仮面ライダージオウ✕仮面ライダーゼロワンーIF令和ザ・ファースト・ジェネレーション 作:K/K
おかしくなった世界でようやく知人に出会うことが出来た或人。しかし、やはりと言うべきかその二人もまた或人の知る二人とは多少異なっていた。
癖毛の男が不破諫であることは間違いない。こちらを親の仇の様に睨み付けて来ているが。
ポニーテールの女性も刃唯阿であるのも間違い無い。ジープの運転に集中しているのでこちらを見向きもしないが。
二人共お世辞にも見栄えが良くないボロボロの軽装の上に不破は最低限の防具であるサバイバルジャケットを装着し、刃の方は色々な箇所が擦り切れ色褪せた厚手のジャケットを羽織っている。
A.I.M.Sのスーツ姿の方を良く知る或人からすれば違和感しかなかった。
「不破さん、刃さん。貴方達はどうしてここに?」
「馴れ馴れしいぞ!」
不破は或人の胸倉を掴み上げ、敵意と怒気を込めた目で睨む。初めて会った時の不破を思い起こさせる目であった。
「……何故、私の名を知っている?」
刃の方は正面を向いたまま訝しむ。不破は亡が呼んでいたので知っていてもおかしくはないが、刃は呼ばれていないし名乗ってすらいない。
不破と刃の反応で或人は二人との面識すら無かったことにされたと察する。
(そうか……会った事の無いことになっているのか……)
徐々にだが自分を取り巻く状況が理解出来始めていた。
「ヒューマギアを作ったお前等飛電の一族と馴れ合うつもりは無い! こんなことになったのはそもそも──」
「不破。そこまでにしておけ。今は人間同士で言い争っている場合じゃない。それに、ヒューマギアが暴走したのは彼がまだ幼かった頃だ。一族だからといってその咎まで背負わせるのか?」
刃の正論によって窘められ、少しだけ頭に上っていた血が下がったのか掴んでいる力が弱まる。
「ちっ……」
不破も感情任せで言った言葉に多少の理不尽があったのを認め、或人から目を逸らして舌打ちをする。乱暴にしたことに対して謝るつもりまでは無い様子。
「それよりももっと聞くべきことがあるだろう?」
「聞くべきこと……そうだ! おい! 飛電或人! お前、亡とはどういう関係だ!? 何で一緒に居た!」
「ぐえぇぇ……息が、息が……」
下がっていた血の気が亡の話題で再び上昇し、さっき以上の力で或人の襟を締め上げる。まともに呼吸が出来なくなり潰れたカエルの様な苦鳴が或人の口から絞り出される。
「不破。お前はもう少し我慢を覚えろ……」
同じ事を繰り返そうとする不破に刃は呆れた態度でまた窘める。不破が少しだけ落ち着きを取り戻したので或人も息が吸える様になる。
「げほっ、げほっ。……知り合ったって言ってもついさっきのことだよ……俺が飛電インテリジェンスに行った時──」
「こんな状況で飛電インテリジェンスに行っただと!? 死にたいのか、お前は!?」
「不破、話の腰を折るな」
心配しているのか怒っているのか分からない不破に刃のいい加減苛立ってきた声が飛ぶ。
「そこで社長のウィルって奴に襲われて……負けそうになった時に亡と雷が助けに来てくれたんだ。雷は俺を逃がす為に最後まで残ってくれた」
「ウィルに雷だと……? ちっ!」
不破の反応からしてその二体のヒューマギアとも面識がある様子。さっき以上に不機嫌な態度になり、襟を掴んでいた手を乱暴に放してそこから黙り込んでしまう。
刃はその後に今まで起きたことを幾つか質問し、或人はそれに答える形となった。その間にヒューマギアによる追手は現れなかった。亡が追手を一手に引き受けてくれたおかげだと思われる。
刃が聞きたいことが終えると狭いジープの上で暫しの沈黙が訪れる。その沈黙に耐え兼ねて或人の方から質問をした。
「あの……何か亡達と不破さん達は知り合いっぽいけど何かあったの?」
