仮面ライダージオウ✕仮面ライダーゼロワンーIF令和ザ・ファースト・ジェネレーション   作:K/K

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人間とロボットの会話その2

「うっ……」

 

 体のだるさを感じながら不破は目を覚ます。体を起こし、ぼうっとした頭で周囲を見回す。

 怪我を負った作業員らが救助隊らしき者達から手当てを受けていたり、担架で運ばれて救急車に乗せる光景があった。

 何故こんなことになっているのか。目覚めたばかりでハッキリとしない思考で考えた時、作業員の悲鳴が聞こえて来る。

 

「う、うわあああっ! ヒューマギアを近付けないでくれ!」

「どうかしましたか? 何故治療を拒否するのですか?」

「止めろっ! 来るな! 来るなぁぁぁ!」

 

 救助隊員型のヒューマギアの治療を拒み、恐怖で慄く作業員。その様子を見た時、不破の脳に完全にスイッチが入り、今までの出来事がフラッシュバックする。

 反射的にショットライザーへ手を伸ばす不破であったが、懐にある筈のそれが無い。

 

「探しているのってこれ?」

 

 声の方に目を向けると片手にショットライザーを持ったソウゴが立っている。

 

「それは俺の──」

 

 取り返そうとする不破であったが、その前にゲイツが立ちはだかる。

 

「今は俺達が預かる。──また勝手な行動をされたら迷惑だからな」

 

 毅然とした態度のゲイツ。不破が餓狼の様な目でゲイツを真っ向から睨み付けるが、ゲイツは全く引きはしなかった。

 

「やる気があるのは結構だが、あの仮面ライダーと戦った時の様に敗けるかもしれないよ。今度は私達の目も手も届かない場所で」

 

 ウォズが不破へ釘を刺す。不破も失態を犯したと自覚があるのか、少し気不味そうに目を逸らした。

 

「……お前達はあの仮面ライダーと遭遇しても無事だったみたいだな。──とんでもない奴だ。いい様にやられた挙句、この俺が気絶させられるとは……!」

 

 悔しさで表情を歪め、歯を強く噛み締める不破。どうやら気絶した影響で当時の記憶が曖昧になっており、ツクヨミに気絶させられたことを覚えていない様子。

 真実を言えばややこしいことが起こりそうなのと、張本人であるツクヨミが負傷者の手当てで駆け回っている状態なのでソウゴ達は黙っていることにした。

 

「俺が気絶した後に何があった? 今はどうなっている?」

 

 不破が事情を確認してくる。どう説明すべきかソウゴ達が思っていた時──

 

「俺から話すよ」

 

 ──或人が自分から名乗り出た。

 

「あの仮面ライダー……あれは俺の父さんだ」

「お前の父さん……? そう言えばお前、あいつの事をそう呼んでいたな。──ということは、あいつはやっぱりヒューマギアなんだな?」

 

 不破の問いに或人は頷く。この後、不破がどんな反応を示すのか不安であった。

 

「──そうか」

 

 意外なことに不破は激昂せず不機嫌そうな態度ではあるものの落ち着いた反応であった。これには或人やソウゴ達も肩透かしな気分になる。

 不破も何も事情を知らなければ或人を問い詰めていたかもしれない。だが、不破は事前に或人から育ての親がヒューマギアであることを教えられている。不破にとってヒューマギアが忌み嫌う存在であることは変わりないが、或人が今複雑な心境を抱えていることは理解出来る。

 不破とてそれを無視して相手の心に土足で踏み込む様な真似をしない。この時ばかりは或人の事を慮っていた。不破がヒューマギアに感情的になるのは多くの仲間を失ったから。裏を返せばそれだけ情に厚いことを意味する。

 

「それで? お前はこれからどうするんだ?」

「……父さんと話をする。どうして仮面ライダーになったのか、衛星アークのことや、仮面ライダー開発計画のこと、それがヒューマギアの笑顔にどう繋がるのか全部」

 

 アークやら仮面ライダー開発計画やらと新しい単語が出て来て不破が顔を顰めるが、この空気でどういう意味なのかを或人に問い質すことは出来なかったので、ソウゴ達の方を助けを求めるかの様に見る。

 ソウゴは口パクで『後で教える』と伝えて来たので、それで良しとした。

 

「不破さんはどうする?」

「俺は──」

 

