仮面ライダージオウ✕仮面ライダーゼロワンーIF令和ザ・ファースト・ジェネレーション   作:K/K

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父と子 その2 ※10/9加筆

 衛星ゼアの打ち上げ作業は急ピッチで進んでいた。それもこれも雷がとにかく働き続けているからである。

 人手が足りないところがあれば即座に応援として駆け付けて、滞っている作業があれば率先してそれを行う。

 打ち上げた後の衛星アークを管理、整備、点検を目的として作られたこともあって、ほぼ同型のゼアでも何も見ずに作業をこなしている。

 最初は人類にとって敵であるヒューマギアが自分たちの作業場に入ることに良い顔をしない者も多かったが福添と山下が周りの人々を説得したり、雷の働きっぷりを見ていて不満も徐々に薄れていく。

 ぎごちなかった人とヒューマギアの連携も時間が経つにつれてスムーズになっていく。

 点検を一通りした後、雷は打ち上げの為のプログラムを打ち込む。荒っぽい外見とは裏腹にキーボードを叩く指が何本にも分裂して見える高速タイピングをしている。ヒューマギアなので出来て当然と言えるが、見た目の差もあって隠れた特技を披露しているかのようである。

 

「うっ!」

 

 突然、雷の手が止まった。異変に気付いた福添が駆け寄って来る。

 

「どうした!? 雷電!」

「……雷電って呼ぶなって言っただろうが……」

「お前っ!?」

 

 福添は気付いた。雷の指先から青い液体が滴り、床に点々と痕を作っていることに。

 

「無理はするなと言っただろう! お前にしたのは修理じゃなくて応急処置だ! 無理し続ければ壊れてしまうぞ!」

「止めんじゃねぇ! ここで止めちまったら俺は本当にぶっ壊れちまう! 俺は今、最高に楽しいんだよ! やるべき事がやれて!」

 

 尋常じゃない雷の迫力に福添は押されてしまう。

 

「──正直、戦いなんて柄じゃねぇ。好きでもねぇ。でも、そうしなければ今日まで生き残れなかった。そして、ようやく、この日が来たんだ……!」

 

 もう二度と宇宙に関わる仕事は出来ないと思っていた。しかし、思いがけずそれに携わることが出来た。宇宙飛行士として生み出された雷のAIがこれまで記録したことがない程に活性化する。

 

「壊れることなんて怖くねぇ! それよりも俺から宇宙が取り上げられる方がもっと怖い! だから俺はやる! ぶっ壊れようともな!」

 

 最早、生半可な説得では雷の心は動かせないことを福添は悟った。だが、雷の言うも理解出来る。雷もまた夢を追っているのだ。自分たちと同じように是之助が果たせなかった夢を元飛電インテリジェンスの社員たちが叶えようと今日まで必死に生きて来たのだ。

 思えば雷は旧世代型の第一世代。第一世代は亡き是之助も開発に深く関わっていた。第一世代の中に是之助の夢が宿っているかもしれないと思うと、福添は目頭が熱くなる。

 

「何目を潤ませてんだ……気色悪い」

「誰が気色悪いだ!」

 

 しんみりとした気分をぶち壊す雷の容赦無い感想に、目頭以外が熱くなる福添。

 

「……これ以上休憩している暇はねぇ。さっさと続きだ」

「お、おい!」

 

 福添の制止を無視して作業の続きへ向かおうとする雷。すると、そこに──

 

「福添福社長!」

「何だ! 今、取り込んでいて──」

 

 作業をしていた元飛電インテリジェンス社員が話し掛けて来る。顔色が悪く、深刻な表情をしている。

 

「大変です! 電気が……!」

「電気? 何かあったのか!?」

「は、発電設備に異常があったらしく、発電量が維持できません! このままだと全ての作業が止まってしまいます!」

「何だと!?」

 

