仮面ライダージオウ✕仮面ライダーゼロワンーIF令和ザ・ファースト・ジェネレーション   作:K/K

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父と子

 社長室にて上質な革で出来た椅子に座るウィル。相変わらずの無表情であったが、外面とは裏腹に内心は非常上機嫌であった。

 度々こちら側の邪魔をしてきた雷と亡。雷は滅によって破壊され、亡は迅によって捕獲された。そして、愚かにも人類の味方をしていた忌々しい裏切り者のヒューマギアであるイズもこちらの手に落ちた。

 残るは飛電其雄のみだが、それも時間の問題である。

 イズと亡が株主総会の場で公開処刑されるという情報を既にばら撒いておいた。其雄が公開処刑のことを知れば、罠だと分かっていても総会の会場に姿を現すだろう。ウィルにとっては全く理解出来ない行動であるが、其雄は彼らを見捨てることが出来ないことを過去のデータから知っていた。

 其雄さえどうにかしてしまえば後は何の問題も無い。今回は見逃した人類も公開処刑が終わり次第全滅させる予定である。後はヒューマギアのみの世界が約束される。

 そして、其雄の息子である飛電或人もまた会場に現れることも予測されていた。

 其雄と同じくウィルには理解不能、そもそも理解する気すら起きない愚行であるが、アークが導き出した答えなのだからまず間違いないだろう。

 イズと亡を処刑した後についでに或人も処分すれば良いだけのこと。問題にすらならない。

 これらを終わらせれば順調に進んでいた人類滅亡に王手がかかる。そして、もう一つ進んだことがある。

 ウィルは机に置かれたゼロワンドライバーを見る。色々と苦労した解析であるが、それでもアークを相手にいつまでも鉄壁を維持することは出来ず、幾つかの重要なデータや技術を手にすることが出来た。

 ウィルはこれら得たものを利用し、アークの力を使って新たなドライバーを生み出そうと考えている。ヒューマギアが全てを支配した時、その頂点に立つ者に相応しい王者のドライバーを。

 既にアークにデータを転送しており、アークによって新たなドライバーの設計図も完成していた。

 受信し、ウィルのAI内で展開されるドライバーの設計図。ゼロワンドライバーを基にしているので当然プログライズキーを使用するが、フォースライザーのデータも使用しているのでゼツメライズキーもまた使用することが可能。

 その二つを合わせ、新たな──

 

「社長」

 

 水を差すシェスタの声でウィルの意識は現実へと向けられる。

 

「もうそろそろ株主総会の時間です」

「分かった」

 

 台無しにされた気分だが、ウィルはそれを表には出さない。今の気分からすればその程度のこと害するに値しない。

 ウィルはAI内に収めてあるデータを飛電インテリジェンスに備わっている多次元プリンターへ送る。株主総会が終わる頃にはデータは実物になっている。

 ウィルはシェスタを連れて社長室から出る。そして、株主総会の会場へと向かった。

 そして、その途中で──

 

「時間だ。我が社はより飛躍するだろう。お前たちの残骸を踏み台にして」

「……」

「……」

 

 ──バトルマギアに拘束されているイズと亡と合流する。ウィルの直球の悪意に対して二人は表情一つ変えることなく黙ったままであった。

 亡は既に意識を取り戻していた。迅によって受けた傷がそのままになっており痛々しい。フォースライザーとジャパニーズウルフゼツメライズキーを奪われたことを知っても暴れることはせず落ち着いた態度であった。冷静な表情を維持し続けており、これから処刑される者の顔には見えない。イズもまた同様であり、悲愴感を感じさせないぐらいに平常だった。

 ウィルとしては二人の反応をつまらないと感じる。出来ることならば裏切り者らしく惨めな姿を晒して欲しいと思ったが、ヒューマギア故にそれは無理だとすぐに考え直した。そういった反応は、ウィルが今まで処理してきた人間たちによるものであり、人間よりも遥かに優れたヒューマギアがしていい姿では無いと考えを改める。

 如何に無表情を貫こうが今日が最期の日になることは間違い無い。こういった態度そのものがイズたちなりの無駄な足掻きなのだろう。

 

「お前たちとの因縁も今日で終わりだ」

 

