仮面ライダージオウ✕仮面ライダーゼロワンーIF令和ザ・ファースト・ジェネレーション 作:K/K
(其雄……)
仲間の命が散ったのを雷は知った。瞬間、彼との思い出が蘇って来る。
第一印象はいけ好かない奴だった。プロジェクトの中心的存在であり、ヒューマギアだというのに飛電の性を与えられ、それどころか人間の子供も育てている。普通のヒューマギアとは違うという感じが気に入らなかった。
無愛想で口下手だが、真面目で誠実で実は熱い奴。其雄と関わっている内に彼の性格や内面を知り、いつの間にか頼れる仲間になっていた。
ヒューマギアが人間に反旗を翻し、人間を絶滅寸前まで追い込み続けてきた世界で辛うじて生き残れたのは其雄と亡が居たからだろう。
嫌なことや嫌なものを多く見続けてきたが、それでも振り返れば悪くはない生涯だったと思う。
其雄が最期を迎えたとき、そこに息子の或人は居たのだろうか?
──電!
そういえば、息子の話をするときはいつもの無表情が少しだけ柔らかくなっていた気がする。
──雷電!
さっきから何かが聞こえる。酷く喧しい。
「起きろ! 雷電!」
「うるせぇ……雷落とすぞ……」
耳元で怒鳴られ続けたせいか、遠くに行っていて筈の雷の意識が戻って来る。
いつの間にか発電設備から連れ出されており、福添と山下に両肩を担がれて運ばれている最中だった。
「戻って来ないと思ったら無茶をしてっ! もう直せんぞっ!」
「焼け焦げていないだけ奇跡だぞ!」
中々戻って来ない雷を心配し、山下を連れて発電設備に様子を見に行った福添たちが見たのは、壊れて沈黙した発電設備と全ての力を出し切って変身が解除され動けなくなった雷であった。
「放っておけば……良かったろ……」
「馬鹿言え! お前にあれを見る権利があるだろうがっ!」
「あれ……?」
「それまで絶対寝るなよ!」
二人掛かりで雷を運んでいく。福添も山下も普段運動をしていないせいで顔を真っ赤にし、額から汗を流しながら必死の形相になっていた。
やがて、薄暗い建物内を抜き、明るい日が差す外へと出される。
辛うじて機能している雷の視覚センサーが見たのは、建物外に並ぶ人々。戦闘要員ではない老若男女。数からして避難所に待機していた全員がヒューマギアの襲撃があるかもしれないというのに外へ出ていた。
その全員が空を見上げている。
「見ろ! 雷電! あれを見ろ!」
福添が指を差しながら叫ぶ。雷は重さしか感じない自らの頭部をゆっくりと上げていく。
天に向かって噴煙を伸ばしていく銀色の輝き。人類にとって残された最後の希望であり夢である衛星ゼアが宇宙へ打ち上げられていく。
「是之助社長! 飛電の夢が! 飛電の夢が飛びます!」
溢れる思いが涙となり福添と山下の目から流れる。
「行けぇぇぇぇ!」
「飛べ! 飛べぇぇぇ!」
「飛べっ! 飛べっ! 飛べっ!」
誰もが叫んだ。衛星ゼアにありったけの願いを込めて。
雷は重力の鎖を引き千切ってどんどん昇っていくゼアに手を伸ばし、満ち足りた顔で笑う。
「──飛ぶさ」
伸ばしていた手が垂れ、見上げていた顔が俯く。その直後に歓声が響いた。衛星ゼアは完全に見えなくなる。打ち上げは成功したのだ。
「おい! 見えるか雷電! 飛んだぞっ!」
呼び掛けて来る福添の声が遠くに感じる。もう限界なのは自分でも分かっていたことなので恐れはない。先に逝った其雄と同じ所へ行くだけのこと。
そう考えたとき、内心で苦笑した。ヒューマギアである自分があの世を信じているなど滑稽な話である。
衛星ゼアが打ち上がった時点で雷は満足していた。これで思い残す事は無い──と思っていたが、一つだけ心残りがあった。
一度でいい。宇宙へ行きたかった。
僅かに残った悔いを胸に秘めながら、雷の意識は闇の中へ沈んでいった。
「……うん?」
雷は、もう開く筈が無いと思っていた目が開いたことに驚くよりも先に戸惑いを覚える。
目の前に広がるのは先程までいた避難所外ではなく、発光する0と1が連なって光の柱となっている真っ白な空間であった。
「ここは……」
雷はすぐに自分の体を確認する。損傷箇所が全て消えていた。それにより雷は気付く。今の自分は実体ではなく意識データだけの存在になっていることに。そして、データ化した自分が何処にいるか。
「ゼアの中なのか……」
見上げる雷。果てしなく広がる白一色。
「俺が壊れる瞬間、俺のデータを吸い出したのか」
自分が置かれている状況をすぐに判断した雷であったが、そうなると次なる疑問が浮かぶ。
何故、そんなことをしたのか。
すると、白一色だった空間に幾つものモニターが投影される。
「これは……!?」