ヒューマギアが人類の敵となっている世界に於いて、亡が不破に見せた態度には一種の気安さを感じた故の質問であった。
「ああっ!」
その質問の途端、今まで黙っていた不破が一気に不機嫌になって或人を睨みながら威嚇する様な声を発する。
「いや、あの、気になったもんで……」
「お前に話す必要は──」
「正直な話、私達と奴らの関係は説明し難い」
「おい、刃!」
「敵では無いが味方でも無い。私達も奴らの行動には戸惑いを覚えている」
事情を話し出す刃に不破が不満の声を上げるが、刃は無視して話を続けた。
「ヒューマギアを破壊するつもりも見受けられない。精々、機能停止させるぐらいだ。私達に危害を加える動向は見られないが、機能停止したヒューマギアを破壊しようとすると威嚇ぐらいはしてくる」
「そうだったのか……因みに──」
亡と雷以外に其雄というヒューマギアは居るのか、と質問しようとしたが途中で思い直した。下手な質問をしれば勘繰られる危険がある。ただでさえ微妙な立場にあることを自覚しているのでその辺りは自制した。
「因みに何だ?」
しかし、言葉が途中まで出てしまったので誤魔化すしかない。
「……因みに……何か亡って不破さんのことを良く知っているっぽい感じだったのは何でかなーと思って……」
「それは──」
「刃」
答え掛けた刃に不破の鋭い声が飛ぶ。感情任せの怒声ではなくそれ以上は一線を超えることを警告した、様々な感情を圧縮させて熱が失せた声であった。
刃は口を噤み、或人は冷や汗を流す。
ジープの上に沈黙が訪れ、暫しの間走行音だけが場を満たす。
「──で? こいつをどうするつもりだ?」
沈黙を破ったのは作り出した張本人であった。あの空気を少し気不味いと思っての様子。
「──拠点へ連れて行く。まだ聞きたいこともあるし、報せなければならない連中も居るだろ?」
「──そうかよ」
ジープでの会話は不破のその言葉で終わりとなる。その後はただひたすらジープは走り続けた。ヒューマギアと遭遇しない様に人気の無い荒れた建物が並ぶ道を。
走り続けた後、目的の建物が見えて来る。刃は拠点と言ったが、見た目は半壊状態にある工場そのものであった。
ジープが近付くと門番をしていた者達が錆びた門扉を開く。拠点内に入った或人はそこで現実離れした光景を目の当たりにする。
誰もが迷彩服や防弾ベストを纏い、全員が種類は異なるが銃火器を所持している。
歩く者達は慣れた手付きで小銃を携えて警邏し、立ち止まっている者達は拳銃、機関銃や車などの整備をしている。
つい今朝方まで現代日本に居た或人からすれば、ここが日本であることを疑いたくなる光景であり、夢でも見ている気分にさせられる。ただし、夢は夢でも悪夢であるが。
啞然としながら見ていた或人だったが、ふと彼らが共通して腕に黄色い腕章を付けていることに気付く。不破と刃もまた同色の腕章を付けていた。それが彼らにとって仲間である証だと思われる。
ジープが止まり、或人は降りる。先に行く不破達の後に付いて建物の奥へ向かう。
すれ違う人々は皆共通して荒んだ目をしていた。恐怖と疲れが混同し、輝きを失っている。
時折身綺麗な或人に不審な目や猜疑心に満ちた目を向ける者達も居た。この世界に於いて或人が浮いた存在であることを嫌でも思い知らせる。
居心地の悪さを感じながらも歩き続ける或人であったが、その足が急に止まる。
「あっ」
こちらへと向かって来る女性の姿。少々薄汚れているが見覚えがある光沢のある白地の制服に緑のスカート。良く知っているボブカットの髪型。
青い瞳を真っ直ぐ或人へ向け、その女性は微笑む。
両耳に付けられた翼型のパーツが彼女がヒューマギアであることを示す。そして、そのヒューマギアは少なくともこの場の誰よりも或人は知っていた。
「ご無事で何よりです。或人様」
「イズ……」
或人の秘書であるヒューマギアのイズが変わらぬ態度で或人の名を呼ぶ。何もかも変わってしまったこの世界でようやく変わらなかったものに出会えた。