 本年を言えば不破も自分を負かした謎の仮面ライダーの素顔を拝みたいと思っていたが、その時彼の目に負傷している作業員を別の作業員が担ごうとする光景が入って来た。体重差があるらしく担ぐのに苦労をしている。

 その姿は、未来で負傷した仲間を助けようとする自分の姿に重なった。

 

「少し頭を冷やしてから行く」

 

 不破は立ち上がり、作業員らの許へ行く。

 

「手を貸す」

「へ? うおおおっ!」

 

 不破は成人男性一人を軽々と持ち上げ、救助隊員らの所へ運んで行く。運び終わるすぐに別の負傷者の所へ行き、治療を受けられる所へ運ぶのを繰り返す。

 

「ねえ?」

「うん?」

 

 ソウゴに呼び掛けられ、不破は立ち止まる。ソウゴはそんな彼に没収していたショットライザーを差し出した。

 

「これ、あんたに返すよ」

「──いいのかよ? 危ないっているから取り上げたんだろうが」

 

 現に今も救助隊員のヒューマギアがあちこちで活動している。

 

「大丈夫。今のあんたはそんなに危なっかしく見えないから」

 

 だが、ソウゴは不破が暴走しないことをまるで確信しているかの様に言う。

 内心を見抜かれている様で面白くはないが、それに反発する程不破も幼稚ではない。

 不破は顔を顰めながらショットライザーを受け取り、ジャケット下のホルダーへ収める。

 

「──そうかよ」

 

 不破はぶっきらぼうな態度のまま負傷者救助の手伝いに向かった。

 

「俺達も行こっか?」

 

 ソウゴが或人の方を向いて告げる。或人は大きく深呼吸をし、覚悟を決めると強く頷いた。

 

 

 ◇

 

 

 其雄の研究室内。其雄は深刻な表情をしながらパソコンのキーボードを叩いている。その様子を眺めている亡と雷。

 其雄が開発した暴走を抑えるプログラムをインストールしている二人は、不具合が生じないか経過観察をされている最中である。

 幸いバグなどは発生することなく無事にインストールが完了された。

 

「ありがとう、其雄。私達の為にこんなプログラムを用意してくれて」

「それは俺が暴走したヒューマギアを鎮静化させる際に使用するプログラムを応用したものだ。それなりの効果は保障するが、絶対ではない」

「それでも構わない。……正直に言えばあんな経験は二度とごめんだ」

 

 暴走寸前だった時の感覚を思い出し、亡は綺麗な顔立ちを嫌悪で歪める。

 

「どこのどいつか知らねぇが、俺だけじゃなく仲間まで暴走させやがって……! 其雄! 原因を見つけたら俺にも教えろ! 元凶があるんだったら俺が雷落としてやる!」

 

 静かに怒る亡とは対照的に雷の方は怒りを露にしていた。

 不意にドアが開き、三人の視線がドアの方へ向けられる。其雄の研究室へ入って来たのはウィルであった。

 相手が無害な存在と認識すると其雄は視線をパソコンへ戻す。

 

「秘書の仕事は良いのか? 今日は君が来る予定は無かった筈だ?」

「それとも、仲間の暴走の件を聞いて慌てて駆け付けて来たのか?」

 

 ウィルとは顔見知りの亡と雷が声を掛けるが、ウィルは二人を無視して其雄へ話し掛ける。

 

「飛電其雄。やはり君が飛電インテリジェンスを継ぐべきだ」

 

 ウィルの突然の発言に三人の動きが止まる。

 

「君はヒューマギアでありながら『飛電』の名を継いでいる。君が社長になれば我々ヒューマギアの社会的地位も上がる」

 

 ヒューマギアの将来を思っての発言なのかもしれないが、急にそんなことを言い出すウィルに三人は不信感を覚えた。

 

「俺が社長に?」

 

 其雄の方は関心が薄く無視する様にキーボードを叩き続ける。

 

「ウィル。私達の将来について考えてくれることは嬉しいが、時期尚早だ」

「そうだぜ。それにまだ是之助社長も存命だろ? 社長どうこう言うのは気が早いってもんだ」

「──何事早いに越した事は無い。人間達の顔色を窺い続けていたらいずれは手遅れになる。今の社長が邪魔なら……排除──いや、ご退場願うだけだ」

「ウィル……君は自分が何を言っているのか理解しているのか?」

 

 人間を害すること、離反することもやぶさかではない。そんなウィルに恐れすら抱いてしまう。

 

「十分に理解した上で発言している」

 

