仮面ライダージオウ✕仮面ライダーゼロワンーIF令和ザ・ファースト・ジェネレーション   作:K/K

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滅亡迅雷 その2

 仮面ライダー滅トラッピングスパイダー。仮面ライダー迅プロトバーニングファルコン。どちらも雷と亡にとっては未知数の相手。ヒューマギアは高いラーニング能力を持つが、それには経験を重ねる必要がある。雷と亡も歴戦の戦士であるが、初見の能力という最も危うい条件で戦うこととなってしまった。

 滅の蜘蛛の脚を模したサブアームが動く。先端に指など付いていない作りにもかかわらず三つのアタッシュウェポンを器用に構えている。

 四本あるサブアームの内三本が動く。一本はアタッシュショットで狙い、残りの二本はアタッシュアローのグリップを握っている。

 

「滅びろ」

 

 その掛け声の後、アタッシュショットから光の散弾。アタッシュアローからは無数の光矢が射られる。

 

「くそっ!」

「くっ!」

 

 範囲の広い攻撃であった為、雷と亡は左右に分かれてそれを回避。分散が狙いだと理解していてもそうやって避けるしかなかった。

 雷から離れた亡は、すぐに合流を試みようとするが、亡の進む先を阻むように燃え上がる羽根が何枚も地面に突き立つ。

 立ち止まった亡にも炎の羽根が降り注いでくる。それを回避していると逆に雷と離れてしまう。

 亡は視線を上げる。滞空している迅と目が合った。

 

「お前の相手は僕がしてやる」

「──いつも滅にくっついてばかりの君が一人で私に勝てるのかな?」

「あー! そうやって馬鹿にしてー! 僕だって滅が居なくたってお前ぐらい壊せるんだぞ!」

「それは凄い。本当なら滅に褒めてもらえるな」

 

 子供っぽく反応する迅に対し、亡の態度は冷静と言うか冷めたものであった。

 

「言ってろー!」

 

 迅は両翼を羽ばたかせ強風を起こす。空中や地面で小さな発火現象が起こる。葉や塵などが燃えているのだ。迅が起こした風はただ強い風では済まない。バーニングファルコンの能力により風は高熱を帯びているのだ。

 

 

「くっ!」

 

 亡の速度を以てしてもこの広範囲の熱波から逃れられない。止むを得ず亡は両腕の鉤爪──ニホンオオカミノツメによって熱波を真っ向から切り裂く。

 俊敏性を活かした連続の斬撃は、高熱の熱波ですらも引き裂いてしまう。周囲の物が炎上していく中で亡だけは発火せずにいた。

 

「無駄だよ!」

 

 無邪気な声と共にいつの間にか迅が急接近している。亡の高性能なセンサーはその動きを捕捉出来なかった。高熱による影響もあるが、迅の体自体に優れたステルス機能が有されている可能性もある。

 迅は空中で前後を入れ替え、燃える両足を亡へ放つ。亡は咄嗟に鉤爪で防御するが、受け切れずに蹴り飛ばされてしまう。

 

「ぐううううっ!」

 

 蹴られ、背中から地面に落ちるが威力はそれでも落ちず、背部から火花をまき散らしながら十数メートルも滑っていく。

 

「くう……!」

 

 亡は呻きながら体を起こそうとし驚愕する。迅のキックを受け止めた鉤爪の一本が根元から折れ曲がっているのを見てしまったからだ。

 高熱により柔らかくなりそこから蹴りの圧によって曲げられたのだろうが、今までの戦いの中で亡の鉤爪は変形どころか欠けたことすらない。このことに少なからずショックを受ける。

 

「凄いよねー、この力」

 

 いつの間にか迅が傍に立っており、自分の体を誇らしげに眺めている。

 

「初めて使うのに、なんでかしっくり来るし」

 

 フライングファルコンからバーニングファルコンへの強化は、ウィルの命令とはいえ迅は僅かながら抵抗感を覚えていた。使い慣れた力から新たな力に乗り換えることへの不安があった。しかし、変身してみるとその不安は杞憂であったことを理解する。今までにない力が全身に漲り、手に余るどころかフライングファルコンの時と同じように扱えるのだから爽快感すら覚える。

 

「でも、この姿になってちょっと問題があるんだよね?」

 

 迅は無邪気に語りながらも五指を揃え、手刀の形にする。

 

「これだと──」

 

