスは立ち尽くしたまま、顔を手で覆って微かに嗚咽を漏らしていた。泣かせたのは、俺だ。

 

 エナも壁にもたれかかったまま、必死になって唇を噛み締めている。お互い、もう話を続けられる様子じゃなかった。

 

 狭山司令に目を向けると、彼女は俺を睨んでいた。余計なことを言いやがって、お前なんかさっさと出て行け、そう言っている目だ。

 

 俺は背筋を伸ばし、狭山司令に敬礼する。

 

「司令、申し訳ありません。口が滑りました」

 

「出てけ。貴様は後で説教だ。覚悟しろ」

 

「はっ!」

 

「エナ、君ももういい。退出しろ」

 

「司令……でも……」

 

「加藤はフェルナーさんを救うためにその命を捧げた。軍人として名誉の戦死を遂げたのだ。フェルナーさんが直々に謝意を述べて下さったのだから奴も浮かばれるさ。……それでいいだろう」

 

「……はい」

 

 司令も相当、不器用な人間だな。そんなことを思いつつ、俺はまだ落ち込んだままのエナの手を引いて、司令室を後にしたのだった。

 

 むしゃくしゃする。俺は加藤のことを思った。彼は、自分の命を犠牲にするだけの戦う理由を見出し、それに殉じたのだ。だが俺に言わせりゃ、それこそ死神の正体に違いなかった。

 

 冗談じゃない。俺の足は自然とバーに向かっていた。

 

「エナ、飲みに行くぞ」

 

「え?……嫌だよ…そんな気分じゃない」

 

「そうかよ。だったら勝手にするさ。サイモンの生還祝いの最中だ。加藤のボトルを空にしてやる」

 

「レイ…あんた、変だよ。なんであの子にあんなこと言ったのさ…?」

 

「死にたくないからだ。罪だの償いだの、戦う理由を外に求めたら、いずれそれに殺される。俺はそんなのはゴメンだ」

 

「でも…あたしも家族を巻き添えで殺されたんだ。…あの子が誰かを恨む気持ちもわかっちゃうよ…」

 

「恨んだ相手を殺して、罪悪感を感じることもか」

 

 その問いに、エナの足が止まった。

 

「感じたことなんてなかった。これまでは……」

 

「これまでは?」

 

「今は、もう、わかんないんだ。加藤が罪悪感で苦しんでいた時、あたし、アイツに言ったんだ。…事故だよ、誰のせいでも無い、仕方なかったってね……。最低だよね……あたし自身が、同じことした敵をずっと憎んでいるくせにさ…」

 

 エナは泣きそうな顔で笑っていた。そんな彼女を見据え、俺は言った。

 

「俺は自分のために戦う。他人など知ったことか。俺が生きるために敵を殺す。それだけで充分だ」

 

「それさ、もしかして、あんたなりの励まし? それとも慰めてるつもりなのかい」

 

 エナの言葉には答えず、俺は歩き出した。

 

 俺たちは、これからどうなるのだろうか。

 

 この先、何度となく、こんな思いを味わなければならないのかもしれない。

 

 そう思うと、気が重かった。

 

 俺の背中を、エナが追いかけてきた。

 

「あたしも飲む。加藤のボトルを飲み干して、それで今回のことは全部忘れるよ」

 

 俺は頷き、そのまま、俺たちは肩を並べてバーへと向かったのだった。




―――第7話あとがき―――

 墜とされたサイモンがひょっこり帰ってくるあたり、エリ八のグレッグ生還と被る。AIさんも間違いなくエリ八を意識していると思われる。

 あと前話でAIがマオという新キャラをぶっこんできたので、採用しました。

 ついでにキャラ設定も出力させてみました。

――――

「マオ・チーアン」

 中国系満州国人。19歳。

 中国東北部出身の少数民族。元々中国東北地方に住んでいたが、文化大革命の影響で漢民族が大量虐殺され、一族ごと流浪の旅に出た。その際に難民キャンプで保護された。

 両親とも健在であるが、現在は中国内戦が激化しており、故郷に戻ることができない状況にある。

固有能力:直感力向上(第六感による危機感知能力の向上。高すぎると未来予知に近い効果を発揮できるが、その直後に意識がブラックアウトしてしまうため、戦闘中に発動すると致命傷になる可能性が高い)

乗機:BACライトニング。獲得ポイントにより、電子戦装備が追加されている。また機体各部の防弾性能が向上している。

――――

 え? 漢民族が招集民族なの? しかも文革で虐殺されたとかナニコレ(汗)
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