仮面ライダージオウ✕仮面ライダーゼロワンーIF令和ザ・ファースト・ジェネレーション   作:K/K

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アナザーバルカン2019 その10

「うっ……」

 

 再起動を果たした雷は、まず自分が壊れていないことに驚いた。

 

「ここは……?」

 

 そして、滅に倒されたあの場に放置されておらず、きちんと建物内それも草臥れてはいるがベッドの上に寝かされていることに気付き、もう一度驚く。

 上体を起こして周囲を確認する。誰もが慌ただしく動いており、雷が起きたことに気が付いてすらいない。

 

「起きたか、雷電」

 

 懐かしい名前で呼ばれ、雷は声の方に目を向ける。機械油で薄汚れたツナギを着た中年男性が二人こっちへ来ていた。

 三度目の驚き。二人を雷は知っている。

 

「あんたら、会ったことがあるな……アークが打ち上がる前に」

「覚えていたか」

「確か、是之助社長の腰巾着の……福下と山添だったか?」

「何だその失礼な覚え方は!? あと福添だよぉ!」

「山下だっ!」

 

 名前を間違えた挙句に腰巾着呼ばわれされ、二人は怒る。

 

「はっ。冗談だよ」

「いやいや、ヒューマギアが冗談って……」

「ヒューマギアが名前を間違えると本気で思ってんのか?」

「うっ!」

 

 ヒューマギアが冗談を言ったことを疑うが、そもそも高性能のAIを持つヒューマギアが一度記憶した名前を間違える方がおかしい。

 

「それは……雷電、お前が故障してたら……」

「どっちでもいいだろ、そんなことは。それよりも俺はどうしてここに居るんだ?」

 

 言い合うつもりはなく一方的に会話を打ち切り、どうして自分がここに居るかを訊く。福添は『お前が言い出したんだろ……』とブツブツと文句を言っていたが、気を取り直して説明をしてくれた。

 

「ここの住民たちが偶々お前を発見したんだ。退いた後に敵がまだ残っていないか確認する為にな」

「危ない所だったんだぞ? あと少し修理が遅れていたら手遅れになっていたかもしれない。だが完全に直った訳じゃない。あくまで応急処置だ」

「そうか。一つ質問していいか?」

「何だ?」

「何で修理した? ここを守る約束はしたが俺はヒューマギアだぞ?」

 

 雷からすれば当たり前の疑問と言える。人間にとってヒューマギアは忌むべき存在であり敵である。助けるよりも半壊状態の雷を完全に壊す方が合理的というべきか当然の反応と言える。

 

「確かに我々人類にとってヒューマギアは敵だ。ただ、私たちにだって誇りがある! 身を呈してこの拠点を守ってくれた恩を仇で返すつもりはない! ……それにイズのこともあったんだ……そんな真似は出来ない」

 

 福添たちが表情を曇らせる。

 

「イズ? 俺が寝ている間に何があった?」

 

 雷は福添たちに機能停止していた間にあったことを教えてもらった。

 人間の子供と亡が人質にされたこと。子供はイズが身代りになって救ったこと。イズと亡がウィルに連れ去られたこと。

 全てを聞き終えた雷は憤怒の表情を浮かべる。福添と山下が思わずたじろいでしまう程の。

 

「雷落してぇ……俺の頭に」

 

 その怒りの矛先は不甲斐ない自分へと向けられていた。

 全力を出したにもかかわらず滅に敗北し、仲間である亡を攫われた。そして、その尻拭いを或人らに任せようとしている。情けなさ過ぎて落せるものなら自分へ雷を落としてしまいたい。

 

「まあ、その、なんだ……気を落とすな、雷電」

 

 雷の落ち込みっぷりを見兼ねて福添が慰めてくる。ヒューマギアがおかしくなる前から知っている自社の製品もあってか若干態度が軟化していた。

 

「俺のことを雷電って呼ぶんじゃねぇよ」

 

 だが、雷はそれに対しぶっきらぼうに返す。雷電と呼ばれるのが嫌いらしく先程から福添が雷電と呼ばれる度に顔を顰めていた。

 