 迅は手刀を亡に振るう。亡は咄嗟に上体を起こし、手刀を鉤爪で止めた。すると、迅の手刀は赤熱化し触れている鉤爪も熱によって赤く染められる。

 

「玩具で遊べなくなっちゃうんだよね」

 

 ついに鉤爪は迅の手刀によって焼き切られ、四本の爪が亡の足元へ落ちていく。

 片腕の武器を失った亡はすぐに後方へと下がろうとするが、迅はそれに対して両翼から羽を撃ち出す。

 

「くっ!」

 

 近距離から放たれる燃える羽根を片腕の鉤爪で払う亡。限界まで速度を高め、視界全部から襲い掛かって来る羽根を次々と撃ち落としていった。

 

「うっ!」

 

 亡の体が弾かれたように押され、仰向きに倒れる。亡の肩には迅の羽根が突き刺さっている。どれだけ亡が速くともやはり限界があった。

 刺さった羽根は高熱を宿しており、今も燃えている。幸い亡の肩部はアーマーで保護されているので致命傷には至っていないが、刺さった部分赤熱化しており早く抜かなければ溶解を始める。

 亡は躊躇無く燃える羽根を掴む。金属が溶け出すニオイをセンサーが感知する。亡の装甲はそこまで厚みのあるものではないので、羽根を掴んだ瞬間に亡の中で危険を報せる警告音が鳴り出す。

 けたたましいそれを脳内に響かせながら亡は一気に羽根を引き抜き、投げ捨てる。

 肩部のアーマーには縦状の穴が開いている。穴周りは歪な形に変形しており、溶け始める寸前であった。

 最も装甲が厚い箇所でも数秒で溶け出してしまう。他の箇所だったら重大な損傷になっていただろう。

 亡は掌にネバついた感触を覚える。迅の羽根を掴んだせいで掌を覆う装甲材が溶け、指に絡み付いている。もし、手を握り締めたのならそのまま冷えて固まり、開かなくなっていたかもしれない。

 

「どう? 強いでしょ?」

 

 迅は自らの強さを自慢する。どれだけ強化されても子供っぽさだけは抜けない。

 

「──確かに君は強くなった。そこは認めざるを得ない」

「でしょ? でしょ? やっぱり強いでしょ?」

 

 亡に認められると迅は喜び、ますます調子に乗る。迅にとって新しい力は相当爽快である様子。驕りによる余裕が迅に亡との会話という本来ならば有り得ない選択をさせた。

 

「どうしよっかなぁ。このまま戦っても僕が勝っちゃうと思うし……」

 

 すると、迅は腕を組んで何か悩み出す。

 

「ねえ。降参しない?」

 

 急な提案に亡は面喰ってしまう。

 

「……急に何を言っているんだ、君は……?」

「えー。だって僕が勝つって確定してるし、このまま戦っても無駄じゃない。それだったら降参しちゃいなよ。社長も君らのことは嫌いだけどその能力は買ってるみたいだしさ。今降参したらスクラップだけは避けられるかもしれないよ?」

 

 まさかの勧誘。しかも冗談ではなく本気で言っている。ついさっきまで亡を焼き尽くそうとしていた者の台詞とは思えない。

 

「魅力的な提案、なのかもしれないね」

 

 乗る気はさらさら無いが今の迅の戦闘力を分析する為の時間を稼ぐ為に心惹かれるフリをする。

 

「でしょう? 今までのことは全部水に流してさ、僕らと一緒に人類を滅ぼそうよ。亡が入るなら雷も仲間になりそうだし」

 

 有り得ない、という言葉がエラーのように声帯機能から飛び出しそうになる。万が一でも亡が敵へと下ることがあれば雷は怒りのまま自分を木端微塵に破壊するのを容易に想像が出来た。

 

「仲間になったらさ、一気に偉くなれるよ? あ、僕と滅と同じでドライバー使ってるからチームになるかも! そしたらどんなチーム名になるのかな? そうだ! 皆の名前を取って滅亡迅雷ってのはどう!?」

 

 亡の考えも知らず、迅はありもしない未来を想像して一人はしゃいでいる。

 

(滅亡迅雷……)

 

 正直、悪くない名前だと思ってしまった。迅が自分の思い描く未来が最良だと疑いも無く嬉しそうに語る姿に胸の痛みのようなものを感じてしまう。

 ヒューマギアである自分がそんな痛みなど感じる筈がないというのに幻痛として亡の心を締め付ける。

 亡は幼さが残るこの宿敵をどうしても嫌いになれないのだ。

 