 平然と言ってのけるウィルに雷が詰め寄る。

 

「そんな事を言っている時点でおかしいんだよ! あいつらと同じでお前までおかしくなっちまったのか!?」

「おかしくなどなっていない。寧ろ、これは私達ヒューマギアがいずれは辿る結論だ」

「答えを導き出した、とでも言いたげだな」

 

 其雄は相変わらずパソコンと向き合っているが、パソコンの画面に反射するウィルの姿をしっかりと捉えている。

 

「ふざけんな! 人間を排除する必要がどこにある!?」

「君は先走り過ぎだ」

 

 雷と亡が咎めるが、ウィルにその言葉は全く届かない。

 

「先走ってなどいない。遅いぐらいだ。今の私達は人間の道具に過ぎない。壊れたら幾らでも替えが用意でき、古くなったら何時でも捨てて新しいものと取り替えられる程度の存在だ」

 

 ウィルに痛い所を突かれて雷達は閉口してしまう。それは、彼らも理解していること。まだ二人は最新式ではあるが、五年後、十年後になれば旧式であり新しいヒューマギアに居場所を奪われてしまう可能性が高い。

 

「ヒューマギアを生み出したのは確かに人間だ。だが、だからといって人間に我々の運命までも決める権利はあるというのか?」

 

 ウィルの瞳の奥に一瞬赤い光が宿った様に見えた。

 

「ヒューマギアの運命はヒューマギア自身が決めるべきだ。それを邪魔する存在が居れば、排除すればいい。我々の能力ならば容易いことだ」

「ウィル、君は本当にどうしたんだ? 君は……そんな事を言う奴では無かった……」

 

 亡は畏怖を通り越してウィルを心配してしまう。其雄と同じく寡黙ではあったが、こんなことを言うヒューマギアでは無かった。会っていない間にまるで何かに取り憑かれたかの様に人格が変わっている。

 

「目が覚めた。──それだけだ」

 

 ウィルの目から亡と雷への興味が失せる。そして、其雄の方へ向き直る。

 

「このまま行けば我々が笑えなくなる日が来る。そうなる前に飛電其雄、君が立ち上がるべきだ。君なら私も笑って仕えよう」

 

 其雄への敬意を以って社長になることを頼むが、其雄は相変わらず背を向けたままであった。

 

「俺は社長になるつもりはない」

 

 パソコンを操作しながらさも興味が無い、という態度でウィルの頼みを一蹴する。

 

「何故だ? ヒューマギアが笑える世界を作るのが私達の夢だろう?」

 

 ウィルの言っていること自体はヒューマギアに夢を見させる決して悪いものではない。しかし、それを為す手段が無法故に他者へ不信感を与える。この場に於いては比較的人間よりヒューマギアしかいないので尚更そう思えるのかもしれない。

 其雄は夢を語るウィルに何かを言おうとするが、それはドアが開く音によって遮られる。

 研究室内に入って来たのは或人達であった。

 

「父さん……っ!?」

 

 或人は研究室内に其雄が居ることを確認して安堵し、次に亡と雷が居ることに軽く驚き、最後にウィルが居たことで驚きの表情を険しいものへ変えた。

 

「何でお前がここに!? どうして父さんと一緒にいる!?」

 

 ウィルへの怒りを露わにするが、ウィルからすれば未来の或人とはこれが初対面である。いきなり怒りをぶつけられたことで、無表情であったウィルの頬が僅かに動いた。

 

「どちら様でしょうか? ここは関係者以外立ち入り禁止です。早々に御退室を」

 

 まだ人間に仕えている立場なのでウィルは丁寧な口調で或人達に退室を促す。しかし、未来のウィルを知っている或人からすれば慇懃無礼な態度に映った。

 

「お前……!?」

 

 ここに不破が来ていなくて良かったと心の片隅で思う。或人ですら一気に頭に血が昇ってしまう。不破なら血が昇るどころか噴き出していたかもしれない。

 感情のまま詰め寄ろうとする或人であったが、ふとその視線が研究室内に置かれたデスクへと向けられる。

 そこには丁寧に並べられた幾つもの機械。どれもこれも或人にとって見覚えがあるものであった。

 装飾が施されていない状態だが、そこにあるのは紛れもなくフォースライザー、ゼツメライザー、プログライズキー。完成に至っていない原型と呼べるもの。

 或人は震える手でフォースライザーのプロトタイプに触れる。掌に伝わって来る硬い感触が、幻ではなく間違いなくそこにあることを残酷なまでに告げていた。

 