映し出された映像。それは青と紺の境界を超え、星々の海に出て行こうとするもの。
ゼアが今まさに宇宙へ飛び込もうとする瞬間であった。
「お前……俺を宇宙へ連れて行く為に……」
ゼアは答えない。もしかしたら、今後の航行を万全にする為に衛星の整備点検の知識に長けた雷のデータが欲しかっただけなのかもしれない。だが、雷にはゼアが雷の最後の願いを汲み取ってくれたように思えた。
「──ありがとよ、ゼア。粋なことするじゃねぇか」
雷は映し出された映像に心奪われる。先程まで居た青い地球。それを宇宙という外側から眺めている。ずっと待ち望んでいた光景。宇宙野郎雷電として生み出され、ようやくその名の通り宇宙へ辿り着いた。
「これが、これが宇宙……! そして──」
やがて、モニターはある物を映し出す。ゼアと同型の人工衛星──全てのヒューマギアと歴史を狂わせた元凶であるアークの姿。
「久しぶりだなぁ! アーク!」
感動に震えていた体が、忌むべき敵を前にして今度は武者震いを起こす。
そのとき、誰もいない筈の空間内に気配を感じて雷は反射的に振り返り、驚きで固まる。
「お前……!?」
◇
何かが乗り移ったかのように淡々と喋っていたアナザーバルカンが急に口を噤む。数秒前まで拠点を襲撃に向かわせたと勝利を確信していた姿を見るに明らかにおかしい。
予想外のイレギュラーが起こったのだとゼロバルカンとバルキリーは予想し、風向きが自分たちに向いていると信じ、攻撃を再開。
十対二という数では圧倒的不利な戦い。しかし、後がないことが分かっているゼロバルカンとバルキリーは果敢に攻める。
先行するのはバルキリー。持ち前の俊足を生かし、瞬きよりも早く一体目の量産アナザーバルカンへ接近。バルキリーの接近に反応して量産アナザーバルカンは爪を振るおうとするが、既にショットライザーを構えていたバルキリーの方が一手早い。
量産アナザーバルカンの顔面にショットライザーの弾を連続で撃ち込む。
量産アナザーバルカンが仰け反って倒れていくが、すぐに別の量産アナザーバルカンが来ていた。
だが、バルキリーに注目していたせいで気付かなかった。横から迫り来る脅威。
「うおらっ!」
ゼロバルカンが量産アナザーバルカンの側面から体当たり。『BULLET』のアビリティにより弾丸の如き速度から繰り出される体当たりの威力は凄まじいもので、防御する暇も無く直撃を受けた量産アナザーバルカンは、上半身が千切れ飛ぶだけでは済まず無数の細かなパーツになるまで粉砕される。
残された下半身が失った上半身を探すように彷徨うが、数歩移動すると限界を迎えて倒れた。
バルキリーが注意を惹き、その間にゼロバルカンが攻撃を与える。単純だが効果的な戦い方であった。
ゼロバルカンとバルキリーの視線が交差する。長い年月共に戦って来た戦友だからこそ、その一瞬のアイコンタクトで相手が何をしたいのかを察する。
ゼロバルカンはすかさず直線を高速で飛び。量産アナザーバルカンに防御する暇も与えず膝で顔面を蹴り砕く。
バルキリーはゼロバルカンが飛び出すタイミングで別の量産アナザーバルカンに発砲。顔面を狙った銃弾を腕で防ぐ量産アナザーバルカン。防御を解くとさっきまで居た筈のバルキリーの姿が見当たらない。
量産アナザーバルカンはセンサーで感知し、視線を下げる。足元付近にいつの間にかバルキリーが接近していた。
体を限界まで低くすることで防御によって狭まった視界の死角に入り、視界が元に戻る前に高速で移動していたのだ。
量産アナザーバルカンはすぐさま薙ぐような下段蹴りを放つ。その蹴りが届く前に再びバルキリーが消えた。
バルキリーは量産アナザーバルカンの頭上近くまで跳び上がっている。下段蹴りが来ることを予測し、急停止と同時にその場で跳躍していた。
空中にいるバルキリーの両足が目視出来ない速度で動く。高速移動を可能とさせる脚部による連続蹴り。バルキリーの体が落下する前に量産アナザーバルカンの顔面に蹴りが十発以上入る。
一発一発は軽いがそれが十以上、しかも間隔が無いに等しい連続。然しもの量産アナザーバルカンも動きが止まってしまう。
すると、バルキリーはすかさず量産アナザーバルカンの両肩を掴み、両足を真っ直ぐ天へ向けながら量産アナザーバルカンの頭上を跳び越える。そして、背後に回り込むと量産アナザーバルカンの背中を両足で蹴った。
ゼロバルカンはバルキリーが別の量産アナザーバルカンを蹴り飛ばしたタイミングで顔面を蹴り砕いている量産アナザーバルカンを足場にし、跳弾のように別方向へ飛ぶ。
凄まじい加速を生み出す両足に踏み台にされたことで、その量産アナザーバルカンのボディは完全にひしゃげてしまった。