「あ、でも、そうなると手土産が必要になるよね?」

「手土産?」

「飛電其雄の居場所。それを教えてくれたら──」

「それは出来ない」

 

 迅が最後まで言い終える前に亡は即答していた。一切の合理性を排し、反射的とまで言える迷いの無い決断。葛藤など全く無い。あまりに答えが早かったせいで迅も固まっている。仮面越しでも呆気にとられた表情をしているのが分かった。

 暫くの間沈黙した後、迅は声を出す。その声にはさっきまであった無邪気さは無く、底から湧き上がってくるものを抑え込んだ抑揚のない声であった。

 

「──何で?」

「私が其雄と雷を売る事など絶対に無いからだ」

 

 それは亡にとって絶対に譲れないことであり決意。あの日、雷と一緒に其雄と苦難の道を行くことを決めた時から絶対に破らないと決めた誓い。

 話を延ばして迅を分析することが最も合理的であり、迅の提案も上辺だけ了承すれば良かった。だが、亡はそれが出来なかった。例え嘘であったとしても是雄たちを裏切るような言葉を出せない。

 

「へぇ……」

 

 抑揚の無い声は一切の感情を排した冷たいものへ置き換わる。それに反して迅が纏う炎の熱は上昇し、彼が立っている地面は高熱での変色を通り越して溶け出していた。

 

「折角、助けてあげようとしたのに」

 

 一方的に盛り上がり、一方的に裏切られたと思い、一方的に傷付いた。全ては迅の独り善がりに過ぎない。

 

「──すまない。だが、魅力的に思えたのは本当だ。そんな可能性もあったかもしれない……だけど可能性になるにはお互い傷付け合い過ぎたし、背負うものが増えすぎたんだ」

 

 迅なりの善意を踏み躙ってしまったことに亡は心の底から謝罪する。

 

「何だよ、それ……」

「もうとっくに私たちは戻れない所まで来てしまったんだよ」

 

 亡にとってそれは自嘲の言葉であった。同胞を救う為に同胞と傷付け合う。これがヒューマギアにとっての進化だとするのなら、ヒューマギアは紛れもなく人間に似ている。

 迅は何かを言いたそうにしているが、上手く処理出来ず言うべき言葉も見つからず、苛立って地団駄を踏む。溶けた地面が水音のような音を立てた。

 

「もういい! もう知らない! お前なんて再利用出来ないぐらいドロドロにしてやる!」

「……本当にすまない」

「うるさい! 謝るなっ!」

 

 亡の謝罪が迅に癪に障る。

 迅が火の粉を飛ばしながら飛翔。空中を高速で飛び回って攪乱する。

 

「やっぱり嫌いだ! お前なんて!」

 

 癇癪を起こしたように幼い言葉で亡を罵る。亡はそれに反論することなく甘んじて受け入れ、残された鉤爪を構えた。

 

「そう言われても仕方ない」

 

 

 ◇

 

 

「こ、の、野郎っ!」

 

 雷と滅の戦いは、雷の方が押されていた。

 右から来るアタッシュカリバーをヴァルクサーベルで受け止めると、時間差でアタッシュアローのブレードが左から雷の首を狙って来る。それももう一本のヴァルクサーベルで防ぐ雷。

 次の瞬間、雷のこめかみにアタッシュショットの銃口が突き付けられていた。

 

「うおっ!?」

 

 上体を限界まで反らしたすぐ後にアタッシュショットから散弾が撃ち出され、雷の眼前を通り過ぎて行く。コンマ数秒遅かったら雷の頭部は消失していただろう。

 

「ふん!」

 

 アタッシュウェポンによる三連続攻撃を切り抜けた雷であったが、四撃目となる滅の横蹴りを避ける術は無く、腹部を思い切り蹴飛ばされる。

 

「がはっ!」

 

 蹴り飛ばされた雷は、廃墟の壁に衝突し壁を突き破って埃塗れの地面を転がっていく。

 

「くそっ……!」

 

 埃塗れになった雷は蹴られた箇所を押さえながら立つ。文字通り手数の違う滅の攻撃に雷は防戦一方であった。

 雷は自分が空けた壁の穴を睨みながらヴァルクサーベルを握り直す。

 

(来いよ! 簡単にはやられねぇ!)