「いや、でもお前は我が社の製品だった宇宙野郎雷電だろう?」

 

 宇宙野郎雷電。その名の通り宇宙での活動を目的とした宇宙飛行士型ヒューマギア。人工衛星の宇宙での整備、点検を担当する管理官として生み出された存在である。

 正式名称を出され、雷は自嘲染みた笑みを見せる。

 

「一度も宇宙に行かず、この先も宇宙に行かないのに宇宙野郎雷電なんて名乗れる訳がねぇ。俺はその名を捨てたんだ……今の俺は雷だ」

 

 雷にとっての最大のコンプレックス、それは一度も宇宙へ行ったことが無いこと。宇宙野郎雷電として生み出された彼にとって存在意義を大きく揺るがすものであった。

 福添と山下はそんな雷の横顔を見て本当にヒューマギアと会話しているのか分からなくなってくる。人とのコミュニケーションをスムーズに出来る高い知能を有したAIを宿しているのは勿論知っているが、雷との会話はそういった類のものではなく極めて自然なのだ。

 冗談も言えば怒鳴りもするし、力無く笑うなど人がする感情表現を当たり前のように使う。旧型のヒューマギアとは思えないぐらいに人の感情を学習し、尚且つそれを身に付けている。

 

「……それで? この先、どうするんだ? 随分と慌ただしいみたいだが?」

 

 雷が福添たちが今何をしているのか尋ねてきたので、我に返る。

 

「衛星ゼアの準備しているんだ。このままではいずれ我々だけでなくゼアすらも破壊されてしまう。その前にゼアを宇宙へ打ち上げる! 我々の手で是之助社長の夢を叶えるんだ!」

 

 そう言った瞬間、雷が福添に凄い勢いで詰め寄る。

 

「衛星の打ち上げだと……?」

「あ、ああ」

 

 福添の目の錯覚でなければ、今まで暗かった雷の瞳に生気が戻る。そうとしか表現出来ないぐらいに雷の瞳はギラギラとして輝きを放ち始めていた。

 雷はベッドから降りる。

 

「手伝う。何をすればいい?」

「お、おい! 動くな! 応急処置だって言っただろ!」

「じっとしていられるか! 俺はこういう時の為に生み出されたんだ!」

 

 雷に先程までの陰鬱さはない。嘗て果たせなかった使命をやり直す為の活力が漲っている。

 雷の迫力に気圧される福添たちだが、雷の覚悟に触れ、これ以上とやかく言うのは無粋と感じる。

 

「──分かった。付いて来い!」

「おうよ!」

 

 運命のいたずらか。雷は再び衛星の為に動き、働く。

 

 

 ◇

 

 

 Vゼロワンから綺麗な上段蹴りを命中させられても1型は冷静だった。攻撃が当たった瞬間に1型は全身を脱力させる。衝撃に逆らうことなく身を任せることで蹴りの威力を受け流し、ダメージを最小へと抑える。

 蹴り抜いたVゼロワンは、伝わって来る軽い感触ですぐに違和感を覚えたが、攻撃を中断することは出来ない。

 蹴られた1型が錐揉みのように回転しながら飛んで行く。だが、足が地面に触れた瞬間に即座に地面を蹴ってVゼロワンの方へ戻り反撃に移行。

 お返しと言わんばかりに胸を拳で突く。

 絞り出されるような呻き声がVゼロワンの口から漏れる。

 Vゼロワンは攻撃を受けても止まることはせず、ショットライザーを1型へと向けた。しかし、或人自身銃の扱いに慣れていない為にわざわざ腕を伸ばしてショットライザーを構えるという無駄な動作を入れてしまう。

 例え近距離であろうと一つでも無駄が挟まれば1型が対処するには十分な時間が生まれる。

 Vゼロワンが引き金を引くよりも早く1型の手刀がVゼロワンの手首を叩いた。その衝撃でショットライザーの銃口は真横を向いてしまい、また叩かれたことで反射的に引き金が引かれて無意味な方向へ発砲される。