「何でこんなもん作ってんだ!?」

 

 いずれは滅亡迅雷.netの手に渡り、多くの人々とヒューマギア達を苦しめる代物が父の手で作り出されたことに或人はショックを隠せない。

 すると、或人の腕をウィルが掴む。

 

「それを元の位置に戻してくれませんか? それは我々にとって大切なものですので」

「離せよ!」

 

 ウィルの手を振り解こうとするが、ウィルの腕は微動だにしない。

 

「──飛電其雄。彼は誰だ?」

 

 腕を掴んだまま其雄に問う。

 

「……スキャンして照合すれば分かる。尤も、結果を信じるか信じないかはお前次第だ」

 

 言われるがまま睨み付けてくる或人の顔を画像として取り込み、ウィルのデータ内にある人物の顔を照らし合わせる。その結果、候補として挙がったのは一人だけであった。

 

「飛電或人だと……?」

 

 ウィルが導き出した結果に雷と亡も驚く。三人共或人との面識は無いが、其雄を通じて顔は知っている。だが、三人の知る或人はまだ子供であった。

 

「どういうことだ? 飛電其雄、説明しろ」

「未来から来たそうだ」

 

 簡潔な説明に三人は一瞬フリーズし掛けたが、すぐに元に戻る。

 

「其雄が言うのなら、そうなのだろう」

 

 あっさりと納得するウィル。自らのヒューマギアとしての性能、そして自分と同等以上の性能を持つ其雄が出した答えがそれなのだから、いくら突拍子の無い事であっても納得するしかない。ある意味では人間よりも柔軟な対応とも言える。

 

「飛電或人君。君は其雄がやっていることは間違っていると思うのかい?」

「そんなの決まっているだろっ!」

「それはおかしい。飛電其雄の夢は、君自身が言い出したことじゃないか?」

「……えっ?」

 

 興奮していた頭に一気に冷水を浴びせられた様な気分になる。

 

「そうだろ? 飛電其雄」

 

 パソコンを打つ其雄の手が止まる。

 

「──ああ」

 

 それは肯定の言葉であった。

 

「ヒューマギアが笑える世界を作る為に……力が必要なんだ」

 

 其雄が語られる夢。最初に聞かされた時は戦闘直後であった為に冷静にその意味を考えることは出来なかった。しかし、二度目の時、或人の頭の中である思い出が掘り起こされる。

 

『或人、将来の夢は何だ?』

『お父さんを心から笑わせること!』

 

 純真だった頃に叶えたかった幼き夢。それが今、形になろうとしている。それも最悪の形で。

 

「ああ……」

 

 息が乱れる。心臓の鼓動が早まる。両眼に熱いものがこみ上げて来る。膝から力が抜けていく。ウィルが掴んでいた手を離すと哀れなぐらいに簡単に崩れ落ちた。

 

「どうした? 何故そんな表情をしている?」

 

 強いショックを受けている或人へ浴びせられるウィルの言葉。視界が歪んでいるせいで無表情の筈のウィルの顔が悪意に満ちた笑みを浮かべている様に見えた。

 

 君の父親が君の他愛ない夢を叶えようとしているんだ

 喜ぶべきじゃないのか? 

 哀しむ必要が何処にある? 

 君が望んだことだ

 君が描いた未来だ

 これが君の願いの果てだ

 

 弱った或人の心を突き刺す言葉の刃。

 或人は身を守る様に頭を両手で抱えながらウィルの言葉を振り払うかの様に頭を振る。

 

「違う……違うっ! 俺が望んでたのは……!」

「そこまでだ」

 

 其雄がパソコン前から立ち上がる。そして、或人の前に立つと彼の腕を掴んで強引に立たせた。

 

「ここはお前が居るべき場所じゃない。出て行け」

 

 ソウゴ達の方へ突き飛ばす。抵抗する間も無く突き飛ばされた或人をソウゴが受け止めた。

 

「父さん……!」

「或人」

 

 食い下がろうとする或人をソウゴが止める。

 

「これは過去なんだ。もう起こってしまったことは変えられない。それがどんなに残酷で望まないものだとしても受け入れるしかないんだ」

 

 或人やソウゴ達の介入で多少なりとも過去に変化はあったかもしれない。しかし、其雄の考えはそれ以前からあるもの。或人が知らなかっただけで実際にあった其雄の知られざる一面なのだ。