色々と言いたいこと聞きたいことがあった。あったが、多過ぎて言葉を詰まらせてしまう。
イズはそんな或人の心境が分かっているのか──
「ご説明の方は歩きながらでよろしいでしょうか?」
──右掌を上向きにして挙げるポーズを取り、先を行く不破達の後を付いて行くよう促す。
或人は頷いて同意し、歩き始めたイズの背を追う。
建物内に入る。中は外と同じ様な光景であった。すると、不破達は地下へと向かう階段を下りていく。
或人も階段を下り、地下に行くと上とはまた違った光景がそこにはあった。
限定された空間内に子供や老人、若者、中年といったあらゆる年代の男女が共同生活を送っている。
物を運ぶ者が居れば、雑談をしている者、医者に治療されている者やただ寝ている者、料理を作っている者などあらゆることが密集している。
活気がある、という程ではないがそこには生きた者達が発する熱の様なものが感じられた。
「ここはヒューマギアから逃れた人々が暮らす避難所の一つです」
周囲の様子を見ていた或人にイズから説明が入る。
それを聞きながら先導するイズに付いて行く或人であったが、ふと皆の目がこちらに向けられていることに気付く。大っぴらに見ているのではなく隠す様にして送られる視線。
それが気になると今度は雑談に混じってひそひそ話す声が耳に入って来る。
「ヒューマギアが──」
「怖いわ──」
「何でヒューマギアが──」
どれもこれもがイズ、というよりもヒューマギアを畏怖、怨嗟する内容。現状から恐れる気持ちも理解出来るが或人は一気に居心地の悪さを覚える。
ふと子供達が狭い道を走ってきた。そのまま通り過ぎるかと思いきや、その内の一人がイズにぶつかり体勢を崩させる。
或人は咄嗟にイズを支え、転倒は免れた。
「ちょっと!」
謝りもせずに走り去っていく子供に注意しようとする或人であったが、足を止めて振り向いた子供の目を見た時、言葉を失ってしまった。
幼い子供が双眸に宿す憎悪の光。子供が持っていいものではない。ヒューマギアに対する明確な憎しみがそこにはあった。
そして、その憎しみはこの子供だけが持っているものではない。
倒れそうになったイズに対して向けられる、浴びせられる嘲りの目と蔑む声。面と向かって言わずに誰が発しているのか分からない小声で周囲から聞こえて来る。
人々が密集した空間ではそういった負の感情すら密集し、或人からすれば気持の良いものではなかった。
向けられる悪意から逃げる様に先へ進む或人達。暫くして不破達の足が止まる。
地図が広げられた大きな机を囲む年齢の異なる男女。全員が歴戦の戦士であるのか不破や刃に似た威圧感がある。
ここで不破達はようやく銃火器などの装備を外す。ここが彼らにとっての作戦本部であった。
銃火器の具合を確認しながら外していく不破に或人は思い切って質問する。
「この世界で一体何が起こったんだよ?」
「見て分からないのか? ヒューマギアが世界を支配したんだ」
当たり前のことを知らない様子の或人に不破は呆れながらも答える。
「そんな馬鹿な……」
薄々は分かっていたがいざ突き付けられるそうとしか言い様が無かった。つい昨日までは人とヒューマギアは共存していた。それがベッドに入って一晩経ったら人類は滅亡寸前でヒューマギアが世界を牛耳る世界と化している。夢であったとしても質が悪い。
「ここはまだましだ。イズからの情報でヒューマギアの攻撃から逃れられているからだ」
この状況でましなら他の場所はどうなっているのか。想像もしたくない。
「一体何時からこうなったんだ……? 昨日までは何もおかしくなかったのに……俺にはそんな記憶全く無い」
ここまで食い違って来ると自分の記憶も疑いたくなってくるが、或人はどうしても自分の中にある記憶が嘘だとは思えなかった。