 Vゼロワンの攻撃を外させると同時に二撃目を打ち込もうとする1型。だが、もう一本踏み出そうとした瞬間、彼の中のセンサーが危険を報せる。

 その直後に顔側面に黄色の光が迫ってくるのを感じ、踏み込むことを止めて上体を後ろへ引く。

 先程外させた光弾が1型の眼前を通過していく。しかも、発砲した時以上の弾速で。

 1型はVゼロワンの能力を把握する。光弾の跳弾をさせることに加え、跳ね返った弾は撃ち出した時以上の弾速となって返ってくる。

 急停止して仰け反るという不安定な体勢になった1型の胴体にVゼロワンの横蹴りが入る。ガードが間に合わず蹴り飛ばされる1型。

 距離が開けばVゼロワンはすかさず発砲。今度は三発撃ち込んでくる。

 高速移動で回避するのが間に合わず、両手でそれを弾く1型。だが、弾いた1型は感触に違和感を覚える。

 三発目を弾いた直後、後ろ肩に衝撃。弾いた最初の一発目がピンボールのように跳ね返って1型の方へ戻って来た。前のめりになった所へ二発目の跳弾が腕に当たる。

 1型は不規則な跳弾の動きを計算し切れずにいた。それを計算するにはまだデータが足りないのだ。

 だが、最後の三発目は1型の頭上を通過してVゼロワンの方へ飛んで行く。前のめりになったせいで外れたのだ。

 自ら放った光弾によって自爆する──そうなると思っていた。

 

「はあっ!」

 

 Vゼロワンは迫って来た跳弾を蹴りによって打ち返す。最初からこうなることを計算していたのか、それとも或人の天性の才能によるもの。どちらかは分からないが、蹴り返された光弾は能力により1型でも感知し切れない弾速に達する。

 1型は咄嗟に両腕を交差させて頭部を守る。他の部位の守りを捨て、重要な箇所のみ守りを固めた。

 腕に衝撃が走り、額に交差させている腕がぶつかる。1型の読みは正解であった。頭部を防御していなかったら今頃額に光弾が命中して大ダメージを受けていただろう。

 上体を仰け反らせる1型を見て、Vゼロワンは思わず銃口を下げてしまう。父を思う故の無意識の行為。だが、戦いの中ではそれは命取りに繋がる。

 

『ROCKING SPARK!』

 

 1型の姿は消え、赤い光が真っ直ぐVゼロワンへ伸びて行く。ショットライザーを撃つ暇も無く、目で追えない速度から繰り出される打撃がVゼロワンを襲う。

 

「がはっ!?」

 

 殴られたのか蹴られたのかも分からず吹っ飛ばされるVゼロワン。赤い光は飛んで行くVゼロワンに追い付き、追い越し、進路方向へ先回りするとその背中に強烈な一撃を与える。

 

「うぐっ!」

 

 後ろへ飛んだかと思えば、今度は前へ飛ばされるVゼロワン。飛んで行く先にはまたもや1型が待ち構えており、飛び込んできたVゼロワンにラリアットを叩き込む。

 息が出来なくなる衝撃と共にVゼロワンの視界がぐるりと縦へ一回転していく。殴られて宙返りをさせられていることにぼんやりとだが気付いているが、強力な打撃を連続して受けてしまったせいで体が自由に動かせない。

 しかし、1型は最後まで手を抜くことはしなかった。

 宙返りし終えたVゼロワンの背中へ踵を落とし、地面へ叩き付ける。

 

「──っ!」

 

 最早、声を上げることすら出来なかった。重過ぎる一撃によるVゼロワンは倒れ伏す。

 たった一度油断をしてしまっただけで形勢逆転を許してしまった。Vゼロワンの能力を完全に把握していない間こそが1型を倒せる最大の好機であったが、Vゼロワン自身によりその好機は失われた。

 今も1型の中では跳弾の反射角やタイミング、速度などがラーニングされており命中する確率がどんどん低くなっていく。

 だが、Vゼロワンはそれを止めることは出来ず、1型の足元で無様に呻くしかなかった。

 

「……これで終わりか?」

 