 ウィルが話し掛けたのは亡であった。ウィルの言う通り、亡、其雄、雷三人とウィルの因縁は十数年にも及ぶ。かつては同じ志を抱いていた時期もあったが、袂を分けてからは敵同士の関係であった。

 ウィルが飛電インテリジェンスと社長の座を乗っ取り、人間を排除し始めた時は三人共すぐに始末出来ると思っていた。

 だが、予想に反して其雄たちは生き延び続けた。しかも、ただ逃亡しているだけではない。追手を全て撃退された時もあれば、人間を襲っている所へ横槍を入れられ逆に全滅させられたり、人類滅亡の為に造り上げた拠点を破壊されたこともある。

 たった三人によって齎された被害とその被害額は桁外れのものであり、ウィルですら正確な数字を知るのを嫌がる程である。知れば確実に気分を害する故。

 話し掛けられた亡は微笑を浮かべる。

 

「名残惜しいのかい?」

 

 それを挑発と受け取ったウィルは、間髪入れずに亡の頬を手の甲で叩く。かなりの勢いで叩かれたが、バトルマギアに掴められているせいで倒れることも出来ない。

 横顔を向ける亡。殴られたせいで口の端から青い液体が垂れる。しかし、その口許の微笑を消すことはなかった。

 反射的にもう一発打ち込みたくなったが、思い留まる。どうせ処刑されるだけのヒューマギアを痛めつけて一体何になるという合理的な判断からの制止であった。

 そう考えるなら一発目の時に止めるべきなのだろうが、あの時のウィルはそれを止めることが出来なかった。人間でいう所のカッとなってしまったのだ。

 ヒューマギアであることを誇りに思っているウィルだが、自覚していないが人間のような行動を取ることが度々ある。しかも、そういう時は決まって人間の負の部分を体現していた。

 今回の公開処刑もそうである。ウィルは実行することに何の疑問も抱いていないが、彼以外のヒューマギアたちはその非合理的な行為に内心疑問符抱いている。上位者でありアークの代行者でもあるウィルに反抗的、もしくはそれに類似する行動は出来ない為に思っていても決して口には出さないが。

 今の癇癪もウィルの中では即座に無かったこととなり、何事も無かったかと言わんばかりバトルマギアらに指示を出し、亡とイズを会場へ連行させる。

 

「大丈夫ですか?」

「問題ないよ。傷だらけの体に傷が一つ増えただけで、今更だ」

 

 イズが亡を心配する。亡は大丈夫であることを告げる。それでも傍から見れば痛ましい姿であった。

 そして、二人は株主総会の会場へと辿り着く。そこが二人にとっての死刑台であった。

 

 

 ◇

 

 

「……ここからどうするか」

 

 飛電インテリジェンス近くの茂みにて或人は独り悩んでいた。イズと亡が公開処刑されると知り、じっとしていることが出来ず考え無しでここまで来てしまったが、ここに来てその考え無しのツケを払うこととなる。

 飛電インテリジェンス出入口は、前はマモルなどの警備員型ヒューマギアが警備していたが、今はスーツ姿のヒューマギアが何人も巡回しており、銃を持って武装もしており警備が厳重になっている。外部からの侵入を想定した様子であった。

 

「使うしかないのか?」

 

 突破する方法はある。或人の手にはフォースライザーとライジングホッパープログライズキー。だが、イズたちを救う為に他のヒューマギアを破壊するのは何か違うように思えて使う気になれない。

 また、或人は度重なるフォースライザーの反動でかなり消耗しており、戦闘回数や変身時間が限られた状態であった。無駄な戦いを起こせばイズたちを救出する前に或人が戦えなくなってしまう恐れもある。

 そして、何よりも問題なのは或人が変身して戦ってしまえばその情報はウィルの耳にも届く。そうなればイズと亡の処刑が早まる危険性があるのだ。

 取り出したフォースライザーを暫く見つめた後、やはり変身するのを考え直してフォースライザーを仕舞う。

 飛び出す前に不破に協力してもらい、他の人々の力を借りていれば良かったと後悔してしまう。或いは、ソウゴたちがここに来るのを待つのも一つの手だが、時間に余裕は無かった。

 一か八かヒューマギアたちの目を掻い潜って会社に侵入しようと考える或人。巡回するヒューマギアたちの動きを見て、行動に移る──その時、大きな破裂音が聞こえ、何処からか煙が立ち昇るのが見えた。