「やはり、衛星ゼアのシミュレーションは正しかったようですね」
「え……?」
世界は大きく変化してしまったのに、或人の中にある記憶を肯定するイズ。意味が分からず或人も困惑してしまう。
「ご案内したい場所があります」
イズに先導され、或人は建物の更に奥へ行くこととなる。
その道中でイズは先程の言葉の説明をする。
「この世界の歴史には僅かながら綻びがあります。或人様の記憶もその一つ。そこから衛星ゼアは歴史が書き換えられた可能性を検知しました」
「歴史が書き換えられたって……」
いきなりそんなスケールの大きいことを言われたらオウム返しするしかない。というよりも衛星ゼアの計算能力の高さに驚かされる。機械とAIという摩訶不思議な要素の一切無い知識と技術の産物が歴史改竄という非現実的でSFの様な柔軟な答えを導き出していることが驚きであった。
「例えば、本来の歴史なら或人様、貴方が飛電の社長になっているのが衛星ゼアの計算結果です」
「衛星ゼア、スゴっ……!」
改竄前の歴史を見事に当ててみせたゼアの異次元の計算能力の高さ。イズの方は或人の反応から見てそれが正解であったことが分かり、満足そうに微笑む。
しかし、歴史が改竄されたとなると幾つもの疑問が出て来る。誰が何の為に歴史を書き換えたのか。どうやって書き換えたのかなどなど。とてもではないが或人に答えが導き出せない。
そのまま奥へ進んで行くと段々と電子機器など目立つ様になり、大型の物も目に入る様になっていく。
そして、辿り着いた場所はパソコンやモニターなどの精密機器が置かれた広々とした空間であった。
「これが衛星ゼアです」
イズが示したのは中央部分が青く輝き、それを銀色のリングで覆った巨大な機械の塊。
「衛星ゼア……これが地下に?」
或人はゼアを肉眼で初めて確認する。と同時に一つの納得と一つの疑問が生じた。
ライジングホッパーのライダモデルが地下から出現した理由は分かった。何故ならゼアが地下にあるからである。だが、それは宇宙にある筈のゼアが何故地下にあるのかという疑問へと繋がる。
良く見るゼアの近くにはゼアを宇宙へ打ち出す為のロケットも設置されてある。これを見るにゼアはまだ宇宙へと行っていない可能が出て来た。
「或人君か……? 良かった、無事で……!」
作業着姿の中年男性二人が或人達の傍へ寄って来る。片方は本来の歴史ならば飛電インテリジェンスの副社長であった福添。もう片方は山下といい福添の側近である。
或人が社長であることを露骨に僻み、あれやこれや理由を付けて或人を社長の座から引きずり下ろそうとしていた男が、今は親身な様子で或人の無事を心から喜んでいる。
「或人君も無事に戻って来た……風向きが向いてきたかもしれないな!」
「ええ! だからこそこの衛星は何としても死守しなければですね!」
「ああ。先代社長の頃から社員一丸となって造り上げた私達の夢だからな!」
ほんの少し表情を明るくしながら熱く決意する福添に、山下が汚れて罅も入っている眼鏡を輝かせながら同意する。
改竄前の世界でも似たようなやり取りを見た気がするが、熱意と誠実性は段違いであった。
自分が社長にならなかったら二人の人間性がここまで向上するのかと思うと複雑な気持ちになってくる。
「──ああ、或人君を放って勝手に盛り上がって済まない。君にも色々と手伝って欲しいことがある。頼めるかな?」
先代社長の孫故に優しさと敬意を以って接してくる福添に違和感を覚えつつ、決して嫌な気持ちでは無かったので快諾しようとした時──けたたましい警報が鳴り響いた。
「一体何が……!?」
「どうやら敵の襲撃を受けています」
「敵!? ヒューマギアがここに!?」
「直ちにここを隔離しろ! ヒューマギアを侵入させてはならない! 衛星だけは絶対に守り抜くんだ!」
福添の指示が出され各作業員は急いで準備に動く。