蹴り出された量産アナザーバルカンに真っ直ぐと突き進むゼロバルカン。途中で右腕を水平に伸ばす。
擦れ違い様にゼロバルカンのラリアットが量産アナザーバルカンの首に命中。速度と豪腕の掛け算によって生み出される破壊力が量産アナザーバルカンの首を刈る。
量産アナザーバルカンを三体破壊したゼロバルカンとバルキリー。それでもまだ数は相手の方が上回っている。
「──何処までも足掻くか」
アナザーバルカンは二人の抵抗に対し、無感情な言葉を吐きながら爪を構えるが──
「──ッ!?」
突然、アナザーバルカンの動きが止まる。止まったのはアナザーバルカンだけでなく周囲の量産アナザーバルカンもまた動きを停止していた。ゼロバルカンとバルキリーは知らないが、このとき人間と戦っていたバトルマギアやトリロバイトマギアもまた同様に停止していた。
其雄による自らの記憶の送信によりアークの中にアークにとって全く未知なる情報が送り込まれる。与えられた悪意を否定するような内容に対し、アークは拒絶を示すようにそれを否定しようと試みるが、悪意しかしらないアークにとってそれは今までにない計算であった。
アークの拒否反応は、アークとリンクしているヒューマギアにも影響を及ぼし、それによりヒューマギアたちは一斉に不具合が発して停止状態になってしまう。
「何だ!? 何が起こった!?」
動きが止まったアナザーバルカンたちを不審に思うバルキリー。
「考えるのは後にしろ! 全員ぶっ潰すチャンスだ!」
一方でゼロバルカンの方は深く考えず、千載一遇の好機を無駄にしない為に呆けているバルキリーに喝を入れた。
「──っ! 分かった!」
バルキリーもそれが分かっており、疑問は一旦胸の奥に仕舞い込む。
『DASH!』
ショットライザー内のプログライズキーのスイッチを押し込み、バルキリーは走り出す。
アナザーバルカンたちを囲むようにして周りを走り込みながらショットライザーから放たれる光弾。光弾は突き抜けることはせず円の中心部にて留まる。すると、高速移動するバルキリーはすぐに別の角度から光弾を発射。円中心部で留まる光弾に命中し、光弾の大きさが一回り大きくなる。
バルキリーは音すら超えそうな速度で奔り続け、光弾に光弾を撃ち込む。ショットライザーの銃口が橙色の閃光を発する度に光弾は大きくなり、既に一メートル近い光球ぐらいの大きさになっていた。
一箇所に集中した光球がやがて臨界点を迎えようとしている。
そこへ更なる牙が剝かれた。
『SHOOTING UTOPIA!』
起動音と共にゼロバルカンの全身は蒼炎に似たエネルギーに覆われ、直線距離を超高速で疾走する。
バルキリーの放った今にも爆ぜそうなラッシングブラストの光球に恐れることなく自ら飛び込んでいく。
その全身は凶器と化しており、進路上に立っていた量産アナザーバルカンはゼロバルカンに右腕が触れたかと思った次の瞬間には、触れた右腕どころか右半身が消失していた。
青い残像を描きながら突き抜けたゼロバルカン。凄まじい速度で駆け抜けたことでダメージを最小に抑える。しかし、ゼロバルカンの攻撃は一度では終わらない。
ゼロバルカンは止まることなく疾走し続ける。前方に遮蔽物が現れた。ゼロバルカンは躊躇することなく遮蔽物に衝突。遮蔽物は破壊されるが、ゼロバルカンは速度を落とさずに角度を変えて走り続ける。
再び現れる遮蔽物。ゼロバルカンはこれにも衝突して角度を変えると、再びアナザーバルカンたちに方へ突撃していく。真っ直ぐしか高速移動出来ないゼロバルカンが繰り出す捨て身の軌道変化。衝突を繰り返すことで強引に狙いを定める。足を止めればもっと簡単に軌道を変えることが出来るだろう。しかし、ゼロバルカンはその時間すら惜しむ。アナザーバルカンたちを一掃する機会を逃さず、速度を緩めることなく動き続ける。
射線状に立っていた量産アナザーバルカンは、ゼロバルカンの弾丸の如き音速の移動に反応が間に合わず胴体でそれを受けてしまう。結果は言わずもがな。量産アナザーバルカンの手足と頭が地面へ落ちていく。
青い残像が浮かび上がる度に量産アナザーバルカンが喰い千切られるように破壊されていく。あたかも青い狼が獲物を貪るような光景であった。
その間にもバルキリーは撃ち続け、光球は膨張していく。傍に居るのは危険だと分かっていても量産アナザーバルカンたちは逃げることが出来ない。四方から襲い掛かるゼロバルカンのせいで身動きがとれなくなり、檻の中に押し込められたようにその場から動くことが出来ずにいた。
やがて、終焉の時が迫る。溜め続けられていたバルキリーの光球が臨界を迎えた。
シューティングユートピア!