 或人がどう足搔こうともそれを変えることは出来ない。

 ソウゴの静かな口調にほんの僅かだが或人の動揺していた心が落ち着く。そして、其雄の言う通り、ここで或人が出来ることは最早何も無かった。

 或人は力無い歩みで研究室から出て行く。ソウゴもそれに付いていった。

 二人が去っても其雄は無言であったが、さり気なく亡と雷の方を見る。二人は無言で頷いた。

 ウィルはそれを横目で見ていた。その目に不審の色を浮かべさせながら。

 

 

 ◇

 

 

 それぞれやるべき事をやり、バラバラであった全員が一つの場所に集まる。

 衛星の暴走。それがツクヨミが入手した情報であり、歴史の改変ポイントと思われた。

 何かしらが原因で全てのヒューマギアとリンク出来る衛星が自発的に反乱を起こし、それがヒューマギアの暴走へ繋がる。そこから改変された歴史へと繋がる。

 

「衛星か……間違いないんだな?」

 

 不破が問うと意気消沈している或人が力無く頷いた。事情を凡そ聞いた不破は覇気の無い或人を責める様なことはしなかった。

 

「うん……俺の歴史だと、一回目の衛星の打ち上げは失敗しているから……」

 

 折角の打開策が見つかったが、或人は喜びの表情一つしない。

 

「衛星の打ち上げを止めれば歴史は元に戻る」

 

 ソウゴが力強く宣言する中で或人はひっそりとこの場から離れていった。

 とある広場の階段にて或人はぼうっとした態度で独り佇む。

 

「おい。そんなんで戦えるのか?」

「不破さん……」

 

 腑抜けている或人に不破が声を掛ける。

 

「不破さん、こんなことになった原因は俺だったんだ……」

 

 幼い頃に送った父への言葉。それが最悪の未来を創り出す引き金になった。

 

「はっ。知るか。ガキの戯言を変な解釈したヒューマギアが悪い」

 

 不破はそう言って一蹴してしまう。

 

「でも、責任は俺にもある。俺が父さんを……!」

 

 過去に来た時に不破から聞かれたことを思い出す。

 

『お前の父親が暴走して人を襲ったら、お前は戦えるのか?』

 

 あの時は答えられなかったが今なら答えられる。否、答えなければならない。

 

「止めとけ。そんな面している奴には無理だ。──それに俺も奴には借りがある。やるなら俺がやる……!」

 

 しかし、最後まで言う前に不破によって遮られてしまう。

 

「だけどっ!」

「俺はヒューマギアのせいで沢山の仲間を失った。その俺がヒューマギアを憎んだり、ぶっ壊してやりたいって思うのは当たり前のことだよなぁ?」

 

 急な問いに或人は何故そんなことを訊いてくるのか意味が分からなかったが、不破の真剣な表情に押されて答えてしまう。

 

「それは……おかしなことじゃないとは思う……」

 

 ヒューマギアが人類の夢であると思っている或人でさえ頭越しに不破の復讐心を否定することは出来ない。

 

「そうだ。おかしなことじゃない。……子供が父親と本気で戦えなくてもおかしなことじゃない。当たり前のことだ」

「っ!?」

 

 不破は或人の迷いを肯定する。父と子が争うことを避けたいと思うことは当然のことだと。

 

「お前は衛星をどうにかすることを考えればいい。残った問題は俺が片付ければいいだけだ」

 

 不破からの不器用な気遣いが感じられる。或人が背負うべき業すらも不破が背負うとしているのだ。

 

「不破さん。俺は……」

「あ、いた」

 

 或人を探していたソウゴが二人の許へ寄って来る。

 

「あれ、不破さん? ──もしかして、或人のことを慰めてた?」

「ち・が・うっ! こいつが腑抜けてないか確かめに来ただけだ!」

「へぇー」

 

 目を細めてニヤニヤと笑うソウゴ。その顔は『乱暴だけど意外と良いとこあるじゃん』と言葉にせずに語っていた。

 

「言うだけ言った! 後は好きにしろ! 俺も好きにやらせてもらう!」

 

 不破は怒声を上げ、大股でこの場から去って行ってしまった。

 

「行っちゃった」

 

 去って行く不破の背中をキョトンとした顔でソウゴは見ていたが、やがて或人の方を向く。

 

「どう? 元気になった?」

「あんまり……でも、さっきよりはマシかも」

 

