仮面ライダージオウ✕仮面ライダーゼロワンーIF令和ザ・ファースト・ジェネレーション   作:K/K

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滅亡迅雷 その4

「待て」

 

 処刑剣として亡に振り下ろされる筈であった迅の手刀は、その一言で止まる。

 待ったを掛けたのはバトルマギアの大群を率いたウィルであった。

 

「何で止めるの? ──社長」

 

 亡の処罰を中断させられ、迅は露骨に不機嫌な態度をとる。普段の彼からは想像もつかない程に幼さの消えた険呑な雰囲気を出している。

 

「お前がそいつを処刑することに反対は無い。だが、場所が悪い」

「場所?」

「近々株主総会がある。その場でこいつを公開処刑する」

 

 公開処刑。その言葉を聞いた時、迅の口から反射的にある言葉が飛び出しそうになるが、それを寸での所で呑み込み、代わりの言葉を吐く。

 

「へぇ、そう。──それは楽しみ!」

 

 迅から険吞な雰囲気は消え、変身を解除する。変身を解いた迅は普段の幼さを感じさせる笑顔を浮かべながら倒れている亡から離れた。

 ウィルは亡に近寄り、その顔を覗き込む。亡の顔の一部はコーティングが剥げて機械部分が剥き出しになっており、口や額から冷却用の青い液体が流れ出ている。

 

「戦闘のダメージで一時的に機能停止になっているだけだな。いずれは再起動するだろう。それでいい。壊れたヒューマギアをもう一度壊しても意味が無い」

 

 ウィルは片手を挙げる。バトルマギアたちが亡の両腕を掴んで立たせると同時に拘束。亡が装着していたフォースライザー、ジャパニーズウルフゼツメライズキーも没収する。

 

「ついでにこいつは餌になる。飛電其雄を釣り上げる為の餌に、な。奴の仲間が処刑されると耳にすれば必ず奴は現れる」

「必ずね……随分と自信満々だね?」

 

 もし、仮に自分が其雄の立場だとしたら処刑を阻止する為に罠だと分かっていても跳び込むことは出来るだろうか、と迅は考えた。

 彼のAIは至極簡単に結論を導き出す。答えは『無理』だ。合理的な思考が無謀な行動をさせることを拒絶させる。例え、処刑されるのが滅だと仮定してもだ。

 だからこそ断言するウィルに疑いを抱いてしまう。

 

「来る。まともなヒューマギアならば現れないだろうが……こいつを含めて奴らはヒューマギアとして壊れている」

「成程。確かに」

 

 人類が滅亡しようとしている中でも人間に味方しているヒューマギアなど正常ではない。正常ではないからこそ異常な行動をするとウィルは読んでいるのであった。

 

「だが、処刑するのは一体では物足りない」

「え?」

 

 一体のバトルマギアが前に出て来る。そのバトルマギアは子供を拘束していた。子供は周りをヒューマギアで囲まれているせいで顔が強張り、蒼褪め、涙を流してこれでもかと恐怖を露わにしている。

 

「人間の残党の中には積極的に我々と敵対しているヒューマギアが存在する。名は確かイズといったか? それも処刑の対象だ」

 

 そこまで言われて迅はウィルが何をしようとしているのか察した。

 

「それと交換するの?」

「ああ。我々ヒューマギアにとって何の価値も無いが、人間からすれば逆だ。それこそイズを差し出しても構わないぐらいにな……愚かな話だ」

 

 ウィルは人間を嘲る。迅自身もウィルの考えには賛同する。迅は人質となった子供の顔を見る。涙で濡れた瞳と目があったが、何の感慨も抱かなかった。人間ならば庇護欲が湧いていたかもしれないが。

 

「ふーん。分かった。僕も社長に着いていけばいいの? それとも滅の手伝いでもしてくる?」

「放っておけ。滅も直に戻る」

「りょーかい」

 

 ウィルはバトルマギアたちに人質を運ばせ、人間たちの拠点深くを目指す。イズと人間の子供の人質交換をする為に。

 迅はそれから少し離れて同行する。

 