 頭上から掛けられる父の言葉。否、もう父であって父でない。

 

「お前の夢はここで終わるのか?」

 

 不思議だった。感情も無く発せられている言葉の筈なのに、Vゼロワンにはそこに確かな想いがあるように感じた。

 

「夢に向かって跳ぶことも出来ず、地べたに這ったままで居るつもりか?」

 

 父が情けない自分を叱っているように聞こえる。──思えば父其雄から叱られた記憶が無い。或人が泣き虫でも良い子だったこともあるが、父がそれ以上に優しかったせいもあるかもしれない。

 今、或人は初めて父に叱られている。

 

「お前の夢を叶えたければ……俺を超えてみせろ」

 

 厳しいながらも自分を奮い立たせる父の言葉を聞き、Vゼロワンは全身に力が漲っていくのを実感する。

 

「まだまだぁ……!」

 

 まだ自分は全部を出し切ってはいない。このまま終われる筈など無かった。

 両手で地面を突く。上から1型が踏みつけているが、それを押し返していく。

 腕立て伏せのような姿勢になると地面とVゼロワンの間に僅かな隙間が出来る。それだけの隙間があれば十分であった。

 Vゼロワンは右足を隙間分振り上げる。そして、一気に振り下ろし爪先を地面へ叩き付けた。

 反動によりVゼロワンの体が浮き上がり、1型の足を押し退ける。ライジングホッパープログライズキーの能力であるジャンプを遺憾なく発揮させる。

 空中で体勢を変え、着地するVゼロワン。押し退けられた1型はすかさずサイクロンライザーのトリガーに指を掛けようとするが、伸ばされたVゼロワンの手が1型の手を掴み、寸前で止める。

 高速移動能力は厄介だが、発動させなければ恐れる必要が無い。

 1型はすかさず反対の手が拳を作り、Vゼロワンを突き放そうとするが、Vゼロワンは腕でそれをガード。手首を返してショットライザーを1型へ向ける。

 近距離からの銃撃。だが、1型は発射するタイミングを完璧に把握しており、銃口の向きによる射線を計算すると発砲と同時に首を動かして回避した。

 すり抜けるように外される光弾。だが、飛んで行く先には遮蔽物がある。遮蔽物に当たり反射する光弾。すると、1型は振り向きもせず跳弾のタイミングに合わせ、Vゼロワンは引き寄せるとVゼロワンを盾にしてしまった。

 既に地形すらも把握し終えた1型。それにより跳弾が来るタイミングも見もせずに分かってしまう。

 このままでは跳弾がVゼロワンに当たる。──だが、忘れてはならない。撃った張本人であるVゼロワンも跳弾の軌跡とタイミングを把握していることを。

 Vゼロワンは焦ることなく迫って来ている光弾にショットライザーを向ける。そして、発砲。

 一瞬の間の後に光弾と光弾は空中で接触。迫って来ていた光弾は別方向へ弾かれるが、今程撃った光弾は真っ直ぐとこちらへ返って来る。

 弾で防ぐと同時にその弾すらも跳弾へ変える。

 

「何っ」

 

 Vゼロワンの冷静でありながらも大胆な対処法に驚く1型。驚いている間にVゼロワンの肘が1型の胸に刺さる。鋭い一撃を打ち込むと同時にVゼロワンは滑るように前に出て間合いを広げると共に後ろ蹴りを1型の腹部へ叩き込む。

 強烈な蹴りが入ると同時にVゼロワンは蹴った反動で1型から離れる。蹴られて体勢を崩された1型の胸に跳弾が命中し、不安定な体勢だったことも合わさって1型を吹っ飛ばす。

 背中を地面に着け、摩擦で火花を散らしながら数メートル程滑走していく1型。胸部装甲には拳サイズの凹みが出来ている。

 仰向けに倒れた1型に油断することなくショットライザーを構えるVゼロワン。しかし、追撃は行わなかった。彼の目的はあくまで父を救うこと。破壊することではない。

 出来ることならこのまま動くことなく変身が解除されることを願う。だが、もしも、父をアークの隷属から解放する手段が倒すことしかなかったのなら──その時、倒れていた1型が起き上がる。