ダッシュ
ラッシングブラスト!
ゼロバルカンが地面を抉りながら停止したのに合わせ、移動し続けていたバルキリーが止まると光球に内包されていたエネルギーが破裂し、周囲に分散されていく。
半径数メートル内で生じた熱と衝撃波。至近距離で浴びせられ量産アナザーバルカンらの外装が融け、剥がれ落ちていく。
その中にはアナザーバルカンもおり、青い獣毛が熱によって燃え上がっていた。
光球が一際強く輝くと大きな爆発が起こり、範囲内にいたアナザーバルカンたちを呑み込む。
爆風が吹き抜けていき、数拍置いた後に空からパラパラと破片が落ちてくる。量産アナザーバルカンらの残骸であり、残骸が大小異なるせいで地面に落ちる度に統一感の無い落下音が暫くの間不協和音のように響き続けた。
「はあ……! はあ……! はあ……!」
「大丈夫か! 不破!」
ゼロバルカンは荒い呼吸を繰り返し、蹲ったまま立ち上がれないのを見てバルキリーは急いで容態を確認しに来る。
原因は今まで耐えていたフォースライザーの反動によるものである。実戦で鍛え抜かれた不破の肉体を以てしてもフォースライザーの反動はきつく、寧ろアナザーバルカンたちを倒すまで耐え続けていたこと自体が驚異であった。
不調のゼロバルカンを気遣い、バルキリーは肩を貸す。そのとき、地面が擦れるような音が聞こえた。
バルキリーはすぐさま爆発跡に視線を向ける。ゼロバルカンもまたぎこちない動きながらも顔を動かして同じ方向を見た。
棒立ちになっている量産アナザーバルカン。ゼロバルカンとバルキリーの連携を耐え切ったことに二人は驚くが、よく見れば不自然な部分があった。
首は傾き、両手は力無く下がっている。ヒューマギア相手に変な表現かと思われるが生気を感じない。注意深く視てみると両足の爪先で地面に立っている。そこで量産アナザーバルカンが背後から持ち上げられていることに気付いた。
首を掴んでいた手が離され、量産アナザーバルカンは力無く崩れ落ちる。その背後にはアナザーバルカンが立っていた。
咄嗟に量産アナザーバルカンを盾にして爆発から身を守ったと思われるが、アナザーバルカンも無傷ではなかった。装甲の一部が溶け、獣毛は黒く焼け焦げており、左腕が肘から下が無くなっている。ゼロバルカンの技を受けてしまった証である。
「……ここまでイレギュラーが重なるとは」
アナザーバルカンが淡々とした声を出す。まだ中身にアークが混じったままである。
「飛電其雄……この理解不能なデータに何の意味が?」
小声で何かを呟いているが、ゼロバルカンたちの耳には届かない。
「──保留だ。結論は後に回す。まずは目の前の人間たちを排除する」
人で言えば問題から目を逸らす行為だが、アークはそれを認めることはせず、それを咎める者も誰一人存在しない。
「その体も限界だな」
唐突に聞こえて来た声にゼロバルカンとバルキリーは即座に反応する。スーツ姿のウィルが当然のようにそこに立っていた。
予備として製造されたウィルを前にアナザーバルカンは徐に胸へ手を差し込む。吸い込まれるように沈み込むアナザーバルカンの手。超常的な光景であったが、それに驚く間もなく差し込まれていた手が引き抜かれた。
アナザーバルカンの手には力の根源であるアナザーバルカンウォッチが握られている。ウォッチを抜かれたことで変身が解除され、アナザーバルカンはウィルの姿へ戻った。
変身解除後のウィルの損傷は酷く、アナザーバルカンのときに受けた傷がそのまま残っており今にも機能停止寸前の状態であったが、最後の力を振り絞ってアナザーバルカンウォッチを無傷のウィルへ投げ渡す。
それを無表情で受け止めるウィル。直後に投げ渡したウィルは限界を迎えて機能停止になり倒れた。だが、その姿に労いの言葉一つも掛けずにウィルはゼロバルカンたちの方を見る。
「こうもイレギュラーが立て続けに起こると見直す必要がある。人間を滅ぼした後、ヒューマギアについても再考する必要がある」
人間だけでなくヒューマギアすらも滅ぼすことを示唆するウィル。最早、人格をアークに乗っ取られておりアークウィルという未来などの可能性を捨て、ただ悪意というものを体現させる為だけの存在と化しつつあった。
「そして、お前たちはここで滅びろ」
『ZERO―ONE DRIVER!』
アークウィルが装着したのはゼロワンドライバー。社長室に置かれてあったそれを密かに回収していた。このときの為に。