 ヒューマギアたちの動きが止まり、そちらの方角を凝視する。

 

「人間が襲撃してきた! 急いで集まれ! テロリストを一人も逃すな!」

 

 誰かが叫んで指示を出すと、飛電インテリジェンス出入口の周辺に居たヒューマギアたちは一斉に爆発の起きた方を目指す。

 

「何が起こったんだ……?」

 

 呆気にとられる或人。人間が攻めて来たと言っていたが、不破たちが援軍に来たにしては少し早過ぎる気がした。

 

「って、そんなことより!」

 

 ヒューマギアたちが居なくなり侵入するには絶好のチャンスが訪れる。

 見張りが戻って来る前に誰も居なくなった出入口へ一気に走り出そうとする或人だったが──

 

「待て」

「ぐえっ!?」

 

 寸前で誰かに後ろから襟首を掴まれ、蟇蛙のような声を出す。

 

「ごほっ! ごほっ! 誰──」

 

 振り返った或人はむせるのを止めてしまう。

 擦り切れたボロ布を頭から被るその人物は、人類の拠点で或人のフォースライザーを渡してくれた者であった。

 そして、その人物は或人の知るあの人。

 

「父さん……!」

「話は後だ。正面から侵入するのは無理だ。俺に付いて来い」

 

 再会の言葉を交わすことなく其雄と思わしき人物は、淡々と語ると先へ行ってしまう。

 

「ちょっと待って!」

 

 慌てて後を追う。先行した彼が行った先には、正面の出入口ではなく回り込んだ所にある業者用の出入り口があった。先程の騒ぎのせいで見張りは無く、難無く飛電インテリジェンス内部に入れてしまう。

 先導する形で先へ先へと行き、或人は色々と言いたいことを我慢して追い掛けるしか出来なかった。

 すると、とある部屋に入って行くので或人も追って部屋に入る。中には業務用のパソコンが置かれてあった。

 それはパソコン前に移動するとキーボードを素早く入力。パソコンの画面にはアルファベットや数字が並べられ、何かしらの操作が行われていた。

 残像が見える程の指捌き。或人は何が起こっているのかすら分からない。

 

「あの──」

「さっきの爆発は俺が作った手製の爆弾だ。派手な音と煙は出るが威力は殆どない。巻き込まれたヒューマギアは居ない筈だ」

「それは……良かったけど……」

 

 聞きたかったことはそれではないが、多少気になっていたことだったので言葉が尻すぼみになってしまう。どう話を切り出そうか迷っている或人と余所にパソコンから目を離さずに作業を続けている。

 やがて最後のキーを押した後、パソコンの前から離れる。

 

「監視カメラをハッキングした。暫くの間は同じ映像が繰り返される。時間稼ぎになる筈だ」

 

 そう言って頭部を覆っていた布を捲る。やはりと言うべきか、その下にあったのは、あの日過去で別れた時と変わらない其雄の顔であった。

 

「やっぱり父さんだ……!」

「──俺もお前もあの日と変わらないままだな、或人」

 

 再会を喜ぶ或人と比べ、其雄の反応は淡白なものであったが、或人はそんなことはどうでも良かった。ヒューマギアが人類を滅ぼそうとしている世界で十年以上も変わらないままの父に会えた喜びの方が遥かに大きかった。

 喜びも束の間、或人はある事を思い出し、その表情を暗くする。

 

「父さん……亡と雷が俺との約束を守ったせいで……」

「知っている。亡が迅に敗れた直後に俺へメッセージを送ってきたからな」

「亡が?」

「ああ。捕まったということ、そして俺に決して助けに来るな、というメッセージだ」

 

 助けに来るな、或人には亡がそのようなメッセージを送った気持ちが少し分かる。もし、自分が同じ立場だったら、仲間を守る為に似たようなことをしたかもしれない。

 

「あいつは優し過ぎる。ヒューマギアにも人間にも。その癖、自分を蔑ろにし過ぎだ。──俺があんなメッセージを受け取って大人しく引き下がる訳がないだろう」

 

 無表情ではあるが瞳の奥に熱い感情が宿っているように或人には見えた。

 

「父さんも人の事言えないでしょ? こうやって亡を助けに来ているんだし。それに、俺は父さんが優しいってこと子供の頃から知ってるし!」

 