 1型は傷付いた体に構おうことなくサイクロンライザーのトリガーに触れていた。その姿を見た瞬間、Vゼロワンは覚悟を決めなければならないことを察した。

 

『ROCKING SPARK!』

 

 トリガーを引くことで発動する高速移動。しかし、その状態に入った1型は視界にVゼロワンが居ないことに気付く。

 何処へ行ったのかを探す1型に、Vゼロワンの方から自らの位置を告げられた。

 

『JUMP!』

 

 1型の行動を予測していたVゼロワンは、相手の能力が発動する前に既に跳躍して距離を稼いでおり、そして、空中にてショットライザーにセットされてあるプログライズキーのスイッチを押していた。

 短いマズルの奥から発せられる黄色の光。やがて、それは溢れるように銃口先で球体状の光となる。

 

「はあっ!」

 

 Vゼロワンはトリガーを引きながら弧を描くようにショットライザーを振るう。軌跡に残る黄色の光。帯のように伸びたそれは、分裂していきながら形を変えて無数の光弾となる。

 

 ジャンプ

      ライジング   

             ブラスト!

 

 地上で見上げている1型に光弾が雨の如く降り注ぐ。

 高速移動にて初弾は回避したが、それで終わりではない。発射された光弾は壁などに当たって全て跳弾となり、ビリヤードのようにあらゆる方向へ飛び散って行く。その内の何発かは1型を追うように付いて来た。

 

「ちっ」

 

 初弾よりも速度が上がっていたが、まだ1型の方が速さでは上回っており、すぐに回避。すると、死角から別の跳弾が来ている。

 これも回避する1型であったが、その際に弾が掠っていく。反射を繰り返すことで弾の速さがどんどん増していている。

 センサーがあらゆる角度から弾が来ていることを警告する。急加速、急停止、その場で旋回することで紙一重でそれらを避ける1型。

 避け切った直後に腕に弾が命中。

 

「ぐっ!」

 

 呻きながらすぐに動いて追撃を避ける。だが、彼のセンサーは絶望を告げるかの如く警告を続けていた。

 移動した先にも待ち構えているように迫る複数の弾丸。高い演算能力によりどう回避しても高確率で一発は貰ってしまうという回答が導き出される。

 1型は拳で弾を突く。Vゼロワンが見せたように弾で弾を反射させ、僅かではあるが回避の為の時間を作るのが目的だった。

 次なる光弾が来た。それも突き返そうとする。だが、1型は腕が想定していたよりも動きが鈍いことに気付いた。

 先程、近距離でショットライザーを防いだことにより軽いながらも腕が損傷していたらしい。通常時ならばそこまで気にするようなものではなかったが、高速で動き回す中では致命的とも言えるぐらい遅く感じる。

 突きによる迎撃は間に合わないと判断した1型はすぐに切り替えてその場から一歩横に移動することで回避。

 これにより跳弾が最も苛烈に集中するタイミングを乗り越えた──が、その瞬間、1型は呻く。

 

「くっ!?」

 

 跳ね返り続ける弾の一つが1型の左膝を撃ち抜いた。

 

 

 ◇

 

 

 人とヒューマギアが乱戦を繰り広げる中で亡とシェスタは巻き込まれないように隅に移動していた。時折、外れた弾丸が亡たちのすぐ傍の壁に着弾する。

 

「シェスタ。頼みがある」

「──何でしょうか?」

 

 流れ弾に当たらないように注意を払いながらシェスタは亡の話を聞く。

 

「君なら、私のゼツメライズキーとフォースライザーが……何処に保管してあるか……知っている筈だ」

「知っています──戦うつもりですか? 申し訳ありませんが、お勧め致しかねます」

 

 シェスタは亡の損傷を把握している。今の状態で変身し、尚且つ戦闘を行えば確実に壊れてしまう。

 

「自分の具合は……自分でも分かっているさ……でも、何もしないなんて……出来ないんだよ」

 