通常なら正式な所有者である或人にしか使用出来ないが、歴史改変されたことでゼアの認証が不完全な状態になっており、アークはそこに付け入りハッキングで無理矢理認証させていた。
「何だそりゃあ……?」
「ゼロワンドライバー……?」
ゼロワンドライバー、ひいては仮面ライダーゼロワンを知らない二人にとってはアークウィルが見たことが無いドライバーを装着しているという状況。未知なる力の筈なのにゼロバルカンとバルキリーは冷や汗が流れていく。
「一部のデータしか吸い出すことが出来なかったが、それも結論が出ている。──私自身に取り込めばいいだけだ」
『バルカン』
アナザーバルカンウォッチを体内に取り込むと同時に黒いエネルギーがアークウィルの外装を剥がし、口内から無数のケーブルを伸ばす。伸ばされたケーブルにも黒いエネルギーが纏っており、それらが四方八方へ伸ばされていく。
伸ばされたケーブルの一部が破壊された量産アナザーバルカンの残骸に刺さり、引き寄せる。
「何するつもりだ……」
マギアへの自己改造に似ているが、あそこまで広範囲にケーブルを伸ばすのを見たことがない。
「くっ!」
このままでは危険だと思ったバルキリーは発砲。ケーブルが動き、先端に刺さっている量産アナザーバルカンが盾となって弾丸は防がれてしまう。
その間にも引き寄せられていく残骸。そして、何処かへ伸びていくケーブル。やがて、伸びていたケーブルが動きを止め、一斉に戻り始めた。
「これは……!?」
戻ってくるケーブルを見てゼロバルカンらは啞然とする。ケーブルには何体ものトリロバイトマギア、バトルマギアが貫かれた状態になっていた。
量産アナザーバルカンの残骸、トリロバイトマギア、バトルマギアがアークウィルを中心として集まる。
アークウィルはそれらに包まれていき瞬く間に機械の塊、見ようによっては繭のような姿となった。
「どうなってやがる……!」
繭状態となっているアークウィルに戸惑いながらもゼロバルカンは自らを撃ち出して繭へ体当たりを仕掛けた。
「ぐううっ!」
だが、弾かれたのはゼロバルカンの方であった。圧倒的質量、重量の差のせいで攻撃は通じず逆に体当たりをしたゼロバルカンの方がダメージを受けてしまう。
よろめきながら後退するゼロバルカンの目の前で繭は形を変えていく。
表面部分から突起が出て来たかと思えば、それらは手足へと変化。中央部分が細まっていき胴体と化す。それに伴い暗い色であった体色が黒味がかった青へと変色。そして、表皮を突き破るように新たな頭部がせり上がってくる。
アオォォォォォォォン!
新たに創造されたのは狼の頭部。開口と共に大気を震わす咆哮を上げる。
大量の量産アナザーバルカンの残骸、バトルマギア、トリロバイトマギアを取り込んだことによりその身長は五メートル近くあった。
取り込んだマギアたちは完全に融合した訳ではなく体表部分の至る箇所にパズルのように組み合わさったような姿で残っている。
青い獣毛を生やした狼の頭部。完全に取り込みきれなかったのかこめかみ部分から黄色や赤色、青色などの多色のコードが垂れさがっており先端部分からは時折火花が散っている。
ヒューマギアという群れが一つとなった姿。だが、その群れはアークという悪意の意志によって統一されている。個であり群である矛盾した存在。それが新生したアナザーバルカンであった。
見た目と存在感だけで圧倒されそうになる。勝ちへのビジョンが全く見えない。あれだけ追い込み勝利寸前であったにも関わらず、理不尽な逆転により心が挫けそうになる。
「──ッ! デカブツがっ!」
だが、ゼロバルカンは己を奮い立たせ、巨大な敵に屈することなく勇敢に攻める。
高速移動による急接近。我が身が砕けようとも相手に一撃を与えようとする捨て身の攻撃。
しかし、ゼロバルカンが体感したのは我が身が砕けそうな衝撃ではなく空を切る無の感触。
「何っ!?」
急停止したゼロバルカンはアナザーバルカンを探すが見当たらない。
「不破! 上だ!」
バルキリーの声で頭上を見上げる。空中にてアナザーバルカンの巨体が静止している。その背部からはマゼンタの光のラインが翼のように左右に伸びており、それが巨体に似つかわしくない身軽さと浮遊能力を与えていた。
アナザーバルカンは左右の手をゼロバルカンとバルキリーへ向ける。青い獣毛が生えている両腕が、二人に狙いを付けると青い獣毛が黒へと変わり腕部も一回り太くなる。
両腕が射出され、火を噴きながら二人へと迫る。
「くっ!?」
「ちっ!?」