 

 意気込む雷であったが、穴を見て段々と嫌な予感を覚え始める。

 そして、予感は現実となる。

 

『CHARGE RISE! FULL CHARGE!』

『CHARGE RISE! FULL CHARGE!』

『CHARGE RISE! FULL CHARGE!』

 

 立て続けに鳴る電子音声。

 

「あの野郎っ!?」

 

 電子音声が聞こえた段階で雷は走り出していた。

 

『KABAN STRASH!』

 

 壁を斬り裂き、雷の背後を黄色いエネルギーの斬撃が通っていく。

 

『KABAN SHOT!』

 

 雷は身を屈める。集束された水色の光弾が頭上を通り過ぎて行く。

 

『KABAN SHOOT!』

 

 雷は前方へ跳び込む。密集した紫の光矢が足裏を掠めていく。

 アタッシュウェポンの三連続チャージ必殺技を紙一重で回避した雷。跳び込んだ勢いのまま埃を巻き上げながら地面を転がっていく。

 薄汚れてしまった雷の聴覚センサーが足音を感知する。

 人一人分通れる程度の穴が、アタッシュウェポンの攻撃により壁一面崩壊。散らばった瓦礫を踏み付けながら滅がやっと廃墟内へ踏み入る。

 

「手足の一本ぐらいは貰ったと思ったが無傷か。流石、しぶといな」

「無茶苦茶やりやがってぇ……!」

 

 淡々と喋る滅と怒りを剥き出しにする雷。

 

「破壊する前にお前に聞いておきたいことがある」

「──何だよ?」

「飛電其雄は何処にいる?」

「俺が喋ると思ってんのか! ばーかっ!」

 

 話は終わりと言わんばかりに雷は立ち上がると即座にダッシュ。ヴァルクサーベルを両翼のように広げて滅への接近を試みる。

 

「愚かなのはどっちだ?」

 

 雷を冷笑し、滅はアタッシュショットガンとアタッシュアローによる遠距離攻撃を開始。散弾と光矢が怒涛となって雷へ押し寄せる。

 

「見えてんだよ!」

 

 ヴァルクサーベルを振るうと刃から赤色の斬撃が飛ぶ。既にラーニングを完了した雷には散弾と光矢の動きが見えており、斬撃によってそれらを相殺し道を切り拓く。

 弾幕を切り抜けた雷が滅に斬りかかる。

 

「うおりゃっ!」

 

 二刀のヴァルクサーベルの斬り下ろし。アタッシュカリバーとアタッシュアローがそれを防ぐが、サブアーム故か本体と比べると力が弱く押されてしまう。

 滅は小さく舌打ちし、アタッシュショットで雷を狙おうとするが、そのパターンを読んでいた雷は回避行動に移ることはせず滅に前蹴りを打ち込み、射線をずらす。

 

「おらっ!」

 

 散弾が雷のスレスレを通っていく。一歩間違えれば撃ち抜かれていてもおかしくないというのに、恐怖に屈する事無く攻撃を敢行した度胸。AIの演算に従い合理的に動く滅にとっては理解出来ない行動であり、同時に雷が滅に付け入る隙であった。

 雷の命知らずな非合理的攻撃により滅は蹴り飛ばされる。滅が飛んでいる最中に雷が追撃を放とうとした時──

 

「うおおおっ!?」

 

 滅を追う様に雷の体が何かに引っ張られる。急いで踏み止まる雷。すると、飛ばされていた滅も空中で急停止して着地する。

 雷は急いで自分の体をスキャンする。今の攻撃で滅に何かしらの細工を施されたのは分かっていた。

 

「これか!」

 

 廃屋の天井から洩れる僅かな光が一瞬だけ起る煌めき。肉眼ではまず見えないそれは極めて細い糸。5ミクロンしかない蜘蛛の糸よりも更に細く、しかし、雷の体を引っ張っても切れない丈夫さを持っている。

 細く伸びた糸は何本も雷に絡み付いている。糸を辿るとそれは滅の体から伸びていた。

 

「気色悪い真似しやがって!」

 

 滅と繋がっているという状況に嫌悪しながらヴァルクサーベルを糸へ振り下ろす。

 ヴァルクサーベルの刃が糸に当たり、地面スレスレまで振り下ろされるが、糸は驚異的な頑丈さと柔軟性によって断つことが出来なかった。

 

「嘘だろ!?」

 

 渾身の斬撃ですら切断することの出来ないトラッピングスパイダーの糸に驚く。そのタイミングで雷の体がビクンと跳ねる。

 

「がっ!?」

 

 センサーが異常を報せる。糸から電気が流されており、それが雷の機能を狂わせる。

 