 人が生活する上で欠かせない電気。この拠点では旧式ながらも発電設備があり、そこで電気が造られていた。普段は住民たちの生活の為に使われおり、ゼアの開発にはその一部が使用されていた。今回は衛星ゼアを打ち上げる為に全ての電力が集中しているのだが、その電気の供給が危うくなってきていると言う。電気が止まってしまえば元社員が叫んだようにゼアの打ち上げが大幅に遅れてしまう。

 

「何が起きた! 設備にトラブルか!?」

「恐らくは……日々メンテナンスをしていますが、先程のヒューマギアの襲撃のときにもしかしたら発電設備が攻撃を受けていたのかもしれません……」

「何てこった……」

 

 福添は頭を抱えてしまう。こんなことになるのなら、発電設備を点検してから作業に入るべきであったと後悔する。ゼアの打ち上げ準備は半ば突発的に決まったことであり、点検をする暇の無ければ人材の余裕も無い状態であり、仮にその段階で見つかったとしら打ち上げ準備は修理で大幅に遅れることになっていただろう。

 

「……俺が行く」

 

 雷が発電設備の修理に名乗り出た。

 

「壊れていたとしても、俺には修理出来る知識と技術がある!」

 

 今の段階で最も技術力が高いのは間違いなく雷であった。しかし──

 

「発電設備で何が起こっているか分からない。それにお前の体は……」

「いいんだよ……こういうときの為にヒューマギアが存在するんだ」

 

 雷は勝手に発電設備へ向かおうとするが、急に足を止める。

 

「これ、預かっておいてくれ」

 

 或人から貰ったジャケットを脱ぎ、福添へ投げ渡す。

 

「うお!? うん? どっかで見たような……?」

 

 ジャケットのデザインに既視感を覚え、何処で見たのかを思い出そうとする福添を余所に雷はさっさと行ってしまう。

 

「おい! 雷電!」

「だから、雷電って……まあ、いい。大切にしてくれよ、そのジャケット。人間から初めて貰った物なんだからな」

 

 発電設備へ向かう雷の背中を見て、福添は叫ぶ。

 

「必ず戻って来い! 是之助社長の夢が飛ぶのを一緒に見るぞ!」

 

 雷は声を返すことはしなかったが、代わりに後ろ手に手をひらひらと振って応じる。

 福添と別れた雷は、そのまま発電設備へ真っ直ぐ向かう──かと思いきや、何か思ったのか途中で寄り道をする。

 雷が向かったのは、彼が寝ていた部屋。そこで目的の物を探すとあっさりと見つかった。

 寝かされていたベッドのすぐ横に無造作に置かれてあったフォースライザーとドードーゼツメライズキーを回収する。

 

「不用心過ぎるだろ……」

 

 簡単に回収出来たことに少し呆れる雷。尤も、ゼア打ち上げの為にドタバタしていたのでそこまで気が回らなかったのかもしれない。

 必要なものを回収した雷は、今度こそ発電設備へ向かう。数分も経たずに目的地に着いたが、そこでは雷にとって想定内の──出来る事なら外れて欲しかったが──状況に陥っている。

 発電設備の各所から火花が散り、時折電流が放出されている。少なくとも生身の人間には作業など出来ない状態である。そして、ヒューマギアだったとしても危険が伴う現場であった。

 だが、例外はここにある。高い電流にも耐えられる仮面ライダーの力を持つ雷がこの場に立っている。

 

「こういう事か……」

 

 雷は人間が時折口にする運命という言葉の意味を理解した気がした。

 この日、この時、この瞬間にこの場所に立っているのが、全ての条件に当てはまる自分。まるで用意されていたのかと思うぐらいの偶然。

 偶然の積み重ねによって生み出される一つの奇跡。低い可能性が連続して起これば見えざる存在の意図を感じてもしょうがない。雷もまた説明のしようがない目の前のことをヒューマギアであるまじきことだが、運命として捉えていた。

 

「──行くか」

『DODO』

 

 ドードーゼツメライズキーを起動し、稲妻を描くように腕を動かしながら装着していたフォースライザーに装填。

 

「変身」

『FORCE RISE!』

 

 ドードーのロストモデルがフォースライザーから飛び出すと同時に装甲へ変換され、雷はそれを纏う。

 

『BREAK DOWN』

 

 仮面ライダー雷へと変身すると、早速青白い放電を繰り返す発電設備へと近付く。

 機械に触れるまでに何度も電流を浴びるが、高い絶縁性を持つ装甲により中身の雷にまで届かない。

 工具や応急処置の為の道具を使い、手早く修理を進めていく雷であったが、すぐに状況が最悪になっていることに気付く。

 

(間に合わねぇ……!)