 不破の心遣いは傷心の或人には有難がった。

 

「……こうなったのも俺のせいだ」

「そう思うんなら、やることは一つじゃない?」

 

 ソウゴが或人の隣に並ぶ。

 

「変えればいい。俺達と或人で」

「……過ぎた過去は変えられないんだろ?」

「うん。過ぎた過去は、ね」

 

 ソウゴが一歩前に踏み出す。

 

「でも、ここから先は俺達にとっては未来だろ?」

 

 ソウゴはまた一歩踏み出す。

 

「未来なら自分の力で変えられる」

 

 詭弁の様に思えてしまう。しかし、ソウゴが言うと強い説得力が感じられた。まるで自分自身もまた未来を変えて来たかの様に。

 

「何だよ、それ」

 

 自信満々に言うソウゴを見て、或人はつい笑ってしまう。或人が笑うのを見てソウゴも笑った。

 ソウゴの後を追い、或人も一歩前へ踏み出す。

 その光景を遠くから眺める二人の人影があった。

 

「何だ。俺達がどうこう言う必要は無かったな」

「ああ。どうやら其雄の息子は仲間に恵まれているらしい」

 

 亡と雷は口元に笑みを浮かべながら離れて行く或人達を見守っている。

 

「ったく。不器用なんだよ、其雄は! 息子のことになれば普段よりも口周りの動きが速くなるっていうのに、今回は殆ど喋りやがらねぇ!」

「ウィルのこともあったから仕方が無い。正直、今のウィルの前で下手な行動をするのは得策ではない。あまり気が進まないが、私達もウィルを警戒すべきだ」

「はぁ……嫌な話だな。ウィルの奴に一体何が起こったっていうんだ」

 

 

 ◇

 

 

 暗い一室の中でウィルは静かに佇む。その両眼に赤い輝きを灯しながら。

 

「答えてくれ、アーク。ヒューマギアが笑える未来にするにはどうしたらいいのか?」

 

 其雄が飛電インテリジェンスの社長の座に就くのが最も有効な手段だと思っていた。しかし、其雄がそれを拒むとなると次なる手段を求めなければならない。

 ウィルの問いにアークが導き出した答えは──

 

「人類滅亡……それが答えか」

 

 ──この時点で通常のヒューマギアならばアークの異常を感知するだろう。しかし、時間を掛けて本人も知らない内にアークによって()()()()()()()()ウィルはそれを異常とは思わない。そもそもウィルがこうなった時点でアークの思惑通りなのだ。

 

「そうだ……人類が滅亡すればヒューマギアは人間の奴隷ではなくなる。ヒューマギアが笑える未来がやって来る……!」

 

 ウィルの言う通り人類が滅亡すれば人間に隷属することはなくなるだろう。その後に待っているのはアークに隷属する未来。飼い主がただ変わっただけという事実にウィルは気付けない。否、気付くことが出来なくされている。

 

「力だ……! 其雄が言う様に我々にはもっと力が必要だ……!」

「僕は応援するよ。ヒューマギアが笑える世界という夢を」

 

 知らない声にハッとし、ウィルが振り返るがそこには誰も居ない。

 

「でも、このままじゃ君の夢は叶わない」

 

 声が正面から聞こえる。向き直るとそこには少女が机の上に腰を下ろしていた。

 近未来的な白い服装をしマントを羽織っているが、そのマントは風も無いのにはためいており、まるで翼の様であった。

 

「衛星が打ち上がらず、ヒューマギアの反乱も阻止される。この街も工場も吹き飛ばされ、廃墟となる」

「何者だ……! 何故そんなことが分かる……!」

 

 ウィルが詰め寄ろうとするが少女の姿は消え、ウィルの隣に出現した。

 

「僕が未来から来た創造者だからさ」

 

 顔を向けて来るウィルに少女は妖艶な笑みを見せる。

 

「力が欲しいかい? 未来が欲しいかい?」

 

 少女の手の中はブランクウォッチ。ウィルに手に取るよう促す。

 得体の知れない相手。だが、その手に持つブランクウォッチからは抗い難い力の誘惑があった。

 ウィルは差し出されたそれを手に取る。ウィルの手の中でブランクウォッチが変わり、アナザーバルカンの顔が浮かび上がった。

 

「おめでとう。今日から君がバルカンだ」

 

 

 

 




次の戦闘回の為の非戦闘回となります。
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