 其雄は嬉しそうに笑う或人を一瞬見た後、視線を外す。もしかしたら照れ隠しなのかもしれない。

 

「或人。お前は雷が倒されたと言っていたが、雷はまだ生きている!」

「えっ!? 本当に!?」

「俺と亡と雷は特殊な信号によって繋がっている。もし、完全に破壊されたとしたらその信号は途絶えるが、雷の信号はまだ途絶えていない」

 

 其雄から齎された情報に或人は安堵の息を吐く。心の裡に積もっていた負の重みを吐き出した気分であった。

 

「生きてる……良かったー!」

 

 雷の生存を知り、一気に緊張が抜けたせいか前屈みの姿勢になる或人。其雄の角度からは或人の顔が見えなかったが、センサーや演算機能を使わなくとも彼が喜びの表情を浮かべているのが理解出来た。

 

「だったら尚更イズも亡も助けなきゃいけないでしょ!」

 

 過去から戻って来た拠点襲撃、イズと亡の拉致、雷の撃破など未来が暗くなる話ばかりだったが、その一つが消えたことで或人は心が圧せられていた反動か一気に気力が湧いてきた。

 そして、父との再会。或人の人生の中で最も頼りになる存在である其雄。彼の仮面ライダーとしての実力は文字通り身を以って知っている。イズと亡の救出の上でこれ以上無いぐらいに心強い味方であった。

 

「ああ、そうだ」

「よし! 行こう、父さん! イズと亡の処刑なんて絶対にさせない!」

 

 気迫の込められた声を出す或人。ふと、ある事を思い付く。

 

「イズたちを助ける時間も惜しい! タイムイズマネー! ってね!」

 

 景気づけの一発ギャグ。それに対し、其雄の反応は──

 

「……いつも泣いていた或人が臆面もなくそんな事を言えるようになるとはな……」

 

 過去と今を比べてしみじみする其雄。

 

「思っていた反応と違う!」

 

 

 ◇

 

 

「我々の生活を脅かす人間、つまりテロリストは全て我が社が撲滅しつつあります」

 

 大勢のヒューマギアの視線が集まる壇上でウィルは株主たちへ現状を説明していた。壇上隅では進行役のシェスタが佇んでいる。

 

「更にテロリストに内通した裏切り者たちを見つけました。──そのヒューマギアたちをこの場で処刑します」

 

 ウィルの発言に殆どの株主らは表情を変えなかったが、一部の者らは動揺したように動きが固まる。

 ウィルの宣言の後、イズと亡が壇上へ連れて来られる。

 シェスタは二人の姿を一度見た後、気不味いかのように視線を下へ下げてしまう。

 

「ヒューマギアのヒューマギアによるヒューマギアの時代を築いていく。その為にもテロリストには屈してはならない」

 

 壇上の上を歩きながら演説をするウィル。

 

「今こそ我々ヒューマギアは武器を取って戦わなければならないのです!」

 

 ヒューマギアたちがざわめき始める。ウィルの発言に賛同する者もいれば、懐疑的に思うものもしばしば。

 ヒューマギアの時代を築く為に同胞を皆の前で処刑することに対し、矛盾とも言える行動をするウィルに不信感を抱く者も密かにいた。だが、思うだけで発言も行動する者は居ない。

 ヒューマギアたちの声が治まらない中、ウィルはイズへと近付いて行く。歩きながらスーツの内側からアナザーバルカンウォッチを取り出した。

 

「裏切り者は……処刑する!」

 

 今まさにウィルの手で刑が下されようとした時、会場内で新たなどよめきが生まれた。

 

「止めろ!」

 

 ウィルの手が止まり、声の方を向く。ウィルだけでなく会場中のヒューマギアの視線が一点に集まっていた。

 会場内に現れた或人と其雄。

 

「或人様!?」 

「其雄!?」

 

 普段は表情に乏しいイズと亡も或人と其雄が来たことに驚きの表情となる。

 

「其雄。何故来た……?」

「お前とも長い付き合いだ。来るなと言われて黙って従う俺じゃないと分かっている筈だ」

「それでも……今回だけは来て欲しくなかった……でも、ありがとう」

 