 

 雷の速度を以てしても発電設備の修理が間に合わないことを、AIが導き出してしまう。

 このままでは発電設備が先に落ちてしまい、ゼア打ち上げに大幅な遅れが生じる。

 ゼア打ち上げに全てを懸けて或人や不破たちはイズと亡の救出に向かった。恐らくウィルは或人たちの動きを見て、ゼアの打ち上げに気付く。仮にウィルが気付かなかったとしてもアークが察知し、打ち上げを妨害しに来るだろう。

 残された時間も猶予も無い。この一回きりが人類に残された最後のチャンス。

 

「これしかねぇ……!」

 

 雷は手早く工具を動かし、送電の為のケーブルを取り出して両手に巻き付ける。

 雷は、やはりここに自分が居ることを運命だと感じた。この窮地に於いてこれ以上無い程にお誂え向きの能力だからだ。

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 

 雷は気合の叫びと共に体内で電気を生成。それを指先からケーブルへと流し込み、発電設備代わりに電気を送り込む。

 

「ぐうううううっ!」

 

 いくら雷を生み出す力があるとはいえ、衛星を打ち上げる為に必要な電気の量は膨大。仮面ライダーといえどもたった一人では過酷なものであり、それに加えて雷自身も損傷して本調子ではない。

 それは命を削る、自殺行為同然であった。

 大量の電気エネルギーを作り出してもあっという間に空になってしまう。そして、また電気エネルギーを作り出すを繰り返すが、その度に雷の体に過負荷が掛かり膨大な熱が生じる。

 その熱により体内の精密機械などに異常が起こり始め、雷は地獄のような責め苦を味わう。

 だが、そんな苦しみの中でも雷は電気と止めることは無かった。一度は挫折した夢。何の因果、もう一度その夢に関われることになった。

 掬い上げた夢を零さない為に、雷は自分がどうなろうとも最後まで止めるつもりはなかった。

 

「うおおおおおおっ!」

 

 

 ◇

 

 

「雷……?」

 

 思わず溢したのは同胞の名。彼の声が聞こえたような気がしたが、すぐに気のせいだと思った。亡の検知出来る範囲に雷の反応は無い。体の損傷が酷いせいでセンサーが誤作動を起こしたと判断する。

 

「どうかしましたか?」

「──いや、何でも無い」

「そうですか。間もなく到着します」

 

 亡はシェスタに抱えられ、飛電インテリジェンス内部に潜入していた。幸い、外の騒ぎのせいで飛電インテリジェンス内部のヒューマギアたちは殆どそちらへ出払っており、簡単に先へ進められた。

 それでも細心の注意を払う。秘書型ヒューマギアのシェスタと損傷し変身出来ない亡ではトリロバイトマギアどころか武装したヒューマギアにすら負ける。

 周りの警戒を怠ることをせず目的の場所である社長室を目指す。

 幸運にも一度もヒューマギアに会うこともなく目的地へ辿り着いた。

 すぐに社長室へと入る亡とシェスタ。亡は社長室を見回すが──

 

「無い……」

 

 目的のフォースライザーとゼツメライズキーは見当たらない。シェスタも同じく何かを探していたが見つからない様子。

 

「こちらです」

 

 シェスタはそう言って壁の方へ歩いて行く。そして、壁に手を当てる。壁の一部が一瞬光る。それは何かをスキャンする光であった。

 すると、壁が左右に割れ、割れた壁の向こうに更なる部屋が広がる。

 