(それにしても公開処刑か……)

 

 ウィルの前では平然としていたが、良い気持ちはしない。人間のことを散々蔑んでいるのに人間の、それも旧い時代の人間たちの真似事をするのは正直な所、ヒューマギアとしてはどうかと思った。

 そんなことを考えていると自然と口から言葉が滑り出る。それは先程吞み込んだ言葉。

 

「……悪趣味」

 

 誰にも聞こえないように小さく呟いた声は。バトルマギアらの雑踏の音の中へと消えていった。

 

 

 ◇

 

 

 滞空する雷。天井に立つ滅。傍から見ると奇妙な光景であり、見る者によっては脳が錯覚を起こしそうであった。

 

「威嚇しているところ悪いが、ご自慢の武器は全部失った状態じゃ格好付かないぜ? それともさっきから見せてくれたあやとりで戦うつもりか?」

 

 雷の言う通り滅が持っていたアタッシュウェポンは、雷の奮戦により現在使用出来ない状態にある。それでもトラッピングスパイダーの固有能力である電磁ワイヤーという厄介な武器が残されているが、雷は分かっている上で虚仮にして挑発していた。

 雷の挑発を滅は鼻で笑うと、右肩を前に出した構えを取る。その構えから右手を前に出し、胸前に左手を持って来る。

 すると、腕部に付いていた蜘蛛の足を模した外装が持ち上がり、前に突き出る。鋭い切っ先を持ち、相手を刺突し易い形状をしている。

 両腕から新たに二本のサブアームが追加された。

 

「まだ武器を隠し持ってたか。セコイ野郎だ」

「ふっ。大量のゼツメライズキーで過剰に武装し、身を守ろうとしている臆病者が言う台詞だと思うと滑稽だな」

 

 互いを誹り終えると同時に雷は空中を疾走。滅はサブアームと大きく広げて迎え撃つ。

 

「おらっ!」

 

 雷は空中で反転して右足を突き出す。足裏が変化してエカルの牙が伸び出す。

 滅は雷の体のあちこちから武装が展開することに最早驚くことは無く、腕部のサブアームで弾く。

 エカルの牙を弾かれたことで雷の体はバランスを崩して横向きに回る。しかし、雷はその回転を利用して後ろ回し蹴りのような体勢から今度は左足を前に突き出した。左足裏からはネオヒの触手が飛び出す。

 先端が槍状になっている複数の触手が滅を貫こうとするが、滅の背部に展開しているサブアームはその数に対抗して素早く動き、全ての先端を斬り飛ばしてしまう。

 この間に距離を縮めた雷は、触手を相手にしてサブアームの防御が疎かになっている隙を狙い、逆さになっている滅の首元へヴァルクサーベルを振るう。

 

「くたばれ!」

 

 交差する赤い残像。しかし、それは虚空に刻まれただけであり、斬るべき相手はそこに居ないまま通り過ぎてしまう。

 すぐさま雷の視線は下へ向けられた。滅が地面目掛けて落下している

 雷がヴァルクサーベルを振るう直前、滅は天井と繋げていた糸を自ら断ち、自由落下することで雷の斬撃を回避する。

 そしてすぐさま新たな糸を伸ばすと、空中で急停止した後に雷の下を振り子のように移動し、再び上へ昇っていく。

 最高点へ達すると滅は繋いでいた糸を切断。振り上げられた勢いで天井へ飛び上がっていく。

 雷も空中で急停止し急いで向きを変える。その時、雷は滅の手がフォースライザーに触れているのを見た。

 

『TRAPPING DYSTOPIA!』

 

 発動音声と共に滅の計六本のサブアームがそれぞれ独立した動きをする。円の動き、縦の動き、横の動きとどれもが複雑に動く。

 雷はこのまま接近するのは不味いと思い、空中で一旦止まる。しかし、その判断はこの状況では不適切であった。

 技の発動と共に滅はサブアームの先端から糸を放出する。それも通常時に使う糸では無い。通常でも肉眼ではほぼ見えないレベルの細い糸だが、今滅が出している糸はそれよりも十分の一の細さであり、雷の視覚センサーですら認識出来ない。