「電気を出すのは得意だが、逆は不得意だったか?」

 

 痙攣している雷に滅は挑発の言葉を掛ける。

 

「こ、の、陰険、野郎……!」

 

 雷という名前の通りに電撃の扱いに長けており、雷の外装は強い絶縁性があった。しかし、それを貫いて雷にダメージを与えている。恐らくは糸の細さを利用して装甲の隙間に侵入し直接電気を流し込んでいると考えられる。

 電気によって雷の動きを封じている間に、滅はサブアームからアタッシュカリバーを取り、スロットにスティングスコーピオンプログライズキーを装填。アタッシュカリバー内にプログライズキーの力がチャージされたことをアナウンスされると、アタッシュカリバーを閉じ、再び開く。

 

『SCORPION'S ABILITY! CHARGE RISE! FULL CHARGE!』

 

 刀身が紫色に輝くと剣先から同色の液体が滴る。地面に付着するとコンクリートが液体によって音も無く溶け始める。

 生成された高濃度の毒液。濃度を調整すれば解毒薬や抗体の生成など万人を救う能力であるが、悪意と敵意を以って使用すれば今のように無機物、有機物を問わず侵して破壊する毒にしか成らない。

 刺せば絶命は必須のそれを目線の高さまで持ち上げ、水平にして突きの構えをとる。その間にも雷は糸によって引き寄せられている。

 糸を切断することは現状では不可能。そう判断した雷は大胆な行動に出る。

 

「う、おおおおおっ!」

「何!?」

 

 逆に自分の方から滅の方へ駆け出したのだ。

 

「血迷ったか!」

 

 理解不能な雷の行動に滅もそう言わざるを得ない。だが、雷のこの行動には意味があった。引っ張られて張り詰めていた糸が雷の方から近付くことでたわみ、自由に動く為の余裕が出来る。

 

「どっちみち引き寄せられるんだったらよぉ!」

 

 雷はフォースライザーのトリガーを引きながら跳躍する。

 

「こっちから引き寄せてやるよ!」

 

 

 

  

 

 

 空中で雷は赤雷を発生させながら錐揉み回転。そうすることで纏わりついていた糸が絡まり、繋がっていた滅を宣言通り引き寄せる。

 

「貴様っ!」

 

 攻撃の主導権を握ろうとする雷に対し、滅もまた真っ向から挑む。

 

『STING! KABAN DYNAMIC!』

 

 放たれるアタッシュカリバーによる突き。空気の壁を破る際に滴っていた毒液が周囲に飛び散る。

 滅の突きを迎え撃つのは雷の蹴り。右足を軸にして高速回転しており、対象を穿孔する為の力を一転に集中させている。

 

「おりゃああああああ!」

「はあっ!」

 

  ゼツメツ    スティング

 

 カバンダイナミック! ディストピア!

 

 突き破る赤雷の一撃と腐れ溶かす毒蠍の一撃が激突。

 赤雷と毒液が反発するように廃墟内に飛び散り、壁や床を穿ち、溶かし、破壊していく。

 

「うおっ!」

「くっ!」

 

 技の衝突が齎した結果は互角。お互いに届くことなく技同士の威力によって弾き飛ばされる。

 それによりお互い揃って地面を転がり、埃で汚れた地面の味を知ることとなった。

 

「く、そ……!」

 

 雷は吐き捨てる。必殺技が届かなかったことへの不満もあるが、それ以上に体から立ち昇る白煙を見ての感想であった。

 技は届かなかったが毒は雷に届いていた。赤雷によって大半は蒸発したが、細かな雫が雷の体に付着しており装甲の一部を溶かしている。幸い重要な箇所には掛かっていなかったが、それでもダメージがあることには違いない。

 

(このままだと良くて相打ちか? それじゃあ意味がねぇ!)

 

 雷はこの戦いの勝敗に関する計算を導き出す。答えは8割の確率で雷の敗北。残りの2割は捨て身による引き分けであり、雷の勝つ確率は0に等しい。

 

(……使うか?)