「隔離?」
「この区画には各通路に防護壁が備えられています。それらを全て遮断すれば衛星ゼアへの道は封鎖されます」
「じゃあ、避難所の人達は……?」
「……万が一の場合、衛星ゼアを最優先することは決められています」
「そんな……」
覚悟しているが見捨てるも同然の選択に或人は呆然とさせられる。
「或人君! 君も早く安全な場所へ!」
福添も或人の身を案じて声を掛けてくれるが──
「福添さん……ごめん!」
「或人君!」
──或人はその思いやりを振り切り防護壁が閉じる前に外へ向かう。
今の自分に何が出来るか或人自身も分からない。しかし、他の人達がヒューマギアの手によって命を落とすということだけは避けたかった。
「お供します」
「イズ!?」
全力疾走する或人の隣をイズが並走する。両手は前で組みながら足だけは高速で動いているのがシュールでありながらもヒューマギアのスペックの高さを表している。
「──ああ、行こう!」
共に走る或人とイズ。
このまま行けば彼は定められた歴史の通り宿命の相手と戦うことになるのだが、この話はIFの物語。気まぐれに起こる蝶の羽ばたきは彼に意地悪な寄り道をさせることとなる。
◇
建物の外に出た或人が見たのは一方的な蹂躙であった。
ヒューマギアをハッキングして作り上げられたトリロバイトマギアが人々を襲っている。抵抗する人や銃で反撃する者も居たが、倒される数よりも押し寄せる数の方が圧倒的であり、反撃も抵抗も数の暴力で呑み込まれていく。
その光景は或人に容赦の無い現実を突き付ける。個の戦いを知る或人であったがこれ程までに大規模な戦いは今まで見た事も無い。
加えて今の或人はゼロワンドライバーを失っており、一般人と変わりない。
「変身が出来たら……」
ライジングホッパープログライズキーを握り締めながら自分の無力さを痛感させられる。勢い良く飛び出たのは良いが、今の彼に出来る事など無かった。
せめて避難する人達の助けを、そう思った時イズの声が飛ぶ。
「或人様!」
「え?」
動こうとした瞬間にイズの声によって中断させられる。何かが眼前を通り過ぎ、後ろに壁に当たって破砕音が響く。その音に思わず仰け反る或人。
「うおっ!? 何が!?」
「見ーつけた!」
無邪気な声を出し、ヘラヘラと笑いながらこちらへ銃口を向ける帽子を被った青年。
「飛電或人。お前も人類と共に滅亡せよ」
その隣に立つ刀を構えた茶髪の青年。ヒューマギアを証明する機械パーツを付けた二人を或人は知っている。
「滅亡迅雷.net!?」
刀を持つのが滅。銃を構えるのが迅。ヒューマギアを暴走させて人類に反旗を翻すテロリストが或人の敵として再び現れる。
「彼らはヒューマギアの治安維持の為に人間を処刑する組織です」
継ぎ合せの様な衣服ではなく上等な黒いスーツを着用していること、トリロバイトマギア達を率いている様子から分かる様にテロリストの時とは違い二人はこの社会に於いて高い地位に就いていた。
「社長も喜ぶなー! ねえ? そうだよね? 滅?」
「ああ。俺は人類が滅亡すればそれで良い。手柄はお前に譲るぞ、迅」
「さっすが滅ー!」
喜々とした態度で引き金に指を掛ける迅。或人にはそれを防ぐ手立てはない。
発砲される──その寸前、一陣の風が吹き抜ける。
「あっ!」
「むっ!」
突如として滅と迅の手から武器が弾き飛ばされる。
急な事態に驚く二人。或人もまたこの事態に驚いていた。畳み掛ける様に或人の傍で何かが落ち、或人の足に当たる。
視線を落とすそこには何故かフォースライザーが在った。
落ちて来た方向に目を向ける或人。建物の二階にフォースライザーを投げたと思わしき人物が居たが、頭から足元までローブで覆い容姿は見えない。
「……夢を忘れずに戦え」
「その声は……!?」
ローブの人物が発した声。その声を知っている。決して忘れることも聞き間違える事がない声。