二人は素早さを生かし、両腕を回避しようとするが、動く直前に両腕が軌道を修正する。その動きを見た二人は思わず足を止めてしまった。
両腕は二人の移動先を予測していた。このまま動けば当たると察してしまったことで反射的に二人は動きを止めてしまった。
二人の動きに関するデータは既に十分取っており、相手の行動を先読みするアナザーバルカン。動きを読んだことで二人が足を止めるのも計算済みである。
飛来する両腕がまた色を変える。バルキリーを狙う左腕は赤く、ゼロバルカンを狙う右腕は白く変わった。
閉じていた拳が開き、掌が向けられるとバルキリーには火炎が、ゼロバルカンには冷気が吹きかけられる。
「くうっ!」
高熱の炎を浴びせられたバルキリー。全身が燃え上がるが、バルキリーは咄嗟に地面へ転がり地面に炎を押し付けることで鎮火を試みる。
一方でゼロバルカンの方は冷気のせいで身体中が凍結していた。足が地面ごと氷漬けにされてしまいその場から動けない。体の各部も凍結してくっついてしまったせいで動かすことが出来なかった。
どれもゼロワンの使用出来る能力。ゼロワンドライバーを直接取り込むことで強制的にデータを解読して再現した。
「く、そ……!」
フォースライザーに手を伸ばそうとするも凍結のせいで動きに制限が掛かり、トリガーまで届かない。
浮いていたアナザーバルカンが動けないゼロバルカンの前に降り立つ。飛ばしていた両腕が元の位置へ戻り、指先から伸びる凶爪をゼロバルカンへ見せつけるように構える。
冷気とは異なる寒気がゼロバルカンを襲う。確実に屠るというアナザーバルカンの冷徹な殺気によるもの。
アナザーバルカンの腕が振るわれる。次の瞬間、重い衝撃の後にゼロバルカンの意識は飛んだ。
◇
「うっ……」
目が開く。仰向けに倒れており天井が見えた。何処かの建物内まで吹っ飛ばされているのは分かった。
まだ意識があることに不破自身が驚いていた。変身が解除される程のダメージを受けた筈だが、致命傷には至っていない。それどころかダメージが軽過ぎる。
体に重みを感じ、不破は視線を体の方に向ける。そこには重なるように亡が倒れていた。
「亡……!?」
何がどうなっているのか分からないまま不破は起き上がろうとする。上体を起こすと亡が力無く滑り落ちていくので不破は咄嗟に手を伸ばして亡を支えた。
不破の手に冷たい液体の感触が広がる。
触れていた手を見る。掌が青い液体でべっとりと濡れていた。
軽傷な自分。いつの間にか居た亡。亡の傷。その三つを情報で嫌でも気付いてしまう。
アナザーバルカンの攻撃の瞬間、変身した亡が間に割って入り、身を呈してアナザーバルカンの凶爪から不破を守ったのだ。
「何で俺を庇ったっ!?」
怒鳴るように哀しむように不破は叫ぶ。
もう手の施しようがないことは不破にも分かった。元々深手を負っていた亡。そこにアナザーバルカンの一撃。致命傷は免れない。
「そんなに……おかしな……ことだったかい……?」
薄っすらと目を開けた亡。全てを悟っているのか亡は微笑すら浮かべている。
「俺は人間で……お前はヒューマギアだろうが……!」
「そんなこと……もう、どうだっていいんだ……」
亡は同じ夢を抱く或人と其雄に希望を見た。この世界で人間とヒューマギアが共存する。そんな可能性などゼロだと思っていた。しかし、あの光景を見たとき可能性がゼロではないことを知った。それが1にも満たない可能性だったとしても亡にとって信じるに値する。
「それに……君だって……イズや私を……助けに……来てくれたじゃないか……?」
「それは……」
不破は言葉を詰まらせる。亡はそんな不破を見て小さく笑った。
「君は……口は悪いが……やっぱり善人だな……」
安心したように言った後、亡は不破にある物を差し出す。亡のジャパニーズウルフゼツメライズキー。
「お前……」
「もうすぐ……希望が飛び立つ……」
亡の声にノイズが混じり始める。終わりが近い。
「不破諫……アークは……人間だけじゃ勝てない……ヒューマギアだけじゃ勝てない……でも、人間とヒューマギアが手を……合わせ……たら……」
ジャパニーズウルフゼツメライズキーを差し出していた腕から力が抜ける。不破は亡の手ごとジャパニーズウルフゼツメライズキーを掴んだ。
亡は微笑む。自分の手を掴んでくれた不破に。想いを受け継いでくれたことを安心して。
そして、微笑んだまま動かなくなった。
「……くそっ」