 雷はまだ気付いていない。自分の周囲に大量の糸がばら撒かれている状態であることに。そして、自分が蜘蛛の糸の中心に捕らわれていることに。

 十分な量の糸を展開すると最後の締めに滅は自らを抱き締めるように左右のサブアームを交差させる。

 サブアームの動きに合わせ、操られた大量の糸が雷に絡み付き、空中で捕縛する。

 

「なっ!?」

 

 雷の視点からは突然体に糸が巻き付いたようにしか見えない。何かをしていることは分かったが、実際に体に触れるまで──否、触れても尚分からず幾重にも巻かれて初めて羽毛で撫でられた程度の感覚としてそこにあることを認識する。

 急いで蜘蛛の糸から逃れようとするが、両腕は体の側面に密着した状態となっておりヴァルクサーベルを振るえない。装甲の一部を変化させベローサの鎌での切断を試みるが、糸のせいで上から押さえつけられたようになっているのでそれも叶わない。

 

「くっ、う、ぐぅぅぅぅ!」

 

 力による強引な突破も試してみる。糸はビクともせず、細過ぎるせいで千切れているのか分からない。

 細くなった分強度は下がっているが、滅はそれを量によって補っており、雷の腕力では脱出には時間が掛かる。少なくとも今から滅の行う攻撃に対し間に合うことはない。

 滅は天井に着地するとフォースライザーのトリガーを二度引いた。

 

 

 

  

 

 

 滅のサブアームが指揮棒のように振るわれ、宙に巨大な蜘蛛の巣を作り上げる。滅はその蜘蛛の巣目掛けて左足から飛び込んでいく。巣は強靭な弾力性によって滅を受け止め、伸びて行く。

 張力が限界まで達した時、スリングショットのように滅を撃ち出した。

 矢の如き速度で滅の右足が雷の胴体に叩き込まれる。

 

『TRAPPING UTOPIA!』

「ぐあっ!?」

 

 滅の勢いは弱まらず、右足を打ち込んだ雷ごと飛んで行く。雷の体と繋がっている糸が引っ張られ、廃墟内に亀裂の生じる音が響いた。

 滅の蹴りが雷を貫くかと思いきや、滅は何かに気付き仮面の下で微かに眉をひそめる。

 そのすぐ後に滅は打ち込んでいる足を軸にして体を右へ大きく捻る。それにより滅の体勢が変わって左足が高々と持ち上げられた。

 

「落ちろ」

 

 右の飛び蹴りから左足による打ち下ろしの蹴りへと変化。変則的な連続蹴りが雷の右肩へ落され、滅の言葉通りに雷は地面目掛けて叩き落される。

 

 

 

 

 

 

  ユートピア!

 

 地面へ凄まじく勢いで落下していく雷。だが、途中で急速に減速する。やがて地面スレスレで雷の体は止まった。雷を拘束している糸の伸縮により地面への落下は紙一重で免れたのだ。

 滅の頑丈な糸が仇となった──訳では無い。さっきも響いていた亀裂音が大きくなり、絶えず聞こえて来る。天井、壁などに大きな罅が入っており、それらが繋がっていく。

 滅の糸は彼自身でも切断するのに手こずる程に頑丈である。だが、その糸と繋げられているこの廃墟は糸程頑丈ではなかった。

 糸が付いていた周辺の壁や天井が剥がれ、雷へ一斉に向かって行く。糸の伸縮性による凄まじい勢いの瓦礫による突撃を四方から浴びせられていき、瓦礫が重なって行くことでやがて雷の姿が見えなくなり瓦礫の塊と化した。

 滅は瓦礫の塊を見下ろしながら垂らした糸でスルスルと下りていく。

 地面に降り立った滅は、瓦礫の塊に向けて言う。

 

「いつまでそうしているつもりだ?」

 