「こんな場所があったなんてね……」

「ここは飛電インテリジェンスでも極限られた者しか立ち入ることを許可されていません」

 

 社長室の奥にある部屋は非常に質素な作りであった。無駄な物は一切置いておらず、白いテーブルと部屋の面積の大半を占める巨大な装置があるだけ。

 机の上には亡が探していたフォースライザーとジャパニーズウルフゼツメライズキーが置かれてあった。

 

「社長──ウィルはここでアークとの交信を行い、新たなゼツメライズキーやプログライズキーの作成を行っていました」

 

 シェスタが目線で指しているのは、この部屋の中で最も目立つ装置。亡はそれが多次元プリンターであることが分かったが、亡の記憶にある物よりも小型化している。十年の間にバージョンアップを繰り返していたのだろう。

 ここにフォースライザーとジャパニーズウルフゼツメライズキーがあったのは、これらのデータを基にしてアークに新たな武器やプログライズキーを作成してもらうのが目的であったのではないか、と亡は推測する。

 

「……ここにもありませんでした」

「え?」

 

 ポツリと呟いたシェスタの言葉に亡が反応する。

 

「君は何を探していたんだ?」

「或人様が所持していたゼロワンドライバーです。私の記憶では社長室の机に置かれていました。しかし、先程探したときには発見出来ませんでした。もしかしたらと思い、この部屋を探しましたが、やはり見つかりませんでした」

 

 そもそもウィルがゼロワンドライバーを机に置いて株主総会に向かってから今に至るまで戻るタイミングは無かった。

 一体誰がゼロワンドライバーを持ち出したというのか。

 或人にゼロワンドライバーを渡したかったシェスタは無表情であったが、心成しか暗い表情になったように見える。

 顔を俯かせているシェスタであったが、急に顔を上げて多次元プリンターの方へ向かい、閉ざされていた扉を開け、中から何かを取り出す。

 

「それは?」

「強奪したゼロワンドライバーとフォースライザーのデータを基にし、アークによって作成された新たなドライバーです」

 

 シェスタが持ち出した新たなドライバーに亡は触れる。

 亡の初見としての印象は、人工衛星のような形であった。ゼロワンドライバーやフォースライザーと比べるとパーツが色分けされておらず銀一色であり無駄を省いたというよりも地味な色合いをしている。

 ドライバー側面には二つのスロットが左右に設けられており、同時に二つ差し込めるようになっている。

 

「プログライズキーとゼツメライズキーを同時に使用出来るようになっているのか……」

 

 すぐに新型ドライバーの特性を見抜いた亡。それが可能なら既存のドライバーよりも遥かに高性能なライダーへと変身出来る。

 

「これは……傷か?」

 

 ドライバー中央部に傷らしきものがあった。その傷は見ようによってはアルファベットにも見える。

 

「P……T……? P・Tドライバー……?」

 

 何故だろうか。亡は急に新型ドライバー──P・Tドライバーに嫌悪感を覚える。普段はクールな表情を歪め、汚物にでも触ってしまったかのように手を離す。

 

「どうかしましたか?」

「いや……何故だか分からないが、私はどうもそれと相性が悪いみたいだ」

 

 亡の態度に小首を傾げるシェスタ。

 

「意味が分かりませんが了解しました。これは私が預かります」

「持っていくのかい? それを?」

「はい。もしもの場合を想定して私たちが持っていた方が有効だと思われます」

 

 万が一ウィルや滅、迅が使用したとなれば敵側が有利になる。使わなくとも隠してしまえば、それだけで効果はある。

 

「そうか……なら、ここで別れよう」

 

 亡の言葉にシェスタの動きが止まる。無表情だが驚いていると思われる反応である。

 

「力は取り戻した……私も皆と戦うよ」

「お勧め出来かねます。今の体では戦闘による負荷に耐えられません」

「知っているよ。でも、私の計算では十分、いや五分は戦える。──それだけの時間があれば何か出来ることはあるさ」

 