 自分でも度し難いと理解しながらも微笑を見せる亡。不思議なことにその亡の儚い微笑は、シェスタの視覚センサーが人間と誤認しそうになるぐらいに自然なものであった。

 

「頼む。私も……手伝いたいんだ。人とヒューマギアの夢の為に……」

 

 そんな風に頼まれてしまうとシェスタも断ることが出来ない。彼女もまた人とヒューマギアの為にウィルから離反したのだ。

 

「──分かりました。貴方の求める物は社長室に保管されています。これより社長室までの安全なルートをシミュレートします」

 

 シェスタの両耳部の装置が青く光り、計算を始める。数秒後光は消え、シェスタは亡を抱え上げた。

 

「すまない」

「いいえ。実は私もある物を探しに行こうと思っていました」

 

 シェスタが探そうとしているある物が気になったが、シェスタが移動し始めたので邪魔にならないよう黙る。

 離れ際に亡はある方向へ視線を向ける。視線の先ではゼロバルカンとアナザーバルカンが壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

「……負けないでくれ」

 

 

 ◇

 

 

「うおらぁぁぁ!」

 

 アナザーバルカンの両肩を掴んで引き寄せると共に膝で何度も腹や胸を突く。

 

「ぐうぅぅぅ! 調子に乗るなっ!」

 

 アナザーバルカンは口を開き、近距離で咆哮を放ちゼロバルカンを吹き飛ばそうとする。

 

「させるかっ!」

 

 ゼロバルカンは両掌をアナザーバルカンの頬へ叩き付け、そのまま口を掴んで無理矢理閉じさせる。

 

「ぐっ! ぐぅぅぅ!」

 

 口が開けないせいで咆哮が出せない。そこにゼロバルカンの頭突きがアナザーバルカンの額に叩き込まれる。

 

「がっ!?」

 

 アナザーバルカンがよろけた瞬間、ゼロバルカンは自分を撃ち出し、急加速を得た拳をアナザーバルカンの顔へ打ち込み、加速したまま飛んで行く。

 ゼロバルカンらは一直線に飛んで行き、飛電インテリジェンス出入口の窓を突き破って外まで行く。丁度、Vゼロワンたちとは真逆の場所であった。

 外に飛び出すとゼロバルカンは拳を振り抜く。

 ゼロバルカンが着地すると背中からアスファルトに落ちるアナザーバルカン。殴られた部分に触れながらすぐに立ち上がった。

 

「不破諫……!」

 

 忌々し気にその名を吐き捨てる。アナザーバルカンはゼロバルカンの野生の如き荒々しい戦いに翻弄されていた。

 

「飛電或人といい、貴様といい……何処まで私の邪魔をする……!」

「決まってんだろ! てめぇをぶっ潰すまでだ!」

「人間がぁぁぁぁ!」

 

 アナザーバルカンが怨嗟に満ちた叫びを上げた。蒼炎の狼の群が発生し、牙を剥き出しにしてゼロバルカンへ飛び掛かって行く。

 ゼロバルカンはフォースライザーのトリガーを引く。過剰供給されるエネルギーが赤黒い蒸気のような形になってゼロバルカンの体から噴き出す。

 

「っ! うおおおおおっ!」

 

 並の精神や肉体では持たないフォースライザーの反動を捻じ伏せ、ゼロバルカンはプログライズキーの力を全身に満たす。

 

『SHOOTING DYSTOPIA!』

 

 右足を後ろに引きながら右腕は上、左腕は下に弧を描く。やがて弧の軌跡は重なり、ゼロバルカンは両手首を上下に重ね合わせる構えをとる。

 体の各部から噴き出していた赤黒いエネルギーは色を変えていき、青い炎となってゼロバルカンを覆う。

 

「ぐるぁぁぁぁぁ!」

 

 人の叫びとも獣の咆哮とも取れるような声を上げ、ゼロバルカンの右足がアスファルトが砕け散る勢いで蹴る。その一歩でゼロバルカンは最高速度に到達し、青い炎は煽ぐ風によって大きくなり、ゼロバルカンを包み込むと青炎は巨大な狼の頭部となる。

 狼の弾丸は直線を一気に突き抜ける。蒼炎の狼の群はそれを阻むことは出来ず、そして触れることも出来ず、突き抜けていく余波で全て消し飛ばされていく。

 アナザーバルカンの視点では一瞬にして狼の群が消され、瞬きもする間もなく狼の弾丸が目の前にまで来ていた。

 青炎の狼がアナザーバルカンに喰らい付く。捕えられたアナザーバルカンに打ち込まれるはゼロバルカンの双掌打。

 

 シューティング

 

 ディストピア!