「戦わなければ……人類は滅亡する」
或人の覚悟を問う様な言葉。
「誰だよお前ー! 僕達の邪魔するなー!」
「──まさか、奴は……」
迅は子供の様に怒り、滅は何か心当たりがある様子。この時点で彼らの意識は或人から離れていた。
或人がフォースライザーを拾い上げるのにそう時間は掛からなかった。ここに来た時点で既に覚悟は決まっている。
或人はフォースライザーを腹部に当てる。ベルトが射出され、フォースライザーを固定。その途端赤黒いエネルギーが放出され、或人の肉体を激しく痛めつける。
「うああああああっ! 何だよ……これ……!」
ゼロワンドライバーには無かった強い反動に或人は苦悶の声を出す。まるで全身の血液が煮え立つ様な感覚であった。
或人の叫びに滅と迅の視線は一瞬だけ彼に向けられる。すぐに視線を戻すとローブの男は消えていた。
「あっ。居なくなっちゃった」
「今は放っておけ。先ずは飛電或人を優先する」
「分かったよ。ははは。でもあいつ馬鹿だなー。ヒューマギアじゃないのにこれを付けるなんて」
迅は苦しむ或人を嘲笑しながら自らもフォースライザーを装着。
「気絶はしていない。──来るぞ」
滅もまたフォースライザーを装着。当然ながらヒューマギアである二人に装着の反動は無い。
「く、おおおおっ!」
『JUMP!』
反動で苦しみながらも或人はライジングホッパープログライズキーを起動。すると、滅と迅もまたプログライズキーを取り出して起動する。
『POISON!』
『WING!』
滅はプログライズキーを持つ右腕を真横に伸ばし、迅はプログライズキーを一度放り投げてキャッチする。
『変身!』
三者の声が重なり合い、三つのフォースライザーにプログライズキーが挿し込まれる。
同時に引かれるトリガー。プログライズキーが開かれると同時に内蔵されたライダモデルが出現する。
或人のプログライズキーからは黒いバッタが、滅のプログライズキーからは紫のサソリが、迅のプログライズキーからはピンクのハヤブサが飛び出し、相手を威嚇する様に鳴き声を上げる。
サソリのライダモデルは滅の体に尾の針を突き刺し、それを軸にして背後に回って肢で彼を囲む。
ハヤブサのライダモデルは飛翔し、空中で旋回して背後から抱き締める様に翼で迅を包む。
『FORCE RISE!』
「あああああああああっ!」
或人の絶叫に応じる様にバッタのライダモデルはその体は幾つにも分割し、或人が纏う鎧となる。
ライダモデルが分解、再構築することで生み出される外装にケーブルが伸び、本体に引き寄せ、装着と共に縛り付ける。
体の各部に付けられた装甲の一部は共通しているが、メインカラー、外装は異なる三人の仮面ライダーがここに登場する。
『STING SCORPION!』
『FLYING FALCON!』
『BREAK DOWN』
正面から向いたサソリをイメージさせる仮面に黄色の複眼。バイオレットをメインカラーとした滅が変身した仮面ライダー滅。
マゼンタを主としたボディカラー。左右非対称で翼を広げたハヤブサをイメージした鋭利な仮面に翡翠色の複眼を輝かせる迅が変身した仮面ライダー迅。
『RISING HOPPER!』
そして、或人が変身した姿はゼロワンと比べると黒の面積が増え、ライトイエローの装甲は手足や腹部の一部に落ち着いている。
『A jump to the sky turns to a rider kick』
『BREAK DOWN』
仮面もゼロワンの時と比べると鋭さが増した印象を他者に与える。
「はあ……はあ……はあ……!」
変身しただけでこの消耗。正規の使用方法で無い為に仕方が無いと言える。しかし、ここからが本番なのだ。
「行っくよー!」
迅が両手を広げると背中から翼を展開する。
「滅亡しろ、人類よ」
滅は冷徹な殺意と共に構える。
「……っ! 来いっ!」