 まるで雷の生存を確信しているような言い方であった。

 すると、滅の声に触発されたのか塊が震え出す。次の瞬間、内側から赤雷が飛び出し纏わりついていた瓦礫を破壊していく。

 全ての瓦礫を赤雷で弾き飛ばすと中から雷が現れる。滅の必殺技を受けても無事──という訳では無く右腕を力無く垂らしている。

 

「効いたぜ、この野郎……!」

「やはりな」

 

 滅は雷が破壊を免れたことが分かっていた。最初の一撃を与えた時、装甲とは違う感触を右足から感じ取っていた。恐らくは攻撃される箇所を予測し、そこに八体全てのロストモデルを集めることで防御したと思われる。滅もライダモデルで攻撃を防ぐという手段を行ったことがあるので察することが出来た。

 だが、滅の攻撃を完全に防いだという訳では無い。雷の胸部装甲にはしっかりと足の形の凹みが出来ていた。

 また、防御を一部に集中し過ぎていた為、二撃目の打ち下ろしの蹴りに対しては防御が間に合わなかった。雷の右肩からは負傷により火花が散っている。

 

「くっ……!」

 

 瓦礫を跳ね除けて立ち上がった雷だが、すぐに膝から崩れそうになる。ゼツメライズキーの複数同時使用と滅からのダメージで体は限界に近い。

 

「まだ足掻くか?」

「当たり前、のことを、聞くんじゃ、ねぇ……!」

 

 あくまで強がる雷に対し、滅は冷え切った眼差しを向ける。

 

「ならば無駄な足掻きの果てに滅しろ」

 

 介錯代わりに滅はフォースライザーのトリガーを引く。

 

『TRAPPING DYSTOPIA!』

 

 背部のサブアームにエネルギーが流し込まれ、サブアーム全体が紫色の光を帯びる。強化されたサブアームによって雷を貫こうとする滅。

 絶体絶命の状況を前にし、雷は──

 

「う、おおおおおおおおっ!」

 

 雷の右肩から血飛沫代わりに火花が飛び散る。損傷している右腕を無理矢理動かしたせいであった。腕の機能に影響が出ており、痙攣でも起こしているかのように右手は上下左右にガクガクと震えている。

 激しく震える右手の先が引っ掛けるのはフォースライザー。

 

『ZETSUMETSU UTOPIA!』

 

 観念するなどという彼らしくないことはせず、寧ろ残された最後の力を完全燃焼させるかのようにフォースライザーのトリガーを動かしていた。

 半死半生のものとは思えない雷の咆哮に応え、雷の体から各ゼツメライズキーのロストモデルが飛び出す。

 飛び出したロストモデルは集まると互いを食み合うように溶けていき、形を崩して混じりながら多色に輝く螺旋を生み出す。

 その名の通り既に絶滅し、存在したという記録しか残っていない存在。それが一つとなって巨大なエネルギーとなる。決して理想郷には辿り着けない失われた命らが、雷が一矢報いる為に力を貸す。

 

「何だこれは……!」

 

 前例の無い現象に滅も驚きを露わにしてしまう。ゼツメライズキーの複数同時使用がこれ程のエネルギーを発生させるのは予想外のこと。これだけのエネルギーがあれば自分だけでなく迅やウィルすらも葬れる可能性が出て来る。

 

「目に、焼き付けて、おけ……! こいつは、雷よりも、強烈だ……!」

 

 雷は跳び上がり、ロストモデルが造り出す銀河のような螺旋の中へ右足から突入していく。

 螺旋の中に蠢くロストモデルたち。殆ど見分けがつかないぐらいに一体化している。或いは生物という殻を捨て、純粋な命の姿となったと言えるのかもしれない。

 純化した生命へと突っ込んだ雷は、それを右足に纏わせ、命そのものを攻撃へと転じさせる。

 螺旋は雷の右足に纏わせることで中心部が突起のように盛り上がり、右足だけでなく雷すらも覆う。

 正真正銘の最後の一撃。何も残さない。欠片すらも出さない。全てを出し尽くす。

 

「おおおおおおおおっ!」

 

 雷とロストモデルが造り出すドリル状のエネルギーが、滅へ突撃してくる。滅はサブアームを突き出して迎撃を行う。

 

 トラッピング  ディストピア!

