竜は動かず、微動だにせず 作:ソテ・ラ
「さぁ!覚悟しなさい!!私が!!この私が!!!!──あなたを倒しに来たわよ!!」
竜の視界に入ったのは、華美な礼装に身を包んだ一人の幼い少女であった。金色の剣に、蒼いブレスレット。特筆すべきはそれだけだ、と悟る。
そのまま
そして、白銀の竜はゆっくりと目を閉じた。
それに反応したのは
「……なによ!無視するってわけ?!これだから竜は困るのよね!!勝手に表面だけ見て、『はいはい雑魚乙ー』みたいな──」
厳重な警備を抜け出して来た少女は、折角来たのにこの態度はないだろうとばかりに苦言をまくしたてる。
本来なら余りの畏れ多さに動くことすら出来ないはずだが、良いことなのか悪いことなのかはさておき、彼女は違った。有力な貴族の娘であった事、希有な剣の才能を持って生まれた事も影響し、怖いもの知らずのお転婆娘に育っていたのだ。
そしてそれは、悪い方向へとこの物語を進める。
『──我らを愚弄するか、人族よ』
──ただ一度。響いたそれは。
瞬きの間に少女の意識を空白に追いやった。呑み込まれる。白銀の『何か』が少女の精神を呑み込み喰らい押し遣り揺らがし。
そして、少女は数秒。いや、数分。──数時間たったとすら思われるその世界を乗り越え──、
「──っは……はぁ、はぁ……はぁ……今の……なに、よ……アンタ……」
そして竜は、
『ふむ』
揺れる。世界が、時が時空が全てが揺らがされ、そして少女の精神にそれはぶつかり──、
「っ………っ!もうっ……それには、負けないん!だからっ!!」
──耐えた。少女はその異様な感覚を耐えきる。心が塗り潰される様な、頭が直接殴られるようなそれに、だが少女は意識を保つ。
白銀の瞳は未だ少女に据えられていた。
『なるほど……興味深い』
「──ぁ……っ!!なに、よ!!……何がよ!!!」
『人族、言おう。己がだ』
吹き荒れる。暴風よりも尚強く、雷よりも尚激しく。それは少女を襲う。
竜は単に『話している』だけなのだ。ただそれが矮小な──小さな小さな
「はぁっ……はっ──意味、分からないん……だけど…………」
『今はまだ分からなくとも構わん。もう眠るが良かろう。脆弱な身には私と対面する事すら苦行な筈だ……さて、最後に貴様に我が名を与えよう。
──我が名をメリアトルスト=アブラクト。また相見えるその日まで、この名をその魂に刻め』
そして──吹き荒れる『なにか』が少女に届き。
少女の視界は、暗闇に染まった。
◆◇
『やはり異なものだ』
白銀の竜は嘆息する。この場で少女を生かした事も、名を授けたことも、全てが本来の己なら考えられない事であったからだ。
既に少女は《外》へ転移させた。守りも付けた故、即座に死ぬことは無いだろう。
『……長年の孤独で私にも情が芽生えたか?』
いや、とかぶりを振る。これは興味だ。《竜》と言う余りにも強すぎる自我を前に死に至らず、あろうことか会話まで交わした、あの生命への興味。
『次に会うのは、いつ頃か』
普通ならば、数十年は経つだろう。《上位者》の脅威は容易くは崩れない。
いや、それ以前にこの世界では心が立ち直る前に命を落とす可能性すらある。むしろその可能性の方が高いとすら。
だが、もしあの人族が数年以内にここへ訪れる程の心と運を持っていれば──。
『──そうなれば、この生活にも多少味気は出ようと言う物だ』
微かな期待を抱きながら、そして。