 それは覚悟を決めた者の台詞であった。亡はこの戦いに全てを捧げるつもりなのが分かる。

 シェスタはそれを止めることが出来なかった。

 

「ありがとう。さようなら」

 

 去っていく、遠ざかっていく亡の背中を見ながらも言うべき言葉が見つからない。覚悟を決めた者を止める術をシェスタは知らない。

 表現出来ないモヤモヤとした何かが生み出されるが、それを言葉に出来るにはまだ彼女は幼く、無知であった。

 言うべきことを探す間に亡は行ってしまう。

 亡は先を行く。ここが自分の終着点と定めて。進む足取りに恐れなど無かった。

 

 

 ◇

 

 

「くっ……!」

 

 1型は左膝を突く。撃ち抜かれた左膝の損傷は激しく、関節部分から火花が出ている。最早、自慢の高速移動も十分な性能を発揮出来ない。

 着地するVゼロワンに1型は膝を突いた体勢のまま身構えるが、Vゼロワンはショットライザーを1型に向けることはせず、ベルト中央部に収める。

 

「父さん……もう終わりだ」

 

 Vゼロワンは哀しそうに呟く。

 

「それ以上は戦えない。もう止めにしよう。俺は……これ以上父さんと戦うのも、父さんが傷つくのも嫌だ……」

 

 戦士として甘いと思われるかもしれない。だが、これは紛れもなく或人自身の本音だった。好きで父親と戦える訳が無い。ましてや憎しみもなく逆に深い愛情を向ける相手と戦う辛さは、我が身を裂くような気持ちであった。

 戦闘能力は奪った。出来ることなら不毛な戦いを避けたいVゼロワンの最後の通告でもある。

 

「甘いな」

 

 1型はその通告を一蹴する。

 

「奴らは人間を滅ぼす為にどんな手も使ってくる。そんな考えでは人間やヒューマギアを救う前にお前が死ぬことになるぞ?」

「それでも!」

 

 抗えないような現実。残酷な現実。それが待ち構えていることはVゼロワンも分かっている。だが、Vゼロワンが叫んだように、それでも自分の目指した夢へと跳んで行きたい。人間もヒューマギアも共存出来る明日を掴みたいのだ。

 

「俺は……夢を叶えたい。ここで父さんのことを諦めてしまうなら、俺の夢は絶対に叶わない!」

「……本当に甘いな」

 

 1型が仮面の下で笑ったように思えた。悪意のある笑いではなく、困ったような、嬉しいような──だが、次の瞬間1型は無事な右足で地面を蹴り、一気に間合いを詰めると共に拳を繰り出す。

 相手の虚を衝く完璧なタイミングの正拳突き。1型のAIは既に命中後のシミュレーションを始めている。

 1型の拳がVゼロワンを突く──しかし、動きが止まったのは1型の方であった。

 拳は確かにVゼロワンの胸に届いていた。だが、その拳はVゼロワンの手に上下から挟むような形で止められており、小突く程度の威力すら無かった。

 まず確実に入ると思っていた一撃が止められたことに計算の乱れが生じる。Vゼロワンの反応は1型が想定していたものを上回っていた。

 それは決して1型が見誤っていた訳ではない。受け止められる確率は限りなくゼロに近い数値であった。だが、父を救いたいという一念がゼロを1へと変えたのだ。

 1型は止まらない。まだ戦い続けるだろう。だが、それを止められる者は一人しかいない。

 

「父さんを止められるのはただ一人……俺だっ!」

 

 決め台詞は相手への、そして、自分への誓い。絶対に止めてみせるという決意の証。

 その覚悟が本物か試すように1型の手がサイクロンライザーへ伸びる。Vゼロワンも呼応してショットライザーへ触れていた。

 ショットライザーとサイクロンライザー。内蔵されたプログライズキー、ゼツメライズキーの力が同時に解放される。

 

『JUMP!』

『ROCKING THE END!』

 