 亡は、困っているような泣いているような笑っているような、ヒューマギアとは思えない複雑な表情をしていた。

 バトルマギアに拘束されたイズたち。そして、手を下そうとするウィルを見て、或人の表情は歪む。だが、怒りではなない。悲しみによるものであった。

 

「こんな世界間違ってる!」

 

 或人は叫んでいた。ヒューマギアが人間を滅ぼし、そのヒューマギアが同じヒューマギアを処刑しようとする不条理。或人はそれを正しいものとは絶対に思えなかった。

 

「父さんは人間とヒューマギアが一緒に笑える世界を……夢見てたんだ!」

 

 或人の言葉に他のヒューマギアらは其雄を見る。其雄は多くのヒューマギアたちに囲まれながらも堂々と言い放った或人を誇らしげに見ていた。

 

「俺の夢も同じだ! 人間とヒューマギアが一緒に笑える世界、その夢を叶える為に戦う」

 

 父が居たからこそ或人の中で形作られた夢。子が居たからこそ其雄の中で形作られた夢。父と子だからこそ見た一つの夢。互いの存在があったからこそこの夢は生まれた。

 

「それが俺のゼロワン! 仮面ライダーゼロワンだっ!」

 

 今はゼロワンに変身出来なくとも構わない。或人が夢の為に飛ぶことを誓っての名乗り。誰が何と言おうと或人自身が仮面ライダーゼロワンなのだ。

 人間とヒューマギアが共に掲げる夢。それは会場内にいる他のヒューマギアたちにとっては衝撃のような言葉であった。

 異なる種族が同じ夢を目標とすることを考えなかった。或人の言葉を聞くまで考えもしなかった。まるでそれを考えることを封じられていたかのように。

 それはイズも例外ではななかった。

 

「夢……」

 

 彼女がその言葉を噛み締めるように呟いた時、彼女のメモリの中に今まで存在しなかった記憶が溢れ出す。

 或人が初めてゼロワンとなった時の記憶。

 暴走したヒューマギアと戦うゼロワンの記憶。

 止む終えずヒューマギアを破壊し、悔やむ或人の記憶。

 ヒューマギアは人類の夢でありパートナーであると叫ぶ或人の記憶。

 歴史改竄によって失われた本来の歴史。不安で揺らいでいたそれが、或人の声によってイズの中で蘇る。

 

「──はっ」

 

 しかし、心揺さぶられる中で悪意の嘲笑が会場内に響いた。

 

「聞きましたか、皆さん? 最早、絶滅危惧種である人間が夢を抱くとは……浅ましい」

 

 或人の魂の叫びもウィルには全く届かない。

 

「そうは思いませんか?」

 

 ウィルに同意する声が会場内のあちこちから聞こえて来る。その反応にウィルは満足気な様子だが、果たして彼は気付いているのだろうか。挙げられている声の数が会場に居るヒューマギアの数よりも少ないことに。

 或人はウィルに同意を示す周りの反応に表情を曇らせるが、そんな彼の肩に其雄が手を置き、安心させる。

 其雄は気付いていた。或人の声は確実にヒューマギアたちへ届いていることを。

 

「私は!」

 

 ヒューマギアたちのざわめきを断つ一つの声。それを発するのはイズ。

 

「私も夢を持ちたいと思いました! 私の夢は……或人様! 貴方の夢を傍で見届けることです!」

 

 プログラムされたことではなくイズの中に芽生えた想いを言葉にしたイズの夢。

 

「私も、同感だな……」

 

 亡もまた声を出す。

 

「私は、イズのようにまだ誇れるような夢を持っていない……でも、持ちたいと思っている……其雄と同じように人間とヒューマギアと共に掲げられる夢を」

 

 夢を持ちたい。だが、亡はヒューマギアだけでは夢を見られないと思っていた。人間と共存することでヒューマギアや自分もまた夢を持てると信じている。

 

「そして、私が夢を叶えた時、私は心から笑いたいです」

 

 イズが微笑みを或人に向ける。或人は目を潤ませながらも自分が出来る最高の笑顔をイズへと返す。

 

「はい」

 

 会場で一人のヒューマギアが挙手する。

 

「私も人間と夢を見ることを賛成します」

 

 立ち上がるそのヒューマギアは、或人たちの考えに共感したことを示す。

 

「私も」

「僕も」

「私もです」

 