 

 速さと力の合わせ技が直撃し、アナザーバルカンはまたも吹き飛んでいく。

 地面を何度も転がって行き、仰向けになって止まる。今度はすぐには立つことが出来なかった。

 

「こ、こんな……ことが……!?」

 

 自分の身に起こっていることが信じられないアナザーバルカン。アナザーバルカンが動揺している内にゼロバルカンはトドメを刺す為に動き出し──その足を止める。

 

「どういうことだ……?」

 

 何故か動揺し出すゼロバルカン。倒れているアナザーバルカンは、どうして相手が動揺しているのか分からなかったが、すぐに答えが向こうの方から来た。

 足音がアナザーバルカンの傍までやって来て止まる。そして、足音の主はアナザーバルカンを見下ろした。

 

「ど、どういうことだ……?」

 

 ゼロバルカンと同じ台詞をアナザーバルカンも言ってしまう。アナザーバルカンを見下ろしているのは自分と同じ顔──ウィルであった。

 

「何だ!? 何が起こっている!?」

 

 ゼロバルカンは混乱してしまう。急にウィルがもう一人現れば仕方のないことことと言える。

 

「誰だお前は!?」

『私はウィルだ』

 

 返って来た声は一つではなかった。姿形が全く同じウィルが次々と現れ、最初に戦っていたウィルと合わせると十人になる。

 

「な、何故私がいる……!? それもこんなにも!?」

 

 アナザーバルカン本人も事情が呑み込めておらず、負った傷など無視して立ち上がりウィルたちへ詰め寄る。

 

「何者なんだ!? お前たちは!?」

『私はウィルだ』

「違う! ウィルは私一人だ!」

 

 量産されている自分が目の前に現れ、ウィルのアイデンティティが崩壊しそうになる。

 

「アーク! アークッ! これはどういうことなんだ!?」

 

 答えを求め、空に向かって叫ぶアナザーバルカン。すると、アナザーバルカンは体を硬直させたか思えば、体を痙攣させ始める。

 

「やめ、止めて、くれ! 私のデータを、吸い取ら──私は、バックアップでは、ないんだ! 私は! 私は──私は……」

 

 アナザーバルカンの体から力が抜け落ち、両腕をだらりと垂らしながら首をゆっくりとゼロバルカンへ向ける。

 

「私はウィルだ」

 

 最低限のデータだけ残され、傀儡と成り果て物がそこにはあった。

 

「……そういうことかよ」

 

 胸糞悪いと言わんばかり吐き捨てる。

 ずっと勘違いをしていた。ウィルはヒューマギアの首領であり、彼の意志で他のヒューマギアは動かされていたのだと。

 しかし、真実は違った。

 

「お前もアークの道具だったって訳かよっ!」

 

 何故か怒りが湧いて来る。同情などしていない筈なのに内から燃え上がって来る怒りを抑え切れない。

 量産されたウィルたちは口を開ける。中から無数のコードが伸び、自分たちの体を改造していく。

 瞬く間にウィルたちはアナザーバルカンの姿へ変わった。

 ウィルがアナザーバルカンの力を得た時からアナザーライダーの研究は進められていた。アナザーウォッチの歴史改変能力までは解明出来てはいないが、それ以外の機能ならば十二年の期間もあれば再現出来る。

 孤狼から群狼と化すアナザーバルカン。だが、ゼロバルカンは臆せず、怯まない。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 上げられる咆哮。それに込められた怒りは誰が為に。

 




アークだったらこれぐらいしそう、と思ったので次からは不破さん対量産型ウィル軍団との戦いになっていきます
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