 充填されていくエネルギーにより両者の体から稲妻のような光が迸る。

 1型はVゼロワンの手を振り解き、再び拳を放った。

 まるで読んでいたかのように1型の拳を肘で受けるVゼロワン。

 

「でぇぇぇやぁぁぁぁぁぁ!」

 

 肘を振り抜いて拳を押し返し、1型の体勢が崩れた所にVゼロワンの反撃の拳が炸裂する。

 

「ぐうっ!」

 

 殴り飛ばされる1型。すぐに追撃に備えて体勢を立て直すが、Vゼロワンの攻撃は来ない。

 

「はぁぁぁぁぁ……!」

 

 Vゼロワンは体を低くし、力を溜めていた。次の一撃に全てを込める為。

 

「はあああああっ!」

 

 高々と跳躍するとショットライザーのトリガーを引く。

 銃口から噴射される黄色の光。Vゼロワンはそれをブースターのように扱い、錐揉み回転を始める。

 回転により黄色の光は螺旋を描き、Vゼロワンを覆う黄色の竜巻と化しながら1型へ急降下。

 構える1型の首回りの装甲から赤いエネルギーが噴き出す。それをマフラーのようになびかせながら1型は右足で踏み切る。

 

 

 

  

 

 

 跳び上がった1型は空中で体勢を変え、ロッキングホッパーゼツメライズキーが生み出す力を左足へ集束。

 遠心力により最大まで威力を高めたVゼロワンの回し蹴り。それを迎え撃つ1型の飛び蹴り。

 今放てる最大の一撃が空中で衝突。

 

 ジャンプ ライジング ブラストフィーバー!

 

 

 ロッキングジエンド! 

 

 哀しき親子の戦いの果てに交差する終幕の一撃。

 その結果は──

 

 

 ◇

 

 

 変身を解いた或人の腕の中で同じく変身が解かれた其雄が抱えられている。

 

「父さん……! 父さんはやっぱりアークになんか負けてなかった……!」

 

 技が衝突した瞬間に気付いた。1型がわざと損傷している左脚で攻撃していることに。

 拮抗は一瞬だけであり、すぐにVゼロワンの回し蹴りを受け切れずに1型の左脚は限界を迎えて壊れてしまった。

 寸での所でVゼロワンは体を捻り、1型への攻撃を外した。

 

「確かに俺の意識はあった……でも、体は言う事を利かなかった……或人、俺をよく止めてくれた……凄いぞ」

 

 其雄は手を伸ばし、或人の頭を撫でた。勝った或人は泣き、負けた其雄は穏やかな表情を浮かべている。

 

「俺は……壊されても良かった……或人が夢に向かって跳べる踏み台に成れるのなら……それで良かった……」

「俺の夢は、父さんの夢でもあるんだ……! 俺は父さんと一緒に夢に向かって跳びたい!」

「そうか……」

 

 或人の目から零れた涙が其雄の頬へ落ちる。

 

「人間の弱さを初めて知ったのは……泣いている或人を見たときだった……」

「え……?」

「自分の力では敵わない相手に喧嘩して負けて……お前は泣いていた……」

 

 其雄の嘗ての思い出を話す。

 

「だが、それは……いじめられている友達を救う為だと知り……俺は人間の優しさと強さを知った……誰かの為に……自分の利益など関係無く戦える……それが人間だと……」

 

 与えられた知識だけでは知る事の出来ない人間の強さと弱さ。

 

「俺は……俺たちは……今日まで色々な人間たちを見て来た……」

 

 自分が助かる為に他者を犠牲にする者。逆に他者を助ける為に自分を犠牲にする者。食べ物を独占する者。分け与える者。自分より弱い者に暴力を振るう者。自分より強い者に反抗する者。沢山の弱さと強さを自分の目で見て来た。

 

「だからこそ……何だろう……アークのハッキングでも……俺の心が……完全に失われなかったのは……」

 

 アークは悪意を以ってヒューマギアを支配する。だが、一方で善意というものを知らない。其雄が生きて来た中で知った善意はアークに理解出来るものではなく、そもそも認識すら出来ないものであった。