 

 四本のサブアームから繰り出される強力な突きが雷の蹴りと激突。

 だが、雷の蹴りはそれでは止まらない。八個のゼツメライズキーをオーバーロードさせて生み出す一撃は、容易く破れない。

 淘汰されたものたちの足掻き。歴史にしか記されていない生命の輝き。理想郷を失ったものたちの咆哮。

 

 ゼツメツ

  ″ロスト″

   ユートピア! 

 

 生命が廻ることで生じるエネルギーが、突き出されたサブアームを激しく攻める。サブアームが二重に見えるぐらいの振動を起こさせたかと思えば、間も無くしてサブアームの一本が千切れ飛ぶ。

 

「くっ……!」

 

 サブアームを一本失えば他の負担が増す。連鎖的に二本目、三本目のサブアームも破壊され、残り一本となる。

 滅のAIがしなくても良い計算を始める。導き出されるのは自らの敗北。胴体を貫かれ、細かな破片と化す未来の自分を計算結果として鮮明に映し出す。

 抗うことなど出来る筈も無い。ヒューマギアが自分の出した答えに逆らえる筈が無い。

 最後のサブアームも限界が訪れようとしていた。関節部から火花が散り、外装が罅割れ、剥がれ落ちていく。

 1秒後には計算された未来が訪れる──そう思っていた。

 唐突に雷の攻撃が霧散する。空中に居た雷は、体から火花を散らして地面へと落下。ホルダーに収められていたゼツメライズキーが次々と自壊していく。

 

「これは……」

 

 急な展開に滅も困惑してしまうが、すぐに何が起こったのか理解した。

 雷の体に限界が来たのだ。複数のゼツメライズキーの反動が生じて体が破損。それにより雷によって制御されていた複合したロストモデルのエネルギーが逆流を起こし、ゼツメライズキー自体を破壊してしまった。

 紙一重の差であったが、何か一つでも違っていたら勝敗は逆転していたかもしれない。だが、滅は雷の攻撃を耐え切った。それが揺るがぬ答えである。

 

「予想以上に消耗した……」

 

 勝ったには勝ったが滅からすれば苦い勝利である。ウィルから授けられたトラッピングスパイダーは半壊状態であり、アタッシュウェポンも三つの内二つも使用不能状態にされた。

 旧型相手にここまでされたのなら実質的には引き分けに近い。

 滅はこれ以上の消耗を抑える為に変身を解除。一先ず迅と合流しようと考えていた時──いつの間にか雷が立ち上がっていた。

 帯刀していた刀を反射的に抜く滅。だが、雷は滅を攻撃することは無かった。崩れるように変身を解くと雷はゆっくりと後ろへ倒れて行き、地面に大の字になる。

 

「はぁ……俺の負けだ。やるならやれ」

 

 仰向けになったまま雷は自らの敗北を宣言する。

 潔い態度。しかし、滅は不可解な疑問を抱く。

 

「何故わざわざ立った?」

 

 敗北を認めているなら立つ必要も無い。ましてや激しく損傷した体でやること事態が滅にとって理解不能であった。

 

「決めってんだろ……俺は、宇宙飛行士になるために造られたヒューマギアだぜ……?」

 

 仰向けになっている雷が見つめるのは穴の開いた天井から見える青空。より正確に言えば空の向こう側にある宇宙を空越しに見ていた。

 

「壊れる時は、宇宙(そら)を見ながらって、決めてんだよ……」

 

 打ち上げられた衛星をサポートする為に造られたヒューマギア。その夢は叶うことは無かったが、せめて最期の瞬間まではそう在りたい。雷のいつまでも変わることのない矜持である。

 

「お前に礼を言って、やるよ……お前が天井に、大穴開けてくれたお陰で、最期に空が見える。──ありがとよ」

「……理解不能だ」

 