不破は力無く吐き捨てる。思えば出会ったときから気に入らなかった。敵であるヒューマギアなのに何故か助けてくれた亡。憎むべき存在なのに心の底から憎めなくなった自分になっていくことが気に入らなかった。最後まで勝手な真似をして満足そうに逝った亡が気に入らなかった。
哀しいと感じてしまう自分が気に入らなかった。
不破は壊れそうなぐらいジャパニーズウルフゼツメライズキーを握り締めながら立ち上がる。
この溢れんばかりの怒りを本当の敵にぶつける為に。
◇
「ぐっ……」
全身から焦げた嫌なニオイが漂ってくる。アナザーバルカンの炎を何とか押し消したバルキリーは、呻きながらも立ち上がろうとしていた。
ゼロバルカンの姿は探すが見つからない。炎を浴びせられる前に冷気によって凍結させられた姿を見た。
絶望を齎すような予想がバルキリーの頭を過る。その直後に絶望そのものがバルキリーの前に現れる。
唸り声を上げながら無機物な目でバルキリーを見下ろすアナザーバルカン。
(ここまでか……)
バルキリーは冷静に自らの最期を受け入れる。崖っぷちで足掻き続えてきた戦いであったが終わりを告げる日が来たと思った。それは人類にとっての終わりを意味する。
無様を晒すことはせず、これから殺しに掛かってくるだろうアナザーバルカンをじっと睨み付ける。敵からも自分の死からも目を逸らさない。それがバルキリーにとって最期の意地であった。
アナザーバルカンが爪を振り上げる──
「おい」
──その声でアナザーバルカンの動きが止まり、振り返った。
「不破っ!」
大穴の開いた建物の前で傷だらけの不破が立っていた。
不意に不破は空を見上げる。釣られてバルキリーも空を見上げると大きな光が空に向かって飛んで行くのが見えた。
「ゼア! 成功したのか!」
人類にとって最後の望みが打ち上げられていく。
「希望か……刃っ!」
ゼアが空の彼方へ消えていくのを見届けた後、不破は刃へ向け叫ぶ。
「お前のショットライザーを!」
理由など分からない。だが、バルキリーは不破の言葉を信じ、躊躇うことなくショットライザーを投げる。
「受け取れ!」
ショットライザーが宙を舞う間に不破は既に装着していたフォースライザーのレバーを引く。
『FORCE RISE!』
セットされていたシューティングウルフプログライズキーからライダモデルが召喚され、アナザーバルカンを威嚇する。
投げられたショットライザーが不破の手の中に納まる。
「お前は……!」
『JAPANESE WOLF!』
アナザーバルカンを睨み付けながら亡から渡されたジャパニーズウルフゼツメライズキーに指を当てる。
「絶対に……!」
ミシミシと音を当て、ジャパニーズウルフゼツメライズキーのロックが不破の怪力に屈して開いていく。
「ぶっ潰す!」
怒りの誓いと共に解除されるジャパニーズウルフゼツメライズキー。不破はそれをショットライザーへセット。
『AUTHO RIZE』
装填されたショットライザーを天に向ける。
『KANEN RIDER KANEN RIDER KANEN RIDER KANEN RIDER──』
『WARNIG WARNIG WARNIG WARNIG WARNIG WARNIG──』
待機音と警告音が同時に鳴る。本来想定していない使い方故に危険を報せてくる。だが、不破は一瞬の躊躇いも無く引き金を引く。
「変身!」
撃ち出される弾丸が空に向かって飛ぶ。すると、天から一条の光が降り、弾丸と接触。弾丸は十に分かれて不破の周囲に降り注ぐ。
『FULL ZETSUME RISE!』
分裂した弾丸は十体のロストモデルと化す。不破と共に並び立ち、アナザーバルカンを睨む。
シューティングウルフのライダモデルが不破へと飛び込んでくるとその体を分裂、変換させアーマーとなり不破へ装着。
『GATHERING ROUND!』
バルカンの姿となると周囲のロストモデルらも自らをアーマーへ変え、不破の両腕や両脚、背、胸へと装着していく。
地層に眠る化石の如き姿でバルカンと一体と化していくロストモデル。
『DESTRUCTION!』
『BEROTHA! KUEHNEO! EKAL! NEOHI! ONYCHO! VICARYA! GAERU! MAMMOTH! DODO! JAPANESE WOLF!』
最後にニホンオオカミのロストモデルがヘッドパーツへと変え、バルカンの頭部へ装着。バルカンの顔右半分が仮面ライダー亡の頭部に似た意匠となった。
滅び去っていった者たちの想いをその身に宿した破壊の化身。それが破壊するのは理不尽なルール。心が分からぬ者に破壊の鉄槌を下す。