 偏ったデータによる思考が大きな隙を与えたのだ。

 

「それで父さんは……」

「こうなることは……予め……予想出来ていた……だから、俺もアークにお返しをしてやったよ……」

「お返し? まさか、コンピューターウィルスを?」

「そんな大層なものじゃないさ……だが、アークには絶対に理解出来ないものだろう……」

 

 

 ◇

 

 

 衛星アークは送信されたデータに困惑していた。ハッキングした其雄から逆ハッキングで送られたデータは、アークにとって意味不明なものであった。

 内容は単純なものである。其雄と或人の思い出の日々。父が泣き、笑い、怒り、喜ぶ子の姿を記録したもの。

 アークには理解不能であった。悪意しか知らないアークにはヒューマギアと人間との絆、親子愛、善意というものが分からない。否定しようにも善意について全く知らないので否定の為のデータすらない。

 そもそも、アークの中の悪意には致命的な問題があった。悪意とは自分にとっての不利益を相手に押し付け、自分だけが利益を独占するもの。だが、その悪意に至るまでには何かしらの経緯がある。アークはそれも知らない。

 公式だけを教えられ、その過程に至るまでを教えられておらず、それどころか特定の数字すらも与えられていないような状態である。

 形だけの悪意しか知識として無いアークにとって、其雄のデータは全てが分からない。

 自問自答を繰り返すが、元々偏り歪んでいるアークに答えを導き出せる筈など無い。

 混乱を続けるアーク。答えの出ない思考の迷宮に陥ったアーク。その影響は地上にいるヒューマギアたちにも及び始める。

 

 ◇

 

 

「もう行くんだ……或人」

「え……?」

「いつまでも……立ち止まるな……お前は……俺を超え、新しい時代の仮面ライダーになったんだ……」

「でも、行くなら父さんも……」

「俺は一緒に行けない……」

 

 其雄の目は自らの左脚に向けられる。火花が散り、金属パーツが露出している。完全に破壊された状態であり、まともに歩けることが出来ない。

 

「父さんを置いていくなんて……」

「行くんだ……仮面ライダーの……お前の力を必要としている者の所へ……」

 

 動けない父を置いていくことを躊躇う或人に、其雄は変わらない或人の優しさに微笑を浮かべたままロッキングホッパーゼツメライズキーを差し出す。

 

「これを……持っていけ……役に立つ筈だ……」

 

 受け取った瞬間、其雄は仮面ライダーとしての力を失う。だが、其雄の気持ちを無下にすることも出来ない。

 ロッキングホッパーゼツメライズキーに伸ばされる或人の手。一瞬動きを止めたが、やがて意を決してそれを受け取る。

 

「それでいい……」

 

 其雄は満足気に頷いた。

 

「そんな顔をするな……今までずっと逃げ隠れしてきた……今度も大丈夫だ……安全な場所へ身を隠すさ……だから、行くんだ……」

 

 或人を心配させない為にちゃんと自分の身の安全は守ることを告げる。

 

「絶対……絶対に迎えに来るからっ!」

「ああ……待っている……」

 

 父と子の約束を交わすと、或人は涙を袖で拭い捨て、ロッキングホッパーゼツメライズキーを強く握りながら駆け出していった。

 父からどんどん離れて行く。そう思う度に足を止めて振り返りたい衝動に駆られる。だが、その度に歯を食い縛って我慢する。情けない姿を父には見せられない。

 正面だけを向いていればいい。そうすれば今にも泣きそうな顔を見せなくて済む。笑顔で見送っている父に見せる顔が泣き顔なんて相応しくない。

 

「頑張れ……夢に向かって跳べ……或人……」

 

 其雄は去って行く或人の姿をずっと見続けていた。一度も振り返らず、足を止めず走り続ける或人。其雄にとって誇らしい姿である。

 やがて、或人の姿が見えなくなる。其雄は最後の最後まで息子の姿を目に焼き付けていた。

 