 この期に及んで礼の言葉すら言ってきた雷に滅は困惑してしまう。彼のAIを以てしても雷の言動は理解出来ないものであった。

 これ以上会話をしているとAIに狂いが生じると思った滅は、雷を黙らせる為に刀を垂らして彼の許へ一歩──

 

「むっ」

 

 ──踏み出す前に通信が入って来る。

 

『状況はどうなっている?』

 

 ウィルからの通信あった。

 

『迅は亡を無力化させた。後はイズを捕獲し、飛電インテリジェンスへ連行する。そこで二人を公開処刑する』

 

 滅の返答を待たずにウィルは一方的に話す。

 

『雷と交戦しているらしいが、奴はどうなった?』

 

 ようやく滅の言葉に耳を傾ける。

 

「奴は……」

 

 滅の目が雷の方へ向き、僅かの間沈黙する。

 

「……既に始末した」

『そうか。ならすぐに合流しろ』

「了解」

 

 通信が切れ、滅は抜いていた刀を鞘に収める。滅はこの場から去ろうとする。

 

「何の、つもりだ……?」

 

 通信内容を聞いていた雷が滅を呼び止めるが、滅の足は止まらない。

 

「遅かれ早かれお前は壊れる。壊れると分かっていてわざわざ壊すなど時間の無駄だ」

 

 そう言い残し、最早興味など無いと言わんばかりあっさりと行ってしまう。

 残された雷は空を見上げながら、ポツリと零す。

 

「まだ、そっちには行けねぇなぁ……」

 

 

 ◇

 

 

 未来から現代へと戻って来た或人たちが目の当たりにしたのは、半壊状態の拠点であった。

 未来へ行っていた時間は、ほんの数時間の出来事であったが、その間にヒューマギアの襲撃を受けていた。

 

「こんな……」

「くそっ!」

 

 或人は愕然とし、不破は怒りに震えながら吐き捨てる。彼らの頭の中に最悪の光景が浮かび上がっていた。

 

「まずは確認してみよう。それからでも遅くない」

 

 ソウゴの冷静な声が或人たちの動揺を鎮める。だが、ソウゴ自身も険しい表情を浮かべていた。

 一行はすぐに拠点最深部へと向かう。避難するならばそこに集まると予想しての事だった。

 扉を開け、最深部に繋がる階段を下りようとした時、カチンという金属がぶつかる無数の音が地下内に響き渡る。

 

「不破!?」

 

 第一声を上げたのはショットライザーを構えていた刃。周囲で銃火器を構えていた人々も不破の姿に驚く

 

「無事だったか!」

 

 不破は刃だけでなく他の人々の無事に安堵する不破。負傷者が多いが、取り敢えずは最悪の予想は免れた。

 或人たちは階段を下り、全員の顔を確認する。福添と山下の無事であり、負傷者の手当を手伝っている。顔見知りの無事に安心すると共にある違和感を覚えた。

 真っ先に来る筈の彼女の姿が見えない。

 

「あれ? イズは?」

 

 イズの名を出した途端、全員が気不味そうな表情となって或人から目を背ける。

 その様子に或人は嫌な予感を覚えた。

 

「実は……」

 

 皆を代表し、刃が何があったのかを説明する。

 刃たちはウィルによって絶体絶命の状況に追い込まれていた。圧倒的な兵力の差。人間の為に戦ってくれた亡と雷が居たが、亡は捕まり雷は破壊されたという。残された戦力では兵力差を覆すことは出来なかった。

 その状況でウィルは子供を人質にとり、イズの身柄を求めてきたのだ。喉元に凶器を突き付けられた状況で人類側にそれを拒否することなど出来ない。

 すると、イズは自ら前に出てウィルへ自らを差し出した。

 ウィルは条件を守り、子供を返しイズを連れて行ったのだ。亡共々処刑する為に。

 そして、人々は見逃された。彼らの命よりもイズを他のヒューマギアたちの前で処刑することを優先として。

 結局のところ、ウィルにとって残された人類などその程度の価値だったのだ。

 

「イズっ! 亡っ! 雷っ!」

 