仮面の下で歯を食い縛りながら或人こと仮面ライダー001は強敵達に臆することなく立ち向かう。
◇
人とトリロバイトマギアの混戦の中で不破は戦っていた。
銃火器で的確にトリロバイトマギアの急所を撃ち抜き、弾切れを起こしたのなら即座に武器を手放し、置かれてある別の銃火器を手に取って素早く銃撃を行う。
ただ倒すだけでなく味方がピンチならばそれを救うという視野の広さもあった。
歴戦の戦士であり、彼と刃がこの避難所の最大の要であることを体現した冷静な戦いっぷり。
しかし、その戦い方とは裏腹に心の中はヒューマギアへの怒りで激しく燃え盛っていた。怒りが生み出す熱を力に換え、戦い続ける不破であったが──突然周囲の喧騒が消える。
静まった訳では無い。それを見つけた瞬間不破の意識はそれのみへと注がれていた。
人機入り乱れる戦場に不似合いなスーツを着て悠々と歩く男。
「ウィル……!」
不破はその名を怒りのままに叫ぶ。
「長かった戦いも今日で終わる。……だが、その前に目障りな人間を排除しようと思った。不破諫、いい加減お前も目障りだ」
「上等だ……! 仲間の仇だ! ここでぶっ潰す!」
「出来るのか? 何度私に負けた?」
ウィルはアナザーバルカンウォッチを取り出す。
『バルカン』
不破は仕舞っておいた銃を出す。それは短いが大きな銃口を持ち、青と黒の色で彩られた銃身の拳銃。A.I.M.Sが開発したエイムズショットライザー。
不破は青い外装にオオカミが描かれたプログライズキーを出し、起動する。
『BULLET!』
本来ならばそれをショットライザーの撃鉄部分に設けられたスロットに挿し込んでプログライズキーのロックを解除するが不破のやり方は違う。
「うおおおおおっ!」
メキメキと音を立たせながらプログライズキーのロックを力で無理矢理こじ開け、プログライズキーを開く。
「──相変わらず下品なやり方だ」
不破の力任せな方法に嫌悪を示しながらウィルはアナザーバルカンウォッチを体に埋め込む。
『AUTHO RIZE』
スロットにプログライズキーが挿し込まれ、ショットライザーがそれを認証。
『KAMEN RIDER KAMEN RIDER KAMEN RIDER』
待機音が鳴る中で不破はその銃口でウィルを狙う。
「変身!」
『SHOT RISE!』
撃ち出される弾丸。しかし、ウィルが変身したアナザーバルカンはそれを不破の方へ容易く跳ね返す。
だが、不破は跳ね返された弾丸に避ける素振りは見せず、その拳で迎え撃った。
不破の拳で弾丸は弾け、内蔵されていた各装備が展開される。不破の体にそれらを受け入れる為の赤いモールドが浮かび上がり、各箇所に装着されていく。
右肩、右腕、胸部、右足を染める青い外装。残された左半身、腹部を覆う白い外装。水色の複眼が収まった白い仮面を縁取るのは鬣を模した赤と青のパーツ。
『SHOOTING WOLF!』
シューティングウルフプログライズキーで変身したこの姿こそが本来の歴史に存在した仮面ライダーバルカンである。
『The elevation increases as the bullet is fired』
ショットライザーを構えるバルカン。アナザーバルカンは身構えるもしない。
「──バルカンは
「──ああ、そうだ。バルカンは
ショットライザーから撃ち出される徹甲弾。だが、撃ち出された時には射線状にアナザーバルカンの姿は無い。
アナザーバルカンは身を低くして徹甲弾の下を潜り、既にバルカンの懐へ飛び込んでいた。
アナザーバルカンの爪が下から突き上げられる。接近に気付いたバルカンは一歩も退かず、拳を振り下ろす。
バルカンとアナザーバルカン。本物を決める為の戦いが始まる。
やりたい展開の為に本編では無かった組み合わせになります。
この作品での或人は、映画と比べて戦闘回数が多くなる予定です。