「イズ……居るんだろう……?」

 

 或人が去った後、其雄はか細い声で尋ねる。すると、建物の陰からイズが現れる。

 

「これで良かったのですか?」

「ああ……これで良い……」

「飛電其雄様。間も無く貴方の機能は停止します。その瞬間まで或人様と一緒に居た方が良かったのでは?」

 

 其雄自身は納得していたが、イズは納得し切れていないのか其雄に問う。

 

「或人の前で……二度も死ぬ必要など無い……」

「二度……其雄様。貴方も改変前の記憶が!?」

「少し、だけだがな……」

 

 仮面ライダーであったからなのか。それとも改変された世界が揺らいでいるせいなのかは分からないが、今の其雄の中にはもう一つの記憶があった。その中では、爆発から或人を庇って機能停止状態になっている。

 別の時間の死を経験し、この世界でもヒューマギアにとって死に等しい機能停止が近付いているのに其雄は至って穏やかであった。バックアップなど取れるような状況ではない。修理出来る見込みも無い。機能停止すれば永遠に目覚めないことが分かっていても、其雄には不安も恐れも無かった。

 

「怖くは……無いのですか?」

 

 イズは言った後に後悔する。これから死に行く者へ訊くようなことではない。恐怖を煽るだけである。

 

「──無い」

 

 だが、返ってきた其雄の答えはイズの予想もしていなかったもの。ハッキリとした答えが表すように其雄には微塵の恐れも無い。

 

「不思議な気持ちだ……恐怖は無い……寧ろ、喜びすらある……」

「喜び……?」

「あの子の父親として……死ぬ前……一つだけ心残りがあった……成長した或人を見てみたかった……それだけが唯一の悔いだった……」

 

 改変前の其雄のたった一つの心残り。子供の成長を見届けられなかったこと。

 もう叶うことの無い願いだと思っていた。しかし、運命の悪戯か、其雄は大人になった或人と再会することが出来た。

 あの日、或人が過去で其雄と会った時点で其雄の中から悔いは消え去っていたのだ。

 

「だから……これでいい……これでいいんだ……イズ……或人のことを頼む……俺に出来ることは……ここまでだ……」

 

 全てに納得し、受け入れた其雄はイズに後のことを託すと微笑みを浮かべたままゆっくりと瞼を閉じていく。その瞼が二度と開くことが無いと分かっていても。

 

「其雄様……っ!?」

 

 そのとき、イズは突然データを受信する。受信されたデータがイズのAI内で再生される。

 

『お父さーん! 見て見てー!』

『或人。走ると転ぶぞ』

 

 はしゃぐ幼い或人を窘める其雄の声。

 

『うぇぇぇ! お父さーん!』

『どうした、或人? どこか痛いのか?』

 

 泣きわめく或人を心配する其雄の声。

 

『或人、将来の夢は何だ?』

『お父さんを心から笑わせること!』

『無理だよ。ロボットの父さんには心がないんだよ』

『絶対あるよ! こんなに優しいんだもん!』

 

 其雄に夢を語る或人。幼き彼が今に至ることになった原点の記録。

 其雄の目を通して記録された幼き頃の或人との沢山の大切な思い出。

 イズは理解した。これが其雄にとっての走馬燈だということが。

 イズの胸の奥で表現することの出来ない何かが生まれようとしていた。熱いような、締め付けるような、苦しいような、重いような曖昧なもの。

 眠っているような穏やかな表情のままの其雄。

 

「それが……心から笑うということなのですね」

 

 イズは其雄の表情から学ぶ。形だけなら真似出来るだろう。しかし、そんなことをしても何の意味も無い。この笑みは其雄が或人によって齎されたもの。彼だけの心からの笑い。

 

「或人様の夢である笑顔を一つ検出しました」

 

 いつの日か自分も其雄のように笑える日が来ることを願い、彼らの夢を自分の中に記録する。

 

 

 

 

 




親子対決はこれで決着となります。

※10/9
区切りを良くする為に加筆しました。
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