仮面ライダーデストラクションバルカン
◇
或人は走る。彼の力を必要としている者たちの許へ。涙を流している時間は無い。誰かが涙を流す前に辿り着かなければならない。
だが、或人は足を止めた。止めざるを得なかった。
進む先を阻む多くのウィルたちを目の当たりにすれば仕方のないことであった。
「ウィル!? どういうこと!?」
大量にいるウィルたちに或人は動揺する。
『飛電或人。お前はここで終わりだ』
一語一句完璧に揃えられた声は、或人の疑問など無視して彼に死刑宣告をする。そして、一斉に量産アナザーバルカンへと姿を変えていった。
「アナザーライダー!?」
大量のアナザーライダーが出現したことに或人は驚く。ソウゴたちの話を聞く限り、同形のアナザーライダーは存在しないと思っていた。勿論、例外は存在するだろうが量産アナザーバルカンに関しては例外中の例外である。タイムジャッカーですら、まさかアナザーライダーの力の一端を解明するとは思ってもいない。
或人はプログライズキーとショットライザーを取り出す。だが、一抹の不安が頭を過る。果たしてこれで勝てるのか、と。
アナザーバルカンの力は或人も知っている。それが数を揃えたとなると苦戦は必至。しかし、だからといって立ち止まる訳にはいかない。
飛電或人は仮面ライダーであり、救うべき人々が待っているからだ。
覚悟を決め、或人が変身しようとしたとき──
「飛電或人様」
──シェスタの声が聞こえ、声の方を見る。離れた場所にシェスタが立っており、その手には何かを持っていた。
「これを」
手に持っていたものを或人へ投げる。それを受け止めた或人は驚いた。
「新しいドライバー!?」
ゼロワンドライバー、フォースライザー、ショットライザーと異なる第四のドライバー──P・Tドライバー。
「その力を使って下さい。人間の為に、ヒューマギアの為に」
「シェスタ……」
そのとき、或人は何かを感じ取り頭上を見上げた。衛星ゼアが打ち上がり、宇宙へと飛んで行く。
「衛星ゼア……」
ゼアが無事に打ち上がったことに喜ぶ或人。その手の中でシェスタから渡されたドライバーが一瞬光る。衛星ゼアがリンクし、或人の為に使用可能状態にしてくれていた。
或人はP・Tドライバーを装着。
『サウザンドライバー……』
「サウザンドライバー?」
それは少し未来に完成させられる筈であったドライバー。アークがゼロワンドライバーやフォースライザー、ショットライザーのデータを基にしてそこから導き出される未来を予測して創られた試作品。故に
「二つのスロット……そういうことか!」
或人は父から渡されたロッキングホッパーゼツメライズキーをドライバー左側面にセット。
『ZETSUMETSU EVOLUTION』
そして、ライジングホッパープログライズキーを起動し、開錠。
『JUMP!』
両手を重ねて突き出して構えていた或人は、プログライズキーをドライバー右側面に挿入。
「変身っ!」
『DOUBLE RISE!』
中央部分が左右に展開し、中央部が露出。中央部にはゼロワンを模した紋章が描かれている。
ドライバーから飛び出す二体の飛蝗のライダモデル。アスファルトを蹴り砕きながら或人の周囲を飛び回る。
量産アナザーバルカンたちは危険を察知し、或人へと一斉に襲い掛かるが一足遅かった。
跳ね回っていたライダモデルらが一際大きく跳び、或人の頭上で交差。そのまま分解、再変換されて装甲と化し或人へ装着されていく。
量産アナザーバルカンたちが飛び掛かる。瞬間、赤い軌跡と黄のラインが虚空へ描かれたかと思えば、飛び掛かった量産アナザーバルカンたちが吹き飛ばされる。
何が起こったのか理解出来ない。呆然とする量産アナザーバルカンの前に変身を終えた或人が立っていた。
ゼロワンと1型のアーマーをパッチワークさせたような左右非対称の配色。両肩、脇腹から後方へ伸びる飛蝗の脚を模した推進器。
赤とマゼンタの複眼が量産アナザーバルカンたちを捉える。
過去と未来が交差し、
その名は仮面ライダーゼロワン──
『DOUBLE HOPPER!』
本作を書くにあたって三つ目標がありました。
一つ目は或人を複数のドライバーで変身させたい
二つ目は或人をロッキングホッパーゼツメライズキーで変身させる。
三つ目は不破の強化変身体を出す。
二つ目の為にはサウザンドライバーが必要だったので無理矢理ですが出しました。
目標は全て達成出来たので、後は書き終えるまでです。