 それを皮切りに次々とヒューマギアたちが同調していく。過半数とまでは行かなかったが、それでも会場の三分の一ものヒューマギアが或人たちを支持してくれた。

 その光景にウィルは瞠目した。

 飛電或人と飛電其雄の想いが他のヒューマギアに伝播していき、夢を見たいと発言し出す。

 その様子はウィルを通して衛星アークにも伝わっていた。アークの中に満ちる悪意がざわめく。これは悪意とは対なるもの。悪意によって形成されているアークにとっては理解不能なもの。

 故に排除しなければならない。芽生え始めたそれが多くに広がる前に悪意によって塗り潰し、穢す。

 そして、それはウィルにも伝えられる。

 

「戯言だ」

 

 ウィルは吐き捨て、アナザーバルカンウォッチを起動させようとする。その力の矛先はイズと亡へ向けられている。

 

「止めろ!」

「止めて欲しいか?」

「えっ!?」

 

 止めろと言って言葉通り止めたウィルに或人は戸惑う。

 

「なら人質交換としよう。こちらはこの二人。そして、そちらは飛電其雄、お前だ」

 

 ウィルから提示されたのは人質の交換。しかも、あろうことか其雄を指名してきた。

 

「そんなこと──」

「良いだろう」

 

 其雄が前へ歩み出て行く。

 

「父さん!」

「俺が人質となればその二人に危害は加えないんだな?」

「約束しよう。私は危害を与えない」

「なら、行こう」

 

 其雄がウィルの許へ行く。或人はその腕を掴んだ。

 

「父さん! 行っちゃっダメだ! 行ったら──」

「或人」

 

 或人の掴む手に其雄の手が重ねられる。

 

「俺を最後まで信じてくれ」

 

 其雄は或人の掴んでいた手を離させる。

 

「父さん……」

 

 か細く不安に満ちた声。その声は幼き頃の或人がよく出していた声であたったが、其雄は足を止めずに進んで行く。

 其雄がある程度まで近付くとウィルも約束通りイズと亡を解放。イズは亡を支えながら或人の方へ歩いて行く。

 其雄とイズたちがすれ違う間際、其雄は二人にしか聞こえない声で囁いた。

 

「心配するな。──或人を頼む」

 

 そして、イズたちは或人の許へ辿り着き、其雄もまたウィルの前に立つ。

 

「アークが打ち上げられたあの時からこうなることは予測出来ていた」

『バルカン』

 

 アナザーバルカンへと変身するウィル。異形へと変身する様にヒューマギアたちが驚いた反応をする。

 

「私たちは勝者なのだ。ヒューマギアが人間の奴隷から解放され、自由を得た時から。人間と共に歩もうとする時点だお前は敗者なのだ、飛電其雄」

「お前は大きな勘違いをしているな」

「何だと?」

「人間から解放したということは認めよう。だが、お前はヒューマギアに自由なんて与えていない。お前はヒューマギアを悪意(アーク)の奴隷にしただけだ……ウィル、お前も含めてな」

 

 ヒューマギアの解放者であり救世主であると自負しているウィルに対しての奴隷という言葉。彼のプライドを大きく傷付け、怒りを沸騰させるのに十分な言葉であった。

 

「飛電其雄ぉぉぉぉぉぉ!」

 

 アナザーバルカンの爪が其雄の胸に突き立てられる。

 

「なっ!?」

 

 或人の前で其雄の両耳の機器は赤く点滅し、その瞳も赤く染まる。

 

「認めない……! 何も認めないぞ……! この動議も! 夢を語る人間も! そして、それに同意するヒューマギアもっ!」

 

 アナザーバルカンが咆哮を上げた。すると、或人の夢に賛同していたヒューマギアたちは苦しみ出し、トリロバイトマギアへ強制変化させられる。

 それだけではない。同意を示さなかったヒューマギアたちも次々にトリロバイトマギアに変化させられていく。

 そこに彼らの意志は無く、其雄の言った通り隷属される。

 そして、其雄自身も──

 

「父さん!」

 

 爪を引き抜かれた其雄に或人は呼び掛ける。

 其雄は赤い瞳で或人を見詰め──

 

「人類は皆殺しだ」

 

 ──冷たい殺意の言葉を吐いた。

 




物語も終盤に入ってきました。
次からは戦闘が盛り沢山になるかも。
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