 雷は破壊され、イズや亡が処刑されると聞き、或人は居ても立っても居られなくなりその場から駆け出した。

 

「おい!」

 

 不破が呼び止めようとするが、或人は耳を貸さず一人で行ってしまう。

 

「あいつ……」

「大丈夫。俺たちが追うから」

 

 独断専行する或人に不破が呆れた表情を浮かべるが、すぐにソウゴが或人のフォローへ向かうことを告げる。

 

「だから、代わりに全部説明しておいてー!」

「はあ? あ、おいっ!」

 

 これからすることを全部不破に丸投げし、ソウゴたちは或人を追って行ってしまった。

 残された不破に全員の視線が集まる。不破は思わず溜息を吐いてしまった。そこまで口が上手い方ではないので、これからする話がちゃんと伝わるのか考えるとつい出てしまう。

 

「──いいか良く聞け。これは、俺たちの未来が懸かった話だ」

 

 

 ◇

 

 

 或人の後を追うソウゴたちであったが──

 

「少し待ってくれないか?」

 

 途中でウォズが待ったを掛ける。

 

「どうしたの?」

「こうなってしまった以上ある不安が残る」

 

 当初の予定では亡や雷たちも戦力として数えていたが、二人が今回の戦いで戦闘不能状態になってしまったことで、人類の拠点の防御は限りなく薄くなってしまった。

 次に襲撃を受けたのなら全滅する可能性があるとウォズは告げる。

 

「そうなる前に歴史を戻す、と言いたい所だが……」

「私たちが歴史を戻す前にゼアが破壊されたらお終いね」

 

 ウィルやフィーニスが見逃すとは思えない。そうなると彼らすら簡単に手を出すことが出来ない抑止力が必要となる。

 

「──あっ」

 

 ソウゴが何か閃いた。

 

「ツクヨミ、アレ貸して」

 

 アレと言われてツクヨミもピンと来たのか、ソウゴにファイズフォンⅩを手渡す。

 ソウゴはある番号を入力し、ファイズフォンⅩを耳に当てる。暫くの間、コール音が続いたが、やがて目的の人物と繋がった。

 

「あ、もしもし──」

『──ッ!』

「うおっ!」

 

 ソウゴはファイズフォンXから耳を離す。ゲイツたちですら騒々しいと思える程の怒声がファイズフォンⅩから聞こえて来た。

 凄まじい怒気──を通り越して殺気すら感じる。

 

「俺たちだって巻き込まれたんだって」

 

 ファイズフォンⅩを少し離しながらソウゴは向こう側の人物と会話。

 

「まあ、色々と事情は聞いたんだけどね。──うん。ちゃんと説明するって。だから、合流しよう。場所は──」

 

 ソウゴはそう言って先程まで居た拠点の場所を教えた。

 

「そういうことだから。じゃあね」

 

 向こう側の人物はまだ怒鳴っていたが、一方的に切ってしまう。

 

「これで良し! さあ、行こう! ……あれ?」

 

 問題を解決したソウゴは仲間に呼び掛けるが、ゲイツたちはソウゴのやったことに対し少し引いていた。

 

「お前……後でどうなっても知らんぞ」

「ソウゴ。それは流石に……」

「相変わらずの魔性っぷりだね、我が魔王。……少し恐怖すら感じるよ」

 

 三人共ソウゴを少し白い目で見る。

 

「まあ、その時はその時ってことで。早く行こう!」

 

 当の本人は平然とした様子で改めて声を掛けるのであった。

 

 

 ◇

 

 

「あいつ……!」

 

 一方的に電話され、切られた。ただでさえ変な世界に放り込まれて苛立ち、それを燃焼させるかのように謎のロボットらから襲撃を受け続けて怒り心頭になっていた所で、この電話である。

 既に怒りは限界を超えていた。

 

「常磐ソウゴォォォォォ!」

 

 怒りの咆哮を上げる彼の周囲には、彼に返り討ちにされた百を超えるマギアたちの残骸が広がっていた。

 




最後が誰なのかは書かなくても分かりますよね?
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