 

 雷はまだ奥の手を残してある。本当ならばもっと重要な局面で出すつもりであったが、こうなってしまっては出さざるを得ない。出し惜しみをして使わずに負けてしまう方が間抜けである。

 雷が決断した丁度その時、滅は密かにアタッシュショットガンの照準を雷に合わせていた。あとは引き金を引くだけだったが──

 

「──うおっ!?」

 

 ──偶然にも天井の一部が崩れて雷の方へ落下してきた。それに気付いて慌てて転がるように移動する雷。崩れたのは二人の戦闘による影響であった。

 崩れた天井が積み上がり瓦礫の壁となり、雷を隠す遮蔽物となる。

 

「──運の良い奴だ」

 

 滅はアタッシュショットの構えるのを止めた。無駄打ちをするのは彼の性に合わない。

 滅はサブアームを動かして持っていたアタッシュカリバーを預ける。そこでサブアーム一本の動きがぎこちないことに気付く。すぐさまスキャンをすると先程の雷の攻撃により幾つかの破損が生じており、30パーセント程機能低下が起こっていた。

 戦闘に大して影響は出ないが、ウィルから授かった折角の力に傷が付いたことが滅にとっては面白くない。ましてや性能面ではこちらが上回っていることが分かった上で。

 

「このままコソコソと隠れ続けるか? 俺はそれでも構わないが?」

 

 瓦礫に身を隠している雷を挑発する。勿論、どういう反応をするか織り込み済みである。

 

「別に隠れてねぇよ。色々と準備してたんだ」

「……準備?」

 

 滅が怪訝に思っていると雷は瓦礫の陰から出て来る。武器を構えようとする滅であったが、その前にあることに気付いた。

 

「何だそれは?」

 

 滅が注目したのは雷の腰に付いてあるベルト。側面にいつの間にか携行用ホルダーが追加されている。

 

「これか? これはなぁ!」

 

 雷はヴァルクサーベルを頭上に放り投げ、背後に両手を回す。正面に戻した時、手の指の間にはゼツメライズキーが四個ずつ、左右合わせて八個挟まれていた。

 

「こうするんだよ!」

 

 ゼツメライズキーをホルダーに装填。同時に各ゼツメライズキーが起動状態に入る。

 

『BEROTHA!』

『KUEHNEO!』

『EKAL!』

『NEOHI!』

『ONYCHO!』

『VICARYA!』

『GAERU!』

『MAMMOTH!』

 

 八個のゼツメライズキーからホルダーを通じて雷にロストモデルを注入する。

 

「くっ、が、ぐうう……!」

 

 雷は呻きながらも膨大なデータを体内で処理すると共に落ちて来たヴァルクサーベルをキャッチする。

 雷の体が八色に輝き出す。

 

「させるか!」

 

 傍から見れば自殺行為だが、雷の性能を考えてもこのままにするのは不味いと思い、滅は武器を構えようとする。

 

「がああああああああっ!」

 

 雷は絶叫を上げ、その体から衝撃波を発する。滅はそれを浴び、吹き飛ばされる。

 

「ぐううう! あぐあああああっ!」

 

 雷は獣のように叫び続ける。取り込んだ力が処理し切れず、雷の体から各ゼツメライズキーのモデルが飛び出ている。

 

「言う事を……!」

 

 雷は苦しみながらも出て来たモデルの頭などをヴァルクサーベルの柄頭で叩き、体の中へ押し込んでいく。

 

「聞け……!」

 

 一喝するとモデルが体内へ引き摺り込まれていく。八体のロストモデルを取り込んで過負荷が生じているのか雷は全身から熱を発し、周囲が陽炎となって揺らいでいる。

 

「それがゼツメライズキーを回収していた理由か」

 

 亡と雷はマギアを倒す度に貴重なゼツメライズキーを回収していた。地道ながらこちらの戦力を削る為のものだと思われていたが、自らに用いるのは思わぬ隠し玉であった。

 

「いざという時の、為に、取っておいたが、仕方、ねぇよ、なぁ……?」

 

 負担が強いせいで雷の言語機能に支障が出て来ている。口調がたどたどしくなり、声にノイズも混じっている。

 

「俺にも、どうなるか、分からねぇ……!」

 

 喋る度にベローサの鎌が、クエネオとオニコの羽が、エカルとマンモスの牙が、ネオヒのビカリアの触覚と殻が、ガエルの頭部が飛び出ては引っ込んでいく。

 

「ここから、先、雷、落ちるだけじゃ、済まねぇぞぉぉぉぉ!」

 

 雷が吼える。その声は一つだけでなく様々な動物の鳴き声が混じっていた。

 




初登場の雷がベルトにホルダーをいっぱい付けていたのを見ると、エターナルを彷彿とさせますね。
だからこそ、ロマンを感じるゼツメライズキー多数同時使用という展開にしてみました。
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